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2012年6月 の投稿

教育改革のゆくえ

カテゴリー:社会

著者   藤田 英典 、 出版   岩波ブックレット
 著者は教育改革国民会議の委員でした。国民会議による提案56のうち、7つに反対したところ、「反対ばかりしている委員」というレッテルを貼られてしまったそうです。今日の日本では、いかにもありそうなレッテル貼りです。
「改革すれば教育は良くなる」、「改革しなければ教育は良くならない」
 こういった改革幻想が支配的だ。しかし、改革したからといって必ず良くなるというものでもない。著者が反対したものの一つが、成果主義的・統制主義的・査察主義的な改革政策。すなわち、公立学校とその教師を理不尽に非難し、その自信と誇り、夢と情熱を低下させる可能性、その誠実な実践と学校改善・自己研鑽の努力を妨げる可能性の大きい改革に反対した。現実には改革は成功していない。それどころか、事態はますます歪み悪くなっている。
 日本の高校中退者は10万人前後、2%で推移しているが、これは世界でも異例の低い水準だ。アメリカの中退率は20%をこえている。そして、日本の少年犯罪の発生率は諸外国に比べてきわめて低い水準にある。
これまでの「ゆとり教育」は成功していない。不適切だった。問題解決能力も創造力も、定型的な知識・能力を基礎にしてこそより良く形成され、発揮される。
就学援助を受ける小・中学生数が急増している。 1995年に77万人、6%だったのが、2000年には98万人、2004年には134万人、13%となっている。10年間で倍増した。
地域間の格差も拡大している。経済的に比較的豊かな家庭、教育熱心な家庭の子どもが、地元の公立学校を敬遠し、私立学校や選択制のエリート校、入気校に入学する傾向が強まっている。
 東京都では、26%が私立中学に通う一方で、25%が就学援助を受けている。
最近の「学力重視」政策は、テストで測られる学力を重視し、学校間や地域間の競いあいを奨励している。
 テストの学力重視の圧力と自信の揺らぎは重大である。相次ぐ理不尽な改革・施策と公立学校批判・教師批判が続くなかで、教育への情熱・希望・気力が萎えていき、定年前に退職してしまう「優秀」と評判の教師が増えている。
 格差的・分断的な構造が定着すれば、その底辺を歩むことになった子どもは、青年期以降のどこかの時点で、自分たちは「差別され、ずっと底辺を歩かされてきた人だ」と思うようになっても不思議ではない。そして、地域社会の分断と教育力の低下が進んでいく。習熟度別学習は、学力差の固定化とその後の進路の差別化を招く可能性が大きい。
 学校教育は、教職員の連携、協力、協働によって支えられ、それが適切に機能してこそ、成功の可能性が高まるという点に重要な特徴がある。
教員免許更新制は、教師の身分を不安定にするから、優秀な学生にとっては教職がますます魅力のないものになる危険性が高い。
 かつて、日本の教育は、欧米諸国から一つの成功モデルとして注目されていた。それは、基礎学力の形成と、学校のケア機能の充実と、それを支える教職員の資質・力量の高さと協働制だった。そして、この四半世紀にわたる改革は、その優れた側面を否定し、その卓越性を支えてきた基盤を突き崩した。
 教育を政治の道具や政治化のおもちゃにしてはならない。教育現場はすでに疲れ切っている。教育は、現在と未来への投資である。お金も人手も時間もかけずに教育が良くなることはない。
わずか70頁の薄っぺらなブックレットですが、大切な、耳を傾けるべき提言が盛りだくさんでした。教育改革って、政治家に安易に言ってほしくないですよね。
(2008年3月刊。480円+税)

左利きのヘビ仮説

カテゴリー:生物

著者   細 将貴 、 出版   東海大学出版会
 人間に右利きと左利きがいるように、カタツムリにも右巻きと左巻きがいます。
 この本は右巻きカタツムリを主食とするヘビが、左巻きのカタツムリは食べられないことを実証した研究の過程を詳しく紹介しています。そう書いてしまうと、なあんだ、たいしたことないやんか、と思われるかもしれません。でも、実は、ものすごく 面白いのです。その過程が。
 まず、カタツムリだけを食べるヘビがいるなんて知りませんでした。よくぞ、それだけで生きられるものです。カタツムリばかり食べるヘビは、西表島と石垣島にしか生息していないイワサキセダカヘビという。樹上で暮らす夜行性のヘビだ。同じようにミミズとかナメクジだけ食べるヘビもいるとのこと。たいていのヘビはごく一部の動物しか食べない偏食家である。シマヘビは何でも食べる変わりもののヘビ。
 そして、カタツムリの右巻き、左巻きです。カタツムリも、人間と同じようにほとんどが右巻き。それで、カタツムリを食べるヘビの頭(口)は、それに適応するように左右不ぞろいな格好をしている。口の形から歯の数まで違うのです。それを発見したのは偶然ですが、それは執念のたまものでした。そこで、右巻きカタツムリを食べるのに適したヘビが左巻きカタツムリを食べようとすると、いったいどうするのかを実験してみたのです。その実験装置をつくるのが大変でした。さらに、その状況を映像を残さなくてはいけません。このヘビは夜行性ですので、カメラをセットして自動撮影にしておきます。
 なんと、右巻きカタツムリを食べるのに適した口をもつヘビは、目の前の左巻きカタツムリを食べることができなかったのです。よくぞ映像にとらえたものです。著者の執念による成果でもあります。
 この本を読むと、人間にも左利きが必ずいるが、「ほどほどに少数」いて、実は一人もいないということはない。そして、それがなぜなのか、その理由は解明されていないというのです。
 人間の場合、左利きになるのは、教育の成果だけでは説明がつかない。利き手の決定には遺伝子が関係している。
右巻きのカタツムリと左巻きのカタツムリとが出会っても交尾はできない。これも考えてみれば不思議なことですよね。前にフランスの自然映画で、カタツムリの交尾の様子を見たことがあります。お互いに触れあい、相性を確かめあって交尾に至るのですが、それはもう、見ている方が思わず赤面してしまうほどなまめかしい愛撫でした。
 カタツムリばかり食べるヘビは、西表島と石垣島にしか生息していないイワサキセダカヘビという。樹上で暮らす夜行性のヘビだ。同じようにミミズとかナメクジだけ食べるヘビもいるとのこと。たいていのヘビはごく一部の動物しか食べない偏食家である。シマヘビは何でも食べる変わりもののヘビ。森の中に入り、このヘビやらカタツムリを採取するというのですから、学者も大変です。なにしろ夜間です。例の毒ヘビ・ハブだっているのですよ。かまれたときの応急薬も持参します。それにしても、怖いですね。夜に森の中に一人で入っていくなんて・・・。勇気がありますね。
 まだ30代になったばかりの若手研究者による苦闘の研究が実感をもって伝わってきます。知的刺激にみちた本でした。
(2012年2月刊。2000円+税)

刑務所なう。ホリエモンの獄中日記

カテゴリー:司法

著者   堀江 貴文  、 出版   文芸春秋
 いま長野刑務所に入っているホリエモンの刑務所体験記です。もちろん自由を奪われた生活なのですから、実際にはなにかと大変な苦労を味わっているのでしょうが、この本を読むと、開き直って楽しんでいるような印象さえ受けます。
 ともかく、よく書いています。もとから作家志望で、書くことは苦にならないようです。その点は、私とよく似ています。ともかくなんでも書いて、書きまくってしまうのです。そして、刑務所のなかでも新聞を読み、よく本を読んでいます。
 刑務所の臭いメシとよく言われますが、本当はとても美味しいようです。一人あたりの食費は安くても大量につくったら案外おいしいものができます。
 なにしろ、日頃の収容生活で最大の楽しみは食べることなのです。これがまずかったら、暴動が起きてしまうでしょう。
 ホリエモンは長野刑務所は全国屈指の美味しさだと誇っています。なかでもメンチカツは本当に美味しいようです。
 私も福岡刑務所を見学したとき、昼食を食べさせてもらいましたが、文句なしに美味しいと思いました。当初、それは見学者用だから美味しいのかと疑いましたが、そうではないようです。
 刑務所のなかの生活が、ときに実録マンガでも紹介されていて、500頁もある本ですが、飛ばし読みして1時間足らずで一気に読了しました。ホリエモンはこりることなく、意気軒高でした。ここらあたりは、人によって好き嫌いがあるところでしょうね。
(2012年3月刊。1000円+税)

「司法試験流」勉強のセオリー

カテゴリー:司法

著者   伊藤 真 、 出版   NHK出版新書
 司法試験受験界のカリスマ塾長と最近、親しく話させていただいています。近くに寄っても遠くから見たときとまったく同じで、とても誠実、真摯なお人柄です。すぐに心をうちとけて話すことができました。
実感では、弁護士としての実務の中で法律の知識が占める割合は2割ほど。残りの8割はそれ以外のコミュニケーション能力であったり、共感力、イマジネーション能力、まさに人間力とも言えるものが必要で、実は、そうした能力が弁護士としての勝敗を分ける。その分野の特定の専門知識のいわゆる教養や雑学、経験などがあって初めて、現場で活躍できるのだ。
これは、私もまったく同感です。まったくの初対面の人とわずか30分ほどで、弁護士は相談の要点をつかみ、それなりに的確に回答し、この人と一緒に解決に踏み出そうという共感する関係を築き上げなければなりません。
 記憶するためには、自分にとって本当に必要なことだと脳に思い込みをさせることが必要だ。人間は忘れる動物なのだから、忘れることを前提に記憶する作業をすればいい。そのためには、まずは忘れることを怖がらないことが大切だ。記憶の基本は、やはり、「繰り返し」の作業である。記憶する力というのは、あきらめずに続ける力なのだ。
 若い人たちの想像力の衰退化の最大の原因は、本を読まなくなったことにある。本を読むということは、実は想像力を鍛える訓練になる。本を読むと、それが実はプレゼン能力の基礎力を鍛えていくことにつながる。
 わずか200頁の新書版ですが、若者にとって大切なことが盛りだくさんの貴重な本だと思いました。
(2012年4月刊。740円+税)

西都原古代文化を探る

カテゴリー:日本史(古代史)

著者   日高 正晴 、 出版   宮崎文庫
 3月に2度も宮崎へ出張することがあり、宮崎空港の書店で目にして購入した本です。
 西都原(さいとばる)古墳の壮大さには圧倒されます。まだ行っていない人には、ぜひ現地へ足を運ばれるよう、強くおすすめします。佐賀県の吉野ヶ里遺跡も一見の価値が十分にありますが、規模では西都原のほうがすごいと私は思います。
 なにしろ宮崎県内には前方後円墳が160基、古墳全部では1590基もあるというのです。ここに古代文明の一大拠点が遭ったことは、このことからも明らかです。そして、宮崎県の中央平野部地帯に1200基あまりの古墳がまさに群在しているのです。奈良の古墳群だけを見て日本の古代文化を語るのは少し公平を欠くと思います。西都原だけで600基に及ぶ大古墳群があるのです。現地に行くと、その壮大な規模に圧倒されます。
 西都原古墳群には、前方部が細長く、その高さが低くて幅も狭い、特殊な形成の柄鏡(えかがみ)式古墳が散在する。この柄鏡式古墳は、広義の分類では前方後円墳の一形式である。
 そして、古墳群の中核をなす墳基として、男狭穂(おさほ)塚と女狭穂(めさほ)塚の存在が特筆される。全長200メートル前後、高さ15メートル以上、経100メートル前後というもの。帆立貝式古墳である。畿内と吉備地方以外には存在しない、西日本最大の巨大古墳である。
 なぜ、こんな辺鄙なところに160基もの前方後円墳があるのか?
『日本書紀』に語られる景行天皇の熊襲(くまそ)征討の伝承の九州行幸ルートにそって、柄鏡式系統の前方後円墳が点在している。
 男狭穂塚・女狭穂塚の築造された5世紀前半において、西都原地区を中心に古代日向の政治的本拠が確立されたと推測できる。畿内大和王権と密接な関連をもつ日向王権の勢力のもとに、西進・南下政策がとられてきた。
 飛鳥時代においても、古代日向の本拠は西都原地帯にあった。鬼の窟(いわや)古墳は、西都原古墳群のほぼ中央部に、一基だけ独立して存在する大形の円形墳である。
 私もこの「おにのいわや」古墳にのぼりましたが、広々とした草原の中央に大きな古墳があることに大いなる驚きを感じました。
 昔、この日向地区は、代表的な馬の産地でした。「日本書紀」下巻にもそのことが明記されているとのことです。そう言えば、都井岬には、今も野生馬がいるそうですね。
 「日本書紀」には応神天皇は、筑紫の蚊田(かだ)に生まれたと書いてあるとのこと。この応神天皇が九州にゆかりの深い天皇だということを知って驚きました。
 西都原を中心とした大古墳文化に象徴される日向勢力が畿内の大和王国と協調しながら、九州における中心的な拠点として、その地位を確立していた。
 大首長墓としての男狭穂塚、女狭穂塚の築造も、西九州のクマソ勢力に対して誇示するために巨大古墳の出現となった可能性が強い。
クマソに対抗する文化として西都原を拠点とする文化があり、それは、畿内の王権と密接な関係をもっていたようです。
 そうは言っても、現代日本では、西都原は福岡からはとても遠くて、行くのは大変で苦労するのですが・・・。
(2009年8月刊。1800円+税)
 今の時期しか食べられないエツのフルコースをみんなで食べに行きました。筑後川の下流、海水と河川の混じる気水域でしか取れないカタクチイワシの仲間です。ほっそりとした白身の魚で、刺身、煮つけ、塩焼、南蛮漬け、てんぷらと手を変え品を変えてフルコースで出てきます。
 今回は調理師による実演まであり、美味しくいただきました。佐賀県諸富町にある津田屋が行きつけです。

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