法律相談センター検索 弁護士検索
2012年6月 の投稿

「地」的経営のすすめ

カテゴリー:社会

著者   佐竹 隆幸 、 出版   神戸新聞出版センター
 大変面白く、また勉強になる本でした。企業って、やっぱり人の役にところでこそ価値があるのですよね。大企業の経営者ばかりが、とてつもない高給とりであるアメリカを日本の経営者がマネしていますし、それを日本経団連が恥ずかしげもなく後押ししているのを見て、苦々しく思っていました。そんなときに、こんなビジネス本を読むと、ほっと一息ついて、救われる気がします。
 経営品質のいい企業とはいったどんな企業なのか?
 こう問いかけられたら、挨拶のできる企業だと答える。従業員が本当にきちんと挨拶ができる、そんな企業こそ経営の質がいいということである。なるほど、そうですよね。
 従業員が、自分の属する企業に誇りを持てるようになれる、誇りをもてるようになれば従業員は当然に挨拶ができるようになり、それば発展して企業は信用力が高まり、さらには成長発展していくことができるようになれる。
 神戸には有名ケーキ店をめぐる観光タクシーがある。有名ケーキ6店を2時間でまわり、3人で6000円(飲食代は別)。
 なるほど、これなら乗ってみようかなという気になりますよね。
 三重県四日市の宮崎本店は日本酒と焼酎メーカー。清酒「宮の雪」と焼酎「キンミヤ」のメーカーとして、東京で下町の居酒屋では熱狂的なファンがいる。北村薫の『飲めば都』にキンミヤは「素直で口当たりのいい」として紹介され、また大前研一の『サラリーマン・サバイバル』に、「日本酒は三重県の『宮の雪』だ」と書かれている。
 この会社の偉いところは、これまで一度もリストラしたことがないということ。そして、社員の安全を重視してきたこと。社員も会社の株をもち、1割配当してきた。すごいですね。
 日本経済が全体として冷え込んでいるなかでも、こうやって地元に根づいて着実に前に向かって歩み続けている中小企業がいることを知ると、うれしくなりますね。
 キャノンの御手洗会長そして住友化学の米倉会長といった日本経団連のトップはあまりにも視野が狭すぎます。自分たちさえよければ、あとは野となれ山となれといった経営者がもてはやされすぎているのではありませんか。そして、そんな金もうけで本位の経営者が教育問題でもっともらしい説教をするのですから、世の中、間違うはずです。
(2012年3月刊。1600円+税)

インド・ウェイ、飛躍の経営

カテゴリー:アジア

著者   ジテンドラ・シンほか 、 出版   英治出版
 インドの企業はすごい。
 2010年に、インドはアメリカ、中国、日本に次ぐ世界第4の経済大国となった。日本のGDPは4兆3100億ドルに対して、インドは4兆100億だ。インド経済は、年7~8%の成長を続けている。
 日本とインド企業との連携の好例は、スズキだ。インドの自動車市場の45%のシェアである。
インド・ウェイとは、よその国とは異なるインド企業独特の組織能力、マネジメント慣行、そして企業文化の複合体だ。それは、作業員とのホリスティック・エンゲージメント、ジュガンドの精神、創造的な価値提案、高度な使命と目的の4つの原則から成っている。
 アメリカのMBAプログラムに入学するために必要なGMATの受験者は、10年間にアジアで74%増加したが、中国は161%、インドは341%も増えた。
インドでの販売の最大の課題の一つは、従来のマスメディアが人口の半分にしか届かず、5億人をこえる人が企業の製品やブランドについてほとんど知らない。およそ60万の村落の分散している農村部の住民は、新聞、電子メディア、鉄道につながっておらず、また半分以上は道路でさえ都市と接続していない。
 インド企業の驚くべき成功にもかかわらず、多くのインド人が貧困に窮しており、3億人以上の人々が1日1ドル以下で過ごしている。幼児期の死亡率は依然として高く、1000人の出生について57人が死亡する(アメリカでは7人)。
インドの中間層は急激に増えており、田舎の生活から離れ、新しい格差を生み出している。政府における汚職だけでなく、ビジネスにおける汚職も、インドでは日常的となっている。
 ごく低収入の人々に、ごく安い価格でアプローチするビジネスが生まれました。
 きわめて多数の顧客人口に対して、非常に低コストの通信サービスを提供した。世界でもっとも安いケータイ料金が1分10セントのとき、インドでは1分1セントというものだった。
 なーるほど、数は力なりですね。どんなに安くても、数が多ければ商売として成りたつというものです。
 世界に冠たるインド企業の内実を少しだけ知った気にさせる本でした。
(2011年12月刊。2200円+税)

介護と裁判

カテゴリー:社会

著者  横田  一  、 出版   岩波書店
 ちょっととっつきにくいタイトルですから、本のタイトルとしては失敗しているんじゃないかと思います。それでも、読むと介護施設の寒々とした実情と問題を鋭くえぐった本です。みんな年齢(とし)をとったらお世話になるはずの介護施設の実態がこんなにひどいものだったとは、思わず身震いしてしまいました。
「あすにも社会的入院や寝たきりはなくなる」という標語は見事に幻想に終わった。いやあ、本当に残念です。
 介護保険制度は、保険料や公金など、年に7兆円以上もかけているのに、うまく機能していない。少なくとも合格点からは、はるかに遠い。うむむ、困ったことです。
 その理由の一つは、介護殺人や介護心中がなくならないどころか、逆に増えている事実にある。介護事故についての報告件数も年々増えている。
パンはこわい。パンを丸々一個口に入れて、ノドに詰まらせて死亡する例があとを絶たない。そこで、ケアの場では、日頃から歌などで声を出す練習をする。食べ物を飲み込むときに使う筋肉が、発声に使う筋肉とほぼ同じだから。舌を出し、頬をふくらませるなど、「お口の体操」をしてから食事に入る施設が少なくない。
介護保険法によれば、正当な事由なくサービス拒否することは禁じられている。しかし、実際には、施設は「客」を選ぶ。介護施設のよし悪しは、ヘルパーの力量いかんによる。質のよいところほど、スタッフのできのよいほど、できること、できないことをはっきり答えてくれる。有料老人ホームも玉石混交。肝心の職員研修が、手間や時間、経費がかかるためか比較的貧弱で、事故がじわじわ増えている。
 認知症の介護ではヘルパーが冷静にしていられるには、かなりの習練が必要となる。
世界最長寿のわりに、日本はリハビリ後進国といわれる。医療と介護をどうつなげてリハビリするかの検討も不十分だ。
 床ずれは、病院でおこせば「療養上の世話」のミス、つまり看護過誤。じつは、床ずれの有病率は、在宅高齢者に一番高い。
 支配されるお年寄り、介助者は王さま。これがケアの力関係である。
介護施設は、夜に20対1(ヘルパー1人で20人をケアする)というのはざら。
 拘束あるいは虐待の輪を断ち切るのは、看護師でもヘルパーでも、経営者でもない。身内なのだ。家族やまわりの善意の声が大きいかどうかで、対応は変わっていく。これが現実である。
 認知症の患者は、識別能力こそ弱っているものの、感情はある。
虐待発生のリスクは、ケア現場すべてに内在している。虐待するのは、20~30代の若手の介護士たち。そこで家族は、いろんな時間帯に面会するとよい。とくに、食事どきに食堂にすわる。そのとき、家族のいない年寄りがどう対応されているのかをよく見る。
 介護職場の大変さと、それを放置してごまかしている政府のインチキさがよくわかる本でした。
(2012年1月刊。1700円+税)

徹底解剖・秘密保全法

カテゴリー:司法

著者   井上 正信 、 出版   かもがわ出版
 3.11東日本大震災の直後、福島第一原発のメルトダウンに至る状況は国民に十分知らされないままでした。知らぬが仏というコトワザはたしかにありますが、あのとき、むしろ欧米のほうがメルトダウンを察知して自国民の避難を急がせたのでした。
 そして、官邸の対応はあまりにも不手際が重なったと思います。それは東電の隠蔽体質によるところが大きいのでしょうが、最大の「敵」は「原子力村」と呼ばれ、今も根強い産学官複合体ではないでしょうか。
 そして、とんでもない「秘密」を当然視している人たちが、現状を法制化しようというのが、この秘密保全法制です。いやはや、その本質を知るにつれ、権力や権力にすり寄る人たちの厚顔無恥ぶりには怒りを通り越して呆れてしまいます。
 この本は、広島(尾道)で活動している弁護士が秘密保全法制をめぐる情勢とその問題点を分かりやすく多面的な視点から解き明かしています。
 秘密保全法は、その制定過程から秘密にされている何が秘密なのか、なぜ秘密にしなければいけないのか。それを明らかにできないのが、秘密の秘密たる所以なのです。
うむむ、なんだか、分かったようで、分からない話ですよね。早い話が、もし秘密保全法違反で逮捕され、裁判にかかったとしても、公開の法廷で、何が秘密だったのかが明らかになることはありません。もし、それが明らかにされたら、それをバラしたことで処罰されるなんてことは考えられないからです。いわばヤミからヤミへと処刑されるようなものです。
 だから、高名な憲法学者も入った有識者会議の報告書には、次のようなくだりがあります。
 「ひとたび、その運用を誤れば、国民の重要な権利利益を侵害するおそれがないとは言えない」
 この秘密保全法制は、対米公約の成果としてつくられようとしているものであります。つまりアメリカから押しつけられた法案でもあるのです。
国の秘密は、国民に対して秘密にするもの。秘密をつくる官僚や政治家にとっては秘密ではない。つまり国民には内緒にして、一部の官僚や政治家だけが知っている情報なのである。
といっても、著者も、国に秘密があることを認めないというのではありません。
 しかし、秘密が認められるためには、秘密が厳格に限定され、一定の時期が来れば必ずすべて公開され、秘密にすることが合理的であるかをチェックする第三者機関が必要だ。なーるほど、と思いました。
 既に日本には、秘密保護のために刑罰法規はある。自衛隊法96条の2、122条、刑事特別法、MDA秘密保護法など。
 「特別秘密」という概念はあいまいであり、限定がない。そのうえ、未遂を処罰するというのでは、あいまいすぎて、罪刑法定主義に反する。
 この秘密保全法制については、報道の自由を侵害するものなのですが、マスコミの反応が今ひとつ鈍いように思えます。マスコミの権力スリ寄り志向のせいなのでしょうか・・・。
 正当な取材活動も捜査の対象となるのですから、もっとマスコミは自覚してほしいところです。
 なお、1974年ウォーターゲート事件で内部告発したディープスロートは「最後まで誰かは不明」というのは正しくありません。そうではなく本人が名乗り出ています。こんな玉にキズがあるのも愛嬌です。
いつも難しい論文を書いている著者には珍しいほど平易な文章で一貫しています。本文150頁あまりのハンディな本です。ぜひ買ってお読みください。
(2012年5月刊。1600円+税)

記憶する技術

カテゴリー:司法

著者   伊藤 真 、 出版   サンマーク出版
 としをとってもやれるものはたくさんある。いつのまにか還暦をすぎてしまった私のようなもの(決して老人なんて呼ばせません)を大いに励ましてくれる本です。
記憶するために必要なのは、頭のよさでもなければましてや気合いでもない。「記憶する技術」をもっているかどうかである。情報にあふれた現代において、たくさんの引き出しがあるだけではなく、それを適宜引き出せるということが大事だ。整理された引き出しが多ければ多いほど、アウトプットしやすい。そうすれば、それは生きた知識になる。同じことを何度も飽きずにくり返すことができること。あたりまえのことかもしれないが、これこそ記憶する技術の極意だ。つまり、対象に強い興味をもち、意識のポイントを変えることによって、何度となく学びを得ることができる。
人は、自ら欲した情報しか得ることができない。
 著者は教えている塾生、1年に300人を大体覚えているそうです。しかも、15年分です。すごいですね。
 対象に対して、強く興味や関心があると、記憶しやすい。だから、記憶するには、以下に対象に興味をもてるかに尽きる。
 いつまでも若々しい感性をもち、喜怒哀楽のはっきりしている人は記憶力もよい。喜怒哀楽の感情と結びつけて覚えると、あたかもそれを経験したかのような経験記憶となって、忘れにくくなる。
記憶のゴールデンタイムは「1時間以内」と「寝る前5分」。講義が終わったあと、席を立つ前に、その場でそのまま復習する。そして、毎日5分。それも寝る前の5分がいい。ポイントは、それまですべてをざっと復習すること。
部屋の整理ができず、整理が苦手だという人は、記憶力も弱い。ど忘れというのは、脳の前頭葉からの情報が求められているのに、側頭葉から答えが出ない状態をいう。
過去の記憶にどんな意味を与え、これからどんな記憶をインプットしていくのか。その技術こそが、生き方そのものだ。記憶とは量ではない、生き方なのだ。そして、忘れる力は、いわば生きる力なのだ。情報を消すこと、記憶を忘れることこそが命であり、生きている証拠だ。変化すること、忘れること、それこそが生きるためには不可欠なのだ。
生命にとっては、変化そのものが情報であり、変化の幅こそが次の反応をひきおこす手がかりになる。
 記憶力に自信がない人はいろいろ工夫するので、ゴールに到達しやすい。実際、早く合格する傾向がある。考える前提として、基礎的な知識は記憶していなければならない。つまり、記憶とは考えること。記憶を定着させるには、何度もくり返し、刺激を与えることが大切だ。
 考えるのをやめるというのは、つまり決断するということ。決断する訓練をしておかないと、試験に受からないし、実務家としても使いものにならない。技術が使いこなせない。
 記憶することは、人間が知的に感情豊かに生きるためにきわめて大切なことだ。
いい本でした。自らをふり返ってみるうえで大切なことがたくさん書かれている本です。若さを保とうとするあなたもぜひお読みください。
(2012年4月1300円+税)

福岡県弁護士会 〒810-0044 福岡市中央区六本松4丁目2番5号 TEL:092-741-6416

Copyright©2011-2025 FukuokakenBengoshikai. All rights reserved.