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2012年6月 の投稿

地球を活かす

カテゴリー:社会

著者   伊藤  千尋  、 出版   シネ・フロント社
 市民が創る自然エネルギーというサブ・タイトルのついた、楽しくて、明るい展望の開ける本です。
 原発をなんとか再稼動させようという財界と民主・自民両党は、原発なくすのは、「自殺行為」だなどと国民を脅しています。決してそんなことはありません。
 世界60カ国を新聞記者として見分してきた著者は、たとえば地熱発電所を例にとって次のように紹介しています。
 アイスランドやコスタリカでは地熱発電がやられている。ところが、その技術は日本のもの。そして、実は日本でも大分に地熱発電所がある。このように、日本には技術があり、条件もある。あとは政府の方針だけ。ななのに、日本政府は原発にあくまで固執し、地熱発電所に目を向けようとしない。
 アイスランドに世界最大の露天風呂がある。なんとサッカー場より広い5000平方メートルもの広大さ。地熱発電所の余熱利用でつくられたもの。
 日本だって、このアイデアは活用できるはず。本当に、そのとおりだと思いました。なにしろ、地熱発電所ってまったく無公害発電そのものなのですから・・・・。
 日本できちんと地熱発電を開発したら2000万キロワット、つまり原発20基分の発電がまかなえる。
ドイツは3.11のあと早々に脱原発を決めた。そして、自然エネルギーを活用している。この自然エネルギーの分野で新たに生み出された雇用は37万人にのぼった。
 むひょう、だったら、日本でも早速とり入れたらいいですよね。財界と大企業のもうけは原発とちがって少なくなるかもしれませんが、そんなことはどうでもいいことですよね。
 オーストリアは1999年、憲法に原発をつくらない、つくっても使わないという条文を新しく盛り込んだ。原発をつくってしまったけれど、国民投票して原発可動に反対する人が50.5%出たからだ。すごいですよね。日本だったら、恐らく、せっかくつくった原発だからひとまず使ってみよう。そして具合が悪ければ止めようということになったことでしょう。ところが、スイスでは、つくったけれど、ここはキッパリ使うのをやめたというのです。
 イタリアでも、国民投票をやって原発再開反対が95%となって、脱原発が決まった。
 著者とは面識ありませんが、大学では私の一学年下だったようです。先日、講演会で話を聞きましたが、2時間にわたって、立ったまま立て板に水のたとえのとおり爽やかな弁舌で圧倒されました。思わず若いね、あなたは・・・とうなってしまいました。私も負けずにがんばろうと思います。
(2011年12月刊。1000円+税)

ショージとタカオ

カテゴリー:司法

著者  井手 洋子  、 出版  文芸春秋
 
 布川事件で被告人とされた桜井昌司(ショージ)と杉山卓男(タカオ)の両氏について、仮釈放以来、ずっと映像をとり続け、ついに映画にまでした監督が書いた本です。
 私は、残念ながら映画はみていませんが、このお二人の話は直接聞いたことがあります。実は、二人とも私とまったく同世代なのです。でも、私が大学に入って東京で生活を始めた年の10月に逮捕され、それ以来、29年のながきにわたって獄中にいたのでした。そして、ついに1996年(平成8年)仮釈放されました。ときにタカオは50歳、ショージは49歳でした。女子高生のルーズソックスがブームだったころです。
そんなわけで、このお二人は見かけこそ中年のおじさんなのですが、その心は若者のままなのです。私がお二人の話を聞いたときも、見かけは私と同じでも、その心持ちはずいぶん若い気がしました。それはともかく二人コンビで何か悪いことをしたわけでもないのに、運命のいたずらで事件は二人の「共犯による犯行」とされてしまい、それぞれ「自白」して、相手を「まき込み」、それがずっとお互いのわだかまりの元になっていたのでした。
そして、そんな二人の歩みをずっと映像にとっていたというのですから偉いですよね。だけどそのとき、この監督(この本の著者です)はどうやってメシを食べていたのか(収入を得ていたのか)、いささか疑問も感じました。配偶者の稼ぎに頼っていたということでしょうか・・・・?
ショージは、刑務所の独房のなかで、毎日、腕立て伏せを100回、腹筋を50回していた。部厚い広辞苑を鉄アレイ代わりにつかって、腕を振る運動もしていた。
1987年7月に無期懲役が確定して、千葉刑務所に暮らすようになってからのことです。偉いですね。さすがですね。
そして、ショージは刑務所のなかで靴を縫う仕事で法務大臣賞をもらったのでした。逮捕される前は定職についていなかったショージは、この際、しっかり働いて誰にも負けない、日本一の靴の作り手になることを心の中で誓っていた。
ショージもタカオも長い刑務所生活のなかで心の支えになっていたのは手紙だという。たまにある面会ではない。
支援者からの手紙に写真を同封するのは一切ダメだというのを、「保護者」が写っているのはOKだということになった。
タカオは六法全書を入手し、舎房のなかで、日々研究した。
ちょっぴりぐれかかった20歳前後の若者2人を警察が目をつけ強盗殺人の犯人に仕立てあげ、「自白」させた事件です。そして、それを40年以上もかかって再審無罪にしたというのです。もちろん二人がもっとも大変だったと思いますが、それを支えた周囲の人たちもすごいですよね。そして、日の目を見る保障がないなかで映像をとりはじめたというのも、すごいです。
   無実の人が「自白」するなんて簡単なことだという実例です。ぜひ映画を見てみたいものです。
(2012年4月刊。1200円+税)

フィンランドに学ぶべきは「学力」なのか!

カテゴリー:社会

著者  佐藤 隆、 出版  かもがわブックレット
 フィンランドは「学力世界一」として評判になっています。この本では、「学力」とは何なのか、それ自体を問い直してみる必要があると強調しています。
 教育の目的が、「学力向上」の一点に焦点化されるという事態は、果たして正しいことなのか?
メディアはこういう。「今の日本の子どもの学力は落ちている。だから『たたき直して』昔のように学力を高めるのだ。そうしないと日本は心配だ」
全国一斉学力テストは、学校を今以上に文部省の思いどおりに動くものに変えるためのもの。学校同士が競い合うような構造をつくりたいという狙いである。
 日本の子どもは、ふだんの授業では扱われないような問題やあまり考えたことのない問題には戸惑ってしまう。あるいは、分かっていても自信がもてない。まちがったら恥ずかしいという感覚をもっている。
 今の日本社会は、政治や企業の世界で嘘やごまかしがまかり通る社会になっている。
 ところが、フィンランドでは、汚職や公約違反が少なくない。大人が慎ましく誠実に生きることを大切なことだと考え、それを実行している社会で育つ子どもは、いつのまにか同じ価値観を身につけていくだろう。反対に、日本のように自分の利益のためであれば何をしてもよいのだという政治を見せつけられている子どもは、安心して育つことができない。
 本当にそうですよね。マニフェストだとか言って当選したら、そんなものは知らんと放り出す政権与党と政治家を見せつけられたら、誰だって大人というか人間を信じられなくなります。まさに、教育問題とは大人の問題ですね。
 フィンランドでは、どの教室も静かで落ち着いている。教師も子どもも、ゆったり話をする。手をあげた子どもは自分の順番が来るまで、静かに待つ。クラスのサイズは小さく、多くても20名ほど。待っていたら、ちゃんと自分の話を聞いてもらえる。
フィンランドでは、どんな教科書をつかって、そんな方法で授業するのか、すべて個々の教師にまかされている。
 信頼されるということは、何にもましてやる気にさせてくれること。ところが、フィンランドでも、学校の独自色や暖かな励ましの雰囲気が薄れようとしている。それでもフィンランドの教師には、たっぷりの休養と権利としての研修、そして安定的な身分の保障が十分になされている。だからこそ教師は教育の自由と責任の自覚のもとで子どもや保護者と対話しながら、誰もが納得できる教育的な判断を下すことができる。
日本がフィンランドに学ぶべきものが見えてきた思いがしました。私たち日本人の大人の責任が大きいことを痛感します。教師を叩いて日本の国がよくなるはずはありません。わずか60頁の薄いブックレットですが、しっかり考える材料がきちんと盛り込まれています。価値ある600円でした。
(2009年11月刊。600円+税)

バイバイ・フォギーデイ

カテゴリー:司法

著者  熊谷 達也  、 出版   講談社
 面白い本です。まったく期待せずに、読み飛ばすつもりで読み始めたのですが、案に相違して抜群の面白さでした。なんだか函館の町にいて、高校生に戻った気分で本に没入し、最後まであっというまに読みふけっていました。いやはや、すごい書き手です。
なにしろテーマは憲法改正なのです。こんな堅苦しいテーマをじっくり面白く読ませてくれる手法には、恐れいりました、としか言いようがありません。
舞台は函館のH高校。そして五稜郭が出てきます。私も一度だけ五稜郭に行き、タワーにものぼりましたし、五稜郭の周囲の池の端を少しだけ歩いてみました。もう、20年近くも前のことです。
オビの裏には、こう書かれています。
一見ミスマッチな青春と政治が、鮮やかな恋物語を紡ぎだす。
憲法改正についての国民投票実施が決まった春、函館H高校女子生徒会長の杉本岬は、全国の高校生による模擬国民投票に向けて動き出す。メディアに取り上げられ、有名人になった岬だが、掲示板サイトには彼女を批判する書き込みがされて苦境に陥る。岬の同級生の田中亮輔は、地元パンクバンドのギタリストだが、憎からず思っている岬を助けたいと願いながらも、なすすべがない。国民投票の結果は? そして、二人の恋と未来はどうなるのか?
すごいんです。なにしろ焦点は憲法9条なのです。国民投票で否決されたら自衛隊は解体されるのか、という重大な問いかけがなされます。その点にきちんと答えないまま国民投票で勝負しようというのはインチキじゃないかと高校生が迫るのです。まことに、そのとおりです。
そして、日本の海上保安庁の船が不審船に沈没させられると、世論は一気に憲法改正に賛成するムードになっていきます。そして、ネット社会で有名人になった女子高生の岬は、憲法改正による賛否を明らかにせよと迫られるのです。
憲法改正は9条がメイン。それ以外にも環境権とかいくつかあるけど、あくまでも憲法9条をどうするかが議論の中心よね。
改正案は、最小限度の項目にしぼられた。そして、国民投票については18歳以上のはずだが(今は、まだ決まっていません・・・・引用者)、今年度末までに満18歳になる人は、18歳以上とみなすということになった。
これまで、我々は憲法9条の解釈に常にふりまわされてきた。霧とか靄(もや)とかがかかったような状態に長いこと置かれてきた。それが、今度の国民投票で、よかれ悪しかれ、霧が晴れてすっきりした状態になる。どういう方向に向かうかは投票の結果によるけれど、いずれにせよ、視界が良好な世界へと踏み出すことができるだろう。だから、バイバイ・フォギーデイ。もやもやした霧の日よ、さようならというわけです。
今回の憲法改正案が否決されたとき、現行憲法を文字どおりに解釈して、自衛隊を解体するのか、あるいは改正案が否決されたのだから、現状維持でよしとするのか。
私は、自衛隊なんていう軍隊は日本からなくなってほしい、必要なのは災害救助隊だと、3.11東日本大震災のあと、痛切に思います。
インターネットの世界では抜きさしならない事態に見舞われ、大きな危機に瀕している。なのに、実際の風景は、いつもと変わらず、いたってのどかなものだった。
そして、いよいよ国民投票の日が迫ります。改正キャンペーンはやや下火になったものの、結局、改正賛成が多数を占めます。ああ、こんなことにならないようにしようと思ったことでした。
巻末に主要参考文献のリストがあります。ぜひ多くのみなさんに読んでほしい本ばかりです。
(2012年4月刊。1600円+税)

魚は痛みを感じるか?

カテゴリー:生物

著者   ヴィクトリア・ブレイスウェイト 、 出版   紀伊國屋書店
 魚が痛みを感じているのか?
 この問いかけに対する答えは、イエス。ではなぜ、一度エサにかかって釣りあげられた同じ魚が、再びエサで釣れるのか?
それは、ひもじいのに、ほかにエサが見つからなかったから。うーん、魚も痛みを感じているのでしたか・・・。モノ言わない魚も、実は痛みを感じていたなんて。
 痛みとは、単一のプロセスではなく、一連のできごとが集まったもの。皮膚の特殊な受容体が刺激を受けると、それは何かが皮膚にダメージを与えているという情報を身体に伝える。たとえば、最初にやけどが検出され、その情報が伝達する信号が脊髄背角へと伝わり、そこで反射反応が引き起こされる。そして、ヒトはやかんのふたを落とす。ここまでは、すべて無意識のうちに生じる現象だ。信号は、脊髄に到達して反射反応を引き起こしたあと、脳に至る。そのときはじめて、ヒトは痛みを感じはじめる。
 やけどによって引き起こされた不快な情動的感覚に意識的に気づき、脳はたった今自分がとった行動が痛みをもたらしたのだと告げる。何らかの痛みが感じられるまでに2秒ほどかかることがあるが、ほとんど痛みはそれより早く感じられる。
 マスに深い痲酔をかけて活動を完全に停止させ、何が起きているかをまったく関知できない状態にする必要があった。しかし、神経系は依然として機能している。ヒトの場合には、痛みを経験すると、呼吸と心臓の鼓動が速くなる。魚の場合には心拍数が早くなることが、エラ蓋の開閉数を数えることで分かる。
 マスをハチの毒や酢で処置したとき、エラの開閉数は、休息していたことに比べて、ほぼ倍になっていた。したがって、マスは痛みを検知する。そして、それが刺激されると、その情報が三叉神経に伝達される。それによって魚の行動が変化する。
 では、魚は感情を経験しているのか、苦しむ能力をもっているのか?
 魚はエサを迷路のなかでも素早く見つけるようになる。つまり、魚は学習できるのである。エサを早く見つけるため迷路のなかで、どこで曲がったらよいのか、そのときの目印は何かを魚(キンギョ)は学習し、記憶することができる。
フィルフィンゴビーという小さな魚は、満潮時に周辺の地形を覚え込んでいて、干潮のときには海水のたまるくぼみを記憶している。そして、捕食者が来ると、水たまりから水たまりへと飛び移って逃げる。周辺の環境を学習するには、満潮をたった一度だけ経験すればよい。
魚にも「知能」があって、学習できること。そして、魚も痛みを感じていることを実証した面白い本です。
(2012年5月刊。2000円+税)

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