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2011年7月 の投稿

アメリカの公共宗教

カテゴリー:アメリカ

著者    藤本 龍児  、 出版   NTT出版
 宗教の熱は、自由と知識の増大とともに否応なく消え去る。これは、19世紀フランスの社会哲学者トクヴィルが当時のアメリカを観察して導いた命題です。私は真理ではないかと思うのですが、現実は必ずしもそうとは言えません。
このトクヴィルの理論は、現在における事実に合致していない。アメリカでは、宗教右派が全人口の15~18%を占め、大統領選挙の帰趨を左右する勢力となっている。福音派は全人口の30~40%を占め、高学歴・高収入の人々の4分の1が自分は福音派だと答えている。
 オバマ大統領は就任演説において、神を信仰する人々だけではなく、信仰をもたない人々をもアメリカ国民としてかぞえあげた。就任演説という公共性のきわめて高い場で、アメリカ大統領が信仰をもたない人々にまで言及したのは異例のことである。
 現代のナルシズムは、屈折したかたちではあれ、他者を必要とする。ナルシストは、喝采を送ってくれる聞き手がなくては生きてゆけない。
 原理主義は、もともとはイスラムではなく、アメリカのプロテスタント神学の一潮流として生まれた。原理主義という思想や世界観は、1910年代から1920年代にかけてアメリカで生じてきた。世界中で原理主義がテロをあおり立てていて、とても危険な状況をつくり出しています。宗教者って、宗派を問わず、もっと他人に寛容であってほしいものです。
 イギリスにおける宗教改革は、ヘンリー8世の離婚問題という、主に世俗的な理由から始まった。分離派の一部の人々は、1608年弾圧を逃れてオランダへ渡り、次いで1620年にアメリカへ巡り来た。ピルグリム・ファーザーズである。しかし、その乗船者の半数以上はピューリタンではなかった。メイフラワー号には、経済的な余裕がなかったので、聖徒だけではなく、よそ者が乗船していた。
 分離派のピューリタンは貧しい農民や労働者だったのに対して、非分離派のピューリタンは富も地位も持っていた。この非分離派のピューリタンは、あくまで自分たちの信仰の自由を認めたのであって、信仰を異にする人々の信仰の自由までは認めず、それどころか迫害までした。
 ワシントンやジェファーソンなど、独立革命の指導者が持っていた思想は、ピューリタニズムではなく啓蒙主義だった。建国の父たちをはじめ、現在のオバマ大統領に至るまで、神に言及していない大統領は皆無であるが、同時にキリストの名に言及した大統領も皆無である。そうすることで、多様な人々が、多様な神のイメージをそこに読み込むことができるようにしている。
 アメリカで政教分離とは、あくまで国家と教会との分離のこと。アメリカにおける政教分離とは、政治と宗教の分離でもないし、国民と宗教の分離でもない。その理念は、あくまで国家が特定の宗教と深くかかわってはならないことを意味するだけで、政治的領域に宗教的次元があることを否定してはいない。
 リンカーンは、アメリカ史上もっとも宗教的な大統領であるとされるが、実際は、一生を通じて洗礼を受けたことはなかったし、どの宗派にも属していなかった。人民の、人民による、人民のための政治というリンカーンの言葉は、アメリカにおいては、神の後ろ盾なしには成り立たないものである。
こうなると、アメリカって日本人の私たちからすると、まるで変てこりんな国としか言いようがない気がします。こんなことを言うと怒られるのでしょうか?
(2009年11月刊。2800円+税)

TPPで暮らしと地域経済はどうなる

カテゴリー:社会

著者    にいがた自治体研究所  、 出版   自治体研究社
 3月11日までは日本政府はTPPに今にも参加する勢いでしたが、この点は幸いなことにも頓挫してしまいました。もちろん、いまでも日本の農業自給率の維持・向上なんて必要ない、食料はお金出して買えばいいという意見もマスコミの世界では大手を振ってまかり通っています。でも、本当にそうなんでしょうか・・・。この本はその点について十分に考える材料を提供してくれています。
 TPPは農業の問題と狭くとらえられがちだが、農業だけにとどまらず、最終的には消費者、国民あるいは地域経済をまるごと切り捨てていく、多国籍企業主導のグローバル資本主義の問題としてとらえることが大切だ。日本では、農産物以外の関税はほぼゼロなので、農産物以外の分野は、関税以外の、非関税障壁といわれる部分をいかに開放するかが論点になる。衣料品や工学製品、知的財産権そして通信、投資、労働なども対象に入ってくる。
 現在のコメ市場においては、家庭向けの主食用のコメは全体の半分を切っており、残りは加工用や業務用などなので、そこは完全な価格競争の世界だ。
給料を減らされると、その分だけ消費支出の減少につながる。消費が減ると、産業の産出額も減ってしまう。日本の輸出依存度は世界的にも低いほうで、GDPに占める輸出額は17%前後である。むしろ日本は83%の内需に支えられている。しっかりした内需のあることが日本の強みなのである。
 大資本系列の大型店は、本店がほとんど東京や大阪などの大都市にあり、利益は本店でカウントされるため、地域の自治体に納められる税金はほとんどない。
 いま、世界的には餓死人口が10億人にものぼる。その中で世界一の食料輸入大国である日本の責任は重大だ。本来自給の可能なコメにおいても、飼料用をふくめると穀物自給率は27%にすぎない。
 日本は「鎖国状態」にあるどころか、実は開かれすぎていて、瀕死の状況に追い詰められているのが現実である。むしろ、食料については、ヨーロッパのように食料主権を確立すべきである。持続可能な国民経済をつくる方向こそが、現代日本にとって重要な戦略的課題となっている。農山村の荒廃から国土を救い、農林業を振興することで食料とエネルギーの自給率を高め、食料安全保障やエネルギー主権を確立するだけでなく、国土保全効果を高め、世界最大の資源輸入国の汚名を返上して地球環境問題に貢献することにもつながる。
 全国各地にシャッター通りが見られ、休耕田ばかりが目立ち農業が疲弊している現状を、国民みんなの力で変えたいものです。ショッピングモールに行けば何でも「安く」買えるというのは、まったくの「幻想」なんですよね。足下の日本農業をもっと大切にしたいものです。わずか160頁足らずの薄いブックレットなので、ぜひ、ご一読ください。
(2011年3月刊。1429円+税)

エベレスト登頂請負い業

カテゴリー:アジア

著者    村口 徳行  、 出版   山と渓谷社
 高さ8848メートル、世界最高峰エベレスト。チベットの人々は昔からチョモランマと呼ぶ。母なる女神の意味だ。
 今やエベレストは大衆化に向かい、多くの人々が登頂できる時代になった。世界一という分かりやすい標高が多くの人々を惹きつけ、人生に目的を与え、なんとか努力することで叶う最高の目標としてエベレストがとらえられるようになった。そうなんですか、エベレストって大衆化してるんですか・・・。
 はるか遠い昔、エベレストは海の底だった。インド亜大陸とユーラシア大陸が北緯10度近くで衝突をはじめたのは始新世のことで、それ以降5000万年にわたって続いた衝突の結果、両大陸の地殻は水平距離で2500キロ以上も短縮し、対流圏上部に達するヒマラヤ山脈を誕生させた。かつて浅い海で大繁殖していたウミユリ、三葉虫の化石も発見された。つまり、チョモランマの頂上付近は、海の深い場所ではなく、波打ち際の浅い海、4億8000万年前の渚だった。
人間は5000メートルをこえては定住できない。子孫を残していけるぎりぎりの高さだ。チョモランマの麓、サロンプ村、もはや農作物もとれない4800メートルの高地に43世帯、
292人が暮らしている。ヤクからバターをもらい、その糞を燃料にして暖をとる。トイレすらない。
 悪い環境で長期間にわたって他人と生活をともにするときには、できる限りプライベートを守ってあげることに気をつける。なるべくストレスを翌日に抱えないためには、個人用のプライベート・テントが有効だ。自分だけの空間は、どんなに小さくても最高に居心地のよい住処となる。
 登頂を終えたら、さっさと下りるのがヒマラヤ登頂の鉄則だ。長い時間、滞在する場所ではない。体が冷えてくる。冷たい風が気になる。
 酸素がいかに重要かという問題を抜きにして、高所の登山は成りたたない。ベースキャンプは5300メートル。順応のできた体なら、そこで数日のんびり過ごすことで休養はとれるし、疲れた体を回復させることは可能だ。もう一歩ふみ込んで、さらに高度を下げることで回復力がもっと早まっていく。
高所での歩行速度は、その人の状態を簡単に見分けることのできるバロメーターとなる。
 風は体温を奪い、著しく、消耗させる。体の機能がもっとも大きなダメージを受けはじめる4000メートルへの順応が大切だ。健康な人間は、3000メートルから低酸素の影響を受け、個人差にもよるが、頭痛、微熱、食欲不振、嘔吐、下痢などの症状があらわれてくる。それを通過しないことには先へ進めない。それが高所登山の厄介なところだ。だから、なるべくうまく高山病にかかってあげることが大切だ。4000メートル前後から、2ヵ月にわたり高山病とのたたかいが始まる。6450メートルの高度では睡眠不足に陥る。この高度は横になっていればそれでいいと考えるべき。人間の体はよく出来ている。眠れないというのは、体が眠らせないように反応しているのだ。眠ることによって呼吸数が減り、酸素の取り入れ能力が落ちてくる。それを避けるために、眠らせないという形で信号を送り、まだ環境に慣れていないということを伝える役目を果たしている。要するに、高所に順応できているかどうかを示すわかりやすいバロメーターなのだ。
 高所登山には有酸素運動が必要だ。上半身の筋肉を必要以上につけず、下半身の強化を意識するのが基本トレーニング。2ヵ月間がエベレストを登るためのおおよその目安だ。エベレストは、もっとも酸素の少ないところにそびえる山なのだ。酸素がないことが普通で、意識は常に見えもしない透明のなかに向かっている。順応すると赤血球が増え、酸素の運搬能力が高まるが、同時に血管が詰まりやすくなるという悩ましい問題が発生する。私には8千メートルの高度を目ざす登山家の心理はよく理解できません。
(2011年4月刊。1600円+税)

大切な人のためにできること

カテゴリー:人間

著者    清宮 礼子  、 出版   文芸社
 父親が突然、末期の肺がんと宣告されたとき、本人とそして家族がどう対応したのか、娘による心打つ記録集になっています。
 父親は、私とほとんど同じ世代です。大病したこともないし、なんだか調子が悪いと思いながら放っておいて、あるとき思い切って病院に行ったら、医師から即入院を命じられたのでした。どんなにかショックだったことでしょう・・・。
コホンコホンと変な咳をして、最近ひどく疲れるんだよなー、若いころに空気で鍛えたことで気力と体力には自信を持っていた・・・。
 がんは、早期発見したら打つ手はあるし、10年も20年も立派に生存できるが、末期のがんだと診断されたときの治療法は何にもない。
抗がん剤による治療の大変さも描かれています。
 61歳の若さで、まだまだこれからというとき、もしがんが告知されたら、無念さのなかで想像もでないほどとてつもなく酷なたたかいを強いられる。自分のために、家族のために、残された期のなかで、すべきことに命をかけて勇敢に立ち向かってくれる覚悟と精神力のある人だった。
 がん治療の選択は情報が命である。もっとも重要なのは、信頼できる主治医に担当になってもらえるかどうかである。ただし、これは、めぐりあわせが大きい。
 現在のがん治療は早期発見だと比較的完治しやすい。ステージが上がるにつれ、治療による奏効率は低くなり、これをすれば治るという正解がない。がんと共存しながら、少しでも長く、少しでも豊かに生きていく、という目的に向かった選択肢しか現実には残されない場合も多い。
 がん治療の選択は、患者と家族の生き方の選択である。がん患者のとって一番の大敵は、悲しい気持ち、不安な気持ちなど、マイナスの気持ちから発生する精神的ストレスである。だから、娘である著者は太陽のような笑顔で父親に接していた。
 なかなか出来ることではありませんね・・・。映画『おくりびと』のプロモーター(宣伝担当者)である著者による痛ましいけれど、心あたたまる本です。がんになったときの予習と思って読みました。
(2011年6月刊。1200円+税)

チルドレン・オブ・ザ・レインボー

カテゴリー:アメリカ

著者  高砂 淳二    、 出版  小学館 
 ハワイをめぐる素敵な写真集です。ともかく色がいいのです。みるみる眼と心が惹きつけられます。豊かな色彩のなか、動物も植物も、そして空と海までが生き生きと表現されています。
 残念ながらハワイ島には行ったことがありません。でもこんな豊かな大自然の真っ只中に自らの身を置いてみたいと思わせる躍動感あふれる写真集なのです。
 カラフルなヤモリの写真があります。ヤモリなら、我が家にも夜になると、台所の窓にいつもへばりついています。ハワイのヤモリは舌を出して、おどけてみせています。その愛らしさはたとえようもありません。
 小鳥たちもいます。ペットの小鳥たちが野生化したようです。仲むつまじいブンチョウのカップルは枝で身を寄せあっています。ほのぼのと心温まる情景です。
 海に行くと、巨大なマンタが悠然と海中を泳いで通り過ぎていきます。大きなクジラが海面に頭を出して、思い切り息を吐き出します。遊び好きのイルカは、ヤシの実をつかまえてキャッチボールをします。若いザトウクジラが寄ってきて、あんた、だーれと問いかけます。
日頃つい忘れかけていますが、私たちだって大自然の中にいきていることを実感させられる写真集です。
(2011年5月刊。2500円+税)

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