法律相談センター検索 弁護士検索
2009年6月 の投稿

源氏物語(上)

カテゴリー:日本史(平安)

著者 瀬戸内 寂聴、 出版 講談社
 少年少女古典文学館として、現代語訳された古典です。古文として断片的には読んだことはもちろんありますが、読みとおしたことがなかったように思いますので(円地文子訳を読んだかな?)、上下2巻にまとまった、少年少女向けの現代語訳で源氏物語を久しぶりに読んでみようと思い立ったのです。
 いづれの御時(おほむとき)にか、女御(にょうご)更衣(かうい)あまたさぶらひたまひけるなかに、いとやむごとなき際(きわ)にはあらぬが、すぐれて時めきたまふありけり。
 この書き出しはさすがに覚えていました。私は歴史ものに続いて、高校時代、古文も得意としていたのです。古典文学体系で、原典を一度読んでおくと、全体像がつかめて、断片的に切り出されて問いかけられる設問に対しても余裕を持って回答することができました。この点は、法律の勉強と同じです。やはり、全体のなかの位置づけが欠かせません。
 現代語訳だけでなく、欄外に言葉の解説もあり、写真や図もありますので、大いに理解を助けてくれます。いわば、字引つきの古典ですから、なるほどなるほどと思いながら軽く読み進めていくことができます。
 それにしても源氏の君はもて過ぎです。どうして、こんなに簡単に女性にもてるのか、いつのまにか中年さえ過ぎてしまった男の私としては嫉妬にかられるばかりです。
 紫式部は1014年ごろ、40歳ほどで亡くなったようです。ということは、今からちょうど1000年前ころ、宮中で権力を握っていた藤原道長(直接にはその娘・彰子、しょうし)に仕えて活動していたのです。
 今から1000年前の日本に住んでいた人々の気持ちが、生活様式こそ違っていても、現代日本とあまり変わらないことに気がついて、不思議な気持ちに包まれてしまいました。日本人って、変わらないところは、案外、変わっていないのですね。
 
(1997年6月刊。1650円+税)

マンガ蟹工船

カテゴリー:日本史(戦後)

著者 小林多喜二・藤生ゴオ、 出版 東銀座出版社
 30分で読める。大学生のための、という副題がついたマンガ本です。前から読んでみたいと思っていました。白樺湖に出かけたとき、やっと手に入れて読みました。
 もちろん、私は原作も読んでいます。でも、マンガって、すごいですね。よく出来ています。映画は前に見たようには思いますが、よく覚えていません。最近、リバイバル・ブームに乗って各地で上映されていますが、まだ残念ながら見ていません。その代わりにマンガを読んだのですが、それなりに視覚的イメージはつかめます。蟹工船のなかの悲惨な奴隷のような労働実態が、それなりに伝わってきます。解説をつけた人は、このマンガを読んでショックを受けた人は、ぜひ一度、一度読んだ人は、もう一度、原作小説をとくと味わってほしい、と注文をつけています。まさしく、そのとおりです。
 それにしても、今の日本で多くの若者が自分の置かれている状況は戦前の蟹工船で働かされていた労働者と似たようなものだと受け止めているという事実は、それこそ衝撃的な出来事です。それなのに、政府は、大企業の違法な派遣切りに対して、戸別の企業については論評を差し控えます、などと格好の良いことを国会で答弁して介入せず、野放しのままなのです。権力のやることって、戦前も戦後も変わらないというわけです。
 マスコミも、年越し派遣村こそ大々的に報道しましたが、企業で今やられていることについての追跡記事をまったく載せていません。本当に悲しくなります。ソマリア沖に派遣された自衛官の「活躍」ぶりを載せる前に、国内の若者の置かれている深刻な実態を紹介すべきではないでしょうか。そして、このことを総選挙の争点として大きく浮かび上がらせてほしいと思います。日本の若者が将来展望を持てなかったら、日本という国に将来はないと思いますよ。皆さん、ぜひ、このマンガを読んでみてください。
 
(2008年7月刊。571円+税)

トヨタ・キャノン非正規切り

カテゴリー:社会

著者 岡 清彦、 出版 新日本出版社
 日本の今の深刻な不況の引き金を引いたのは、トヨタであり、キャノンであると私は考えています。もちろん、その背景には、アメリカのサブ・プライムローン危機に端を発した世界的な金融危機があるわけですが……。それでも、トヨタとキャノンの責任は重大です。
 トヨタの期間従業員は、最長で2年11ヶ月の有期雇用契約である。最初の契約は4~6ヶ月で、その後も6ヶ月、1年と細切れ契約にして、いつでも期間満了で解雇できるようにしている。トヨタはカンバン方式で有名だが、その「人間カンバン方式」こそ、期間従業員の活動である。必要なときに、必要な労働者を、必要なだけ使う。派遣労働者は奴隷だ。昔、女性は女郎屋に売られたが、いま、オレ達は工場に売られる。
 トヨタは、この20年間、正社員を増やさず、期間従業員を増やして日本一の利益をあげてきた。1990年のトヨタの経常利益は、7338億円。2008年には、それが2.3倍の1兆5806年にのぼる。しかし、正社員は7万人から6万9000人に減っている。そのかわり、期間従業員は1万人をこえ、生産現場の3割を占めるようになった。
期間従業員の日給は1万円。年収は300万円。正社員の平均年収829万円の半分以下でしかない。トヨタは、期間従業員のマイカー通勤を認めていない。だから、会社のバスか、自転車で通勤する。
トヨタは株主への配当は継続していて、2037億円も配当した。首切りを宣言した6000人の期間従業員の雇用を守るためには、配当金の9%、180億円あれば可能である。
そして、トヨタの内部留保(貯め込み利益)は、13兆9000億円にのぼっている。
うへーっ、こ、こんな莫大な利益、そして株主配当金があるのに、労働者のほうは平然と首切りするのですね。ひどいものです。血も涙もないとは、このことですよね。
ところで、いったい、取締役のもらう年間報酬額はいったいいくらなんでしょうか?
今の日本経団連会長の出身母体であるキャノンの名前が、観音に由来するということをこの本で初めて知りました。
キャノンでは、ほとんど残業はない。しかし、ノルマ達成まで働くことには変わりない。それは、サービス残業として何の手当てもつかない。
キャノンは大分県から莫大な補助金をもらっている。総額48億円にものぼる。ところが、そこで働く大量の労働者がワーキングプアと呼ばれている。4553億円もの利益を上げていながら、貧困宣言を出す。これって、まったく矛盾そのものです。
キャノン労組は、上部団体に加わらず、賃上げ要求すらしていない。
派遣労働者の時給は1000円。結局、手取り11万5000円になる。正社員だったら、残業や交代制手当がなかったら、月10数万円から20万円程度の手取りとなる。
キャノンそして日本経団連会長である御手洗は、「3年たったら正社員にしろと硬直的にすると、日本のコストまで硬直的になる」と言って開き直り、法律のほうこそ変えるべきだと弁明し、主張している。いやはや、とんだ男です。こんな人物が財界人トップなんですから、日本の将来はお先真っ暗です。
キャノンも、株主への配当は、同じく前期と同水準にしている。
日本経団連って、ホント、自分たち大企業のほんの目先のことしか考えていない強欲な資本家集団なんですね。あきれてしまいます。こんな人たちに今時の若者は日本の国と郷土を愛する心が足りないなんて言われたくありませんよね。守るべき自分の生活があってこそ、守るべき郷土があり、国があるのですからね……。
(2009年3月刊。1400円+税)

重慶爆撃とは何だったのか

カテゴリー:日本史(戦後)

著者 戦争と空爆問題研究会、 出版 高文研
 第2次大戦中、日本は全国66都市がアメリカ軍によってナパーム攻撃を受けたが、その5年以上も前に、日本軍は中国・重慶市民の頭上に200回をこす間断ない空中爆撃を行い、2万人あまりの死傷者を出した。日本は、戦略爆撃の作戦名を公式に掲げて、組織的・断続的な空襲を最初に始めた国なのである。
 1937年8月に始まった南京空襲は、12月13日に日本軍が南京を占領するまで繰り返された。日本軍は、空襲36日、回数にして100回をこえ、飛行機はのべ600機、投下した爆弾は300トンだった。
 8月26日、南京に駐在していたアメリカ、イギリス、ドイツ、フランス、イタリア各国の外交代表が日本政府に爆撃中止を求めた。宣戦布告していない国の首都を爆撃し、しかも民間人を死傷させていることに抗議したのである。
 南京爆撃は、民衆の戦意を崩壊させ、中国軍の早期降伏を誘発するためのものであった。しかし、そうはならなかった。日中戦争の行き詰まり打開策として、戦略爆撃に重点が移動した。
そのとき、毒ガス弾の使用も軍当局は認めていた。ただし、目立たないように注意しろという但し書きがついていた。毒ガス弾の使用を認めたのは、中国軍の激しい抵抗を受けて日本軍にも多大な犠牲者を出した上海戦のようにならないためであった。1941年11月、日本軍機はペスト菌を中国にバラまいた。ペストが蔓延して、数千人の死者が出た。しかし、日本軍の毒ガス戦について、戦後、アメリカ軍はそのデータと引き換えに関係者を免責した。
 重慶爆撃で最大の死者を出したのは1939年5月のこと。2日間だけで死者は4000人にのぼった。日本軍は武漢を基地として、300機以上を動員した。このとき使われたのはナパーム弾の性質に近い焼夷弾である。日本軍は重慶を無差別・絨毯爆撃した。
 ドイツや日本と違って、中国側にはわずかな防空能力しかなかったので、日本軍はほしいままに攻撃できた。
 この作戦を主導したのは海軍参謀長の井上成美(しげよし)中将である。井上は「海軍リベラル派」の人物として、ともすれば「反戦大将」の面が強調されるが、重慶爆撃においては一貫して積極派であった。
 中国軍ではソ連の飛行機と飛行士が実は活躍していた。1937年から1939年にかけて、ソ連は中国に対して、1000機の飛行機と2000人の飛行士、500人の軍事顧問を送り込み、大砲・高射砲そして石油などの軍需物資を供給していた。しかし、ソ連はドイツとの関係が緊張した1941年7月に派遣を中止して引き上げた。
 日本人は、その受けた東京大空襲のみを思い出しますが、実は空襲の点においても無差別・民間人殺傷を始めたのは日本軍であったのです。その意味で忘れることは許されません。
 私も一度だけ、武漢そして重慶に行ったことがあります。夏は40度を超す炎暑の土地です。重慶では真っ赤な色をした火鍋をすこしだけ食べました。ともかく辛いのなんの、口が火傷しそうなほどとんでもなく辛いのです。
 この本を読んで、日本人はドイツと違って、今なおきちんと戦争責任に向き合っていないことを痛感させられました。
 
(2009年1月刊。1800円+税)

格差とイデオロギー

カテゴリー:社会

著者 碓井 敏正、 出版 大月書店
 近年、格差は階層化とその固定にとどまらず、貧困階層の中に独特の社会意識を形成しているのではないか。高度成長の背景には、学歴獲得に代表される上昇志向が存在してきた。しかし、今、子どもの教育に関心を払わない「貧困の文化」が日本に生まれているのではないか。そうだとすると、階層化の問題は深刻である。
 格差の拡大が許されるのは、社会の中でもっとも恵まれない人々の生活を向上させる限りにおいてのみである。
 これは、哲学者ロールズの言葉だそうですが、まことに至言です。
 ワーキング・プアなど、社会的弱者は、生活の逼迫のため、他の人々に比べ、社会関係から疎外されやすい立場にある。そのため、その窮状は人々に知られにくく、その結果、余計に精神的に孤立する危険が高い。とりわけネットカフェ難民と呼ばれる若者たちは、社会関係の基点となる固定した住居を欠いているため、その危険性が高い。
 したがって、まず何より、住居の保障など、社会関係形成の基礎的条件を提供することである。
 「もやい」(湯浅誠事務局長)は、その活動を通じて、孤立した貧困者の社会的関係性を回復することが目的なのである。
 現代のあらゆる組織、コミュニティは、コミュニケーション機能をこれまで以上に求められている。格差の存在を知りながらも、日々の個人的満足を重視して、それを問題としないという日本人、厄介なのは、格差で割を食っているはずの下層の若者ほど、この種の感性が強いという事実がある。
 最近の若者は、世界に関して無知であることについてストレスを感じていない。それは、自分の知らないことは存在しないことにしているから。ちょうど、弱い動物がショックを受けて仮死状態になることによって心身の感度を下げ、外界のストレスをやり過ごすという生存戦略をとっているのに似ている。おそらく、現代の若者も、鈍感になるという戦略を無意識のうちに採用しているのだ。
 疎外感に支配された人間の行動は、格差の解決を目ざす社会運動には向かわずに、犯罪のような社会病理現象として現れる傾向がある。
 格差から生まれる社会的疎外感や剥奪感は、強盗や窃盗のような一般的な犯罪として表現されるだけではない。それは、生活など個人的なファクターに媒介されることによって、しばしば世間を驚かすような、特異な犯罪として自己表現する場合がある。
 人間は、とりあえず身近な可能性にすがろうとする。あまりにも自分とかけ離れた富裕層や、とりわけ能力のある人間を攻撃のターゲットにはしない。
 なーるほど、そうなんですね。
 人間は生物的存在であると同時に、社会的存在でもある。貧困の定義のなかに、社会的関係性の維持という条件を加えなければならない。
 ネットカフェに居住している日雇い派遣の労働者は、完全に分散し、孤立している。
 重要なことは、安定した職場環境を用意することである。労働は生活の手段であるが、同時に人と人を結びつける接点である。人は労働によって人格的に成長し、人との信頼関係や責任感を育むことができる。また、人は仕事を通して社会に貢献し、社会の一員としての自覚と誇りをもつことができる。職場は人間の本質である社会性を確認する重要な場なのである。労働は、生活の手段であるだけでなく、同時に人間の生きがいでもある。
 ところが、日雇い派遣労働では、職場での継続的な人間関係を構築することはできない。細切れの労働は、人間関係・社会関係をも細切れにする。期間を限られ、将来が保障されない労働形態は、人間にとってきわめて不自然で非人間的なあり方である。
 ヨーロッパでは、日本と違って大学の授業料などの学費はすべて無料である。ヨーロッパの学生が在学中に学費に苦しむことは基本的にない。
 金持ち日本の大学生のあまりに高すぎる学費は、あまりに低い文教予算によります。不要不急の港や橋や道路、そして新幹線などにばかり大金をつぎこんでいる自民党政治は、日本人の持っている大切なところを基礎レベルでこわし続けているとしか思えません。ところが、そんな政府が若者に愛国心教育を押し付けようとするのです。まったく世の中、おかしなことだらけ、ですね。 
(2009年2月刊。1600円+税)

福岡県弁護士会 〒810-0044 福岡市中央区六本松4丁目2番5号 TEL:092-741-6416

Copyright©2011-2025 FukuokakenBengoshikai. All rights reserved.