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2008年5月 の投稿

江戸のなりたち

カテゴリー:日本史(江戸)

著者:追川吉生、出版社:新泉社
 都心の再開発をきっかけとして、江戸考古学がスタートした。はじめは大名屋敷の調査・研究が中心的なテーマだったが、そのうちに直参旗本の武家屋敷や墓地、上・下水道など、多様な遺跡が発掘されていった。
 JR御茶ノ水駅の南側一帯、神田駿河台は、日比谷入江に埋め立てるために切り崩された神田山のなごり。家康が死んだあと、江戸に戻った駿河衆(駿府城に付きしたがっていた旗本)が暮らしたことから、駿河台と呼ばれた。旗本の多く住む武家地だった。
 旗本は、もともと戦(いくさ)に際して、主君の旗を守る武士団のこと。御目見以下の御家人とは区別される。目安としては、200俵から1万石程をもらう。その旗本屋敷から、内職として和傘づくりをしていた証拠が出てきた。
 そして、泥面子(どろめんこ)という土製の玩具が8000点も出土した。
 土蔵とともに、地下室もつくられていたことが発掘によって証明されています。江戸の火災の多さからのことです。
 江戸時代は肉食しなかったと思われていますが、獣骨が山のように出てきて、そのイメージをくつがえしました。想像以上に江戸時代の人々は肉食していたのです。
 お墓も発掘しています。3歳で死んだ子どものカメ棺には、副葬品が34点も納められていました。たとえば、羽子板が8枚も入っていました。そのほかには、鶏や猿の人形や、三味線でした。
 桜のソメイヨシノで有名な染井には、地下室がありました。江戸時代の末期に、イギリス人のフォーチュンが、ここを訪れています。フォーチュンは、世界中のどこへ行っても、こんなに大規模に売り物の植物を栽培しているのを見たことがないと報告しています。その染井の植木屋が地下室もろとも発掘されているのです。
 写真と図版によって、江戸時代が現代の私たちの目前に、まざまざとよみがえらせてくれる貴重な本です。
(2007年11月刊。1800円+税)

おたすけ鍼(ばり)

カテゴリー:日本史(江戸)

著者:山本一力、出版社:朝日新聞社
 江戸を舞台とする山本一力ワールドは、いつ読んでも、読む人の心をほんわか、あっためてくれます。いいですよね。この感触が・・・。現代日本人が忘れ去った、ほんわか、ふんわりとした心地良いあたたかさです。
 オビに書かれているキャッチ・フレーズを紹介します。
 江戸の人情と心意気、「一力節」が冴えわたる!鍼(はり)一本、灸ひとつ、人助け、世直しいたします。「ツボ師」の異名を持つ気骨の鍼灸師、染谷(せんこく)と剛直の大商人、野島屋仁左衛門との交情を軸に描く痛快長編時代小説。
 まさしく、このオビのとおりなのです。まあ、私に騙されたと思って読んでみてください。最近、身体の節々が何かしら痛むな、ちょっと疲れてるな、そう思ったときに読む本として、おすすめします。きっと、ハリ・灸でも打ってもらおうかな、という気になることでしょう。
 実は、私の長男がまさに、この鍼灸師を目ざしているのです。いろんな経過を経て、ようやく鍼灸師として一人立ちしようとしている彼に対して、私は心よりエールを送りたいと思っています。親のようにはなりたくない。しかし、親のようであってほしい。この相克を、彼なりに乗りこえて鍼灸師を目ざしているのです。
 ひとは、だれしもが、おのれの身体をおのれが治す、生まれながらの力を秘めている。鍼灸や薬は、眠っているその力を、呼び覚ますための助けにすぎない。
 なーるほど、きっと、そういうことなのでしょうね。でも、なかなか、凡人はそのことを自覚できませんよね。
(2008年1月刊。1500円+税)

私はこうして受付からCEOになった

カテゴリー:アメリカ

著者:カーリー・フィオリーナ、出版社:ダイヤモンド社
 アメリカ屈指の大会社の社長(CEO)にまでなった女性の語る自叙伝です。それなりに、読みごたえがあり、教訓にみちています。アメリカでは、恐らく日本でも同じことでしょうが、大会社のなかで勝ち抜くのは大変のようです。
 スタンフォード大学では、フランス語でカミュの『異邦人』を読んだ。少し荷が重すぎた。ヘーゲルの弁証法も学んだ。これは、ビジネスでも応用している。
 UCLAのロースクールに入学して、一日目で選択を誤ったことに気がついた。過去のことばかりで、新しいことが何もない。そう感じられた。しかも、正義ではなく、判例法で決められたことに従うだけ。まったく魅力を感じなかった。毎日、頭痛がして、眠れない夜が何ヶ月も続いた。父が様子を見に来たとき、法律が嫌いだと言ってやった。
 いやあ、こんなふうに言われると弱ってしまいます。過去をふまえてこそ、明日に生きる解釈もできると思うのですが・・・。
 ある朝、シャワーを浴びながら、頭痛の原因に思い至った。そのとき私は22歳だった。両親を喜ばせるための人生はありえないことに気がついたのだ。私の人生は、私のもの。やりたいことをやらなければ。そう気がついた瞬間、私の頭痛はウソのように消え去った。
 たしかに、私の人生は私のもの。その点はまったく同感です。一度しかない人生ですからね。やはり、親の束縛はごめんです。
 怒ったときには、低い声で話す。大声は出さない。静かに言う。最後までやり抜く覚悟がないなら、人を脅かしてはいけない。こちらが絶対に正しいという確信がないなら、そして本当に重要な問題でないなら、脅してはいけない。
 このまま黙って罵られていたら、女がすたる。こう考えて、バーンと両手で机を叩いた。「黙んなさい。この、すっとこどっこい。黙って聞いていれば、いい気になって。よくも、私をタコ呼ばわりしたわね。ふざけるんじゃないわよ」
 いやあ、激しいですね。見上げたものです。
 上手に交渉をすすめるためには、相手を知ること、相手に敬意を払うことが欠かせない。相手が大切にすることも自分も大切にし、時間をかけて信頼を得る。ビジネスの世界では、人は信頼と尊敬で結ばれている。信頼と尊敬だけが交渉を成功させ、対立する人同士を結びつける役割を果たせる。
 ひゃあ、こんなことを成功したアメリカのビジネス・ウーマンが言うのですね・・・。トップ・ビジネスの世界では、人情みたいなものを全部切り捨てるのかと思っていましたが、違うのですね。
 部下が何かしらの成果を上げたとき、ことの大小を問わず、認めて評価した。これが自分にできる最善のことだった。なーるほど、ですね。
 自分をビジネスウーマンだと思ったことはない。私はビジネスパーソンだ。たまたま女だというだけ。いつも、こう答えた。なるほど、なるほど。そうですよね。
 有名人というのは、公共物である。血の通った人間ではなく、公園の銅像のようなものだ。じろじろ眺められ、批判され、風刺の対象にもなる。スターの誕生は喝采で迎えられるが、転落にも同じくらいの喝采が送られる。
 ヒューレット・パッカードのCEOになる前、2つの心理テストを受けさせられた。一つは、ウェブ上で質問に答える。3時間かかった。もう一つは、2人の心理学専門家との面接で、こちらも2時間以上かかった。
 うひょー、社長を選ぶのに、アメリカでは心理テストなんてものをやるのですか、ちっとも知りませんでした。日本では、とても考えられないことだと思いますが・・・。
 リーダーが求められる資質は3つ。第一は、人格。率直で勇気があること。第二は、能力。自分の強みを知り、それを生かせること。足りないところを知り、他人に任せたり、学習したりできること。第三は、協調性。いつ助けが必要かを見越して手を差しのべること。広い人脈をもち、すすんで情報の共有ができること。
 誰でも、いつでも、どこでも、リーダーになることは可能だが、言動が終始一貫していなければならない。
 会社を改革するには、一人ひとりがこれまでと違う状況に身を置いて考えることが必要だ。自分の地位を守ろうとしたら、共通の立場に立つことはできない。
 リーダーは生まれながらにしてリーダーなのではなく、つくられるもの。リーダーシップは、放っておいても自然に身につくものではなく、教え、育てるものだ。
 さすが、ビジネスと経営に苦労した人の言葉であると感心しました。資本家、恐るべし。
(2007年11月刊。1600円+税)

カカトアルキのなぞ

カテゴリー:生物

著者:東城幸治、出版社:新日本出版社
 2002年4月、昆虫類に新たな目(もく)が追加されました。
 昆虫類は、地球上の全生物種の半数を占めるほど種類が多いのですが、新目(もく)の発見となると、88年ぶりなので注目を集めました。
 昆虫類は、名前がつけられているものだけでも100万種ある。昆虫が誕生したのは4億年以上も昔のこと。
 新しい目であるカカトアルキを発見したのはドイツの大学院生ゾンプロ。4500万年前のバルト琥珀に閉じこめられている1体の昆虫化石を見て、知っているナナフシと違うことに気がついたのです。その次の問題は、生きた虫がいるのかどうか、です。
 アフリカに似たような昆虫がいるのを思い出し、探索の旅に出ます。そして、ついに南アフリカで発見しました。昆虫は、一般に足先の爪を地面につけて歩くのが基本だが、この昆虫は歩くときに全6脚とも、その足先をもち上げて歩く。つまり、人間でいうと、つま先をもちあげて、カカトだけで歩くようなもの。そこからカカトアルキと命名された。カカトアルキは肉食性の昆虫。たいへんな大食漢の昆虫だ。その姿・形は、バッタとカマキリに似ている。写真と図解で説明されています。
 カカトアルキの交尾時間は平均で3昼夜も続く。ペア状態を維持することで、メスにほかのオスと交尾させないというオス側の戦略と考えられている。ところが、長い時間の交尾が終わったあと、お腹をすかせたメスがカマキリのように一回り小さな体のオスを食べてしまうこともある。ひゃあ、まるでカマキリと同じです。オスって、哀れな存在なんですよね、トホホ・・・。
 カカトアルキは、獲物を素早く確実に捕らえるための俊敏な動きを保障するもの。足先は、キャッチャー・ミットのように大きくなっている。
 大自然の不思議です。種の多様性を保持することの必要性を実感させる本です。
(2007年11月刊。1400円+税)

我らが隣人の犯罪

カテゴリー:社会

著者:宮部みゆき、出版社:新潮社
 すごいですね、さすが宮部みゆきです。
 最初期の作品群だそうです。いやあ、まいりましたね、これが宮部みゆきの駆け出しのころの小説だなんて・・・。すごいのです。いえ、すご過ぎます。
 推理小説なので、その展開をここで紹介するわけにはいきません。なーるほど、なるほどと、ひたすら感心するばかりです。
 タウンハウスの隣人が愛人稼業の女性。ところがキャンキャンと、うるさく吠えるスピッツを飼っている。やがて、そのスピッツを黙って始末してしまおうということになり完全犯罪を企みます。そして、そこで起きたことは・・・。予期せぬ結末です。
 次の「この子誰の子」も、すごいです。特別養子という、誰が父親なのか分からないシステムを破る、そんな話です。その着想と展開がすごいですね。
 読み終わってみると、なーるほど、と思わせる顛末を不自然さを感じさせずに、次はどうなるのだろうかと、ぐいぐいひっぱっていく著者の筆力には感嘆するばかりです。
 ジャーマンアイリスの爽やかな青紫色の花が次々に咲いています。茎がすっくと伸びて華麗な花を次々に咲かせて目を大いに楽しませてくれます。隣に純白の花も可憐に咲いていて、お互い同士で引き立っています。福岡県弁護士会館の通用口のそばに咲いているジャーマンアイリスは私が持ち込んだものですので、一度みてやってください。
 黄色のアイリスが気品にみちみちて咲いています。その隣には小さな紫色のシラーの花がここぞとばかり美しさを誇っています。ただし、もうすぐしたら、エンゼルストランペットの日陰になってしまうのです。
(2008年1月刊。1400円+税)

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