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2007年5月 の投稿

蒸発

カテゴリー:社会

著者:夏樹静子、出版社:光文社文庫
 著者はいま西日本新聞に随想を連載しておられます。大変な腰痛の苦しみを体験したが、それは心因的なものだった。心のもち方ひとつで人間は病気になり、健康でもあるということを体験を通じて学んだ、という話です。なーるほど、ですよね。病は気から、というのは本当なんですね。
 この本は、この文庫本としては発刊されたばかりなのですが、初出はなんと今から34年も前のことです(1973年3月)。道理で、出てくる話がすごく古いのです。昭和 46年5月の朝刊で日本人記者がベトナムで殉職という記事が出てくるので、びっくりしました。私は、そのころまだ東京の大学生ですし、ベトナム戦争がいつ終わるとも知れず、続いていたころのことです。
 この本を読みはじめると、まず飛行機に乗ったはずの女性乗客が消えてしまったという展開にぶつかり、おいおい、どうして、という感じで引きずりこまれてしまいます。推理小説ですので、謎ときはもちろんしません。ただ、内部に手引きする人がいたということだけ申し上げておきます。私は、他の展開はともかくこの謎ときを一刻も早く知りたいと、必死で頁をめくってしまいました。
 関門トンネル内で起きた男性の事故死が、実は殺人事件ではないのかという推理があります。そのとき、松本清張が「点と線」でつかったような時刻表を駆使した推理がなされます。時刻表マニア(今いうオタク族)でなければ、とても考えつかないような話です。
 今から30年以上も前の福岡を舞台にする話なので、いささかの異和感はありますが、そこで語られている男女の愛のもつれはきわめて今日的でもあり、決して古臭いという気はしません。さすが日本ミステリー文学大賞を受賞しただけのことはあります。
 私も著者の講演をお聞きしたことがありますが、気品にみちたお人柄で、作品の一部にあるドロドロした人間の醜さをみじんも感じさせられず、そのギャップの大きさに正直とまどってしまいました。文章力や構成力がすごいわけですが、取材のほうも、かなり丹念に尽くされているのだろうなと、同じモノカキ志向の私はついつい舞台裏のほうに気がいってしまいました。

野生のカメラ

カテゴリー:生物

著者:吉野 信、出版社:光人社
 オビに動物写真家の世界冒険撮影記と書かれていますが、まさに納得のキャッチ・コピーです。すごい迫力の動物写真のオンパレードです。これで1900円とは、実に安い。
 クマが出没する地域でキャンプするときには、食料は車の中か、特別にもうけられた食料貯蔵庫に入れておかねばならない。そんな規則は分かっていたはずなのに、友との久しぶりの再会を祝って、夜遅くまで語りあってマグカップを机の上に置いたままテントに入りこんで寝てしまった。そこへ夜中、グリズリーが登場した。危機一髪。その友というのは、1996年にシベリアでヒグマに襲われて亡くなった星野道夫氏のこと。いやあ、いつも危険と隣りあわせだったんですね。
 トラの写真をとりに行ったとき、一番近づいたのはわずか3メートル。このとき、著者はゾウに乗っていました。オープンのサファリカーに乗ったときには5〜6メートル。いずれも襲われる心配はしなかったということです。トラがジープのすぐ横を通り過ぎながら、軽く口を開けて、「やあ」といわんばかりの顔で著者に挨拶していったこともあるそうです。えーっ、そうなんですかー・・・。でも、やっぱりトラって怖いですよね。
 この本には、ジープの屋根の上にチーターが乗っかっていて、著者がその脇に頭を出している写真までもあります。こうなると、何メートルどころではありません。何センチという近接した距離です。チーターがひょいと爪を立てたら一生の終わりです。
 ネコ科の動物は基本的に水を嫌う性質があるが、トラは例外で、暑い夏の日などには好んで水に入る。なるほど、それででしょう。インドでベンガルタイガーが水浴びしている瞬間をとらえた迫力満点の写真もあります。
 アフリカでもっとも恐ろしい動物は、なんとアフリカスイギュウだというのです。驚きました。ライオンやトラ、そしてワニではないんです。ホントなのかなあ、思わずつぶやいてしまいました。
 好きなことをやっていて本人はとても幸せだと思うのですが、臆病な私なんかにはとても真似できない話のオンパレードです。でも、このような冒険写真家がいてくれるおかげで、野生動物の生態が茶の間で居ながらにして楽しめるのですから、感謝、感謝。大いに感謝しています。

全国学力テスト、参加しません

カテゴリー:社会

著者:犬山市教育委員会、出版社:明石書店
 いやあ、実に画期的な本です。一地方の教育委員会が政府(文科省)の方針に反抗して全国学力テストに参加せず、その理由を堂々と明らかにして本を出したというのです。その大いなる勇気に対して、私は心から賞賛の拍手を送ります。
 全国学力テストは先日実施されてしまいました。日本の子どもたちの学力レベルを正確に把握するためには抽出調査のほうがより正確に把握できるとされています。しかし、文科省はあくまで記名式の悉皆(しっかい)調査にこだわるのです。それは一体なぜなのでしょうか。
 今回の全国学力テストの本当の目的は、公立の小中学校にPDCAサイクルを導入することにある。Pとは、プラン(企画、立案)、Dはdo(実施)、CはCheck(検証・評価)、AはAction(実行、改善)のこと。最後の改善を次の計画に結びつけ、継続的な業務改善を図るためのマネジメント手法である。
 しかも、全国学力テストの際に学習状況調査もあわせて実施された。そこでは、家庭における私生活についても質問されている。まさに個人のプライバシーにまで踏みこむものである。
 日本のすべての公立小・中学校を30人学級とするに必要な人件費は、9600億円だと試算されている。日本の軍事費支出は世界第二位と言われていますが、1兆円にみたないこの支出こそ、日本民族の将来を保障することにつながる価値ある人件費だ。私はそう思います。ここはドーンと思い切って支出すべきでしょう。
 犬山市では、30人学級を実施するため市独自に講師を採用するなどして、全国に先駆けて学習環境の整備につとめてきた。小学校では34人以下の学級が9割を占めている。中学校においては、56学級のうち42学級34人以下学級がつくられた。それなのに全国学力テストに参加することになったら、これまで豊かな人間関係のなかで人格形成と学力保障につとめてきた犬山の教育を否定することになる。だから参加しないことを決めた。すごーい。まさしく文科省への挑戦状です。
 犬山では習熟度別指導は原則としてとりいれられていない。考え方や習熟度が違う子どもが交流するなかで、豊かな学習が生まれる。習熟度別指導だけでは、学びあい、支えあうということが出来ない。
 犬山市の教育に関するスローガンは次のとおり。
 生徒であったとしても、また教師であったとしても、通いたい学校を目ざす。
 いいですね、このスローガン。朝起きて、さあ今日も学校に行こう。行って友だちと話そう、先生に教わろうという気分だったら最高ですよね。現実には、毎日なかなかそうはならないでしょうが・・・。
 ずいぶん骨のある教育委員会があることを知って、うれしくなりました。安倍首相に読ませたい本です。

もう戦争はさせない

カテゴリー:アメリカ

著者:メディア・ベンジャミン、出版社:文理閣
 ブッシュを追いつめるアメリカ女性たち、というサブタイトルのついた本です。アメリカの「平和を求める女性たち」の運動は、コードピンクとも呼ばれています。
 イラク戦争に送られて戦死した息子をもつシンディー・シーハンの次のような訴えが紹介されています。ブッシュ大統領がハード・ワーク(つらい仕事)と言ったことを受けて、シーハンは次のように言ったのです。
 あなたは、テレビで見ているし、毎日、戦死者と負傷者の報告を受けているから戦争のつらさはよく知っていると言ったわね。でも、本当のつらい仕事がどのようなものか、分かってなんかいないわ。つらい仕事というのはね、かけがえのない自慢の勇敢な息子が、現実には何の根拠を今も持っていない戦争に連れ去られてしまって、二度と戻ってはこないことを思い知らされることよ。・・・。
 でも、なかでも一番つらい仕事はなんだか分かるかしら。それは、家族が何世代にもわたって忠誠を誓い命がけで戦ってきた国家の指導者が、ウソをついて国民を騙していたという事実を受けとめなければならないことよ。
 次は、自爆テロによって一人娘を失ったイスラエルの平和活動家(女性)のロンドンでのスピーチの一部です。
 世界のすべての人々は、はっきりした二つのグループに分かれています。平和愛好グループと戦争屋グループとに。いま、地上では悪の王国が支配しています。指導者と名乗る人たちが、民主的手段をもって、神の名において、国家の利益の名であれ、あるいは名誉や勇気の名においてであれ、殺し破壊する権利と好むままに卑劣と不正をおこなう権利、そして若者を殺人屋にしたてる権利を得てきました。
 私の娘は自分を殺した若者とならんで眠っています。騙された二人が眠っています。少女は両親と国が自分を守ってくれているから、良い子には誰もひどいことをする人はいないから、安全だと信じて町を横切ってダンス教室に行こうとしたのです。
 パレスチナの若者は、自爆テロでは事態を何も変えることはできず、天国に行くこともできないのに、騙されて行けると信じていたのです。
 うーん、そうなんですよね。若者を騙し、その未来を奪う大人たちの責任は重いですよね。
 ブッシュ大統領は記者会見が嫌いだ。強いられなければ開かない。彼は、記者の座席表をあらかじめもらっていて、それを見ながら、お気に入りの記者を選んで質問させている。
 記者たちは、大統領選挙の遊説中に取りこまれ、ごほうびとしてホワイトハウス詰め記者となっていく。選挙中に点数を稼いで、人脈をつくり、親しくなっておく。だから、相手の言うことに挑戦するような質問を避け、初めから自己規制をしている。
 アメリカでは、黒人の子ども100万人が貧困生活をすごし、黒人の成人男女100万人が刑務所にいる。毎晩25万人をこえる退役軍人がホームレスとして路上に寝ている。
 いやあ、なんど読んでもすごく悲惨な現実です。こんなアメリカを日本が見本とすることのないようにしたいものです。
 アメリカでの女性運動の前進に大いに期待します。日本でも負けないように取り組まないと、アメリカみたいに可愛い息子たちを戦死させることになってしまいます。

サラ金崩壊

カテゴリー:社会

著者:井手壮平、出版社:早川書房
 グレーゾーン金利撤廃をめぐる300日戦争というサブ・タイトルがついています。出資法の上限金利(年29.2%)と利息制限法の上限金利(最高年20%)のあいだのグレーゾーンがついに撤廃されました。この本は、そこに至るまでの政府・財界の内幕を暴いています。この間の経過を記録した貴重な本です。
 すべては2006年1月13日の最高裁判決に始まった。最高裁は、ただ「原判決を破棄する。本件を広島高裁に差し戻す」と言っただけ。大勢の傍聴人がいるわけでもなく、勝訴と書いた紙をもって法廷から駆け出してくる弁護士もいないし、うれし涙を流す支援の人もいない。しかし、表面上の動きとはちがって、この判決のもつ意味は限りなく重かった。
 最高裁は、一日でも支払いが遅れたら一括して支払わなければならいという条項に着目した。このような恐怖心の下で支払わされている限り、任意に支払っているとは言えないとしたのだ。これは、まさに画期的な判決です。弁護士生活30年以上になる私なんか、この一括請求条項を当然視していました。どんなひどい条項でも、何度も、また何年も見ていると、いつのまにか問題のない条項だと錯覚してしまうわけです。すみません。
 サラ金会社は株式市場に上場し、一流企業の条件とも言える経団連への入会も認められ、テレビCMでお茶の間に流れ、広く社会に浸透し、すっかり世の中に受け入れられていたように思われてきた。しかし、今、それが根本からひっくり返ろうとしている。
 サラ金会社のオーナーは、2005年度世界長者番付のうちの日本人上位6人のうち3人を占めている。アイフルの福田吉孝社長、武富士の武井保雄前会長、アコムの木下恭輔会長。2006年度には、順位を少し下げたが、それでもソフトバンクの孫正義や任天堂の山内社長よりは上位にランクしている。
 サラ金がもうかっている。そこに大銀行が目をつけ、次々に提携がすすんだ。
 三井住友銀行はプロミスに20%、三菱東京UFJ銀行はアコムに15%、それぞれグループで出資し、役員も送りこんでいる。
 銀行もサラ金も、高利貸しの悪どさでは似たり寄ったりなんですよね。ただ、銀行のほうが少しだけ上品ぶっているだけ。サラ金は社員までワルぶっているだけ。そんな違いじゃないでしょうか・・・。
 それにしても、アイフルそしてアコム、三洋信販と続いた金融庁による全国一斉、全店の営業停止処分には私も驚きました。やっていることへの処分という点では当然のことなんですが、金融庁がそこまで踏み切った点に驚いたというわけです。
 この本によると、おかげでチワワの仔犬が一匹60万円していたのが、20万円以下にまで下がるという影響があったそうです。チワワにとっては、とんだ災難でした。
 この金利引き下げでは小泉チルドレンが活躍しました。小泉改革は日本をダメにしたと今でも私は思っていますが、その小泉エセ改革ブームに乗っかって誕生した小泉チルドレンたちは、自民党ボス議員に反抗しなければ自分たちの存在意義を訴えられなかったわけです。世の中、何がプラスになり、マイナスになるか分からないということですね。 福岡そして九州に関わりのある自民党の太田誠一とか保岡興治などは、サラ金擁護で身体をはっていたわけですが、この分野では青二才の小泉チルドレンにあえなく敗退してしまいました。いい気味です。
 保岡議員が、禁酒法によってアル・カポネは勢力を拡大させた、だから、金利を引き下げてはいけないと訴えたという話は、まったく時代錯誤もはなはだしいですね。顔を洗って出直してほしいものです。
 太田誠一議員も、自民党内の会議のときに、「この会議のなかに共産党がいる」と叫んだそうです。やめてほしいですよね。正論を言う人に対して、おまえは共産党かと叫んで糾弾するというのは。それって、まるで戦前の軍国主義日本ではありませんか。民主主義というのは、いろんな思想信条の人々がいて、お互いに尊重しあうってことなんですよ。
 上限金利引き下げに対して、アメリカから大変な外圧がかかっていたということも紹介されています。もちろん、アメリカは金利を引き下げるなと要求したのです。日本のサラ金に外資が出資して、サラ金のもうけの一部を外資が吸い上げ、大金をアメリカへ持ち去っていってます。
 もうひとつ、サラ金とセイホ(生命保険会社)の密接な関係も暴かれています。サラ金は団体信用生命保険に加入していますが、これは結局、サラ金のもうけの一部を保険料ということで生命保険会社が吸い上げているということです。というのも、サラ金会社は、生命保険会社から巨額の融資を受けているからです。たとえば、アコムは明治安田生命から395億円をかりているのです。2005年度にサラ金会社17社が受けとった保険金は302億円。支払った保険料は376億円。このようにサラ金とセイホは、もちつもたれつなのです。
 大手サラ金は生き残ると思いますが、中小零細サラ金業者の存続はきびしいと私も思います。そこで、またぞろヤミ金が横行する危険はたしかにあります。でも、ヤミ金は昔からありましたが、結局、違法金融は覚せい剤と同じで、一つ一つ摘発していくしかないのではないでしょうか。いま、私はそう考えています。

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