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2007年4月 の投稿

空飛ぶタイヤ

カテゴリー:社会

著者:池井戸 潤、出版社:実業之日本社
 欠陥車のリコール隠しの罪と罰をテーマとした面白い小説でした。なかなか読ませます。たいしたものです。私も、いつかはこんな小説を書いてみたいと思ったものでした。次はどうなるのだろうと、ぐいぐい魅きつけられてしまうのです。見習いたい筆力です。
 小さな運送会社を経営している。ある日、従業員がトラックを運転していてブレーキを踏んだ拍子にタイヤが飛ぶんです。歩道を歩いていた人にぶつかって即死させてしまった。なんということ・・・。
 トラックの整備不良が、まず疑われた。しかし、整備不良でないことに運送会社の社長は確信をもった。では、何が原因か?トラック自体の欠陥ではないのか。でも、どうやってそれを立証できるのか。
 2004年6月、公益通報者保護法が成立し、内部告発した社員は保護されることになった。しかし、現実は、そう甘いものではない。次のようなセリフが登場します。
 内部告発したから解雇できたのは既に過去の話だ。解雇するのなら別な理由がいる。だから、本人にしてみれば許容できそうもないところへ異動させるんだ。必ず戦意喪失して退職を決意するような仕事に移すんだ。ただし、駐車場の整理係や受付などというあからさまなものはダメ。降格も許されない。もっとさりげないところへ、だ。
 退職の理由は、あくまで自己都合でなければいけない。
 なーるほど、ですね。この本でも、会社の「欠陥」隠しは徹底していて、警察も容易に、その尻尾をつかむことができませんでした。でも、そのとき勇気ある内部告発社員が登場してきたのです。逆にいうと、そんな勇気ある社員が一人でもいなかったら、真相は闇の中に隠されたまま、被害者となった人々も、ユーザーもみんな泣き寝入りせざるをえなかったというわけです。背筋がゾクゾクしてきますよね。いやな世の中です。まだまだ会社第一と考える会社人間が圧倒的なんでしょうね。

子犬のカイがやって来て

カテゴリー:生物

著者:清野恵理子、出版社:幻冬舎
 犬好きの人にはこたえられない本です。スソアキコの絵もまたいいんですよ。ワンちゃんが実に愛らしく生き生きしています。まさに、犬に笑い、犬に泣く本なのです。
 イギリスからラブラドールの子犬が届きます。ひょろっとしていて、お世辞にも可愛いと言えない妙なおっさん顔。目は小さい。たちまち寝息をたてる天使のようなカイ。
 ところが、初対面のカイが殊勝におとなしくしていたのは、長時間の空旅による疲労のせい。ぐっすり眠って、お腹いっぱい食べて元気を取り戻したカイのパワーは、予想をはるかに上まわった。
 まあ、その腕白ぶりをこれでもか、これでもかと紹介していくことになるわけですが、それがまた犬好きにはたまらないんですよね。たとえば。防犯システムの特別なリモコンを見つけてガシガシかじったばかりに、パトカー6台が出動する騒動を起こしてしまう。
 やんちゃ盛りの犬たちが日々繰り広げる悪戯に、ついついご近所に聞こえそうな大きな声も出す。そのたびにカイたちは、「大変なことをしてしまって、本当に申し訳ない」とばかりに、がっくりと首をうなだれ、殊勝な様子で尻尾を落とす。それでも、声を張り上げる飼い主の興奮がおさまるのを、しばらく我慢して待ちさえすれば、何事もなかったように甘えられることをちゃんと知っている。上目づかいで見つめられれば、それまですごい剣幕で叱っていた飼い主も、ついほっぺたが緩む。そうなると、カイたちの思うつぼ。あっという間に、ターボエンジン全開の腕白小僧に逆戻りしてしまう。
 犬も人間の幼児のように、特定の縫いぐるみを気にいることがあるというのに驚きました。熊の縫いぐるみに執心したワンちゃんがいたのです。
 著者は八ヶ岳のふもとに別荘をもち、冬と夏などを犬と一緒に過ごす。犬たちは生まれつき人間を友だちと思っているふしがあり、ためらうことなく体当たりで甘えてくる。
 犬種による性格の違いはたしかにある。柴犬やハスキーはシャイで、少しだけ距離をとってこちらを観察している。時折、気が向けば遠慮がちにやって来て、人間に背中を向けてお座りし、なでてと健気な様子で催促する。眠るのは、リビングのソファーや部屋の隅においた座布団の上で、あくまでも慎ましさを忘れない。
 しかし、「待て」をさせられていたレトリバー犬たちは、「よし」の号令で、ベッドに飛び乗ってくる。暗黙のポジション決めがなされているらしく、それぞれの定位置に落ち着くと、安心したように寝息をたてて眠る。掛け布団の上だから、40キロの体重の犬たちに囲まれて眠ると、からだ中に布を巻かれたミイラの状態で、寝苦しいことこの上ない。
 犬たちは言葉こそ話はしないが、目や尻尾、からだ全部をつかって饒舌に思いのたけを私たち人間に伝えようとする。なかでも目がすごい。私たちを信じきった無垢なまなざしに勝てる術はなく、いつだって勝利をおさめるのは、彼ら犬たちである。
 うーん、そうなんですよね。福岡の斉藤副会長も3歳のラブラドールを飼っていて、毎朝、早朝から海岸を散歩させているそうです。いいですよね。うらやましいです。

似せてだます擬態の不思議な世界

カテゴリー:未分類

著者:藤原晴彦、出版社:化学同人
 捕食されるための擬態が存在する。ええーっ、何のこと・・・?擬態って、捕食されないか、逆に捕食するためのものでは。ところが、もう一つ、別の擬態があったんです。取りの消化管に寄生する吸虫です。
 鳥が排泄すると、その卵は外に出る。岸辺に住む巻き貝がその卵を摂取する。巻き貝の中で吸虫の卵はかえり、巻貝の中で発生し、最終的には巻貝の触覚の中に入りこむ。そして巻貝の触角の中で吸虫は周期的に動きまわり、巻貝の触角はまるで昆虫の幼虫のように脈動する。鳥たちは、それを見て、思わず巻貝の触角を、昆虫の幼虫と思って食べたいという欲求にかられる。吸虫は、鳥に自分を食べさせるために昆虫の幼虫に擬態して鳥をおびき寄せているのだ。鳥に首尾よく食べられた吸虫は、再び鳥の消化管に寄生する。
 この本のユニークなところは、この擬態について、そのメカニズムを分子生物学からアプローチしたところです。擬態を制御している遺伝子の究明をすすめているのです。
 ハナカマキリが、なぜあれほど精巧にランの花に似せられるのか?
 無毒のチョウがまったく異なる種の有毒のチョウに、なぜ似せることができるのか?
 これを分子生物学レベルで追究しようとするのです。でも、今のところ、何の手がかりもありません。それにしても、ホントに不思議ですよね。
 広葉樹の葉に似せたコノハムシの写真などを見ているうちに、自然の偉大な神秘の前には人間社会の小さな秘密なんて、まさしくどうでもよくなります。
 「それで、どうして、ここまで似せることができるのでしょう?」
 「ええ、それはやはり大自然の神秘としか言いようがありません」
 特定の標的遺伝子の変異というよりは、遺伝子ネットワークの組合せの変化が適応進化の本質ではないか。擬態のメカニズムを解明しようとすると、まさに自然の不思議の迷路のなかにさまようことになります。でも、そんな迷路でまようのも楽しいひとときです。
 実に不思議な世界がたっぷりあることが分かります。

日本人になった祖先たち

カテゴリー:未分類

著者:篠田謙一、出版社:NHKブックス
 世界でも珍しいほど日本は下戸が多い。えーっ、そうなんですかー・・・。ちっとも知りませんでした。たしかに、飲めない人は私の周囲にもたくさんいますが、それが世界でも珍しいことと言われると、なんだかピンときません。
 DNA分析と化石の研究から、現代人は20万年から10万年前のアフリカに誕生したと考えられている。人類はアフリカで誕生したんです。ですから、もっとアフリカに注目しましょう。人類、みな兄弟、というのは単なるスローガンではなく、本当のことだったのです。
 現在60億人という巨大な人口をもつ現代人も、もとはごく少数の集団から出発した。それは恐らく子どもや老人をふくめ2万人ほどの集団だった。
 最新のDNA研究によると、最初にアフリカを旅立った人数は150人ほどだった。ええーっ、そんなに少ないグループが世界各地へ展開していったんですかー・・・。
 10万年前にアフリカを出て、中近東に6万年前にたどりつき、インドネシアあたりに5万年前、日本列島には4万〜3万年前に来たというのです。アメリカ半島へは、ベーリング海をわたり、アラスカから入りますので、ようやく1万5000年前に入ったのです。ここでもアメリカは新参者です。
 ハワイは、人類が世界へ拡散して最後にたどり付いた地域。ハワイには世界中から人が集まり、現在のハワイには、実に多様な集団に由来する人々が生活している。ひぇーっ、そうなんですかー・・・。
 日本人の骨格は歴史上、2回、大きく変化する。1回目は縄文から弥生時代にかけて、2回目は江戸から明治にかけて。いずれも日本人の生活様式が大きく変わった時期。一回目は狩猟採集社会から農耕社会への移行、2回目は西洋文明が受容された。
 日本人は、旧石器時代人につながる東南アジア系の縄文人が居住していた日本列島に、東北アジア系の弥生人が流入して徐々に混血して現在にいたっているというのが主流の学説。
 日本人の先祖集団の成立に際しては、大陸の広い地域の人々が関与したために、日本人のもつDNAは東アジアの広い地域の人々に共有されている。
 なーるほど、日本人はやっぱり東アジアのなかの一員なんですね。やっぱり東アジアの平和共存が大切なわけです。お先祖様が同じだというんですからね。

人が人を裁くとき

カテゴリー:アメリカ

著者:ニルス・クリスティ、出版社:有信堂
 裁判員のための修復的司法入門というサブ・タイトルがついています。ノルウェーの学者による本です。ノルウェー事情も少し知ることができました。
 日本とノルウェーは似ている。日本の人口10万人あたりの囚人は60人。ノルウェーは69人。いずれも極めて低い。ヨーロッパは通常、人口10万人あたり100人前後で、ロシアで569人という多さ。アメリカは、それよりもっと多くて、なんと763人。アメリカの刑務所人口を増やし続ける犯罪政策は、ナチスのホロコーストに類似していると厳しく批判しています。
 ノルウェーでは、民事事件は、市町村における調停を経なければ裁判所に訴えることができないという調停前置主義がとられている。これは江戸時代の日本と同じですね。
 ノルウェーでは、市町村ごとに刑事調停委員会がつくられており、主として少年犯罪を対象とし、一般市民から選ばれた調停員が斡旋することにより、加害者と被害者とが面談し、双方の合意が成立すれば起訴しないという刑事調停委員会が機能している。
 アメリカでは囚人は210万人いる。このほか、保護観察や仮釈放など監視下にある人々が470万人いる。それを加えると680万人となり、これは10万人のうち2267人にもなる。これは人口の2.4%を占める。青壮年の男性(18〜44歳)に限って比率をみると、なんとその12人に1人が刑罰法令の監視下で生活している。
 ロシアは囚人が減っている。2003年1月の囚人は86万人であった。
 なぜ、アメリカでこのように爆発的に囚人が増えているのか。その原因の一つに、アメリカ中産階級の功利主義的な世論がある。
 アメリカが犯罪が増加しはじめたのは1975年ころから。
 アメリカでは、ここ15年間ほど、毎年1000人規模の刑務所が1000ヶ所ほど増設されている。それにともない、刑務所関連の建設・給食・警備などの刑務所依存産業が急成長し、それが囚人数増加への加力団体となっている。
 刑務所が民営化すると、刑務所の公共的機能よりも、事業収入が刑務所産業に対する事業評価の基準となる。できるだけ少ない人員、経費、設備で、できるだけ多くの囚人を収容し、それを効率的に管理することが刑務所産業の目標となる。囚人数の減少は経営を悪化させる。犯罪があるから刑務所があるのではなく、刑務所があるから囚人が増加する。判断基準となるのは、犯罪人を放任した場合の犯罪取締の費用と、それを刑務所に収容した場合の費用との比較なのである。犯罪は、もはや矯正の対象ではなく、戦いの対象となり、隔離すること自体が目標となっている。
 犯罪処罰手続は効率化され、刑罰量定表がつくられている。そこでは刑罰を緩和する事情は一切考慮されず、逆に犯罪状況はすべて刑罰を加重する事情として考慮される。
 アメリカには選挙権をなくした成人が390万人いて、そのうち140万人は黒人である。これは黒人男性の13%にあたる。彼ら貧困層は選挙権を行使できないため、政治に対する影響も行使することができない。
 アメリカでもイギリスでも、自らを、あるいは自分の党を、犯罪と戦うリーダーであると誇示するための激しい競争がある。通常、政治家や政党は、お互いにより厳しい手段を主張しあうのが政策になっている。ほかに残っている見せ場がほとんどないからである。犯罪との戦いが政治家の正当性を主張するのに不可欠となっている。
 アメリカは世界でもっとも富める国である。にもかかわらず、福祉の代わりに刑務所を用いる国である。たえず自由について語る国でありながら、世界最大の刑務所を有している国である。
 アメリカみたいな国に日本をしてはいけないとつくづく思います。悪いことをした連中はどんどん刑務所に入れてしまえばいいんだ。こういう考えを持つ国民は多いと思いますが、それはすごく危険です。だって、みんないずれ出てくるんですよ。お隣さんが社会への復讐心に燃えていたらどうしますか。やっぱり、いろんな人がいるわけなんですから、それなりに折りあいをつけて生きていくしかありません。
 わが家の庭のチューリップは終わりかけ、今はアイリスがたくさん咲いています。青紫と白がほどよく調和した心優しいアイリスのほか、元気溌剌な真っ黄色のアイリスも咲き出しました。ジャーマンアイリスもようやく咲きはじめました。青紫の気品のある花です。アイリスより一段と豪華な雰囲気です。福岡県弁護士会館の通用口のそばに咲いているのは、わが家の庭から持ってきたものです。今が見頃ですから、ぜひ見てやってくださいね。朝、自宅を出るときにはフェンスに咲くクレマチスに向かって、行ってきますと挨拶しています。赤紫色の花です。春はいろとりどりの花が咲いて、いい気分です。

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