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2007年2月 の投稿

会社とは何か

カテゴリー:社会

著者:日本経済新聞社、出版社:日本経済新聞社
 私は学生時代のちょっとしたアルバイト以外、会社で働いたことがありません。この本を読むと、つくづく会社に入らなくて良かったと思ってしまいました。人員削減、派閥抗争など、営利本位の企業という制約以上の悪弊が多くの会社にはあり過ぎるような気がします。もっと社会のための会社というのがあって良いように思うのですが、そんなことを言うと、現実の厳しさを知らな過ぎると叱られそうです。
 アメリカを中心に、世界のファンドが企業買収に回せる資金の総額は100兆円を上まわる。時価総額トップクラスのゼネラル・エレクトリック(アメリカ)やエクソン・モービル(同)が40兆円ほどだから、買えない会社はないということ。
 マイクロソフトは時価総額30兆円。2004年暮れには、3兆円もの配当を実施した。おかげで、アメリカの国民所得の伸び率がはね上がった。うーん、そうなんですかー。
 2005年(1〜7月)に日本企業が決めたM&Aは1500件をこえた。M&Aは、今や、めったにない非日常の出来事ではなく、あらゆる企業が成長のテコとして使いこなす時代となった。
 ボーダフォンはソフトバンクに買収されたが、このとき、負債の山と引きかえに顧客 1500万人をそっくり手に入れた。
 会社法が改正され、一定の条件をみたす非上場企業なら、取締役は1人でいいことになった。そこで、新日鉄化学は、グループ会社にいた69人の取締役を7人に減らした。ええーっ、そんなことができるのですか。ちっとも知りませんでした。
 法改正で委員会等設置会社というシステムが導入された。しかし、この委員会制を導入した電機大手会社は、みな経営不振となり、導入していない自動車会社は快走している。日本には、経験豊かな社外取締役の層が薄いところに問題がある。そうはいっても、日本の主要企業2000社の半分以上に社外取締役がいる。
 ソニーのトップは外国人(ハワード・ストリンガー)。彼は、自宅がロンドン近郊、そしてニューヨークに常駐する。東京の本社には、月に1〜2回通う程度。ソニーグループの社員の6割は外国人。利益も海外で稼いでいる。
 今や、インターネットによる取引が個人の株式売買の8割を占める。
 世界には創業200年以上という長寿企業がある。しかし、それはアメリカには1社もない。長寿の秘訣は、環境に敏感、強い結束力、寛大さ、保守的な資金調達にある。
 日本全国のコンビニ4万2000店の7割が脱サラなどによる「持たざるオーナー」である。
 日本では、過去30年で、新入社員の入社動機が変わった。1971年では、将来性があるというのが3割でトップ。現在は、個性を生かせる、仕事が面白い、自分らしく仕事ができて手早く結果を出せる職場に人気が集まる。
 三井物産は13年ぶりに独身寮を新設した。今なぜ同じ釜の飯が重視されるのか。寮生活を通じて若いうちに人間関係を存分に培ってもらい、人を育てたいというのだ。今こそ人材だ。
 大卒者の2割が職に就かず、入社して3年間のうちに3割が離職する。
 うむむ、なかなか大変な状況ですよね。

警察庁から来た男

カテゴリー:未分類

著者:佐々木 譲、出版社:角川春樹事務所
 「うたう警察官」に続く、道警シリーズ第2弾です。北海道警察に警察庁から監査が入ります。東京からやってきたのはキャリアの監察官です。いったい、今度は道警の何を問題にしようというのか。道警本部は戦々恐々です。
 北海道には管区警察局がない。行政域の広さが他の地方の管区ほどもあるので、とくに管区警察局は置かれず、直接、警察庁の監督のもとに入っている。この点は、警視庁に似ている。
 私の大学時代の同級生の一人が警察庁に入り、県警本部長や首相秘書官(?)などを歴任したあと管区警察局長をつとめ、まもなく退官し、いまは天下りして公団理事をしています。管区警察局長はキャリア組の上がりのポストの一つになっているのです。
 道警本部では、有名な警部の不祥事のあと、生活安全部を強化すべく部長を警察庁から派遣されたキャリアになった。ところが、そのキャリア部長が自殺してしまったので、道警本部がポストを奪い返し、今では道警本部採用の準キャリアが部長になっている。
 ファイル対象者とは、私生活や素行に問題があると見られる警察官のこと。いったんファイルが作成されると、その警察官がどこの所轄署や部局に異動になろうと、ファイルそのものもついてまわる。上司は対象者に対し、必要に応じ、監督と指導を行う。
 ススキノ交番は、4階建て。勤務する警察官は50人。いわば小さな城塞だ。
 監察の対象となった事件は2つ。一つは、タイ人の若い女性が売春させられているところから逃げ、交番に走りこんだのに、交番の警察官が追ってきた暴力団に何ごともなかったように身柄を引き渡した件。もう一つは、ボッタクリ・バーでトラブった客が不自然な転落死をした件。二つの事件のどこに共通項があるのか・・・。
 推理小説(最近は、警察小説と言います)ですから、もちろん、ここで、そのタネ明かしはできません。なかなかよく出来た本だという感想を述べるにとどめます。
 警察官にとって、退職後どうするのかは、職業人生の半ばを過ぎたあたりから、昼も夜も頭を離れない大問題となる。警察と関係の深い自動車学校や交通安全協会の役員は幹部の指定席。ウェイティングリストまである。
 大部分の警察官は、退職後は自力で再就職先を探し、現場労働者として働いて年金給付年齢がくるのを待つ。つまり、ほとんどの退職警官は、何の専門性も生かせない民間企業に再就職し、慣れない仕事で苦労して、たちまちのうちに老けていく。
 キャリア組は違う。天下り先に事欠かず、困ることもない。
 警察でも団塊世代の大量退職が始まりました。老後をいったいどう過ごすのかは深刻です。釣り三昧などで悠々自適をしはじめると、とたんに亡くなってしまいます。そのため警察共済は、黒字だといいます。在職中にひどいストレスを受けて、それと共生してきていたのに、そのストレスから突然解放されると、今度は燃え尽き症候群のようになって、まもなく生命の炎が消えてしまうというのです。
 先日、「あるいは裏切りという名の犬」というフランス映画をみました。ジェラール・デパルデューも出演する警察映画です。デパルデュールは団塊世代です。私と生まれた月まで同じ(1948年12月)というのを初めて知りました。この映画では、野心満々、権力欲だけがギラギラしている警視の役まわりを演じています。
 フランスの警察には日本と違って労働組合があります。ときにはストライキをし、デモまですることで有名です。ところが、そんなフランスの警察はかなり高圧的で強暴なことでも定評があります。そして、暗黒街との癒着もあるようです。この映画には、そんな実話を下敷きにしています。寒々とした展開です。フランス映画の例にならって、どんな結末なのか、最後まで予想できませんでした。見終わったとき、重い疲労感が残りました。
 日本の警察もフランスと同じで、内奥まで入っていくと決して清潔とは言えないことを、この本は背景にしています。
 先日、名古屋の読者の方から、言葉づかいについて配慮が足りないというご指摘を受けました。私としてはズバリ本質をついた表現だと一人悦に入っていましたが、なるほど、そのような懸念もあるのだと反省し、早速、訂正しています。
 誰か読んでくれているのかなあ、なんて思いながら書いていますので、こういう形で反響があること自体は、とても手ごたえを感じるものです。今後とも、どうぞご愛読いただきますよう、よろしくお願いします。

サルの子どもは立派に育つ

カテゴリー:生物

著者:松井 猛、出版社:西日本新聞社
 高崎山のサルを30年間観察してきた人の本です。大変勉強になりました。なにしろ2500人のサル(最近は、匹などとは言わず、人間と同じく、人と呼んでいると思います)を全部、見分けることができるというのです。たいしたものです。どう見ても同じような顔をしていると思うのですが・・・。でも、日本人もアメリカ人からすると、みんな同じような顔に見え、まったく見分けがつかないという話を聞いたことがあります。
 母サルは母乳だけで育てる時期は、赤ん坊がお乳を欲しがると、いつでも飲ませる。生後3ヶ月すると、赤ん坊たちは遊びに飽きると母ザルの元に戻って、お乳を飲もうとする。
 赤ん坊のしつけに一番効果があるのは、授乳拒否。赤ん坊は泣きつかれると、母ザルはつい赤ん坊の背中に手をかけてしまう。これが授乳許可を出したサインとなる。
 母ザルは授乳拒否に時間をかける。これによって、それまで赤ん坊のペースにあわせてきた子育てが、次第に母ザルのペースに変わる。赤ん坊は、授乳拒否を経験して、お乳を飲みたくなっても、そーっと乳房に手を伸ばし、母ザルの反応を気にするようになる。
 母ザルは授乳拒否するとき、赤ん坊の目をのぞきこんで叱る。赤ん坊は母ザルから目をそらそうとするが、母ザルは赤ん坊の後頭部を握って正面を向かせ、お母さんの目を見なさいとばかり、荒々しくふるまう。このとき、母ザルは自分の気持ちを赤ん坊に伝えようと真剣、一生懸命だ。
 母ザルは赤ん坊にお乳は与えるが、それは、餌を与えることは絶対にない。餌のある場所に連れていって、見守るだけ。野生の世界で生きていくには、食べ物を与えないことこそが愛情なのだ。
 赤ん坊が手に入れたイモを母ザルが奪う。それは母ザルが奪わなくても、必ずほかの大人ザルから奪われる。そのとき、かみつかれて、大ケガしてしまうかもしれない。こうやって子ザルはイモを奪われないようにしてから食べることを学ぶ。
 ニホンザルの妊娠期間は人間の半分、5ヶ月半。6月が出産のピーク。母ザルは、2〜3年に1回、出産する。赤ん坊は出産当日から1ヶ月内が一番危険。赤ん坊が母ザルとはぐれると、ほとんど死んでしまう。
 双子が生まれる確率は低い。1万回の出産で9組のみ。そのうち2人とも1歳まで育ったのは3組だけ。
 サルの母と娘の上下関係は、死ぬまで母親の立場が強い。サルは母子家庭。メスザルの出世は血筋で決まる。母ザルは、子どもたちが兄弟ゲンカしたときは、必ず年下の側を応援する。だから、弟や妹の方が威張っている。
 メスザルは、一生のうちに10〜12人の赤ん坊を出産する。オスは4〜5歳のとき、故郷を離れる。
 ボスザルはもてない。メスザルと関係して生まれた娘たちを交尾する危険があるから。だから、群れに入ったばかりの血縁のない若いオスザルがもてもてになる。
 写真がたくさんあって、楽しい本です。中学生のとき、修学旅行で高崎山に行きました。餌場で右手をサルにがぶりとかまれて痛い思いをしました。私は、すぐ近くのサルにまず餌をやったのですが、次に今度は遠くのサルに餌をやろうとしたのです。それを見て、近くにいたサルがどうしてそんなことをするのかと怒ったのです。私としては、サルに公平に餌をやりたいという善意の気持ちからしたことでした。その痛みで、サルと人間の常識の違いが身をもって分かりました。

ぼくの村は戦場だった

カテゴリー:未分類

著者:山本美香、出版社:マガジンハウス
 今年40歳になる日本人女性のフリージャーナリストが世界各地の戦場をかけ巡った体験レポートです。本当に勇気ある女性です。私なんか一ヶ所だって行く勇気がありません。
 彼女が行った国は、この本で紹介されているだけでも、アフガニスタン、ウガンダ、チェチェン、コソボ、イラクなのです。一つだけでも、ぞっとします。そこへ彼女は重いカメラ機材などを運びこみながら取材してまわったのです。うむむ、すごーい。
 タリバン支配下のアフガニスタンで、秘密の勉強会を取材します。大学生が、友人の家を転々としながら勉強していたのです。そこでは、女性にブルカを強制するのに対して、次のような怒りの声が上がります。
 私たちはズダ袋じゃない。頭から足先まで隠せなんて、女性の自由を奪うもの。イスラム法にそんな定めはない。
 アフガニスタンでは、ほとんどがお見合い結婚だ。子どものときに親同士が許嫁(いいなずけ)を決め、適齢期になると結婚する。親と親、家と家の結婚で、本人たちの意志はあまり反映されない。
 一夫一妻が認められている。4人まで妻を娶(めと)ることができる。ただし、妻には平等の生活を保障することが条件となっている。だから、実際には金持ちでないと無理。 ウガンダでは、子ども兵士の存在が深刻だ。LRAゲリラは、草木が生い茂る4月と収穫期の10月に子どもたちの誘拐と食糧の調達のために北部に侵入してくる。これまでに拉致された子どもは2万人以上、避難民は160万人。
 ロシアでは、何をするにも当局から賄賂を要求される。ウィスキーから現金まで、やる気の度合いをモノで証明しなければならない。
 チェチェンで死んだロシア兵は、政府発表によると4000〜5000人。実際にはもっと多く、1万人を超えるとみられている。
 イラクのサマワに日本の陸上自衛隊がいたとき、宿営地をぐるりと囲むように設置された9ヶ所のコンテナハウスを拠点にして、イラク人警備兵が24時間体制で警備にあたっていた。その数300人。無線はない。日本軍である自衛隊をイラクの民間人が自動小銃で守っていた。彼らは月給200ドルをもらっています。そして、今や失業してしまいました。
 サマワから自衛隊が撤退するときは、正門に地権者が補償を求めて押し寄せていたので、裏門から逃げるようにして出た。サヨナラ・パーティーも開かれなかった。
 先日の新聞に、サマワに行った自衛隊幹部が、日本には憲法9条があって戦争できないことになっているとイラク人に説明して安心してもらっていた。だから、憲法9条は大切だ。そう語った記事がのっていました。私も、まさしくそのとおりだと思います。
 著者の今後のご無事を心よりお祈りします。あまり無理しないで下さいね。

S−1誕生

カテゴリー:社会

著者:白坂哲彦、出版社:エビデンス社
 国産初の世界レベル抗癌剤の開発秘話というサブ・タイトルがついています。実に20年以上かけて有効な抗ガン剤を開発したという話です。いやあ、たいしたものです。その地道な苦労に頭が下がります。
 抗ガン剤開発に携わる人間にもっとも必要とされる要素は、好奇心と執念。この仕事はケタ違いにスパンが長く、根気のいる仕事を毎日続けなくてはいけない。
 抗ガン剤の開発が感染症などの治療薬の開発に比べてはるかに難しいのは、標的となるガン細胞が体外から侵入してきた外敵ではなく、自分自身の体の一部だから。
 ガンの場合、ガン細胞は自分の体の正常細胞が異常増殖を始めたものなので、ガン細胞と正常細胞との間には、ヒトと病原部生物の細胞間にみられるようなはっきりした違いはない。
 抗ガン剤であるマイトマシンやプレオマイシンのルーツは、関東地方や九州で採取された土中の微生物にある。同じくアドリアマイシンもアドリア海の砂からみつかった微生物にルーツがある。
 いやあ、どこに貴重品がころがっているのか、世の中って本当に分からないものですね。
 会社というものは、誰もが成功に一役買いたいと考えるような、きれいごとの世界ではない。なかにはアラ捜しをして点数稼ぎをする者もいるし、やっかんで足を引っ張ろうとする者も出てくる。
 著者が開発したS−1は、基礎研究に15年、臨床試験に6年4ヶ月、承認の申請から承認まで1年3ヶ月、合計22年6ヶ月かかりました。すごい歳月です。
 著者たちは、ご飯が食べられるガン治療を目ざしたのです。ガン患者から生きる力を奪うのは、悪心、嘔吐、食欲不振、下痢、口内炎、全身倦怠感という副作用。たしかに、これらがあったら生きてる気がしませんよね。
 S−1は、外来通院でQOLを保ちながら、長期間投与することが可能。抗ガン剤の特徴は、はっきり効果が認められたものは、世代を超えてつかわれ続けることにある。
 20年後、日本も世界も、ガン治療は外来主体になっている。著者はこのように予測しています。果たして、そうなるのでしょうか。
 S−1は、進行・再発胃ガンの治療薬として承認され、その後、応用範囲が広がっているということです。このような地道な研究・開発をすすめておられる研究者に対して心より敬意を表します。
 まさに平和産業の最たるものです。もっと世の中の光をあてていいように思います。

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