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2006年2月 の投稿

集団訴訟、セクハラと闘った女たち

カテゴリー:未分類

著者:クララ・ビンガム、出版社:竹書房文庫
 ハリウッド映画「スタンドアップ」の原作です。私は中洲の小さな映画館でみました。観客は私をふくめて6人しかいませんでした。アメリカはミネソタ州にある鉱山で働く女性たちの話です。彼女たちは、同じ職場の男性労働者から次から次にすさまじく、えげつない嫌がらせを受けます。映画には映像の限界があります。この本によると、もっともっととんでもなくひどいハラスメントを絶え間なく受け続けます。その詳細は、とてもここに書くことはできません。もちろん、この本には書かれていますが・・・。書くこと自体が男である私にも苦痛ですし、嫌なのです。男たちは、彼女らから自分たちの仕事を奪われることを心配しており、現場から追い出す意図もあったようです。
 女性たちも、ついにこれはセクハラだと考えて、裁判に訴えることにしました。しかし、それからがまた凄まじいのです。弁護士選びも大変でした。そして、公開の法廷で、さらにセクハラを受けてしまうのです。
 アメリカには原告側に立って訴えることを専門にする弁護士がいて、全米組織もあります。雇用差別に苦しむ人々からの訴えを専門とする弁護士もいるのです。
 雇用差別に苦しむ人々からの訴えを専門とするポール・スプレンガーは訴訟を引き受けるためには3つの条件があるとしていた。第1に、それが集団訴訟になる可能性があること。第2に、それ相当の金銭的な報酬が期待できること。第3に、原告が信頼できる人物であること。そして、その訴訟がいくらくらいの価値をもつのか、はっきりした期待をもっていること。
 なにより重要なのは、彼女たちがどんな原告になるかということだ。裁判の勝ち負けは、原告にどれほど訴える力があるかで多くが決まる。信頼できるか。共感を得られるか。欲をかいていないか。一緒に仕事をしやすいか。訴えが強力でも、陪審や判事の共感を得にくい者もいれば、すぐに動揺して自滅してしまう者もいる。
 裁判費用は弁護士が負担する。その代わり賠償金の33%を弁護士がもらう。そのほか、依頼者は毎月50ドルを24ヶ月間にわたって支払う。これが弁護士報酬契約だった。集団訴訟は弁護士費用を払えない人々の権利を守るものになっていた。
 会社側は、集団訴訟にならないよう、同じ職場に働く女性労働者から、職場にはセクハラなんてないという署名をとってまわり、ほとんどが署名に応じた。彼女たちは職を失いたくなかったからだ。
 会社側の雇った女性弁護士は有能だった。アメリカには宣誓供述という手続がある。裁判前に、相手方弁護士から尋問されるのだ。この本によると、5時間とか9時間という長時間、しつこい嫌がらせのような尋問がなされたという。
 セクハラを受けて悩んでいるといっても、男たちと同じくらい粗野で下品であり、感情的にも精神的にも不安定だった。男たちの違法な嫌がらせによってではなく、自らの過ちと弱さによる犠牲なのだということを「明らか」にすべく徹底的に追及された。この追求によって依頼者はひどく落ちこんだ。心の底から怖がった。
 そのうえ、さらに法廷で追いうちがかけられた。反対尋問で、性生活や、子ども時代に虐待やネグレクトを受けたことがあるか、夫から不快な性行為を求められたか、精液の臭いを嫌だとは思っていなかったのではないか、などなど・・・。女性を打ちのめし、いたたまれなくさせる尋問が続き、裁判官がそれを許した。
 しかし、幸いにして、その裁判官の下したひどい判決は連邦裁判所によって破棄された。
 ところが、次に開かれた陪審法廷は男性が大半、それも肉体労働者ばかり。これに不安を感じ、原告らは判決ではなく、和解に応じるという決断を下した。
 映画はハッピーエンドで終わりますが、この本は必ずしもハッピーエンドという感じではありません。この話は、驚くべきことに、ごく最近のアメリカで起き、裁判になった実話なのです。裁判が起きたのは1988年で、終わったのは1998年なのです。
 いやあ、アメリカって、本当にひどい国なんだなー・・・、と思いつつ、しかし、それが映画になるっていうのもすごいことだと思い直しました。みなさん、ぜひ映画をみて、この本を読んでみて下さい。アメリカの一断面が良きにつけ、悪しきにつけ、よく分かりますよ。

戦争の時代と社会

カテゴリー:未分類

著者:安田 浩、出版社:青木書店
 朝鮮戦争に日本は事実上「参戦」していたという指摘があり、目を見開かされました。
 第1に国鉄の大動員。国鉄は朝鮮戦争が始まるとともに、米軍の人員と物資輸送にとりくみ、大量の臨時列車、客車・貨車を動員した。その規模は国鉄の軍事輸送史上最大のもので、15年戦争期のそれを上まわっていた。
 第2は、海上保安庁の特別掃海艇25隻の出動。朝鮮水域の掃海に出動した者は2ヶ月間でのべ1200人いた。
 第3に、米軍によって調達に応じさせられ動員された日本人船員。特別調達庁との関係で朝鮮戦争に協力して死亡した日本人が56人いた。
 第4に、看護婦の動員。国連軍の野戦病院には九州各地の日赤支部から多数の看護婦が動員されていった。
 第5に、兵士として戦死した日本人がいた。コックや塗装工として米軍基地で働いていた若者が、そのまま朝鮮へ連れていかれて兵士として参加し、戦死した例がある。
 第6に、民団系在日韓国人団体による義勇軍の存在。総数642人が参戦した。
 本当にいろいろと知らないことがあるものです。驚いてしまいました。

続・台湾新時代

カテゴリー:未分類

著者:近藤伸二、出版社:凱風社
 2008年に北京五輪そして2010年に上海万国博覧会が予定されている。2008年には台湾の総統選挙もある。2004年3月の総統選挙のときには、投票日前日に陳水扁候補が銃撃されるという事件も起き、コンマ以下の投票率の差しかなかったのには驚かされた。
 台湾経済は躍進著しい。外貨準備高は2519億アメリカドルで、日本、中国に次いで世界第3位。
 台湾はIT大国で有名だ。アメリカ(686億ドル)、中国(605億米ドル)、日本(205億ドル)に次ぐ世界4番目(108億米ドル)。
 世界のノートブックパソコンの7割以上は台湾製。ただし、ノーブランドだ。
 台北市には世界一のノッポビル、「台北101」がある。地上101階 、高さ508メートル。台湾には外国人労働者も多い。6ヶ国30万人をこえる。タイ・フィリピン・ベトナムがそれぞれ9万人。インドネシアが2万人、台湾社会の出生率が低いことにもよる。
 台湾は中国へ積極的に投資しており、その累計総額は11兆円をこえるものとみられている。たしかに、私も中国へ行ったとき、台湾資本の豪華なホテルに泊まったことがあります。
 台湾の70%は福?(ホーロー)系 漢民族。次に客家(ハッカ)系漢民族の15%。第二次大戦後、国民党政権とともに中国大陸から渡ってきた外省人は13%。その大部分は漢民族だが、モンゴル族や満州族も含まれている。先住民は2%という少数派。
 実は、私はまだ台湾に行ったことがありません。なかなか複雑な社会・政治の国だという印象をもっています。行ってみたい国ではあります。

十面埋伏

カテゴリー:未分類

著者:張 平、出版社:新風舎
 すさまじい逆巻く怒濤のような本です。本を手にとって読みはじめると、怒りにみちた静電気で腕がビリビリしびれ、前身の膚が毛穴から汗のにじむように鳥毛だってきます。
 次から次に息つくひまもなく囚人の隠された悪業の数々が暴き出されていく。ところが、刑務所当局はいっこうに動こうとしません。なぜか、刑務所は収容されている人間だけでなく、所長以下の職員までも買収され、悪の巣窟と化しています。では、どこにも光明はないのか・・・。いえ、権力機構の中にも、まだ良心を辛うじて保っている人間はいるのです。その人たちが少しずつ、恐る恐る連携を広げ、悪のネットワークに抗して立ち上がろうとします。
 しかし、悪のネットワークも黙視しているわけではありません。彼らは彼らの力をフルに活用して、それを封じようとします。そうなると、先手必勝。どっちが先に手をうつか、時間とのたたかいにもなります。
 刑務所、警察(公安)組織、政界、実業界さまざまな人脈がうごめいています。農民の土地をタダ同然で取りあげ、金持ち階級が抑圧していきます。その過程で、金と権力が惜しげもなくつぎ込まれます。お金も権力もない庶民は口に指をくわえて見ているしかありません。
 上下2巻。それぞれ370頁ほどもあるこの本を電車に乗って4時間で読み切りました。読みはじめると、あまりのすさまじさに息を呑み、いつ終点の駅に着いたのかと思うほど一心に読みふけってしまいました。
 この著者は、前に「凶犯」という本(新風舎文庫)を出しています。前の本にも圧倒されましたが、この本はさらにそれを上まわるド迫力があります。
 中国三大文学賞を受賞した。映画化が決定した。オビに書かれています。それも当然だと、ついうなずいてしまいました。みなさんに、一読をおすすめします。

なぜ資本主義は暴走するのか

カテゴリー:未分類

著者:ロジャー・ローウェンスタイン、出版社:日本経済新聞社
 アメリカでステークホルダーという考え方が流行した。これは企業は株主だけでなく、従業員、地域社会、下請け業者といった利害関係者の一団に奉仕する存在だということ。ステークホルダー運動は、本質的にアメリカの土壌に日本のモデルを移植しようとする試みだった。しかし、この運動はなかなか実を結ばなかった。ステークホルダーという概念はあいまいだし、法的根拠にも欠けていた。それだけでなく、深い意味で、これはアメリカ的発想ではなかったからだ。
 コーポレート・ファイナンスが盛んになるのと並行して、CFOの存在感が増した。かつては単なる管理者、つまり数字屋にすぎなかったCFOが、最前線の経営者、利益をうみ出す最高責任者となった。CFOの地位向上にともない、ウォール街と企業中枢との距離は、さらに縮まった。
 ストックオプションの75%は社会でトップから5番目までの役員に渡っている。残り25%のうち半分以上が、その下に続く15人の役員の懐に入った。ストックオプションを受けとった現場の従業員は300万人で、それは10%を分け合うものだった。オプションがミドルクラスの権利となっているというのは、まったくの嘘だ。
 取締役の報酬を決定する取締役会は市場とはほど遠い。取締役たちはなれあいの関係にあり、また権力争いに明け暮れている。
 CEOは、成功すればいつでも莫大な報酬を手にしたが、失敗しても罰を受けることはなかった。CEOは失うものがなかったので、ますます危険な賭けに出るようになった。CEOは、かつて政治のものだった尊大さを身にまとった。宮殿のような豪邸から、広報担当、副社長、側近の一行を引き連れてジェット機で飛び立ち、契約がある場合ならどこへでも向かった。そして、痛みを分かちあうのは、CEOの役目ではない。従業員が解雇されても、利益が激減しても、株価が下がっても、CEOが減給されることはない。
 これは、まるで今のニッポンのホリエモンたちのことを言っているように聞こえます。
 GEのCEOであるジャック・ウェルチは、10年間で給料、ボーナス・オプションをあわせると4億ドルを稼いだ。ジャック・ウェルチに生涯保障されるのは次のようなもの。マンハッタンにある1500万ドルのマンションの使用権、ワイン、食品、ランドリーサービス、新聞、化粧品などの経費、会社所有のジェット機の使用権、NBAのニューヨーク・ニックスの試合の一階フロア席チケット、テニスの全米オープンのコートサイド席、メトロポリタン劇場のボックス席、運転手つきの車がある。そのうえ、ウェルチは月額35万ドルの年金をもらう。
 1990年代末、資金はどこへでも流れていったし、道徳規範はすっかり忘れ去られていた。ジャーナリストも銀行家も、経営者も監査役も、ブローカーも弁護士も、みんなすっかり同じ土俵に乗ってしまっていた。短期的な利益を計上するために株主資本をリスクにさらしていた。この短期的な利益こそ、まさに株主価値の定義として定着していたものである。
 企業に雇われた監査法人や弁護士たち専門家は長い時間を経営者たちと過ごし、十二分に報酬を受けとった。ここから利害関係の一致と、それにもとづく共謀関係が生まれた。
 なるほど、そうなんですね。お金の力は、かくも偉大なのです。
 経営者が帳尻とつじつまをあわせることに辛うじて成功した企業では、必ず裏に弁護士がいて、経営者の良心の呵責を軽減し、取引の正当性に太鼓判を押していた。合法性という、見栄えのよい覆いを弁護士が提供していた。
 いやあー、すごいですね、こんなアメリカの資本主義って。まさにハイエナかオオカミといった弱肉強食の世界です。弱者に温かい目というものがまったく欠落し、強い者同士の権力闘争によって周囲にいる圧倒的多数の弱者は押しつぶされています。むき出しの資本主義って、ホント、最悪ですよね。

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