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2005年12月 の投稿

世界監獄史事典

カテゴリー:未分類

著者:重松一義、出版社:柏書房
 半年ほど、ほとんど毎週のように土曜日の午後、刑務所に被告人の面会に出かけていました。太宰府駅からタクシーに乗っていくのが最短コースです。帰りに天満宮に立ち寄り、熱々の梅ヶ枝餅をほうばって帰ったことがあります。本来収容されるべき拘置所が建て替えのため臨時に刑務所に収容されていたのでした。冬の刑務所の寒さは尋常なものではないようです。布団のなかに入って身体が温まるまでかなりの時間がかかり、それまでとても眠れないとこぼしていました。夏は夏で、カンカン照りの炎暑の部屋になります。
 この本は刑務所について、古今東西、過去と現在をあますところなく紹介しています。
 アメリカでは連邦・州・郡それぞれに属する3つの司法機関が独自に刑務所をもっている。全米の受刑者の数は1993年に133万人をこした。人口10万人あたり500人以上が刑務所に入っている計算になる。これはもちろん世界一。1980年に比べて、連邦施設の受刑者は1.5倍以上に増え、今の状態が続くと、連邦刑務所だけでも毎週
1143人分もの施設を増やさなければならない。
 カリフォルニア州は全米の受刑者の6分の1をかかえる。もちろん全米のトップ。中国に次ぐ第二の刑務所人口。予算増は深刻。1993年度の州予算の8.6%に相当する 33億ドルが刑務所費用。他の予算は減っているのに、刑務所だけは施設の拡大とそれにともなう2600人もの看守増を見込んでいる。どこも定員の2倍近い過密ぶり。
 2000年2月、アメリカの刑務所人口は、ついに史上初めて200万人をこえた。そこで、アメリカでは囚人1人1日43ドル(4700円)で民間に委託する民営刑務所が300億ドル規模の刑務所ビジネスとして急成長をとげている。
 全米の民営刑務所に収監中の囚人は、11万2千人。そのうちCCAという会社は一社だけで半数の7万人の面倒をみている。安上がりで効率的な刑務所管理がうたい文句。
 ニューヨークには、11階建の拘置所がある。定員900人。16歳以上の男子専用。近くに女子専用拘置所もある。こちらは12階建。
 サンフランシスコの沖合にあるアルカトラズ監獄に見学に行ったことがあります。凶悪囚300人を収容していました。あのアル・カポネもいたことで有名です。映画の舞台にもなりました。狭い獄舎が当時のまま保存されていて、こんなところに閉じこめられてしまったら、まさにカゴの鳥だと実感しました。対岸のサンフランシスコの街がすぐ近くに見えるのですが、現実には水流が速くて冷たくとても泳ぎで渡れるものではなく、脱獄に成功した囚人は1人もいないそうです。
 それにしても刑務所や拘置所へ面会に行くたびに、所内で働いている職員のみなさんは本当に大変だなと実感します。いろんな囚人がいて、その接遇に日々苦労しておられると思います。その労働条件の改善のためには、労働組合が絶対に必要な職場ではないかと感じるのですが、いかがでしょうか。

皇帝ペンギン

カテゴリー:未分類

著者:橋口いくよ、出版社:幻冬舎
 映画「皇帝ペンギン」を小説化したものです。映画を見ていない人におすすめの本です。皇帝ペンギンたちの過酷な生が、見事な写真と文章で生き生きと描き出されています。
 映画を見ているものにとっては、撮影裏話というか、どうやってこんな過酷な自然条件のなかで撮影できたのか紹介してほしいところでした。ぜひ知りたいところです。
 お父さんペンギンたちは、わが子(まだ卵)を足の上にのせてマイナス40度の厳冬期を過ごします。吹きすさぶブリザードのなかで、背中を丸め肩寄せあって押しくらまんじゅうしながら耐え抜く姿には、ついつい涙が止まらないほどの感動を覚えました。
 皇帝ペンギンたちは繁殖期を迎えると、南極大陸のある地点を目ざして一列になって行進します。そこで、互いの配偶者を探し求めるのです。その求愛ダンスはまるで真冬の大舞踏会。空を見たり、おじぎをしたり、お互いのくちばしでなであい、踊るのです。ユーモラスというより、いかにも真剣で、厳かな儀式だとしか思えません。
 ついに、わが子が誕生します。卵をまず抱えて温めるのは、父ペンギンの役割です。母ペンギンが父ペンギンへ、そーっと上手に卵を手渡しします。おっと、手ではありません。足渡しでした。
 父ペンギンは受けとった卵を足の上に乗せ、自分の身体でスッポリと覆い、冷たい氷の上にじっと立って、3ヶ月間、飲まず(雪を食べますが)食わず(本当に絶食します。おかげで体重は半分以下になります)で過ごすのです。そのあいだに、母ペンギンは海に出て腹いっぱい食べて戻ってくるのです。ところが、繁殖地点と海は遠く離れていて、ペンギンは往復とも歩いていくのですから、なんと3ヶ月という時間がかかるのです。
 ペンギンの子どもたちの姿が実に愛らしい。ぬいぐるみそっくりです。外見上まったく見分けがつかないと思うのですが、ペンギン親子と夫婦は呼びあう声でお互いをきちんと認識しています。これって、すごいことですよね。
 そして、ペンギンの子どもたちには保育所まであるというのですから、驚きです。子どもたち同士が固まって集団をつくって生活するのです。
 こんな過酷な極限状態のなか、家族をつくって生き抜いているペンギンたちに、つい大きな拍手を送りたくなります。
 あなたが、最近、生きるのにちょっと疲れたな、そう思ったときに、この本を手にとってパラパラとめくって写真を眺めてみてください。きっと、何か大きな力を身体のうちに感じることができると思います。

フィンランドに学ぶ教育と学力

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著者:庄井良信、出版社:明石書店
 フィンランドというと、おとぎ話のムーミンの国、最近では携帯電話で世界をリードするノキアの国、古くはソ連が攻めてきたのを撃退した国、というイメージを持っていました。この本によると、初めて知ったことですが、国際学力調査で世界ナンバーワンの国だそうです。ノキアは突然変異の企業ではなかったのです。読解力と科学力で1位、数学で2位、問題解決能力で2位、総合で学力世界1というのです。たいしたものです。この本は、その秘密を探っています。
 フィンランドの学校は、ほとんど学校格差がなく、総合制。学校内で能力別指導はなく、ランキングも否定されていて、非選別型の教育がなされている。学級規模は19.5人。子ども一人ひとりに対してきめ細かい指導が補習を含めてなされている。
 フィンランド人の読書好きは世界でも有名で、1年間に1人平均17冊の本を借りるほど、図書館の利用率はきわめて高い。子どもが12歳になるまで、親が本を読んで聞かせるが、それは父親の役目。授業参観も父親の参加率はきわめて高い。既婚女性の就業率は80%。7歳以下の子どもを持つ女性のうち、4分の3がフルタイムで労働している。乳母車でバスに乗ると、母親も子どももタダになる。バス自体も段差がない。
 学力の高い子と低い子とが一緒に教育を受ける総合制は、子どもにとって学ぶ意欲を高めている。社会的な平等が教育にとって重要だと考えられている。
 人口520万人のフィンランドでは、1人でも子どもの学力を遅れさせるのは社会にとっての大損失となる。教師は教育大学を出た修士であることが必要。それほど教師の給料は高くないが、自由がある。夏休みは6月から8月半ばまで、2ヶ月半もある。
 フィンランドは、小、中、高そして大学まで、授業料は全部タダ。教科書も無償。大学生は返済不要の奨学金がもらえるので、経済的にも親から自立できる。交通費や美術館などの入場料も学生は半額。高校進学率は71%。大学はすべて国立。
 教師は国民のロウソク。暗闇のなかに明かりを照らす人、人々を導く存在、正しい知識やモラルの持ち主、テーブルの真ん中に立っている一本のロウソクのように教師は、その村や町の中心人物である。
 学校の検定教科書制度は1992年に廃止された。教師は教科書を使わない授業を自分で考えて実施している。子どもに、自分が努力すれば何ごとも成し遂げることのできる、自分が主人公であるという自信を持たせる、自己効力感をもたせることに重点がおかれている。だから、子どもは自尊心が高く、何ごとにもねばり強くあきらめない性格をもつことになる。
 いやあ、これって、すごいことですよね。これだけでもフィンランドは素晴らしいと思います。
 フィンランドは北海道よりも人口が少ない。経済競争力は世界一だが、実は失業率は 8.8%と高い。
 国民はブルーカラーかホワイトカラー階級のどちらに属するかの意識が明確であり、大学で学ぶ学生の多くはホワイトカラー階級の子どもである。
 離婚率の高さも世界でトップクラス。結婚したら半分は離婚するという統計がある。
 大学では、学生組合の代表が運営に参加しているし、その代表者が文部大臣になり、首相になっていっている。それほど、教育が大切にされている。
 いやー、ちっとも知りませんでした。日本はフィンランドに大いに学ぶべきだとつくづく思いました。

墜落まで34分

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著者:ジュレ・ロングマン、出版社:光文社
 9.11のUA93便の話です。まったく悲惨としか言いようがありません。日本人学生1人をふくむ乗客40人が、跡形もなく地上から蒸発してしまいました。現地には大きな穴があいたものの、散乱する機体などはまったく見えなかったのです。犠牲者の遺体のほとんどは皮膚の一部があるだけで、その下の骨や軟組織は残っていなかったと報道されています。
 目撃者は現場には何もなかった。飛行機はどこに行ったのかとみな不思議がった。飛行機には、極めて引火性の高い燃料が1万ポンド(4500キログラム)も積載されていた。ぼろぼろになった聖書が発見された。表紙は傷んでいたが、なかは読める状態だった。結び目のついたネクタイも一本地面に落ちていた。岩の上で日光浴をしていた蛇が、攻撃しようと口をあけ、とぐろをまいたまま焼け焦げていた。ボイスレコーダーは、クレーターの下、8メートル掘ったところから回収された。
 時速575マイル(925キロ)のスピードで地面に45度の角度で激突した。だから、すべてが粉々に砕け散ってしまったのだ。
 44人の乗員乗客の総重量は3400キロあった。ところが、回収された遺体は手足や指などの一部だけで、272キロのみ。しかも、回収された遺体の60%は身元が確認できなかった。外傷が激しいため、死因は「断片化」と記載されていた。現場には一滴の血も認められなかった。このように、ジェット旅客機が地上に激突すると、すべてが見事に消失してしまうことがよく分かりました。
 ですから、UA93便が撃ち落とされたわけではないと著者は強調しています。遺物がないことがそれを証明しているというのです。なるほどと思います。ミサイル攻撃で撃ち落とされたのなら、機体の残骸が広い範囲に散乱したはずだから。これは納得できます。
 それでは、いったいハイジャックされた飛行機のなかでは何が進行していたのか。本書は、乗客からの携帯電話とメールで、それを再現しています。
 ハイジャックされたとき、客室乗務員はコックピットに電話して「このトリップのことで、ご相談したいことがあるんですが」と言うことになっている。パイロットも乗務員も逆らわないように教育されている。
 ハイジャック犯は、乗員や乗客の電話をほとんど制止しなかった。乗客たちは不安におののきながら自由に電話しており、そのことで危害を加えられる必要はなかった。おそらくテロリストたち4人は、わずかな人数で抑えこむには乗客が多すぎたので、電話を妨害するのはリスクが大きいと考えたのだろう。
 ハイジャック犯は4人とされているが、乗客は3人しか目撃していない。残る1人はどこにいたのか・・・。ちなみに、ほかの3機にはテロリストが5人ずつ乗っていた。このUA93便だけなぜ人数が少ないのか。
 「リンダ、よ。UA93便に乗っているの。ハイジャックされたわ。機内にテロリストがいて、連中は爆弾を持っているの」
 「連中ったら、2人のノドを掻き切ったのよ」
 「高度がどんどん落ちていくわ」
 「これから犯人に熱湯を浴びせて飛行機を取り戻すわ。みんながファーストクラスに走っていく。私も行くわ。じゃあね」
 「あなた、よく聞いて。いまハイジャックされた飛行機の中なの。この電話は機中からよ。あなたに愛していると言いたくて。子どもたちにとても愛してると伝えてね。ごめんなさい、言葉が見つからないわ。犯人は3人。私、冷静になろうとしているんだけど。世界貿易センタービルに飛行機が突っこんだんですってね。もう一度あなたの顔を見られるといいけど」
 「いよいよみたい。みんなでコックピットに突入する気だわ」
 「用意はいいか。ようし、さあ、かかれっ(レッツ、ロール)」
 ハイジャック犯たちは、乗客がコックピットに押し寄せるのを防ぐため、翼を左右に揺すってボウリングのピンのように倒そうとしたのだろう。捜査陣はこのように見ている。なんと勇気ある人達でしょうか・・・。
 44人の乗員・乗客が、顔写真とともに、その生い立ちと生活ぶりが紹介されています。34分間も狭い機中で葛藤させられ、ついに乗客がテロリストたちに勇敢にたち向かっていく情景の再現には心をうたれます。
 テロリストをうみ出す状況を一刻も早く根絶したいものです。もちろん、暴力には暴力で、ということではありません。暴力と報復の連鎖は、どこかで断ち切るしかないのです。ですから、アメリカのイラク占領支配は一刻も早くやめさせなくてはいけません。日本の自衛隊がイラクの人々を殺し、また殺される前に、みな無事に日本へ帰国できることを切に願っています。

戦後政治の軌跡

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著者:蒲島郁夫、出版社:岩波書店
 自民党システムとは、経済成長を進めながら、その成果の果実を、経済発展から取り残される農民等の社会集団に政治的に分配することによって、政治的支持を調達しようとするシステムである。
 高度経済成長を前提としてきた自民党システムは、経済の長期的な停滞によって維持不可能になってきた。都市居住者にとって、農村への手厚い予算配分は、税金のムダづかいであり、環境破壊でもある。また、それにともなう利権構造もウサンくさく見える。
 1960年代に登場した自民党システムは70年代に強固なまでの完成をみて、その後も自民党政権の存続を支え続けた。皮肉なことに、自民党の経済成長があまりにも成功し、それにともなう都市化によって保守票が減少し、自民党システムそのものがジリ貧になっていくという現象が見られた。問題なのは、自民党政権の長期化が構造汚職と深く結びついていることである。党のスキャンダルが、浮動票に頼っている都市の自民党候補者を直撃する。そして、利益誘導型の政治家が相対的に栄える。この悪循環のなかで田中角栄型政治家が栄え、自民党そのものが弱体化する。
 逆説的だが、自民党が経済発展を成功させるほど、自民党の首を絞めるような政治的な帰結果がもたらされたのである。他方、このような社会的変動により台頭したのが、新中間層である。この新中間層は、自民党の経済発展政策によって恩恵に浴する集団である。その意味で、彼らは基本的には自民党政権の存続を望んでいた。ただし、彼らは日本の経済発展によって利益を受けるのであって、自民党システムから直接的な利益配分を受けているわけではない。彼らは、自民党体制維持のために資源を過大に浪費することを望まないし、また、その権力乱用や政治腐敗にも嫌悪感をもっている。そのため、もっとも合理的な行動として、自民党政権の継続を前提に、自民党を牽制すべく投票する、いわゆるバッファー・プレイヤーとなった。
 私は、このバッファー・プレイヤーという言葉を初めて知りました。すでに使い慣らされた業界用語なのでしょうか?
 自民党一党優位体制のなかで、保守的で、かつ自民党に批判的なバッファー・プレイヤーは、これまでは社会党に投票するか、棄権するかの選択しかなかったが、保守新党の誕生は、このような有権者にもうひとつの選択肢を与えた。
 ふむふむ、なるほどなるほど・・・。なかなか鋭い分析ですね。
 バッファー・プレイヤーとは、基本的に自民党政権を望んでいるが、政局は与野党伯仲がよいと考えて投票する有権者のこと。自民党政権が長く続き、野党の政権担当能力が不足している状況のなかでうまれた、日本独自の投票行動を示す有権者である。これが80年代から90年代にかけての日本人の投票行動の特徴である。
 こうしてみると、2005年9月の総選挙では、バッファー・プレイヤーが残念なことに眠っていたことになるのでしょうね。
 日本の政治参加の特徴は、「持たざる者」が比較的多く政治に参加していること、世界的にみて、日本における政治参加と所得との相関関係はきわめて小さい。所得水準の低い農民が政治により多く参加するため、全体的にみて所得と政治参加の相関関係がほとんどなくなる。アメリカでは所得の高い人ほど政治に多く参加しており、所得と政治参加には強い正の相関関係が見られる。アメリカは自ら登録しなければ投票できない仕組みですから、社会に絶望した低所得層は登録せず、投票もしないわけです。
 沈黙の螺旋とは、多数派の意見が沈黙を生み、多数派の支配が螺旋状に自己形成されていく状況をさす。人々は自分が少数意見の持ち主になることをなるべく避けたいという気持ちがあり、多数意見に同調したり、声高な意見に逆らわず沈黙を保ったりするようになる。この同調や沈黙がますます多数派の声を大きくし、少数意見を小さくする。
 これまでの自民党政治は経済成長の利益をいかに分配するかという「分配の政治」であったとすれば、小泉政権の登場は、それからの訣別を意味している。小泉政権の業績が上がれば上がるほど、自民党は支持基盤を失っていく構造になっている。小泉が自民党総裁ひいては首相に選ばれたのは、自民党が党内革命が必要なほどに危機的状況にあったからである。
 著者も団塊世代の1人です。団塊世代は激しい学生運動の波をかぶっているので、政治的意識が高いかというと、全然そうではない。ただし、大卒については脱イデオロギーが顕著だということは言える。無党派層の大きさ。民主党への投票は自民党への2倍。政治的関心は高いものの、特定の政党への帰属は弱く、イデオロギー的にも中間に位置している。大卒の団塊世代は政治的関心の高い無党派層の中核に位置し、日本の政治に一定の流動性と変化を与えている。
 どうして、かつての社会参加の情熱が団塊世代になくなってしまったのか。不思議でしようがありません。やはり内ゲバによる挫折感や連合赤軍事件の悪影響がいまだに尾を引いているのでしょうか。
 著者は熊本出身でネブラスカ大学農学部を卒業して今や東大法学部教授です。「運命」(三笠書房)に、その経過が述べられていますが、感動的な本でした。

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