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2005年9月 の投稿

勝つ工場

カテゴリー:未分類

著者:後藤康裕、日本経済新聞社
 日本の企業は中国に引き続き続々と進出しています。2004年の対中投資額は55億ドルで、過去最高でした。世界からの対中投資額も600億円を超えました。ところが、このところ、中国で「安く」モノをつくって日本で売るというより、「中国でつくり、中国で売る」というスタイルが中心になりつつあります。日本企業が日本でモノをつくるのを復活させはじめたのです。そのひとつがキャノン。
 キャノンは大分にデジタルカメラ製造工場をもっています。デジタルカメラの生産コストに占める人件費の比率は1%以下。人件費の安さはコスト競争力の決定的な要因とはならないことが背景にあります。
 そして、キャノンは国内生産の25%を自動化、無人化するが、これは決して人減らしが目的ではない。安定雇用こそ「勝つ工場」の要因だとみているのです。
 日本の製造業は、いま海外展開をさらに進めながら、同時に国内事業を拡大・強化する二正面作戦をとり始めている。生産よりも研究・開発を国内で優先させる戦略にもとづいている。
 九週間一本勝負の原則が、日本だけでなく、今や世界市場に共通している。発売から9週間が勝負。発売した機種が一週間ごとに価格をおとしていくスピードがかつてなく速くなっている。
 企業は開発した技術の特許出願をしない。その代わりに、公正証書をつくって、公証役場に預託しておく。後に特許権者が現れても、先発明を証明して、無償で使用できるようにしておくのだ。特許出願しておくと、海外の企業から模倣されてしまう心配がある。ヨーロッパの企業の特許出願が少ないのは、このような事情があるためで、開発力が弱いからではない。「勝つ工場」の条件は細部に宿る。
 うーん、日本企業が生き残っていく条件は厳しいのですが、やはり努力すれば道は開けていくものなんだ・・・。この本から多くのものを学ばされました。日本人も、まだまだ捨てたものではありません。
 最後に、この本とは関係ありませんが、小泉首相のように靖国神社の公式参拝を強行し、過去の日本の侵略戦争を美化するようでは、中国・韓国をはじめとする東南アジア諸国から日本は信頼されず、経済的にも行き詰まってしまうと思います。
 日本の経済発展は憲法9条を中核とする平和憲法にも裏付けられていることを日本人はもっと自覚すべきだとつくづく思います。

諫早の叫び

カテゴリー:未分類

著者:永尾俊彦、出版社:岩波書店
 わが家のまわりにはたくさんの田んぼがあります。もうすぐ稲に白い小さな花が咲きます。残念なことに、減反の対象となっている休耕田もあちこちに見かけます。田んぼに雑草が生えているのを見るのはわびしいものです。地球規模では食糧不足のため飢えている人が何百人もいるというのに、食糧自給率を高めようとしない小泉政策には首をかしげるばかりです。なんてったって、自動車をつくっているだけでは日本人は生きていけないのですよ・・・。
 無理矢理に減反政策をすすめる一方で、海を埋め立てて干拓地を農地にするというのですから、小泉政治って理解不可能です。こんな矛盾だらけの政権を支持している日本人って、いったい何なのでしょう・・・。
 でも、はっきりしていることは、日本人にとっての長期的な展望とは無関係に、短期的に(つまり、その場限りでは)大型公共事業をすればゼネコンが喜ぶことは間違いないという現実があります。日本は戦後一貫して、この自民党型政治によって動いてきました。でも、本当にこれでよいのでしょうか・・・。
 マリコンという言葉を、私は初めて知りました。有明海の漁場の底質「改善」のために砂をまく覆砂(ふくさ)事業というのが行われているそうです。もちろん、国が税を投入しているのです。97年度から01年度までの5年間に、福岡・佐賀・熊本・長崎の4県で78億円、02年度は40億円です。これには自民党のボス議員の1人である古賀誠代議士が大きな力を発揮しているそうです。こうした覆砂事業をするのがマリコン。覆砂事業を受注する上位4社は三井建設、若築建設、佐伯建設、東亜建設、いずれも2億円以上。これらのゼネコン会社などから、古賀誠代議士は公表されているだけでも、1000万円以上の政治献金を受けとっているのです。ちなみにマリコンの大手は五洋建設です。
 有明海のノリ生産の不振は深刻です。自殺や一家心中が相次いでいます。親を殺して自分の死のうとしたけれど死にきれなかった漁民の殺人事件を担当した弁護士は私もよく知っている人です。まさに誤った国家政策の犠牲者としか言いようがありません。
 自己破産申立も多発していますが、法的救済を受けることなく、夜逃げしてしまう人も多いようです。減反政策をこのまますすめて日本の将来はあるのか、ゼネコン以外に益のない埋立(干拓)をすすめて漁業をつぶして本当にいいのか、私たちはよくよく考え直す必要があると思うのです。

帰宅の時代

カテゴリー:未分類

著者:林 望、出版社:新潮社
 リンボー先生のエッセイです。私と同じ団塊世代です。「イギリスはおいしい」などで有名ですから、てっきり英文学者だと思いこんでいましたら、なんと、専攻は日本書誌学というのです。それを生かしてケンブリッジ大学の図書館にある日本の古典1万冊を1年かけて分類し、賞をもらったというのです。すごいですよね。1日に40冊ずつ調べるというのですから・・・。
 1年間、毎日毎日、開館から閉館まで図書館にこもって調べあげたのです。最後の1冊を調べ終わったのは、なんと帰国する前日の午後4時だったというのですから、ハンパじゃありません・・・。
 リンボー先生は、自分を磨くのに必要なものに関しては投資を惜しまないと書いています。大賛成です。私も本と年1回の海外旅行には投資を惜しまないことにしています。本は読めそうなだけ、もてるだけ買います。海外旅行は40歳になってから、少なくとも年1回してきました。41歳のとき南フランスに40日間いたのは最高でした。今年もフランスに2週間行って帰ってきたばかりです。弁護士になって以来勉強しているフランス語のおかげで、日常会話には不自由しません(仏検準一級にも一度受かりましたが、今年は不合格でした。ペーパーテストで合格基準点スレスレの73点をとり、口頭試問で25点でしたので、最終合格基準点99点に1点足りませんでした。米国産牛肉の輸入再開に賛成か反対か。3分前に問題文を出されて、3分間スピーチをしなければならないのですが、うまく語れませんでした。まだまだです。フランスの美術館で解説を聞いてすぐに分かるようになりたいと思って、相変わらず、毎日、ラジオ講座も聞いて勉強しています)。
 継続は力なりと言いますが、私も実感として、本当だと思います。リンボー先生は、そのためには強い意志をもつことをすすめます。そして、それには自分自身をしっかり見つめ続けなければいけない。身のまわりにいる他人に流されない。時間は有限なので、一つのことに集中して自己錬磨をしようと念じたなら、他のことは犠牲にせざるをえない。自己錬磨とは、時間を他人のためではなく、自分のために使うことだと思い定めること。人づきあいは自然に悪くなる。変人扱いされることもあるだろう。それに耐えて、自分を貫けるかどうかだ・・・。
 まったくリンボー先生の言うとおりだと思います。リンボー先生は、国民の祝日、休日をカレンダーの上からきれいさっぱり消すことを提案しています。私も、もろ手をあげて大賛成します。ゴールデンウィークなんて、とんでもないことです。休暇は、自分のとりたいときにとれるようにすべきものなのです。お上(おかみ)によって一律に与えられた「お仕着せ」の休日なんて百害あって一利なしです。
 自民党は国民の休日をふやそうとしてきましたが、あれは典型的なインチキです。レジャー産業にとっても、ゴールデンウィークだけ繁盛して、あとは閑古鳥が鳴いている現状を喜んではいないと思います。コンスタントにお客が来た方が、双方にとってよいのです。
 フランスに行って、キャンピングカーが本当に目立ちました。長い長いバカンスを自分の好きなようにウロウロしているのです。これこそ最高の心身のリフレッシュだと思います。労働者に有給休暇を未消化させたら企業は罰せられる。そんな社会に日本も早くしたいものです。

孤将

カテゴリー:未分類

著者:金 薫、出版社:新潮社
 釜山には何度か行ったことがあります。李舜臣の堂々たる銅像には畏敬の念を覚えました。秀吉の理不尽な朝鮮侵略戦争に敢然とたち向かった朝鮮水軍の名将です。しかし、不幸なことに、朝鮮の宮廷からは反逆者とみられてしまうのです。その不幸にもめげず、再び日本侵略軍とたたかう指揮をとることになります。
 この本の日本語は見事なものです。拉致され帰国した蓮池薫氏の訳ですが、24年間もの長いあいだのブランクをまったく感じさせない重厚な文体です。中央大学法学部3年生に在学中に拉致された蓮池氏の知的レベルの高さに圧倒される思いでした。
 李舜臣が「乱中日記」を書いていたことを初めて知りました。それ自体も日本語に翻訳されているのでしょうか? どなたか、教えてください。
 原書は韓国では50万部をこえるベストセラーだそうです。

生きるという権利

カテゴリー:未分類

著者:安田好弘、出版社:講談社
 私とほとんど同世代ですが、刑事専門の弁護士としてあまりにも有名です。オウム事件で麻原彰晃の主任弁護人をつとめていましたが、裁判の途中で、自ら逮捕されてしまいました(後で無罪となり、確定しました。警察の嫌らしい弾圧事件だったのです)。
 主任弁護人からみたオウム裁判の実情がよく分かります。著者が弁護人となる前に、ある弁護士から4人でチームを組んで私選弁護人としてやってもいいとの申し出がオウム教団にあったそうです。その着手金は、なんと1億5000万円。アメリカのマイケル・ジャクソン弁護団の費用に匹敵する額ではないでしょうか・・・(アメリカの方がもっと大きいとは思いますが)。
 著者は、当初この事件は本来、私選弁護人としてやるべきだという意見でした。しかし、結局は、国選弁護人として引き受けることになりました。その経過が生々しく語られています。私も、生半可な私選弁護人よりも国選弁護人でいかざるをえないという考えです。
 国選弁護人として、被告人との信頼関係を築きあげるのにはかなり苦労したようです。差し入れも相当したということですし、なにしろ接見時間が「夕方から翌日の朝6時まで」というのもあったというのです。これはまったく驚きました。
 東京拘置所は、麻原を裁判所に連れていくために1億円もの専用の護送車を購入し、さらに5000万円かけて特別の接見室をつくったそうです。護送車はともかくとして、5000万円かけた接見室の構造を知りたいものです。
 東京地裁の裁判長の姿勢が厳しく指弾されています。この本を読むかぎり、糾弾するのには理由があると思います。たとえば、裁判長は弁護団との交渉の途中でしばしば姿を消した。実は、そのとき所長代行の部屋に行って指示を受けていた、というのです。本当だとしたら(恐らく、本当でしょう)、ひどいものです。「裁判の独立」なんて、どこに行ったのでしょうか・・・。
 それにしても、著者の証人尋問に向かう姿勢には驚嘆すべきものがあります。毎回の尋問の前日は完全徹夜だったというのです。刑事弁護は、身をすり減らし、命を縮める作業の連続だというのですから、すさまじいものです。とても真似できるものではありませんし、真似したくもありません。ただ、訊く人間がわくわくしながら訊いていかないと、誰も興味をもたないし、理解もしてもらえないという指摘には、まったく同感でした。
 さらに、著者が自らNシステムのなかに入りこもうとしたというのを知って驚きました。オウム真理教の車とその後をつけていたであろう警察の車を明らかにしようとしたのです。なるほど、ハッカーの技術は、そんなこともできるのかとびっくりしました。
 オウム真理教の事件には、まだまだ解明されていない多くの謎があります。いったい、警察はいつからオウム真理教の一連の殺害等の事件を知っていたのか・・・、警察庁長官殺人未遂事件の犯人は誰なのか・・・、などなどです。

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