法律相談センター検索 弁護士検索
2005年3月 の投稿

民営化される戦争

カテゴリー:未分類

著者:本山美彦、出版社:ナカニシヤ出版
 いまアメリカは海外での軍事行動について民間会社を活用している。Private Military Companies(PMC)という。PMC全体で年間100億ドルの売上がある。最大のPMCは元将校を1万2000人もかかえている。彼らは、軍人恩給として退職時の50%が支給されるうえに、現役の軍人であったころの給与の2〜10倍ももらう。ペンタゴンがPMCに支払う金額は年間250億ドル。これは10年前の2倍。PMCの従業員は戦地での戦闘行為にも加わっている。
 したがって、これらの民間会社につとめる社員が殺害されるケースが増えている。しかし、民間人の殺害が増加する反面、制服の軍人の殺害が減っていることから、戦争したくないという心理的な壁を薄くしている。戦争行為をPMCが代行してくれるおかげで正規の軍隊や彼らを統括する上級閣僚たちが、血を流す兵士の惨状を見て厭戦気分に陥る可能性が小さくなっている。そこで、限定的な局地戦にはPMCが多く送りこまれる。制服の大部隊を投入しなくてもよいからだ。しかも、5000万ドル以下のPMCとの契約額ならペンタゴンは議会に報告する義務もない。
 戦場に参加する民間会社が忠誠を誓う相手は軍ではなく、株主である。彼らはカネだけで働くかつての悪名高い傭兵たちと同じ行動をとる。
 PMCのなかでは、ハリバートン(チェイニー副大統領の関係する会社)の子会社であるKBRが断トツの存在。ほかにディンコープ、ビンネル、MPRI、AOCOMガバメント・サービスなどがある。
 イラクの罪なき市民を大虐殺しながら、アメリカの企業が巨大な利益をあげているなんて、許せない。しかし、それも長続きはしないだろう。とはいっても、それまでに莫大な犠牲者が出るのを、私たち日本人は座視して見守るだけであってよいのだろうか・・・。

キャッシュカードがあぶない

カテゴリー:未分類

著者:柳田邦男、出版社:文芸春秋
 この本を読むと、つくづく銀行にお金を預けておくのが心配になってしまいます。カードの不正使用で虎の子の貯金を全部おろされてしまっても、銀行も警察もそ知らぬ顔をしてとりあってくれず、被害の回復はきわめて難しいというのが日本の現実です。
 超小型デジカメをATMの真上にセットしておいてモニターする。銀行のATMに通じる電話線に盗聴器をつけて傍受する。カード照会機CATの近くで電磁波をキャッチする。このような最先端の技術で暗証番号が盗まれている。
 銀行のカウンターごしに脅迫して行員からお金を奪ったとしたら、たちまち銀行強盗事件として警察は動き出す。しかし、ATMを通じて預金が奪われたときには、警察も銀行も必死の訴えを聞き流すだけ。銀行は弁償しようともしない。
 スキミングマシンは、秋葉原などで安く買える磁気読みとりヘッド、アンプ、メモリ、電池の4つをそろえたら簡単につくれる。窃盗団がつかっているのは、タバコの箱半分ほどの大きさ。
 アメリカには「50ドル・ルール」というのがある。本人が負担するのは上限が50ドル。イギリスにも50ポンド・ルールがあり、ヨーロッパには150ユーロ・ルールがある。そして、銀行は保険でまかなってもらえる。
 日本の銀行がいかに消費者の犠牲の上にあぐらをかいているか、それを知り、あらためて寒々とした思いがしました。そんな銀行の救済のために政府は何兆円も税金を惜しみなく投入するのです。ところが、国民の被害には知らぬ顔の半兵衛を決めこみます。ひどい話ですよね・・・。

永遠の子ども

カテゴリー:未分類

著者:フィリップ・フォレスト、出版社:集英社
 4歳の娘が小児ガンにかかったとき、父親はどうなるか、いや、どうするだろうか・・・。小児ガンは、先進国では子どもの死因として、事故に続く第2位を占めている。
 脱毛は病気の印、死の定めの印である。髪の毛とともに、小さな女の子は名前も性別も失い、小児ガン患者と呼ばれるものになる。
 小説は、時間の森への切り込みである。小説は真実ではない。しかし、真実なしには存在しない。小説はぼくたちに手を差しのべ、目のくらむ一点の近くまで導く。
 死の悲しみは語らずにいられない。人は言葉を探す。なぜなら、言葉は、死者に対して考えられる唯一の施しだから。ぼくたちの娘の死んだ長い年は、ぼくの人生でもっとも美しい一年だった。
 ええっ、こんなに言い切れるなんて、すごいと私は思いました。
 病院の世界がもっとも恐れる伝染病は、絶望である。死者はまず、名前を持つ権利を失う。
 文学の評論を自分の仕事だとしていた著者が娘の死を体験し、小説を書きました。透明感あふれる文体です。訳者から贈呈されて読みました。フランス語を長く勉強していてめぐり会えた本です。日本語としてよくこなれた読みやすい訳文だと感心しました。

新井白石と裁判

カテゴリー:未分類

著者:山口 繁、出版社:西神田編集室
 日本人は、歴史的にみると、まったく訴訟好きな民族だ。これは、ジョン・オーエン・ヘイリー教授の言葉ですが、私も、まったく同感です。むしろ、権利意識が強くなったはずの現代日本人の方が訴訟を避けようとしています。江戸時代には、とんでもなく裁判が多かったのです。なにかと言うと裁判に持ち出すのは町人だけでなく、百姓も大勢いました。徳川六代将軍家宣は自ら漢字かな混じりの文章で判決を起案したそうです。
 それはともかく、江戸時代には、現在想像するよりはるかに多数の訴訟が係属していた。享保3年に江戸の公事(くじ)数は3万5751件、そのうち金公事(かねくじ、金銭貸借関係の訴訟)が3万3037件だった。江戸町奉行所には、そのほかに訴訟が4万7731件あった。翌享保4年には公事数が2万6070件、うち金公事2万4304件、このほか訴訟も3万4051件あった。
 あまりにも増えすぎたため、新井白石は、立会日の3分の1を金公事の集中審理に充て、その余を本公事の審理に充てるようにした。ちなみに、公事(くじ)は、相手方の存在する事件、訴訟は相手方のいない願の提出あるいは、相手方が応訴する前を言った。
 『世事見聞録』という江戸時代に書かれた本があります。1816年に出版されたものです。これを読むと、江戸時代についての認識がガラッと変わると思います。図書館で借りられますので、ぜひ読んでみてください。
 富士山のふもとで入会権をめぐって70年のあいだに8回の裁判があったことが紹介されています。村同士の争いです。私も司法修習生のとき一度だけ行ったことがありますが、「逆さ富士」などで有名な忍草村が相手方となっています。
 著者の山口繁氏は、もちろん元最高裁長官です。福岡高裁長官をしておられたとき、私も言葉をかわしたことがあります。日本の裁判は、江戸時代から変わっていない面もあることを知ることができる本です。

福岡県弁護士会 〒810-0044 福岡市中央区六本松4丁目2番5号 TEL:092-741-6416

Copyright©2011-2025 FukuokakenBengoshikai. All rights reserved.