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2005年2月 の投稿

希望格差社会

カテゴリー:未分類

著者:山田昌弘、出版社:筑摩書房
 日本社会が、いや世界全体がグローバリゼーションの大波のなかで、大きく変わりつつあることを改めて認識させられる本です。現状分析については、なるほど、なるほど、と何度もうなずきました。ところが、対策というか、解決の処方箋のところでは、ええっ、そんなー・・・と裏切られた思いにかられ、ガックリ肩を落としてしまいました。規制緩和をさらにすすめようと言うのですから、ひどいものです。
 まずは現状認識が肝心です。グローバリゼーションの影響によって、近年、世界全体に社会から排除され、将来の希望がなくなり、やけになる人が増えている。
 リスク化がすすみ、自己責任が強調されると、リスクに備えて、事前に努力をしてもムダだということにつながる。すると、多くの人々から希望は消滅し、やる気は失われる。そこで、努力をせずに、リスクに目をつむり現実から逃避して生きるという「運頼み」の人間があらわれる。「運頼み人間」とは、ギャンブル好みの人間ということではなく、自分の人生自体をギャンブル化してしまう人間のこと。
 年功序列、終身雇用、企業内労組、社内福祉というのは日本的な雇用慣行だとよく言われるが、そんなものは戦前の日本にはなかった。
 近年、父と息子の階層の関連性は強まっており、階層は固定化する傾向にある。
 未婚化も進行している。今は男性12%、女性6%だが、これが1980年生まれの若者だと男性25%、女性18%まで生涯未婚率は上昇すると予測されている。未婚化は同棲が増えるということではない。結婚したいのにできない確率が上昇する。そもそも恋人や異性の友人がいない人の割合がこの20年で増大している。現在、40歳の人の離婚率は20%であり、いま20歳前後の若者の最終的な離婚経験率は30%になると予測されている。
 近年、急増しているのは、10歳代や20歳代前半のできちゃった婚。2人の収入がまだ少なく、生活基盤が整わないにもかかわらず、レジャーへの関心が高い。子どもの存在は生活を脅かすリスクを通りこし、子どもの存在自体が生活を送るときの邪魔ものになる。子どもの虐待が増加するわけである。
 ひきこもりは100万人、いや200万人いると見られている。ひきこもりが長期化し、20歳代、30歳代のひきこもりが増えている。
 年収の高い夫の妻の就労率は高く、年収の低い夫の妻の就労率は低いまま。不安定就労者同士で結婚し、夫も妻も低収入で失業率の高い夫婦が増えている。個人の収入の格差が、結婚によって拡大し、家族生活の二極化を加速している。
 将来に絶望した人が陥るのは、自暴自棄型の犯罪である。不幸の道連れだ。人生を捨てている人に怖いものはない。若者の絶望感は、いま以上に深くなるだろう。その先には、アディクションにふけるものや、自暴自棄になる者も増え、なかには、「不幸の道連れ」型の犯罪に走る者も出てくるだろう。人間はパンのみで生きているわけではない。希望でもって生きるのである。ニューエコノミーがうみ出す格差は、希望の格差なのである。ニューエコノミーは平凡な能力の持ち主から希望を奪っている。
 私も、弁護人になるたびに、老いも若きも希望を奪われている人がいかに世の中に多いか、本当に痛感しています。

新選組

カテゴリー:未分類

著者:大石学、出版社:中公新書
 コンパクトな新書という体裁からは想像できないほどの重厚な学術書そのものです。私より5歳も若いとは思えないほど博識な著者が豊富な文献を駆使して、新選組とは何だったのか、その実像をあますところなく描き出しています。
 たとえば、新選組には「時代に取り残された剣士集団」「復古主義思想にこり固まった野蛮な浪人たちの殺人集団」というイメージがあります。本当はどうだったのか?
 新選組は着実に洋式軍備化をすすめていた。土方歳三は、新選組が毎日全員が砲術訓練を行い、西洋鉄砲がだいぶ上達し、幕長戦争の先駆けも勤められるほどになったと自慢している。鳥羽伏見の戦いのとき、新選組はみな鉄砲を持っていた。新式の元込の鉄砲やマントとズボンを購入しており、洋装化していた。新選組は全体として鉄砲隊としての性格を基本にしつつあった。
 映画『隠し剣、鬼の爪』に東北地方の海坂藩が様式銃をもって訓練に励んでいるシーンがあるのを思い出しました。また、新選組の隊員は江戸と甲府の浪士と豪農出身とばかり思っていました。しかし、これも間違いです。その出身は東北から九州まで全国にわたっています。筑前から2人、筑後から5人も新選組に加わっているのです。そして、武士・浪人だけでなく、百姓、商人、職人、町人、医師、宗教家など、さまざまな出身階層の人がいました。いわば全国からの志願兵によって成りたっていたというわけです。
 そして、新選組の特徴は、浪人の同志的組織から、官僚制度組織になっていったということです。近藤勇がそれをすすめたのです。もちろん、これには強い反撥もうまれました。しかし、近藤勇は、厳しい法度を制し、公印をもつなどして組織化・官僚化を強引におしすすめていきました。さらに、隊員には月単位の俸給制度を導入しました。武士のような家単位の現物支給ではなかったのです。うーん、そうだったのか・・・。

アヴェンジャー

カテゴリー:未分類

著者:フレデリック・フォーサイス、出版社:角川書店
 アメリカは、世界じゅう場所はどこであれ、アメリカ人を殺したら、ブロードウェイで殺したのと同じとみなす権利を勝手に自国に付与した。要するに、アメリカの司法権は地球全体に及ぶということ。
 べつに国際会議や条約でそう決まったのではない。アメリカがそう決めただけ。多国間安全保障法、1984年の包括的犯罪管理法、1986年の反テロリスト法によって、海外でアメリカ人に対しておこなわれたテロ行為に適用される新しい領土外適用の法律が生まれた。
 フォーサイスの本はいくつも読みましたが、さすが最新の本だけあって、アメリカの身勝手さをむき出しにした世界状況をふまえたストーリーになっていて、しかも丹念に状況が積み上げられていますので、納得しながら読みすすめることができます。
 アメリカ人が外国人をいくら虐殺しようと何の問題もない。1人のアメリカ人が外国人から殺されるのは絶対に許さない。草の根をわけても捕まえて復讐しないではおかない。それがアメリカ人の醜い本質です。

天国の本屋、恋火

カテゴリー:未分類

著者:松久淳、出版社:小学館文庫
 私が純愛ものの小説に挑戦していることを知っている知人から奨められて読みました。
 夜空に綺麗な花火があがります。いえ、人の眼を驚かすようなものではありません。どちらかというと昔風の花火です。あっ、やっぱりそうですね、線香花火のようなものと思ってください。音はあまり大きくないんですが、胸の奥にツーンと鳴り響いてきます。
 そうです、かなりの高音なのに「アルルの女」のフルートのような低い響きをともなって心をゆさぶるのです。じわじわと花火が広がっていきます。色彩が少し変わります。淡い色なんです。これが萌黄色というんですね。黄色がかった緑です。それが少しずつ黄土色に変わっていきます。なんだか、春の野原でタンポポつみでもしている気分になってきます。ああ、これで終わりかな、と思っていると、最後に大きく広がった大輪の端々が軽くポンという音をたてて一斉に花を咲かせるのです。赤・青・黄いろんな色がにぎやかです。さあ、人生を楽しもうよ。そう呼びかけているっていう感じです。ほら、この花火を2人で見たら、きっと、その2人は将来うまくいきます。断言できます。きっとです・・・。これが恋火なんです。
 以上は、私の創作です。本にはこのようなシーンはありません。
 本のいいところは、想像力をかきたてて、自分を自由にいろんな空間へすぐその場から連れていってくれることです。

赤ちゃんがヒトになるとき

カテゴリー:未分類

著者:中村徳子、出版社:昭和堂
 チンパンジーの赤ちゃんを学者として育て、また、自らも2人の娘さんを出産し育てている体験にもとづいてヒトとチンパンジーの赤ちゃんを具体的に比較した本ですから、とても面白く興味深い内容です。要するに、チンパンジーの赤ちゃんとヒトの赤ちゃんはほとんど変わりはないのです。でも、大事なところでの違いがあります。それは、どこ・・・?
 チンパンジーを生後3日から6歳半まで家庭で育て、ことばを話す訓練をしてみたが、パパ、ママ、カップ、アップの4語しか言えなかった。喉頭上部と咽頭部の構造上の違いから、チンパンジーはヒトの母語のa、u、oにあたる音は出せず、舌の可動性にも限界がある。
 鏡に映る自己像を見て自分だと分かるのは、大型類人猿(オランウータン、ゴリラ、チンパンジー)とヒトだけ。ヒトも、生まれてから鏡を見たことがないときには、3歳半以上でないと映っているのが自分だとは分からない。
 サルはヒトと目をあわせない。チンパンジーの赤ちゃんがヒトの赤ちゃんに一番似ているのは見つめあうという愛情表現のできること。
 チンパンジーの母親は赤ちゃんに声をかけたり決してしない。ヒトの赤ちゃんは母親に何かモノをやろうとするが、チンパンジーにはそれはない。
 チンパンジーの赤ちゃんが母親の方を振り向くことはまずない。あることを成し遂げて親に「ほら見て、できたよ!」と言いたげに振り返るのは、ヒトの赤ちゃんだけに見られる特徴である。
 うちの子たちが赤ちゃんのころを思い出しました。立って歩みはじめたときの驚きを今も鮮明に覚えています。といっても、ロボット(アシモ)も最近では立って、走ることまでできるようになりましたが・・・。人は案外、口をつかうものです。下の娘は小学1年生のとき、数の計算をするときに、指を口元にあてながらやっていました。ああ、こうやって身体ごと数えるのかと、そのときは大発見した気持ちになりました。

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