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2004年3月 の投稿

大江戸日本橋絵巻

カテゴリー:未分類

著者:浅野秀剛、出版社:講談社
 江戸時代の人々がどんな生活をしていたのかに関心をもっている人には必見の本です。なにしろ三越デパートの前身である三井越後屋から、コンビニの先祖様まで、お江戸・日本橋近辺の商店街と、そこを行きかう人々1700人が表情豊かに描かれているのです。全長12メートルという、すごい絵巻です。残念なことにドイツのベルリンに原図はあります。
 商店の様子を見ても面白いのですが、やはり、道行く人の表情に魅かれます。足の不自由な人も歩行器をつかって町を行きます。ひな祭りの飾り人形も道路中央で売られています。武士も商人も、往来ではのびのび歩いていて、身分の差を感じさせません。女性も子どもも、のびやかに歩き、まるでお祭りでもあっているようです。
 新聞号外を読みあげる男たちがいて、人々が輪になって聞きいっています。乞食も1人だけ描かれています。ケンカして拳(こぶし)を振り上げている男たちもいます。
 絵を見るだけでも楽しいのですが、詳しい解説がついていますから、江戸の様子がさらによく分かります。店には道路に張り出して看板がたっています。これは京都や大阪では禁じられていました。今も、東京ではネオンサインがすごく華やかですが、江戸時代からの伝統なんですね。でも、ヨーロッパに行くと、日本のように華やかな看板はなく、昔のままの都市景観が維持されていて、考えさせられます。
 ビジュアルに江戸情緒を味わえる本です。

商売の原点

カテゴリー:未分類

著者:鈴木敏文、出版社:講談社
 あとがきを読んで、おおーっとのけぞってしまいました。日頃、モノカキを自称する私にとって衝撃的なことが書かれていました。この本の著者はセブン・イレブンの鈴木敏文氏となっていますが、実際のライターは福岡出身の緒方知行氏です。その緒方氏は視力ゼロに近いので、鈴木氏の講演速記録を読みたいけれど読めない。そこで、大学生のアシスタントに速記録全文を読みあげ録音テープに収録してもらいました。これだけで、実に2年かかったそうです。120分もので80本のテープになりました。それを緒方氏が聞いて、(恐らく)口述し、アシスタントがパソコンに入力していきました。これに、また2年の歳月がかかっています。そうやってできあがったのが、『商売の創造』と、この本の2冊だというのです。さすが、モノカキの世界にも上には上がいると感嘆してしまいました。すごい執念です。
 鈴木氏は毎週毎回、休むことなくセブン・イレブンの最前線に立っているマネージャーに話をし続けてきました。この1300回もの会議の速記録のエッセンスが、2冊の本にぎっしり詰まっています。ですから、面白くないはずがありません。商売人に役立つものであると同時に、私たち弁護士にとっても大いに参考になります。たとえば、弁護士も大増員の時代を迎えていますが、その競争激化をどうとらえるかということです。鈴木氏は次のように語っています。
 当初は、人口2〜3万人に1店舗でないと、売り上げは上がらなかった。いまは人口が急増し、5000人以下でも十分にやっていける。3000人に1店舗でも成り立つ。コンビニ業界でも、競争相手、つまり仲間が増えることは歓迎すべきこと。問題は、そのなかで、どれだけ差別化できるか、ということ。競争するようになって売り上げが半分に減ったというのなら、競争がないとき、基本的なことを手抜きしていた。そこへ比較できる対象が出現したので手抜きがきわだって目立ち、売り上げを減少させてしまった。これが真相だ。
 セブン・イレブンの基本4原則は、品ぞろえ、鮮度管理、クリンリネス(清潔)、フレンドリーサービス。お客様が不要と思っている商品を押しるけるのではなく、提案された商品をお客様が買って、「ああ、買ってよかった」と思えるようなものを、コンビニ側で用意して、すすめていく。
 夏に桃をおいしく食べるには、食べる2〜3時間前に冷蔵庫に入れておくのがコツ。それより長く冷蔵庫に入れっぱなしにしておくと、甘みがどんどん抜けてしまう。
 お客はタンスの中が一杯だから、衣料品をもう買わないということは絶対にありえない。それまで持っているものとは違った、心が動かされるような新しいものを提供すれば、必ずそこに購買意欲が生まれてくる。
 いまの消費は、経済学の分野というより、完全に心理学の分野にある。おもにお客様の心のもち方によって価値決定される時代だ。たとえば、スーパーで羽毛布団を売るとき、1万8000円の商品と5万8000円の商品を並べておくと、5万8000円の方はあまり売れない。ところが、あいだの3万8000円の商品を置くと、5万8000円がよく売れるようになる。1万8000円と5万8000円とではあいだの差が開きすぎているので、どうしても安い方に目が向く。ところが3万8000円の商品をはさむと三者の比較がしやすくなる。お客様はこう考える。1万8000円と3万8000円とではここが違う。3万8000円と5万8000円とでは、ここが違う。だったら、ちょっとくらい高くても、5万8000円の方が買い得ではないか、と。これは、心理学で説明できるもので、経済学では説明できないこと。
 従業員やパートのための教育マニュアルとか教育のためのビデオというのは、まったく不要、有害。教育というのは画一的なマニュアルで示すことはできない。
 さすがと思わせる内容がぎっしり詰まった本です。

エデンの彼方

カテゴリー:未分類

著者:ヒュー・ブロディ、出版社:草思社
 26歳のイギリス青年が、カナダで日雇い労働者の住む町で生活した。2年後、こんどは北極地方でイヌイットとともに生活をはじめた。
 北極地方の自然は厳しい。冬はマイナス40度。まぶたが凍りついて開かなくなる。寒風にやられてあふれる涙が、たちまち氷結して上下のまぶたをとじあわせる。目の前が真っ暗になる。でも、手袋の甲で眼球を押さえればすぐに氷は解けるので、あわてることはない。
 イヌイット社会は平等で分けへだてのない社会なので、敬語や丁寧語は必要ない。地位や身分の違いを示す表現もない。また、悪態や罵詈雑言に類する言葉もない。
 イヌイットのような狩猟採集民は歴史、精神性、実用的な知識など、生活全般にわたって話し言葉が頼みである。それだけに話術はきわめて重要で、成人はすべて雄弁でなくてはならない。狩猟採集民は、情報であれ、食料であれ、持っているものを分かちあう。知識を共有する根本の必要は、すべての狩猟採集経済に通底する。情報の秘匿は重大な危険を招来する。
 狩猟採集民の平等主義と個人主義は間違いなく女性の地位を高めている。狩り場と漁場は母系が受け継ぎ、女性の首長をいただいている種族が少なくない。礼式にこだわらないのも、男女平等と、お互いを尊敬する精神の現れである。格式張らない狩猟採集民の慣習は男女平等の模範である。女性は夫の強権を恐れず、暴力に怯えることもない。
 狩猟採集民の天分は、すすんで他人から学び、他人(ひと)のために働くのをいとわないばかりではない。なにより彼らの文化を特徴づけているのは、資源とその利用の均衡、すなわち直観と詳細な知識から結論を引き出し、敬愛に結ばれた人間関係に身を委ねることである。
 農耕民の歴史は、狩猟採集民の歴史を圧殺してきた。この先、何百という狩猟採集民の言葉が消滅するのではないかと今危惧されている。人類にとって、その損失ははかりしれない。その言葉の喪失は、人間の可能性の幅を狭くする。狩猟採集民がいなければ、悲しいかな人類の存在価値は逓減する。狩猟採集民がいることで、我々は円満な全人たりうる。
 イヌイットは、エスキモーの大半をしめる民族である。過酷な大自然のなかでも豊かな人生を過ごしていることが紹介されている。そこには豊富なモノはない。しかし文明の器具がなくても心満ちた生活はありうることが、著書自らの体験を通して語られている。

バンコク・ヒルトンという地獄

カテゴリー:未分類

著者:サンドラ・グレゴリー、出版社:新潮社
 懲役25年の刑を受け、7年半をタイとイギリスの刑務所で過ごした若いイギリス女性の体験談が赤裸々に語られています。
 彼女は27歳のとき、麻薬(ヘロイン)の密輸、つまり運び屋になったのです。イギリスの中産階級の娘として育った彼女は、両親との折り合いが悪く、勝手気ままな生活をはじめ、タイにのがれてきました。そこで英語教師などをしていたのですが、ついに旅費にも事欠くようになり、麻薬ブローカーの甘いささやきに乗ってしまったのです。大量の麻薬を運んで死刑にならなかったのは、むしろ幸運でした。ラーット・ヤーオ刑務所での生活が始まります。
 刑務所内では闇屋が繁盛しています。ナイフもタバコも薬物も、何でも買えます。お金も借りられます。ただし、超高利です。1日5割なのです。
 ところで、タイとイギリスとの間には、受刑者移送条約があり、終身刑でなければ、タイで4年間服役したらイギリスに移されて残刑をつとめることができます。彼女は32歳になってまもなく、ロンドンのホロウェイ刑務所に移ることができました。
 ところが彼女は、まだタイの方が良かったと嘆くのです。新聞が読め、ラジオが聴け、電話もかけられるというのに・・・。タイでの環境は惨めであったが、少なくとも自分がまんざらでもない人間であるという感覚はあった。特別扱いされなかったし、差別もされなかった。ところが、イギリスには非常に切迫した孤立感と鬱屈感があった。気がつくとはじき出され、何の理由もないのに詮索されるように見えた。彼女は、ひたすら自殺することのみを考えました。
 イギリスの刑務所では職員と収監者の情事は日常茶飯事で、多くの囚人は見て見ぬふりをしている。彼女も妊娠を本気で心配したことがありました。
 2000年7月時点で、1293人のイギリス人が海外76ヶ国の刑務所に入っていました。大半は麻薬関連です。タイだけでも33人が刑務所に服役しています。お金に困った人々をターゲットとして、甘い言葉で麻薬の運び人にさせようとするのです。単身女性が身なりの整った魅力的な男性の麻薬密売人の標的になりやすいという彼女の指摘に、つい私は娘のことを心配してしまいました。

一勝九敗

カテゴリー:未分類

著者:柳井正、出版社:新潮社
 ユニクロの会長が失敗談を正直に語った本です。私とまったく同じ世代ですが、率直な語り口に好感をもって読みました。ユニクロは、3ヶ月内は返品自由、広告の品切れ防止、店の清潔・整頓などで商品の認知度を高めました。
 例のフリースは1200万枚売るのを目標にして、2600万枚売り上げたそうです。東レから原料を買い、インドネシアで糸にして、中国で織って染色・縫製した。数百万点つくることで低価格と高品質を可能にした、というのです。すごいスケールです。
 店長が40代がいいとか、スーパー店長の収入は年収3000万円とか、並みの発想ではありません。マニュアル人間ではだめだとも強調しています。
 23条の経営理念を紹介しています。もっと短かくできるのではないかという気が私もしますが、ユニクロ独自の理念を語るには、これが必要だといって、短かくはしないとのこと。何事によらず、自分の頭で考えることの大切さが強調されています。

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