弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2023年10月21日

孤島の冒険

人間


(霧山昴)
著者 N.ヴヌーコフ 、 出版 童心社

 千島列島の沖合で、たまたま船の甲板に出ていたところ、突如として押し寄せてきた大波にさらわれ、ようやく島にたどり着いた。しかし、そこは無人島。14歳の少年が、どうやって1人、島で生きていくのか...。
 今から30年も前の、まだソ連だったころの話です。47日間、たった1人で生き抜いた実話が物語になっています。
 小さな無人島ですが、幸いなことに泉が湧き出していて、小さな池になっていましたので、飲み水には困りませんでした。そして、食べ物です。まず、山でゆり(百合)を見つけ、その根(ゆり根)を食べました。少年は、ゆり根を食べられることを知っていました。学者のお父さんと一緒に山に入って、ゆり根を見つけて食べられることを教えてもらっていたのです。そして、野生のネギ(マングイル)も見つけました。お父さんから、シベリアの山を一緒に歩いたとき、いろんな食べられる草を教えてもらっていました。食べられるときは食べてみたので、はっきり覚えていたのでした。
次の課題は、火です。マッチがないなかで、火をつけるというのは難しいと思います。土台になる石に少しへこみをつくり、弓のつるを棒のまわりにまきつけて、弓を早くまわす。周囲には乾いた苔(こけ)と木っぱを置いておく。すると、火がついた...。
実は、写真がないので、本当のところは、弓のつるをどうやって早く動かしたら、乾いた苔が燃え出すのか、私には分かりません。それでも、ともかくこの少年は火を起こすことができたのです。一度、火を起こせば、次からは簡単です。タネ火を保存しておいたら、火をおこすのは自由自在になります。
 ニューギニアの密林に日本敗戦後も10年間も潜んでいた元日本兵たちは、メガネのレンズを2枚組みあわせて火を起こしていました。やはり、生き延びるためには、知恵と工夫が必要なのですよね。
 魚釣りをしようとしましたが、うまくいきませんでした。適当なエサが見つからず、返しのある釣り針がつくれなかったのです。魚のかわりをしたのが、イガイという小さな貝です。岩に付着しているイガイを焼いて食べるとおいしいのでした。
 島に流れ着いてからの8日間で、人間にとって一番大切なことは困難を恐れないこと、気を落とさないことだと知った。こんなことは何でもないこと。もっと嫌なことだってあるんだ。自分に、そう言い聞かせる。そうすれば、絶体絶命だと思うような状態からでも、抜け出す道は、きっと見つかるのだ。
 島に来てから、少年は、なんて自分は物知らずなんだろうと何度も悔(く)やんだ。もっと、大人たちから、いろんなことを教えてもらっておけばよかったと反省した。
 もうひとつ気がついたことがある。それは、どんな立場に立っても、決してあせるなということ。あせり出すと、もう手違いばかり。自分で自分を疲れさせるばかりだ。
少年は無人島で風邪もひいた。それでも、お湯をわかして、のばらのお茶を10杯も飲むと、4日で治った。やはり生命力が旺盛なのです。
かもめを弓矢で撃ち落として食べようとしたが、かもめに充てることは出来なかった。そして、かもめのひなは可愛くて、可哀想で殺して食べることはできなった。
 お父さんが言ったことを少年は思い出した。
 「運命が、きみを悪夢の中でさえ見たこともないような所に追いやるかもしれない。生き抜くためには、そこでも普段のままの自分でいること。物事をよく見きわめ、チャンスをとらえ、行動するのだ。いつも、どの仕事も、どんなに嫌な仕事も、最後までやり抜く。ひとつ所を、穴があくまで叩(たた)く。そのとき、愚か者が叩くような叩き方はしないこと。そうしたら、何でもやり遂げることができる」
 いやあ、実にすばらしい父親です。きちんとコトバで、こんな大切なことを息子に伝えられるなんて...、感動します。
 少年は大波で打ち上げられた無人の船に入りこみ、そこで火を起こして船の煙突から煙を出しているうちに眠ってしまった。そこをソ連の国境警備隊に発見されました。いやあ、すごい知恵と勇気のある少年の冒険談です。
(1989年4月刊。1340円)

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