弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2023年9月18日

風の少年ムーン

アメリカ


(霧山昴)
著者 ワット・キー 、 出版 偕成社

 さすがにアメリカは広い国ですね。森の中に父と子がひっそりと隠れ棲むことができていたというところから話が始まります。少し似ているのが『ザリガニの鳴くところ』です。この話の展開には泣けて泣けて仕方がありませんでした。身近な女性に勧めたところ、翌日、本が戻ってきたので、あれっ、気に入らなかったのかな、そんなはずはないけど...と思うと、意外なことに、読みはじめたら、途中で止まらなくなって、ついに一晩で読了したというのです。これにはたまがりました。あれこれの人に貸していたら、現在、所在不明です。もう一冊、買おうかどうか思案中です(誰かに勧めるために...)。
 哲学者ソローの森の中で暮らす話にも心が惹かれますが、森の中で本当に何十年も暮らしたという実話にも驚きました。
さて、この本は、森の中、奥深く、父親が10歳の男の子と二人で生活しています(小説です)。母親は先に死亡しました。父親はベトナム戦争に参加した復員兵。政府に頼ったらいけないどころか、明らさまな反政府の思想をもっています。といっても、反政府活動をするというのではなく、森の中で、政府に頼ることなく生活するだけです。といっても、森の近くの雑貨商には、ときどき行って、銃の弾丸(たま)など、森の中での生活に必要なものは仕入れていきます。そのとき、森の中で獲った動物や、自分たちで育てている野菜を買い取ってもらい、その代金で、弾丸などを購入します。
 森で生き抜く知恵と術(すべ)を10歳の息子に伝えきったところで、父親は森で転倒、骨折し、傷が悪化して亡くなってしまいます。
 さあ、10歳の少年は森の中で一人で生きていかなければなりません。父親のすすめを真に受け、少年は遠いアラスカを目ざすことにします。でも、少年は警察官に見つかり、施設に収容されます。自由奔放に生きてきた少年には耐えられません。しかも、アラスカに向かう夢があるのです。収容者仲間(もちろん同じ少年です)と一緒に施設を逃げ出し、森に入り、生活しはじめます。少年を一度つかまえた警察官が追ってきます。どうやってそれをかわすか...。
 お盆休み、よくエアコンのきいた喫茶店で一心不乱に読みふけり、厚さを忘れ(外は炎暑ですが、店内は快適温度)、一気に読了しました。
 アメリカ・アラバマ州の森で狩猟や釣りをして幼少期を過ごしたという著者の体験が見事に生かされていて、ノンフィクション自伝かと思ったほどです。わが家の本棚に前から飾ってあって気になっていたので、お盆休みに挑戦してみたのです。時を忘れるとは、このことでした。
(2010年11月刊。1800円+税)

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