弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2023年9月11日

本の夢、本のちから

人間


(霧山昴)
著者 椎名 誠 、 出版 新日本出版社

 著者は世界中を駆け巡っていることがよく分かる本です。体力に自信がなく、しかもコトバの通じないところには本能的に拒否感をもつ私は、行った人の体験記を読んで追体験したつもりになって、それで良しとしています。そりゃあ、私だって、ピラミッドを見てみたいし、マチュピチュにのぼってみたいし、イースター島やガラパゴス島にも出かけてみたいという気持ちは、気持ちだけはもっています。でも、そこに至るまでの道中の苦難を考えたら、写真を手にとって眺め、苦労話をエアコンの利いたところで、熱いお茶を飲みながらじっくり味わってすますことで満足します。
 日本人は、世界でも相当に旅行好きな国民と言われている。私も、たしかにそうだと思います。江戸時代にも日本人はどんどん旅行に出かけています。しかも、無銭旅行も大流行していました。その典型が伊勢参りです。そして、戦前までの日本は旅人を止めてくれる家が日本全国至るところに余りました。
 ところが、今や、寺の境内の隅にキャンプを張ろうとしても寺は拒否するは、近所の人が文句を言いに来るわで、泊まるのも容易ではないそうです。すっかり寛容さが失われてしまったようで、悲しい限りですね。
 世界を自転車で一周しているスイス人は、日本人を皮肉って、こう言った。
 「日本はアウトドアライフの盛んな国だと聞いていたけれど、キャンプできる場所は限られていて、テントが張れる森や野原がない。しかも、海岸はゴミだらけで、川の水はどこも飲めない。ところが、不思議なことに、アウトドア用品を売る店は全国どこにもある。それを買った人は、いったい、どこで、何をしているのか。もしかすると、アウトドアが盛んだというのは間違いで、本当は日本はアウトドア用品を買うのが盛んな国ではないのか・・・」
いやあ痛烈な皮肉ですが、半分あたっている気がしますよね・・・。
 相手と話すとき、もっとも相手の目を見ない、見ないようにするのは日本人。その反対に、もっとも強烈に、終始、相手の目をにらみつけるように話すのはアラブ系の人々。たしかに、そうなんですよね。弁護士の仕事として相談に乗っているとき、相手の人の目を見るのは、ときどきだけです。じっとじっと見ているなんてことはありません。むしろ、書類を指し示したりしながら話すほうが多いです。でも、ここ一番、ここは説得の切所、ヤマだと思うときは、じじっと、目を見つめながら、声を低めて話しかけることにしています。
 それにしても、コロナ禍のせいで、マスクをしている人への対応は困りました。顔色、表情が読みとれないのです。目だけでは困るのです。口元そして全体の表情も大事なんです。
 この本で紹介されている旅行記を早速、10冊、ネットで注文して読むことにしました。
(2018年10月刊。1800円+税)

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