弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2023年9月 8日

新興大国インドの行動原理

アジア


(霧山昴)
著者 伊藤 融 、 出版 慶応義塾大学出版会

 インドという国は、私にとって理解しがたい、不思議な国です。
 ハマトマ・ガンジーは、今もインドで尊敬されていると思うのですが、かといってその非暴力主義をインドが今も実践しているかというと、とてもそんな感じではありません。中国ともパキスタンとも武力衝突し、スリランカにも軍隊を送ったりしています。
それでも、インドという国が急成長をとげていること自体は間違いありません。2018年のGDPは、2兆7千億ドルを超え、世界経済の3.2%を占めている。これは、イギリスやフランスと肩を並べるほどの経済力があることを意味している。
 インドへ渡航する人も急増していて、年間1056万人(2018年)だ。日本人もインドに出かけている。1980年に3万人だったのが、2018年には23万6千人と8倍近くになった。私は申し訳ありませんが、行く気はありません。
 インドに在住する日本人は、1980年に1千人に届かなかったのに2018年には1万人近く、という状況になっている。自動車のスズキは、昔からインドで大変人気があるそうですね。インドに進出した日系企業は1441社、5102拠点。
 インドは自主性の確保についての強いこだわりがある。自主独立にこだわる外交を推進している。これ自体はとてもいいことですよね。日本はいつだって、アメリカの顔色をうかがうばかりですから...。
 インディラ・ガンジーは、印ソ条約が抑止効果をもつことを期待すると言い切った。そのうえ、同盟ではなく、従来の非同盟政策と矛盾することはほとんどないと宣言した。これは、どうなんでしょうか...。
 インドは、ソ連依存をあらゆる面で深めた。
 インドのモディ首相などに、ネルーやガンジーが築き上げてきた、「非同盟」に対するノスタルジーは、いっさい感じられない。
 「ダルマ」は、通常「法」と訳されているが、正義にかなった生き方、善行、それぞれの分に応じた責任という広い意味をもつ。
 スリランカで内戦が始まったのは1983年のこと。支配集団は仏教徒のシンハラ人。ヒンドゥー教徒のタミル人が疎外感から反乱を起こした。スリランカの分離主義勢力が力をもち、それを支援すれば、インド連邦制国家の民主主義そのものの否定につながる。スリランカ内戦は、2009年にいちおう終結した。
 インドはバングラデシュとも抗争した。インドの人口は13億人。しかも若年層が多い。購買力のある中間層が台頭しつづけるインド市場は実に無限の市場可能性がある。
 中国はインドにとって、自らのグローバルな舞台への飛躍への大きな障害になっている。しかし、インドのさらなる発展のためには、中国との協調が欠かせない。この矛盾のなかにインドはある。
インドとロシアの緊密な関係がとくに目立つのは、兵器とエネルギー分野。インドにとって、防衛装備品についてロシアは最大の供給地先。
 日本は、インドに対して、非軍事的な手法で貢献できる余地が十分にある。でも、それを生かそうとしませんよね、日本政府は...。
 今のインド首相のモディは、チャイ売りの少年から身を起こした。
粘り腰の外交攻勢というのを日本はインドに学んだら良さそうです。いつまでもアメリカべったりでは救いようがありません。世界のなかの日本に存在感がない、このようにしか考えられません。自主独立の気概をもつ日本人がもっと増えてほしいものです。
(2020年9月刊。2400円+税)

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