弁護士会の読書

※本欄の記述はあくまで会員の個人的意見です。

2023年8月 5日

日本の自然をいただきます

社会


(霧山昴)
著者 ウィンフレッド・バード 、 出版 亜紀書房

 アメリカ人の新聞記者、翻訳者そしてライターである著者が日本の地方都市で暮らしながら日本全国の食を求めて歩いた見聞記です。
阿蘇では野菜の天ぷら、タンポポの花、カキドオシ、クレソン、ヨモギ、オオバコ、ユキノシタ。揚げたての天ぷらに、淡い緑色の塩を振りかける。この塩は、ハコベのエキスと塩を煮詰めてつくったもの。飲み物は、松葉サイダー。タンポポ、松葉、ドクダミを自家発酵させてつくったもの。
長野でも野菜の天ぷら。氷温の水と花ころもの天ぷら粉を軽く混ぜ合わせる。野菜は水洗いしなくてもよいが、必要なら、さっと洗う。水気は完全に切らなくてよい。揚げ油は、天かすがゆっくり浮いてくるくらい十分に熱する。まずはギョウジャニンニクの葉を入れ、油に香りづけをする。野菜の天ぷらは衣が薄く、十分に揚がったら、つまみ上げて、よく油を切る。そして、何より大切なのは、熱々の状態で食べること。
 滋賀県高島市朽木(くつき)では、トチ餅(もち)を食べる。トチノミは日本の「原初の食物」だ。飢饉に備える大切な保存食だった。村では、女子が嫁ぐとき、家のトチノキを譲られた。村にある一本のトチノキの実を摘みとる権利を譲される。栃餅ぜんざいは、トチノミの苦みがあるため、小豆が甘すぎず、まろやかに味わえる。
 日本では、4000年も前から、到るところでトチノミが食べられていた。ところが、飢饉がなくなってしまうと、戦後の近代化が急ピッチで進むなかで、ついに不要な食材になってしまった。トチノミを食べられるようにするには2週間かかる。苦みを生み出すサポニンとタンニンを抜くのには、それくらいかかるのだ。
 岩手では、わらび餅。ワラビの祖先のシダ類は、草食恐竜の主要な餌(エサ)の一つ。恐竜は絶滅したけれど、ワラビはしぶとく生き残った。ワラビの根茎からとれる繊維は、江戸城の生け垣を結ぶ。
 飢饉の多かった江戸では、「かてもの」は代用食品となった。
 日本の食文化の源流を探る楽しい旅でもありました。
(2023年3月刊。2200円)

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