「ほう!」な話『「ほう!」な話』は福岡県弁護士会の弁護士が西日本新聞紙上で執筆している法律コラムです。
最新のコラムは水曜日朝刊に掲載されます。

2013年4月3日

国費で入院、通院治療も

▼Q 息子が他人にけがをさせて逮捕されました。妄想(統合失調症)が原因のようです。刑務所に入らなければならないのでしょうか。

▼A 犯行時点で、精神障害により是非弁別能力(自分の行動が悪いと分かる力)か、行動制御能力(犯行を思いとどまる力)がない場合、心神喪失として無罪。それらの能力がゼロではないが足りない場合、心神耗弱として刑が必ず減軽されます。息子さんが起訴されても、心神喪失の状態だったと裁判所が判断すれば、刑務所に行く必要はありません。

しかし、傷害事件なので検察官が「医療観察法上の審判」を申し立てる可能性があります。これは殺人や放火、強姦(ごうかん)罪など重大な他害行為で刑事責任を問えない場合で、裁判所が精神科への入院や通院を強制するものです。人権保障のため、弁護士が国選付添人として選任されます。

審判で入院決定が出ると、国費で専門職による治療を受けることになります。国が医療観察法上の入院施設として指定する病院は28カ所(2012年3月末現在)しかなく、自宅から遠い病院に入ることもあり得ます。入院期間の制限はありませんが、6カ月ごとに手続きが必要です。

通院決定の場合、国費により国指定の病院で治療を受けます。保護観察所が立てた計画に従い、関係者によるケア会議を通じて福祉機関と連携しながら社会復帰調整官が見守りや指導による精神保健観察をしていきます。期間は原則3年が上限。

まずは息子さんの現状をよく知る親族などが、息子さんの弁護人に疾病のことを詳しく伝えることから始めてください。

◆福岡県弁護士会の相談窓口案内=(0570)783552(なやみここに)。

西日本新聞 4月3日分掲載(吉武みゆき)

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