「ほう!」な話『「ほう!」な話』は福岡県弁護士会の弁護士が西日本新聞紙上で執筆している法律コラムです。
最新のコラムは水曜日朝刊に掲載されます。

2010年12月23日

「ほう!」な話特別版

2年前の年末、リーマン・ショックに端を発した不況の嵐が吹き荒れ、解雇や雇い止めで職を失った人があふれ、東京に「年越し派遣村」が開設された。その後も雇用環境は厳しく、今年もまた、不安を抱いたまま年の瀬を過ごしている人も少なくない。そこで毎週金曜掲載の「『ほう!』な話」特別版として、福岡県弁護士会の協力のもと「紙上派遣村」を企画した。4人の弁護士による解説を座談会形式に再構成し、無事に新年を迎えるための知識や情報をまとめてみた。

●生活保護 当番弁護士を発足

-「派遣村」をきっかけに、生活保護の行政窓口で横行していた「水際作戦」が社会問題化しました。

A 申請書を渡さなかったり、事前調査が必要だと言って簡単に受理しなかったり。申請自体をためらわせたり、諦めさせたりするよう仕向けるんです。

B 保護決定後も「指導」と称して法律で認められない干渉を繰り返し、従わないと保護を打ち切るという問題も後を絶ちません。

A 解雇され、家を失い、借金を背負い、食べる物にも困る。これだけ失業が深刻化すると、市民の命にかかわる問題です。

C 「派遣村」にしても、年末だけでは間に合いません。もっと日常的、継続的に生活困窮者の相談に応じていかないと。

-ただ、失業はハローワーク、生活保護は自治体など窓口が縦割りで、利用しにくかったですね。

A そこで昨年、厚生労働省が自治体とハローワークに、ワンストップサービスデーを呼び掛けました。一つの窓口で多様な相談に対応でき、便利でした。

D 福岡県や北九州市のように、生活保護の担当職員を派遣しなかった自治体もありましたが…。

C 弁護士も役割を果たさないと。例えば福岡県弁護士会は、労働局の巡回相談を担当したり、生活保護の当番弁護士制度(生活保護支援システム)を発足させたりしました。

A 弁護士が同行したら、担当者の対応が変わったというケースも多いです。まずは相談を。

●多重債務 法改正で負担軽減

-年末は強盗事件が多発します。今年も多重債務に苦しむ人が多かったようです。

B 消費者金融などへの返済のため、複数の業者から借りては返しを繰り返す状態ですね。そこで今年、改正貸金業法が完全施行されました。

A これまで貸金にはグレーゾーンがありましたから。利息制限法の利率を上回る金利で貸した場合、民事上は無効となるのに、刑事上では罰せられない部分が生じていたんです。

B そのグレーゾーン金利を撤廃し、上限を引き下げたのが改正のポイント。借り手側の負担が軽くなりましたね。

-ほかに改正点は?

C 年収などの3分の1を超える貸し付けを原則禁止する総量規制も導入されました。

D 専業主婦(夫)はハードルが高くなった。配偶者の同意や年収を証明する書類がないと借りられなくなりました。

B それゆえ、かえって違法な高金利の金融業者、いわゆるヤミ金の被害が増えるかもしれません。クレジットカードのショッピング枠を現金化する新しい手口にも気を付けて。

A お年寄りの被害も心配です。健康食品をローンで購入させたり、高金利で貸し付けたり。

C 特に身寄りのない人や認知症の人が狙われます。福岡県弁護士会も、県警や消費生活センターと情報交換し、被害防止の協力体制を進めています。多重債務の相談は無料で受け付けています。

B 借金問題は必ず解決方法があります。1人で悩まないでください。

●労働問題 短期間で審判解決

-今年の特徴は?

C 全体として労働相談は昨年、一昨年に比べて若干減ったようです。

B それまでが多すぎたという面もありますが…。

C パワハラや長時間の残業が続いた結果、うつ病などの精神疾患で休職するケースが目立ちます。違法な解雇や雇い止め、支払われなかった残業代の請求事件も後を絶ちません。

-こうした場合に使いやすい制度はありますか。

C 労働局や労働者支援事務所のあっせん制度、裁判所における労働審判制度があります。

A 特に労働審判は解決までの期日が短いのが特徴です(原則3回以内)。解決率も高く、福岡県では8割を超えています

D スピーディーな分、弁護士費用も通常の訴訟より安くなっています。

C 経済的に苦しい人は日本司法支援センターの各県の事務所(法テラス)に相談してみてください。援助決定が出れば、弁護士費用を立て替えます。

B 不当解雇にも対応しますよ。暫定的に失業手当の仮払いを受けたり、賃金仮払いの仮処分を勝ち取って裁判を継続したりする方法もあります。

A 労働者は生活を維持しながら権利を争わないといけない。生活面のケアも欠かせません。

C 日本は「働く」ことに関するルールが確立されているとはいえない。泣き寝入りせず、弁護士や司法書士など専門家の力を借りましょう。1人でも加入できる労働組合もあります。

●貧困ビジネス 九州に拡大の恐れ

-「貧困ビジネス」が暗躍しているそうですが。

D ホームレスなど生活保護が受給できそうな人に人助けやボランティアと称して近づく。そして受給できるようになると、大人数を狭い一室に押し込んで、劣悪な住環境に住まわせたりするんです。

A いわゆる「囲い屋」。家賃などの名目で生活保護費をピンハネしたり、手数料や利用料と称して不当に報酬を得たり。

B 他人の貧困につけ込んで生業とする輩(やから)たち。大阪で初の逮捕者が出て、次第にその存在が明るみに出てきました。

-九州ではまだ逮捕者などはいないようですが。

D ただ、押し寄せてきている気配はあります。福岡市が10月から、ホームレスに戻らないために自立後も継続支援する「適正住宅調査情報提供事業」を始めました。これらも、貧困ビジネスの存在を暗に前提とした対応策であることは否めないでしょう。

C 一方で、働いても働いても貧困から抜け出せない人たちがいる。大人の貧困問題が子どもたち次世代にも連鎖すると言われる。確かに「勤労観」は多様化しているかもしれないけれど、やはりおかしい。

D 失業対策はもちろん大切です。同時に、働く人やその家族が労働に見合うだけの収入を、きちんと適切に保障される-そんな世の中になるよう、抜本的な対策を社会全体で真剣に考えるべき時期にきていると思います。
<解説を担当した4弁護士>
平田 広志さん
春田 久美子さん
井下 顕さん
佐藤 力さん

西日本新聞 12月23日分掲載

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