福岡県弁護士会 宣言・決議・声明・計画

声明

2023年6月22日

トランスジェンダーである弁護士へのヘイトクライムを非難し、差別のない社会を目指す会長声明

 大阪弁護士会に所属する弁護士に対し、2023(令和5)年6月3日から5日にかけて、事務所のホームページの問い合わせフォームで、トランスジェンダーであることを揶揄するようなメッセージや、殺害予告が書かれたメッセージがあわせて15通届いたことが報道された。
 上記メッセージの送信行為は、当該弁護士がトランスジェンダーであることやトランスジェンダーをはじめとする性的少数者の人権活動に取り組んでいることを理由として脅迫するもので、特定の属性を持つ個人や集団への偏見や憎悪に基づくヘイトクライム(憎悪犯罪)に他ならない。
 人権活動に取り組む弁護士に対する業務妨害行為であるだけでなく、当該弁護士のみならず、これを見聞きした性的少数者をも深く傷つけ、その平穏に生活する権利を害するものであって、非常に悪質である。このような行為を断じて許すことはできない。
 さらに、かかる行為は、憲法の基礎原理である個人の尊重、人格の尊厳を否定するものであり、決して看過することはできない。
 当会は、殺害予告を受けた弁護士が表明した脅迫に屈しないとの決意への連帯を表明するとともに、全てのトランスジェンダー当事者の人格が尊重され、平穏に生きることができる差別のない社会の実現に向けて、今後とも力を尽くす所存であることをここに表明する。

2023年(令和5年)6月21日

福岡県弁護士会

会長 大神昌憲

2023年6月21日

中小企業への支援策を拡充しながら労働者の生活を支えて経済を活性化するために、最低賃金額の大幅な引上げを求める会長声明

 福岡地方最低賃金審議会は、昨年度、福岡県最低賃金を前年度比30円増額の時間額900円とする答申を行い、当該答申どおりの改正が行われた。しかし、時給900円は、未だ、いわゆるワーキングプアと呼ばれる水準にとどまっている。
 原材料価格の高騰や円安の進行、長期に及んだ新型コロナウイルス問題やロシアのウクライナ侵攻などの影響で、食料品や光熱費など生活関連品の価格が急上昇していること、そしてこの傾向はもはや一過性のものではないことをふまえると、労働者の生活を守り、経済を活性化させるためには、全ての労働者の実質賃金の上昇又は維持を実現する必要があり、そのためには最低賃金額を大きく引き上げることが必要である。


 また、最低賃金の地域間格差が依然として是正されていないことは重大な問題である。2022年の最低賃金は、最も高い東京都で時給1072円であるのに対し、最も低い10県では時給853円であり、その間には219円もの開きがある。上述のとおり福岡県も時給900円にとどまっており、東京都とは172円もの開きがある。なお、2021年の最低賃金は、福岡県が870円、東京都が1041円(171円の差)であり、格差はむしろ拡大している。
 地域の最低賃金の高低と人口の増減には強い相関関係があり、最低賃金の格差は、最低賃金が低い地域の人口減ひいては経済停滞の要因ともなっている。大都市部への労働力の集中を緩和し、他の地域に労働力を確保することは、地域経済の活性化のみならず、大都市部への一極集中から来る様々なリスクを分散する上でも極めて有効である。
 地域別最低賃金を決定する際の考慮要素とされる労働者の生計費は、最近の調査によれば、都市部と地方の間でほとんど差がないという分析がなされている。これは、都市部以外の地域では、都市部に比べて住居費が低廉であるものの、公共交通機関の利用が制限され、通勤その他の社会生活を営むために自動車の保有を余儀なくされることが背景にある。そもそも、最低賃金は、労働者が「健康で文化的な最低限度の生活」を営むために必要な最低生計費を下回ることは許されない。労働者の最低生計費に地域間格差がほとんど存在しない以上、最低賃金の地域間格差を維持することは適切ではなく、地方の最低賃金を都市部の水準まで引き上げることが求められる。


 厚生労働省の中央最低賃金審議会に設置された「目安制度の在り方に関する全員協議会」が本年4月6日にまとめた報告では、現行のAないしDの4段階の目安区分を3段階とすることが提案されている。しかし、これではCランクの引上額を、Aランクの引上額より大幅に上回るものとするなど抜本的な方策でも採られない限り、地域間格差の迅速な解消は望めない。中央最低賃金審議会は、現行の目安制度が地域間格差を解消できなくなっていることを直視し、全国一律最低賃金制度実現に向けた提言をするなど、地域間格差の解消に向け、目安制度に代わる抜本的改正策を検討すべきである。


 最低賃金引上げに伴う中小企業への支援策について、現在、国は「業務改善助成金」制度による支援を実施している。しかし、その支援は未だ十分とは言い難く、日本の経済を支えている中小企業が、最低賃金を引き上げても円滑に企業運営を行うことができるよう十分な支援策を講じることが必要である。例えば、社会保険料の事業主負担部分を免除・軽減すること、原材料費等の価格上昇を取引に正しく反映させることを可能にするよう法規制することなどの支援策も有効であると考えられる。


 当会は、引き続き国に対し中小企業への十分な支援策を求めるとともに、本年度、中央最低賃金審議会が、厚生労働大臣に対し、地域間格差を縮小しながら全国全ての地域において最低賃金の引上げを答申すべきこと、福岡地方最低賃金審議会が、福岡労働局長に対し最低賃金の大幅な引上げを答申すべきことを強く求める。


2023年(令和5年)6月21日

福岡県弁護士会

会長 大 神 昌 憲

2023年6月15日

名古屋地裁・福岡地裁判決を受け、直ちに、すべての人にとって平等な婚姻制度の実現を求める会長声明

1 同性間の婚姻ができない現在の婚姻に関する民法及び戸籍法の諸規定(以下「本件諸規定」という。)の違憲性を問う裁判において、2023(令和5)年5月30日に名古屋地方裁判所は、本件諸規定が憲法14条1項及び24条2項に違反する旨の判決(以下「名古屋地裁判決」という。)を、これに続く同年6月8日、福岡地方裁判所は、本件諸規定が憲法24条2項に違反する状態である旨の判決(以下「福岡地裁判決」という。)を、それぞれ言い渡した。

2 名古屋地裁判決は、 婚姻制度が、両当事者の関係性を保護するための法律上の効果を付与するだけでなく、その関係性を公証し、正当な関係として社会的承認を与えるための極めて有力な手段となっていることを指摘した。そして、両当事者の関係が国の制度により公証され、その関係を保護するのにふさわしい効果を付与されるための枠組みが与えられるということ自体が重要な人格的利益であると述べ、このような重要な人格的利益を享受できないことにより同性カップルが被る不利益は重大であり、その規模も期間も相当なものであって、その影響は深刻と指摘した。
  その上で、同性カップルは法律婚制度に付与されている重大な人格的利益を享受することから一切排除されているのに対し、その状態を正当化するだけの具体的な反対利益は十分に観念しがたく、もはや個人の尊厳の要請に照らして合理性を欠くに至っており、国会の立法裁量の範囲を超えているとして、本件諸規定は、同性カップルに対して、その関係を国の制度によって公証し、その関係を保護するのにふさわしい効果を付与するための枠組みすら与えていないという点で、憲法24条2項に違反すると結論付けた。
  さらに、本判決は、同性愛者にとって同性との婚姻が認められていないということは、性的指向により別異取扱いがなされていることに他ならないと指摘し、憲法14条1項にも違反するとした。

3 福岡地裁判決は、永続的な精神的及び肉体的結合の相手を選び、家族として公証する制度は、現行法上婚姻制度しか存在せず、我が国では、公的な権利関係に留まらず、私的な関係においても家族であることが公証されることで種々の便益を得られる仕組みが多数存在するところ、そのような事実上の利益も、公証の効果として一律に発生するものであり、これを発生させる基本的な単位であるはずの婚姻ができず、その効果を自らの意思で発生させられないことは看過しがたい不利益であると指摘する。このことと、国民の意識における婚姻の重要性を併せ鑑みれば、婚姻をするかしないか及び誰とするかを自己の意思で決定することは同性愛者にとっても尊重されるべき人格的利益であると認めた。
  そして、本件諸規定の下で同性カップルは婚姻制度を利用することによって得られる利益を一切享受できず法的に家族と承認されないという重大な不利益を被っているとし、婚姻制度の実態や婚姻に対する社会通念が変遷し、同性婚に対する国民の理解が相当程度浸透していることもふまえると、同性カップルに婚姻制度によって得られる利益を一切認めず、自らの選んだ相手と法的に家族になる手段を与えていない本件諸規定は、もはや個人の尊厳に立脚すべきものとする憲法24条2項に違反する状態であると言わざるを得ない、と断じた。

4 同種の訴訟は、札幌、東京、大阪、名古屋、福岡の全国5地裁に係属していたところ、上記両判決をもって、5地裁の判決が出されたことになる。
  本件諸規定を憲法14条1項違反とした2021(令和3)年3月の札幌地裁判決、同性間の人的結合関係についてパートナーと家族になるための法制度が存在しないことについて憲法24条2項に違反する状態にあるとした2022(令和4)年11月の東京地裁判決と合わせ、5件中4件の判決において現状が憲法に反する旨が判断されたことになる。結論として合憲と判断した同年6月の大阪地裁判決も将来的に違憲となる可能性を指摘しており、同性カップルについて、異性カップルと同様、家族として法的に保護するための制度が必要であるとの司法判断の流れは確定し、もはや動かしがたいものとなったというべきである。

5 当会は、2019(令和元)年5月29日の「すべての人にとって平等な婚姻制度の実現を求める決議」において、憲法13条、14条、24条や国際人権自由権規約により、同性カップルには婚姻の自由が保障され、また性的少数者であることを理由に差別されないこととされているのだから、国は公権力やその他の権力から性的少数者が社会的存在として排除を受けるおそれなく、人生において重要な婚姻制度を利用できる社会を作る義務があること、しかし現状は同性間における婚姻は制度として認められておらず、平等原則に抵触する不合理な差別が継続していることを明らかにし、政府及び国家に対し、同性者間の婚姻を認める法制度の整備を求めた。また、前記札幌地裁判決、大阪地裁判決、東京地裁判決に際しても、それぞれ2021(令和3)年4月28日、2022(令和4)年8月10日、2023(令和5)年1月18日に会長声明を発し、政府・国会に対し、同性間の婚姻制度を早急に整備することを改めて求めた。
  しかしこの間、本問題に関し、上記法制度の整備に向けた具体的な動きは、政府・国会において無いに等しい状況である。政府は、従前から、同性間の婚姻制度の導入について、「極めて慎重な検討を要する」との答弁を繰り返すばかりであったところ、2023(令和5)年2月の衆議院予算委員会でも、政府から、社会が変わってしまう課題だという趣旨の発言があり、後ろ向きの姿勢が浮き彫りになっている。
  一連の判決が厳しく指摘するとおり、現在の状況は、同性カップルの人格的生存に対する重大な脅威、障害であり、足踏みをしている暇はない。名古屋地裁判決・福岡地裁判決を受け、今度こそ、政府・国会は、直ちに、同性間の婚姻制度を整備し、すべての人にとって平等な婚姻制度の実現を図るべきである。
  なお、名古屋地裁判決・福岡地裁判決のいずれも、同性カップルが家族となるための法制度として、諸外国における登録パートナーシップ制度のような婚姻類似の制度に言及しているが、当会が従前指摘してきたとおり、このような異性カップルにおける婚姻と異なる制度を別に設けることは、同性カップルに対する新たな差別を惹起しかねない。制度構築にあたっては、同性カップルに対して婚姻の門戸を開くものとすべきであることを改めて述べておく。


2023年(令和5年)6月15日

福岡県弁護士会

会長 大神昌憲

2023年5月12日

マイナンバーの利用範囲及び情報連携範囲の拡大に反対する会長声明

 政府は、2023年3月7日、行政手続における特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律(平成25年法律第27号。以下「番号法」という。)の改正案について閣議決定した。現在は国会において審議中である。
 改正案は、マイナンバーカードと健康保険証の一体化や、マイナンバーカードの普及・利用促進など、これまで、当会が反対してきた内容を含んでいる(2021年5月6日マイナンバーカードの義務化とデジタル関連法案に反対する会長声明、2022年12月26日現行の健康保険証を廃止してマイナンバーカードの取得を義務化することに反対する会長声明。)。
 そこで、本声明では特に、①マイナンバーの利用分野の拡大と、②マイナンバーの利用及び情報連携に係る規定の見直しについては、いずれも反対である旨の意見を述べる。

 改正案は、社会保障制度、税制及び災害対策以外の行政事務においてもマイナンバーを利用できることとし、マイナンバーの利用分野の拡大を図ることを内容としている。
 マイナンバーは他者と重複しない原則生涯不変の個人識別番号であるから、利用分野を拡大することは、マイナンバーを鍵として紐づけされた個人情報が名寄せされデータマッチング(プロファイリング)される危険性があるため、それを防止すべく、プライバシーを保護するための主要な手段として、マイナンバーの利用分野は3分野に限定されているところである(番号法9条)。
 ところが、上記3分野への限定なしに利用範囲が拡大すれば、マイナンバーに紐づけられる情報に歯止めがなくなり、その量・種類が増加し、プロファイリングによるプライバシー侵害も拡大する。
 利用範囲が拡大すれば、当然ながらマイナンバーを利用する機会が増加することとなり、情報の漏洩、不正利用等が発生するリスクも高まる。

 また、改正案は番号法上マイナンバーの利用が認められている事務に「準ずる事務」についてもマイナンバーの利用を可能とし、法でマイナンバーの利用が認められている事務について、主務省令で規定することで情報連携を可能とする内容である。
 改正案によれば、「準ずる事務」とは、既に利用が認められている事務(番号法別表第1に記載されている事務)と同一であること、その他政令で定める基準に適合する事務に限るものであること、とされているが、これがいかなる範囲を指すのか不明である。
 そもそも、マイナンバーの利用が認められている事務については、社会保障制度、税制及び災害対策の3分野に限定するとともに、原則として法律によってしか利用範囲を拡大できないとして、その手段を限定することにより、プライバシーの侵害を招かないようにしていた。「準ずる事務」についてマイナンバーの利用が可能であるとすると、番号法に規定のない事務について具体的な限定のないまま、行政機関限りの判断で省令を作成し、マイナンバーの取扱事務を拡大できるようになり、プライバシーを侵害するおそれが飛躍的に高まることになる。
 河野太郎デジタル大臣は、上記閣議決定と同日に開かれた記者会見において、法改正により、法令を超えて政府の裁量が大きくなることはない旨述べているが、「準ずる事務」の範囲が明確でないうえ、国会による歯止めが欠ける以上、プライバシー権を侵害するものであることは論を俟たない。

 改正案が、社会保障制度、税制及び災害対策分野の3分野に限定されない内容となっていることから、個人番号の秘匿性について疑義が生じうるところであるが、政府は、番号法制定時とは全く異なる説明を行うようになっている。
 すなわち、番号法第19条は、本人に対してすら例外的な場合を除き第三者への特定個人情報の提供を制限しており、第三者による権限外取得には罰則が設けられている。これはマイナンバー自体を他者に知られてはならないセンシティブ情報として保護する趣旨といえる。
 しかしながら、デジタル庁は、そのウェブサイトにおいて、「Q5 マイナンバーを人に見られても大丈夫なのですか。」、「A5大丈夫です。マイナンバーだけ、あるいは名前とマイナンバーだけでは情報を引き出したり、悪用したりすることはできません。」と記載している。
 これは上記のマイナンバー自体をセンシティブ情報と取り扱うことによりプライバシーを守るという番号法の本質に反するものであって到底許されない。

 よって、この改正案は、マイナンバーの利用範囲・情報連携範囲を拡大することで、プライバシーを侵害するとともに、情報漏洩や不正利用のリスクを高めるものであり、許されない。
 当会は、現在国会で審議中の改正案について、断固として反対するものである。

以上

2023年(令和5年)5月12日

福岡県弁護士会 会長 大神 昌憲

2023年5月11日

旧優生保護法に関し国に賠償を命じた度重なる地裁、高裁判決を踏まえて、改めて全面解決を求める会長声明

 旧優生保護法による障害者に対する強制不妊手術について、昨年の2つの高裁判決(2月22日大阪高裁、3月11日東京高裁)に続き、本年1月23日熊本地裁、2月24日静岡地裁、3月6日仙台地裁に加え、3月16日札幌高裁、3月23日大阪高裁の両判決は、いずれも、旧優生保護法の違憲性、国による加害行為及び被害の重大性を明確に指摘し、かつ、除斥期間の適用は正義・公平の理念に反するとして国の損害賠償責任を認めた。特に、本年3月23日大阪高裁は、明白に違憲である優生条項とそれに基づく手術の違憲性を未だに争い続け、なおかつ除斥期間の適用を主張して責任を否定する国の姿勢を厳しく断じている。
 このように、司法の趨勢は、国に対してこの問題の責任を果たすことを強く促しているものと言わなければならない。
 ところが、国は、上記各判決全てに対し、控訴及び上告または上告受理の申立を行い、解決を先延ばしにする態度に出ている。
 このような国の態度は、各判決が共通して指摘する本件加害の非人道性に加え、被害者が高齢化し、平成30年1月30日の最初の仙台地裁への提訴後も福岡地裁の原告1名や他の全国の訴訟の原告4名を含めて、次々に亡くなっているという現状に照らせば、到底許されることではない。
 当会は、すでに令和4年の大阪高裁判決及び東京高裁判決を受けて、同年3月16日、「旧優生保護法訴訟において国の賠償責任を認めた大阪高裁及び東京高裁違憲判決を踏まえて、被害者の全面救済を求める会長声明」を発出したが、上記のとおりのその後の訴訟の状況を踏まえ、改めて、国に対し、旧優生保護法に基づいて過酷な被害をもたらしたことを真摯に反省し、各判決に対する控訴や上告または上告受理の申立てを取り下げるとともに、旧優生保護法問題の全面解決に向けて、各判決が示した法的な賠償責任を前提に、被害を償うに足りる十分な賠償・補償はもちろんのこと、責任の明確化と謝罪及び真相究明・恒久対策について早急に検討し、一人でも多くの被害者に被害回復の途が開かれるよう積極的な対応を行うよう求める。
 当会としては、今後も、旧優生保護法の問題について、あまねく被害回復がなされるよう必要な提言を適時行っていくとともに、旧優生保護法により侵害された尊厳の回復を含むあらゆる人権課題について真の被害回復の実現に向けて、真摯に取り組んでいく所存である。


2023年(令和5年)5月11日

福岡県弁護士会

会長 大 神 昌 憲

2023年3月13日

「袴田事件」第2次再審請求差戻し後即時抗告棄却決定に対し、 検察官に特別抗告をしないこと等を求める会長声明

1 東京高等裁判所は、2023年(令和5年)3月13日、いわゆる「袴田事件」の第2次再審請求差戻し後即時抗告審について、静岡地方裁判所の再審開始決定を維持し、検察官の即時抗告を棄却する旨の決定(以下「本決定」という。)をした。
2 「袴田事件」は、1966年(昭和41年)6月30日未明、静岡県旧清水市(現静岡市清水区)の味噌製造・販売会社の専務宅で、一家4名が殺害された強盗殺人・放火事件の犯人とされ死刑判決を受けた元プロボクサーの袴田巖氏(以下「袴田氏」という。)が無実であることを訴えて再審を求めている事件である。
第1次再審請求審(1981年(昭和56年)~2008年(平成20年))を経て、第2次再審請求審(2008年(平成20年)~)において、静岡地方裁判所は、2014年(平成26年)3月27日、新証拠である本田克也筑波大学教授によるDNA鑑定の信用性を認めた上で、事件の1年2か月後に犯行現場近くの工場内味噌タンクから「発見された」血痕が付着した5点の衣類が捜査機関によってねつ造された疑いのある証拠であることを認定して再審開始を認めるとともに、死刑及び拘置の執行を停止する決定を行い、袴田氏の即日釈放を命じた。
ところが、検察官の即時抗告に対して、2018年(平成30年)6月11日、東京高等裁判所は再審開始決定を取り消し、再審請求を棄却する決定(原決定)を下したことから、弁護団は最高裁判所に特別抗告を申し立てたところ、最高裁判所は、前述の5点の衣類に付着した血液の色調に影響を及ぼす要因、とりわけみそによって生ずる血液のメイラード反応に関する専門的知見について審理不尽の違法があるとして、2020年(令和2年)12月22日、原決定を取り消し、審理を原審に差し戻す決定をし、東京高等裁判所において差戻し後即時抗告審が係属中であった。上記最高裁判所の決定においては、原決定を取り消して原審に差戻しをするにとどまらず、更に進んで最高裁判所で自判し再審開始決定を確定させるべきとする2名の裁判官の反対意見が付されていた。
3 本即時抗告審においては、前記最高裁判所の決定を踏まえて血痕の色調の変化が主要な争点となり、弁護団は、1年余りの期間みそ漬けされた場合にはメイラード反応やヘモグロビンの酸化によって血痕の赤みが失われるメカニズムを示した鑑定書等を新証拠として提出した。三者協議の場においては、2022年(令和4年)7月22日、弁護側が請求した法医学者2名が、「化学的に赤みが残ることはない」という趣旨の証言をした一方で、同年8月1日、検察側が請求した法医学者2名は、「赤みが残る可能性がある」という趣旨の証言をしたが、東京高等検察庁が1年2か月続けてきたいわゆる「みそ漬け実験」について、同年11月1日に東京高等裁判所の裁判官による視察が行われ、血痕の赤みが消えていることも明らかになっていた。
4 なお、「袴田事件」は死刑再審事件である。当会は2020年(令和2年)9月18日付けで「死刑制度の廃止を求める決議」を行っているところ、本決定は、上記決議で述べたとおり、誤判・えん罪による刑の執行(生命剥奪)という不正義を放置することが許されないことを、改めて、私たちに自覚させるものであった。当会は、本決定を踏まえて、死刑制度の廃止等を強く訴えるものである。
5 袴田氏は、前述の静岡地方裁判所の死刑及び拘置の執行停止後、47年間の長期間の身体拘束を経て釈放され、親族と共に穏やかな生活を送っているものの、検察官の即時抗告によって、9年近くが経過し、袴田氏が87歳となった現在もなお、再審公判が開かれることなく、再審請求手続が行われている状態であり、その救済が著しく遅延している状況にある。前記最高裁判所の決定の反対意見をも踏まえれば、これ以上の検察官による不服申立ては許されるものではない。
そこで、当会は、検察官に対し、本決定に対して不服申立て(特別抗告)を行うことなく、速やかに再審公判に移行させることを求める。そして、再審公判において、一刻も早く、袴田氏に対し無罪判決が下され、その救済が実現されることを期待する。
また、これと同時に、政府及び国会に対し、2022年(令和4年)8月24日付け「「大崎事件」の再審請求棄却決定に抗議する会長声明」や2023年(令和5年)2月27日付け「日野町事件第2次再審請求事件即時抗告棄却決定に対し、 検察官に特別抗告をしないよう求める会長声明」で述べているとおり、再審開始決定に対する検察官の不服申立ての禁止をはじめとする、えん罪被害救済に向けた再審法改正の早急な実現を求める。

2023年(令和5年)3月13日

福岡県弁護士会 

会長 野 田 部 哲 也

2023年3月 2日

性的少数者に対する差別発言に抗議し、改めて、早急にすべての人にとって平等な婚姻制度の実現を求める会長声明

 岸田文雄内閣総理大臣は、本年2月1日の第211回通常国会予算委員会において、同性婚に関する質問を受け、「極めて慎重に検討すべきだ」と従来どおりの消極的な見解を述べた上、さらに、「家族観や価値観、社会が変わってしまう課題だ」と答弁した。
 そして、同月3日、記者団から前記発言について質問された荒井勝喜前内閣総理大臣秘書官は、「同性婚導入となると、社会のありようが変わってしまう」「秘書官室は全員反対」「隣に住んでいたら嫌だ。見るのも嫌だ」「国を捨てる人、この国にはいたくないと言って反対する人は結構いる」などと発言したと報道されている。

 荒井前秘書官の上記発言は、同性カップルに対するむき出しの悪意・嫌悪感の表明に他ならず、同性愛者等の性的マイノリティの尊厳を否定し、社会から排除するものである。内閣総理大臣秘書官という政府の重職にある人物によるかかる発言は、社会全体に、同性愛者等性的マイノリティは嫌悪されても仕方のないものとであるとの誤ったメッセージを与え、なお根強く残る性的マイノリティに対する差別意識を助長しかねない。

 荒井前秘書官は、上記発言により更迭された。上記発言の問題の深刻さからすれば、この処分は当然のことであるが、一人秘書官を更迭して済むという問題ではない。そもそも上記発言は、岸田総理大臣の、同性婚の法制化を「家族観や価値観、社会が変わってしまう課題だ」とする、極めて後ろ向きな答弁の趣旨を問う質疑の中で出たものであり、岸田内閣の否定的な姿勢自体に、根本的な問題があるというべきである。

 当会は、2019(令和元)年5月29日の「すべての人にとって平等な婚姻制度の実現を求める決議」において、憲法13条、14条、24条や国際人権自由権規約により、同性カップルには婚姻の自由が保障され、また性的少数者であることを理由に差別されないこととされていることを示し、政府及び国家に対して、同性者間の婚姻を認める法制度の整備を求めたのを皮切りに、同性婚ができない現状を問う裁判に関する札幌地裁判決、大阪地裁判決及び東京地裁判決に際しても、それぞれ、2021(令和3)年4月28日、2022(令和4)年8月10日及び本年1月18日に会長声明を発し、政府・国会に対し、同性者間の婚姻制度を直ちに整備することを求めてきた。当会は、これらの声明等の中で、社会の変化にもかかわらず一向に本問題について対応しない政府の問題点を指摘してきたが、今回の一件は、この政府の問題点が差別発言という形で顕在化したものと言え、問題は極めて深刻である。

 当会は、荒井前秘書官による性的少数者に対する差別発言に強く抗議する。同時に、国に対し、同性婚に対する極めて消極的な姿勢を直ちに改めて、同性愛者等の性的マイノリティに対する理解を深め差別を解消するための施策を進め、速やかに同性者間の婚姻制度を整備することを求める。


2023年(令和5年)3月2日
福岡県弁護士会        
会 長  野 田 部 哲 也

入管法改正案の再提出に強く反対し、国際的な人権水準に沿った真の入管法改正を求める会長声明

当会は、2020年9月16日「「送還忌避・長期収容問題の解決に向けた提言」の内容を踏まえた法改正に反対する会長声明」(以下「前回会長声明」という。)において、上記提言の内容を踏まえた出入国管理及び難民認定法(以下「入管法」という。)等の一部を改正する法律案に強く反対した。
また、当会もその構成員である九州弁護士会連合会は、2022年10月28日、「2021年法案と同種の入管法改正に反対するとともに、憲法、国際人権条約に適合する入管法改正・運用改善を求める決議」を行った。
 しかし、報道によると、2023年1月23日召集の通常国会において、政府は、2021年に事実上の廃案となった入管法の改正法案(以下「廃止法案」という。)の骨格を維持したまま、これを再提出する方針とのことである。
 政府が再提出を予定する法案(以下「本再提出法案」という。)の概要としては、①庇護・在留を認めるべき者の適切・迅速な判別のためとして、在留特別許可・難民認定手続を一層適切かつ迅速にするための措置及び「補完的保護対象者」の創設が、②在留が認められない者の迅速な送還のためとして、送還停止効の例外規定の創設、罰則付の退去等命令制度の創設、自発的出国を促すための措置が、③長期収容の解消及び適正な処遇の実施のためとして、収容に代わる代替措置の創設、仮放免の在り方の見直し、適正な処遇の実施が内容とされているようであるが、いずれも廃止法案で指摘された重大な問題点について、根本的な見直しがなされておらず、憲法や各種国際人権条約に適合しないものであって、当会は、本再提出法案に対しても、以下の理由により、強く反対するとの立場を改めてここに表明する。
 まず、本再提出法案の上記①の内容については、前回会長声明でも指摘したとおり、我が国の難民認定率は諸外国と比べて極めて低く、本来難民として保護されるべき人々を多数とりこぼしている現状にあり、この点は、2022年11月の国連自由権規約委員会総括所見でも、懸念が示され、国際基準に則った包括的な難民保護法制の早期導入が勧告された状況にある。それにもかかわらず、本再提出法案の上記②の内容として、送還停止効の例外規定の創設を認めることは、迫害を受ける人々を、時に命の危険すらある本国に送り返す危険すらあるのであって、上記国連の勧告に逆行するものといわざるを得ない。また、罰則付の退去等命令制度の創設も、本来難民として保護すべき人々を罰則の威嚇により、迫害を受ける恐れのある祖国への帰国を迫るものであって、難民条約第33条第1項「ノン・ルフールマンの原則」(締約国は、難民を、生命または自由が脅威にさらされるおそれのある領域の国境へ追放しまたは送還してはならない)に照らし、許容できない。
このような送還停止効に対する例外規定の創設や罰則付の退去等命令制度の創設は、著しく低い難民認定率の中において、複数回の申請や司法手続を経てようやく難民と認められるケースや人道的配慮から在留特別許可が認められるケースも決して少なくないことに照らせば、裁判を受ける権利(憲法32条)を侵害するものであり、許容することはできない。
また、このような罰則付の退去等命令制度の創設は、むしろ、脆弱な地位にある外国人の支援者等の人道的活動を萎縮させるおそれがあり、その点からも許容することはできない。
さらに、本再提出法案の上記③の内容についても、前回会長声明でも述べたとおり、長期収容の解消は、収容を送還に必要な最小限でしか用いないこと、司法審査を導入すること、収容期間の上限を設けること等(これらの点も前述の国連の勧告において示されている)によってこそ解決されるのであって、本再提出法案によっては、これまで繰り返されてきた入管収容施設における被収容者の死亡事案の発生や適切な医療が受けられず困難な状況におかれるといった重大な人権侵害を防ぐことはできない。
当会は、九州最大の福岡出入国在留管理局が設置された地域の弁護士会であり、大村入国管理センターに収容されている外国人を含む外国人を支援してきた弁護士会としての責務がある。
以上から、当会としては、本再提出法案に対しても断固として反対するとともに、前述の国連から勧告された包括的な難民保護法制の早期導入、全件収容主義や実質無期限収容主義を採る日本の収容政策の根本的な見直しなど、国際的な人権水準に沿った真の入管法改正を求める。

2023年(令和5年)3月2日

福岡県弁護士会

会 長  野 田 部 哲 也

2023年2月27日

日野町事件第2次再審請求事件即時抗告棄却決定に対し、検察官に特別抗告をしないよう求める会長声明

1 大阪高等裁判所(石川恭司裁判長)は、2023年(令和5年)2月27日、いわゆる「日野町事件」の第2次再審請求事件の即時抗告審において、検察官の即時抗告を棄却する旨の決定(以下「本決定」という。)をした。
2 「日野町事件」は、確定判決によれば、1984年(昭和59年)12月、故阪原弘氏(以下「阪原氏」という。)が滋賀県蒲生郡日野町において酒店を営んでいた当時69歳の被害女性の店舗兼住宅ないしその周辺で被害女性の頚部を手で締め付けて殺害し、店舗兼住宅にあった手提げ金庫を奪ったとされた強盗殺人事件である。1988年(昭和63年)3月になって、酒店の常連客であった阪原氏が、任意同行の名のもとに連日、長時間の取調べを受けることになり、当初はアリバイを主張するなどして事件への関与を否認していたものの、結局、被害者を殺害して金庫を奪ったことを認める供述をするに至り、捜査官に対してはこの自白を維持した。こうして阪原氏は、強盗殺人罪で起訴されたが、第1回公判期日においては、否認に転じ、以降一貫して犯行への関与を否認した。
ところが、一審の大津地方裁判所は、1995年(平成7年)6月、阪原氏の自白について任意性は認められるものの、信用性が高いとは言えないとしつつ、阪原氏が犯行時刻ころ店舗兼住宅付近にいたことが認められること、阪原氏の指紋が被害者宅の小机にあった丸型両面鏡に残されていたこと、阪原氏が破壊されて棄てられていた手提げ金庫の発見場所等を知っていたことなどの間接事実を認定した上で、阪原氏の犯人性を肯定し、無期懲役の有罪判決をした。その後、阪原氏の控訴・上告がいずれも棄却され、2000年(平成12年)9月、一審判決が確定した。阪原氏は、2001年(平成13年)11月、再審請求をしたものの、2006年(平成18年)3月、大津地方裁判所が再審請求を棄却したことから、即時抗告していたところ、その係属中に亡くなった。今般、阪原氏の遺族が、阪原氏の雪冤のため、2012年(平成24年)3月に再審請求を申し立てていたところ、大津地方裁判所が2018年(平成30年)7月に再審開始を決定したのに対し、検察官が即時抗告をしていたものである。
3 そもそも「日野町事件」は、阪原氏が犯人であることを示す直接の物的証拠がなく、いわゆる状況証拠も阪原氏と犯人を結びつけるものではなく、任意性と信用性に疑問がある自白調書によってかろうじて阪原氏の犯人性が支えられていた。阪原氏が自ら申し立てた第1次再審請求や今般の再審請求において、多数の新証拠が提出され、自白の重要部分が客観的な証拠と矛盾していることが明らかとなっていた。原決定も、そして、本決定も、再審請求における新旧全証拠の総合評価と「疑わしきは被告人の利益に」という刑事裁判の鉄則の適用を求めた白鳥・財田川決定に即した実に当然の判断である。
4 当会は本決定を高く評価するものであり、本決定について検察官が特別抗告をすることなく、早期に再審公判を開始し、阪原氏の無罪を確定させることを強く求める。同時に、2022年(令和4年)8月24日付け「大崎事件」の再審請求棄却決定に抗議する会長声明で述べているとおり、再審開始決定に対する検察官の不服申立の禁止をはじめとする、えん罪被害救済に向けた再審法改正の早急な実現を求める。

2023年(令和5年)2月27日

福岡県弁護士会

会 長  野 田 部 哲 也

2023年2月14日

東京地裁判決を受け、改めて、早急にすべての人にとって平等な婚姻制度の実現を求める会長声明

1 2022(令和4)年11月30日、同性間の婚姻ができない現在の婚姻に関する民法及び戸籍法の諸規定(以下「本件諸規定」という。)の違憲性を問う裁判において、東京地方裁判所は、現行法上、同性愛者についてパートナーと家族になるための法制度が存在しないことは、憲法24条2項に違反する旨の判決(以下「東京地裁判決」という。)を言い渡した。

2 東京地裁判決は、「婚姻により得ることができる、パートナーと家族となり、共同生活を送ることについて家族としての法的保護を受け、社会的公証を受けることができる利益は、個人の尊厳に関わる重要な人格的利益」であることを前提に、「同性愛者にとっても、パートナーと家族となり、共同生活を送ることについて家族としての法的保護を受け、社会的公証を受けることができる利益は、個人の尊厳に関わる重大な人格的利益に当たるということができる。」と認定する。
  そして同判決は、「現在、同性愛者には、パートナーと家族になることを可能にする法制度がなく、同性愛者は、その生涯を通じて、家族を持ち、家庭を築くことが法律上極めて困難な状況に置かれている。家族を持たないという選択をすることも当該個人の自由であることは当然であるが、特定のパートナーと家族になるという希望を有していても同性愛者というだけでこれが生涯を通じて不可能になることは、その人格的生存に対する重要な脅威、障害であるということができる。」と述べ、同性カップルの置かれている苦境を的確に認定した上で、「現行法上、同性愛者についてパートナーと家族になるための法制度が存在しないことは、同性愛者の人格的生存に対する重大な脅威、障害であり、個人の尊厳に照らして合理的な理由があるとはいえず、憲法24条2項に違反する状態にある」と判断した。

3 2021(令和3)年3月17日、札幌地方裁判所は同種訴訟において、本件諸規定が憲法14条1項に違反すると判断しているところ、東京地裁判決はこれに引き続き、同性カップルについて家族となるための法制度が存在しないことを違憲とするものであり、その意義は極めて重大である。
  同種訴訟における2022(令和4)年6月20日大阪地裁判決は、本件諸規定の違憲性を認めず、その点は不当であったが、同判決においても、婚姻をした当事者が享受し得る利益には、当該人的結合関係が公的承認を受け、公証されることにより、社会の中でカップルとして公に認知されて共同生活を営むことができる「公認の利益」があり、これは人格的尊厳に関わる重要な人格的利益であって、同性カップルにとっても同様にその人格的尊厳に関わる重要な利益として尊重されるべきものとしている。
  以上からすると、同性カップルについても、異性カップルと同様、家族として法的に保護するための制度が必要であるとの司法判断の流れは、もはや確定したものというべきである。

4 当会は、2015(平成27)年より両性の平等に関する委員会の中にLGBT小委員会を発足させ(2018(平成30)年10月からはLGBT委員会)、行政と連携してLGBT無料電話法律相談を実施したり、毎年の「九州レインボープライド」への出展を行うなど、性的マイノリティの問題は人権擁護を使命とする弁護士・弁護士会が率先して取り組むべき問題であると位置付けて活動している。
そして、2019(令和元)年5月29日の「すべての人にとって平等な婚姻制度の実現を求める決議」において、憲法13条、14条、24条や国際人権自由権規約により、同性カップルには婚姻の自由が保障され、また性的少数者であることを理由に差別されないこととされているのだから、国は公権力やその他の権力から性的少数者が社会的存在として排除を受けるおそれなく、人生において重要な婚姻制度を利用できる社会を作る義務があること、しかし現状は同性間における婚姻は制度として認められておらず、平等原則に抵触する不合理な差別が継続していることを明らかにし、政府及び国家に対し、同性者間の婚姻を認める法制度の整備を求めた。また、前記札幌地裁判決、大阪地裁判決に際しても、それぞれ2021(令和3)年4月28日、2022(令和4)年8月10日に会長声明を発し、政府・国会に対し、同性間の婚姻制度を直ちに整備することを改めて求めた。
  しかしこの間、本問題に関する政府・国会の動きは無いに等しく、上記法制度の整備に向けた具体的な準備は、全くなされていない状況である。現在の同性カップルについて法制度がない状態を「同性愛者の人格的生存に対する重大な脅威、障害である」とまで厳しく断じた今般の東京地裁判決を受け、今度こそ、政府・国会は、速やかに、同性間の婚姻制度を整備すべきである。
  なお、東京地裁判決は、同性カップルが家族となるための法制度として、諸外国における登録パートナーシップ制度のような婚姻類似の制度に言及しているが、このような異性カップルにおける婚姻と異なる制度を別に設けることは、同性カップルに対する新たな差別を惹起しかねない。制度構築にあたっては、同性カップルに対して婚姻の門戸を開くものとすべきである。


2023年(令和5年)1月18日

福岡県弁護士会     
会 長  野田部 哲也

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