福岡県弁護士会 宣言・決議・声明・計画

2015年7月10日

「消費者の財産的被害の集団的な回復のための民事の裁判手続の特例に関する法律の施行に伴う政令(案)、内閣府令(案)、ガイドライン(案)等に関する意見募集」に対する意見

意見

消費者庁消費者制度課 御中

福岡県弁護士会 会長  斉 藤 芳 朗

福岡県弁護士会は、標記に関して、消費者委員会での協議を経て、以下のような意見をまとめました。

よって、福岡県弁護士会として、本意見書を提出いたします。

【はじめに】

1 現在、貴庁におかれては、平成25年12月の「消費者の財産的被害の集団的な回復のための民事の裁判手続の特例に関する法律」(平成25年法律第96号)の公布に伴い、同法の施行に向けた準備を進めておられるところ、集団的消費者被害回復に係る訴訟制度においては、消費者と事業者との間の情報の質及び量並びに交渉力に格差があることで消費者が自らその回復を図ることには困難を伴う場合があることを前提に、特定適格消費者団体が被害回復裁判手続を追行せしめ、消費者の利益の擁護を図り、もって国民生活の安定向上と国民経済の健全な発展に寄与することが目的とされている(消費者の財産的被害の集団的な回復のための民事の裁判手続の特例に関する法律(以下「消費者裁判特例法」という。)1条参照)。

すなわち、消費者と事業者との間の情報の質及び量並びに交渉力の格差を背景として、日々、消費者被害は生じているのであり、消費者被害を可及的速やかに回復されるために、本訴訟制度においては、消費者の財産的被害が円滑に回復されることが求められているというべきである。

2 そしてそのためには、本訴訟制度に関する手続きの担い手である特定適格消費者団体の継続的かつ機動的活動が担保される仕組みになっており、かつ、本訴訟制度自体も、違法収益の返還のために効率的なものとなっていなければならない。制度設計にあっては、本訴訟制度が上記の目的のために定められたものであることを常に念頭に置き、釈根灌枝になることのないよう、慎重に考える必要がある。

(1) 現在の適格消費者団体の多くは、わずかな財政基盤の中で、有志の無償の協力の下にその活動を維持していると聞いているところ、特定適格消費者団体においても、その状況に変わるところはないと思料する。

特定適格消費者団体の継続的かつ機動的活動を担保する仕組みを構築するという視点が疎かになれば、それは、特定適格消費者団体の活動を阻害し、眼前の消費者被害を放置して、悪徳業者の違法収益を助長するという結果をもたらすのであり、そのような制度は改められなければならない。

(2) また、本訴訟制度は、本来であれば個別の民事訴訟に馴染みにくい少額案件について、同様の被害を受けた消費者が多数参加することを促すことで、その回復を図る制度である。

そのためには、本訴訟制度が、消費者から見て参加しやすい制度であることはもちろん、特定適格消費者団体から見ても取り組みやすいものとなっていなければならない。

この点についての視点が疎かになれば、上記(1)と同じく、それは、特定適格消費者団体の活動を阻害し、眼前の消費者被害を放置して、悪徳業者の違法収益を助長するという結果をもたらすのであり、そのような制度は改められなければならない。

3 以上の視点から見るに、「特定適格消費者団体の認定、監督等に関するガイドライン」(以下「本ガイドライン」という。)には、以下の問題点があり、速やかに見直されるべきである。

【本ガイドライン 2(2)イ「情報提供義務の実施の方法」について】

[意見]

被害回復裁判手続に関する業務に付随する対象消費者に対する情報の提供に係る業務を適正に遂行するための体制の整備について、消費者裁判特例法82条の規定に基づく情報の提供に当たり、考慮すべき事柄から、「被害を受けたと考えられる消費者の範囲」、「被害金額の多寡」、「今後の被害拡大のおそれ」、「当該事業者の対応状況」、「公表されることにより事業者に与える影響」は、削除されるべきである。

[理由]

特定適格消費者団体は、被害回復裁判手続に関する業務に付随して対象消費者に対する情報の提供に係る業務を担うものとされており(消費者裁判特例法65条)、また、対象消費者の財産的被害の回復に資するため、対象消費者に対し、共通義務確認の訴えを提起したこと、共通義務確認訴訟の確定判決の内容その他必要な情報を提供するよう努めなければならないとされている(消費者裁判特例法82条)。

ここで、消費者裁判特例法の目的規定(同法1条)からも、情報の質及び量の格差をできる限り解消することが求められているというべきであり、情報提供に当たっては、できる限り広く、消費者において、消費者被害が生じている事実に触れる機会が得られることが肝要であるというべきである。

したがって、消費者被害が生じていることは、原則として消費者に知らしめられるべきである。しかるに、「被害を受けたと考えられる消費者の範囲」、「被害金額の多寡」、「今後の被害拡大のおそれ」、「当該事業者の対応状況」、「公表されることにより事業者に与える影響」等を考慮して、情報提供について抑制的であらしめることは、上記目的に悖るものであり、許容されない。少なくとも、特定適格消費者団体の組織作りにあたって敢えて考慮すべき事柄であるとは考えられないものである。

よって、上記のとおり、修正を求めるものである。

【本ガイドライン 2(2)エ「金銭その他の財産の管理の方法」について】

[意見]

1 被害回復裁判手続に関する業務を適正に遂行するための体制の整備について、対象消費者宛ての金銭を受領した場合の対象消費者への通知については、対象消費者と特定適格消費者団体との合意に任されるべきことであり、同(エ)の定めについては削除されるべきである。

2 被害回復裁判手続に関する業務を適正に遂行するための体制の整備について、同(カ)金銭管理責任者の設置については、第二文の定めは削除されるべきである。

[理由]

1 【はじめに】の項でも触れたとおり、本訴訟制度を適切に運営するためには、特定適格消費者団体の継続的かつ機動的活動が担保される仕組みになっていなければならない。

そして、対象消費者宛ての金銭については、少額の金銭が回収される場合や、複数回に分けて回収される場合がありうるのであり、これは、事件ごとに種々ありうる。

少額の金銭が回収される場合や、複数回に分けて回収されるような場合にまで、すべて対象消費者への遅滞ない通知を予め義務付けてしまえば、通知のために過分の費用を費消する結果となってしまいかねず、特定適格消費者団体の活動の継続性を損なうことにもなりかねないと危惧する。

したがって、対象消費者宛ての金銭を受領した場合の対象消費者への通知については、個別に、事件の規模等を考慮しながら、対象消費者と特定適格消費者団体との間における合意に任せるのが合理的であり、本ガイドライン等により、拘束すべき事柄ではないというべきである。

2 また、金銭管理責任者についても同様の問題がある。

すなわち、本ガイドラインにおいては、「公認会計士、税理士、破産管財人等の実務に精通した弁護士、企業会計に従事した経歴がある者など金銭管理を適切にすることができる者が任命される必要がある」と規定されているが、金銭管理を適切にすることができる者は、必ずしも、「公認会計士、税理士、破産管財人等の実務に精通した弁護士」に限られるものではない。

本ガイドラインが、「企業会計に従事した経歴がある者など」をその後に併記しているのもその趣旨であると考えられる。

しかし、上記の有資格者を例示として挙げることにより、「企業会計に従事した経歴がある者など」についても、上記の有資格者と同等の知識経験を有する者を任命する必要があると理解される可能性がある。

そうすると、特定適格団体において、これらの者を任命するために過分の費用を費消する結果となってしまいかねず、特定適格消費者団体の活動の継続性を損なうことにもなりかねないと危惧する。

3 よって、上記のとおり、修正を求めるものである。

【本ガイドライン 2(6)イ「簡易確定手続きに関する報酬及び費用の基準の考え方」について】

[意見]

同(イ)の少なくとも回収額の50%超を消費者の取戻分とする必要があるとの部分については、削除されるべきである。

[理由]

本ガイドラインにおいては、「特定適格消費者団体が少額事件に対して積極的に取り組む必要がある」(本ガイドライン 2(6)ア)とされている。本ガイドラインにおいては、これは特定適格団体が「業務を効率化させる」(同)ことで実現できると考えられているようであるが、本来的には、特定適格消費者団体が、少額事件に対しても積極的に、安心して取り組めるような制度設計がなされることが前提となっていなければならない。

しかしながら、本ガイドラインにおいては、本意見で述べてきた点を見ても明らかなとおり、むしろ特定適格消費者団体においては、その体制を維持し、本訴訟制度を担うために過分の費用を支出しなければならない制度となっており、その活動を継続的に行い、また、本訴訟制度の追行に要する費用を削減する余地は限りなく狭められてしまっている。

そのうえ、本ガイドラインの上記の定めは、回収額の50%超を消費者の取戻分とする必要があるとしている。しかも、債権届出より後の手続きに要する費用については、実費であっても、消費者に負担を求めることはできないと読める。そうすると、たとえば、本ガイドラインによれば、30人の被害者が見込まれる事件について一人当たり5000円の回収を目指すような場合において、首尾よく回収されれば各消費者に2500円以上を交付することになる。

この場合、各消費者に2500円以上を返金するためには、共通義務確認訴訟を追行する中での費用(弁護士費用を含む。)を7万5000円以下に抑えられなければ、特定適格消費者団体の資産を取り崩すことになる。少額事件に積極的に取り組む特定適格消費者団体ほど、業務を効率化できない中で、乏しい財政基盤をさらに危うくしていくことになりかねず、延いては本訴訟制度が機能不全に陥ってしまうことが強く危惧されるのである。

これまで、多数の消費者被害が救済されてきた背景には、多数の弁護士等が無償で尽力をしてきたという経過がある。しかしこれは、消費者被害の救済に努める弁護士においては、一方で多数の日常業務をこなしているからこそ、特定の事件に限って無償(あるいは限りなく無償に近い僅少な対価)で行うことができたに過ぎない。特定適格消費者団体は、専ら消費者被害の救済を目的とする団体であり、継続性が求められるのであって、そもそも弁護士が個別に消費者被害に関わるのとは大きく様相を異にするのであるから、特定適格消費者団体の無償活動をもって制度を運用しようとするのは、前提を誤っていると言わざるを得ない。

よって、上記のとおり、修正を求めるものである。

【本ガイドライン 4(5)「授権契約の拒絶及び解除」について】

[意見]

授権をする者あるいは授権をした者が、特定適格消費者団体からの問い合わせに適切に回答しない場合、及び、授権をする者あるいは授権をした者の判断能力が十分でない場合も、消費者裁判特例法33条1項、2項の「やむを得ない理由」に含めるべきである。

[理由]

1 消費者裁判特例法33条1項、2項においては、「やむを得ない理由」がある場合に限って、簡易確定手続授権契約の締結を拒絶でき、又は解除できるとしているところ、授権をする者が、特定適格消費者団体からの問い合わせに適切に回答しない場合においても、特定適格消費者団体としては、手続きの追行に支障を来すのであるから、上記の授権契約の締結を拒絶できる「やむを得ない理由」に含まれるとするべきである。

また、授権をした者が、特定適格消費者団体からの問い合わせに適切に回答しない場合においても、特定適格消費者団体において、手続きの追行に支障を来すのであるから、上記の授権契約を解除できる「やむを得ない理由」に含まれるとするべきである。

2 加えて、授権をする者、あるいは授権をした者の判断能力が危ぶまれる場合には、特定適格消費者団体において、手続きの追行に支障を来すことが考えられるのであるから、上記1と同様に考えるべきである。

3 よって、上記のとおり、修正を求めるものである。

【本ガイドライン 5(4)「報酬及び費用等についての監督」について】

[意見]

事件の選定状況については監督対象から除外されるべきである。仮に,事件の選定状況について監督をするのであれば,事後的な監督ではなく,事前に特定消費者団体からの問い合わせに対して,貴庁が,事件の選定が適切か否かを回答することとされるべきである。

[理由]

そもそも、本訴訟制度において、特定適格消費者団体は、まず、被害者からの相談等を契機に、消費者被害が生じていることを把握し、次に、その事件について必要な資料を収集し、当該事業者の用いる約款等にどのような法的問題があるのかを検討し、そして、その事業者が、違法収益の任意の返還等に応じなかった場合に、訴訟を提起して解決を図るというのが一般的な手続きの進行になると考えられる。しかも、特定適格消費者団体が消費者から報酬を得ることができるのは、共通義務確認訴訟で勝訴した(あるいは勝訴的な解決を得た)場合のみである。

このような一連の手続きを前提として、特定適格消費者団体が「過剰な報酬を目的として恣意的な事件の選定」をする余地は、限りなく少ないというべきである。

すなわち、仮に特定適格消費者団体が「過剰な報酬を目的として恣意的な事件の選定」をしようと試みたとしても、事件の把握から訴訟の提起に至るまで、そもそも勝訴に至るだけの資料を集められるかも不確定であり、また、事業者が任意に被害回復措置を講じる可能性もある。この場合には、特定適格消費者団体が報酬を得る機会はない。事件の把握から共通義務確認訴訟の終結までに、事業者が支払い能力を失う可能性もある。この場合にも特定適格消費者団体が報酬を得る術はない。

このように、仮に特定適格消費者団体が「過剰な報酬を目的として恣意的な事件の選定」をしようと試みたとしても、それが奏功する保証はないのである。

他方で、事件の選定状況について消費者庁から監督されるとした場合、特定適格消費者団体において、過度に萎縮的な効果をもたらし、結果として、被害回復をためらうことになってしまうおそれがある。

たとえば、偶さか、当該特定適格消費者団体において、良好な解決を得た事件が続いた場合に、新たに把握した事件についても回収の見込みがありそうだと判断したときに、当該事業者に対して被害の回復を求めることが、「過剰な報酬を目的として恣意的な事件の選定」を行っているとの誹りを受けることになると危惧して、その消費者被害を見過ごすことは、本訴訟制度の目的との関係で背理以外の何物でもない。

【はじめに】の項においても指摘したとおり、本訴訟制度は、特定適格消費者団体が、積極的に、かつ、安心して取り組めるような制度になっていなければならないところ、事件の選定状況について消費者庁が監督をすることは、特定適格消費者団体において、過度に萎縮的な効果をもたらすものであるから、見直されなければならない。

よって、上記のとおり、修正を求めるものである。

【最後に】

繰り返し述べてきたとおり、特定適格消費者団体が、積極的に、かつ、安心して取り組めるような制度が策定されることが求められるところ、特定適格消費者団体が被害回復業務に専念できるよう、その団体を維持し、その活動を充実したものにすることについては、財政支援をすることが必要不可欠である。

したがって、これまで述べてきたことに加えて、特定適格消費者団体の必要性を踏まえ、具体的な財政支援が行われることを求める。

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