福岡県弁護士会 宣言・決議・声明・計画

2002年6月 4日

「『有事法制』に反対する常議員会決議

声明

福岡県弁護士会 会長  藤井克已 

 平成14年(2002年)6月4日

4月17日,政府は衆議院に「武力攻撃事態における我が国の平和と独立並びに国及び国民の安全の確保に関する法律案」(「武力攻撃事態」法案という)、「安全保障会議設置法の一部を改正する法律案」(安全保障会議設置法「改正」法案という),「自衛隊法及び防衛庁の職員の給与等に関する法律の一部を改正する法律案」(自衛隊法等「改正」法案という)に上程した(以上を有事法制3法案という)。そして4月26日衆議院本会議において趣旨説明がなされ,各党からの代表質問がされ,特別委員会における審議が本格的に開始される状況にある。\n 有事法制3法案には憲法原理に照らし,少なくとも以下に指摘する重大な問題点と危険性が存在する。

 1 「武力攻撃のおそれのある事態」や「事態が緊迫し,武力攻撃が予想されるに至った事態」までが「武力攻撃事態」とされており,その範囲・概念は極めて曖昧である。政府の判断によりどのようにも「武力攻撃事態」を認定することが可能\であり,しかも国会の承認は「対処措置」実行後になされることから、政府の認定を追認するものとなるおそれが大きい。

 2 いったん内閣により「武力攻撃事態」の認定が行われると,陣地構築,軍事物資の確保等のための私有財産の収用・使用,軍隊・軍事物資の輸送,戦傷者治療などのための市民に対する役務の強制、交通、通信、経済などの市民生活・経済活動の規制などを行うことにより,市民の基本的人権を大きく制限することとなるが,これは憲法規範の中核をなす基本的人権保障原理を変質させる重大な危険性を有する。\n
 3 曖昧な概念の下で拡張された「武力攻撃事態」における自衛隊の行動は、憲法の定める平和主義の原理,憲法9条の戦争放棄,軍備及び交戦権の否認に抵触するのではないかとの重大な疑念が存在する。
 また,周辺事態法と連動して,米軍が主体的に関与する戦争あるいは紛争にわが国を参加させることにより,日米の共同行動すなわち個別的自衛権の枠を越えた「集団的自衛権の行使」となり,わが国に対する攻撃を招く危険を生じさせる。

 4 武力の行使,情報・経済の統制等を含む幅広い事態対処権限を内閣総理大臣に集中し,その事務を閣内の「対策本部」に所掌させることは行政権は合議体である内閣に属するとの憲法規定と抵触し,また内閣総理大臣の地方公共団体に対する指示権及び地方公共団体が行う措置を直接実施する権限は地方自治の本旨に反し、憲法が定める民主的な統治構造を大きく変容させ,民主政治の基盤を侵食する危険性を有する。\n
 5 日本放送協会(NHK)などの放送機関を指定公共機関とし,これらに対し,「必要な措置を実施する責務」を負わせ,内閣総理大臣が対処措置を実施すべきことを指示し,実施されない時は自ら直接対処措置を実施することができるとすることにより,政府が放送メディアを統制下に置き,市民の知る権利,メディアの権力監視機能,報道の自由を侵害し,国民主権と民主主義の基盤を崩壊させる危険を有する。\n
 以上のように有事法制3法案は,武力又は軍事力の行使を許容する為の強大な権限を内閣総理大臣に付与する授権法であり、基本的人権侵害のおそれ,平和原則への抵触のおそれだけでなく、憲法が予定する民主的な統治構\造を変容させ,地方公共団体,メディアを含む指定公共機関の責務と内閣総理大臣の指示権,直接実施権及び国民の協力・努力義務を定めることにより,国家総動員体制の道を切り開く重大な危険性を有するものである。
 福岡県弁護士会は,同法案の持つ重大性,危険性に鑑み,有事法制3法案に反対し,同法案を廃案にするように求めるものである。

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2002年6月10日

いわゆるメディア規制3法案の廃案等を求める声明

声明

福岡県弁護士会 会長  藤井克已 

 平成14年(2002年)6月10日

  現在国会で審議中の人権擁護法案、個人情報保護法案、並びに国会上程予定の青少年社会環境対策基本法案はいわゆるメディア規制3法案と呼ばれているように、報道の自由、市民の知る権利を侵害する恐れの強いものである。\n
  人権擁護法案は、本年3月15日付日本弁護士連合会理事会決議で指摘されているように、
 1:法案の人権委員会は法務省の外局とされ、必要十分な専任職員をおかず、しかもその事務を地方法務局に委任する等政府から独立した実効性のある人権救済機関とは到底言えない。\n 2:労働分野での人権侵害を切り離して厚生労働省の機関に委ねたことは労働分野の人権侵害救済の実効性が果たされない。
 3:かかる独立性の保障のない人権委員会がメディアの調査を行い、取材行為停止等の勧告権限を有することは、市民の知る権利を侵害する恐れが強い。
という問題点があり、その名称とは異質の法律案となっている。

  個人情報保護法案は、「基本原則」で個人情報を「適切かつ適正な方法で取得」し「本人が適正に関与し得るように配慮」を求めているが、この法律が施行されれば、政治家個人に対する政治的道義的責任追求を行うについての個人情報の収集や公表が個人情報保護法違反に問われる危険性もあり、日本新聞協会の意見書が指摘するような「取材を受ける側の情報提供が萎縮したり」「基本原則を口実に取材を拒否するケースが増加」することも予\想され、規制法の色彩が強くなっている。また、「報道機関」以外のものが行う表現行為(著作物など)に対する罰則(主務大臣の改善・中止命令違反に対し両罰規定を伴う)の適用があり、これらの表\現の自由に対して大きな侵害となる。その一方で、個人情報に関する自己決定権が保障されず、プライバシー権の明記もない。市民が自らの個人情報の開示を事業者に求めても、事業者の業務の都合で開示請求を拒否できるなど、個人情報を保護する法律としても極めて問題の多いものである。

  青少年社会環境対策基本法案は、2001年2月21日付日本弁護士連合会会長声明で指摘されているように、2000年に設立された第三者機関「放送と青少年に関する委員会」などによる自主的努力を一層強めることが本筋であり、同法案にある行政機関のメディアへの勧告権限、氏名公表、指導権限など、メディアへの直接介入、検閲の危険がある内容となっている。\nさらに、規制対象とされる有害な社会環境の内容も曖昧であり、表現の自由を侵害する法案と断ぜざるを得ない。\n
  これらメディア規制3法案は、報道の自由、国民の知る権利を侵害する危険性が著しく高いものであるので、この3法案に反対し、国会審議中の2法案については今国会で直ちに廃案にするとともに、全ての法案について、国民の意見を求めた上、根本的な見直を行うべきである。

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2002年6月17日

住民基本台帳ネットワークシステムの稼働の延期を求める声明

声明

福岡県弁護士会 会長  藤井克已 

 平成14年(2002年)6月17日

1.今年8月5日の改正住民基本台帳法の施行に伴い,住民基本台帳ネットワークシステム(以下「住基ネット」という。)の稼働が予定されている。これは,各市町村が管理する住民基本台帳に記載された高度のプライバシーに属する個人情報である住民票コードを含む6情報ないし13情報をコンピュータネットワークに乗せ,他の地方自治体や国の行政機関からのアクセスを可能\にするものである。
 確かに,行政の効率化の点では利便性があるかもしれないが,コンピューター上のデータは紙の上のデータと異なりネットワーク上での拡散も簡単であることから,ネットワークの広域化によりネットワーク外への情報流出の可能性が格段に高まり,その利便性とは裏腹にプライバシーに修復不可能\なダメージを与える危険性を孕んでいる。
 現在,93の国の事務が住基ネットを利用することが決まっているが,更に,「行政手続きオンライン化関連3法案」によって171事務が追加されようとしている。住民票コードに付された個人情報をネットワークに流通させることは,各事務で得られた個人情報を集約することを容易にするもので,それ自体が個人のプライバシーに対する脅威となりうる。

2.ところで,1999年6月10日に行われた地方行政委員会(第145国会)において,当時の小渕首相は,住基ネットの「実施にあたりましては,民間部門をも対象とした個人情報保護に関する法整備を含めたシステムを速やかに整えることが前提であるとの認識に至った」と答弁し,改正住基法付則1条2項には「この法律の施行に当たっては,政府は,個人情報の保護に万全を期するため,速やかに所要の措置を講ずるものとする」との規定が盛られているのであるから,住基ネットの稼働には個人情報保護法制の万全な整備が不可欠の前提である。

3.そこで,現行法制及び改正法案を見るに,現行の「行政機関の保有する電子計算機処理に係る個人情報の保護に関する法律」は,情報の収集制限に関する明確な規定がないこと,行政機関相互の目的外利用を広範囲に認めていること,安全確保義務違反に対する罰則がないことなど個人情報保護制度としては,極めて不十分である。\n 次に,今国会で審議中の「行政機関の保有する個人情報の保護に関する法律案」(以下,「行政機関個人情報保護法案」という。)においても,何ら問題点は改善されていない。すなわち,
 1:蒐集制限に関する明確な規定がないこと,
 2:「相 当の関連性」があれば利用目的の変更が容易に容認されること,
 3:「職務上必要な限度」「相当な理由」があれば行政機関相互の目的外利用が極めて広範に容認されること, 4:「2:」「3:」の判断は当該行政機関に委ねられていること,
 5:個人情報の開示義務規定は盛られているが,拡大解釈される懸念のある広汎な除外規定によって骨抜きになっていること,
 6:安全確保義務違反に罰則がないこと,
など多くの点に問題があり,個人情報保護制度としては極めて不十分であるどころか,逆に,現状以上に行政機関による個人のプライバシー侵害に適法性のお墨付きを与えかねず,国民の個人情報を保護することよりも,全ての国民の個人情報を一元的に管理することを狙いとしたものと言わざるを得ないものである。\n
4.今般,防衛庁による情報公開請求者の身元・思想信条等のセンシティブ情報を含む個人情報リストの作成保有並びに利用という事件が発覚し,防衛庁は内部調 査の結果,その行為の一部について違法性はないと結論づけている。
 この防衛庁の対応と一連の流れによって,個人情報を隠密裡に蒐集し管理しようとする行政機関の体質が露呈され,万全の個人情報保護法制を欠く現状においては個人のプライバシーがいかに脆いものであるかが明らかになった。

5.このように,行政機関個人情報保護法案には重大な問題があり,住基ネット実施のための前提条件である個人情報保護に万全を期するための「所要の措置」が講じられているとは到底評価できない現状にある。
 従って,8月5日に予定されている住基ネットの稼働は,万全の個人情報保護立法がなされるまでは延期されるべきである。\n

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