福岡県弁護士会 宣言・決議・声明・計画

2012年11月 8日

司法修習生の修習資金の給費制復活を求める会長声明

声明

 本年11月27日から,66期の司法修習が開始され,この福岡県においても,82名の司法修習生が配属される予定となっている。
 司法修習生は,「高い識見と円満な常識を養い,法律に関する理論と実務を身につけ,裁判官,検察官又は弁護士にふさわしい品位と能力を備える」ことを使命としており(司法修習生に関する規則4条),1年間の修習期間中は,その全力を修習のために用いてこれに専念すべき義務(修習専念義務)を負っている(裁判所法67条2項)。当会も,司法の担い手となる法曹の養成に全力を尽くす所存であり,66期の司法修習生に対しても充実した修習内容を提供すべく,万全の態勢でのぞむ覚悟である。
 ところで,司法修習生は,修習専念義務を尽くすために,基本的にアルバイトその他の経済的利益を得る活動を禁じられている(司法修習生に関する規則2条)。64期までの司法修習生に対しては,生活費等の必要な資金(修習資金)が国費から支給されていた(いわゆる「給費制」)。しかしながら,裁判所法等の改正により,65期の司法修習生から,修習資金を必要とする者は,最高裁判所から貸与を受けることになっている(いわゆる「貸与制」。裁判所法67条の2)。また,各司法修習生は,「生きた事件」を素材に研修を受けるべく,司法研修所長が指定した全国各地の実務修習地に配属されることになるが,その際の引越し費用,赴任旅費,通勤交通費,その他一切の費用を,自己負担しなければならない。
 当会は,65期司法修習生との座談会を実施するなどして,その実情をヒヤリングしたが,多くの司法修習生が,数百万円単位の負債を抱えることに対する不安を抱えていた。また,司法試験に合格しながらも,経済的負担のために,司法修習生となることを断念した者もいるということであった。
 ここ数年,法曹志願者が激減しているが,その背景には,法曹となるために要する経済的負担の重さがあると指摘されている。法科大学院の修了までに多額の費用を要するのみならず,司法試験合格後の修習資金も給費制から貸与制に移行したために,その経済的負担の大きさに拍車がかかっている。このような事情に相まって,弁護士の就職難という事情もあるために,法曹に対する魅力が大きく減殺されているのである。
 かかる事態は,「多様な人材を法曹界に」という司法改革の理念に逆行するものである。また,司法の担い手となる法曹の養成については,本来国が責任を持つべきであるにもかかわらず,司法修習生を全国各地に配属して1年間の専念義務を課しながら,その費用を全く支給しないという制度自体,国の責任放棄であり,不合理なものと言わざるを得ない。
 本年7月27日に可決した「裁判所法及び法科大学院の教育と司法試験等との連携に関する法律の一部を改正する法律」では,修習資金の貸与制について,「司法修習生に対する適切な経済的支援を行う観点から,法曹の養成における司法修習生の修習の位置づけを踏まえつつ,検討が行われるべき」と明記された(同法第1条)。この改正に際しての国会質疑では,将来の給費制復活も排除されていない旨の答弁がなされている。
 当会は,政府及び国会に対し,今後改めてなされる法曹養成制度の再検討において,修習資金の給費制が復活されるよう強く求めるものであり,また,司法修習生に対する公平な経済的配慮の観点から,過去にさかのぼった適切な対応を実施するよう求めるものである。
以上

2012年(平成24年)11月7日
福岡県弁護士会会長 古 賀 和 孝
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2012年11月 9日

生活保護基準の引下げに強く反対する会長声明

声明

政府は、本年8月17日、「平成25年度予算の概算要求組替え基準について」を閣議決定した。そこでは、社会保障分野についても生活保護の見直しをはじめとして最大限の効率化を図るとの方針が強調されている。また、厚生労働省が公表した平成25年度予算概算要求の主要事項では、生活保護基準の検証・見直しを予算編成過程で検討するとされている。そして、本年10月5日、厚生労働省は、社会保障審議会生活保護基準部会において、第1・十分位(全世帯を所得階級に10等分したうち下から1番目の所得が一番低い層の世帯)の消費水準と現行の生活扶助基準額とを比較するという検証方針を提案した。
これらの事実から、本年末にかけての来年度予算編成過程において、厚生労働大臣が、生活保護基準の引き下げを行おうとすることは必至の情勢にある。
しかし、生活保護基準は、憲法25条が保障する「健康で文化的な最低限度の生活」の基準であって、我が国における生存権保障の水準を決する極めて重要な基準である。生活保護基準が下がれば、最低賃金の引き上げ目標額が下がり、労働者の労働条件に大きな影響が及ぶ。また、生活保護基準は、地方税の非課税基準、介護保険の保険料・利用料や障害者自立支援法による利用料の減額基準、就学援助の給付対象基準など、福祉・教育・税制などの多様な施策の適用基準にも連動している。生活保護基準の引下げは、現に生活保護を利用している人の生活レベルを低下させるだけでなく、市民生活全体に大きな影響を与えるのである。
このような生活保護基準の重要性に鑑みれば、その在り方は、上記の生活保護基準部会などにおける学術的観点からの慎重な検討を踏まえて、広く市民の意見を求めた上、生活保護利用当事者の声を十分に聴取して決されるべきである。財政の支出削減目的の「初めに引下げありき」で政治的に決せられることは、決して許されることではない。
そもそも、厚生労働省の提案する、低所得世帯の消費支出と生活保護基準の比較検証の手法には大きな問題点がある。すなわち、平成22年4月9日付けで厚生労働省が発表した推計によれば、生活保護の捕捉率(制度の利用資格のある者のうち現に利用できている者が占める割合)は2~3割程度と推測され、生活保護基準以下の生活を余儀なくされている「漏給層(制度の利用資格のある者のうち現に利用していない者)」が大量に存在する。当会の生活保護支援システムにおいても、生活保護の窓口を訪れたにもかかわらず申請が受け付けられなかったとの市民からの相談が多数寄せられている。このような現状においては、低所得世帯の支出が生活保護基準以下となるのは当然である。これを根拠に生活保護基準を引き下げることを許せば、生存権保障水準を際限なく引き下げていくことになり、合理性がないことが明らかである。
当会の会員は、多重債務問題の解決や生活保護支援をはじめとする業務の中で、日々、低所得世帯の市民の生活困窮の実態に接しているところであるが、生存権保障水準を引き下げれば、市民生活にさらに深刻な影響が及ぶことは明らかである。
よって、当会は、来年度予算編成過程において生活保護基準を引き下げることに強く反対する。


2012年(平成24年)11月 9日
                           
                              福岡県弁護士会    
                              会長 古 賀 和 孝

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遠隔操作による脅迫メール事件等の取調べについての会長声明

声明

 
 ウェブサイト上やメールで犯罪の予告をしたとして、福岡市在住の男性1人を含む男性4人(うち少年1人)が威力業務妨害や脅迫等の被疑事実で逮捕された。内1人は起訴され、1人は少年審判を受けていた一連の事件について、真犯人を名乗る者からパソコンを遠隔操作するなどして実行した旨の犯行声明メールが送られたことを受け、捜査機関は、当該男性4人の逮捕は誤認に基づくものであったことを認め、不起訴処分や起訴取り消し等の処分を講ずるとともに、男性らに対して誤認逮捕について謝罪した。
 これらの事件で看過されてはならないのは、福岡市在住の男性及び少年1人についての虚偽の自白を内容に含む供述調書が作成されていることである。無実の人間が虚偽の自白あるいは自白調書への署名捺印を強いられ、さらには、供述調書にありもしない「犯行動機」まで書かれているとのことである。同時期に複数の無実の市民が虚偽自白を強いられた事実により、改めて、捜査機関が自白採取に重きを置く捜査方法を採用していることが明らかとなった。本件において取調べを含む捜査手続に様々な問題があったと考えざるを得ず、現時点で以下の2点につき指摘を行うものである。


 まず1点目は、いわゆる人質司法の問題である。
 本件では男性4人とも逮捕・勾留されている。そして、審判で保護処分がなされていた少年1人を除き、ウイルス感染していたことが判明するまで勾留が続き、福岡市在住の男性に至っては、他の2人の男性が釈放された日である2012年9月21日に再逮捕され、その後再勾留もされた。
 ウェブサイト上やメールでの犯罪の予告であれば、その証拠はサーバーやパソコン自体に残っているのであるから、本来であればパソコンを押収するなどすれば証拠隠滅を避けることができるし、威力業務妨害罪や脅迫罪の法定刑を考えれば逃亡のおそれが高いわけでもない。
 その意味では、本件はそもそも勾留の要件を満たしていたかどうか自体にも疑問のある事案であるが、自白をしなければ自分自身あるいは同居人が逮捕・勾留されてしまう、あるいは勾留期間が長くなってしまうというような状況は、虚偽自白を生み出してしまう要因となり得るのであり、そのことを踏まえ検察官による慎重な勾留請求と、裁判官による慎重な勾留決定の判断が求められる。
 しかるに、安易に勾留を認めたが故に、身柄拘束を受け虚偽自白に至った経緯があり、ここに虚偽自白を防止するため人質司法を早急に改める必要がある。


 
 2点目は取調べの全過程の録画・録音の必要性である。
 本件では、具体的に取調べにどのような問題があったか必ずしも明らかとはなっていないが、取調べの全過程を録画・録音すれば、虚偽自白に至るまでの取調べでのやりとりが明らかとなるのであり、そのことにより、違法な取調べを防止できるのみならず、虚偽自白を防ぐための取調べ手法に関する検証も可能となる。
 また、取調べの全過程を録画・録音すれば、虚偽自白を始めた後の具体的な供述内容や供述経過が明らかとなるところ、実際にはやっていないことを自白しようとする場合、どうしてもその供述には客観的事実や状況に矛盾する内容が含まれるはずであり、供述内容や供述経過を仔細に検討することにより、真実の自白であるのか虚偽自白であるのかを検察官や裁判官が判断することも可能となる。
 その意味でも、当会がこれまで繰り返し求めてきている取調べの可視化(取調べの全過程の録画・録音)は極めて重要なのであり、在宅事件も含め、一度でも被疑者が否認した事件や弁護人が録画・録音を求めた事件については、取調べの全過程を録画・録音がなされるべきである。


 
 以上、人質司法の問題も取調べの可視化の問題も、当会において繰り返し指摘してきた問題ではある。しかしながら、本件の発覚により、現在に至ってもなお、歴然として虚偽自白やえん罪が起こり続けていることが明確となったことを機に、改めて①逮捕・勾留について刑事訴訟法が定める要件に基づいた慎重な運用、ならびに②否認事件及び弁護人が録画・録音を求めた全ての事件について、直ちに取調べの全過程を録画・録音するよう求めるものである。


                     2012(平成24)年11月9日
                          福岡県弁護士会    
                          会長  古 賀 和 孝

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投票価値の較差是正を求める会長声明

声明

 2012年10月17日、最高裁判所大法廷は、2009年8月30日施行の衆議院議員総選挙に続き、2010年7月11日施行の参議院議員通常選挙においても、各選挙区間で最大5倍の投票価値の較差が生じたことについて、「投票価値の不均衡は、投票価値の平等の重要性に照らしてもはや看過し得ない程度に達しており、これを正当化すべき特別の理由も見いだせない以上、違憲の問題が生じる程度の著しい不平等状態に至っていたというほかはない」との判決を言い渡した。
そして、衆議院と参議院の権限及び議員の任期等における差異は、それぞれの議院に特色のある機能を発揮させることによって、国会を公正かつ効果的に国民を代表する機関たらしめようとするところにあるのであるから、参議院議員の選挙であること自体から直ちに投票価値の平等の要請が後退してよいと解すべき理由は見いだし難いとした上で、現行の仕組みに依拠する結果、その間の人口較差に起因して投票価値の大きな不平等状態が長期にわたって継続していると認められる状況の下では、上記仕組み自体を見直す必要があるとして、違憲の宣言にとどまらず、より積極的に現行の選挙制度の仕組み自体の見直しをも要請している。
そもそも、投票価値の平等、即ち議員の選出における各選挙人の投票の有する影響力の平等は、憲法上の要請であり(憲法14条1項、44条)、
「国権の最高機関」(憲法41条)たる国会に国民の意思を的確に反映するための重要な条件であって、議会制民主主義、ひいては国民主権を支える要である。
 一連の最高裁判所判決は、遅々として進まない投票価値の較差是正をめぐる選挙区割にメスを入れたといってよい。
 特に、田原睦夫裁判官の反対意見において指摘されているように、福岡県は議員一人あたりの選挙人数の較差が4倍を超える5選挙区のうちのひとつである。当会にとって、今回の最高裁判所判決は他県にも増して意義深いものである。
当会は、今回の最高裁判所判決を重く受け止め、国会に対し、速やかに公職選挙法等関連法を改正し、衆議院議員総選挙のみならず参議院議員通常選挙における投票価値の較差を是正するための措置をとることを強く求めるものである。

    
                      2012年(平成24年)11月 9日                                                    
                     福岡県弁護士会会長  古賀和孝   

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2012年11月13日

会長日記

会長日記

平成24年度福岡県弁護士会  会 長 古 賀 和 孝(38期)

予想したとおり、残暑は厳しく、天高い青い空も見ることが未だできない陽気です。9月度の日弁連理事会に向かう前の福岡市は気温30度でしたが、東京は随分涼しくなっており上着も必要ではないかと案じ、取りあえずは、手に持って出かけました。ところがどっこい30度を超えるオレンジ色の気候で、とても難儀しております。
格別、映画を見るわけではありませんが、20年ほど前に「依頼人(ザ・クライアント)」という映画が上演されました。ストーリーは、とある少年が妙な成り行きで犯罪に巻き込まれ、警察、マフィアに追われることとなってしまい、絶体絶命の窮地を脱するため、なけなしの「1ドル」で弁護士を依頼するというものです。依頼者が少年であること、弁護料が「1ドル」であること、この安価な弁護料でも主人公の女性弁護士は命を懸けて少年を守るために、全力を尽くし、活動を行うところが、単なるサスペンス、アクション映画とは異なり、それなりに好評を博しました。やりがいがある仕事であれば、銭金ではない、ということでしょうか。
さて、来年1月1日から従来の家事審判法に変わり、新たに家事事件手続法が施行されることは皆さんご承知のことと思います。この法律は戦後直ぐの時期に制定された家事審判法が条文も少なく、当事者の関与、主張の突き合わせ、証拠の閲覧謄写など近時の当事者参加という時代の趨勢にそぐわないところがあるとして、新法化されたものです。家事関係立法の大きな転換ということができ、また、内容面でもこれまでの取扱を大きく変えるものであるため、私たち実務家である弁護士も習熟が必要となります。当会でも家庭裁判所の協力を得て、研修を行うことにしております。
9月度の日弁理事会の審議で、家事事件手続法によって、弁護士費用の負担をすることになった子の費用は、当然に国が負担すべき場合があり、それは国選弁護に準じて、総合法律支援法に基づく法テラスの本来業務として取り扱うべきであるとの意見を採択することになりました。
今少し敷衍しますと、新法によれば、子の監護に関する調停、親権者の指定、変更に関する調停において子は法定代理人によらず、独立して手続を行うことができるとされております(法252条1項2号、4号)。また、行為能力が制限されているものがこれらの手続をおこなう場合、必要があるときは、裁判長は、申立てにより、弁護士を手続代理人として選任することができると定められております。申立てがない場合には選任命令を発したり、職権で選任することも規定されています(法23条1項、2項)。ここまでは良いとして、さらに、子は選任された弁護士に裁判所が認める相当額の報酬を支払わなければならないとされています(同条3項)。驚くべきことです。
監護の仕方についての要望や、親権者として自分にふさわしい人はだれか、自ら判断したい、また、その補助が必要だという場合にあって、弁護士に手続を依頼するという、尤もなことが自己負担というのでは、手続代理人の選任が躊躇されることにも繋がりかねません。勿論、私選弁護と同様、費用負担をしてくれる成人があればよく、案ずるに足りないとの見解もありましょうが、例えば離婚に際しての子の親権の取り合いという例を取ったとき、必ずしも両親に資力があるとも言えません。仮に、両親に資力があったとしても、双方が親権を取りたいばかりに自ら出費すると言い張り、新たな紛争を生じさせることも予想されます。
法テラスの本来業務とすることには、法テラスと契約していない弁護士は手続代理人に就任できないのかなど、様々な問題もあります。しかし、弥縫策として、喫緊の課題を乗り越えるため法テラスによる負担はやむを得ません。本来、家事事件手続法自体で根本的に子に負担させない制度を策定すべきでしょうが、最高裁も如何ともし難いといい、また、法テラスも中々承諾しないが故に、日弁連からの意見書発出という方法を取らざるを得ず、今回の審議および可決となったものです。
冒頭、「1ドル」で事件受任をした映画「依頼人」の話しは、銭金ではない、やらなければならないことはやる、それがおよそ弁護士と名の付く者の「this is my job」ではないかと思ったからです。但し、国の無策により、いつまでもタダ働きをさせられるのはまっぴら御免です。

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2012年11月21日

当会会員の起訴についての会長談話

会長談話

 本日、当会の島内正人会員(北九州部会)が成年後見人を欺罔し、多額の金員を詐取したという公訴事実で起訴されました。このことは真に慙愧に堪えません。
 当会では、近時、刑事事件を含む会員の不祥事が続発し、当会のみならず弁護士、弁護士会全体に対する国民皆様の信頼を大きく毀損しており、重大な事態であると厳粛に受け止めております。
 当会は、国民の皆様からの信頼を回復し、基本的人権の擁護を使命とする弁護士として期待される職務を全うするため、会員一人一人に対して更なる倫理意識の徹底と自覚を求めるとともに、弁護士の職務を忘れ不正を行った弁護士に対しては、除名を含む厳しい態度で臨む決意です。

                         2012(平成24)年11月21日
                                 福岡県弁護士会
                                 会長 古賀 和孝

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