福岡県弁護士会 宣言・決議・声明・計画

2020年8月28日

法律事務所への捜索等に抗議する会長声明

声明

 東京地方検察庁の検察官ら(以下「検察官ら」という。)は,2020年(令和2年)年1月29日,カルロス・ゴーン氏に対する出入国管理法違反,その他の者に対する同法違反(幇助)及び犯人隠避被疑事件について,同氏の別件被告事件の元弁護人ら(以下「元弁護人ら」という。)が所属する法律事務所(以下「本件事務所」という。)に対し,立ち入り,捜索(以下「本件捜索」という。)を行った。もっとも,結局,検察官らは,元弁護人らから押収拒絶権を行使された物について,差押えをせず,検察官らが押収したものは,弁護士らが任意に呈示していた面会簿のみだった。
 この点,検察官らは,本件捜索に先立つ同月8日,元弁護人らにおいて押収拒絶権(刑事訴訟法105条)を行使することが可能な対象物(同氏に貸与していたパソコン)のみを明示した別の捜索差押許可状により,本件事務所に立ち入ろうとしたところ,元弁護人らに押収拒絶権を行使されたため,事務所内への捜索(立ち入り)自体を断念していた。
 本件捜索は,その後,検察官らが裁判官から新たな捜索差押許可状(以下「本件令状」という。)の発付を受けたうえで行われた。本件令状は,法律事務所に通常保管されていると思われる,事件との関連性に疑問がある物をも含めて,網羅的・包括的に対象物としていた。
 このように,本件捜索は,一度は元弁護人らに押収拒絶権を行使されたため,検察官らが事務所内への捜索を断念した後に,改めて事件との関連性に疑問がある物を含む,網羅的・包括的な物を対象とする本件令状により強行されたものである。かかる事実に照らせば,検察官らが行った本件令状の請求及び執行は,本件事務所内の捜索のみを目的としていたと解さざるを得ず,元弁護人らに対する威迫行為であり,その職務を侵害する重大な違法行為であるというべきである。
 よって,当会は,検察官らのこれらの行為に強く抗議する。
 さらに,裁判官は,適正手続きの要請のもと,強度の人権侵害である強制処分を行う令状を発付する権限が与えられている。ところが,一度,検察官らが対象物を明示した捜索差押令状を請求し,これを執行した際に,元弁護人らが押収拒絶権を行使したため,捜索自体を断念した経緯があるにもかかわらず,本件令状のような網羅的・包括的な令状の請求に対し,裁判官が本件令状を漫然と発付したことは,令状発付時に適切な審査を期待されている裁判官の職責を放棄し,適正さを著しく欠いた令状主義の精神を没却する違法な行為であると言わざるを得ない。よって,当会は,裁判官のかかる令状発付行為に対し,併せて強く抗議する。
 刑事司法を担う検察官及び裁判官が上記のような各違法な行為に及んだことは,刑事司法の公正さ及び適正手続きに対する国民の信頼を著しく損なうものであり,厳しく批判されるべきである。


2020年(令和2年)8月28日

福岡県弁護士会

会長 多川 一成

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