福岡県弁護士会 宣言・決議・声明・計画

2008年7月 3日

少年法「改正」法案成立に対する会長声明

声明

 本年6月11日、参議院において、政府提出にかかる少年法一部「改正」法案が、民主、自民、公明三党により修正されたうえで可決成立した。
 当会は、本年2月13日、法制審議会少年法(犯罪被害者関係)部会が、少年法「改正」要綱(骨子)を採択し、同年3月7日、少年法「改正」案が閣議決定され国会に上程された時点で、同「改正」法案は、少年の健全な育成を目的とするという少年法の理念を没却し、ひいては、社会全体の安全にも悪影響を及ぼすとして同法案に強く反対の意見を表明した。しかも、当会のみならず、日弁連及び全国の多数の弁護士会が、同様の反対の意見表明をしてきたにもかかわらず、十分な審議もなされず短期日のうちに成立に至ったことに対して、遺憾の念を禁じ得ない。

 今回の「改正」法は、国会の審議の過程で、被害者傍聴の要件として、「少年の健全育成を妨げるおそれがない」ことを明記したうえ、12歳未満の少年の事件は傍聴対象事件から除外し、12歳、13歳の少年事件の被害者傍聴については、少年が精神的に特に未成熟であることを十分考慮しなければならないとの修正を施すなど、少年法の理念と目的の重要性に一定の配慮がなされたことは意義がある。
 しかし、被害者による審判傍聴を許すにあたって、予め弁護士付添人の意見を聴かなければならないとし、少年に弁護士付添人がないときは、家庭裁判所が弁護士付添人を付さなければならないとしつつも、その例外を設けるなど不十分な点は否めないうえ、被害者が少年審判を傍聴することに対する根本的な問題点は、依然として払拭できない。
 すなわち、審判を被害者等が傍聴することになれば、精神的に未成熟な少年は、事実に関する自己の率直な意見や心情、気持ちをそのまま発言することを躊躇し、審判に関わる関係者からの少年の問題に迫った更生への働きかけができなくなるおそれがある。また、被害者にとっても、少年審判は心理的な動揺が収まっていない状況で開かれることが多いため、被害者が傍聴する少年審判廷は必然的に非常に緊張度の高いものとなり、上記少年法の理念に基づく審判の実践はおよそ困難となる。さらに、プライバシーの観点から、少年の家庭生育環境や生い立ちなどに遡って非行の原因を掘り下げ、少年の適切な処分を選択するということができなくなる。以上の結果、少年に対して適切な処分が不可能となり、そのことはひいては社会全体の安全にも悪影響を及ぼすことになる。
 当然ながら、犯罪被害者等の権利利益の保護が図られなければならないことは言うまでもないが、この点に関して今なすべきことは、各関係機関が被害者等に対し、2000(平成12)年少年法「改正」で導入された、被害者等による記録の閲覧・謄写(少年法第5条の2)、被害者等の意見聴取(少年法第9条の2)、審判の結果通知(少年法第31条の2)の各規定の存在をさらに丁寧に知らせ、これを被害者等が活用する支援体制を整備すること、さらには、より抜本的に犯罪被害者に対する早期の経済的、精神的支援の制度を拡充することである。
 当会としては、今回の「改正」が再度見直されることを求めると共に,家庭裁判所に対して,少年法の理念を損なうことのないよう,厳格な運用を強く求める。

              2008(平成20)年7月2日
                      福岡県弁護士会
                       会  長   田 邉 宜 克

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2008年7月24日

福岡県弁護士会会長日記

会長日記

                      会 長  田邉 宜克(31期)


【定期総会・就任披露宴】
5月22日に福岡県弁護士会の定期総会と役員就任披露宴が開かれた。総会では、予算決算等の審議事項と「より良い刑事裁判の実現を目指して」「あさかぜ基金法律事務所を成功させよう」との二つの宣言(当会HPに掲示)がいずれも承認可決され、就任披露宴も多数の招待者・会員のご参加を得て、盛会裡に終えることができた。
会員の皆さん及び就任披露宴にご出席いただいた方々に心から御礼申し上げます。
また、総会終了後の法テラス埼玉の本所スタッフ弁護士谷口太規氏の講演は、スタッフ弁護士の活動内容とその矜持を知ることができ、大変参考になった。同弁護士に講演内容を敷衍した文章を本号に寄稿していただいたので、是非ともご一読いただきたい。


【あさかぜ基金法律事務所】
5月16日に、あさかぜ基金法律事務所運営委員会に引き続き入所予定の3名の修習生の方との懇談会を行った。現行61期1名、新61期2名、合計3名の予定者に弁護士偏在地区での活動を志した動機や意欲を語っていただいたが、いずれも、あさかぜ基金法律事務所の第1期を委ねるにふさわしい方々で大変心強い思いであった。運営委員会や指導担当弁護士にだけ、その養成を担わせるのではなく、当会の責務として、会員全員に積極的なご協力ご支援をお願いしたい。


【奄美ひまわり事務所引継式】
5月24日に奄美ひまわり基金法律事務所の引継式が開催され、九弁連副理事長として出席した。後任として奄美に赴任した大窪弁護士は、東京の養成事務所を経て、紋別ひまわり事務所で3年間活躍された後、2,100kmの距離をものともせず奄美行きを決断した。彼は、弁護士がより求められている地域で働くことをモットーとし、多重債務ほかの需要に応えるほか、離島である奄美地区(周辺の奄美群島も)の被疑者国選弁護への対応が自らの責務であると語った。その披露宴には、北海道から沖縄まで、全国各地から、多くのひまわり事務所の仲間達が集まったが、意識が高く、熱意溢れる若者ばかりで、弁護士偏在地域を支えている人たちの心意気に感動した。
また、奄美ひまわり事務所は、鹿児島県弁護士会の支援委員会の大変なご苦労があって支えられていることも実感した。あさかぜ事務所から派遣される先の単位会との連携は、極めて重要である。


【柳川地区の零地区解消】
5月27日に同月初め柳川市で開業された三島正寛弁護士の事務所開設披露が行われた。所謂、零地区として、全国で最後に残ったのが、柳川と長浜であったが、三島弁護士の決断に引き続き、6月初めに長浜でも法律事務所が開設され、ついに零地域解消という日弁連の悲願が達成されたのである。日弁連の取組みのシンボリックな意味だけではなく、その地域に弁護士が常駐しているのと、いないのとでは、地域とのつながり、法的需要の掘り起こし、ひいては、その地域での権利の救済の面で、大きな違いがあることは明らかであって、三島弁護士は、何よりも柳川地域の住民に歓迎され、期待されている。今後、柳川地区の司法サービスの中核として活躍されることを願うや切である。


【当番弁護士負担金】
来年5月で当番弁護士負担金の期限が満了する。被疑者国選弁護が開始され、現在の被疑者援助事件の多くが国選となっても、当番弁護士や国選対象外の被疑者援助事件、なにより、少年事件全件付添の全国拡大を目指す付添人援助事業実施のために、同趣旨の負担金継続は必要不可欠であろう。そのために必要な負担金額を含め、会内で広く議論して行きたい。

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2008年7月25日

大会アピール「消費者庁構想を考えるシンポジウム」

アピール


 私たち「消費者庁構想を考える〜真に消費者の頼りになる消費者庁実現に向けてシンポジウム」参加者一同は、日本における消費者が置かれている現在の状況を確認した。すなわち、1962年にケネディ大統領が米国連邦議会に送付した「消費者利益保護に関する特別教書」(いわゆるケネディ教書)において、消費者の権利として、安全である権利、知らされる権利、選ぶ権利、意見を聴かれる権利の4つの権利が確認されて以来、消費者は単に事業者を業法で規制した結果保護されるという受動的な存在ではなく、権利主体として積極的に社会に関与すべきものと理解されてきた。
 ところが、我が国においては、未だに産業育成を本来の目的とした産業毎の縦割り省庁が存在するのみであり、消費者の観点から統合的に行政を司る庁は存在していない。この結果、各省庁の縦割り行政のすき間に発生したと思われる消費者被害や、産業育成の観点から監督官庁が、司法判断と異なる業者よりの行政解釈を行った結果、より被害が拡大・深刻化するなどしている。加えて、食の安全や製品の表示に関する偽装は後を絶たず、深刻な社会不安が惹起されている。また、市民にとって身近な相談窓口である地方公共団体の消費者相談窓口において、資金的・人的資源が必ずしも十分ではなく、市民の真のニーズに応えることが困難になりつつあることも指摘されている。
 このような中、政府は、平成20年6月27日に閣議決定した、「消費者庁創設のための消費者行政推進基本計画」において、消費者の視点で政策全般を監視し、「消費者を主役とする政府の舵取り役」として、消費者行政を一元的に推進するための強力な権限を持った新組織を創設することとし、国と地方一体となった消費者行政の強化を行うものとしている。また、民主党も消費者権利擁護官(消費者オンブズパーソン)法案を取り纏め、消費者の立場に立った徹底した権限行使をする行政組織を提案している。
 私たちシンポジウム参加者は、このような現在の深刻な状況を改善していくためには、国民一般と同義語である消費者の視点から行政全般を司る行政組織が必要であること、市民にとって身近な相談窓口の充実拡大が必要であることを理解し、政府与党と民主党の案をより充実させ、来るべき臨時国会において以下の真に消費者のための行政組織を創設することを期待する。また、参加者は、それぞれの社会的な地位において、創設された消費者のための行政組織に対して、司法と行政という枠にとらわれず、消費者の権利の擁護のため、それぞれが最大限の努力を尽くすことを誓い、ここに意見を表明する。


1.速やかに消費者の権利擁護のための実効性ある行政組織を創設すること。
2.市民のための相談窓口である地方公共団体の相談窓口を充実・拡大すること。
3.新組織の運営に消費者が参加し、監督するために、弁護士会や消費者団体に新組織に対し問題業者への調査・勧告権限発動を求める申立権を付与すること。
4.独立した行政組織には、業者が得た違法な収益を剝奪し、被害者に速やかに回復させるための行政手続・司法手続上の権限を付与すること。


平成20年(2008年)7月19日

「消費者庁構想を考えるシンポジウム」参加者一同

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