福岡県弁護士会 宣言・決議・声明・計画

2012年5月10日

会長談話

会長談話

                会長談話


 本日、当会会員が詐欺の容疑で逮捕されましたことは誠に遺憾です。
 当会は、同会員について預かり金の返還遅滞を理由として、平成24年3月22日、会立件の形で懲戒手続に付し、翌23日、これを公表しました。上記懲戒手続につきましては、4月19日、綱紀委員会の議決を経て、懲戒委員会による審査手続に入っております。
 同会員の行為が返還遅滞に止まらず今回の逮捕容疑事実に及んでいたとすれば、その行為は弁護士に対する信頼を根底から覆すものであることが明白です。
 昨年、当会の別の元会員が業務上横領で有罪判決を受けております。このような問題の続発により、当会のみならず弁護士全体に対する国民の信頼を失いかねない状況に至っていることを深く自覚し、重く受け止めております。
 当会は、国民の皆さまからの信頼を回復するため、不正を行った弁護士に対しては、常に除名を含む厳しい態度で臨む決意です。
 こうした制度上の措置に加え、会員の倫理意識を一層高め、会員一人一人に更なる自覚を求めるとともに、こうした事件の再発防止策についての検討を急ぐ所存です。


                        2012(平成24)年5月10日
                              福岡県弁護士会
                                会長 古賀 和孝

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2012年5月18日

刑の一部執行猶予制度に対する意見書

意見


                         
                         2012(平成24)年5月18日
                                 福岡県弁護士会     
                                 会長 古賀和孝
  

 


第179回臨時国会に提出された「刑法等の一部を改正する法律案」及び「薬物使用等の罪を犯した者に対する刑の一部の執行猶予に関する法律案」(以下「本法案」という。)に関する福岡県弁護士会(以下「当会」という。)の意見は以下のとおりである。


意見の趣旨
 当会は、本法案を廃案とし、現行の仮釈放の運用改善や福祉や医療などの社会的支援へつなげる体制を整備したうえで、改めて制度導入の可否を審議することを求める。


意見の理由
1 はじめに
 本法案の提案理由は、「近年、犯罪者の再犯防止が重要な課題となっていることに鑑み、犯罪者が再び犯罪をすることを防ぐため」に、刑の一部の執行を猶予することを可能とする制度を導入することにあるとされる。
 そして、実刑と全部執行猶予との中間的な刑事責任に応じた刑罰や、施設内処遇後に相応の社会内処遇の期間を確保し、施設内処遇と社会内処遇の有機的な連携をはかる制度が求められ、それが刑の一部執行猶予制度であるとされる(以下、本法案に定める刑の一部の執行を猶予することを可能とする制度のことを、単に「一部執行猶予制度」という。)。
 しかし、一部執行猶予制度は、第2項及び第3項に述べる理論的問題点及び運用上の問題点を抱えているため、第4項に述べる本来的な制度改革の在り方を踏まえた慎重な審議がなされるべきである。

2 刑の実質的重罰化・処遇の長期化に対する懸念
  本法案における「一部執行猶予」の要件は、「3年以下の懲役または禁錮の言渡しを受けた場合」である。実刑と全部執行猶予との中間的な制度としての一部執行猶予制度の位置づけからすれば、その適用範囲としては、これまで実刑となっていた事例の一部のみならず、これまで全部執行猶予となっていた事例にも適用されうることになる。
そして、全部執行猶予になっていた事例に適用された場合には、これが被告人にとって重罰化を意味することはいうまでもない。
一方、これまで実刑となっていた事例に適用された場合であっても、一部実刑に処せられた上、その後執行猶予に付せられることにより、実質的に被告人に対する監視期間が長期化することとなるのであって、被告人の負担は軽視できないものであり、特に保護観察に付せられた場合はなおさらである。
そして、本法案は、遵守事項違反の場合の執行猶予取消に関する条項において、従来の保護観察付執行猶予違反の場合に規定されている「その情状が重いとき」(刑法62条の2)という文言を削除しており、一部執行猶予制度において遵守事項違反が即収容につながる危険性が高いことに照らせば、かかる被告人の負担は決して軽いものではなく、実質的な重罰化となることが懸念される。

3 刑事罰の保安処分化に対する懸念
本法案において、刑の一部執行猶予は「犯情の軽重及び犯人の境遇その他の情状を考慮して、再び犯罪をすることを防ぐために必要であり、かつ、相当であると認められるとき」に言渡すものとされている。
この要件自体が、被告人の一般社会に対する将来の危険性に着目して被告人の自由を制限することを許容しているともいえ、一部執行猶予制度がいわば保安処分的に運用される危険がある。
この点、一部執行猶予の導入は、刑事責任の評価を変えるものではないとの見解が立案担当者から示されている。
被告人を実刑に処した上で、言い渡された刑期を超える執行猶予期間を付すことが、責任主義との関係上、正当化しうるか疑問である。また、執行猶予を付する場合、宣告刑の量刑が重くなるという従来の実務の実情に照らせば、一部執行猶予の場合の収容期間と執行猶予期間を合算した期間は相当長期にわたることになり、責任主義に照らし、かかる重罰化を正当化することは困難であると考えられる。
このように、一部執行猶予制度については、刑事罰が保安処分化するのではないかという懸念を拭うことが出来ず、また、責任主義との関係で法理論上の問題も孕んでいる。

4 本来的な制度改革の在り方 
(1) 仮釈放の運用改善等
仮釈放とは、懲役・禁錮刑の受刑者を、刑期の満了に先立ち一定の条件のもとに、一定期間仮に釈放して、一般社会において更生させることをはかり、その期間を無事に経過したときには施設に収容することを免除する制度である。仮釈放は、受刑者の改善更生を目的とした刑の執行の一形態であり、仮釈放期間は刑期の残りの期間である(残刑期間主義)。仮釈放の期間がこのように定められたのは、行為責任主義を根拠とするものである。
施設内処遇と社会内処遇との有機的連携をはかるのであれば、行為責任主義との整合性に照らしても、まずは仮釈放制度の運用の改善や、必要的仮釈放の制度の導入が検討されるべきである。
(2) 社会内サポート体制の構築
現行制度上の執行猶予は、全く施設収容を行わず、社会内での処遇がなされる制度である。現行制度の趣旨は、短期間自由刑を科すことによって、かえって対象者の社会復帰が困難となる実情に照らし、施設収容を回避すること、そして、判決の感銘力を背景にした心理的強制を担保として罪を犯した者の自発的更生をはかることである。さらに、取り消されることなく猶予期間を満了した場合には、「刑の言渡しは、効力を失う。」(刑法27条)。現行制度では刑期より長い執行猶予期間が定められるが、これは、全く収容されることがないこと等によって、正当化されうるといわれる。
これに対し、一部執行猶予制度は、実刑にほかならない。
かえって、執行猶予が回避しようとした短期自由刑の弊害は、そのまま生じる可能性がある上、拘禁され、また、全部執行猶予の持つ刑の言い渡しが効力を失うという法的効果もない。
このため、「施設内処遇と社会内処遇の有機的連携」が整備されていない状況で一部執行猶予制度が運用されることになれば、いったん社会から完全に隔絶された被告人を、十分に社会内でサポートできないまま、刑罰を執行されるかもしれないという威嚇力だけで被告人の再犯等を防止するだけの制度となるおそれがある。
社会内サポート体制を整備しないまま一部執行猶予制度を導入することは、制度の目的が実現される可能性が低い中で、いわば見切り発車をするものといわざるをえない。まず、保護観察や更生緊急保護の拡充をし、その実績を踏まえ、改めて、制度導入の可否について審議するというのが、慎重な審議の在り方というべきである。
(3) 小括
被告人の再犯防止という点からみれば、被告人が社会復帰を果たす上で実効性のある「個別化」がされるべきであり、それは、むしろ福祉や医療による社会的援助の方策の充実させる方向である場合も多いと考えられ、より広い視野で社会内処遇の充実を図ることが本筋である。
安易に「中間的」な制度をとりいれることによって、「本来的」な制度(現行制度や将来の制度も含め)の在り方が見失われないよう、現行制度の運用改善や、本来あるべき方向性での新しい施策も並行して検討されるべきである。
  
5 結語
本法案には、第2項及び第3項に述べた問題が内在しているため、当会は、本法案をいったん廃案することを求める。その上で、第4項で述べた現行の仮釈放の運用改善や福祉や医療などの社会的支援へつなげる体制を整えることを先行させ、その実績を踏まえたうえで、改めて制度導入の可否を慎重に審議すべきである。


以 上

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2012年5月28日

福岡県弁護士会所属会員に対する殺人未遂事件に関する会長声明

声明


 2012年5月22日午前10時ころ,当会に所属する緒方研一弁護士が,同弁護士事務所の入居するビル内階段上において,ナイフを所携していた男に襲われ,頭部等打撲,両手指切創等の傷害を負うという犯罪が発生した。
 犯人は,同弁護士が受任していた事件の相手方であり,同事件は既に示談により解決済みであった。犯人がいかなる動機で行ったか不明であるが,法治国家において,暴力をもって紛争の解決を図ることはいかなる理由があっても断じて許されるものではない。
 また,本件は弁護士業務に関連した犯行であり,基本的人権の擁護と社会正義の実現を使命とし,市民の権利の護り手である弁護士の業務に対する重大な侵害行為である。
 当会は,今後とも,いかなる暴力行為に対しても決してひるむことなく毅然として対処し,国民の正当な権利を擁護するため全力をもって弁護士の使命を全うしていく決意であることをここに表明する。


2012(平成24)年5月28日
   
                           福岡県弁護士会
  
会 長  古  賀  和  孝
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2012年5月23日

観護措置決定を受けたすべての少年に対して国選付添人を選任することを求める決議

決議


観護措置決定を受けたすべての少年に対して国選付添人を選任することを求める決議


 弁護士付添人は、少年審判手続において、非行事実の認定や保護処分の必要性の判断が適正に行われるよう、事案に応じて非行事実を争い、少年の反省を促し、さらには少年を取り巻く環境を調整するなどの活動を行う。こうした弁護士付添人の活動は、少年の更生を図るという少年法の理念を実現するうえで不可欠である。
 しかし、2010年(平成22年)における弁護士付添人の選任率は、観護措置決定を受け身体拘束されている全少年の約62%に止まっている。これは、身体拘束されている成人被告人のほぼ全員に弁護人が選任されていることと比較しても極めて低い選任率であり、少年に対する法的援助が不足していることは明らかである。
 このように弁護士付添人の選任率が低い背景には、2007年(平成19年)に導入された国選付添人制度の対象事件が一定の重大事件(故意の犯罪行為により被害者を死亡させた罪及び死刑又は無期若しくは短期2年以上の懲役もしくは禁錮に当たる罪)に限定されているうえ、家庭裁判所が必要と認めることが選任の条件とされているという事情がある。
 しかも、2009年(平成21年)5月以降、被疑者国選弁護制度の対象事件がいわゆる必要的弁護事件にまで拡大されたにも拘わらず、未だ国選付添人制度の対象事件が一定の重大犯罪に限定されているために、被疑者段階では国選弁護人が選任されていた少年に、家庭裁判所送致後は弁護士が選任されなくなるといった極めて理不尽な事態も生じている。かかる事態は法の不備以外の何物でもない。
 これまで日弁連は、少年に対する法的援助の不足を補うべく、弁護士自らが費用を出し合う付添援助制度によって、一人でも多くの少年に弁護士付添人が選任されるよう努力してきた。
 しかしながら、少年を含む全ての子どもが将来の社会の担い手である以上、その少年の冤罪を防ぎ、適正な手続のもと適正な保護処分に付すことによって少年の更生を支援することは、国の責務である。
 また、子どもの権利条約第37条(d)は、「自由を奪われたすべての児童は、弁護人その他適切な援助を行う者と速やかに接触する権利を有」するとし、同条約第40条2項(b)は「刑法を犯したと申し立てられたすべての児童」には、「防御の準備及び申立てにおいて弁護人その他適当な援助を行う者を持つこと」が保障されると謳っているところ、同条約を批准した国には、少年が弁護士付添人の援助を受ける権利を実質化する責務がある。
 そこで、当会は、少年が家庭裁判所に送致され、観護措置決定を受けて身体拘束を受けている事案については、すべて国選付添人が選任される制度、すなわち全面的国選付添人制度を早急に実現することを強く求めるものである。
 以上のとおり決議する。

                         2012(平成24)年5月23日
     
                           福 岡 県 弁 護 士 会
                             会長  古 賀 和 孝
 


 決議の理由

1 当会は、2010年(平成22年)5月25日の定期総会において、「国選付添人選任の対象を観護措置決定を受けた少年すべてに拡大することを求める決議」を行った。
  本年、あらためて決議を行うものであるが、以下で、決議の趣旨についての理由と共に、この時期に再度決議する理由を述べる。

2 弁護士は、非行をおこした少年に対する少年審判手続において、非行事実の認定や保護処分の必要性の判断が適正に行われるため、少年の立場から手続に関与し、少年の権利を守り、かつ、少年の更生を支援する付添人活動を行ってきた。
  具体的には、少年を冤罪から守るべく非行事実を争ったり、被害者と面談するなどして、被害回復のための措置を講じたり、被害実態を少年に伝える等して少年の反省を促したり、さらには家庭や学校、職場等に働きかけて少年を取り巻く環境を調整するなどの付添人活動を行ってきた。
少年審判を受ける少年の多くは、成育歴や家庭環境に大きな問題を抱え、居場所がなく、信頼できる大人に出会えないまま非行に至っている。そうした背景事情に目を向けながら少年を受容し、理解した上で、少年との間に信頼関係を築きつつ、どこまでも少年のパートナーという立場で、少年の更生を支援するという活動は、弁護士付添人にしか出来ない活動である。

3 そうした付添人活動を通じて、弁護士は、実際に多くの少年が成長し、更生していく姿を目にしてきた。そして、この活動は、地域から非行を減らし、確実に地域・社会の安全につながっていくものである。
そして、少年事件の背景事情に目を向ければ、重大事件に限らず、窃盗事件や傷害事件、さらにはぐ犯事件を含む全ての事件について、少なくとも観護措置決定を受け、身体拘束を受けている少年に対しては、弁護士付添人の支援が不可欠であることを実感してきた。
  そうであるからこそ、当会は、2001年(平成13年)2月に、少年が希望する限り、対象事件を問わず、観護措置決定を受け、少年鑑別所に送致されたすべての少年に弁護士付添人を選任するという「全件付添人制度」を発足させ、今日までその制度を発展・存続させてきた。
  そして、この全件付添人制度は、全国に広がり、すべての弁護士会において「当番弁護士制度」として定着してきた。

4 こうした弁護士の活動もあって、2007年(平成19年)には、国選付添人制度が発足した。
  しかしながら、この国選付添人制度は、対象事件が一定の重大事件(故意の犯罪行為により被害者を死亡させた罪及び死刑又は無期若しくは短期2年以上の懲役もしくは禁錮に当たる罪)に限定されているうえ、家庭裁判所が必要と認めた場合にしか付されないという制度に止まっている。
  前述のように、弁護士付添人が少年の権利を守り、少年の更生を図るうえで不可欠であることは、重大事件に限ってのことではない。とりわけ観護措置決定を受け、重大な処分が予想される事件においては、弁護士付添人の支援が不可欠である。
そうであるにも拘わらず、国選付添人制度における対象事件が限定されているため、2010年(平成22年)における国選付添人の選任率は、観護措置決定を受けた全少年のわずか4.7%に止まり、国選付添人以外の付添人を含めた弁護士付添人選任率も、観護措置決定を受けた全少年の約62%に止まっている。
これは、身体拘束されている成人被告人のほぼ全員に弁護人が選任されていることと比較しても極めて低い選任率であり、少年に対する法的援助が不足していることは明らかである。

5 一方、2009年(平成21年)5月21日以降、被疑者国選弁護制度の対象事件がいわゆる必要的弁護事件にまで拡大されたため、窃盗や傷害等を犯した少年も、被疑者段階では国選弁護人を選任することができるようになった。
しかし、国選付添人制度の対象事件が一定の重大犯罪に限定されているために、家庭裁判所に送致されると同時に、その少年には弁護士が関与しなくなるといった事態が生じている。
そもそも、被疑者段階での弁護活動は、起訴されるべきでない被疑者を起訴させないための活動のみならず、起訴後の将来の裁判(審判)を見据えた活動をも含むものであって、起訴(家庭裁判所送致)後の活動と不可分である。
特に、少年事件の場合には、家庭裁判所送致後、原則4週間以内に審判が行われるため、弁護士は、成人の刑事事件に比してより短期間のうちに、将来の審判を見据えて、少年の反省を促したり、被害者と示談に向けた話し合いをしたり、環境調整に取り組む等の活動を行う。
そうであるにも拘わらず、被疑者段階にのみ国選弁護人が選任され、家庭裁判所送致後は弁護士が関与しなくなるという現在の法制度は、あまりにも不合理である。
こうした不合理な事態は早急に解消されるべきである以上、国選付添人制度の対象の拡大は必然である。
この点、日本弁護士連合会(日弁連)は、こうした不合理な事態を回避するため、被疑者段階で国選弁護人が選任されていたケースについては、家裁送致後も、付添援助制度を利用することによって弁護士付添人が選任されるよう尽力してきた。しかし、こうした付添援助制度は、公的資金によって運用されているものではなく、弁護士自らが拠出した資金によって運用されているというのが実情である。
  そもそも少年を含む全ての子どもは将来の社会の担い手である以上、その少年の冤罪を防ぎ、適正な手続のもと適正な保護処分に付すべく、弁護士付添人を選任することは、国の責務のはずである。

6 さらに言えば、被疑者国選弁護制度を拡大した趣旨からしても、国選付添人制度の拡大は必然である。
  すなわち、被疑者国選弁護制度も、当初は、その対象が短期1年以上の重大な事件に限定されていたが、冤罪を防止し被疑者の権利を守る必要性は、重大事件に限らず、窃盗や傷害等のいわゆる必要的弁護事件においても同様であることから、最終的には必要的弁護事件すべてが被疑者国選弁護制度の対象になった。
  こうした趣旨は少年事件においても妥当する以上、国選付添人制度の対象の拡大は必然である。

7 加えて、国際法的観点からみても、国選付添人制度の拡大は当然である。
すなわち、日本が批准した子どもの権利条約は、その第37条(d)において、「自由を奪われたすべての児童は、弁護人その他適切な援助を行う者と速やかに接触する権利を有」するとし、同条約第40条2項(b)において「刑法を犯したと申し立てられたすべての児童」には、「防御の準備及び申立てにおいて弁護人その他適当な援助を行う者を持つこと」が保障されると謳っている。
そうであるとすれば、同条約を批准した国には、少年が弁護士付添人の援助を受ける権利を実質化する責務がある。

8 以上のとおり、非行事実の認定や保護処分の必要性の判断を適正に行い、少年の更生を期すためには、国選付添人制度の対象を、少なくとも観護措置決定を受けたすべての少年とすべきである。

9 このような考えに基づき、冒頭述べたとおり、当会は、2010年(平成22年)5月25日の定期総会において、「国選付添人選任の対象を観護措置決定を受けた少年すべてに拡大することを求める決議」を行った。同様の決議は、ほとんどの弁護士会でも行われている。しかし、未だ、国選付添人制度拡充の実現には至っていない。
  そこで、当会は、決議後も、引き続き国選付添人選任対象の拡大に向けて活動を行ってきた。
すなわち、日弁連は、この2年間に、全国各地でキャラバンやシンポジウムを開催し、国選付添人制度の必要性を市民に訴え続け、その理解は急速に広がっている。当会でも、2010年(平成22年)9月、2012年(平成24年)2月及び3月と広く市民を参加対象としたシンポジウムを開催し、その場に参加された国会議員から賛同の発言を頂いたほか、多数の賛同のメッセージを頂いた。また、全国の弁護士も、国会議員に対する要請行動を行い、2011年(平成23年)10月、2012年(平成24年)3月には院内集会を実施する等してきたところ、その甲斐もあって、国選付添人制度の拡充の必要性は国会議員にも広く認識されるところとなった。
そして、新聞報道等によれば、現在、法務省も、国選付添人制度の対象事件拡大の方向で検討を始めているとのことである。
こうして、当会が2001年(平成13年)2月から取り組んできた全件付添人制度が、ようやく全面的国選付添人制度として実を結ぶ可能性が出てきた。
しかしながら、情勢は決して予断を許す状況でもない。非行に対する社会の目は厳しく、非行少年に弁護士の援助を行うことへの批判的な見方も根深く存在する。今後も、弁護士が少年の権利を守り、少年の更生に寄与する活動をさらに発展・深化させ、そうした実践の成果を広く市民に伝え続けなければ、制度の実現には結びつかない。そして、その活動によって、遅くとも本年度中には国会において国選付添人制度の対象を観護措置決定を受けた少年全員とする少年法改正案を成立させる必要がある。
弁護士は、これまで主として付添援助制度を利用して付添人活動を行ってきた。しかし、この付添援助制度については、将来的な財源確保の見通しが立っていないため、今、国選付添人制度を拡充できなければ、現在の付添人選任率を維持することすら危ういという現状がある。
そこで、当会は、改めて、政府、国会、最高裁判所、及び、法務省に対し、速やかに、全面的国選付添人制度実現のための法改正を行うことを求めるものである。
                                     以上

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「自死」をなくすための行動宣言~自死を防ぐための「気づき」「つなぎ」「見守り」とは何かを考える~

宣言


「自死」をなくすための行動宣言
~自死を防ぐための「気づき」「つなぎ」「見守り」とは何かを考える~

第1 宣言の趣旨
わが国の年間自死者数は、1998年(平成10年)に急増し、1998年(平成10年)から14年連続して3万人を超え、その後も高い水準が続いている。
このような現状を変えるべく、当会は、自死をなくし、生きやすい社会づくりを目指して、私たち自身がその職責・使命を果たし自死問題を解決するために、次のとおり取り組む決意であることを宣言する。

1 自死について、さらに一層理解ある弁護士を増やすため、当会所属の会員を対象とした研修を充実させ、「ゲートキーパー」として機能する弁護士を養成すること。

2 こころと法律の問題の総合的な相談窓口を整備し、弁護士会の法律相談において医療福祉専門職(医師・臨床心理士・精神保健福祉士等)と一緒に相談する体制をつくり、アウトリーチ(訪問支援)としての法律相談を実施すること。

3 弁護士会と行政・医療機関・福祉機関・民間団体等とのネットワークを構築し連携を強化すること。

4 基本的人権の擁護を使命とする弁護士会としての立場から、積極的かつ責任ある政策の提案及び立法提言を行い、提案・提言にかかる政策と立法実現のために、当会を挙げて取り組むこと。


                         2012(平成24)年5月23日

                            福 岡 県 弁 護 士 会
                             会長  古 賀 和 孝 

                        


第2 宣言の理由
当会がこのような宣言をする理由は、次のとおりである。


1 自死の現状


 わが国の年間自死者数は、1998年(平成10年)に急増し、同年から14年連続して3万人を超え、2011年(平成23年)は警察庁の発表で30、651人(確定値)となっている。この中には、2011年(平成23年)3月11日に発生した東日本大震災に関連する自死者55人(同年6~12月)が含まれ、震災がなければ、また震災後の社会的支援があればもっと生きられたであろう人の命を思うと誠に痛ましいものがある。
福岡県の自死者数は、2011年(平成23年)は1、308人(確定値、前年比49人増)で全国8位、自死死亡率(10万人あたりの自死者数)は25.8人(確定値、前年比1.0人増)で全国16位と、自死者数、自死死亡率ともに全国の上位を占めている。全国の自殺者は、2009年(平成21年)に32、845人、2010年(平成22年)に31、690人、2011年(平成23年)に30、651人と減少傾向であるが、福岡県では、平成21年に1、310人、平成22年に1、259人、平成23年に1、308人と減少することはなく、深刻な状態を脱していない。
一人でも多くの自死を防ぎ、自死のない社会を作ることは、わが国の喫緊の課題であるといえるし、とりわけ自死者数等が多く、状況が改善していない福岡県においては、より積極的に解決に取り組まなければならないといえる。


 2 弁護士と自死問題との関わり


 自死問題の多くには、社会的要因が影響している。具体的には、失業や倒産、さらにはパワハラや長時間労働などの雇用・労働に関する要因や、多重債務や保証倒れなどの経済的な要因、親子や夫婦の不和や家族の死亡、子育て・介護の悩み、学校内でのいじめなどの家庭や学校などでの人間関係による要因など、様々な要因がある。
  弁護士は、普段の業務の中で、そのような社会的要因に関連する紛争や問題に関わっており、依頼者や相談者本人、あるいはその家族に、自死を企図する人がいることも少なくない。また、心中を図って刑事事件の被疑者・被告人となる人と関わることもあれば、犯罪被害者やその遺族など精神的ショックから自死のリスクが高まっている人と関わることも多い。
また、弁護士は法律問題や紛争の解決をその職責とすることから、自死のリスクのある人が抱える社会的要因や問題を解決し、それによって自死を回避することができるという役割も担っている。
その意味では、弁護士は専門家として自死問題に必然的に関わらなければならない立場にあり、また自死問題を解決する重要な役割を果たすことができる立場にもあるといえる。
そして、現実に、これまでも弁護士は、その業務の中で、社会的要因や問題を解決するなどして、自死防止のための努力をしてきた。


3 自死問題に対する弁護士会の取り組み


   2009年(平成21年)以降、日本弁護士連合会(日弁連)は、会内にチームを作って具体的に活動を開始した。また、中小零細事業者が保証人に迷惑をかけることを苦にして自殺したり生活破綻に追いやられた保証人が自殺するという事例が散見される等「個人保証」が自死の原因となっていることから、2012年(平成24年)1月20日、日弁連は、民法(債権関係)の改正作業において、個人保証の禁止や新たな保証人保護規定を設けるなど、保証制度を抜本的に改正することなどを含む「保証制度の抜本的改正を求める意見書」を採択して法務省に対し執行した。
当会では、多重債務問題・貧困問題対策等の従来の弁護士業務の中での自死問題への取り組みに加え、2010年(平成22年)に「自死問題対策関連委員会連絡会議」を発足させ、各種の取り組みを推進してきた。
具体的には、2010年(平成22年)度は、弁護士を対象として研修会(講師:弁護士、精神科医師)を複数回実施した。2011年(平成23年)度は、①福岡市と共催で、一般市民、医療福祉関係者、弁護士対象の自殺問題連続研修会を実施し、②自死リスクの高い人向けの法律相談窓口を設置し、③2012年(平成24年)3月には、福岡市主催の「こころと法律の相談会」の実施主体として精神科医師・臨床心理士・精神保健福祉士・司法書士と合同で一般市民からの相談を受ける試みを行った。さらに、④2011年(平成23年)12月発行の書籍『判例・実務からみた民法(債権法)改正への提案』(福岡県弁護士会編・民事法研究会)において、自殺の原因たる保証の問題点に着目して自然人保証の原則禁止を提言した。
そして、2012年(平成24年)度も、①昨年度に引き続いて「こころと法律の相談会」の実施や、②新たに自死遺族を対象とした法律相談の実施といった試みを行政と連携して進めているところである。
このように、当会には自死問題に対する具体的な取り組みを着実に行ってきたという実績があるが、本年4月に「自死問題対策委員会」を新たに設置し、さらに自死問題に対する取り組みを進めようと考えている。


4 取り組み①~研修の充実


  その取り組みの1つ目としては、会員に対する研修のさらなる充実である。
  上述したとおり、弁護士の業務において、依頼者や相談者、その家族には自死を企図する人やそのリスクの高い人が少なからず存在する。
しかしながら、全ての弁護士が相談者の自死の危険を示すサインやその対応方法を身につけているわけではない。
また、自死の背景には、これらの多岐にわたる社会問題が複合的に絡み合っていることが多いため、弁護士のみの力で自死を解決できるわけでは必ずしもなく、関係専門職(医療機関・福祉関連機関)、民間支援団体等につなぎ、あるいは協力していくことも必要であるが、問題に対する理解が必ずしも深くないために、法的な問題を解決するのみで、関係機関等に適切につなぎ、あるいは十分な協力を求めることができないことも考えられる。
そこで、自死についての理解を深め、普段の業務において自死の危険性の高い人の存在に「気づき」、医療・福祉・法律問題の解決へと「つなぎ」、安心して暮らせるよう「見守り」を行える専門家、すなわち「ゲートキーパー」の役割を担えるように、当会会員に対して研修を行っていく必要がある。
当会としてはこれまでも様々な研修を行ってきたが、今後はさらに様々な角度から充実した研修を行い、当会会員の「ゲートキーパー」としての機能を高めていく所存である。


5 取り組み②~積極的な法律相談の実施
  

 上述したとおり弁護士が自死のリスクの高い人が抱える社会的要因や問題を解決することにより、自死を回避することができることも少なくないが、そのような自死のリスクの高い人が、必ずしも弁護士のところまでつながらず、社会的要因や問題を解決できないまま自死を選んでしまっているという実情もあると考えられる。
   政府がまとめた「自殺総合対策大綱」においても、失業、倒産、多重債務などの社会的要因は自殺の危険を高める要因となるから相談・支援体制の整備・充実を図るとともに相談窓口等を周知するための取り組みを強化する必要があることが挙げられている。
   当会としても、これまでに、自死リスクの高い人向けの法律相談窓口を設置したり、福岡市主催の「こころと法律の相談会」の実施主体として精神科医師・臨床心理士・精神保健福祉士・司法書士と合同で一般市民からの相談を受けるなど、相談・支援体制の整備や充実を図ってきた。
   今後は、このような取り組みを継続・発展していくとともに、自死リスクの高い人への法律相談その他の相談をより周知し、さらには自ら弁護士へアクセスすることが困難な人へ弁護士が手をさしのべるため、弁護士から出向いていくアウトリーチ(訪問支援)の方策も行っていく所存である。


6 取り組み③~ネットワークの構築・連携の強化
 

  そして、上述したように自死の背景に社会問題が複合的に絡み合っていることが多いため、弁護士のみの力で自死を解決できるわけでは必ずしもなく、関係専門職(医療機関・福祉関連機関)、民間支援団体等につなぎ、あるいは協力していくことも必要である。
   したがって、自死をなくすための「気づき」「つなぎ」「見守り」を実施するには、単に相談会を一緒に開催するだけではなく、普段の弁護士業務においても、それらの関連団体につなぎ、協力を仰ぐために、関連団体とのネットワークを構築し、緊密に連携していく必要がある。
   上記「大綱」においても、包括的な取り組みを実施するためには、様々な分野の人々や組織が密接に連携する必要があること等が指摘されている。
当会としても、福岡県・福岡市・北九州市の自殺対策連絡協議会に参加する等すでにそのようなネットワークの構築や連携に踏み出しているが、今後はさらにそれを進め、一般市民との接点の多い行政を中心として、弁護士会と関係専門職(医療機関・福祉関連機関)、民間支援団体等も含めたネットワークが構築され、緊密な連携を強化していく所存である。


7 取り組み④~積極的な政策提案及び立法提言


また、弁護士会は、上述したように自死問題に関わることが多い専門家団体であり、かつ法律の専門家団体であるという立場から、自死問題について積極的な政策提案や立法提言も行っていく必要があると考えている。
3項で指摘したとおり、2011年(平成23年)12月発行の書籍において、自殺の原因たる保証の問題点に着目して自然人保証の原則禁止を提言したりしてきているが、今後も具体的な自死問題への取り組みに裏打ちされた政策提案や立法提言を積極的に行っていく所存である。


8 よって、当会は、上記のとおり宣言する。

                                         以上

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福岡県弁護士会 環境宣言

宣言


福岡県弁護士会 環境宣言


第1 基本理念
人類は,限りある資源を大量に使用し,大量生産・大量消費・大量廃棄の社会システムによって,自然環境を破壊してきました。しかし,かかる反省に基づき,資源を使い果たすのではなく、現代の世代が将来の世代の利益や要求を充足する能力を損なわない範囲内で環境を利用し要求を満たしていく社会(持続可能な社会)へと方向転換をしつつあります。
現在,かけがえのない地球環境を保全し,持続可能な社会を形成しようとする市民の意識は強まり,今まさに,温室効果ガス排出量削減など環境保全活動が世界的な流れとして定着しつつあります。そのような世界的な変革がなされつつある最中に,2011年3月11日,福島第一原子力発電所事故が発生し,環境影響の低い持続可能社会を構築する重要性がより一層明らかになりました。
福岡県弁護士会では,公害問題・環境問題は人権問題であるとの視点から,これまで悲惨な公害の根絶や自然環境の保全・再生に向けて,国や自治体に対して様々な提言を行うとともに,シンポジウムの開催などを通じて市民の皆様にも環境保全の重要性を訴えて参りました。
当会は,地球環境の保全が人類共通の最重要課題の一つであることを認識し,今後も,環境負荷の低減,環境保全のため,外部に対するこれらの活動を継続するとともに,当会会員の執務や,当会の会務,会館の運営等においても,環境保全の活動に取り組むべく,ここに以下の宣言をします。

第2 環境宣言
 1 弁護士会の活動や弁護士業務による環境影響を常に認識し,地球環境への負荷を可能な限り低減するために,以下の施策に取り組む努力をします。
(1) 省エネ活動の推進
(2) 省資源活動の推進
(3) 当会の会員及び職員各人の環境保全意識の向上
 2 環境問題に関する提言・啓発活動に取り組みます。


                         2012(平成24)年5月23日
                          福 岡 県 弁 護 士 会
                            会長  古 賀 和 孝

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