福岡県弁護士会 宣言・決議・声明・計画

2008年6月18日

消費者行政の一元化と地方の相談体制強化を求める会長声明

声明


 近年,こんにゃくゼリーによる窒息死事故や「船場吉兆」による一連の食品偽装表示事件が発覚し,また輸入冷凍餃子への毒物混入事件等により食品の安全・表示分野に対する消費者の信頼は著しく損なわれ,深刻な社会不安が広がった。また,ガス湯沸かし器一酸化炭素中毒事件,シュレッダーによる指切断事件,住宅の耐震構造偽装事件により,製品や住宅の安全性が大きな問題となった。更に,取引分野においても,年々巧妙化する振り込め詐欺,サラ金の違法取立,次々販売・モニター商法等に代表される悪質商法被害,英会話教室NOVAや福岡県に本店を置く株式会社エフエーシーの破産手続の開始等による消費者トラブルなど,多種多様な消費者被害が次々と発生ないし顕在化している。これに対し,従来の産業・業界別の縦割行政では,業界の育成を第一義としており消費者被害への対応が後手に回っている上に,それぞれの管轄と法的手続が複雑に分岐・錯綜しているために,これらの消費者被害の発生防止や被害救済の面において不十分である。
 一方,各地の消費生活センターなど地方自治体の相談窓口による相談・あっせん解決は,消費者にとって身近で頼りになる被害救済手段として重要である。ところが,自治体の地方消費者行政予算は,ピーク時の1995年度には全国200億円(都道府県127億円)であったものが2007年度は108億円(都道府県46億円)に落ち込むなど年々削減されており,地方の相談窓口は,十分な相談体制がとれない,あっせん率が低下している,被害救済委員会が機能していないなど,多くの問題を抱えている。
 地方自治体における法律相談関連予算の規模も拡大することは望めない状況にある。
 また,各消費生活センターにおいても,人件費削減のために相談員の有期雇用化が進み,そのため経験を積んだ相談員が退職していく上に,相談員の研修費用が削減されており,相談のノウハウの承継が困難となっている。
 このような状況下において,2007年10月,福田康夫内閣総理大臣は,就任直後の所信表明演説において「生産第一という思考から,国民の安全・安心を重視し真に消費者や生活者の視点に立った行政に発想を転換し,消費者保護のために行政機能の強化に取り組む」と述べ,2008年1月18日の第169回通常国会での施政方針演説では「各省庁縦割りになっている消費者行政を統一的・一元的に推進するための強い権限をもつ新組織を発足させ併せて消費者行政担当大臣を常設する。新組織は国民の意見や苦情の窓口となり,政策に直結させ,消費者を主役とする政府の舵取り役になるものとする」旨表明した。
 これを受けて自民党消費者問題調査会は,本年3月19日,「産業育成官庁から独立し,消費者・生活者目線で他省庁に指令を出す『消費者庁』の新設(強い監督権限)」,「地方消費者行政の充実」,「違法収益のはく奪」,「相談窓口の一元化」などを骨子とする最終取りまとめを行なった。また,民主党も消費者庁の創設に加えて,消費者保護官(オンブズパーソン)構想を提言するなど,野党各党も検討を進めている。3月27日には国民生活審議会総合企画部会が部会報告において消費者・生活者を主役とした行政への転換を提言し,4月2日には政府の消費者行政推進会議が発足した。
福田康夫内閣総理大臣は,本年4月23日,消費者行政推進会議において,「消費者を主役とする『政府の舵取り役』としての消費者庁(仮称)を来年度から発足させる」との意向を明らかにし,消費者に身近な問題を取り扱う法律は消費者庁に移管することや,地方消費者行政の強化を打ち出した。そして,消費者行政推進会議は,本年6月13日に,消費者に身近な30の法律を主管或いは共管することを明記したほか,消費者庁の果たす役割として,所管庁に対する指示・勧告権限など縦割り・すき間行政の弊害に対し迅速に対応するための諸権限や新規立法権限を持つ,司令塔の役割を求める最終報告を取りまとめたところである。
 当会は,この方針を高く評価するものである。消費者が主役の実効性ある制度とするためには,新組織に消費者行政を一元化し,十分な権限を与えるとともに,都道府県・市町村など消費者に身近な地方相談窓口において,人的及び物的体制を十分に確保することが必要である。よって,当会は以下のような新組織や制度の創設を強く求める。

1.新組織が消費者政策の企画・立案を行なうとともに,消費者被害が多発する主要な分野については事業者に対する規制監督権限を直接行使できるよう,関係法の所管を新組織に移管し,かつ縦割りを排除した横断的・一元的な規制監督権限を付与すること。

2.新組織が消費者の権利擁護の理念の下にその責任を果たせるよう,消費者団体に新組織に対する調査・勧告権限発動を求める申立権を付与し,新組織の運営に消費者が参加し監督することが可能な組織とすること。

3.新組織に消費者・事業者・公益通報者等からの被害関連情報を一元的に集約し,調査・分析・公表する権限を与えた上,この権限に実効性を持たせるため,被害の原因究明等のための機関を設置すること。

4.消費者行政は地方自治そのものであるという視点に立った上で,消費者の苦情相談が地方自治体の消費者生活相談窓口で適切に助言・あっせん等により解決されるよう,地方の相談体制の充実,情報の集約と発信,国と地方の連携等の施策を強力に推進できるような制度・体制を構築し,そのために必要な予算を国の責任で確保すること。

5.新組織ないし関係省庁が調査把握した情報に基づき,違法収益の機動的な凍結及びはく奪を行ない,適正な手続のもとで被害者に分配する制度を導入すること。

2008年6月16日
                           福岡県弁護士会     
                              会長  田邉宜克

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2008年6月30日

福岡県弁護士会会長日記

会長日記

                         会 長 田 邉 宜 克(31期)

【スタッフ弁護士】
 北九州部会が「法テラス」北九州支所にスタッフ弁護士の配置を希望することは、昨年度常議員会で、承認されています。被疑者国選弁護人制度の本格実施後の一人当たりの担当件数が、14件+αに上る実情からすれば、強い異論はないところでしょう。
 他方、福岡部会では、昨年度中、福岡地方事務所本所のスタッフ弁護士配属については、特段の議論をしていませんでしたが、本年度早々に法テラス福岡から「本年度中に、北九州支所に一人、福岡本所に一人のスタッフ弁護士を配置することについて、法テラス本部から意向打診を受けているので、この点について県弁と協議したい。」との申し入れを受けました。
 法テラスとしては、受入会が、スタッフ弁護士は、不要であって受け容れる意思はないと表明すれば、強制的に赴任させることはないものと思われます。
 それでは、法テラス福岡は、何故スタッフ弁護士の配属を希望したのでしょうか。県弁執行部として、法テラス福岡との協議を開始していますが、その必要性について、概略以下のとおり説明を受けました。

(1)速やかに被疑者国選弁護人を選任する責務を負う法テラスは、被疑者国選弁護拡大後も、万が一にも穴を開けることは許されない。弁護士会、特に福岡部会の被疑者国選弁護人態勢では未だ十分であるとは考えていない。
(2)これまでの実践例からしても、筑豊地区の休日、特に共犯事案の配点については、現状でも正に綱渡りの感がある。また、被疑者弁護人として登録されている会員でも諸般の事情で受任を回避されたりすることが少なくなく、この1年半で数件担当した会員から20件近く担当した会員まで受任件数に幅があり、一定の会員の過大な負担で凌いでいる実情にある。単純に事件数を登録者数で割り出して「回る」「回らない」の議論をするのは実際的ではない。被疑者国選弁護拡大後に、万が一の事態を惹起しないためには、法テラス福岡本所へのスタッフ弁護士の配置は必須であると考えている。
(3)壱岐・対馬での国選対応についても、本所スタッフ弁護士に遊軍的に活動していただくことを予定している。
(4)所謂「国選扶助対応」のスタッフ弁護士であり、扶助事件以外の一般民事事件を受任することは予定していない(薬害・消費者等の集団訴訟受任の例外はあり得る)。従って、民業圧迫との懸念は杞憂である。

 今後、法テラス福岡と協議を重ね、より詳細な内容を適宜会員にご報告し、意見集約の場を設けて、当会の意見を早急に明らかにしたいと思います。
 なお、仮にスタッフ弁護士が配置されたとしても、担当しうる国選件数には当然ながら限界があり、より多くの会員の皆さんに被疑者国選名簿登録をしていただく必要性には、何ら変わりがありません。


【刑事贖罪寄付金のお願い】
 従来、扶助協会の行っていた自主事業(刑事被疑者・少年付添・精神障害者等・外国人・難民・犯罪被害者等)は、日弁連及び単位会が承継し、法律援助事業として行っていますが(司法支援センターに運営を委託)、弁護士会の事業である以上その資金は、弁護士会が自前で用意しなければなりません。扶助協会時の自主事業資金と同様にその原資は、主として刑事贖罪寄付金です。
 当会宛の贖罪寄付は、その半額を日弁連に納付して日弁連の法律援助事業資金に充てられ、残額は、法律援助事業の日弁連負担額に加算して支払う当会の所謂「上積」分(刑事被疑者・1万円、少年・原則2万円等)等の支払いに充てられます。
 当会は、昨年度の全国の被疑者事件の11.2%、少年付添人事件の19.4%、これらに難民その他を含めた全事件数の13.7%の法律援助事件を行っています。これは、本当に全国に誇るべき実績です。
 他方、この事業を支える贖罪寄付実績を見ると、昨年度全国で4億6,647万円の贖罪寄付がありましたが、当会の贖罪寄付額は253万円に止まり、なんと全国比0.53%に過ぎません。仮に事件数比の分担があるとすれば、当会の贖罪寄付案分額は、2,981万円になります。会の規模の大小があり、この案分額を当会が当然に分担すべきとは言えないでしょうが、扶助協会福岡支部には、平成17年度1,700万円、同18年度1,191万円の贖罪寄付があったことと比較すれば、余りにも少なすぎると言わざるを得ません。
 また、現状では刑事被疑者(1万円×1000件)及び少年付添(2万円×800件+α)等の「上積」「横出し」分が、当会会計から支出されています。1年後に被疑者国選の本格実施が始まるとしても、このままでは少年付添の上積み分の負担は依然として残り、贖寄付金額が現状のままでは、その支出に対応する額の収入は確保できないことになります。
 会員の皆さんは、扶助協会が解散した後の贖罪寄付は、扶助協会を承継した司法支援センターにと考えられたのかもしれません。
 しかし、扶助協会の各種自主事業を引き継いだのは弁護士会であり、弁護士会がその事業遂行につき責任を全うする義務を負っているのは明らかです。
 日弁連から最高裁・最高検に自主事業等弁護士会への贖罪寄付の目的・制度設計について説明し、情状面での考慮を依頼しており、当地の裁判所・検察庁もこのような公益的な目的に支出される弁護士会への贖罪寄付を量刑上斟酌すべきことは十分理解されているはずです。
 ついては、会員の皆さんに、上述の事情をご理解いただき、贖罪寄付は、是非とも当会宛に納付していただくようお願いいたします。
 なお、寄付手続きの詳細については、各部会事務局にお尋ね下さい。

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