福岡県弁護士会 宣言・決議・声明・計画

2010年11月11日

秋田弁護士会所属の弁護士殺害事件に関する会長声明

声明

今月4日午前4時頃、秋田弁護士会所属の津谷裕貴弁護士が、ガラス戸を割って自宅に侵入した男に刺されて死亡するという事件が発生した。
 報道等によれば、男は津谷弁護士が受任していた離婚調停事件の相手方であったということであるから、今回の刺殺事件は、同弁護士の弁護士業務に関連して発生したものと思われる。
 弁護士業務に関連した刺殺事件は、本年6月にも横浜市で発生したばかりであり、誠に遺憾極まりない。
 弁護士は、国民のために、基本的人権を擁護し、社会正義を実現することを使命としているが、この使命は、弁護士活動の安全が確保され、自由な弁護士活動を行うことができる環境があって初めて実現できるものである。
 弁護士が受任事件に関連して、その相手方などから生命身体に危害を加えられることは、弁護士制度及び法秩序に対する重大な挑戦であって、断じて許されるべきことではない。
 津谷弁護士は、市民の立場に立ち、先物取引被害などの消費者問題に永年取り組み、2009年(平成21年)度から日本弁護士連合会消費者問題対策委員会の委員長に就任していた。その職責を果たす途半ばで凶刃に倒れた同弁護士の無念を想い、そのご冥福を祈るとともに、ご遺族に対し心から哀悼の意を表するものである。  
当会は、暴力的な手段による弁護士活動への妨害行為に決して怯むことなく弁護士の使命を貫く決意であることを表明するとともに、弁護士業務妨害の排除及び予防をより一層徹底していく所存である。

             2010年(平成22年)11月10日
              福岡県弁護士会
               会  長  市  丸  信 敏     

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司法修習給費制の存続を求める会長声明

声明

 司法修習生に対し給与を支給する制度(以下、「給費制」という)に代えて、必要な者に修習資金を国が貸与する制度(以下「貸与制」という)を定めた「裁判所法の一部を改正する法律」(以下、「改正裁判所法」という)が、本年11月1日に施行された。
 改正裁判所法は、2004年12月10日に成立したが、その附帯決議において、「統一・公正・平等という司法修習の理念が損なわれることがないよう、また、経済的事情から法曹への道を断念する事態を招くことのないよう、法曹養成制度全体の財政支援の在り方も含め、関係機関と十分な協議を行うこと」と決議されていた。
 しかるに、法曹を目指す法科大学院の適性試験受験者数は顕著に減少しており、大学入試センター実施の適性試験受験者は、2003年に39,350人であったものが2010年には8,650人にまで減少している。  
 その背景として、司法試験合格率の低下や急激な法曹人口増による就職難などの問題に加えて、法科大学院の学費や生活費などの経済的負担が大きいことが指摘されている。当会が本年8月に実施した司法修習生やロースクール生を対象とした調査では、負債がある人の平均負債額は435万円余にも及んだ。かかる状況の下で貸与制を強行すれば、さらに300万円前後の負担増となり、法曹志願者減少傾向に拍車をかけることは明らかであり、まさしく、上記附帯決議が危惧していた事態に直面することとなる。
 当会は、司法修習生に対する給費制の存続を最重要課題に掲げて、市民団体、労働団体、消費者団体などと連携・協力し、法改正の実現を求めて、請願署名活動、市民集会の開催、国会議員要請等の活動を行ってきた。請願署名は、わずか半年で、全国で67万余筆、当会集約分だけでも 8万数千筆が寄せられ、市民の中でも給費制の存続を求める声が強いことを実感することができた。また、国会においても、与野党を通じて多くの議員がこの問題に理解を示している。
 もとより当会としても、わが国が財政難であること十分に理解するものである。しかし、基本的人権の擁護、市民の諸権利の実現、社会的正義の実現を使命とする法曹は、これまでも、そしてこれからも、司法を担う公共財であり、国民のための存在であり続けるべきものである。国家が責任を持ってかかる法曹を養成すべしとの理念、そしてこれを担保するための給費制は、わが国が健全であり続けるために、今後も守り続けられるべき根幹的制度である。
 残念ながら、本年11月1日までに、与野党間の調整がつかなかったことから、改正裁判所法が施行されることになったが、その後も国会において合意点を得るための折衝が継続されている。
 当会は、法曹養成制度全体の見直が必要と考え、そのための検討もはじめているが、貸与制の実施については今一度これを見直し、給費制を復活させて、その上でひろく根源的な論議を尽くすべきであると考える。貸与制を実施した上で弊害があれば見直せばよいとの声も聞かれるが、法曹志願者の激減という深刻な弊害が発生することは確実であり、このままでは取り返しのつかない事態となることは必至である。
 ここに改めて、今臨時国会において、施行された改正裁判所法を再度改正し、給費制を存続させることを強く求めるものである。
 
                2010年(平成22年)11月10日
                福岡県弁護士会 会長 市丸信敏

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2010年11月15日

会長日記

会長日記

平成22年度会 長市 丸 信 敏(35期)

弁護士会の公益活動に関する広報について思う◆9月9日、今年度の新司法試験の合格発表が行われました。合格者総数は2074名、福岡県内のロースクール4校からも、まずまずの合格者数でした。修習生の厳しい就職状況、苦戦する法律相談センターなど弁護士人口がすでに飽和状態にあるようにも感じられる昨今の実情下、今年の司法試験で果たして何人の合格者がでるのか気がかりでしたが、結果的には、直近の3年間と概ね同水準でした。ただし、司法改革の結果、本来は、政府目標(閣議決定)では、合格者3000人が本年度での達成予定でしたので、マスコミは、「目標下回る」、「法曹人口5万人遠のく」、「合格率25%、過去最低」等々、一様に厳しい論調でした。◆8月号の会長日記でも簡単にご報告しましたが、日弁連は、今年度、あらたに「法曹人口政策会議」を発足させました。日弁連の宇都宮健児会長は司法試験合格者数を1500人程度にすべきであるとの公約を掲げて当選した経緯があります。これまで2回の会議(8月の第1回政策会議全体会議、9月の理事会内意見交換)では、昨今の弁護士を取り巻く苦境を訴え、また、司法改革の失敗を指弾して大幅減員を主張する強硬な意見や、他方、まだまだ弁護士が対応できていない分野があるのではないか、人権救済のニーズに十全に対応できているのか、初めに数字ありきの議論は正しいのか、等々の意見が相次ぎました。 適正な法曹人口や如何に。本当に難しい問題です。どうすれば、現在の、あるいは将来のあるべき法曹人口を把握できるのでしょうか。また、それを我々自身が声高に唱えるだけで、それが実現できるものでしょうか。しかし、まずは我々自身が問題提起をしなければ、だれも代わりに訴えてくれる人もいないであろうことも確かです。市民を、マスコミを納得させることのできる、客観性をもった議論や論証に努めることが大事です。これからの時代にあって、あるべき弁護士像、あるべき法化社会の姿をどう描くか、つまりは、これまでの司法改革の検証とこれからの課題や達成目標等々と、総体的に絡む問題であり、答えを見いだすのは簡単ではありません。日弁連は、今年度末には一定の中間答申を出す、との目標を掲げています。 因みに、日弁連の将来予測では、仮に2011年以降、司法試験合格者を毎年3000人で継続した場合、法曹三者の合計人口(以下、法曹人口といいます)は2017年には5万人を突破し、その後、2048年頃には法曹人口は12万人前後で安定人口に達するとしています。また、仮に、2011年以降、司法試験合格者が毎年2000人で推移した場合は、2021~2年頃に法曹人口は5万人に到達し、その後、2050年頃以降は8万4、5000人程度で安定人口に達する、としています。(弁護士白書2009年版)。◆そもそも、司法改革では、司法予算(現状は国家予算の0.4%)を大幅に増大させ、弁護士だけでなく、裁判官、検察官も大幅に増員させることが目指されていました。しかし、現実には、増大した法曹人口のほとんどは弁護士会に押し寄せています。司法予算の拡大、それによる裁判官・検察官の大幅増員、支部機能の充実、弁護士偏在の解消、法律扶助予算の抜本的拡大、刑事被疑事件の国選対象外事件に対する援助活動や少年保護付添人活動はじめ、弁護士会が特別会費で支えている各種法律援助事業の早期公費化、企業・官庁内のインハウス弁護士の大幅増員等々、掲げられていた各種の司法基盤の整備課題は、弁護士会の懸命の努力にも拘わらず、なかなか思うようにははかどっていません。しかし、たとえば、裁判所も、労働審判は大成功であったと自賛しているのですから(これにならって迅速トラックという民事訴訟の審理方式が提案されています)、それほど優れたものであれば、国民が平等にこれを利用できるように、裁判所の各支部においてもこれを実施できるよう、早急に裁判所の人的・物的施設を拡充すべきことを、裁判所自ら最高裁・財務省に強く要請すべきではないのでしょうか。◆司法改革は、「市民のための司法」を実現するという理念のもとに、裁判員裁判制度を初めとする諸改革を実施し、また、司法の容量を大きく拡大することを目指しました。私たちは、希望に燃えつつ、歯を食いしばって、市民のために、と司法改革に立ち向かって、これを実践すべく努力を払ってきたのです。 当会の、法律相談センターを県内くまなく設置するという活動も、どこでも、だれでも、いつでも、司法へのアクセスを容易にしよう、と目指して、25年がかりでコツコツと充実を図ってきたものです。この法律相談センターを足がかりとして多種多様なリーガルサービスを供給することができています。当番弁護士活動も、20年前、手あかにまみれた携帯電話を弁護士から弁護士へとハンド・ツウ・ハンドでバトンタッチしつつ、決して一日たりとて途切れることなく活動を続け、そしてこれを全国に拡大させてきたものです。その努力が、ついには被疑者国選弁護人制度というおおきな成果に結実したことはご承知の通りです。昨今では、派遣切り、貧困等の問題状況を踏まえて生活保護申請の援助活動という地道ながらも命を守る活動にも取り組んでいます。当会は、目下56個の委員会を有していますが、そのほとんどは、直接・間接に、市民のための司法を実現するための活動をしています。当会では、会員の総掛かりで市民のための司法を担う活動をしているのです。◆私たち弁護士は、本当に困っている市民のために十分に必要とされる権利擁護活動・人権救済活動に取り組んできたのか、一部の小金持ちの市民だけを市民として自己満足してきていたのではないか、という痛烈な自省の指摘も胸を打ちます。このような指摘を踏まえるならば、確かにもっともっと増員を図ってゆかなければならない、と思えてきます。 しかし、他方、誰からの財政的援助もない弁護士、弁護士会は、まずは自立できるだけの経済的基盤を確立・維持できていることが不可欠です。その基盤があってこその人権救済活動であり、公益的活動であるはずです。 そういった意味で、今後も増員は必要であるとしても急激すぎる弁護士人口の増大は、弁護士全体をいたずらに競争原理に陥れ、多くの弁護士をビジネス優先の心理に追い込む危険があります。司法改革の際の法曹人口のあり方の参考とされたフランスでは、昨今、弁護士の破産が増大している問題を抱えているとの報告もあります。司法基盤の整備状況とのバランスを保ちながらの増員(ペースダウン)の方向性自体では、おおかたの意見の一致を見られると考えてもよいのではないかと感じます。◆しかし、それでもマスコミは、人口増員のペースダウンをいうと、すぐに「司法改革の後退」であるとか、「後ろ向き」である等と批判します。そこに、我々の認識とマスコミの見方とのギャップを感じます。我々は、実は大変な努力や犠牲を払って司法基盤の整備、弁護士偏在解消、法律援助活動への取り組み等々をしてきていることが、実は、マスコミにほとんど理解されていないようにさえ思えるのです。 例えば、日弁連では、毎年15、6億円も払って(その主たる原資は、全国の会員が支払っている特別会費です)、当番弁護士、被疑者弁護人援助活動、少年付添人援助活動、犯罪被害者、高齢者・障害者・ホームレス、外国人等々に対する援助活動等を、要するに手弁当で実施しています。しかし、マスコミにはこれら実情はあまり知られていないかのようです。(しかも、日弁連は、これら援助事業費を法テラスに委託して法テラスの窓口を通じて行っているため、弁護士であっても法テラスの事業であると誤解している人が少なくありません。)弁護士偏在を解消するために、日弁連は、公設事務所(ひまわり基金事務所)を全国に100カ所ほども開設し、また過疎地域での弁護士開業を経済的に支援する等してきています。これらにもこれまで莫大な費用が投入されていますが、すべて全国の会員の人的・経済的負担で担ってきているものです。 ちなみに、当会では独自に、8年前から、全会員から毎月5,000円の臨時負担金や管財人報酬から負担金を支払って頂き、「新リーガルサービス特別会計」を維持してきています。これをもって、公益的な相談活動の日当や、当番弁護士、少年保護事件付添人、精神障害者援助などの各種の法律援助活動に関する当会からの活動費の支払い、その他多くのリーガルサービス活動の原資にしております。法律援助活動の多くは、本来的には公費で賄われなければならないものです。それを一日も早く実現させるために、苦しい中、手弁当ながら実践活動を維持し、これを全国的な取り組みにまで昇華させることによって公的制度に持ってゆくことを目指しているのです。なお、当会は、NPO法人福岡犯罪被害者支援センターに対して、長らく財政支援を続けています(過去10年間で3,600万円)。◆私たちは、こうやって頑張って地道に公益活動に邁進していることを、もっともっと上手にPRしておかなければならなかったと、今、痛切に感じています。 この度の、司法修習生の給費制存続に向けての運動に関しても、弁護士会としてのこれまでのPR不足を痛感しました。給費制の維持を訴えていることが、あたかも法曹がエゴによって法曹だけの経済的支援を求めているかのように誤解している、また、給費制の維持を訴えることは司法改革の後退であると断ずるがごとき一部の大手新聞の論調が見られることは誠に残念です。 給費制は、司法を担う法律家は公共財(社会のインフラ)であること、また、戦後民主主義が、戦前の全体主義を反省して、ときに国家を敵に回す弁護士をも国費で養成することによって司法を、ひいては民主主義を健全に保とうとした制度的担保なのです。 私たちは、これまで当たり前と思ってきた給費制を失い掛けて、改めて給費制にトコトン思いを馳せてみて、なぜ、これまで私たちは国民の税金で育てて貰ってきたのか、私たちは何を国民に対して返してゆくべきなのか、大いに考え直してみる契機を得ました。 なにがあっても、その思いはこれからも維持し続けてゆかなければなりません。◆とまれ、会員の皆さまから連日次々とお寄せ頂いた、合計8万1369筆もの署名の数々(もちろん、圧倒的な全国第1位)、誠にありがとうございました。会員の皆さまの深いご理解と熱烈なるご支援、ご協力に、心から感謝申し上げます。 また、給費制に関してのカンパのご協力もありがとうございました。短期間でのお願いでしたが、73口、金額合計118万1,000円ものカンパをお寄せ頂きました。お陰様で、9月16日の東京での全国決起集会・国会パレード・院内集会・議員会館での議員要請行動には、当会から30名を超える会員を派遣して有意義な活動をすることができました。◆先の市民集会の大成功(今回の全国で開かれた数々の集会ではダントツの500名の動員)といい、驚異的な署名数といい、一体どこからそんなエネルギーが湧いてきたのでしょうか。もちろん、給費制対策本部のメンバーはじめ沢山の会員の皆さまによる熱心な取り組みの成果であることは言うまでもありません。しかし、熱心に取り組むだけではこのような大きな手応を感じることはできなかったはずです。修習生の給費制という、ある意味マイナーな問題についてどれほど市民の理解と共感が得られるだろうかと、不安がいっぱいでのスタートでした。しかし、嬉しいことにそれは杞憂でした。この運動を通じて強く実感したことですが、福岡県弁護士会では、これまで、多くの先輩たちや仲間たちが、長い年月をかけて、市民のために、市民とともにとして、熱い思いをもって地道に、また果敢に司法改革を実践してきていたのです。そして、それがしっかりと市民に、地域社会に浸透してきていた、だからこそ、この給費制の問題についても想像もできないほどに多くの市民の理解と協力が得られたのだと、強く実感しています。 市民集会500人、署名8万という数字を、私たちは大いなる誇りとしましょう。この会員一体の運動の熱い思いをベースに、これからも司法改革の残る課題への取り組み、問題点・課題として浮かび上がったこと等についてしっかりと向き合って取り組み、克服して参りましょう。 当会の、会員一丸の精神や伝統をもってすれば、どんな難問もかならずや克服できるものと信じます。◆給費制の問題は、ついに国会を主舞台にした最後の運動の段階にこぎ着けました。ここに来て、覚悟のうえながら、全国紙の論説や最高裁、法務省、財務省などからの強烈な抵抗にも遭っておりますが、それだけ実現可能性が出てきたことの証です。あと一歩の所まで来ております。 どうか、会員の皆さまにおかれては、最後までご支援を賜りますようお願い致します。

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