福岡県弁護士会 宣言・決議・声明・計画

2007年10月 9日

福岡県弁護士会会長日記

会長日記

                        会 長  福 島 康 夫(30期)

自主事業に関する意見書提出(7月5日)

法律扶助協会が解散して、被疑者弁護援助制度、少年付添人援助制度、精神保健当番弁護士制度等法律扶助協会福岡県支部等各地で行ってきた9つの自主事業が10月から法テラスに委託されることになった。将来的には国の制度とするための方策である。これで国選少年付添人制度の実現に向けての第1段階が確保できたし、そのための財政基盤も安定的といえるところまできた。
当会では会員に対する報酬は従来どおり被疑者弁護援助制度の事件で1件7万円、少年付添人事件で1件10万円が支給されることになる。ただし、今後は財政的に安定し報酬減額の危険性はなくなったし、件数制限という事態もなくなった。
死刑、無期、短期2年以上の法定刑が対象であるが、国選付添人制度も11月から始まることになる。対象事件は福岡県内で年間40乃至50件程度と少ないが、今後国選付添人制度の対象事件が拡大する可能性を持っている。11月1日に浜松で開催される人権大会のシンポジウムの第2分科会では国選付添人制度がテーマとして意見交換がされることになっている。多数の参加を期待したい。
ところで、日弁連は3月になり、自主事業の方法について地方の意見を全く聞かないまま、いわば一方的に運用や書式を決めて実施するよう要請してきた。そのためにこれまでの当会の知恵とノウハウが全く生かされず、ギクシャクした4ヵ月であった。使い勝手の悪い運用は変えなければならない。当会はこれまでの当会が工夫をしてきた運用等を今後も継続するため、6月28日に日弁連に意見書を提出した。意見がとおらなければ当会の自主事業が発展できるかどうか疑問となる。その後、7月5日に私と斉藤副会長の2人で日弁連に赴き、日弁連の山田庸男担当副会長他3名の日弁連の自主事業に関する責任者と協議をした。短時間で日弁連執行部を説得しなければならない。私は真剣勝負という気持ちで臨んだ。当会としてはこれまで十数年以上にわたって工夫を重ねて育ててきた各自主事業のやり方を尊重するように要請をし、上から一方的に押しつけられた状態では会員には不満感が強いこと等を訴えた。当会が全国3600件の付添人事件の内の800件を付添人として受任し、全国8000件の内の1000件の被疑者弁護人援助制度事件を受任しているという実績も説明した。当日用意していた日弁連の最初の回答は殆ど全部がノーということであったが、福岡の意図や実情がわかったので再度検討するということであった。結局、協議の時間は1時間40分以上に及んだ。
更に、その後7月11日には補充の要望書を提出し、7月13日の日弁連理事会でも私が意見の趣旨を説明した。そして、8月25日の日弁連理事会で日弁連と法テラスの本部で検討した結果の説明がなされ、最終的には被疑者に負担させることがあるという条項をなくした書式を使用できる等基本的にはこれまでの福岡の方式を継続することができるようになった。
日弁連では事前の周到な準備なしに提案や発言をしても受け入れられないと思う。日弁連の内部で検討されている早い段階から、事前に県弁の意見を書面で提出し、更に口頭で説得するということをすれば、意見が採り入れられる可能性が十分にあることを実感した。今後は何よりも用意周到な準備が必要であると思った次第である。
  
2弁、札幌との3庁交流会(7月7日)

当会は国内、海外あわせて毎年4つの交流会に参加している。
2弁、札幌との3会交流会、大阪、広島との3会交流会、横浜、名古屋との三会交流会釜山地方弁護士会との交流会である。出席者はいずれも執行部、議題を決めて率直な意見交換をすることにしており、これまで開催したどの交流会も活発な意見を交換できた。
2弁、札幌との交流会は7月7日、札幌弁護士会館で開催された。一昨年までは2弁との交流だけであったが、昨年からは札幌を交えての3会交流となった。場所は札幌弁護士会会館。裁判所のすぐ近くに建つ自前の7階建ての立派な会館である(羨ましい!)。
今回の議題は多重債務問題、都市型公設事務所、拠点事務所等についてザックバランな意見交換をした。多重債務問題では当会のTVCMを見てもらった。釜山地方弁護士会との交流でもTVCMを活用したが、今年はありとあらゆる機会にこの多重債務TVCMを活用することにしている。


九弁連合宿(8月3日)

恒例の九弁連合宿を8月3日に当会の会館で実施した。参加者は九弁連の理事と主任約50名。
テーマは法曹人口問題と取り調べの可視化の2つに絞った。
法曹人口問題は今年の宮崎の九弁連大会のシンポジウムが弁護士過疎、偏在問題という関係から選んだテーマであり、講師は当会の永尾広久会員と前田豊会員。そして、宮崎の後藤好成会員から現在までのシンポジウムでの検討状況の報告がなされた。今回の法曹人口問題のテーマは九弁連大会のシンポジウムに反映される予定である。
取り調べの可視化の講師は鹿児島志布志事件の弁護人の野平康博九弁連理事と佐賀北方事件の一審の弁護人の浜田愃九弁連理事。九州の2つの代表的な冤罪事件の弁護人が九弁連の理事であるという点で全く偶然であり幸いであった。両事件とも裁判の審理期間は2年半から3年半に達しており、この大半が取り調べ状況の内容の審理であった。両弁護士は期せずしていずれの事件でも取り調べ状況を録画していたら起訴はされなかったはずであると話されていたのが印象的であり、生の事件を題材にして現実の裁判の問題点が明確になった。裁判員裁判で、市民の裁判員を巻き込んで今後も延々と長期間の審理をするのであろうか。裁判員裁判の実施は残すところ1年8ヵ月に迫っている。


本年度はシンポジウムが花盛り

当会の委員会活動は活発である。そのため5月からは対外的なシンポジウムの開催が目白押しの状態である。今後の予定を加えるとざっと次のとおりとなる。本年度はこれに6月22日に第22回司法シンポジウムが大々的に開催されており、シンポジウム花盛りの年である。シンポジウムの準備段階から関係していただいた会員各位の献身的な活動に感謝したい。


5〜6月 憲法市民連続講座
6月9日 
クレジットシンポジウム「悪質商法とクレジットがもたらす深刻な消費者被害〜消費者が保護される安全なクレジット社会」
7月21日 
人権擁護大会プレシンポジウム「監視カメラとまちづくり」
7月27日 
民暴拡大協議会プレシンポジウム「企業内対象暴力〜21世紀の企業防衛のあり方」
8月25日 
憲法シンポジウム「今なぜ、何が問題か?〜憲法改正問題を考える」
9月1日 
取調べの可視化シンポジウム「密室からの叫び!〜取調べの全過程の録画実現を目指して〜」
9月15日 
人権擁護大会プレシンポジウム「すべての非行少年に弁護士付添人を!非行少年の実態を踏まえて〜国選付添人の全面的な実現を目指して〜」
9〜10月 憲法市民連続講座
11月16日 民暴拡大協議会

これまで全部のシンポジウムに出席したが、いずれもレベルが高く短時間で要点を掴んだ内容であり、勉強になった。これまでは余り関係のなかった分野でシンポジウムに出席することは刺激的であり新鮮である。
会員の皆さんにも時間の許すかぎり出席することをお勧めしたい。必ずや有意義な時間を持つことができること間違いない。
シンポジウムの内容等については弁護士会ニュースや月報、ホームページ、Fニュース等でチェックして頂きたい。

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2007年10月12日

「少年警察活動規則の一部を改正する規則案」に対する会長声明

声明

警察庁は,2007年9月,改正少年法の施行に伴う「少年警察活動規則の一部を改正する規則案」(以下「規則案」という。)を公表した。
 しかしながら,規則案のうち,?「ぐ犯調査」に関する規定(規則案第三章第三節)は全面的に削除すべきであり,?「触法調査」に関する規定(規則案第三章第二節)中に,警察官が少年に対する調査を行う際に,弁護士付添人を選任できること,質問に答えない権利があることを告知する規定を定めるべきである。

1 「ぐ犯少年」とは,親元に帰らない,暴力団とつきあいがある等の事情から判断して,将来,罪を犯すおそれのある少年のことであるが(少年法3条1項3号,少年警察活動規則2条4号),規則案では,「ぐ犯少年」であると疑うに足りる相当の理由のある少年について,警察官が調査できることを明確に規定している(規則案27条,30条)。
  しかし,先の通常国会に上程された少年法改正案の中に同趣旨の規定が存在していたが,国会審議の際,「警察官による調査権限の及ぶ範囲が不明確で,調査対象の範囲が過度に拡大するおそれがあるという懸念」から,全党一致で改正案から削除された経緯がある。今回の改正は,あえて法律で規制をしないことを決めた事項について,法律より効力の弱い国家公安委員会規則でこれを規制しようというものであり,国会の権能を無視したものであることは明らかであり,国会が国権の最高機関であり唯一の立法機関であることを定めた憲法41条にも抵触するおそれがある。実質的にも,警察庁作成の「少年非行等の概要」によれば,2006年度に,深夜徘徊,喫煙などの不良行為で警察が補導した少年の数は140万人を超えている。これらの少年と「ぐ犯少年」との境界線は極めて曖昧であることから,仮に,「ぐ犯調査」が許容されることになると,警察官が捜査の名を借りて,様々な情報を収集することが可能となり,まさに警察主導の監視社会化につながりかねない。
  以上の点から考えて,「ぐ犯少年」に対する警察官の調査権を定めるべきではない。

2 「触法少年」とは,罪を犯したが刑罰を科されることのない14歳未満の少年のことであるが(刑法41条,少年法3条1項2号,少年警察活動規則2条3号),警察官が「触法少年」に対する調査を行う際に,少年には,弁護士である付添人を選任することができる権利(少年法6条の3)及び強制にわたる質問を受けない権利(同法6条の4,2項)が保障されている。これらの規定は,元来,少年は大人以上に警察官に迎合した供述を行ったり,暗示や誘導を受け易い傾向があり,その結果,警察の取り調べにおいて,虚偽の自白が行われ冤罪を生み出す危険性が大きいとの事実を踏まえて定められたものである。しかし,このような権利が定められても,実際に調査を担当する警察官が,少年に対して権利の告知をしなければ,権利が保障されたとはいえない。
  ところが,規則案では,調査にあたり,警察官が少年に対し,「弁護士付添人を選任することができる」旨,及び「その意思に反して質問に答えなくても良い」旨を告知することをまったく規定していない。したがって,上記少年法の趣旨を貫徹するためにも,これらの点を規則案に明確に規定すべきである。

                 2007年10月12日
                 福岡県弁護士会 会長 福 島 康 夫

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2007年10月30日

生活保護基準の引き下げについて慎重な検討を求める声明

声明

厚生労働省は、本年10月19日、学識経験者によって構成される「生活扶助基準に関する検討会(第1回)」(以下「検討会」という。)を開催した。同省のホームページにおいて検討会の設置及び開催が発表されたのは同月16日であり、それからわずか3日後の突然の開催であった。
 「検討会」は「平成20年度予算編成を視野に入れて結論が得られるよう検討する。」という。そして、北海道新聞(本年10月18日朝刊)の報道によれば、「検討会」は年内に報告書をまとめ、生活保護の給付の基本となる最低生活費の基準額の引き下げを提言する見通しであり、地域ごとに支給額に差をつけていた「級地」制度の見直し方針と相まって、都市部では大幅な生活保護基準の引き下げが懸念されるという。
 しかし、生活保護基準は、憲法25条が保障する「健康で文化的な最低限度の生活」の基準であって、国民の生存権保障に直結する重大な基準である。
 日本弁護士連合会が昨年7月に実施した「日弁連全国一斉生活保護110番」においては、生活に困窮した市民の切実な訴えが多数寄せられたが、生活保護基準が引き下げられるということは、現に生活に困窮している市民のうち、生活保護を利用して困窮から脱することができなくなる人が増加することを意味する。
 しかも、生活保護基準は、介護保険の保険料・利用料・障害者自立支援法による利用料の減額基準、地方税の非課税基準、公立高校の授業料免除基準、就学援助の給付対象基準、また、自治体によっては国民健康保険料の減免基準など、医療・福祉・教育・税制などの多様な施策にも連動している。
 このように、生活保護基準が引き下げられれば、生活保護利用者の生活レベルが低下するだけでなく、日本で生活する低所得者全般に直接の影響が出てくる。特に年収200万円以下の労働者(いわゆるワーキングプア層)にとっては、上記諸施策への連動が及ぼす影響は重大であり、増大するワーキングプア層の生活を更に苦況に追い込むことになりかねない。
 したがって、生活保護基準に関する議論は、十分に時間をかけて慎重になされるべきである。また、こうした議論は、公開の場で広く市民に意見を求めた上、生活保護利用者の声を十分に聴取してなされるべきである。
 にもかかわらず、上記の新聞報道のとおり、厚生労働省の「検討会」が、わずか2ヶ月足らずの検討期間しか設けず、あらかじめ「引き下げ」の提言をするとの結論を決めた上で検討を行うものであるとすれば、既に述べた生活保護基準の重要性に鑑み、到底容認することができない。
 当会は、昨年、日本弁護士連合会において採択された「貧困の連鎖を断ち切り、すべての人の尊厳に値する生存を実現することを求める決議」を受けて、生活保護をめぐる相談・援助体制を構築及び生活保護制度全般にわたる調査・検討を行う委員会を発足させ、貧困問題の解決に向けて取り組んでいるところである。
 厚生労働省及び「検討会」に対し、結論先にありきの拙速な検討を厳に慎み、公開の場で生活保護利用者の声を十分に聴取し、徹底した慎重審議を行うことを強く求める。

                2007(平成19)年10月29日
                  福岡県弁護士会           
                  会 長   福  島  康  夫

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