福岡県弁護士会 宣言・決議・声明・計画

2018年9月18日

東京医科大学医学部一般入学試験に関する女性差別についての会長声明

声明

東京医科大学医学部一般入学試験に関する女性差別についての会長声明
 2018(平成30)年8月7日、学校法人東京医科大学内部調査委員会が公表した調査報告書により、同大学医学部医学科の一般入学試験の二次試験(小論文)の採点において、女性受験者に不利益な得点調整が行われていたことが明らかにされた。同調査報告書は、「女子よりも男子を優先すること及びその手法として全員の得点に係数をかけたうえで属性に応じた一定の点数を加算することは、少なくとも平成18年度入試から行われていたようである」等と指摘している。
 憲法第14条が保障する性差別の禁止、男女平等原則は、私人間においても尊重されるべき基本的な社会秩序(民法第90条)を構成しているところ、受験者が女性であることを理由として一律に不利益な点数操作を行うことは、女性に対する重大な差別であり断じて許されない。加えて、公の性質をもつ教育機関である大学が、公正であるべき入学試験においてこのような差別を行うことは、性別によって教育上差別されないとする教育基本法4条1項はもちろんのこと、女性受験者の学問の自由(憲法23条)、能力に応じて等しく教育を受ける権利(憲法26条1項)、ひいては医師という職業選択の自由(憲法22条)等を保障する憲法の趣旨にも反している。
 また、同調査報告書は、同大学がこのような差別を長年にわたり行ってきた理由について、「女性は年齢を重ねると医師としてのアクティビティが下がる、というのがかかる得点調整を行っていた理由のようである」と指摘している。これは女性医師の出産・育児等によるキャリアの中断を指すものと推測される。しかし、仮に女性医師の休職・離職等が多いとしても、その原因としては、いわゆる性別役割分業の考え方に基づく男性医師の過重な長時間労働及び女性医師の家事・育児労働の過重負担など、様々な背景事情があることが考えられる。これらの背景事情を分析・解決することなしに、安易に、労働力という観点で女性は非効率的であるから入学をさせなければよいとすることは、到底許されない。
 公の性質を持つ大学において、入学者選抜という極めて高い公正さを求められる場面で、受験者が女性であることを理由として一律の不利益な点数操作を行うことは、いかなる意味においても正当化できない。

 以上を踏まえ、当会は、国に対し、下記2点を強く求める。
1 学校法人東京医科大学をはじめとした全ての大学の医学部入学者選抜における性別に基づく差別的取扱いの有無及び実態について早急に調査を進め、その結果を公表するとともに、性別に基づく差別的取扱いが認められた場合には、かかる差別的取扱いが行われた原因について究明をし、今後、全ての大学の医学部入学者選抜において、二度と性別に基づく差別的取扱が行われることのないよう、再発防止策を講じること。
2 女性医師が年齢を重ねても働き続けられるよう、過重労働の改善や性別役割分担意識解消のための政策を推進するなど、男性・女性を問わず全ての医師の労働環境の改善を速やかに図ること。

2018年(平成30年)9月18日
     福岡県弁護士会      
      会長 上田 英友

  • URL

カテゴリー

Backnumber

最近のエントリー