福岡県弁護士会 宣言・決議・声明・計画

2019年8月 9日

再審制度の制度趣旨を没却する最高裁判所の大崎事件第三次再審請求棄却決定に対し抗議する会長声明

声明

最高裁判所第一小法廷は,2019年(令和元年)6月25日,いわゆる大崎事件第三次再審請求事件(請求人原口アヤ子氏等)の特別抗告審において,検察官の特別抗告には理由がないとしたにもかかわらず,職権により,鹿児島地方裁判所の再審開始決定及び福岡高等裁判所宮崎支部の即時抗告棄却(再審開始維持)決定を取消し,再審請求を棄却した(以下「本決定」という。)。
大崎事件は,1979年(昭和54年)10月,原口アヤ子氏が,その元夫(10人兄弟の長男),義弟(二男)との計3名で共謀して被害者(四男)を殺害し,その遺体を義弟の息子も加えた計4名で遺棄したとされる事件である。原口アヤ子氏は,逮捕時から一貫して無罪を主張し続けたが,確定審では,「共犯者」とされた元夫,義弟,義弟の息子の3名の「自白」,「自白」で述べられた犯行態様と矛盾しないとする法医学鑑定及び義弟の妻の目撃供述等を主な証拠として,原口アヤ子氏に対し,懲役10年の有罪判決が下された。
原口アヤ子氏は,受刑後,第一次再審請求において,2002年(平成14年)3月26日,再審開始決定を得たが,検察官の即時抗告により同決定が取り消され,その後再審請求棄却決定が確定した。そして第二次再審請求においても,再審の扉は閉ざされていた。
今般の第三次再審請求審においては,弁護側は,被害者の死因について事件前に発生した「転落事故による出血性ショックの可能性が高い」という法医学鑑定書を新証拠として提出した。また,義弟の妻の目撃供述についても,供述心理学の専門家による鑑定によって信用性に疑問が呈された。 そして,鹿児島地方裁判所は,2017(平成29)年6月28日,「殺人の共謀も殺害行為も死体遺棄もなかった疑いを否定できない」と結論づけて,本件について2度目となる再審開始決定をした。これに対して検察官抗告がなされたが,2018年(平成30年)3月12日,福岡高等裁判所宮崎支部も再審開始の結論を維持し,検察官の即時抗告を棄却して,再審開始を認めた。
ところが,本決定は,検察官の特別抗告には刑訴法433条の理由がないとしたにもかかわらず,特別抗告を棄却せずに,原々決定及び原決定に同法435条6号の解釈適用を誤った違法があり,「取り消さなければ著しく正義に反する」と述べてこれらを取消し,同法434条,426条2項によって自判し,再審請求を棄却するという過去に前例のない,異例の決定を行った。
そもそも,再審制度は,えん罪の被害者を救済するための制度であり,この点を踏まえて,最高裁も,1975年(昭和50年)5月20日最高裁第1小法廷決定(いわゆる白鳥決定)及びそれに続く1976年(昭和51年)10月12日最高裁第1小法廷決定(いわゆる財田川決定)において,「疑わしきは被告人の利益に」という刑事司法の大原則が再審請求審においても適用されることを明らかにし,以後,この原則を踏襲してきた。とりわけ,大崎事件においては,第一次から第三次の再審請求を通じて3回の再審開始決定が出され,地裁及び高裁において,少なくともそれぞれの合議体の過半数の裁判官が確定判決に疑問を呈したのであるから,原口アヤ子氏を有罪とした確定判決に合理的な疑いが生じている可能性が高まっていた。
しかし,本決定は,事実調べを行なった原々決定及び確定審の事実認定を詳細に分析した原決定に対し,書面審理のみで結論を覆し,再審の扉を再び閉ざしてしまった。しかも,検察官が特別抗告の理由として制度上主張できない事由について,刑訴法411条1号を準用して職権で判断して再審決定を取り消したものであり,このような最高裁の判断は,再審制度の制度趣旨を没却するものであり,これこそが「著しく正義に反する」ものといわざるを得ない。
また,白鳥決定では,刑訴法435条6号の新証拠の明白性の判断手法について,新証拠と他の全証拠を「総合的に評価して...確定判決における事実認定につき合理的な疑いを生ぜしめれば足りる」とされ,財田川決定においても,「確定判決が認定した犯罪事実の不存在が確実であるとの心証を得ることを必要とするものではなく,確定判決における事実認定の正当性についての疑いが合理的な理由に基づくものであることを必要とし,かつ,これをもつて足りると解すべき」とされてきた。
しかし,本決定においては,新証拠として提出された法医学鑑定に対し,「科学的推論に基づく一つの仮説的見解を示すものとして尊重すべきである」と一定の評価を与えつつも,新たな法医学鑑定それ自体に確実な裏付け,確実な根拠,遺体から現れたすべての事象に対する合理的説明を要求し,それらを満たさないことを理由に証明力を低く評価し「決定的な証明力は有しない」と断じた。その一方で,共犯者とされた親族らの「自白」及び目撃供述については,その知的能力や供述の変遷等に関して問題があることを認めながらも,その信用性は「相応に強固だ」と評価し,新証拠によって「合理的な疑い」は生じないとした。このような判断は,明白性の判断基準のハードルを著しく引き上げるものであり,再審制度の制度趣旨に反するのみならず,「疑わしきは被告人の利益に」という刑事司法制度全体の基本理念をも揺るがしかねない危険な判断である。
当会は,このような再審制度の制度趣旨を没却し,刑事司法制度の基本理念をも揺るがしかねない本決定に強く抗議するとともに,当会としても,このような不当な判断が二度と繰り返されないためにも,再審開始決定に対する検察官の不服申立の禁止をはじめとする,えん罪被害救済に向けた再審法改正の早急な実現に尽力する決意を表明する。
                

2019年(令和元年)8月8日
福岡県弁護士会
会長 山 口 雅 司


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2019年8月 6日

死刑執行に抗議する会長声明

声明

去る8月2日,福岡拘置所において1名,東京拘置所において1名,合計2名の死刑確定者に対して死刑が執行された。
我が国での死刑執行は,今世紀に入ってからも,2011年を除いて毎年行われており,2001年以降これまで合計90人もの死刑確定者が,国家刑罰権の発動としての死刑執行により生命を奪われていることになる。

当会は,最近では,昨年12月27日の死刑執行に対し,抗議する声明を発表し,すべての死刑の執行を停止することを強く要請した。それにもかかわらず,今回の死刑が執行されたことは,まことに遺憾であり,当会は,今回の死刑執行に対し,強く抗議するものである。

たしかに,突然に不条理な犯罪の被害にあい,大切な人を奪われた状況において,被害者の遺族が厳罰を望むことはごく自然な心情である。しかも,わが国においては,犯罪被害者及び被害者遺族に対する精神的・経済的・社会的支援がまだまだ不十分であり,十分な支援を行うことは社会全体の責務である。

しかし,そもそも,死刑は,生命を剥奪するという重大かつ深刻な人権侵害行為であること,誤判・えん罪により死刑を執行した場合には取り返しがつかないことなど様々な問題を内包している。
我が国では,死刑事件について,すでに4件もの再審無罪判決が確定しており(免田・財田川・松山・島田各事件),えん罪によって死刑が執行される可能性が現実のものであることが明らかにされた。

世界的な視野で見ると,欧州連合(EU)加盟国を中心とする世界の約3分の2の国々が死刑を廃止又は停止している。経済協力開発機構(OECD)加盟国35か国のうち死刑を存置しているのは,日本・米国・韓国であるが,米国は50州のうち19州が死刑を廃止し,4州で知事が執行停止を宣言している。韓国では,20年以上,死刑の執行が停止されている。したがって,OECD加盟国のうち,国家として統一的に死刑を執行しているのは日本だけである。
国連総会は過去7度に亘り「死刑廃止を視野に入れた死刑執行の停止」を求める決議を採択し,国連人権理事会で実施された過去3回のUPR(普遍的定期的審査)では,日本に対し,死刑廃止に向けた行動の勧告を出している。

当会は,本件死刑執行について強く抗議の意思を表明するとともに,死刑制度についての全社会的議論を求め,この議論が尽くされるまでの間,すべての死刑の執行を停止することを強く要請するものである。

2019年(令和元年)8月6日
                福岡県弁護士会会長  山 口 雅 司

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2019年5月31日

消費者行政の一層の充実・強化を求める決議

決議

【決議の趣旨】

1 当会は,消費者庁及び内閣府消費者委員会の創設10年の節目に当たって,いまだ多く発生している消費者被害の予防と救済を図るべく,以下の措置をはじめとする,消費者行政の一層の充実・強化を求める。
(1) 地方消費者行政を,国の消費者行政の一端を担うものとして明確に位置づけ,国からの予算支出による積極的な財政措置を講じること。
(2) 高齢者の消費者被害の予防と救済を図るべく,各地方公共団体における消費者安全確保地域協議会の設置を推進し,さらに,不意打ち的な電話勧誘・訪問販売を規制し,いわゆる「つけ込み型」の不当勧誘につき,包括的に消費者に契約取消権を認めるなどの立法措置を講じること。
(3) 若年者に対する消費者教育を幅広く展開すべく,国や地方公共団体による財政支援を充実させ,消費者庁として積極的なリーダーシップをとること。
(4) 適格消費者団体および特定適格消費者団体に対して,直接的な財政支援をなすこと。
2 消費者庁が,消費者政策の司令塔としての機能を強化し,緊急事態等に迅速に対応し,法制度の企画・立案・実施を効率的に行うためには,各省庁及び国会と同一地域に存在することが必要不可欠であるから,これに反する消費者庁の全面的な地方移転に反対する。

2019年(令和元年)5月29日
福岡県弁護士会

【決議の理由】

1 はじめに
日本弁護士連合会は,1989年9月16日の第32回人権擁護大会において,「消費者被害の予防と救済に対する国の施策を求める決議」を採択し,国に対し,従来の縦割り行政,後追い行政の弊害を除去し,消費者の立場に立った総合的統一的な消費者行政を推進する消費者省(庁)の設置等を求めた。 当会も,日本弁護士連合会と連携して,消費者被害の予防と救済に取り組んできたが,個別の事件解決に取り組むとともに,消費者行政の抜本的改正の必要性も訴えてきた。 そして,2008年6月27日付の閣議決定「消費者行政推進基本計画」において,「我が国は各府省庁縦割りの仕組みの下それぞれの領域で事業者の保護育成を通して国民経済の発展を図ってきたが」,「消費者・生活者の視点に立つ行政への転換」を図るべきとして,消費者行政を一元化する新組織を創設することが宣言された。 その直後の2008年7月19日,当会は,シンポジウム「消費者庁構想を考える〜真に消費者の頼りになる消費者庁実現へ向けて〜」を開催して,消費者被害の予防や救済のために行政が積極的に対応する必要性を訴えて,消費者庁の創設を求めた。 そして,いよいよ,2009年5月に,消費者庁及び消費者委員会設置法(以下「設置法」という。)が制定され,同年9月1日に消費者庁及び内閣府消費者委員会(以下「消費者委員会」という。)が創設された。 今年で10年の節目を迎える消費者庁は,創設以来,さまざまな消費者政策を立案・実施しており,同時に創設された消費者委員会もまた,独立した機関として,積極的な政策提言などを行ってきた。 しかし,その一方において,消費者被害は多様化し,より巧妙な手口による被害が多発している。 このような消費者を取り巻く社会環境の変化に応じ,消費者の目線に立脚した行政機関としての消費者庁及び消費者委員会には,さらに積極的な役割を果たすことが期待されるところ,創設10年の節目を迎えるにあたって,当会として本決議を採択する。
2 消費者庁・消費者委員会の役割
設置法によれば,消費者庁は,「消費者基本法第2条の消費者の権利の尊重及びその自立の支援その他の基本理念にのっとり,消費者が安心して安全で豊かな消費生活を営むことができる社会の実現に向けて,消費者の利益の擁護及び増進,商品及び役務の消費者による自主的かつ合理的な選択の確保並びに消費生活に密接に関連する物資の品質に関する表示に関する事務を行う」(同法3条1項)ことをその任務とするものとされている。 また,消費者委員会は,設置法6条に基づいて内閣府に設置された独立機関であり,同条2項1号に定められた6つの重要事項について,自ら調査審議し,必要と認められる事項を内閣総理大臣,関係各大臣または消費者庁長官に建議することができる権限を有している。
3 消費者庁及び消費者委員会設置後の10年
(1) 設置法の附則とこれを受けた法改正

設置法は,その附則において,実施後の一定期間内に各種の見直しを行い,必要な措置を講じることを規定しており,その国会審議においても,衆議院において23,参議院において34の附帯決議が付されていた。そして,これらの見直し規定等を背景として,消費者庁および消費者委員会の創設から10年の間にさまざまな法改正が行われ,新たな消費者施策が展開されてきた。
2014年6月の消費者安全法改正においては,消費生活相談員の資格が整備され(同法13条の3),地方公共団体が消費生活センターを設置する根拠が明確にされるとともに(同法10条),消費者安全確保地域協議会の設置等が規定され(同法11条の3),人口5万人以上の地方公共団体において同協議会を設置する旨の目標が掲げられた。2019年3月末時点において,全国で209の地方公共団体において同協議会が設置されているが,福岡県においては36の地方公共団体において同協議会が設置されており,県別にみるならば,兵庫県の42に次ぐ設置状況となっている。
適格消費者団体をめぐっては,2008年4月の消費者契約法,不当景品類及び不当表示防止法(以下「景品表示法」という。),特定商取引に関する法律(以下「特定商取引法」という。)の改正により,その差止請求訴訟を提起することのできる範囲が拡大され,2013年6月に制定された食品表示法によって食品表示についても差止請求が可能となった。そして,2013年12月に成立した消費者裁判手続特例法は,適格消費者団体のうち特定認定を受けた特定適格消費者団体に対して,財産的消費者被害の集団的回復を図るための訴権を付与した。また,2017年6月の独立行政法人国民生活センター法の改正では,特定適格消費者団体が行う仮差押の立担保に関し,国民生活センターが資金を提供することができることとなった。
さらに,2014年11月の景品表示法改正においては,不当表示を行った事業者に対する課徴金制度が設けられ,独占禁止法についても,2009年6月の改正によって,課徴金の対象となる行為類型の拡大および課徴金額の増額がなされている。

(2) 消費者庁による消費者事故情報の集約と法執行・行政処分等

また,消費者安全法12条は,消費者事故情報の一元的集約と迅速な公表を実施するため,消費者事故等が発生した場合には,行政機関や地方公共団体が,内閣総理大臣(消費者庁)に通知をなすべきことを規定している。
この規定に基づいて,消費者庁に通知された消費者事故等は,年間1万件を超えており,2017年度の通知件数は10,952件であった。
そして,2017年度に,消費者庁が行った法執行や行政処分等の件数は,消費者安全法に基づく注意喚起,勧告等が10件,景品表示法に基づく措置命令が50件,同法に基づく課徴金納付命令が19件,同法に基づく返金計画の認定が1件,特定商取引法に基づく業務停止命令及び指示が32件,特定商品等の預託等取引契約に関する法律に基づく業務停止命令及び指示が2件,特定電子メールの送信の適正化等に関する法律に基づく措置命令が2件,家庭用品品質表示法の規定に基づく指示が1件であった。

(3)消費者委員会の組織と権限

消費者問題への取り組みは,あくまでも消費者の目線で実施する必要があるところ,各省庁の出向社員を中心とする消費者庁による業務運営だけでは不十分であるから,消費者庁から独立して消費者行政全体の監視・提言役として職務を行う機関として,消費者委員会が設置されている。
この消費者委員会は,民間人の委員10名による合議体組織であり,必要に応じて部会や専門調査会を設けて,調査・審議・提言を行ってきている。具体的には,2018年12月までの間に,20件の建議,15件の提言,78件の意見を公表している。
そのほか,政府の消費者政策を総合的・計画的に推進するために策定される消費者基本計画について,消費者庁が毎年その工程表の見直しをなしているが,消費者委員会は,この見直しについて,関係省庁のヒヤリングを行い,意見を発出するなどの役割も果たしている。
これまで消費者委員会が公表してきた意見の中には,消費者契約法の改正などの形で結実されたものもある。そして,現下の最重要課題は公益通報者保護法の改正であり,2018年12月27日に,公益通報者保護専門調査会から報告書が公表されている。

4 これからの消費者行政に求められるもの
(1) いまだ消費者被害が多発していること

消費者庁及び消費者委員会が設置されてから,法改正も続いており,消費者被害の予防と救済に一定の成果を上げているという評価もできる。
しかしながら,前述のとおり,消費者庁に通知された消費者事故等は,年間1万件を超えており,2017年度の通知件数は10,952件であった。また,全国の消費生活センター等に寄せられた消費生活相談の件数を見ると,2017年度は約911,000件に上っており,前年と比較しても約19,000件増加している。
消費生活相談件数が,依然として高水準である要因には,インターネットの生活への一層の浸透が挙げられると指摘されている(平成30年版消費者白書25頁)。特に,スマートフォンの普及により,SNSを通じたコミュニケーション,インターネット通販での商品購入やサービスの予約が,若年者から高齢者まで幅広い年齢層で,身近で日常的なものとなっていることを背景に,被害が広く発生しており,また,手口も巧妙化している。
このような状況に鑑みると,消費者庁や消費者委員会をはじめとする消費者行政のより一層の積極的な取り組みが求められる。

(2) 地方消費者行政の推進

消費者庁が創設された2009年度において新たに予算化された「地方消費者行政活性化交付金」は,消費者行政に使途を限定された特定財源であったが,当初3年を限度とするものとされ,その間に地方公共団体が独自予算を組み地方消費者行政が自立することが想定されていた。
この地方消費者行政活性化交付金は,交付開始から3年を経過した2012年度から,地方公共団体の自主的な事業への活用を重視した「地方消費者行政推進交付金」として継続されたものの,2018年度からは新規事業への交付が打ち切られ,原則として終了することになった。「地方消費者行政推進交付金」に代わって2018年度から交付されることになった「地方消費者行政強化交付金」は,国の重点課題に呼応した事業を支援するというものであるが,その使途は「地方消費者行政推進交付金」よりも大きく限定されている。そして,その予算額も大幅に減額され,2017年度に42億円であったものが,2018年度には36億円とされ,2019年度においては33.5億円まで減額された。
2018年1月に公表された一般社団法人全国消費者団体連絡会地方消費者行政プロジェクトチームの調査によれば,消費者行政に関する「基準財政需要額」(地方公共団体が合理的かつ妥当な水準で地方消費者行政を行う場合に要する経費として総務省が示す額)における地方公共団体の自主財源比率は,都道府県別にみた全国平均が52.1%であり,決して高いとは言えない状況である。とりわけ福岡県は26.0%とさらに全国平均を大きく下回っている。
このように,地方公共団体の財政状態は消費者行政について十分な独自予算を組むまでの状況になく,むしろ消費者関連予算は,地方公共団体の予算縮小・削減の格好の対象となってきた。
このような状況に鑑みると,地方消費者行政を,国の消費者行政の一端を担うものとして明確に位置づけ,国からの予算支出による積極的な財政措置を講じるとともに,その財政支援が適正かつ的確に消費者関連施策に充てられるよう立法措置を含む対応が求められる。
福岡市議会は,2018年12月19日,「地方消費者行政に対する財政支援の拡充等を求める意見書」を全会一致で採択し,地方消費者行政に係る交付金制度の予算額を確保すること及び地方公共団体が行う消費生活相談,行政処分等の地方消費者行政に係る事務費用に対する恒久的な財政措置について検討することなどを国に求めている。同様の請願や意見書は,全国各地の地方公共団体で相次いで採択されており,地方消費者行政に対する国の財政措置が必要であるとの声が高まっている。

(3) 高齢者の消費者被害の予防と救済

高齢化社会への移行が急速に進む中,高齢者を狙った悪質商法が後を絶たず,2017年に,全国の消費生活センター等に寄せられた消費生活相談の約911,000件のうち,65歳以上の相談者が約29.2%と大きな割合を占めている。そこで,今後とも,引き続き,高齢者の消費者被害の予防及び救済をより確実にするための施策を強化することが求められている。
この点,2014年6月の消費者安全法改正により,2016年4月から,地方公共団体が高齢者等の判断力の不十分な消費者の消費者被害の予防と早期救済のために消費者安全確保地域協議会を設置することが可能となった。しかしながら,2019年3月末時点において,人口5万人以上の地方公共団体545のうち,設置している地方公共団体は98と全体の18.0%に過ぎず,全国的な普及に向けた働きかけをより強化しなければならない状況にある。
また,高齢者,特に認知症等の高齢者にトラブルが多い不意打ち的な電話勧誘・訪問販売について,これを消費者があらかじめ拒否できるDo-Not-Call制度(電話勧誘拒否登録制度),Do-not-Knock制度(訪問販売拒否登録制度)の導入も実現していない。
当会は,2015年9月18日に,「特定商取引法に事前拒否者への勧誘禁止制度の導入を求める意見書」を発出するなど,これらの制度の導入を訴えてきたが,高齢者の消費者被害の予防と救済の観点から,引き続き,法改正を求めるものである。
さらに,2014年8月,内閣総理大臣から消費者委員会に対し,消費者契約法につき「高齢化の進展を始めとした社会経済状況の変化への対応等の観点」から見直しの検討を行うよう諮問がなされ,消費者委員会消費者契約法専門調査会において検討がなされた。その結果,2015年12月と2017年8月の2度にわたる同専門調査会の報告書において,過量販売等の特定の被害類型についての契約取消権が提言され,これらの報告に基づく2016年5月および2018年6月の消費者契約法改正において,過量販売等に加え,判断力の著しい低下につけ込んだ勧誘や霊感を利用した勧誘等の被害類型についての契約取消権が導入されることとなった。
しかし,高齢化社会が進む中において,高齢者が安心して暮らして行ける社会にするためには,合理的な判断ができない状況にある消費者を狙った消費者被害を放置しておくべきではなく,消費者に合理的判断ができない事情があることを利用して不必要な契約を締結させる,いわゆる「つけ込み型」の不当勧誘につき,包括的に消費者に契約取消権を認めることが必要と考えられるところ(消費者委員会平成29年8月8日付け答申書付言),これについてはなお実現しておらず,消費者契約法のさらなる改正に向けた努力が必要である。

(4) 若年者の消費者被害の防止と消費者教育

当会は,2018年2月23日付けをもって,「民法の成年年齢引下げに反対する会長声明」を発出し,成年年齢の引き下げに反対する旨の意見を表明した。しかし,2018年6月,成年年齢の引き下げ等を内容とする民法の改正法が成立し,2022年4月から成年年齢が18歳に引き下げられることになった。
これによって,18歳と19歳の若年者(いわゆる「若年成人」)については,民法に基づく未成年者取消権を行使することができなくなるが,これら若年成人は,社会経験も少なく,必ずしもその判断能力が十分なものであるとは言い難く,消費者被害の格好のターゲットとなることが懸念される。
とりわけ若年者に関しては,いわゆるデジタルコンテンツなどネットやSNS関連の消費者被害への対策が重点課題として挙げられる。実際の学校現場での消費者教育においては,これら刻々と変化する消費者被害の実態を踏まえる必要がある。さらに,消費者教育は,知識を一方的に与えるだけではなく,日常生活の中での実践的な能力を育み,社会の消費者力の向上を目指して行われるべきである。そのため,消費者教育の担い手については、「国・地方,行政・民間,消費者,事業者などの幅広い主体を担い手として,担い手を支援し,育成し,連携を図って,効果的・実践的に消費者教育に係る施策を進めて」いかなければならない(2013年6月28日閣議決定・2018年3月20日一部変更「消費者教育の推進に関する基本的な方針」)。
しかしながら,消費者教育の推進に関する法律(以下「消費者教育推進法」という。)が制定された後も,我々弁護士会など外部専門家との連携も含めて,消費者教育の担い手の支援,育成,連携は,必ずしも実効的に機能しているとは言い難い状況である。
また,消費者教育推進法では,地方公共団体に対して,消費者教育推進地域協議会を設置し(同法20条),消費者教育推進計画を策定することが求められているが(同法10条),いずれも努力義務にとどまっているため,全ての地方公共団体で設置,策定されているわけではない。
この点,「消費者教育の推進に関する基本的な方針」では,地方公共団体に対して,改めて,消費者教育推進地域協議会を活用し,消費者教育推進計画を策定することを求めており,国に対しても,情報交換の場を設けるなど,地方公共団体に対して積極的に働きかけることを求めている。
その他,「消費者教育の推進に関する基本的な方針」では,消費者教育の各地域における実質的な主体として,消費者教育コーディネーターの配置・育成に取り組むことが求められているが,福岡県等いまだ設置もされていない地方公共団体も散見される。
外部講師を活用される場合に必要なはずの予算措置も十分なものとは言い難く,今後,消費者庁が各地方公共団体から報告を求め,分析及び改善を図るべき点も多い。
成年年齢の引き下げが施行されるまでにはおよそ3年の猶予が設けられているが,この間に,若年者に対する消費者教育を幅広く展開することが必要であり,学校など教育機関との密接かつ実効的な連携を図る必要がある。
そして,消費者教育を展開するためには,国や地方公共団体による財政支援も不可欠であり,消費者庁には積極的なリーダーシップをとることが求められている。

(5) 適格消費者団体および特定適格消費者団体への支援

設置法は,同法等の施行後3年以内に,適格消費者団体による差止請求関係業務の遂行に必要な資金の確保その他の適格消費者団体に対する支援の在り方について見直しを行い,必要な措置を講ずることを求めている(同法附則5項)。
これは,適格消費者団体が事業者に対する差止請求権の行使等を通じて消費者利益を擁護する役割を有することから,適格消費者団体の充実した活動基盤を確保することこそが,消費者の利益擁護のために必要不可欠であると考えられたからである。このことは,その後に認められた特定適格消費者団体についても同様である。
消費者庁は,2015年10月に「消費者団体訴訟制度の実効的な運用に資する支援の在り方に関する検討会」を設置し,同検討会は2016年6月に報告書を取りまとめている。同報告書においては,適格消費者団体および特定適格消費者団体(以下「適格消費者団体等」という。)がPIO-NET(全国消費生活情報ネットワーク・システム)の情報を活用しやすくするなどといった情報収集面の支援,適格消費者団体等が寄附を受けやすくするなどといった財政面の支援,行政による適格消費者団体等の認定・監督にかかる事務手続の一部簡素化といった手続面の支援等が提言されている。
しかし,大多数の適格消費者団体等においては,学者や消費生活相談員,弁護士や司法書士などのボランティア活動によって支えられており,その活動基盤,とりわけ経済的基盤はきわめて脆弱であるのが実情であるところ,適格消費者団体等に対する直接の財政的支援は,まったくと言ってよいほど検討されていない。「地方消費者行政強化交付金」など,消費者庁による地方公共団体を通じた適格消費者団体等への支援は,地方公共団体による適格消費者団体等に対する理解などの温度差が顕著であり,その支援額において不十分であることは別にしても,すべての適格消費者団体等に公平な支援が行き届いているものとはいい難いのが現状である。
適格消費者団体等が,本来,行政が行うべき業務の一部を担っているという側面は否定することができず,行政による直接的な財政支援の導入が求められる。

5 消費者庁の全面的な地方移転について
(1)「まち・ひと・しごと創生法」に基づく移転の動き

以上のように,消費者行政の一層の充実・強化が求められるべきところ,これに反するような消費者庁の全面的な地方移転の動きがある。すなわち,2014年11月に施行された,「まち・ひと・しごと創生法」に基づき,内閣に「まち・ひと・しごと創生本部」が設置され,政府関係機関の地方移転についての検討がなされているところ,徳島県は,「消費者庁・消費者委員会・国民生活センターの移転の実現に向けた取組みを県を挙げて強力に推進する」として,「消費者庁等移転推進協議会」を設置するなど,消費者庁の全面的な徳島県への移転につき積極的な働きかけをなしている。
当会も,東京一極集中の是正や,地方創生に取り組む必要があること自体は,否定するものではない。
しかしながら,以下の理由から,消費者庁の地方への全面移転には反対せざるを得ない。

(2) 新未来創造オフィスの徳島県への設置

2016年9月1日に,「まち・ひと・しごと創生本部」が決定した「政府関係機関の地方移転にかかる今後の取組について」により,徳島県に「消費者行政の新たな未来の創造を担うオフィス」(新未来創造オフィス)が置かれ,実証に基づいた政策の分析・研究機能をベースとした消費者行政の発展・創造の拠点とすることとされた。その際,「現時点では,政府内の各府省共通のテレビ会議システムが整備されておらず,徳島県から東京や全国へのアクセス面の課題もあるなかで,消費者庁が行ってきた国会対応,危機管理,法執行,消費者行政の司令塔機能,制度整備等の業務については,迅速性,効率性,関係者との日常的な関係の構築等の点で課題がみられた。テレビ会議システム等を活用したやり取りにおいては,1対1や一方向のやり取りは問題ないが,多人数での意見調整には課題がみられた」と指摘されたことから,これまで消費者庁が行ってきた迅速な対応を要する業務,対外調整プロセスが重要な業務(国会対応,危機管理,法執行,司令塔機能,制度整備等)は東京で行うこととされた。
このような経緯で2016年7月24日に開設された徳島県の新未来創造オフィスでは,現在,全国展開を行うことを目的とした10のプロジェクトと,3つの基礎的研究が行われている。具体的には,若者の消費者被害の心理的要因からの分析に係る検討や,障がい者の消費行動と消費者トラブルに関する調査,子どもの事故防止調査,食品ロスに関する実証事業等が行われている。そして,新未来創造オフィス開設から3年後までに,その検証・見直しが行われることとされている。

(3) 現在の状況

消費者委員会の消費者行政新未来創造プロジェクト検証専門調査会では,「地方創生の観点からは,職員の滞在,出張者の増加等,人の流れの創出に一定の成果」があったとされ,「消費者行政新未来創造オフィスによる地方創生への直接の貢献」について,2017年度が約1億1300万円,2018年度が約1億900万円と報告されている。また,2019年9月5日,6日の両日,G20大阪サミットのサイドイベントとして,徳島市において「G20消費者政策国際会合」が開催される予定であり,その経済効果等が広く広報されて、消費者庁の全面移転の流れが加速するおそれもある。
前記のとおり,徳島県等は,同県への消費者庁の本体機能を含む全面的な移転の働きかけを強めており,新未来創造オフィスの検証・見直しを機として消費者庁の移転問題について結論が出される可能性を否定することができない状況にある。

(4)消費者庁の全面的な地方移転による弊害

消費者庁が,消費者政策の司令塔としての機能を強化し,緊急事態等に迅速に対応し,法制度の企画・立案・実施を効率的に行うためには,各省庁及び国会との迅速な意思疎通が必要不可欠である。
しかしながら,消費者委員会の消費者行政新未来創造プロジェクト検証専門調査会では,「テレビ会議の活用で一定の意思疎通はできるが,接続先が限られる上,対面の場合に比べ,様子や状況が分かりにくい,真意を伝えにくいといった課題も存在」したとか,「交通アクセスについては,県内の公共交通機関,県外への移動等,引き続き制約」があるとの指摘がなされている(一部移転した国民生活センターが,2017年度に,徳島県で開いた研修事業の参加者数は計509人であり,神奈川県相模原市で開いた同様の講座の1割強の人数に留まっている。)。
このように,他省庁との折衝が必要となる立法や予算の獲得といった本体機能を,徳島県において機能させることは困難であるうえ,迅速な対応を要する業務,対外調整プロセスが重要な業務(国会対応,危機管理,法執行,司令塔機能,制度整備等)に対応できないことは,これまでの新未来創造オフィスの試行によって明らかになっており,およそ消費者庁の全体的な移転を認めることができる状況にはない。
そもそも,消費者庁が発足したのは,2008年6月27日付の閣議決定「消費者行政推進基本計画」において,「我が国は各府省庁縦割りの仕組みの下それぞれの領域で事業者の保護育成を通して国民経済の発展を図ってきたが」,「消費者・生活者の視点に立つ行政への転換」を図るべきとされたからである。仮に,消費者庁が,全面的に地方移転した場合には,縦割り行政の弊害を是正して,消費者行政の一元化を図るという役割を十分に果たせなくなることが危惧される。
そこで,当会は,2015年12月15日付けにおいて「消費者庁・国民生活センターの地方移転に反対する意見書」を発出し,消費者庁等の地方移転に反対する意見を表明したところであるが,ここに改めて反対の意見を明らかにするものである。

6 結論

よって,当会は,消費者庁および消費者委員会をはじめ消費者行政の更なる充実・強化を求めるとともに,消費者庁の機能低下につながる全面的な地方移転について,強く反対するものである。
以上のとおり,決議する。

以上


決議の理由中におきまして,一般社団法人全国消費者団体連絡会の団体名の表記に誤記がございました。一般社団法人全国消費者団体連絡会をはじめ関係機関の皆様に深くお詫び申し上げます。
改めて,訂正後の決議をアップいたしましたので,お知らせいたします。

2019年6月13日


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2019年5月29日

すべての人にとって平等な婚姻制度の実現を求める決議

決議

決議の趣旨

当会は,政府及び国会に対し,同性者間の婚姻を認める法制度の整備を求める。

即ち,戸籍上の性別が異なる者の間で認められている婚姻が,戸籍上の性別が同じ者の間で認められていないことは,憲法13条及び憲法24条1項から導かれる自己決定権の一つである「婚姻の自由」 ,及び,憲法14条に抵触する性的指向ない し性自認に基づく不合理な差別であるとの点から看過できない問題である。

実際にも,同性者間の婚姻が認められていないために,婚姻関係にあれば当然受けられるはずの法的保障が受けられず,また,相続や子どもの養育において不利益を強いられ,さらに,病院で立会ができなかったり,公営住宅への入居を拒否され たりするなどの問題も生じている。

国際的に見ても,先進国首脳会議参加国であるG7の中でみると,国レベルで同性婚ないしは,パートナーシップ制等婚姻に準じる法制化を行っていないのはもはや日本だけである。日本は,国連人権理事会におけるLGBT(レズビアン(女性の同性愛者),ゲイ(男性の同性愛者),バイセクシャル(男性・女性,両方を性愛の対象とする者) ,トランスジェンダー(戸籍上の性別と心の性別が一致しない者)を始めとするいわゆる性的少数者)の人々の権利に対する決議に賛成したにもかか わらず,同性婚についての法整備は全く行っていない。

近年,世論調査によれば,日本国内でも同性婚に対する理解は深まり同性婚の法制化について賛成が多数を占めており,自治体においても公に婚姻に準ずる関係として証明する「パートナーシップ制度」を導入するなど,同性カップルを社会的に承認するという流れができており,国民の間にも同性婚を認める素地はできている と言える。

同性者間の婚姻に関する問題は,人権という観点からは無視できない状況にあり, 早期の法制度整備を求めるものである。

2019年(令和元年)5月29日
福 岡 県 弁 護 士 会

決議の理由
1 「同性間の婚姻の自由」の保障

現在の日本において,同性者間の婚姻は,戸籍上の制度として認められていない。そのため,LGBTをはじめとする同性カップルは,自身が愛するパートナーと婚姻し,戸籍上の夫婦となりたくとも,当該パートナーが戸籍上同性であるがゆえに,それが叶わない。このような制度的不備は,憲法や条約に抵触する不合理な差別にあたる。

(1) 「婚姻の自由」が同性間でも保障されるべきこと

憲法13条は,幸福追求権を保障しており,その内容として,個々人の幸福追求のあり方を個々人の決定に委ねるという意味で,自己決定権を保障している。そもそも婚姻するかどうか,誰と婚姻するかという「婚姻の自由」もまた,この自己決定権という憲法により定められた権利として保障されている。婚姻というものが,人生をともに歩み,支え合うパートナーを選択した上で,そのパートナーと継続的に親密かつ人格的な関係を築いていくものであることからすれば,人格的生存に不可欠なものであって,婚姻の自由は異性であろうと同性であろうと同じく自己決定権として保障されるべきものである。

また,憲法24条1項について,最高裁は「婚姻をするかどうか,いつ誰と婚姻をするかについては,当事者間の自由かつ平等な意思決定に委ねられるべきであるという趣旨を明らかにしたものと解される。」とし,憲法24条1項からも婚姻の自由が導かれるものと解している。

(2) 平等原則への抵触

憲法14条1項は,法の下の平等を保障している。そのため,正当な理由なく,本人の意思によって左右することができないような事由をもって,国が国民に対し,差別的取扱いを行うことを禁止している。

性自認(自身の性をどう認識しているか) ,性的指向(どの性別を恋愛・性愛の対象とするか)は本人の意思で変えられるものではない。そのため,自身と戸籍上の性が同じ者との間で継続的に親密かつ人格的な関係を築きたいと考えることも,本人の意思で変えられるものではない。
しかし,国は同性者間の婚姻を認めていないため,同性者との婚姻を希望する者に対する差別的な取扱いを行っている。
そしてこのような差別的な取扱いによって,後述するように異性間の婚姻であれば当然に得ることのできる利益を同性カップルは得られない状態にある。

このように,同性婚制度がないことは,同性カップルをその性的指向,性自認を理由に差別していることに他ならず,憲法14条1項に抵触している。

加えて,国際人権自由権規約は,日本政府が批准し,国内法的効力を有するが,同26条もまた憲法14条と同じく,法の前の平等を保障し,あらゆる差別を禁止している。しかし,同性カップルは同性と婚姻できないことによって差別を受けているのだから,現行の日本の婚姻制度は上記条約にも抵触している。

(3) 小括

以上のとおり,憲法や条約といった上位規範により,同性カップルには婚姻の自由が保障され,また性的少数者であることを理由に差別されないこととされているのだから,国は公権力やその他の権力から性的少数者が社会的存在として排除を受けるおそれなく,人生において重要な婚姻制度を利用できる社会を作る義務がある。しかしながら,現状は同性間における婚姻は制度として認められておらず,平等原則に抵触する不合理な差別が継続しているのである。

2 同性カップルが直面する不利益

同性間に婚姻が認められていないことにより,同性カップルは,様々な分野において,法律上・事実上の不利益を受けている。また,このような人々の中には幼少期にその性的指向などを理由に親から虐待を受けた経験を持つ者や差別的対応を恐れて親や親族に公言できない者も多くいるため,親や親族の協力を得る ことができず,不利益はより深刻なものとなっている。

(1) 同性パートナーの死に伴う問題

まず,民法上,同性パートナーは相続人になれない。そのため,共同生活で築いた財産があっても,同性パートナーは遺言がなければ財産を承継することができない。仮に,遺言があったとしても,親族から遺留分減殺請求を受けるおそれがあり,同性パートナーの存在を知らない親族とトラブルになる可能性も高い。上記以外にも,相続税の配偶者税額軽減措置が適用されない,遺族基礎年金・遺族厚生年金が受給できない,生命保険の受取人になれない,慶弔休暇を取得できない,同性パートナーの建墓にあたり墓園の申込みを拒否されることがあるなど同性カップルは同性パートナーの死に伴い 様々な法律上・事実上の不利益を受けている。

(2) 子の養育についての問題

現在,自らもうけた未成年の子を同性パートナーとともに養育しているケースは多く存在する。この場合,異性間であれば,婚姻して養子縁組をすることにより法律上の親子関係を築くことができるが,同性間では,同性パートナーがその子と養子縁組をすると,民法818条2項により実親であるパートナーの親権が失われてしまうため,同性パートナーは事実上養子縁組を結ぶことができない。結果,同性パートナーは,親としてその子を養育しようと思っても活動が制約される。また,実親が先に死亡したときには,養育する者がいるにもかかわらず,未成年後見人が選任されることとなる。これらは同性パートナーが不利益を受けるにとどまらず,子の養育にも影響を与えかねないものである。

(3) 一方が外国人である場合の問題

同性カップルの一方が外国人の場合にも問題は顕在化する。日本人と婚姻した外国人には,「日本人の配偶者等」として在留資格が与えられるが,同性パートナーは,「配偶者等」に該当しないため,その他の長期在留資格を得られなければ,短期滞在の在留資格で日本に滞在するほかなく,オーバーステイのリスクと隣り合わせの生活を余儀なくされる。そして,在留特別許可の審査においても,同性パートナーの存在は特に考慮する要素となっていない。

(4) その他の不利益

上記以外にも,公営住宅への入居が認められない,民間住宅であってもルームシェアが可能な住宅にしか入居できないなどの住居に関する問題,病院でパートナーの病状について説明を受けたり,意識不明状態にあるパートナーの治療方針の決定に関与することが認められないことがあるなどの医療現場での問題の他,パートナーが逮捕された際に留置場所を教えてもらえない,自動車保険の運転者家族限定特約の申込みを拒否されることがあるなど,同性カップルが直面する法律上・事実上の不利益は極めて広範な分野に及ん でいる。

(5) 小括

これらの不利益は,事実上の不利益にとどまるものもあるが,その制度の多くは,法律上の婚姻という強固なつながりを基礎として運用されているものであり,個々の制度の運用を変更することで容易に解消できるものではない。現在においても,厳然として性的少数者に対する社会的差別は存在し,それゆえに当事者は様々な不利益を被っており,同性婚を認めない法制度がこのような差別を温存し助長している面も否定できない。このような同性カップルが直面する不利益を解消するために,同性カップルに婚姻を認める法 制度を構築することが求められる。

3 国際的な状況

同性婚の保障を含む性的少数者の権利保護は,世界的にも共通意識として醸成 されている。

2011年6月,国連人権理事会はLGBTの人々の権利に対する決議を採択し,性的指向や性同一性を理由とする差別や暴力行為等への懸念を表明した。記憶に新しい2014年ソチオリンピックの開幕式では,ロシアが反同性愛を内容とする法案を成立させたことに対して,その批判の意味でアメリカ,フランス,ドイツなど,欧米の首脳が開幕式を欠席する事態となった。そしてこれを受けて,2015年に,オリンピック憲章に性的指向による差別の禁止が明文化された。

2018年12月21日時点において,同性婚を保障する制度を持つ国・地域は人権意識の高い欧米諸国を中心に,中南米や南アフリカ等世界の25か国・地域に及んでおり,同性婚が認められている国・地域は,世界の国・地域の20パーセントを占めることとなった。G7で見ると国レベルで同性婚ないしは,パートナーシップ制等婚姻に準じる法制化を行っていないのはもはや日本だけで ある。

アジアにおいては,台湾で今年5月までに同性婚を認める法が施行される見通 しである。

このように,世界では同性婚の法的保障が次々に進んでおり,今後も同性婚の国レベルでの導入の潮流は続くと予測される中,日本はこのような潮流から立ち 遅れている。

4 国内の状況

2018年10月下旬に,インターネットを通じ,全国の20~59歳の6万人を対象として実施された株式会社電通の調査によると,欧米を中心に広がる同性婚の法制化について,78.4パーセントが「賛成」または「どちらかというと賛成」と答えている。

2015年の国立社会保障・人口問題研究所による調査において「賛成」,「やや賛成」の割合が51.1パーセントであったことや,2017年のNHKによる世論調査において「男性同士,女性同士が結婚することを認めるべき」との問いに「そう思う」と答えた人の割合が51パーセントであったことと比べて,現在は同性婚の法制化への理解が大幅に進んでいることが分かる。

このような世論を背景として,2019年4月17日現在,パートナーシップ制度を導入している自治体は20にのぼり,今後導入を予定・検討している自治体も多数存在する。

更に,2019年2月14日には,各地で13組の同性カップルが,同性間の法律婚の不備という問題点を問うため,同性同士の婚姻届不受理が憲法13条1項,同14条,同24条1項に反することを理由とする損害賠償請求という形で, 国に対して訴訟を提起している。

この訴訟は各種報道機関によって大々的に報道されており,同性婚について国民が改めて考える機会を得たことで,今後更に同性婚の法制化を支持する流れが 加速することも考えられる。

このように,現在同性婚の法制化に対しては,世論の後押しがある。

5 当会の取り組み

当会では,2015年より両性の平等委員会の中にLGBT小委員会が発足(2018年19月より委員会化)し,2016年5月25日には「男女平等及び性の多様性の尊重を実現する宣言」を出し,その中で「LGBTは性の多様性の一部であって,『人権』の問題であり,人権擁護を使命とする弁護士・弁護士会が率先して取り組むべき問題である。」と宣言したうえ,その宣言に基づき,2017年3月22日に「男女共同参画基本計画」において,LGBTの現状と 課題を分析し,具体的施策を行っていくことを決議したものである。

そして,当会はその基本計画も踏まえ,同小委員会が中心となり,当事者団体の集まりであるアライアンス会議への出席,九州レインボープライドへの毎年の出展などを行っており,2017年9月14日には,支援策の一つとしてLGBT無料電話相談を開始した。

その後,当会は,2018年4月,パートナーシップ宣誓制度の開始を始めとして性的少数者の支援策を進めている福岡市と「性的マイノリティに関する支援事業に関する協定」を結び,前述LGBT無料電話法律相談を福岡市との共同事業とし,2018年の九州レインボープライドへの共同出展なども行ってきて おり,今後も福岡市と提携しての当事者支援を行っていく予定である。

当会は,2016年の宣言を踏まえ,各自治体や関係団体と連携しながら,性自認・性的指向にかかわらず,そしてマイノリティ・マジョリティの区別を超えて,誰もが自分らしく生きられる社会の実現を目指した活動を継続していく所存 である。

6 結論

戸籍上の性別が異なる者の間で認められている婚姻が,同性カップルの間で認められていないことは,憲法13条及び憲法24条1項から導かれる自己決定権の一つである「婚姻の自由」の侵害に該当する上,性的指向ないし性自認に基づく不合理な差別として憲法14条に抵触する。

したがって,同性者間においても,戸籍上の性別が異なる者と同様の平等な婚 姻制度を早急に整備する必要がある。

またそれは,現実に様々な困難に直面している同性カップルの権利保護のため にも不可欠なことである。

よって当会は,上記のとおり決議する。

以 上

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2019年3月12日

改めて少年法適用対象年齢引下げに反対する会長声明

声明

1 はじめに

現在,法制審議会少年法・刑事法(少年年齢・犯罪者処遇関係)部会においては,少年法の適用対象年齢を18歳未満とすることの是非等についての議論がなされており,第14回まで進んでいる。

この会議における議論には様々な問題があるが,当会は,特に下記の理由により,改めて少年法の適用対象年齢の引き下げに断固として反対する。

2 少年法適用対象年齢引き下げ論の理由

上記法制審議会の会議においては,少年法の適用対象年齢を18歳未満に引き下げるべき理由として,下記の3点が指摘されている。

① 選挙権年齢や民法上の成人年齢が18歳となることから,少年法の適用対象年齢も18歳未満に統一することが国民にわかりやすいこと

② 民法上の成人に対して,国家が後見的に介入し少年法上の保護処分の対象とするのは過剰な介入であること

③ 年齢を引き下げたとしても,少年法の対象から外れる18歳・19歳の者が起訴猶予となった場合には,家庭裁判所に送致して少年法と同様の処分を実施するという「若年者に対する新たな処分」で対応すれば問題ないこと

しかしながら,上記の理由は,いずれも少年法の適用対象年齢を引き下げる理由にはなりえない。

3 少年法適用対象年齢引き下げに断固として反対する理由

(1) 現行少年法制度が有効に機能していること

現行少年法は,成長途中の未熟な少年に対して教育によって非行からの立ち直りを目指す健全育成を法の目的・理念として掲げている。非行のある少年に対して,刑罰を科すのではなく,少年の資質や家庭環境に対する家庭裁判所調査官の調査や少年鑑別所での心身鑑別を通じて少年の問題点を明らかにし,個別の少年の抱える問題点に対応するための保護処分によって立ち直りを図っている。

このような趣旨に基づく現行少年法は有効に機能しており,少年の検挙人員は,2003年(平成15年)以降,絶対数だけでなく,人口比でも減少を続けている。

したがって,現状,18歳・19歳の少年をあえて現行少年法の適用対象から外す必要性は全くない。

(2) 民法上の成人年齢と少年法の適用対象年齢を一致させる必要はないこと

法律の適用対象年齢は,個別の法律の趣旨ごとに決められるべきである。実際,飲酒・喫煙・公営競技(ギャンブル)等については,健康被害の防止や青少年保護の観点から適用対象年齢が定められており,民法上の成人年齢の変更に合わせることなく,20歳が維持されている。少年法についても,上記の健全育成の理念によって適用対象年齢が定められているのであるから,選挙権年齢や民法上の成人年齢と一致させなければならない理由はない。

(3) 民法上の成人に対して少年法を適用することに問題はないこと

民法は,私法上の行為を規律する法律であり,成人が親の監護に服さないことは,私法上の取引を自由に行うことができる点で重要な意味をもつ。これに対し,少年法は,民法と全く異なる健全育成という目的・理念を掲げているのであり,民法上親の監護権に服さなくなることが,少年法の適用対象から外すべきであるという理由にはならない。

(4) 現在検討されている新たな処分は現行少年法制度の代替制度とはなり得ないこと

加えて,法制審議会では,少年法適用対象年齢引下げによって少年法上の処遇が受けられなくなる18歳・19歳の若年者に対しては,代替手段として,起訴猶予となった者を家庭裁判所へ送致し,家庭裁判所調査官の調査や,少年鑑別所での鑑別を経て,保護観察処分等の新たな処分の要否を判断することが検討されている。

しかし,かかる新たな処分は,現行少年法と類似の処分といえども,少年法と同様に健全育成という理念に基づいて,少年の資質面・環境面の問題点を明らかにするものではない。すなわち,新たな処分を前提とする調査や鑑別は,上記のように重くとも保護観察処分にとどまる事案に対する調査・鑑別に過ぎないのであるから,現行少年法の健全育成理念に基づく調査・鑑別のように実効性のあるものになるはずもない。そうすると,犯罪に対する非難と再犯防止のための調査・鑑別に過ぎず,教育として個別の処遇をしている現行少年法制度の代替制度には到底なりえない。

そもそも,若年者に対する新たな処分という現行少年法の代替手段が検討されていることは,民法上の成人となった若年者に対して現行少年法で行われている国家の後見的な教育的処分を実施する必要性を認めているに等しく,少年法の対象年齢を引き下げる必要のないことの表れである。

上述の通り,健全育成理念に基づく現行少年法は有効に機能しており,その理念から離れたいかなる制度も代替制度とはなり得ない。

4 最後に

以上のとおり,少年法適用対象年齢を18歳未満に引き下げる理由は全くない。

当会は,2015年(平成27年)6月25日に少年法適用対象年齢を18歳未満に引き下げることに反対する会長声明を出し,2017年(平成29年)5月24日の定期総会においては,少年法の適用対象年齢引下げに反対する決議をしたが,改めて,少年法適用対象年齢引下げに断固として反対するものである。

以上

2019年(平成31年)3月11日
福岡県弁護士会会長 上田英友

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