福岡県弁護士会 宣言・決議・声明・計画

2022年6月22日

中小企業への支援策の拡充と最低賃金額引上げを求める会長声明

声明

 福岡地方最低賃金審議会は、今後(例年どおりであれば8月頃)、福岡労働局長に対し、2022年度福岡県最低賃金の改正の答申を行う見込みである。昨年度、同審議会は前年度比28円増額の時間額870円とする答申を行い、当該答申どおりの改正が行われた。
 しかし、時給870円は、未だ、年収200万円以下のいわゆるワーキングプアと呼ばれる水準にとどまっており、この水準では、労働者の生活を安定させつつ労働力の質的向上を図ることは実際上困難である。また、原油価格の高騰やロシアのウクライナ侵攻等の影響により、食料品や光熱費など生活関連品の価格が急上昇している。労働者の生活を守り、新型コロナウイルス感染症に向き合いながら経済を活性化させるためにも、最低賃金額を大きく引き上げることが必要である。
 最低賃金額について、フランスでは、2021年1月に10.25ユーロ(約1473円※本日時点の為替レートによる。以下同じ)に引き上げられ、さらに同年10月から10.48ユーロ(約1507円)に引き上げられた。ドイツでは、2021年7月に9.60ユーロ(約1380円)、2022年1月に9.82ユーロ(約1411円)と引き上げられ、同年7月には10.45ユーロ(約1503円)へと引き上げられる。さらに同年10月から12ユーロ(約1725円)に引き上げることについて国会で審議中である。イギリスでは、2021年4月から23歳以上の労働者の最低賃金が8.91ポンド(約1493円)に引き上げられ、さらに2022年4月から9.5ポンド(約1592円)に引き上げられた。韓国では、2021年1月に8720ウォン(約922円)に引き上げられ、2022年1月から9160ウォン(約968円)に引き上げられた。
 このように多くの国で、コロナ禍で経済が停滞する状況下においても最低賃金の大幅引上げが実現しており、我が国においても、コロナ禍であることが、最低賃金の大幅引上げを不可能ならしめるものとはいえない。
 また、最低賃金の地域間格差が依然として大きく、格差が是正していないことは重大な問題である。2021年の最低賃金は、最も高い東京都で時給1041円であるのに対し、最も低い高知県と沖縄県は時給820円(福岡は870円)であり、221円(福岡県とは171円)の開きがある。最低賃金の高低と人口の転入出には強い相関関係があり、最低賃金の低い地方の経済が停滞し、地域間の格差が縮まるどころか、むしろ拡大している。都市部への労働力の集中を緩和し、地方に労働力を確保することは、地域経済の活性化のみならず、都市部での一極集中から来る様々なリスクを分散する上でも極めて有効である。
 地域別最低賃金を決定する際の考慮要素とされる労働者の最低生計費は、研究者らによる最近の調査により、都市部か地方かによって、ほとんど差がないことが明らかとなっている。これは、地方では、都市部に比べて住居費が低廉であるものの、公共交通機関の利用が制限されるため、通勤その他の社会生活を営むために自動車の保有を余儀なくされることが背景にある。そもそも、最低賃金は、「健康で文化的な最低限度の生活」を営むために必要な最低生計費を下回ることは許されない。労働者の最低生計費に地域間格差がほとんど存在しない以上、最低賃金の地域間格差を維持することは適切ではなく、地方の最低賃金を都市部の水準まで引き上げることが求められる。
 最低賃金の大幅な引上げの実現のためには、十分な中小企業への支援が必要である。現在、国は「業務改善助成金」制度により、影響を受ける中小企業に対する支援を実施しており、従前、その利用件数は低調であったが、令和3年度中央最低賃金審議会の「業務改善助成金について、特例的な要件緩和・拡充を早急に行うことを政府に対し強く要望する」との答申を受け、2021年8月以降、その利用要件の緩和や支援対象の拡充が行われた。政府が、答申に応じ、業務改善助成金の拡充等を行ったことは高く評価すべきであるが、今後も、最低賃金を引き上げても円滑に企業運営を行えるよう、中小企業へのさらなる支援策を講じることが求められる。この点、昨年度の福岡地方最低賃金審議会の答申においても、国及び地方自治体所管の各種支援策の拡充・強化、特に「コロナ禍において直接間接を問わず影響を受けている中小・小規模事業者に対しては、特例措置として賃金引上げ幅に見合った新たな直接的給付金等支援策の創設を早急に検討すること」を求める極めて適切な付帯決議がなされており、国はこの付帯決議の趣旨を尊重し、早急な対応を行う必要がある。最低賃金の引上げには地域経済を活性化させる効果もある。当会は、引き続き国に対し中小企業への充分な支援策を求めるとともに、労働者の健康で文化的な生活を確保し、地域経済の健全な発展を促すため、福岡地方最低賃金審議会が、本年度、最低賃金の大幅な引上げを答申すべきことを求めるものである。


2022年(令和4年)6月22日
福岡県弁護士会       
会 長  野 田 部 哲 也

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2022年6月 1日

特定商取引に関する法律等の書面の電子化に関する主務省令において適正な措置を講じることを求める意見書

意見

第1 意見の趣旨
 特定商取引に関する法律(以下「特定商取引法」という。)及び特定商品等の預託等取引契約に関する法律(以下「預託法」という。)の書面交付義務の電子化に係る政省令を定めるに当たっては、不意打ち的な勧誘や利益誘引型の勧誘等により消費者被害が多発している現状を踏まえ、電子化によって消費者保護機能が低下することがないように、下記の内容の措置を講じるべきである。

1 消費者からの承諾の取得について
⑴ 事業者に対して、消費者から契約書面等の交付義務を電子化することの承諾を得るのに先立って、次の事項についての説明義務を課すこと
① 消費者は原則として書面の交付を受けることができること
② 書面交付に代えて提供される電子データ(書面に記載すべき事項を電磁的に記録したもの)には、契約内容やクーリング・オフ制度などの重要な内容が記録されていること
③ 電子データを受領した旨の消費者から事業者への確認メールの送信日(または事業者が消費者の受領を確認した日)がクーリング・オフの起算日となること
⑵ 事業者に対して、同じく消費者から承諾を得るのに先だって、次の事項についての確認義務を課すこと
① 消費者が自身のスマートフォン・パソコン等の電子機器を操作して、電子メールの受信、送信、電子メールの添付ファイルの閲覧及び同添付ファイルの電子データの保存ができること
② 消費者が自身のスマートフォン・パソコン等の電子機器を操作して、事業者のWebサイトにアクセスしてID・パスワードによりログインし、同サイトの電子データを閲覧し保存できること
⑶ 事業者が消費者の承諾を取得する方法について、次の点を定めること
① 訪問販売、電話勧誘販売及び訪問購入、連鎖販売取引、業務提供誘引販売取引及び預託等取引、特定継続的役務提供のうち後記②の類型を除く契約類型においては、必要事項を記載した承諾書面への消費者の署名及び承諾書面の控えを消費者へ交付すること
 ここにいう必要事項の記載は、対象契約を特定する事項(契約申込日・商品名・代金額・事業者名)、提供する電子データが契約書面に代わる重要なものであること、電子データを受領した旨の消費者から事業者への確認メールの送信日(または事業者が消費者の受領を確認した日)がクーリング・オフの起算日であることを記載すること
② 特定継続的役務提供のうち、オンラインで契約を締結し、オンラインで役務提供を行う類型(オンライン完結型取引)については、電子メールによって承諾を得ることも許容されるが、その承諾は、事業者が①の承諾書面の記載事項と同様の記載をした電子メールを消費者に送信し、消費者がその内容を確認した旨の電子メールを事業者に返信するという方法によること
⑷ 事業者が消費者の承諾を取得するに際しては、次の行為を禁止すること
① 電子データの提供の意義・効果等についての虚偽・誇大な説明及び表示
② 困惑させる行為による承諾の要請
③ 書面交付に比して対価その他の取引条件で有利に扱う告知
④ 書面交付に比して契約締結手続が迅速化する旨の告知
⑤ 家族その他の第三者への同時提供を希望しないようにする高齢者への働き掛け
⑸ 事業者に対し、高齢者である消費者の承諾を得る際には、家族その他の第三者への電子データの同時提供を希望するかどうかの意思確認を義務付けること
⑹ 消費者の真意に基づく承諾を得たことの立証責任は事業者が負うこと及び事業者が上記⑴から⑸の義務または禁止のいずれかに違反した場合には書面交付義務を履行したものとは認められず、クーリング・オフの起算日が到来しないことを明記すること
2 事業者が契約条項を電子データで消費者に提供する方法等について
⑴ 電子データの提供方法を以下のものとすること
① 電子メールにPDFファイルを添付する場合には、事業者が契約条項全体の一覧性を確保し改ざん防止措置を講じたPDFファイル形式の電子データを添付した電子メールを消費者に送信し、閲覧及び保存を促し、消費者が電子メールを受信して添付ファイルを閲覧し、かつ保存した上で、その旨の確認メールを事業者に返信するものとすること
② 事業者のWebサイトの電子データにアクセスさせる場合には、事業者がWebサイトに契約条項全体の一覧性を確保し改ざん防止措置を講じたPDFファイル形式の電子データを掲載し、アクセスのためのURLを電子メールで消費者に通知し、閲覧及び保存を促すとともに、消費者がこれを閲覧しかつ保存した上で、その旨の確認メールを事業者に返信するものとすること
⑵ 電子メール本文において以下の内容を告知すること
  事業者は、電子データまたはURLを送信する電子メール本文に、①契約を特定する事項(契約申込日・商品名・代金額・事業者名)、②添付した電子データが契約書面に代わる重要なものであること、③電子データを受領した旨の消費者から事業者への確認メールの送信日(又は事業者が消費者の受領を確認した日)がクーリング・オフの起算日であることを明記すること
⑶ 電子データの提供とクーリング・オフの起算日を以下のとおりとすること
① 事業者が電子データを提供した場合のクーリング・オフの起算日は、事業者の送信した電子メールが消費者のメールサーバに到達した日ではなく、消費者が受信した電子メールに添付された電子データを閲覧・保存した上で、事業者に対し確認メールを返信した日とすること
② 事業者がWebサイト上で電子データを提供した場合のクーリング・オフの起算日は、消費者が電子データを閲覧・保存した上でその旨の確認メールを事業者に送信した日とすること
③ 仮に政省令によって起算日自体について上記①、②のように規定することができない場合は、消費者が電子データを閲覧・保存したことを事業者において確認する手順を加え、事業者がその手順を履行しないときは、電子データの到達日をもってクーリング・オフの起算日であることを主張できないものとすること
⑷ 高齢者の家族等への提供方法を以下のとおりとすること
  事業者は、高齢者である消費者が電子化を承諾するに際し、家族その他の第三者への電子データの提供を希望することを表明した場合には、当該家族等に対しても同時に電子データを提供するものとすること
⑸ 概要書面を電子データによって提供する場合の契約概要の説明について以下のとおりとすること
  事業者は、概要書面の交付に代えて電子データを提供する場合、消費者が当該電子データを閲覧している状態であることを確認の上、契約の概要を説明するものとすること
⑹ 契約書面等を電子データによって提供した場合の再提供義務について以下のとおりとすること
 事業者に対し、契約書面等の交付に代えて電子データを提供した場合、消費者が電子データの再提供を請求したときは再提供する義務を課すこと
⑺ 契約条項の保存措置義務について以下のとおりとすること
  書面交付義務の電子化を実施する事業者に対し、契約締結時の契約内容の電子データについて、改ざんが生じないよう対策を講じて保存する措置をとる義務を課すこと

第2 意見の理由
1 はじめに
⑴ 2021年(令和3年)6月16日に公布された「消費者被害の防止及びその回復の促進を図るための特定商取引に関する法律等の一部を改正する法律」(以下「本改正法」という。)においては、特定商取引法及び預託法が規定する販売業者等の契約書面等交付義務(以下「書面交付義務」という。)について、消費者の承諾を得ることを要件に、契約書面等を電子化することと、電磁的方法によって提供することを可能としており、この「電磁的方法による提供」の具体的規律については主務省令に委任している。
  これを受けて消費者庁は、「特定商取引法等の契約書面等の電子化に関する検討会」(以下「本検討会」という。)を設け、上記の消費者の承諾の取り方や、電磁的方法による提供のあり方等についての検討を継続している。
  しかし、そもそも、消費者側においては、訪問販売等において契約書面等をあえて電子化する必要性は乏しく、デジタル社会の進展とともに消費者と事業者の間の情報の質及び量並びに交渉力の格差は縮まるどころかむしろ拡大していることに鑑みれば、契約内容の確認および把握という点で、事業者から交付される契約書面等は依然として極めて重要な意義を有している。そのため、本改正法については、消費者保護の観点から、日本弁護士連合会、全国各地の弁護士会及び消費者団体が反対意見と懸念を表明している。当会も、同年3月24日、「特定商取引に関する法律等の書面の電子化に反対する意見書」を公表した。
  加えて、同年6月4日、参議院地域創生及び消費者問題に関する特別委員会は、本改正法の附帯決議として「書面交付の電子化に関する消費者の承諾の要件を政省令等により定めるに当たっては、消費者が承諾の意義・効果を理解した上で真意に基づく明示的な意思表明を行う場合に限定されることを確保するため、事業者が消費者から承諾を取る際に、電磁的方法で提供されるものが契約内容を記した重要なものであることや契約書面等を受け取った時点がクーリング・オフの起算点となることを書面等により明示的に示すなど、書面交付義務が持つ消費者保護機能が確保されるよう慎重な要件設定を行うこと。また、高齢者などが事業者に言われるままに本意でない承諾をしてしまうことがないよう、家族や第三者の関与なども検討すること」を要請している(以下「参議院附帯決議」という。)。
⑵ そもそも、特定商取引法等が必ずしも処分証書ではない文書について事業者に対して書面交付義務とクーリング・オフ制度を定めた趣旨は、不意打ち的な勧誘、利益誘導型の勧誘によって冷静に考えれば締結しなかった契約を締結させられてしまったような場合や、契約内容が複雑・不明瞭で、その契約を締結した場合にどのような法律関係が形成されるのかが客観的に判断しづらい契約内容となっていることから生じるトラブルから、消費者を保護することにある。
  例えば、①訪問販売、電話勧誘販売や訪問購入であれば、勧誘の不意打ち性、攻撃性という問題性を、②連鎖販売、業務提供誘引販売取引や預託取引であれば、複雑・不明瞭な契約内容を充分に理解しないまま多額の利益等に幻惑されて契約してしまうという問題性を、③特定継続的役務提供であれば、役務の内容、質、効果の客観的判断が困難なまま長期的な契約を締結せざるを得ないという問題性をそれぞれ内在している。それゆえ、消費者を不当な契約から解放するためにクーリング・オフ制度が設けられ、その前提として、消費者に契約内容やクーリング・オフ制度を正確に把握させるために、事業者に対して書面交付義務が設けられている。
  消費者トラブルは、消費者が一度決済をしてしまえば、法的救済を行うことが極めて困難になるという性質が特に強く表れる類型の紛争である。そのため、早期に、簡易な方法で契約関係から離脱する手段(クーリング・オフ制度)を講じておくことは、市民の権利を保障し、安心して経済活動に関わることを促すことに繋がる重要な施策である。今回の、事業者に対して電磁的方法による書面交付義務の履行を認めるという法改正は、電磁的機器を利用しなければその内容を把握できない電磁的方法を認めるという意味で、極めて大きな消費者保護制度の変更を認めるというものである。従ってクーリング・オフ制度の前提をなす重要かつ不可欠な規律として電磁的方法による書面交付義務を定めるものである以上、極めて厳格な制度設計が求められる。
2 消費者の真意に基づく明示的な承諾確保の必要性(意見の趣旨1項関係)
⑴ 同⑴関係
 書面交付義務の電子化について、消費者の真意に基づく承諾があると言えるためには、同⑴記載の事項について十分に説明し、理解を得ることが不可欠の前提条件である。参議院附帯決議においても、「消費者が承諾の意義・効果を理解した上で真意に基づく明示的な意思表明を行う場合に限定されること」を要請している。
⑵ 同⑵関係
  また、消費者が書面交付義務の電子化について真意に基づく承諾をするためには、単に形式的な説明と承諾があることでは足りず、消費者に電子データの提供に対応できるだけの電子機器の操作能力が必要である。したがって、事業者は、消費者が同⑵記載の操作をすることができることを質問により確認し、電子データの提供手順において検証するという手順を踏むことが求められる。
⑶ 同⑶関係
  特定商取引法等の取引類型は、事業者の主導的な勧誘行為により消費者の冷静な意思形成を歪めやすい特徴があることから、書面交付義務の電子化についても、口頭による説明と承諾のやり取りでは真意に基づく明示的な承諾を確保することはできない。国会質疑においても、政府参考人から、口頭や電話だけでの承諾は認めないことに加えて、オンラインで完結する取引の場合は電子メールで、その他の分野は書面による承諾を得てその控えを消費者に交付する方法とすることが考えられること、ただし、オンライン完結型取引であっても、悪質業者の被害が顕著に見られる分野については書面による承諾とし、被害発生のおそれが低いオンライン取引に限って電子メールによる承諾の取得を認めることも一案として検討したい、とする答弁がある。加えて、消費者自らが承諾書面に署名することによって、電子化の承諾の意義と効果に注意を向け、これを承諾することの意味を自覚する契機ともなる。契約内容とクーリング・オフ制度を告知する機能をより確実に確保する観点から、オンラインによる役務提供の取引等の類型を含めて、書面による承諾と承諾書面の控えの交付を要するものとすべきである。
  上記の趣旨から、承諾書面には、少なくとも、対象契約を特定する事項(契約申込日・商品名・代金額・事業者名)、提供する電子データが契約書面に代わる重要なものであること、電子データを受領した旨の消費者から事業者への確認メールの送信日(または事業者が消費者の受領を確認した日)がクーリング・オフの起算日であることが記載されていなければならない。このような書面へ消費者自らが署名し、その写しが消費者に交付されることを要するものとすべきである。
  オンライン完結型取引についても、消費者の真意による承諾が明確になるよう、消費者自らが事業者のメールに返信することを要するものとすべきである。
⑷ 同⑷関係
  特定商取引法等が規定する取引類型が不当勧誘行為による不本意な契約締結の被害が発生しやすい分野であることを踏まえるならば、書面交付義務の電子化の承諾を取得する場面においても、電子データの提供の意義・効果等について虚偽・誇大な説明や表示をするなどの消費者を誤認させる行為や、消費者を困惑させて承諾を要請する行為は禁止する必要がある。
  また、書面交付を直ちに又は遅滞なく行うことは事業者の義務であるから、電子データの提供を選択する方が対価その他の取引条件で有利に扱われるとか、手続が迅速に進むといった告知は、不当な誘導として許されない。家族その他の第三者への同時提供を希望しないようにする高齢者への働き掛けも許されないものとされるべきである。
⑸ 同⑸関係
  消費者が高齢者である場合、判断能力・拒絶能力の低下や事後的な対処能力の低下により訪問販売等の被害に遭うリスクが増大する。そのため、国や地方公共団体においては、高齢者見守りネットワークを構築して家族その他の第三者による消費者被害の防止・早期発見に結び付ける取組が推進されている。
ところが、書面交付義務が電子化されて、高齢者がスマートフォンなどの電子機器内に契約データを保管していても、家族等がそれを発見して被害救済に結び付けることは極めて困難である(一般的には契約書や請求書といった紙媒体での資料がきっかけとなって被害の発見に繋がることが多いと思われる。)。
  そこで、事業者が一定年齢以上の高齢者である消費者に対して書面の電子化の承諾を求める場合は、家族その他の第三者に電子データの同時提供を希望することができる旨を当該消費者に説明した上で、これを希望するか否かの意思確認をする手順とし、これを希望する高齢者については、後述するように承諾に付随する条件に従って家族等への同時提供を実行することが求められるものとすべきである。
この点は、参議院附帯決議においても、「高齢者などが事業者に言われるままに本意でない承諾をしてしまうことがないよう、家族や第三者の関与なども検討すること」とされているところである。なお、このような手順を踏むものとしても、契約の締結自体について第三者の関与・承諾を要件とするものではなく、高齢者が希望する場合に電子データを同時提供するだけであるから、高齢者の自己決定権を制約することにもならない。
⑹ 同⑹関係
  書面交付義務の電子化は、事業者が「申込みをした者の承諾を得て」電子データで提供することができる(特定商取引法4条2項等)という規定である。そのため、申込者の承諾を得たことの立証責任は、条文構造から見ても事業者が負うべきである。そして、その承諾については承諾の意義・効果を理解した上での真意に基づく明示的な承諾の意思表示であることを要するべきであるから、承諾の意思表示の存在の立証責任を事業者が負うことを明記することが求められるとともに、事業者が、上記第1・1⑴から⑸の義務を果たさず、あるいは禁止行為に違反するときは、承諾に基づく電子データの提供には該当せず、書面交付義務が履行されていないこととなり、クーリング・オフの起算日が到来しないこととすべきである。
3 事業者が契約条項を電子データで消費者提供する方法等について(意見の趣旨2項関係)
⑴ 同⑴関係
① 書面に代えて電子データの提供を行う場合には、事業者が契約条項全体の一覧性を確保し改ざん防止措置を講じたPDFファイル形式の電子データを添付した電子メールを消費者に送信して、閲覧及び保存を促し、消費者が電子メールを受信して添付ファイルを閲覧し、かつ保存した上で、その旨の確認メールを事業者に返信することとすべきである。
② 事業者のWebサイト上で電子データの提供を行う場合は、事業者がアクセス用URLを電子メールで提供するだけでなく、消費者に速やかに電子データを閲覧・保存するよう促し、消費者がアクセスして契約条項の電子データを閲覧・保存した上で、その旨の確認メールを事業者に送信する(または閲覧・保存したことを事業者が確認する。)という手順にすべきである。
⑵ 同⑵関係
 前記いずれかの方法で契約条項の電子データを提供した場合、書面で提供される場合と比べて、消費者には添付ファイルを開いて確認するという作為が必要になるため、その行動がとられないリスクがある。そのうえ、添付ファイルを開いて閲覧したとしても、手のひらサイズの小さなスマートフォンの画面に詳細な契約条項が表示されることとなると、主な契約内容やクーリング・オフ制度に関する記載が看過されてしまう危険性がある(書面の場合にはフォント数に関する規制が存在するが、端末で見る場合には現実の文字サイズはその端末のサイズに依存することになる。)。
そこで、送信する電子メール本文に同⑵記載の内容を明確に表示すべきことを政省令に明記すべきである。なお、消費者がクーリング・オフの通知を電磁的記録により行う場合の送信先電子メールアドレスは、添付ファイルの電子データ内だけでなく、電子メール本文にも表示すべきである。これらの措置は、書面交付義務をデジタル化することによる事業者の利便性だけでなく、デジタル化に伴う消費者の利便性も確保するものであり、本改正法の趣旨に合致するものだと言える。
⑶ 同⑶関係
① 事業者が電子メールに契約条項の電子データを添付して送信した場合、その電子メールは消費者が契約しているプロバイダのメールサーバにまず記録され、消費者が自己の電子機器のメールソフトを操作して電子メールを電子機器上で受信し、添付ファイルを開くことで現実に電子データを閲覧できる状態となる。この点、特定商取引法等の書面交付に代わる電子データの到達時期は、消費者保護のためのクーリング・オフ制度を消費者に告知し、クーリング・オフ行使の起算日を画する基準として考えられるべきものであるから、契約成立時期の判断基準と一致させる必要はなく、消費者が契約条項及びクーリング・オフの存在を現実的に確認できたと評価できる時点であって、かつ事業者にとっても共通の明確な時点を基準とする必要がある。
 こうした観点から見ると、事業者の送信した電子データが消費者のメールサーバに到達した日ではなく、消費者が、受信した電子データを閲覧・保存した上で、事業者に対する確認メールを返信した日をもって、クーリング・オフの起算日と扱うべきである。
② また、事業者のWebサイトに消費者がアクセスして電子データを取得する場合も、消費者が電子データをダウンロードし閲覧・保存した旨の確認メールを事業者に送信した日、または消費者がダウンロードし閲覧・保存したことを事業者が確認した日をもって起算日とすべきである。
③ なお、本改正法に消費者の「電子計算機に備えられたファイルへの記録がされた時」に消費者に到達したものとみなす旨が規定されたことから(4条3項等)、政省令によって到達日自体を変更することができないとすれば、電子データの具体的な提供方法が政省令に委任されていることを踏まえて、消費者が電子データを閲覧・保存したことを事業者において確認することを手順として定め、その手順を怠ったときは、事業者は電子データの到達日をもってクーリング・オフの起算日として主張できない旨を規定すべきである。そして、消費者が一定期間内(例えば1営業日以内)に電子データを閲覧・保存した旨の確認メールを送信しない場合は、事業者は遅滞なく書面の交付を行うべきである。
⑷ 同⑷関係
  消費者が高齢者である場合、書面交付義務の電子化による見守り機能喪失の不利益を防止するため、前述したとおり当該高齢者が承諾に付随する条件として家族その他の第三者への電子データの同時提供を希望した場合には、事業者は、当該家族等に対し電子データを同時提供する手順を踏むものとすべきである(なお、家族その他の第三者のメールアドレスを事前の同意なく事業者に提供することが当該家族等の個人情報の第三者提供の問題となり得るが、高齢者本人は個人情報保護法上の事業者に当たらないうえ、契約条項の電子データの同時提供が希望される家族等は高齢者との間に信頼関係が存在すると考えられることから、高齢者の被害防止の趣旨が優先されるものと考えられる。)。
  このことは、高齢者である消費者に対し、書面交付義務の電子化について家族等への同時提供という条件付きの承諾の機会を与え、その条件付き承諾に従って提供するものと捉えることが適切である。
  家族等への電子データの提供方法は、高齢者に対する提供方法と同じ方法で同時に提供するものとすべきである。高齢者である消費者が家族その他の第三者への提供を希望するが、そのメールアドレスを事業者に直ちに提供することができないときは、当該高齢者の希望は、自分だけで書面交付義務の電子化に対処することへの不安に基づくものであると考えられる以上、原則に戻って事業者は書面交付を行うべきである。この点は国会審議においても、「契約の相手方が高齢者の方々の場合には、家族などの契約者以外の第三者にも承諾に関与させる、家族などにもメールを送らせることなどによって安易に承諾を得られないようにすることで消費者被害の発生を抑止できるのではないかと考えております」との政府参考人答弁がなされている。
⑸ 同⑸関係
  連鎖販売取引、業務提供誘引販売取引及び預託等取引は、利益誘引の強調により不利益な契約条件を見落としがちであること、特定継続的役務提供は内容不明確な役務を長期多数回提供する契約内容が分かりにくいことから、契約の勧誘段階で概要書面を交付する義務が定められている(特定商取引法37条1項、42条1項、55条1項、預託法3条1項)。本来は、勧誘場面で概要書面を形式的に交付するだけでなく、交付した概要書面を提示した状態で複雑な契約内容を説明する手順を踏むべきところである。
  そこで、概要書面の交付に代えて電子データにより提供する場合には、事業者は、電子データの提供について所定の手続により消費者の承諾を得て電子データを提供した後、直ちに、消費者が当該電子データを開いて閲覧している状態であることを確認の上、契約の概要を説明する手順に進むものとすることを政省令に明記すべきである。
⑹ 同⑹関係
  書面交付義務の電子化により、事業者は契約管理の効率化等の点で利便性を得る一方で、消費者には、電子データの文字が小さくて読み取りが困難である、適切に保存できておらず削除されてしまった、必要なときに必要なデータに迅速にアクセスすることが困難である等の不利益を被ることが少なくないと考えられる。
  そこで、事業者に対し、契約書面等の交付に代えて電子データにより提供した場合、消費者から電子データの再提供を請求されたときは、再提供に応じる義務を課すべきである。なお、この点は、契約内容の確認等も目的とするものであるから、電子データの再提供はクーリング・オフ期間とは連動しないものとすべきである。事業者にとっては、書面の再交付に比べ費用面でも手続面でもそれほどの負担とはならないと考えられる。
⑺ 同⑺関係
  事業者が書面交付義務の電子化を実施する場合、契約締結時の契約条項の電子データと、後日事業者が契約条件を変更した場合の契約内容との対応関係が不明確になるおそれがある。
  そこで、書面交付義務の電子化を実施する事業者に対し、契約者ごとに契約締結時の電子データについて、改ざんが生じないような対策を講じて保存する措置をとる義務を課すべきである。
4 小括
 前述のとおり、契約書面等は、クーリング・オフ制度の不可欠な前提をなす重要な書類である。
  しかし、契約書面等が書面で交付されている現在においてさえ、契約書面等がそのように重要な書類であることは必ずしも深く認識されていない。消費生活相談や法律相談の現場において、契約書面等に、消費者の重要な権利を制限する条項が記載されているにもかかわらず、そのことが事業者から説明されておらず、消費者がその条項の存在を認識していないということが判明するケースは枚挙に暇がない。中には、そのような状況が悪質事業者によって悪用されていると思しき事態もしばしば見受けられてきた。
  このような状況下で、契約書面等が電子化された場合には、より一層、その傾向が強まるおそれがある。近時の例としても、詐欺的な定期購入商法においては、消費者が最初に閲覧するウェブサイト上で「初回無料」や「お試し」、「いつでも解約可能」といった表示が強調されていることで、契約条項内に記載されている定期購入である旨や解約に関して子細な条件がある旨の記載が認識されておらず、解約を巡ってトラブルになる例が多数確認されている。デジタル社会が形成されていくとしても、消費者が安全で安心して暮らせる社会の実現に寄与するものでなければならないのであって、消費者保護機能を否定するものであってはならない。
  そこで、電子化の承諾の場面においても、契約書面等の重要性が看過され、消費者の真意に基づかない電子化への承諾がされないよう、消費者の権利を保障する施策が講じられることが不可欠である。
第3 結語
 以上のとおり、消費者保護、ひいては市民の経済活動の安心を担保する観点から、特定商取引法等の書面の電子化に関する主務省令において適正な措置を講じることを求める。


2022年(令和4年)6月1日
                       福岡県弁護士会
                          会長 野田部 哲也

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2022年5月30日

自殺予防・自死問題対策のための取組及び連携を一層強化する宣言

宣言

 わが国の年間自殺者数は、1998年(平成10年)に急増し、同年から2011年(平成23年)まで14年連続して3万人を超える状態が続いた。当会は、2012年(平成24年)に自死問題対策委員会を発足し、また、同年5月23日には「『自死』をなくすための行動宣言~自死を防ぐための『気づき』『つなぎ』『見守り』とは何かを考える~」を採択した。この宣言で当会は、①会員を対象とする自殺対策に関する研修を充実させること、②医療福祉専門職(医師・臨床心理士・精神保健福祉士等)の協力を得て法律相談を行う体制をつくり、アウトリーチ(訪問支援)としての法律相談を実施すること、③弁護士会と各専門機関とのネットワークを構築し連携を強化すること、④基本的人権の擁護を使命とする弁護士会としての立場から政策提案及び立法提言を行うこと掲げ、今日まで、追い込まれた末の死として自殺で亡くなることを防ぐための活動に取り組んできた。
 全国でも、国をはじめとする関係者の様々な取り組みが進められた結果、年間自殺者数は3万人台から2万人台に減少し、2019年(令和元年)には2万人を下回った。ところが、新型コロナウイルス感染症流行下において、2020年(令和2年)の年間自殺者数は2万1081人となり、11年ぶりに前年を上回る人数となった。これを具体的にみると、男性の自殺者数は11年連続で減少しているのに対し、女性の自殺者数が増加し、女性の自殺者数増加が2020年(令和2年)の自殺者総数の増加に直結していることが分かっている(厚生労働省「令和3年度版自殺対策白書」)。さらに、2016年(平成28年)以降増加傾向にある学生・生徒の自殺者数も、2020年(令和2年)は前年に比して著しく増加した。2021年(令和3年)の自殺者総数は、警察庁の自殺統計(速報値)によると2万0984人であり、前年からわずかに減少したものの、前年に引き続いて子ども・若者及び女性の自殺が目立つ状況にある。
 このように、わが国の自殺・自死の問題は、未だ深刻な状況にある。また、新型コロナウイルス感染症が自殺の要因となる様々な問題を悪化させている可能性がある。
令和3年度版自殺対策白書において、2020年(令和2年)の「女性の自殺の増加」を職業別に見ると、「被雇用者・勤め人」で増加し、原因・動機別では、「勤務問題」,その中でも「職場環境の変化」が過去5年平均と比して98.3%の増加となっており,新型コロナウイルスの感染拡大により労働環境が変化したこととの関連が示唆されている。また、2020年(令和2年)における児童生徒の自殺者数は499人で,前年の399人から大きく増加した。新型コロナウイルス感染症に伴う長期にわたる休校は,通常の長期休業と異なり,教育活動再開の時期が不確定であることなどから児童生徒の心が不安定になるおそれが指摘されている(文部科学省の「コロナ禍における児童生徒の自殺等に関する現状について」)。
このように、新型コロナウイルス感染症の拡大は、子ども・若者及び女性の自殺の深刻化に影響があると考えられる。私たちは、新型コロナウイルス感染症という新たな問題が自殺・自死問題に与えている影響を分析し、新たな課題に対応していく必要がある。
 そこで、当会は、これまでの自殺・自死問題に対する取組みを踏まえて、さらなる活動の拡充を目指し、次のとおり宣言する。 
1  2012年(平成24年)の宣言で述べた取組みを継続することはもとより、自殺の危険因子となりうる法的問題に関わる当会の各委員会において、それぞれの課題解決への取組に一層の力を注ぎ、それによって自殺危険因子を除去・減少させるよう努め、弁護士会として自殺予防に寄与していく。
2  弁護士が自殺の危険性が高い人の支援を行う際にも、多角的視点から同人のニーズを検討し、対応が必要と判断した際には、弁護士会内での他の専門窓口や、他の専門機関につないで各種施策との連携を図るようにするとともに、自殺予防に取り組む他の専門機関から法的支援の要請を受けた場合には適切に対応する。このようにして、自殺予防のためのネットワーク作りをさらに強めていく。


2022年(令和4年)5月27日
福岡県弁護士会

宣言の理由


1  福岡県弁護士会の自殺・自死問題へのこれまでの取り組み
 自殺は、追い込まれた末の死といえる。そして、自殺が発生する背景には複数の要因が連鎖して存在していることが多い。
われわれ弁護士は、日常の業務の中で、自殺の要因(経済問題、家庭問題、労働問題、男女問題、学校問題等)となりうる法的問題に携わることが多い。
弁護士が、法的問題を通じて、相談者又は依頼者等と関わる中で、自殺の危険性があると感じた場合は、単に法的問題を解決するだけではなく、必要に応じて、適切な他の専門職につなぐ必要性が高いといえる。
 弁護士が、このような自殺予防の「ゲートキーパー」としての役割を果たしていくことを目指して、当会は2012年(平成24年)の宣言にもとづき以下の活動を行ってきた。
(1) 研修の充実
 弁護士が自殺予防の「ゲートキーパー」としての役割を果たしうるためには、弁護士が、自殺・自死問題に対する理解を深める必要がある。
そこで当会は、会員を対象に、自殺対策に関する知識及び自殺企図者の法律相談技術の向上を図る研修を毎年行ってきた。
 最近5年間のものとしては、2021年(令和3年)9月実施の「弁護士・事務職員のメンタルヘルス」、2020年(令和2年)9月実施の「ケーススタディで学ぶ、希死念慮者や自死遺族にまつわる各種事件への対応」、2019年(令和元年)5月実施の「こころの問題を抱えた方からの法律相談のスキル(ロールプレイ実践)」、2018年(平成30年)7月実施の「こころの問題を抱えた当事者への弁護士の対応の留意点」、2017年(平成29年)9月実施の「被災者の法律相談における精神医療の観点からの留意点」が挙げられる。
(2) 法律相談による支援
ア 自殺・自死問題に対応する相談
 当会は、自殺・自死問題に対応する相談窓口として、①自死遺族法律相談及び②自死問題支援者法律相談の2つの相談制度を設けている。
①自死遺族法律相談は、2012年10月に開始した制度で、現在も福岡県、福岡市、及び北九州市で開催している。福岡市では、市との共催で毎月1回、天神弁護士センターにおいて弁護士1名と心理専門職1名の合計2名による面談相談及び電話相談を実施している。福岡市の相談では2012年の開始以来、電話相談40件(うち10件が継続相談となった)、面談相談110件(うち48件が継続相談となった)の計150件の相談を受けている。北九州市では、北九州市の委託事業として、北九州市精神保健福祉センターにおいて、電話相談及び面談相談を行っている。福岡県では、福岡県精神保健福祉センターにおける法律相談に毎月1回、会員を派遣している。
 ②自死問題支援者法律相談は、2013年12月に開始した制度で、自殺の危険性がある本人ではなく、本人を支援する方々(家族、医療関係者、福祉関係者など)からの相談を受け付けるものである。相談申込みの受付から原則48時間以内に弁護士による電話相談を行い、必要に応じて面談相談も行うもので、支援者と共に本人の法的問題の解決を図ることを目指す制度である。筑後地域では、「かかりつけ医による精神科医紹介制度」とタイアップする形での相談にも応じている。
同相談では、2013年12月の開始以来、合計238件(➀相談者内訳:家族31件、本人78件、支援者129件、②相談結果内訳:電話相談のみ98件、面談相談のみ78件、電話相談及び面談相談57件)の相談を受けている。
イ 個別の自殺要因に対応する相談
 また、個別の自殺要因に対応する様々な相談も実施している。
自殺の要因として多い経済的な問題や、雇用の問題に関する法的支援として、県内17か所の法律相談センターで無料の多重債務相談・無料労働相談を実施している。
生活困窮者への法的支援としては、➀生活保護に関する無料法律相談である生活保護支援システム(いわゆる生活保護版当番弁護士制度)を運営して相談を受けているほか、②日本司法支援センター(法テラス)及び県内の14自治体(試行中のものも含む)と連携し、生活保護利用者・理事津支援事業対象者向けに、各自治体の福祉事務所(保護課)への巡回法律相談であるリーガルエイドプログラム(Legal Aid Program)を実施し、③法テラスと連携しホームレス支援のための法律相談も実施している。
⑶ ネットワークの構築・連携の強化
 当会は、自殺・自死問題に対応するため、国や自治体、医師、社会福祉士、精神保健福祉士、臨床心理士等の専門職団体との協議や連携を行っている。
 上記の自死遺族法律相談や自死支援者法律相談は、精神保健福祉士や臨床心理士等の専門職の同席や協力を得て実施している。また、福岡市主催の自死問題対策の相談会(こころと法律の相談会)に会員を派遣し、精神科医師、臨床心理士、精神保健福祉士、司法書士と一般市民からの相談に対応している。
 また、他の専門職と共同して相談に対応するだけではなく、医師や精神保健福祉士と自殺・自死問題に関する研究会及び交流会を行っている。例えば、福岡大学病院精神科とは、毎年複数回の共同研究会(テーマ研究、ケーススタディ等)を行っており、当会北九州部会の自死問題対策委員会の月例会議には毎回北九州市精神保健福祉センターのスタッフも参加している。筑後部会では、精神保健福祉士会と毎年合同でセミナーを開いている。
 さらに、当会は、毎年、市民向け自殺対策シンポジウムを開催している。シンポジウムでは、自殺対策に関する専門家の講演だけでなく、他の専門職とのパネルディスカッションを行い、意見交換を行っている。 
⑷ 積極的な政策提言及び立法提言
当会には、自殺危険因子に関係する分野を扱う様々な委員会があるが、制度改善によって自殺危険因子をなくしていくべく、それぞれの分野における政策・立法提言を行っている。
 例えば、自殺の大きな要因の1つである貧困問題に関しては、生活保護改正法案の廃案を求める会長声明(2013年(平成25年)11月22日)、ホームレス自立支援特別措置法の期限延長を求める会長声明(2017年(平成29年)3月9日)、生活保護基準の引き下げを行わないように求める会長声明(2018年(平成30年)3月9日)、最低賃金の引上げを求める会長声明(2018年(平成30年)6月8日、2020年(令和2年)7月27日、2021年(令和3年)7月7日)等がある。
 多重債務の問題に関しては、貸金業法や利息制限法の改悪の動きに強く反対する会長声明(2012年(平成24年)7月18日)があり、保証人の自殺に関しては、個人保証の原則禁止など抜本的な法改正を求める決議(2013年(平成25年)5月22日)がある。
 コロナ禍のもとでは、中小企業・小規模事業者の経営を支援することにより、経営者、従業員とその家族の生活、取引先の経営を守る宣言(2021年(令和3年)5月27日)を行っている。


2 さらなる取り組みの必要性
(1) 自殺・自死の問題が未だ深刻な状況にあること
2012(平成24年)の宣言の後の全国の自殺者数の推移は、本宣言の趣旨の中に記載したとおりである。
 福岡県の年間自殺者数の推移も見てみると、1998年(平成10年)から毎年1000人を超える状況であった。2014年(平成26年)には、16年ぶりに年間自殺者数が1000人を下回り、以降、減少傾向が続いていたが、2020年(令和2年)に、年間自殺者数が826人となり、国全体と同様に前年を上回る結果となった。
 このように、全国的にも、福岡県においても、この10年間の様々な自殺予防の取り組みの成果もあって、自殺者数は減少していたにもかかわらず、コロナ禍のもと、再び増加の兆しをみせている。
 コロナ禍により、貧困問題や孤立をはじめとする様々な自殺危険因子が生じたが、その悪影響は、新型コロナウイルス感染が落ち着いたとしても、長期的に残存する可能性がある。
 我々は、自殺・自死の問題が未だ深刻な状況にあることを認識し、当会が行ってきた自殺対策の取り組みをより一層強化する必要がある。また、自殺の危険因子に関わりのある分野を取り扱う各委員会も、危険因子の解消につながるそれぞれの活動を一層充実させる必要がある。 
(2) 各機関との連携による包括的な取組みの必要性
また、追い込まれた末に自殺で亡くなってしまうことを回避するためには、複雑に連鎖している問題を解決する包括的な取組みが重要である。
なぜなら、問題を部分的に解決するだけでは、支援として充分でないことが広く認識されており、調査結果にも裏付けられているといえるからである。
具体的には、NPO法人自殺対策支援センター・ライフリンクが自死遺族に対して行った自殺の実態調査で、自殺者が一人あたり平均して4つの問題(例えば失業→生活苦→多重債務→鬱病等)を抱えていたこと、また、自殺者(相談の有無が明らかな者)のうち約70%が、亡くなる前に専門機関に相談していたことが明らかとなっている。相談時期としては、亡くなる前1か月以内の相談が約60%であり、自殺者は、自殺に至る直前に専門機関に相談をしたにもかかわらず、自殺に至ってしまったという深刻な現実がある。
そのため、自殺を防ぐためには、各専門機関が連携することで、自殺の危険性が高い人が抱えている問題の一部ではなく、全体を解決していく必要がある。
(3) われわれ弁護士に求められている役割
弁護士として自殺の危険性が高い人の支援を行う際にも、同観点から、他に対応が必要な問題はないか検討し、対応が必要と判断した際は、専門機関につなぎ、連携を図りながら支援を行うことが重要である。
 当会は、これまで自殺予防の支援を行う関係機関とのネットワークの構築を行ってきたが、新型コロナウイルス感染症の影響下で自殺の要因となる問題が悪化している中で、このような取組みをさらに強化することが求められている。
 また、社会における自殺予防のためのネットワーク構築としては、いずれかの支援窓口にたどり着けば、各関係機関の連携を活かして他の要因についても必要な支援を受けることができる体制を築くことが必要である。
このようなネットワークを構築することができれば、社会の誰もが、複雑に連鎖する問題に対して包括的な支援を受けることができる可能性が高まり、自殺・自死問題の解決だけではなく、社会の住民の命とくらしの質を守ることにつながるといえる。
われわれ弁護士も、支援につながるための窓口の一つであることを認識し、その役割を果たすことが求められている。私たちの社会は、今、これまで予期していなかった様々な問題に直面しているが、より良い社会を実現するため、法律の専門家として、積極かつ果敢に取り組む所存である。
以上から、当会は、上記のとおり宣言する。


 

以上

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ヘイトスピーチのない社会の実現のために行動する宣言

宣言

1 人種ないし民族的出身などに基づく社会的少数者に対する偏見・憎悪・嫌悪の感情等を主な内容とする差別的言動(いわゆるヘイトスピーチ)は、対象とされた人々の個人の尊厳(憲法第13条)、法の下の平等(憲法第14条)等の基本的人権を著しく侵害するものであるばかりか、これを放置すると攻撃対象とされた人々に対する社会的な差別、偏見、憎悪、暴力等を助長しかねない、絶対に許されないものである。
2 しかし、我が国では、長くヘイトスピーチに対する対応がなされておらず、その対応の不十分さについて、国際的にも批判を受けていたところである。
このような国際的な動向もあって、2016年(平成28年)6月、「本邦外出身者に対する不当な差別的言動の解消に向けた取り組みの推進に関する法律」(いわゆるヘイトスピーチ解消法)が制定された。
3 同法に対しては、その性質や限界などについて種々の批判もあるものの、ともあれ、「本邦外出身者に対する不当な差別的言動」が我が国において許されないものであることを宣言し(前文)、これを解消すべきことが国及び地方公共団体の責務であることを明らかにした点(第1条)では大きな意義のあるものであった。
 しかし、遺憾なことに、同法施行後も我が国ではヘイトスピーチが続いている。間もなく同法が施行後6年となるが、状況は変わっていないばかりか、市中での街宣行動や、インターネット上でのヘイトスピーチが横行している。
4 福岡県内においても、在福岡大韓民国総領事館前、在福岡中華人民共和国総領事館前等、また、天神等の繁華街や駅前等において、ヘイトスピーチにあたりうる表現行為が平然となされ続けている。
また、インターネットの動画サイト上に、前記の街頭におけるヘイトスピーチ等を内容とする投稿が組織的になされている。
福岡県は、歴史的な諸事情やアジア諸国と近接しているという地理的な面から、異なるルーツを持つ市民が多く共生している地域であり、県内における実状に照らしてヘイトスピーチを根絶すべき要請は大きい。
5 それにもかかわらず、当会はこれまでこの問題に正面から取り組んできたとは言えず、このことは大いに反省しなければならない。
また、目を外に転じても、福岡県内には例えばヘイトスピーチに対する実効的な施策としての条例を定めている自治体は未だなく、十分な対策がなされているとは言えない実情にある。
全国的な状況を見れば、表現の自由に配慮しつつ、公の施設を利用してヘイトスピーチがなされる場合における施設利用の規制に関する条例やガイドラインを制定し、第三者機関を置くなどの取り組みを行っている自治体も存在していることを考えれば、福岡県内の自治体の取り組みの遅れは、看過できない。
6 そこで、当会は、上記反省の上に立って、次の通り宣言する。
⑴ 異なるルーツを持つ市民が、共に安心し、平穏なる生活が営めるよう、ヘイトスピーチ問題を対象とする法律相談体制をより充実させる等、ヘイトスピーチによる被害の予防・救済のための法的支援の活動を進めていく。
⑵ 福岡県内におけるヘイトスピーチを根絶するために、いかなる方策によることが実効的であるのかについて、表現の自由に配慮しつつ、具体的検討を進めていく。
⑶ 福岡県及び福岡県内の自治体に対しても、多文化共生の理念を尊重し、ヘイトスピーチを根絶するための実効的な方策をとるよう求め、その実現のために、連携した取り組みを行っていく。


2022年(令和4年)5月27日
福岡県弁護士会

宣言の理由

1 ヘイトスピーチが絶対に許されないものであること
わが国では2009年(平成21年)12月、京都朝鮮第一初級学校に隣接する児童公園を利用して上記学校に対し、「朝鮮学校を日本から叩き出せ」等の怒号をもって誹謗中傷する内容の抗議・街宣をするいわゆる「京都朝鮮第一初級学校事件」が発生した。
また、2010年(平成22年)頃以降、東京都の新大久保や大阪市の鶴橋等で頻繁に反韓デモが実施された。そこでは「韓国人は日本から出ていけ」「ゴキブリ朝鮮人を追い出せ」「韓国人を殺せ」「鶴橋大虐殺を実行しますよ」「実行される前に自国に戻ってください!」等、在日韓国人、在日朝鮮人を誹謗中傷し、嫌悪、排撃することを扇動するが如き表現が用いられた。
このように、人種ないし民族的出身などに基づく社会的少数者に対する偏見・憎悪・嫌悪の感情等を主な内容とする差別的言動(いわゆるヘイトスピーチ)は、攻撃対象とされた人々の個人の尊厳(憲法13条)、法の下の平等(憲法14条)等の基本的人権を著しく侵害するものであり、これが横行するときは攻撃対象者に対する社会的な差別、偏見、憎悪、暴力等を助長するものであり、絶対に許されないものである。
しかし、我が国では、長くヘイトスピーチに対する対応がなされてこなかった。その対応の不十分さについて、2014年(平成26年)7月に国連自由権規約委員会から、同年8月には国連人種差別撤廃委員会から勧告を受けていたところであった。
2 ヘイトスピーチ解消法(2016年)の制定
(1)制定経緯について 
ヘイトスピーチが社会問題化する中で、2013年(平成25年)以降、国会においても度々議論がなされ、法制化の検討がなされていたが、2016年(平成28年)5月24日、「本邦外出身者に対する不当な差別的言動の解消に向けた取組の推進に関する法律」(いわゆる「ヘイトスピーチ解消法」)が成立し、同年6月3日の公布日から施行された。
同法制定の背景としては、①当時、ヘイトスピーチを伴う街頭宣伝活動が各地で公然と行われ、またその様子がインターネットで広められていたこと、②2014年(平成26年)8月に、人種差別撤廃委員会が、日本政府に対し、人種差別的ヘイトスピーチやヘイトクライムから保護する必要のある社会的弱者の権利を擁護する重要性を喚起し、増悪及び人種差別の表明、デモ・集会における人種差別的暴力及び増悪の扇動にしっかりと対処するよう等の勧告を出したこと、③京都朝鮮第一初級学校事件の民事訴訟において、同年12月9日、最高裁判所が被告らの上告を棄却し、名誉毀損と業務妨害を認めて加害者側に損害賠償を命じた判決が確定したこと等があった。
(2)問題点
もっとも、同法については、主に①対象が、「本邦外出身者」への不当な差別的言動に限定されているため、本法内出身者が含まれない点、②対象となる「本邦外出身者」も「適法に居住するもの」に限定されている点に問題があると指摘されている。
さらに、同法はいわゆる理念法であり、具体的な規制や手続について定めているものではないため、十分な対策とは言えないとの批判がなされている。
国際的にも、2018年(平成30年)8月、国連人種差別撤廃委員会は同法の施行を歓迎しつつも、同法の適用範囲が狭く、また、同法施行後も我が国でヘイトスピーチが続いていることを踏まえ、同法の改正等を内容とする勧告を行っている。
このような状況下で、全国でヘイトスピーチは続けられている。
3 福岡県内でのヘイトスピーチ問題の現状
(1)福岡県内の在留外国人数、歴史的・地理的経緯
福岡県は、アジア諸国と近接しているという地理的な面から、大陸からの文化を積極的に受け入れ、中国や朝鮮半島の人々などとの交流によって発展してきたという歴史的な経緯が存在する。
そして、2020年(令和2年)12月末の在留外国人統計によると、福岡県には8万1072人(全国の都道府県で9番目の人数)の在留外国人が暮らしており、異なるルーツを持つ市民が多く共生している。
とりわけ、同統計によると、福岡県内には1万1265人の特別永住者が暮らしており、これは大阪府、東京都、兵庫県、愛知県、京都府、神奈川県に次ぐ全国7番目の人数である。
また、同統計によると、国籍・地域別でも、福岡県内には、韓国・朝鮮の人が1万5862人暮らしており、これは、大阪府、東京都、兵庫県、愛知県、神奈川県、京都府、埼玉県、千葉県に次ぐ全国9番目の人数である。
これには、福岡県には、戦前多くの炭鉱があり、そこでは多数の朝鮮半島出身者が働いていたこと、終戦時、博多港は、在日コリアンが朝鮮半島へ引き揚げる港の一つとなっており、朝鮮半島に近いために多くの在日コリアンが集まったという経緯がある。しかも、戦後の混乱等から朝鮮半島に引き揚げず、そのまま福岡県にとどまった在日コリアンも多数存在していた。
   さらに、福岡県内には、学校法人福岡朝鮮学園が設置・運営する学校として、北九州市八幡西区折尾に九州朝鮮中高級学校、北九州朝鮮初級学校、同八幡付属幼稚園が、同市小倉北区に同初級学校小倉付属幼稚園が、福岡市東区和白に朝鮮初級学校が存在し、広く九州に居住する在日コリアンの子どもに対し民族教育を実施しており、また、福岡市内には広く山口、九州(長崎を除く)、沖縄を管轄区域とする在福岡中華人民共和国総領事館、九州・沖縄を管轄区域とする在福岡大韓民国総領事館が存在している。
(2)ヘイトスピーチに関する実態調査
以上のような状況を踏まえて、2016年(平成28年)3月の平成27年度法務省委託調査研究事業によるヘイトスピーチに関する実態調査報告書を見ると、2012年(平成24年)4月から2015年(平成27年)9月までの間(42か月)に福岡県で行われたヘイトスピーチを伴うデモ・街宣活動は49件にのぼっていた。この件数は、東京都、大阪府、愛知県、北海道に次ぐ、広島県と同数で全国5番目に多い件数であった。
そのため、ヘイトスピーチ解消法の成立以前においても、福岡県議会では2014年(平成26年)12月18日に外国人等への差別助長いわゆるヘイトスピーチに対する取組の充実強化を求める意見書が、福岡市議会では2015年(平成27年)3月16日にヘイトスピーチの根絶のための早急な対策を求める意見書が、北九州市議会では同年3月11日にヘイトスピーチ対策を求める意見書がそれぞれ採択されている。
しかし、福岡県内においてヘイトスピーチに対しカウンター等の抗議活動を行っている団体によると、その後の2015年(平成27年)11月から2021年(令和3年)7月までの間(69か月)に福岡県で行われたヘイトスピーチを伴うデモ・街宣活動は78件(近隣県における件数を加えると91件)発生しており、ヘイトスピーチ解消法の施行後も福岡県内におけるヘイトスピーチが決して解消されていない状況が存在する。
2021年(令和3年)8月26日、福岡法務局は、2019年(平成31年)3月11日の九州朝鮮中高級学校近くで行われた、特定の政党の選挙演説における「おまえらは日本から出て行けと言われて当たり前」、「朝鮮人は危険です」などという発言を「ヘイトスピーチ」と認定している(但し、人権侵犯の有無は不明確とされている)。
(3)総領事館前等での抗議活動
さらに、在福岡大韓民国総領事館前はもとより、福岡市内の在福岡中華人民共和国総領事館前等においても、街宣車での大音量での抗議活動なども行われており、その言動の中にはヘイトスピーチと見られるものが含まれている。
前述のヘイトスピーチに関する実態調査報告書を見ても、2012年(平成24年)に、九州・沖縄地区において「支那人移民を一人残らず日本からただきだせ」というテーマを掲げたデモ・街宣活動が行われたとされているところであって、中国出身者に対するヘイトスピーチも問題となっている。
全国的には、特に2020年(令和2年)、新型コロナウィルス感染症の感染拡大で社会不安が広がる中で、沖縄県では「今入国しているチャイニーズは歩く生物兵器かもしれない」などという街頭宣伝が行われたり、東京都では同年6月にデモ行進内で行われた「新型コロナウィルス、武漢菌をまき散らす支那人、今すぐ出ていけ」などの発言をヘイトスピーチと認定したりしている。
4 地方自治体における取組みの状況
(1)大阪市における取組みの状況
大阪市では、2016年(平成28年)1月18日、「大阪市ヘイトスピーチへの対処に関する条例」が施行された。
同条例は、ヘイトスピーチ解消法に先だって制定された、ヘイトスピーチに関する全国初の条例である。同条例におけるヘイトスピーチ解消法との比較による特徴は、対象が、本邦外出身者に対する言動に限定されないこと、実効性確保の措置として、拡散防止措置、氏名等の公表がなされることがあるということである。
2019年(令和元年)12月27日には、同条例に基づいてヘイトスピーチの実行者2名の氏名が全国で初めて公表された。同条例については、憲法21条1項などへの適合性が争われて住民訴訟が提起されたが、2022年(令和4年)2月15日、最高裁判所第三小法廷において、憲法21条1項に違反しない旨の判断がなされた。
(2)川崎市における取組みの状況
神奈川県川崎市では、2017年(平成29年)11月9日、「本邦外出身者に対する不当な差別的言動の解消に向けた取組の推進に関する法律に基づく『公の施設』利用許可に関するガイドライン」が策定・公表された。
2018年(平成30年)5月30日、公園内行為許可申請に対し「不当な差別的言動から市民の安全と尊厳を守る」という観点から、全国初の不許可処分が行われた。その後、2019年(令和元年)12月16日、「川崎市差別のない人権尊重のまちづくり条例」が施行された。ヘイトスピーチに対する禁止規定を設けるとともに、刑事罰を科しうるとした全国初の条例である。
(3)その他の自治体における取組みの状況
上記のほか、東京都世田谷区(2018年)、東京都(2019年)、大阪府(2019年))東京都国立市(2019年)、神戸市(2020年)、宮崎県木城町(2021年)、愛知県(2022年)においてヘイトスピーチに関する条例が制定されている。なお、香川県観音寺市では、2017年6月29日、観音寺市公園条例の改正によりヘイトスピーチが禁止行為として規定され、違反した場合に5万円以下の過料を科すこととされている。
(4)福岡県内の自治体における取組みの状況
一方、福岡県内では、ヘイトスピーチ解消法施行後、啓発ポスターの作成等の活動のほか、福岡法務局による人権救済活動の一環としてのヘイトスピーチ認定等が行われたことはあるものの、条例制定等を含む実効的取り組みには未だ至っていない。
5 当会におけるヘイトスピーチ問題への取り組み状況
(1)いくつかの取り組み
   翻って当会の活動を顧みると、遺憾ながらヘイトスピーチ問題に正面から取り組んできたとはいえないが、それでも、この問題に関する取り組みを全くしてこなかったというわけではない。人権擁護委員会への人権救済申立事件としてヘイトスピーチに関する問題提起がなされ、個別的に検討を行ったことは幾度かあった。また、2015年(平成27年)には当会の人権擁護委員会委員が多く参加する九州弁護士会連合会人権擁護委員会において、西南学院大学の奈須祐治教授(憲法学)、京都第一初級朝鮮学校襲撃の代理人を務めた具良鈺弁護士(大阪弁護士会)を招き、ヘイトスピーチ問題の学習会を開催したことがあった。2019年度(令和元年度)から福岡県からの委託を受けて実施している人権侵害に関する無料電話法律相談、「ふくおか人権ホットライン」においてヘイトスピーチを含む人権問題全般の相談に対応してきた。日弁連のヘイトスピーチ問題に関する全国会議にも当会からも毎年人権擁護委員会の委員が参加している。
(2)取り組みの不十分さと反省
しかし、これまで当会内にヘイトスピーチ問題の専門的検討を行う組織はなく、会としての声明等の意見を発出したことはなかったし、自治体に実効的なヘイトスピーチ対策を求める前提としての、実効的なヘイトスピーチ解消のための方策の検討もできていない。前記のふくおか人権ホットラインのほかに、ヘイトスピーチ問題に的を絞った法律相談会等を実施したこともなかった。
このように当会のヘイトスピーチ問題に対する取り組みは、基本的人権の擁護と社会正義の実現を使命とする弁護士の団体としては不十分であったと言わざるをえない。
そして、県下において前記のようなヘイトスピーチの横行を招いている現状を前に、私たちはこれまでの自らのヘイトスピーチ問題に対する対応の不十分さを反省し、真摯にその事実と向き合う必要がある。
6 反省の上に立ち、これからとるべき対応
  以上の反省を踏まえ、今後はヘイトスピーチ問題の解消のため、当会は、法律家の団体として、以下述べるような具体的な取り組みを行っていく必要があることを自覚し、本宣言を行うものである。
(1)ヘイトスピーチによる被害の予防・救済のための法的支援の活動
   前記のとおりヘイトスピーチは許されざる人権侵害である。
   当会は、ヘイトスピーチによる被害者を救済するため、単に一般的な人権侵害に対する法律相談体制を整えるというにとどまることなく、ヘイトスピーチ問題に対する法律相談体制を整えていく必要がある。
   また、人権救済申立制度におけるヘイトスピーチ被害の救済にも尽力していく必要がある。
(2)ヘイトスピーチ解消のための実効的方策の具体的検討
   県内の各自治体にヘイトスピーチ解消のための実効的な方策をとるよう呼びかけて連携を図る前提として、まず、私たち自身が、行政による表現活動の過度な規制とならないよう、また、健全な表現活動に対する萎縮効果を生じさせることのないよう表現の自由に十分に配慮した上で、ヘイトスピーチ解消のための実効的方策とはどのようなものであるのかにつき、調査・研究を行い、具体的な検討を行っていく必要がある。
(3)実効的な方策実施に向けた自治体との連携した活動
 そして、ヘイトスピーチ解消のための実効的な方策の具体的検討を行うだけでなく、検討結果を踏まえ、県内の各自治体と連携し、実効的な方策の実現に向けた活動を行っていくことが必要である。
 

以上

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2022年5月 3日

憲法記念日にあたっての会長談話

会長談話

日本国憲法は,本日,施行から75年を迎えました。

今年2月,ロシア連邦がウクライナへの軍事侵攻を開始し,戦争によって,兵士のみならず,子どもたちを含む多くの民間人までもが犠牲になっています。
戦争は最大の人権侵害です。日本も,先の大戦において,多くの日本国民の生命,のみならず多くの世界の人々の生命が奪われるという戦争の惨禍を経験しました。その歴史を痛切に反省し,政府によって二度とこのような過ちが起こされることのないようにとの固い決意のもと,日本国憲法は,基本的人権の尊重,国民主権,恒久平和主義の三原則を基本原理としました。
日本国憲法は,武力行使を禁じ(9条1項),戦力不保持・交戦権否認を定め(同2項),徹底した恒久平和主義をとっています。前文では,「全世界の国民が,ひとしく恐怖と欠乏から免かれ,平和のうちに生存する権利を有すること」を確認しています。そして,戦争の惨禍を繰り返さないために,「平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して,われらの安全と生存を保持」する方策をとることを宣言しています。武力を手段として国際紛争を解決するのではなく,対話と協調を積み重ねる外交努力によって平和を維持していく,これこそが日本国憲法が目指す国際平和のあり方です。
武力により人々の命と暮らしを奪い,肥沃な国土を焦土と化す今回のロシア連邦の軍事侵攻は,絶対に許されないものです。当会は,これに厳しく抗議し,平和の回復に向けた積極的な外交努力を日本政府に求める会長談話を,本年3月2日に発表しました。

日本国内では,2020年から続く新型コロナウイルスの感染拡大により,多くの業種や低所得者層が大きな経済的打撃を受け,貧困や格差が広がっています。多数の非正規労働者を含む解雇や雇い止めによる失業者の増加,母子世帯をはじめとする困窮世帯の生活のいっそうの貧困・困窮化や負債の増大,女性や高齢者,若年者の自死の増加,ドメスティック・バイオレンスや性暴力被害の増加など,多くの課題が浮き彫りになっています。子どもたちの教育への影響も深刻です。感染やワクチン接種に関する偏見や差別の問題も生じています。また,ロシア連邦による戦争は,今後,物価の上昇等によって,生活への打撃を加速する恐れがあります。
人々が安心して暮らせる社会であるために,憲法が保障する基本的人権,とりわけ生存権(25条),勤労の権利(27条),営業の自由(22条),平等権(14条),教育を受ける権利(26条),幸福追求権(13条)などを守るための取り組みが,いっそう重要になっていることを私たちは自覚しなければなりません。

当会は,基本的人権の擁護と社会正義の実現を使命とする弁護士の団体として,憲法の理念をふまえ,平和と人権擁護のために全力をあげて活動してまいります。


2022年(令和4年)5月3日
福岡県弁護士会
会長  野田部 哲也

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