福岡県弁護士会 宣言・決議・声明・計画

2025年5月15日

5高裁での違憲判決を受け、直ちに、すべての人にとって平等な婚姻制度の実現を求める会長声明

声明

1 同性間の婚姻ができない現在の婚姻に関する民法及び戸籍法の諸規定(以下「本件諸規定」という。)の違憲性を問う一連の訴訟において、2025年(令和7年)3月7日に名古屋高等裁判所は、憲法14条1項及び同24条2項に違反する旨の判決(以下「名古屋高裁判決」という。)を言い渡し、同月25日大阪高等裁判所も同様に、憲法14条1項および同24条2項に違反する旨の判決(以下「大阪高裁判決」という。)を言い渡した。
 一連の訴訟は、札幌・東京(一次・二次)・名古屋・大阪・福岡の各地裁の判決が出され、いずれも原告側が控訴していたところ、上記各高裁判決は、2024年(令和6年)3月14日の札幌高裁、同年10月30日の東京高裁、同年12月13日の福岡高裁に続く、高裁における4件目、5件目の判断であり、これで、控訴審が係属していた全ての高裁判決が出されたことになる(東京高裁には二次訴訟が係属中である。)。


2 名古屋高裁判決は、性的指向は自らの意思で選択や変更はできないことを認め、婚姻により両当事者が人的結合関係を形成することは、法律婚制度ができる以前から行われてきた人間の本質的営みであり、個人の人格的存在と結びついた重要な法的利益であると指摘した。そして、人間が社会的存在であり、人格的生存には社会的に承認が不可欠であることからして、そのような人的結合関係を社会的に承認されること自体も個人の人格的存在と結びついた重要な法的利益であるとした。
  それを踏まえ、本件諸規定が、異性間の人的結合関係についてのみ法律婚制度を定め、同性カップルが法律婚制度を利用する規定を全く設けていないことは、少なくとも現時点において、婚姻制度の制定については国会の裁量であることを踏まえても、なお、合理的な根拠を欠く差別的取り扱いであり、立法裁量の範囲を超えているとし、本件諸規定は憲法14条1項及び同24条2項に違反すると判断した。
  また同判決は、パートナーシップ制度等、法律婚制度以外の制度では解消できない様々な不利益があることや、同性婚制度を法制化しても弊害は想定し難いことなどを具体的かつ詳細に判示しており、国会に対し、早急な同性婚制度の法制化を強く促す内容となっている。


3 大阪高裁判決は、婚姻は性愛を基礎とする親族身分的人的結合関係を規定しているところ、異性カップルは婚姻をし、親族的身分関係を形成し、互いに権利と責任を負い、各種の法的効果を享受して安定した共同生活を営むことができる一方、同性カップルはこのような法的利益を享受することができず、このような区別取扱いは合理的根拠に基づくものとはいえず、法の下の平等に反する、として本件諸規定は憲法14条1項に違反すると判断した。
  また、相互に求め合う者同士が自ら選択した配偶者と婚姻関係に入ることができる利益は、 現代社会を生きる上での個人の人格的存在と結び付いた重要な法的利益に当たるものといえ、同性カップルがこれを享受することができないのは、性的指向が同性に向く者の個人の尊厳を著しく損なう不合理なものであるといわざるを得ない、として本件諸規定は憲法24条2項に違反すると判断した。
  なお、同判決は、同性婚の法制化に困惑し心理的抵抗を覚える国民に、冷静かつ寛容な態度を期待することは、かけがえのない個人を尊厳ある主体として重んじることを旨として家族制度を構築することを命ずる憲法24条の理念に沿うものである、同性婚に対する国民感情が一様でないことは、同性婚を法制化しないことの合理的理由にはならない、とも指摘した。前記名古屋高裁判決も同旨の指摘をしている。


4 一連の訴訟では、地裁レベルとしては、大阪地裁を除く4地裁5判決において、本件諸規定を違憲ないし違憲状態とする判断が出ていた。
  そして高裁レベルにおいては、札幌・東京・名古屋・大阪・福岡高裁と、控訴審が係属していた5つの高裁において、違憲判決が言い渡されるに至った。一連の訴訟で唯一、合憲判決であった大阪地裁判決も、大阪高裁判決によって覆された。
  当会は、これまでの会長声明において、本件諸規定を違憲とする判決が相次いでいることから、このような司法判断の流れは確定し、もはや動かしがたい、と指摘したが、今回の高裁判決により、司法判断の流れがさらに明確になったというべきである。  これ以上、法制化を遅らせてよい事情は何一つない。
  しかし、大阪高裁判決を受けて、林芳正官房長官は、「最高裁の判断を注視したい」とコメントしており、政府において、投げかけられている問題を自ら解決しようという姿勢は、残念ながら、全く見受けられない。
  同性婚制度が存在しないことによって、多数の人々が多大な苦難を被り、人権を侵害され続けている。これまでに示された違憲判決を見るとき、この状況を放置し、最高裁の判断が出るまで待つことは、政府や国会の責務の放棄であると言わざるを得ない。直ちに、同性婚制度を実現させなければならない。


5 当会は、2019年(令和元年)5月29日の定期総会において採択した「すべての人にとって平等な婚姻制度の実現を求める決議」において、憲法13条、14条、24条や国際人権自由権規約により、同性カップルには婚姻の自由が保障され、また性的少数者であることを理由に差別されないこととされているのだから、国は公権力やその他の権力から性的少数者が社会的存在として排除を受けるおそれなく、人生において重要な婚姻制度を利用できる社会を作る義務があること、しかし現状は同性間における婚姻は制度として認められておらず、平等原則に抵触する不合理な差別が継続していることを明らかにし、政府及び国会に対し、同性者間の婚姻を認める法制度の整備を求めた。また、前記一連の判決に対しても、それぞれ会長声明を発し、政府・国会に対し、同性間の婚姻制度を早急に整備することを改めて求めてきた。
  当会は、ここに改めて、政府・国会に対し、直ちに、同性間の婚姻制度を整備し、 すべての人にとって平等な婚姻制度の実現を図るように求める。


                     2025年(令和7年)5月14日
                       福岡県弁護士会      
                        会 長   上 田 英 友

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