福岡県弁護士会 宣言・決議・声明・計画

2024年4月10日

札幌高裁・東京地裁(二次)判決を受け、直ちに、すべての人にとって平等な婚姻制度の実現を求める会長声明

声明

1 同性間の婚姻ができない現在の婚姻に関する民法及び戸籍法の諸規定(以下「本件諸規定」という。)の違憲性を問う一連の裁判において、2024年3月14日、札幌高等裁判所及び東京地方裁判所において、判決が出された。
  一連の訴訟は、札幌・東京(一次・二次)・名古屋・大阪・福岡の各地裁で提訴され、東京二次訴訟を除き、地裁レベルの判決が出され、いずれも原告側が控訴していたところ、今回の札幌高裁の判決は、高裁における初の判断である。また東京地裁は、二次訴訟についての判決であり、これをもって全ての地裁の判断が出そろったこととなる。

2 札幌高裁判決は、これまでの一連の判決からさらに踏み込んだ、極めて画期的なものであった。
  札幌高裁判決は、本件諸規定は、憲法24条及び14条1項に違反するとした。
  同判決は、本件諸規定が憲法13条に違反すると認めることはできないとしつつ、性的指向及び同性間の婚姻の自由は、憲法上の権利として保障される人格権の一内容を構成し得る重要な法的利益として、本件諸規定が同性婚を許していないことが憲法24条の定める立法裁量の範囲を超えるものであるか否かの検討にあたって考慮すべきと述べる。
  そして、性的指向及び同性間の婚姻の自由は、個人の尊重及びこれに係る重要な法的利益であるのだから、憲法24条1項は、人と人との間の自由な結びつきとしての婚姻をも定める趣旨を含み、両性つまり異性間の婚姻のみならず、同性間の婚姻についても、異性間の場合と同じ程度に保障しているとした。そして、本件諸規定は、異性間の婚姻のみを定め、同性間の婚姻を許さず、これに代わる措置についても一切規定していないことから、個人の尊厳に立脚し、性的指向と同性間の婚姻の自由を保障するものと解される憲法24条の規定に照らして合理性を欠く制度であり、少なくとも現時点においては、国会の立法裁量の範囲を超える状態に至っていると指摘した。
  憲法14条1項に関しても、国会が立法裁量を有することを考慮するとしても、本件諸規定が、異性愛者に対しては婚姻を定めているにもかかわらず、同性愛者に対して婚姻を許していないことは、現時点においては合理的な根拠を欠くものであって、本件諸規定が定める本件区別取扱いは、差別的取扱いに当たるとして、同項にも違反するとした。
  当会は、後記のとおり、2019年の「すべての人にとって平等な婚姻制度の実現を求める決議」において、憲法13条、14条、24条や国際人権自由権規約により、同性カップルには婚姻の自由が保障されていると論じたが、この判決は、それとほぼ同趣旨と評価でき、全く正当なものである。特に、憲法24条1項が、同性間の婚姻についても異性間の場合と同程度に保障しているとの判断は、一連の訴訟における判決の中でも初めてのものであり、初の高裁判断という点も含め、その意義は極めて重大である。

3 また、東京地裁(二次)判決では、本件諸規定が、同性カップル等の婚姻を認めず、また、法律上、同性カップル等が婚姻による法的利益と同様の法的利益を享受したり、社会的に交渉を受ける利益を享受したりするための制度も何ら設けられていないのは、同性カップル等が、自己の性自認及び性的指向に即した生活を送るという重要な人格的利益を、同性カップル等から剥奪するものにほかならないのであるから、本件諸規定及び、上記のような立法がされていない状況は、個人の尊厳と両性の本質的平等の要請に照らして合理的な理由があるとは認められず、憲法24条2項に違反する状態にある、との憲法判断が示された。
  これは、類似の判断を示した、東京地裁(一次)、名古屋地裁及び福岡地裁の一連の判決の流れを踏襲した判断といえる。

4 前記のとおり、この東京地裁(二次)判決をもって、一連の訴訟の地裁レベルの判決が出そろった。その結論は、違憲2件(札幌地裁・名古屋地裁)、違憲状態3件(東京地裁(一次・二次)・福岡地裁)、合憲1件(大阪地裁)であり、合憲判断である大阪地裁判決でも、将来的に違憲となる可能性を指摘していて、同性カップルについて、異性カップルと同様、婚姻(家族として法的に保護するための制度)が必要であるとの司法判断の流れは確定し、もはや動かしがたい。
  そして、札幌高裁においては、憲法24条1項が、同性間の婚姻についても異性間の場合と同程度に保障しているとの判断が示されており、今後の高裁判決においても、この流れはさらに加速していくものと思われる。
  これらの判決を踏まえれば、国は、さらなる高裁判決、ないしその先の最高裁判決を待つことなく、速やかに立法をもってこの違憲の状況を解消すべきであることは、明らかである。

5 しかし、本問題に関する政府・与党の姿勢は、従前と全く変わらず、極めて後ろ向きである。
  政府は、従前から、同性間の婚姻制度の導入について、「極めて慎重な検討を要する」との紋切り型の答弁を繰り返すばかりであったが、上記判決を受けても、確定前の判決であり、同種訴訟の判断を注視していくとか、判断の中身を注視していく、国民的なコンセンサスと理解が求められる、などの発言がなされ、事態を動かそうという気配は全く見受けられない。小泉龍司法務大臣は、「自治体のパートナーシップ制度の導入・運用状況などを見て、国民に議論してもらいたい。」と述べたが、いずれの判決中でも指摘されているとおり、各種世論調査の結果や自治体におけるパートナーシップ制度の広がりなど、同性婚に関する国民の認識が高まってきていることは明らかである。しかるに、国会での議論は、令和元年には野党から同性婚を法制化する法律案が提出されるも、審議されないまま廃案となるなど、極めて低調である。これだけ憲法違反を示す判断が積み重なっている中で、積極的に議論を行い、解決策を検討しなければならないのは、抽象的な「国民」ではなく、立法府たる「国会」であり、人権を尊重した施策を検討・実施すべき「政府」である。これら一連の政府関係者の発言からは、その自覚は、全くうかがわれない。

6 当会は、2019年5月29日の「すべての人にとって平等な婚姻制度の実現を求める決議」において、憲法13条、14条、24条や国際人権自由権規約により、同性カップルには婚姻の自由が保障され、また性的少数者であることを理由に差別されないこととされているのだから、国は公権力やその他の権力から性的少数者が社会的存在として排除を受けるおそれなく、人生において重要な婚姻制度を利用できる社会を作る義務があること、しかし現状は同性間における婚姻は制度として認められておらず、平等原則に抵触する不合理な差別が継続していることを明らかにし、政府及び国会に対し、同性者間の婚姻を認める法制度の整備を求めた。また、前記札幌地裁判決、大阪地裁判決、東京地裁(一次)判決、名古屋・福岡地裁判決に際しても、それぞれ2021年4月28日、2022年8月10日、2023年1月18日、2023年6月15日に会長声明を発し、政府・国会に対し、同性間の婚姻制度を早急に整備することを改めて求めてきた。
今回、札幌高裁判決は、「根源的には個人の尊厳に関わる事柄であり、個人を尊重するということであって、同性愛者は、日々の社会生活において不利益を受け、自身の存在の喪失感に直面しているのだから、その対策を急いで講じる必要がある。したがって、喫緊の課題として、同性婚につき異性婚と同じ婚姻制度を適用することを含め、早急に真摯な議論と対応をすることが望まれる」と付言した。
  東京地裁(二次)判決も、「国会において、日本社会及び日本国民の理解に根ざした、適切な同性カップル等の婚姻に係る法制度化がされるよう、強く期待される」と述べている。
  もはや、これ以上の立法・施策の懈怠は許されない。政府・国会は、直ちに、同性間の婚姻制度を整備すべきである。
  当会は今後も、性的少数者を含めたすべての人にとって平等な婚姻制度の実現に向け、努力していく所存である。

以   上


2024年(令和6年)4月9日

福岡県弁護士会     

会 長  德 永  響

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