福岡県弁護士会 宣言・決議・声明・計画

意見

2021年3月24日

特定商取引に関する法律等の書面の電子化に反対する意見書

消費者庁は,消費者委員会2021年1月14日会議において,特定商取引に関する法律が定める通信販売を除くすべての取引と特定商品等の預託等取引契約に関する法律が定める取引について,オンライン契約か対面契約であるかを問わず,消費者が承諾すれば,電磁的方法により契約書面や概要書面を交付することを容認する内容への改正を検討する旨の方針を示し,同年3月5日,同方針を踏まえ,「消費者被害の防止及びその回復の促進を図るための特定商取引に関する法律等の一部を改正する法律案」が閣議決定され,国会に提出された。しかしながら,同改正法案は,特定商取引に関する法律及び特定商品等の預託等取引契約に関する法律がこれまで担ってきた消費者保護機能を損なう危険のあるものであるため,以下のとおり意見を述べる。


1 意見の趣旨
 電磁的方法により契約書面や概要書面を交付することを容認することは,消費者保護の根幹たる特定商取引に関する法律及び特定商品等の預託等取引契約に関する法律上の書面交付義務を軽視し,各法の果たしてきた消費者保護を大きく後退させるものであり,今後オンライン取引が拡大していくことを踏まえても,拙速というべきであって,反対である。


2 意見の理由
(1) 法定書面の機能及び重要性
 特定商取引に関する法律(以下「特商法」という。)及び特定商品等の預託等取引契約に関する法律(以下「商品預託法」という。)は,訪問販売等の方法により消費者と契約をする事業者に対して契約書面及び概要書面の交付義務を課しており(特商法4条等,商品預託法3条,以下「法定書面」という。),法定書面の記載事項について特定商取引に関する法律施行規則等において極めて厳格に定められている。これは,消費者に対して,自らの行った契約の内容を明確に認識させる機会を保障するとともに,クーリング・オフ等の手続により,契約関係からの離脱をする機会を保障するためであって,事業者の法定書面交付義務は,特商法及び商品預託法における消費者保護の柱ともいうべき極めて重要なものとして位置付けられてきた。
 実際の相談現場においても,消費者自身が,誰と,いつ,どのような内容の契約を締結したのかを明確に認識していない事例は枚挙に暇がなく(そしてその原因については,消費者の注意不足に起因するというよりも,契約内容自体が複雑であることに起因する事例が多数見受けられる。),消費者の手元に残された契約書面等から上記の情報を確認していくという手法がとられている。また,クーリング・オフは一定の期間内に行わなければならないところ,契約書面等がそもそも交付されていない場合や,記載事項が法定の要件を満たさない場合には,この期間が進行しないため,相談現場においては,法定書面交付の有無,交付の時期及び記載の不備の有無などから,クーリング・オフの可能性を検討しており,紙面として残された契約書面等は事案解決のための重要な資料となっている。
 さらに,当該消費者自身が消費者被害にあっている認識を持てないような場合(若年者や高齢者であって判断能力が充分でない場合や,言葉巧みに勧誘されてその認識を阻害されているような事案など)でも,家族や知人,福祉関係者や地域の方など周囲の者が,当該消費者が保有している契約書面等をきっかけとして被害に気付くという事例もあり,被害発覚の端緒としても機能している。
(2) 法定書面の電磁的方法による交付を認めた場合に生じる弊害
ア 電磁的方法で交付することに対する同意承諾の問題
 ここで,まず,消費者の同意を前提に法定書面を電磁的方法によって交付することができるとした場合に,その同意が真意に基づいていることをいかに確保するかという点が重要な問題となる。クーリング・オフ自体,不意打ち的要素を有する勧誘方法が行われる場合に認められているものであるから,法定書面の交付方法についても,仮に消費者が同意したとしても真意に基づかない場合の救済措置が必要である。
 次に,この同意についての保存義務及び立証義務を事業者に負わせるとしても,当該資料が改ざんないし偽造されることをいかにして防止するのかも問題となる。
 この点について,消費者委員会は,2021年2月4日付け特定商取引法及び預託法における契約書面等の電磁的方法による提供についての建議において,消費者の承諾の取得を実質化することが求められているが,具体的な方法には及んでおらず,未だ十分に検討されているとはいえない。
イ 契約条項の見落とし
 電磁的方法で契約書面等を確認する際,消費者は,スマートフォン等の端末で契約条項を確認することになるが,端末の小さな画面では一覧性に劣るうえ,高速に画面をスクロールしてしまうと必要な条項を見落としてしまったり,理解できない条項を読み飛ばしてしまうおそれがあるため,契約内容を十分に認識できない可能性が高まる。
 また,端末上でしか契約条項が確認できない場合に,目を惹く広告表示に気を取られ,契約条項がほとんど読まれないということは,相談が急増し高止まりしているネット通販の定期購入トラブルにおいて,一応は表示されている解約制限が認識されていないという相談内容が多いことからも明らかである。
ウ 契約書類の保存と改ざんないし偽造の危険性
 さらに,消費者側における電磁的方法で交付された書面の保存,閲覧をどのように確保するのかという点も問題となる。
 考え方としては,事業者のサイト上に自らのアカウントを作成して契約内容を確認する方法をとる方法や,メール等で送信する方法が考えられるが,前者の場合にはサイトの閉鎖,退会(事業者が強制的に行う場合を含む)のみならず,IDやパスワードの失念等により,後者の場合には当該データの消去(端末の故障等により意図せず消えてしまう場合も含む)や端末の紛失等によって,契約書等の電磁的記録を確認できなくなるという事態が生じることも十分に想定される。
 また,事業者側においては技術的には消費者が契約時に確認した契約内容とは異なる内容が契約書として保存したり,メール等で送信することは充分に可能である反面,消費者側でそのことを確認するのは著しく困難となる。
エ 家族や見守りの方が消費者トラブルを発見できなくなること
 さらには,スマートフォン等の端末については,第三者がその端末内のデータを見ることは基本的に想定されていないため,前述のような当該消費者自身が消費者被害にあっている認識を持てない場合,第三者が消費者の保有している法定書面を発見してその契約の問題点に気付くといったことも起きなくなってしまう。
オ 従前の関係省庁の見解
 さらに,官邸の高度情報通信ネットワーク社会推進戦略本部(IT戦略本部)第5回情報通信技術利活用のための規制・制度改革に関する専門調査会(2011年1月20日開催)の参考資料1「各省庁に対する書面調査結果」の通し番号41番において,当時,消費者庁及び経済産業省は,「消費者側が自ら主体的に電磁的交付に係る明示的な意思表示を行い得るものか疑義がある。」,「特に,昨今,訪問販売や電話勧誘販売においては,高齢者の判断力・交渉力不足に付け入る悪質な手口も多く,事業者側に有利なかたちで消費者の意思形成が誘導され,消費者被害が生じている実態を踏まえると,不意打ち的に勧誘を受ける高齢者を含む消費者が,電磁的交付について積極的な承諾の意思表示を行う取引形態になっているとは考えにくい。...したがって,高齢者を含む消費者が,電磁的交付について積極的な承諾の意思表示を行い得る環境であるとは言い難いと考えられる。」ということや,クーリング・オフ制度について「その起算日(書面交付日)は,手交,書留や配達証明等を利用することで客観的な立証が行われ,書面受領の時期についての消費者及び事業者の無用な争いが生じることが避けられているが,電磁的交付においては,送受信時期を偽ることや,受信機器の故障などにより。書面受領の時期をめぐる消費者トラブルを惹起する危険性もあると考える。」として極めて慎重な意見が示されてきた。
 現状,上記の問題点を覆すような状況の変化は見受けられないばかりか,事業者と消費者の間の技術力等の格差は拡がるばかりである。
(3) 立法事実の不存在
 訪問販売等の対面で勧誘及び契約が行われる取引について,契約書面等を電磁的方法で交付する必要は乏しい。
 実際に,2021年1月20日の消費者委員会本会議において,質問を受けた訪問販売に関する事業者団体の説明者は,電磁的方法で契約書面等を交付することについて質問を受けた際,「青天のへきれきみたいなものがあって...そういった議論はしてきた経緯はございません」と回答している。
 このように,以上の法定書面の機能及び重要性と電磁的方法による交付を認めた場合に生じる弊害にもかかわらず,なお電磁的方法による法定書面交付を広範に容認する必要性を裏付ける立法事実の存在は明らかでない。
(4) 結論
 取引の態様によっては,契約書面等を電子化していくことは消費者にとっても便宜になる場面もあり,いずれは契約書面等が電子化されていくこともありうる。
 しかし,デジタル社会の進展とともに,現時点では,消費者と事業者の間の情報の質及び量並びに交渉力の格差は縮まるどころか,むしろ拡大しており,事実関係の確認および把握という点で,事業者から交付された法定書面は依然として消費者にとって極めて重要な意義を有している。
 したがって,少なくとも現段階においては,電磁的方法により契約書面等を交付することについての同意の真意性の確認,契約書面等の改ざんないし偽造のおそれ,契約書面等の保存,閲覧の確保の点で具体的な検討がなされておらず,拙速であり,消費者庁の示した改正方針には反対である。

以上

2021年2月18日

中学校校則の見直しを求める意見書

文部科学省 御中
福岡県教育委員会 御中
福岡市教育委員会 御中
北九州市教育委員会 御中

2021(令和3)年2月17日
福岡県弁護士会    
会 長 多 川 一 成

【意見の趣旨】

1 合理的理由が説明できない校則や生徒指導、子どもの人権を侵害する校則や生徒指導は、直ちに廃止し、もしくは見直すべきです。
2 不必要な男女分けをする校則や生徒指導は、直ちにやめるべきです。
3 校則の制定、見直しにおいては、生徒も参加する校則検討委員会で検討するなど、生徒の意見を反映すべきです。

【意見の理由】

第1 はじめに
当会では、これまで、様々な子どもに関する問題に取り組んできた。学校における子どもの人権の問題についてみると、1993(平成5)年に福岡県内の中学校で丸刈りが強制されていた実態を調査し、その廃止に向けて取り組んできた。また、2010(平成22)年には体罰について考えるシンポジウムを開催し、教育委員会と一緒に体罰をなくす取り組みについて検討した。そして、最近では、2017(平成29)年にシンポジウム「LGBTと制服」を開催した。これは自分の性自認にそぐわない制服を無理やり着用させられる子どもたちの苦しみ、それによる不登校やトラウマといった悲劇をなくして、「男子は学ラン」「女子はセーラー服」といった性別に縛られない生き方を尊重できるようにすることはもちろん、「生徒が自分の意見で着たい服を選ぶことができる」という自由を守る活動として行われたものであった。こうした活動が実り、新標準服が誕生し、2020(令和2)年4月1日より福岡市内の市立中学校69校の9割で新標準服が採用された。
このように、当会では学校における子どもの人権の問題について取り組んできましたが、残された問題として「校則」がある。
文部科学省は、校則について「学校が教育目的を実現していく過程において、児童生徒が遵守すべき学習上、生活上の規律として定められており、児童生徒が健全な学校生活を営み、よりよく成長していくための行動の指針」としており、「学校を取り巻く社会環境や児童生徒の状況は変化するため、校則の内容は、児童生徒の実情、保護者の考え方、地域の状況、社会の常識、時代の進展などを踏まえたものになっているか、絶えず積極的に見直さなければなりません。」としている。しかし、校則については、様々な問題点が指摘されており、男女で異なる髪型の制限があったり、下着の色が特定の色に指定されていたり、靴下の色や柄についても細かな規定がされている等規制の内容に合理性がなく、生徒の学校生活を必要以上に制限するものが多数存在している。そこで、当会は、校則の実態を調査するため、福岡市の市立中学校69校の校則について調査検討した。調査検討の結果は、以下のとおりである。

第2 調査検討の視点
1 子どもの人権及び子どもの権利
子どもは人格的に自律した存在であり、基本的人権を享有する主体である。したがって、子どもであるからとして、基本的人権の享有を妨げられる理由はない。日本国憲法は、13条で、すべて国民は、個人として尊重されると規定し、同14条は、すべて国民は、法の下に平等であって差別されないと規定する。したがって、子どもも、個人として尊重され、平等に取り扱われる。
この点、子どもは、自ら選びながら自分をつくり成長していくために、探求し学習することが必要であるが、そのためには教育を受ける権利(学習権)が十分に保障されることが必須の前提となる。そのため、子どもとの関係では憲法26条の教育を受ける権利が特に重要となる。したがって、学校教育の過程にあるということは、子どもに対して、より十分な人権保障を要求する根拠にこそなれ、子どもの人権を制限する根拠にはなり得ないものである。
1989(平成元)年、子どもの権利条約が国連総会で採択され、1994(平成6)年に日本もこれを批准した。同条約は、子どもは「保護の対象」であるだけでなく、何よりもまず「権利の主体」であり、さらには「権利行使の主体」と捉えている。同条約12条は、「自己の意見を形成する能力のある児童は、自己に影響を及ぼすすべての事項について自由に自己の意見を表現する権利」があることを認め、子どもの意見表明権を保障する。そして、同条約はこれに引き続いて、子どもの表現の自由(13条)、思想・良心・信教の自由(14条)、集会・結社の自由(15条)、プライバシーの権利(16条)を保障する。
同条約は、子どもに関するすべての措置をとるに当たっては、公的なものであれ、私的なものであれ、子どもの最善の利益が考慮されなければならないと規定する(3条)。したがって、子どもの保護と教育の観点から大人とは異なる特別な制限がなされる場合は、子どもの最善の利益を図るためのものでなくてはならない。
2 校則の定義及び法的根拠
「校則」は法令用語ではなく、一般には、「学則」「生徒心得」「義務規定」「学習の心得」などの校内規則の総称として使われている。ここでは、校則は学校によって全生徒に対して画一的に示され、生徒の生活・行動を直接かつ継続的に規制している生徒指導に関する規範としての性格をもち、その違反に対しては最終的に懲戒処分等の学校による何らかの強制力が予定されているものと捉える。
校則制定権の根拠について法の明文はない。もっとも、学校教育法5条は、「学校の設置者は、その設置する学校を管理し、法令に特別の定のある場合を除いては、その学校の経費を負担する。」とされており、学校の設置者は学校の物的管理(校舎をはじめとした施設の管理を含む。)や運営管理(児童生徒の管理を含む。)などに必要な行為をなし得ると解されており、同法37条4項、49条により、校長は校務をつかさどることから、校則制定権をこの「校務」に含めて理解することもあり、裁判例においては学校長に校則制定権を認めている。
もっとも、学校長に校則制定権が認められるとしても、校則は生徒の自己決定権に関わるものであることからすれば、少なくとも当事者である生徒の意見を尊重しなければならず、校則を制定・改変するにあたっては、生徒も手続きに参加する必要があるといえる。この点、国際連合子どもの権利委員会は、日本に対し、日本の子どもの意見表明が家庭・学校その他のあらゆる場所で軽視されている旨の勧告を度重ねてしている。例えば、2010(平成22)年6月の最終見解において、「学校が児童の意見を尊重する分野を制限していること、政策立案過程において児童が有するあらゆる側面及び児童の意見が配慮されることがないことに対し、引き続き懸念を有する。委員会は、児童を、権利を有する人間として尊重しない伝統的な価値観により、児童の意見の尊重が著しく制限されていることを引き続き懸念する。」としていることに留意すべきである。
3 校則による規制の正当化要件・規制の限界
前述のとおり、子どもは、一人の人間としてその尊厳を尊重され、人格及び能力を最大限に発達させ開花させるために教育を受ける権利(学習権)が保障されている。そして、学校は子どもの学習権を実現する場所の一つであり、子どもは学校生活を通じて多くのことを学び成長発達していく。そのため、学校は、子どもに対し、学習権を十分に保障できるような環境を提供することが求められる。
他方で、学校は、家庭教育などと異なり、家族等を超えた社会集団によって営まれる。そのため、学校がその教育目的を達成するために、生徒の教育に適した環境を整備・維持するため生徒に一定の規制をすることが認められる。
この点、公立中学校で丸刈りが強制されていたことについての裁判例は、学校長に校則を定める権限を認めつつも、これは無制限なものではなく、中学校における教育に関連し、かつ、その内容が社会通念に照らして合理的と認められる範囲においてのみ是認されるものであると判断しており、校則が教育を目的として定められたものである場合、その内容が著しく不合理である場合には学校長の裁量権を逸脱し、違法となるとしている。
しかし、上記裁判例の基準は学校長の裁量権をあまりに広く認めている。上述のとおり、子どもには自己決定権があり、どのような服を着るのか、どのような髪型にするのか等は本来子どもが自由に決めることができるものである。このことは、学校内においても、変わることはない。そのため、校則によって子どもの自己決定権を制限するにあたってはその規制が教育目的を達成するために必要・不可欠であり、かつ憲法・子どもの権利条約から見て正当なものであり、その手段や手続きも教育的配慮のもとに適正な手続きを踏まえて行われなければならない。しかも、校則は、生徒に対し一律に適用されるものであることから、一律に規制するだけの教育目的が必要である。

したがって、校則を検討するにあたっては、①規制に真に必要かつ重要な学校教育上の目的が認められること ②規制目的と規制手段(態様・程度)が実質的に合理的関連性を有することの2つの要件を満たしていることが必要であり、いずれかの要件を満たさない場合には当該校則については廃止や見直しが必要となる。

第3 福岡市立中学校の校則の問題点
1 校則の規定内容の問題点
検討した校則には、服装、頭髪、持ち物、学校外での行動に至るまで事細かな規制が設けられていた。なお、詳細については、別紙調査報告書を参照されたい。
しかし、今回検討した資料からはこのような規制にどのような教育目的があるのか明らかではない。
以下、項目ごとに検討する。
(1) 標準服の規制について
校則においては、標準服の着方について事細かな規制がなされている。そもそも生徒が登校にあたりどのような服装をするかは生徒の自由な意思により決せられるべきことからすれば、標準服の存在自体、憲法13条の観点からとはその必要性を別途議論する必要はあろう。ただ仮に、標準服が必要であったとして、憲法13条を根拠とする生徒たちの個人の尊重という点においても、また標準服が「学校において着用することが望ましい」とされている服装であることからしても、校則において標準服の着方、すなわちスカート丈やシャツ、ベルト等について細かな規制をするのであれば、そのような規制について教育目的が認められることが必要である。しかし、シャツの色や形、スカートの丈等を規制することにどのような教育目的があるのか明らかではない。授業等の活動において支障がないようにスカート丈やスラックスの幅等の規制を設けているとも思えるが、生徒の体型や活動のスタイルは個々で異なるのであるから、個別の事情に応じて対応すれば足り、画一的に長さや幅を規制する必要性はない。
また、衣替えの時期について一律に規制する校則もあったが、気候に応じてどの標準服を着るかは、体質の問題も相まって、生徒の判断に本来委ねられるべきものである。また、生徒によっては、怪我や生まれつきの痣、リストカット痕等、他の生徒に肌を露出したくない理由があるなどして、年中長袖を着用したいという希望もある。このような各生徒の事情に応じず、画一的に時期によって、標準服の切り替えを生徒に強いる校則は、必要性・合理性がないばかりか、生徒がかかえる個人的事情を暴露させる結果となってプライバシーを害したり、ひいてはいじめを助長したりするなど弊害が考えられる。
(2) 頭髪の規制について
頭髪の長さや髪型について様々な規制が設けられているところ、頭髪の長さや髪型について細かく決めなければならない合理性や必要性は全く認められない。
この点、禁止される髪型としてツーブロックがあるところ、東京都では都立高校の校則でツーブロックが禁止されていることに関して、東京都教育委員会委員長が「外見等を理由に事故や事件に遭うケースがあるため、生徒を守る趣旨から定めている」と述べたと報道されているが、髪型を規制することと事故・事件の防止との間に因果関係があるのか極めて疑問である。学校側は、重要な教育目的を達成するために髪型を規制する必要があるのかとともに、規制目的と規制手段との間に実質的合理的関連性があるのか納得できる説明を行う必要がある。
また、校則では髪ゴムの色やヘアピンの数等についても規制しているが、これらについて規制するだけの教育目的は認められない。
さらに、染色や脱色、パーマを禁止する校則も多く認められるが、その背後には学校が一方的に想定する中学生像があり、そこでは頭髪は直毛で黒色であることが前提となっている。
しかし、そもそも髪の色や形状は人によって異なっており、生徒がどのような髪の色や髪型にするかは自由に決定できるものであることから、制約を受ける理由はない。仮に、何らかの制約を課す理由があったとしても、頭髪が直毛や黒色ではない生徒に対し、地毛証明書の提出を求める等の指導を行うことは、生徒の生まれながらの髪色や髪質を否定し、個人の尊厳を踏みにじるもので過度な指導であり、直ちに見直しが必要である。
(3) 眉毛の規制について
眉毛に手を加えることを禁止する旨の規制が確認できた学校は56校であり、うち2校が眉の間を含み、3校が額を含んで一切手を加えることを禁止していた。
しかし、眉毛に手を加えることを禁止することにどのような教育目的があるのか不明である。仮に何らかの教育目的があったとしても、眉毛の形状にコンプレックスのある生徒もいることも容易に想像できることから、眉毛に手を加えることを一律に禁止することは過度な制限であると言わざるを得ない。
(4) 下着、靴下、靴の規制について
下着に関する規制は83%の中学校で認められた。しかし、下着の色や柄に関してこのような規制を設ける教育目的が明らかでなく、規制する必要性・合理性も全く見当たらない。このような規制は、教職員が生徒の下着を目視するなどの違反調査がなされることにもつながり、生徒に羞恥心を抱かせるなど新たな人権侵害を生み出すことにもなりかねない。
靴や靴紐、靴下の色、靴下の長さについても、細かく指定する校則が認められるが、これらについて規制することに何らかの教育目的を見出すことは出来ず、仮に何らかの教育目的があったとしても、一律に色や種類を指定するという規制手段には合理性や必要性がない。
(5) 防寒着・防寒具に関する規制について
コート類等に関する規制を設けている中学校は全体の70%となっていた。多くの中学校がコート類の種類・色を指定していたが、これらの規制にどのような教育目的があるのか明らかではない。仮に何らかの教育目的があったとしても、寒暖の感じ方には個人差がある以上、どの防寒着を着るかは本来生徒の判断に委ねられるべきものであり、一律に規制する必要性や合理性はない。また、コート類の色については、暗色系の色を指定する中学校が多く見受けられたが、暗色系は、夜道などではかえって目立たず、交通事故に巻き込まれやすくなることを考え合わせると、暗色系に限定する必要性や合理性もない。なお、フード禁止に関し、「防犯のため」と規定する中学校もあったが、フード禁止と防犯がどう関係するのかなど不明な点が多く、規制する目的になり得るのか極めて疑問である。
セーター、トレーナーに関する規制を確認できた中学校は全体の83%であり、カーディガンに関する規制を確認できた中学校は全体の65%となっていた。種類や色、柄、デザインなどを規制する中学校が多かったが、これらを規制することにどのような教育目的があるのか明らかではない。仮に何らかの教育目的があったとしても、一律に種類や色、柄、デザインなどを事細かく指定するという規制手段には合理性や必要性がない。
マフラー、ネックウォーマー、手袋等の防寒具に関する規制を設けている中学校は全体の70%であり、細かい指定はあまり見受けられなかったが、そもそも規制する目的が明らかではない。仮に何らかの教育目的が認められるとしても、規制を設ける必要性や合理性について納得できる説明が求められる。
校舎内における防寒着・防寒具の着用禁止についても、その目的が判然としない。授業等の活動において支障がないようにこのような規制を設けているとも考えられるが、そうであれば昇降口で着脱を強制する必要性・合理性は乏しい。また、コロナウイルスの影響により室内の定期的な換気が必要となり、校舎内での防寒対策も必要な昨今の情勢も考え合わせると、教室内であっても画一的に着用を禁止する必要性は乏しい。
(6) 持ち物について
鞄の種別について規制を定めている学校は、69校中15校あり、その全てが学校指定のスクールバッグしか使用してはいけないとの内容を定めていた。しかし、通学に使用する鞄が学校指定でなければならない必然性はなく、生徒の選択の自由を過度に制限するものである。校則の中には「必ず両肩でからうこと」と鞄の持ち方についてまで規制するものもあるが、障害がある生徒に対する配慮が欠けており、規制の合理性を欠く。また、鞄に付けるキーホルダーの個数や大きさについて規制を設けることについても、教育目的は明らかではなく、規制の合理性がない。
携帯電話を持ち込み禁止とする学校があった。携帯電話については、授業時間中に操作することで学業が疎かになる懸念もある一方、保護者との連絡用や防犯用品として必要である側面もある。そのため、学業への影響から携帯電話の持ち込みを制約することに教育目的は認められるとしても、携帯電話を使用する場所や時間を限定する方法によっても教育目的を達成することは可能であり、持ち込みを一律禁止とすることは教育目的達成との間に合理的関連性が認めらない。なお、令和2年(2020年)8月、文部科学省は中学校への携帯電話の持ち込みを一定条件のもとで認める旨の通知を出しており、今後、中学校において携帯電話持ち込みに関しての議論が始まるものと思われる。
(7) 学校外行動の規制について
校則の中には、生徒の学校外の行動について規制するものがあった。しかし、学校が子どもの行動を制約できるのは基本的に学校内に限られる。子どもの権利条約5条においては、子どもの権利行使にあたり、親が指示・指導を与える責任、権利、義務を尊重しなければならないと定めており、子どもに対する一次的養育責任は親であると明確に定めている。したがって、学校外行動については、保護者が許可した場合まで学校が一方的に制約できるものではなく、校則で規制する必要性もない。
学校は保護者及び生徒への指導にとどめ、保護者も学校に子どもの全ての行動の責任を求めるのではなく、学校外行動について子どもとしっかりと協議することが必要である。
(8) 男女区別を基準とする規制について
標準服に関する規制において、男女で規制内容が異なっていた中学校が全体の72%にも上っていた。また頭髪についても男女で異なる規制を設けている中学校は全体の84%となっていた。防寒具のカーディガンの着用について、女子生徒、あるいはセーラー服着用時の女子生徒のみ認める中学校は13校あった。
しかし、性自認や性表現には多様性があり、「男」「女」以外の性を自認する者、生まれた際に割り当てられた性と性自認や性表現が異なる者等がいるにもかかわらず、生まれた際に割り当てる「男」「女」という二元的な性別基準によって生徒の服装や髪型を区分する正当な目的はない。特に標準服については福岡市立中学校の多くが、2020年度からスカートやスラックスを自由に選択できる新標準服を導入しているが、上記のように男女で標準服の規制内容を分けることは、選択型標準服を導入した趣旨にも反する。
2 校則運用上の問題点
(1) 明文なき校則による制限
 当事者ヒアリングの結果からは、生徒手帳等に記載されていないにもかかわらず、生徒の自由を制限するような明文なき校則が存在しており、これに基づき生徒指導がなされている実態が明らかになった。
前述のとおり、生徒は自己決定権を有しているところ、校則はこれを制限するものであることから、事前に生徒のどのような行動を制限するかについては生徒がわかるように明らかにしておく必要がある。生徒自身にどのような規制が存在するのか明確に分からない状態のまま、校則違反として指導することは、生徒に不意打ちをもたらし、妥当ではない。校則による制限は、教育目的を達成するために合理的な範囲内に限られるべきことからすれば、生徒手帳等によって事前に決められている以上の制限を生徒に課して指導することは非常に問題である。
また、校則に規定がないにもかかわらず、おでこの産毛剃りをしたことについて指導を受けたという事実が認められた。これは教職員に生徒が頭髪等について何らかの加工をすることに否定的な認識があることから、おでこの産毛剃りという校則に規定のないものについてまで拡大解釈して校則違反であると指導しているものと思われる。頭髪等を制限する目的である「中学生らしさ」が人や場所や時代によって変遷し得る曖昧なものであるにもかかわらず、生徒指導の基準となっていることから、上記のような拡大解釈を招いているものと考える。
(2) 教職員による恣意的な運用
校則に関する指導において、同じ教職員であっても生徒によって指導内容が異なっていたり、教職員の機嫌によって指導内容が異なったりする等、教職員による恣意的な運用が認められた。
校則は生徒の自由を制限するものであるから、校則に関する指導も規制内容に従って行われる必要がある。それにもかかわらず、教職員による恣意的な運用がなされていることには、制限する基準が曖昧であることに加えて、教職員自身が校則で制限する理由や目的を理解しないまま生徒指導にあたっていること(そもそも制限する理由や目的がない校則が多いことにも注意が必要である。)に原因があると思われる。
(3) 生徒の人権を侵害する生徒指導
校則の中には下着の色の指定のように規制する内容そのものが理不尽なものがあり、これに違反した場合の指導方法として「脱がせるよう指示する。」「脱がせた後に保護者に連絡する。」等生徒に羞恥心を抱かせるおそれの高い指導内容を規定するものもあり、生徒のプライバシーを侵害する恐れが非常に高い内容となっていた。また、生徒が眉毛に手を加えた場合には教室に入れなかったり、教職員が太く大きく眉毛を書いたりするものや休み時間はトイレ以外に教室から出ることを禁止するといった合理性のない過度な制裁を規定するものもあった。
実際の生徒指導においても、校則に違反したということで長時間指導を受けたり、地毛が明るいだけなのに毎回指導を受けたりする等明らかに行き過ぎたものも認められた。また、校則違反の指導の中で、何かと「連帯責任」を取らせる指導もあった。
このような指導は生徒の人権を侵害するものであり、直ちに見直しが必要である。 
(4) 校則についての議論に対する不当な抑圧
校則の内容については、生徒の実情や時代の進展などを踏まえて見直していくことが不可欠であり、見直しにあたっては当事者である生徒の意見が反映される必要がある。しかし、実際には、生徒会で校則について議論していたところ、先生から校則の議論を禁止されたり、校則について意見をすると「内申に響くぞ」と言われたり、理不尽な指導に不満気でいると先生から「そんな態度なら内申やらんぜ」と言われ、生徒が自ら口をつぐんでしまうという状況にあることがわかった。
校則は教育目的を達成するために生徒の自由を制限するものであることから、本来であれば当事者である生徒も校則の制定に関与することが求められるべきである。そして、子どもの自由を制限する場合にはその制限は子どもの最善の利益を図るためのものでなくてはならないことからすれば、少なくとも何が子どもの最善の利益であるかを判断するためには子どもの意見表明を尊重する必要がある。しかし、実際には、学校現場では生徒に校則についての意見表明が認められておらず、そればかりか生徒が校則による規制に疑問を持つような様子を見せたならば「内申書」を盾に取って、生徒を威圧する不適切な指導が行われている。生徒は、校則の意義について疑問を感じながらも、そのことについて意見を出すことができず、ただ「校則で決められているから」ということだけで自由を制限されており、それが強いストレスとなっている実態も明らかになっている。
学校は、このような指導方法を早急に見直す必要がある。

第4 特別支援学校の校則の問題点
1 校則の規定内容の問題点
開示された2校の校則には標準服の着用についての規定があり、「ボタンをきちんと留め、シャツの裾を出したりしない。ズボンやスカートは腰の高さの位置ではく。」との定めが置かれているが、一般的な着用の仕方を示しているにとどまっていた。「実態に応じて準備してください。」と併記されていることからも分かるように、実際には標準服を着用している生徒はほとんどおらず、指導も行われてないようである。
他方、頭髪や眉については、比較的詳細な定めが置かれていた。特に「パーマや髪染めはしない。」、「整髪料等は使用しない。」、「眉を剃ったり、細くしたりするなどの加工をしない。」といった定めは、そもそも目的が不明で、学校教育に必要な範囲を超えていることが明らかであり、合理性も認められない。
以上のように、開示された特別支援学校の校則には一部合理性のないものも認められたが、全体としては厳しい校則とはなっておらず、先に検討した福岡市内の中学校において厳しい校則が例外なく存在したことと対照的である。
2 特別支援学校の校則との比較から見える問題点
今回、特別支援学校の校則については文書の公開請求を行ったにとどまり、生徒や保護者、教職員からのヒアリングは実施できていない。そのため、(厳しい)校則を定めていない理由も正確には把握できていないが、特別支援学校の性質に照らすと、その要因として、次のようなものがあると推察される。
①知的障害のある生徒については、校則を示すだけで望ましい行動を促したり望ましくない行動を制限したりすることが難しい。
②発達特性として服装や持ち物へのこだわりが強い生徒がいるため、校則にルールを定めても守ってもらうことが期待できない。
③学級編制の標準や教職員配置が中学校に比べて充実しているため、ルールを一律に適用しなくても、個別対応がある程度可能である。
こうした理由の当否について、更に調査を行う必要があると思われるが、仮に的を射たものだとすると、次のような考察が可能である。
すなわち、こうした校則の定め方からは、学校長が、ルールを伝えても理解してもらうことが難しい生徒に対しては個別に、柔軟に対応する一方、「言えば分かる」中学校の生徒については、厳しいルールをもって一律に、硬直的に対応するという発想を持っていることが窺える。
しかし、子どもの権利は、障害の有無や理解力の高低にかかわらず、すべての子どもに等しく保障されており、また身体面・学習面で能力の高い生徒が権利侵害を受けにくいとも決して言えない。校則の定め方について中学校と特別支援学校との間に格別の差異をもうけている背景には、やはり子どもの権利を蔑ろにする価値観があると言わざるを得ない。

第5 結論
今回検討した福岡市立中学校の校則には、服装、頭髪、持ち物、学校外での行動に至るまで事細かな規制が設けられていた。しかし、そのいずれにも真に必要かつ重要な学校教育目的上の目的を認めることができず、規制するだけの合理的理由を見出すことができなかった。特に、下着の規制については、校則に規定があることにより教員が生徒の下着を目視して違反調査がなされることにもつながり、生徒の自尊心やプライバシー権の侵害を伴うものである以上、直ちに廃止すべきである。
また、生徒指導の現場では、明文なき校則により生徒の自由を制限したり、校則が教職員によって恣意的に運用されている実態が明らかなとなった。また、校則の指導の中には、生徒の人権を侵害するような指導方法も認められた。このような指導方法についても、直ちに見直しが必要である。
性自認や性表現の多様性が認められるようになり、福岡市立中学校において選択型の新標準服が採用されるに至ったにもかかわらず、現在においてもなお標準服や髪型について男女で異なる規制内容を定める校則が認められた。かかる事実は、学校が新標準服が採用された意義を理解していないことを如実に示している。学校は新標準服が採用された意義を再度確認し、不必要な男女分けをする校則や生徒指導を改善すべきである。
市立中学校は義務教育の場であるため、地域から多くの生徒が通学してくる。その中には複雑な家庭の事情を抱えて家庭に居場所がない生徒もいれば、発達障害のある生徒もいるし、不登校となっている生徒もいる。生徒は一人一人個性や抱える問題が異なっており、そのような生徒たちが共に学ぶことに学校教育の意義がある。そのため、学校はすべての生徒にとって安心して過ごせる場所であることが重要であり、それには多様性の受容と尊重が不可欠である。
校則は学校におけるルールであるが、本来、ルールは「人を縛るもの」ではなく、「人(特に弱者)を守る」役割を担うものである。したがって、本来校則は、生徒が教育を受ける権利を保障するとともに、学校という集団の中で個々の生徒の人権を保障する役割を担うべきもののはずである。
しかし、現在の校則は、単に上(教職員側)から生徒を縛るものになってしまっており、生徒の権利や人権を守るという役割がほとんど果たされていないものとなってしまっている。このような校則は、生徒一人一人の個性を尊重できるように、生徒の人権を守るものに見直していく必要がある。そして、見直しにあたっては、生徒の意見を反映させることが不可欠であり、そのためにも学校は生徒に対し校則についての自由な議論を保障すべきである。
よって、当会は、中学校の校則について早急に見直すことを求める次第である。

以上

校則に関する調査報告書

2021(令和3)年2月17日

福岡県弁護士会

第1 調査方法・対象について
当会は、2020(令和2)年7月30日、福岡市(実施機関は福岡市教育委員会)に対し、福岡市内の各中学校における、校則、生徒心得、生活心得、生活のきまり等の名目の如何を問わず学校内外における生徒の言動、生徒が身につけるもの、生徒の外見、持ち物に関する決まり事を定めたものや当該定められた決まり事が分かる文書一切の公開を求める公文書公開請求を行った。その結果、福岡市は、同年8月30日付けで福岡市内の市立中学校全69校が作成した文書を開示した。
また、同年11月25日、福岡市(実施機関は福岡市教育委員会)に対し、福岡市内の各特別支援学校中等部(他の学部と共通で定められているものを含む。)における、校則、生徒心得、生活心得、生活のきまり等の名目の如何を問わず学校内外における生徒の言動、生徒が身につけるもの、生徒の外見、持ち物に関する決まり事を定めたものや当該定められた決まり事が分かる文書一切の公開を求める公文書公開請求を行った。その結果、福岡市は、同年12月10日付けで2校(福岡中央特別支援学校と若久特別支援学校)が作成した文書を開示した。
さらに、当会は、福岡市内の生徒、保護者、教職員から直接聴き取り調査(当事者ヒアリング)を行った。当事者ヒアリングでは、①学校内での校則の運用状況、②校則等に規定がないにもかかわらず行動を制限されることの有無、③校則についての考え、④校則がなくなると学校はどうなると思うかの概ね4点を中心に聞き取りを行った。
当会は、上記情報公開請求によって開示された文書及び当事者ヒアリングにより聞き取った内容について、調査検討した。
なお、情報公開請求によって開示された文書は、中学校ごとに様々であり、標準服について規制する文書のみ開示した中学校も含まれていた。そのため、本調査は、あくまで情報公開請求によって開示された文書のみを調査検討するものであり、福岡市内の市立中学校の校則を網羅的に調査検討したものでない。

第2 校則調査の結果
1 標準服
(1) 男女区別規制
福岡市で導入された新標準服はジェンダーレスを目指したものであるが、校則上、標準服に男女区別が設けられている学校は24校、明確な男女分けではないものの、男子生徒のように見えるイラストにはスラックス・女子生徒のように見えるイラストにはスカート(キュロット)を描くなどして事実上男女分けをしている学校は26校と、69校中50校(72%)の学校で男女分けをしている校則を設けていた。また、新標準服に対応しない校則のみを継続していると見受けられる学校が3校あり、これらの中学校ではすべて男女分けがなされていた。
(2) シャツの規制
標準服のブレザー下に着用するシャツについて、学校指定カッターシャツ又はポロシャツと定める校則がある学校は69校中17校、それ以外の52校中、学校指定シャツはないもののシャツの色(白・水色・青色・ピンク等)を指定する学校は69校中49校(全体の71%)、デザイン(ボタンダウンは不可、丸襟など)を指定する学校は23校であった。
また、シャツについてこれらの校則の定めに違反した場合の対応として3校では「きちんと直せる範囲については、その場で指導して直させる。直せないものについては、その場で脱がせる。(違反の格好のままでは、教室にあげない)」「脱がせた後に保護者連絡」「再登校」といった規定が設けられていた。
(3) スカートの長さ規制
「ひざの皿が見えない」「背筋を伸ばして膝立ちをしてすそが床につく長さ 長すぎないようにすること。目安5cm」「ひざ立ちし両腕を肩の位置まであげた状態ですそが床に十分につく(うつむかず背筋を伸ばす)。立った状態でひざが見えない」といったスカート丈を定める校則を設けている学校は69校中59校(85%)であった。
(4) スラックスの規制
スラックスについても、「すそが地面につかない程度」といった長さ規制があるものが69校中20校、「幅は、ももを両手でつかんだとき、やや余裕があるくらい」といった幅の規制について設ける学校は69校中3校あった。
(5) その他標準服に関する規制
上記の(1)~(4)に含まれないものとして、「昼休みに外で遊ぶときなど、上着を脱いで活動することはよいが、違反の防寒着で行っていた場合は指導」「タートルネックやフード付きのように、極端に首回りから出たり、袖から出たりしないようにさせる」「ブレザーを脱いで、ベストを着た状態で活動することは、禁止」「袖のボタンはきちんと留めさせる。(制服袖まくりは不可)」といった校則を設けている学校、「上着の折り曲げや、腰パン等については直させる」「袖を折る場合は、2回以上ひじが見えるまで折る」と定める学校など、標準服の着用の仕方について指定を設けている学校があった。
2 ベルト
スラックスに着用するベルトについても、その色について69校中62校(90%)が「黒のみ」「黒・茶・こげ茶のみ」といった規制を設けていた。また69校中48校(70%)は「柄入り、メッシュ型、華美なものは不可」「無地」「縫い糸が白等は可」「編み込みのものは不可」「皮または合皮」「布製」といったベルトの形・素材に関する規制を設け、24校は「極端に穴の数が多いもの、2色以上は不可」「1つ穴」「ベルトの穴はシングル」「二重穴あきは禁止」「ベルト穴に金属がついたものは不可」といったベルト穴に関する規制を設け、18校では「極端に細かったり太かったりするものは不可」「幅3cm以上」といった太さの規制を設けていた。
3 標準服を着る時期(衣替えの時期指定)
また、標準服のいわゆる冬服・夏服・中間服といった着用の時期を具体的に校則で定めていたり、あるいは校則で別途学校から着用時期を指定するなどの記載をしていたりして、生徒に着用時期を規制する校則がある学校は69校中12校であった。
4 頭髪
(1) 男女区別規制
頭髪に関し、男女という性別で区別した規制を設けていた中学校は、69校中58校(約84%)であった。
(2) 髪の長さ
髪の長さに関する規制を設けていた中学校は、69校中62校(約90%)であった。
具体的な規制内容としては、前髪は眉や目にかからない(69校中59校(約86%))、横髪は耳にかからない(69校中59校(約86%))、後ろ髪は襟や肩につかない、肩にかかる場合は耳より下でゴムで結ぶ(69校中61校(約88%))というものであった。
(3) 髪型
髪型に関する規制を設けていた中学校は、69校中60校(約87%)であった。
具体的な規制内容としては、ツーブロックの禁止(69校中45校(約65%))、ソフトモヒカンの禁止(69校中27校(約39%))、剃り込み禁止(69校中16校(約23%))というものであった。
(4) 髪の結び方・髪留め(ゴムやヘアピン等)
髪の結び方・髪留め(ゴムやヘアピン等)に関する規制を設けていた中学校は69校中61校(約88%)であった。
髪の結び方についての具体的な規制内容としては、耳より下で結ぶ(69校中51校(約74%))、2つもしくは1つで結ぶ(69校中18校(約26%))、お団子・ポニーテール・編み込み禁止(69校中7校(約10%))というものであった。
また、髪留め(ゴムやヘアピン等)についての具体的な規制内容としては、ゴムの色を黒や紺や茶に指定(69校中58校(約84%))、ヘアピンの色を黒や紺や茶に指定(69校中44校(約64%))、カッチン留め、バレッタ、カチューシャ、リボン、シュシュや飾りがついたものや髪飾りは禁止(69校中14校(約20%))、ヘアピンやゴムなどを不必要にたくさん使わない(69校中10校(約14%))というものであった。
(5) 髪の加工(脱色、染色、パーマ、整髪料)
脱色を禁止していた中学校は、69校中49校(約71%)であった。
染色を禁止していた中学校は、69校中54校(約78%)であった。
パーマ(ストレートパーマ、縮毛矯正を含む。)を禁止していた中学校は、69校中55校(約80%)であった。
整髪料の使用を禁止していた中学校は、69校中52校(約75%)であった。
5 眉毛
眉毛に手を加えることを禁止する旨の規制が確認できた学校は69校中56校(81%)であり、そのうち2校が眉の間を含み、3校が額を含んで一切手を加えることを禁止していた。
 6 下着
下着(肌着、アンダーシャツ等シャツの下に着るものを含む)に関する規制を確認できた中学校は69校中57校(約83%)であった。具体的には、下着の色に関する規制を設けていた中学校が57校(約83%)あり、下着の柄(無地・ワンポイント)に関する規制を設けていた中学校が54校(約78%)あった。
これらの規制について違反した場合の指導内容を規定している中学校が3校あった。その内容は、「脱がせるよう指示する。」「脱がせた後に保護者に連絡する。」などというものであった。
7 靴下、靴、靴紐
靴の色に関する規制が確認できた学校は69校中63校(91%)であった(複数の色から選択が可能な学校は3校)。また、靴の色に関する規制を設けている学校の多くは、靴を紐靴に限定しており、紐の色まで指定していた学校が69校中54校(78%)確認できた(複数の色から選択が可能な学校は2校)。
靴下についても、色に関する規制が確認できた学校が69校中56校(81%)、長さに関する規制が確認できた学校は51校(73%)、ワンポイントすら許容しないと明示している学校が12校存在した。
8 防寒着
(1) コート類に関する規制
ア コート等の種類・色に関する規制
コート類(コート、ジャンパー、ウィンドブレーカー、ブルゾンな ども含む。以下「コート等」という。)に関する規制を確認できた中学校は69校中48校(約70%)であった。このうち、コート等の種類に関する規制を確認できた中学校は46校あり、Pコート、スクールコートに限定する中学校が多数見受けられた。また、コート等の色に関する規制を確認できた中学校は44校であった。このうち、特定の色を指定する中学校が43校、華美でないものとする中学校が2校あった。
  イ その他コート類に関する規制
コートの柄(無地、ワンポイント等)を規制する中学校が9校、フードを禁止する中学校が11校、コート等の長さを規制する中学校が2校、ボタンの色を指定する中学校が3校、ベルトや肩章などコート等の装飾に関する規制が確認できた中学校が5校あった。

(2) セーター、トレーナー、カーディガンに関する規制
セーター、トレーナーに関する規制を確認できた中学校は69校中57校(約83%)あった。具体的には、Vネックのみ、パーカー・ハイネック・タートルネック禁止などその種類に関する規制が確認できた中学校が26校、色に関する規制が確認できた中学校が56校(約81%)、柄(無地、ワンポイント等)に関する規制が確認できた中学校が42校あった。
カーディガンに関する規制を確認できた中学校は69校中45校あった。このうち、色に関する規制が確認できた中学校が43校、柄やデザイン(網目の模様、編み方、ボタンの色等)に関する規制が確認できた中学校が27校、学校指定やこれに準じるものとしてカーディガンの種類を限定する中学校が6校あった。このなかには、「学校に展示された見本のカーディガンと同色、同デザインのカーディガン」や「細糸のメリアス編みのカーディガン」など細かく規制している中学校もあった。
また、カーディガンに名札をつける旨を明記する中学校が25校あり、左胸等への縫付けを明記する中学校が16校あった。
さらに、カーディガンの着用について、女子生徒、あるいはセーラー服着用時の女子生徒のみ認める中学校は13校あった。
(3) マフラー、ネックウォーマー、手袋等の防寒具に関する規制
マフラー、ネックウォーマーに関する規制を確認できた中学校は69校中48校(約70%)あった。具体的には、「華美でないもの」「派手でないもの」と規定する中学校が22校あり、マフラーの長さに関して規定する中学校は6校あった。このうち、「長さは150センチメートル」と具体的な長さを指定する中学校も見受けられた。
手袋に関する規制を確認できた中学校は69校中47校であった。「華美でないもの」「派手でないもの」と規定する中学校が20校あり、飾りがついたものを禁止する中学校が2校あった。
(4) 防寒着・防寒具の校舎内での着脱に関する規制
校舎内でコート等の着用を禁止する中学校は35校あった。このうち 昇降口で着脱させることを明記する中学校は6校あった。マフラー、ネックウォーマー、手袋について、校舎内での着用を禁止するものが43校(約70%)、学校の昇降口で着脱させる旨を明記する中学校が8校あった。
9 持ち物
(1) 鞄に関する規制
鞄の種別について規制を定めている学校は、69校中15校あり、その全てが学校指定のスクールバッグしか使用してはいけないとの内容を定めていた。鞄に付ける装飾品に関する校則を定めている学校は、69校中23校あった。
具体的には、装飾品については、大きさの指定があるもの(例えば生徒手帳に隠れる大きさとするもの)が13校、個数の指定があるもの(例えばキーホルダーは1個までとするもの)が15校であった。
(2) 携帯電話に関する規制
携帯電話を持ち込み禁止とする学校は、69校中7校であった。
(3) その他持ち物に関する規制
ア 制汗剤、汗拭きシート、日焼け止め等
制汗剤や汗拭きシート、日焼け止め、リップクリーム、ハンドクリームに関する校則を設けている学校は、69校中12校であった。そのうち、制汗剤、汗拭きシートについては10校が規制を設けているが、許可制は1校、無臭なら可とするものが2校であった。また、日焼け止めについて校則を設ける学校は6校であり、そのうちスプレータイプはNGとするものが2校、「家で塗っていく、塗り直しは更衣室で行う」等の場所の規制があるものが2校であった。さらに、リップクリームとハンドクリームについて規制を設けているのは6校であり、その全てにおいて無色無臭のもののみ可となっている。
イ 使い捨てカイロ、金銭、飲食物
使い捨てカイロに関する校則を定める学校は69校中3校であった。その内容は、使い捨てカイロは使用して良いが見えるように使用しない、使い捨てカイロは許可するが使用後は必ず家に持ち帰って処分するというものである。金銭の所持を禁止とする学校は69校中5校あり、そのうち教師に預けるものとするのは2校であった。飲食物に関する校則を定める学校は69校中8校あった。そのうち飲料の種類を指定するもの(お茶か水なら可)は6校であり、ペットボトル飲料の持ち込みを不可とするのは1校であった。
10 学校外行動
遊戯施設(ゲームセンターやカラオケボックス、映画等)への立ち入り制限に関する校則を定める学校は69校中7校あり、そのうち保護者の許可又は同伴を必要とするものは5校あった。また、アルバイトを禁止する学校は69校中2校あった。さらに、通学に関する校則を定める学校は10校あり、登下校中の買い食いを禁止する学校が7校あった。通学については、自転車通学を禁止するものが9校、通学路の制限をするもの(例えば登下校は学校で決められている通学路を通るとするもの)が2校であった。加えて、生徒の外出や外泊に関する定めをおく学校は5校であった。そのうち外泊を禁止とするものが4校、外出の制限をおくもの(例えば、外出するときは、行先、用件、帰宅予定時刻を保護者に伝え、日没前に帰宅することとするもの)が4校であった。

第3 特別支援学校における校則調査の結果
1 開示された校則の概要
開示された文書の一つは、タイトルが「5.生活について」とされている6項目のものである。その体裁を見る限り、入学時などに保護者に配布される資料の一部ではないかと思われる。少なくとも、生徒向けに作成・配布されたルールではない。また、性別により異なる定めも見当たらない。
もう一つの文書は「学校生活のきまり」とのタイトルが付けられ、「学校での一日の生活のしかた」、「見だしなみについて」、「その他」の3項目で構成されている。すべての漢字にふりがなが振られており、生徒に示すことが想定されていることが分かる。
いずれも学校生活を送るうえで必然的に生じる決まりごとが定められていた。
 2 標準服
特別支援学校の校則においても、標準服についての規定があり、「原則は福岡市の標準服または、それに近いもの」といった定めがあった。また、1校については、これに加え、「ボタンをきちんと留め、シャツの裾を出したりしない。ズボンやスカートは腰の高さの位置ではく。」との定めが置かれている。
もっとも、「実態に応じて準備してください。」と併記されており、実際、福岡市立の特別支援学校では、中等部の生徒が標準服で通学していることはほとんどないようである。
3 頭髪・眉
開示された校則の一つには、頭髪や眉について、「パーマや髪染めはしない。」、「整髪料等は使用しない。」、「眉を剃ったり、細くしたりするなどの加工をしない。」といった定めがあり、比較的詳細な定めが置かれている。

第4 当事者ヒアリングの結果
当会では、福岡市内の中学生、保護者、教職員の合計十数名から聞き取り調査を実施した。以下、当事者ヒアリングの結果について詳述する。
1 校則で制限する理由についての説明
【聞き取った中学生が実際に体験した事実】
・髪型やゴムの色を決める理由について先生から「統一感を出すため」と言われた。
・後髪を縛る時は耳よりも下の位置でなければならないが、その理由を尋ねると先生から「男子がうなじを見て欲情するから」と言われた。
・髪を結ぶ位置が耳よりも下なのはなぜかと尋ねると、先生から「政府がそう言っている」と言われた。
・ツーブロックがいけないのも「政府がそう言っている」と言われた。
・先生は「同じ服装をするからこそ出る個性」と言うが、それは間違っていると思う。髪型など自由にした方が個性が出ると思う。
2 書かれていない校則による制約
【聞き取った中学生が実際に体験した事実】
・生徒手帳に載っていない校則が多い。
・校則では前髪は眉毛を超えないとあるのに、眉上でなければならないと指導された。
・校則では髪を結ぶゴムが黒・紺・茶と指定されているが、茶色のゴムをしていても「明るすぎ」と指導され買い直さなければならなかった。
・校則では靴下の色は「白」としか規定されていないのに、実際には織り目が縦に入っている靴下でなければ校則違反として指導される。
・事前の連絡なく靴下のワンポイントが禁止され、校則違反の指導を受けた。それまで使っていた靴下がダメになった。
(聞き取った中学生が目撃した事実)
・友人が、おでこの産毛を剃ったところ、生徒手帳にはおでこの産毛を剃ってはいけないという規則はないのに、教師から職員室前で1時間半、立ったまま指導された。泣いていても指導は終わらなかった。
3 制限の目的が不明な校則
【聞き取った中学生が実際に体験した事実】
・無言清掃
・無言給食
・職員室前無言通行
・他の階には行ってはならない。
・他の教室に行ってはならない。
・多目的トイレは使ってはならない。
・暑くても袖をまくってはいけない。
4 校則に関する指導の状況
【聞き取った中学生が実際に体験した事実】
・スカート丈の検査は全員体育館に集められ、両手を前に水平に出して、膝立ちをさせられる。体育館には男子もいる。
・体操服に着替えているときに教師が入ってきて(下着について)指導をされたことがある。
・ある教科では「校則ひとつで高校落ちるぞ」と毎回20分ほど同じ話をされる。授業をして欲しい。
・何かと「連帯責任」を取らされる。
・「連帯責任」って教師によるイジメだと思う。
・男子女子が一緒に区切りもなく体育館で一斉に生活点検をされる。その際、女の先生から下着の色をチェックされるが、男子もいるから恥ずかしい。
・生徒のことを呼び捨てにする先生が多い。下の名前を呼び捨てにする先生もいる。
・体育の後、靴下が下がっていると先生から「わざとやろう」と文句を言われる。
・靴下違反と指摘されると靴下を脱いで裸足で上靴を履かなければならない。
・名札を忘れると、名前を書いたガムテープを胸に貼られる。
・眉毛を整えたら、生えるまで毎朝職員室でチェックを受けなければならない。
・校則違反と指導を受けたら、掃除や草抜きをさせられる。
・横髪が少しでも耳にかかっていると「部活やめろ」と言われる。
・先生に気に入られている生徒はあまり指導されない。
・先生の機嫌に左右される。
・学年全員が集められて服装指導を受けるが、その間全員黙想しなければならない。
をする。
・「今自分がしている格好でいつでも高校入試に行けるようにしろ」と言われる。
【聞き取った中学生が目撃した事実】
・コロナで学校に行けず5月下旬にやっと入学できたのに、入学してすぐに、中1の女子生徒が男の先生から下着の色を指摘され、それ以来学校に行くことができなくなった。
・寝癖がついたまま登校した生徒を先生は他の生徒がいる前で大爆笑して笑い者にし、校則違反と指導した。髪の長さや色は違反していなかった。整髪料や縮毛矯正も許されていないので癖毛の生徒は大変だと思う。
・もともと髪の色が明るい生徒に対し、毎回「気をつけなさい」と指導していた。
・地毛なのに2か月以上毎日職員室に髪の色を見せにいかされた。保護者が抗議しても「親ぐるみのことがあるから」と言って続けさせられた。
・靴下が短いからと没収され、別の靴下を渡された。自分の靴下は返してもらえなかった。
【保護者から聞き取った事実】
・不登校の生徒がせっかく登校しても服装違反ということで学校に入れてもらえなかった。
・校則通り15cmと表示がある靴下を買って履いていったのに、教師から右足は合格、左足は不合格と言われ買い換えるよう指導された。たまたま左足がずり落ちていただけなのに、教師からはずり下がっても15cmになるものを買えと言われた。
・母親から教師に「靴下15cmルールやめませんか」と言うと教師から「なぜ守ろうとしないんですか」と言い返された。
・忘れ物をしても友人に借りたり、教科書を見せてもらったりしてはならず、教師から犯罪者のように扱われる。
・地毛証明書を提出させられる。
・廊下に一列に並ばされ、シャツの胸をはだけ、先生が生徒一人一人の下着をチェックする。
・靴下の長さで呼び出されて昼休みが終わるまで叱られ、帰りの会でも立たされ、他の生徒の前で説教をされた。
【教職員から聞き取った事実】
・先生が自作した靴下の長さを測る器具を使って生徒の間を歩いて検査している。
・眉毛に手を入れている生徒は、生えるまで毎日職員室で検査する。
5 校則についての生徒の意見表明の状況
【聞き取った中学生が体験した事実】
・生徒会で校則について議論をしていたところ、先生から校則の議論はしてはならないと止められた。
・校則がおかしいと声に上げることはない。言っても無理だから諦めている。
・先生から生徒総会は校則について話し合う場じゃないと釘を刺された。
・生徒総会で校則に関する質問が出たらそれを止めるように先生から言われた。
・生徒会は校則について触れてはいけないと先生に言われた。
・廊下で男子はツーブロック禁止でかわいそうねと話をしていると、それを聞いていた先生が「ツーブロックで高校受験に行ってみろ。後輩たちのために自分の人生賭けてみるか」と怒鳴られた。
・校則ついて意見をすると「内申に響くぞ」と言われる。そのため口をつぐんでしまう。
・生徒が集団になって訴えても、大人が間に入ってくれないと先生に丸め込まれる。
・理不尽な指導に不満気でいると先生から「そんな態度なら内申やらんぜ」と言われる。
・生徒が正論を言っても先生は納得しない。それどころか逆に説教される。
【聞き取った中学生が目撃した事実】
・社会の教科書の人権のページを示して先生に抗議した生徒もいる。
・生徒会に立候補する生徒がスピーチ原稿に校則のことを書いていたところ、他の生徒がいる前で、先生はその生徒が泣くまで長時間説教をした。そのため校則に関するスピーチはできなかった。
【教職員から聞き通った事実】
・生徒たちが校則について話題にできる制度はない。生徒総会でも校則について話題にしようとしても、「校則は先生たちが決めるもの」と言って話題にさせないと思う。
6 校則がなかったらどうなるか
【中学生の声】
・校則がなければ、意見も出しやすく明るい学校になると思う。
・校則がなかったら良いのにといつも思っている。
・校則がなくなっても生徒たちがグレることはないだろう。むしろストレスがなくなりちょっと元気になると思う。
・校則がなくなったら、他の子がどんな子かもっとよく知る機会になると思う。
・校則がなくなったら、学校が楽しくなると思う。
・校則がなくなったら、先生に怒られることもかなり減ると思う。
【保護者の声】
・先生は「服装の乱れは心の乱れ。心の乱れはヤンキーの第一歩」と言うが、校則がなくてもヤンキーにはならないと思う。
【教職員の声】
・校則がなくなったら、最初は少し派手になる生徒が出てくるかもしれないが、そのうち落ち着いてめちゃくちゃにはならないと思う。
・校則がなくなったら、教師と生徒の人間関係も良くなるのではないか。
7 その他
【中学生の声】
・小学校までは細かく言われることがなかったのに、中学校に入学した途端、細かな校則で規制される。本当にそんなことをする必要があるのか疑問に思う。
・一人一人個性があるのに統一する必要はないんじゃないか。
・生徒には厳しいくせに、先生は水色のピアスにピンクの口紅、髪も染めてウルフカットにしている。
・先生の言葉遣いが悪い。怒鳴り散らし、高圧的。
・部活を辞めさせてもらえない。退部届をもらわないといけないが、先生がくれない。
・学校で感じるストレスの7割が校則。
・校則のせいで学校に行くことがストレスになる。
・変な校則について、先生の方が間違っていると思うが、大人とケンカしなければいけないことにストレスを感じる。
・生徒会で校則について変えられるようにして欲しい。
・今ある校則で残した方が良いと思うものはない。

以上

(別紙)校則調査結果一覧(PDF)

2020年5月15日

検察庁法改正等による検察官の独立性の侵害等に反対する意見書

2020年(令和2年)5月14日

福岡県弁護士会
会長 多川 一成

【意見の趣旨】

1 2020年(令和2年)年3月13日に内閣から国会に提出された国家公務員法等改正案中の検察庁法を改正する提案のうち、全ての検察官について、内閣又は法務大臣の判断により、定年後も最長3年間、勤務を延長し得るとする内容、及び、新たに延長する65歳の定年を待たず、63歳以降、次長検事、検事長、検事正、上席検察官という一定の高位の官職にとどまれないとする原則に対する特例措置として、内閣又は法務大臣の判断によりそれらの官職にとどまることを可能とする内容は、立法事実を欠くうえ、検察官の政治的独立性を侵害するものであり、さらには司法権の独立及び三権分立を侵害する危険をも有するものであるので、当会はこれらの改正に反対する。

2 2020年(令和2年)2月7日に定年を迎えた黒川弘務元検察官について、定年後に東京高等検察庁検事長としての勤務を6か月延長する旨の同年1月31日の閣議による決定は、検察庁法に反し違法かつ無効であり、同年2月18日の閣議において決定された答弁書における、同人を検事総長に任命することも可能であるとの答弁は極めて不適切であるので、当会は内閣に対し、これらをいずれも撤回するとともに、検察庁法に基づいて東京高等検察庁検事長を任命することを求める。

【意見の理由】

第1 はじめに

当会は、2020年(令和2年)3月27日(以下、2020年を指すときは単に月日のみ表示する。)、「検察官の定年後に勤務を延長する旨の閣議決定の撤回を求める会長声明」(以下、「3.27会長声明」という。)を、また4月24日、「検察庁法の改正の一部に反対する会長声明」(以下、「4.24会長声明」という。)を発したところである。

上記閣議決定と検察庁法の改正とは各個独立の事象ではなく、定年後に勤務を延長する閣議決定を一度なしたうえ、法改正によってそのような措置を恒常的に可能としようとするものである。その経緯及び内容からは、法改正の意図が先行の勤務延長決定の違法性を取り繕う点にあることが窺われる。その点において両者は密接に関連していると思われるので、本意見書で改めて両者について論ずることとする。

第2 検察庁法改正案について
1 改正案の概要

内閣は、3月13日、国家公務員法等の一部を改正する法律案を国会に提出した(以下、国家公務員法を「国公法」と略称する。)。

この法律案第4条は検察庁法の一部を改正する内容であり、同法案第4条は検察庁法の一部を次のとおり改正するものである。

①検察官の定年を現行の63歳から65歳へ段階的に引き上げる。

②内閣又は法務大臣が「職務の遂行上の特別の事情を勘案して」、「公務の運営に著しい支障が生ずると認められる事由として」内閣等が定める事由があると認める場合には65歳の定年後も最長3年間、勤務を延長させることができる(以下、「定年後勤務延長制」という。)。

③63歳以降は、原則として次長検事、高検検事長、地検検事正、区検上席検察官という、一定の高位の官職にとどまれなくなる(以下、「役職定年制」という。)。

④役職定年制の特例措置として、前記②と同様の要件がある場合には、63歳以降も定年まで(さらに②によって最長66歳まで)これらの官職を継続できる。

しかしながら、内閣又は法務大臣の判断による全検察官についての定年後勤務延長制(②)と役職定年制の特例措置規定(④)の導入は、以下に見るとおり、政治的思惑の下に恣意的に運用されるおそれが強い不当なものであると言わねばならない。

2 検察庁法の立法趣旨~独立性の確保が必要不可欠であること~

(1) 検察庁法の沿革

検察庁法は、1947年(昭和22年)5月3日、日本国憲法施行にあわせて、国会法、内閣法、裁判所法等とともに、新憲法の下で骨格をなす重要な国家機関を規律する法律の一つとして施行された。大日本帝国憲法下において旧裁判所構成法に規定されていた検事や検事局に関する事項を新法制定によって独立させるとともに、新憲法における司法権独立の強化に応じた内容としたのである(検察庁法を制定した1947年(昭和22年)帝国議会の貴族院検察庁法特別委員会における、同年3月28日の木村篤太郎司法大臣による同法の提案理由説明(国立国会図書館ホームページの帝国議会会議録検索システム。以下、帝国議会の議事の引用に関して同じ。))。

(2) 検察官の強大な権限と地位

検察官は、刑事訴訟において公訴提起の権限を独占し(刑事訴訟法247条)、捜査においても、警察官等に対し指示・指揮をなし得る(同法193条)等、強大な権限を有することによって、行政官でありつつ実質的に刑事司法の一翼を担う。

このような強大な権限を有すること、及びその刑事司法作用に占める司法官に準ずる地位において、検察官は一般職の国家公務員ではあるが、他の一般職国家公務員とは決定的に異なっている。

また、検察官がこのような強大な権限を行使する際には、他の公的権力や社会的勢力からの独立性が確保されていなければ、公平公正な職務遂行をなし得ない。特に、憲法上の政治部門(立法権、行政権)からの独立性が確保されず、特定の政治勢力の意向に影響された権限行使がなされる結果、適正な捜査がなされなかったり、起訴不起訴の判断が左右されたりすれば、司法権の独立と、憲法の基本原理たる三権分立の侵害を来す危険もある。

そこで、検察官が権限を行使するに際しては、独立性、とりわけ政治的独立性の確保が必要不可欠である。

3 検察庁法や国公法の立法及び改正の経緯

(1) 大日本帝国憲法下において、検事の定年は裁判所構成法80条の2が、検事総長65歳、その他の検事63歳という、現在と同じ定年年齢を定めていたが、併せて「但シ司法大臣ハ三年以内ノ期間ヲ定メ仍在職セシムルコトヲ得」との定めがおかれ、司法大臣の判断により検察官の定年後勤務延長が可能とされていた。

しかし、日本国憲法施行にあわせて施行された検察庁法では、22条が、検察官の定年を、検事総長65歳、その他の検察官63歳と定める一方で、検察官の定年後勤務延長を認める規定は置かれなかった。裁判所構成法に置かれていた定年後勤務延長規定が検察庁法に置かれなかったということは、立法者の意思として、検察庁法にあえてこれを引き継がせなかったということを意味する。*1

(2) 1947年(昭和22年)、検察庁法に6か月後れて国公法が制定された。その際、「一般職の国家公務員の職務と責任の特殊性に基づいて国公法の特例を要する場合には別に法律等によって規定できる」とする国公法附則13条が規定され、また、検察庁法22条を含む検察庁法の一部の条文は、「国公法附則13条の規定により、検察官の職務と責任の特殊性に基づいて、国公法の特例を定めたものである」とする検察庁法32条の2が検察庁法改正により追加された。これらにより、検察庁法22条は国公法の特例であることが、国公法と検察庁法の双方の条文上において、明確にされた。

検察庁法32条の2にいう検察官の職務と責任の特殊性について、同条を追加する改正がなされた際の参議院法務委員会における政府答弁(1949年(昭和24年)5月11日、参議院法務委員会における政府委員・高橋一郎法務庁検務局長の答弁。国立国会図書館ホームページの国会会議録検索システム。以下、国会議事の引用について同じ。下線部は引用者による。)では、「第32條の2は、檢察官は、刑事訴訟法により、唯一の公訴提起機関として規定せられております。従って、檢察官の職務執行の公正なりや否やは、直接刑事裁判の結果に重大な影響を及ぼすものであります。このような職責の特殊性に鑑み、従来檢察官については、一般行政官と異り、裁判官に準ずる身分の保障及び待遇を與えられていたのでありますが、國家公務員法施行後と雖も、この檢察官の特殊性は何ら変ることなく、従ってその任免については、尚一般の國家公務員とは、おのずからその取扱を異にすべきものであります。よって、本條は、國家公務員法附則第十三條の規定に基き、檢察廳法中、檢察官の任免に関する規定を國家公務員法の特例を定めたものとしたのであります。」と説明されている(この政府答弁を、以下、「49年検務局長答弁」という。)。

この点は、検察庁法の解釈に際し実務上最もよく参照されている『新版検察庁法逐条解説』180頁でも、同様に解説されている。*2

(3) 国公法には当初、定年制が定められておらず、当初から定年制を定めていた検察庁法と異なっていたが、1981年(昭和56年)の国公法改正により、定年制度が導入された。この改正案の国会審議における政府答弁(以下、「81年答弁」という。)では、改正国公法の定年後勤務延長規定を含む定年制は検察官に適用されないことが明言された。*3

(4) このような立法、及び法改正の経緯を通じ、検察庁法22条による検察官の定年規定は、検察官の職務と責任の特殊性による国公法の特例とされてきた。この職務と責任の特殊性とは、49年検務局長答弁に示されているとおり、検察官が公訴提起の権限を独占し、職務執行の公正か否かが直接刑事裁判の結果に重大な影響を及ぼすものであることを指す。そのため、上記第2の2で論じたとおり、検察庁法の重要な立法趣旨としての、検察官の職権行使の独立性の確保が不可欠なのである。それゆえ、やはり49年検務局長答弁に示されているとおり、検察官には一般行政官と異なり、特別職である裁判官に準ずる身分保障と待遇が与えられ、国家公務員法の施行に関わらず、他の一般職国家公務員とは異なる取扱いがなされてきたのである。

4 定年後勤務延長制と役職定年制の特例措置とを導入する立法事実を欠くこと

立法目的及びその達成手段の合理性を裏付ける社会的・経済的・文化的な事実を立法事実という。新規の立法にせよ、法改正にせよ、国会の立法にあっては当該立法をなすに足るだけの立法事実が必要である。

検察庁法改正案中の定年後勤務延長規定及び役職定年制の特例措置としての63歳以降の役職継続規定の要件は、内閣又は法務大臣の判断により、定年退官すべき検察官の「職務の遂行上の特別の事情を勘案して、」当該検察官の「退職により公務の運営に著しい支障が生ずると認められる事由として内閣が定める事由」(又は「法務大臣が定める準則」)がある、というものである。

しかし、これらの要件はいずれも、検察官の職務遂行原理としての検察官一体の原則に反するものである。

検察官一体の原則とは、検察官は、検事総長を頂点とした指揮命令系統に服する統一的な組織に属する全ての検察官が一体となって職務を遂行し、職責を果たすという原則である。

この原則によって、特定の検察官によってしか担い得ない職務は観念できないとされる。従って、検察官にあっては、改正国公法81条の7第1号(現行国公法81条の3)や検察庁法改正案9条3項、同5項ただし書き、22条2項、同3項、同5項等が規定するような「職員の職務の遂行上の特別の事情」により、「当該職員の退職により公務の運営に著しい支障が生ずる」ような事態はそもそも観念されない。現に、従前、検察官の職務はこの原則に沿って遂行されてきている。一見すれば定年退官や転勤によって支障が生じかねない場合にあっても、引継ぎを十分に行うとか、そもそも定年時期や転勤時期を控えた検察官にはそれらの時期をまたぐような職務を担当させないとかの組織的工夫によって、支障が生じるのを回避してきたものと思われる。

今般の国公法改正案について、当初、この改正案に関する内閣法制局の審査を終え、法案を確定させた時点では、検察庁法を改正する部分に、定年後勤務延長制の導入(②)と役職定年制の特例措置規定(④)は含まれていなかった(2020年(令和2年)4月16日衆議院本会議における森法相の答弁等)。これは、検察庁や法務省が、法改正の必要はないと考えていたことを意味する。

このように、内閣又は法務大臣の判断による全検察官についての定年後勤務延長制(②)と役職定年制の特例措置規定(④)の要件は、検察官一体の原則に反する事態を想定するものであって、そもそも、検察官の職務遂行原理にそぐわない。そのような制度を導入すべき立法事実はないということに帰する。

5 改正案による検察官の政治的独立の侵害の深刻な影響

(1) 全検察官についての定年後勤務延長制の導入(②)による影響

検察庁法改正により導入が図られている全検察官についての定年後勤務延長制の導入(②)は、勤務延長の要件がそもそも検察官の職務遂行原理に反し、かつ抽象的であるうえ、その定立及び充足性の判断を、内閣からの一定の独立性を有する人事院ですらなく内閣又は法務大臣に委ねていることから、制度に内在する欠陥として、その実際の運用が恣意的になされるおそれがある。例えば、内閣や法務大臣、その政治的存立母体としての政権与党やこれに連なる政治勢力の意向に沿う検察官のみについて定年後も勤務延長を認め、それ以外の検察官については認めないとする運用も可能だからである。そして、規定の適用が最長3年に及ぶという効果の大きさから、人事管理上の効果も大きなものがあると思われる。この点において、全検察官についての定年後勤務延長制には、制度上の重大な欠陥があると言わざるを得ない。

憲法の基本原理たる国民主権を実現する方途として、わが国は政党政治制によっており、内閣の成立や法務大臣の選任には政治的影響が及ぶことが予定されている。そうであるからこそ検察官の政治的独立性を確保する必要性があることは本意見書第2の2の(2)で論じたとおりであるが、定年後勤務延長の制度について想定され得る上記のような運用においては、そこに政治的影響が介在し、検察官の政治的独立性が侵害されるおそれがある。

検察官の強大な権限は、総理大臣をはじめとする政権与党の要職にある政治家をすら対象として行使され得るものであり、また、その必要があるのに行使されなければそれもまた司法権の公平な作用を担保し得ないという意味で重要なものである。

特に、なされるべき捜査・起訴がなされなければ、司法権を担う裁判所はこれを是正すべき方途を持たない。不当な不起訴を是正するための制度として検察審査会があるが、そもそも捜査段階において適正な捜査がなされていなければ、検察審査会においても必要な証拠収集ができず、検察審査会の審査に支障を来すこととなる。

定年後勤務延長制の制度的欠陥により、時の政治権力者やこれに連なる者の犯罪行為についてなすべき捜査・起訴がなされず、逆に、その政敵とされる者に対して捜査・起訴の権限が過大に行使される等、検察官の強大な権限が政治的に利用されるおそれがあるが、そうしたおそれが現実の事態となれば、刑事司法作用の公平が害されることとなる。それは行政権による重大な司法権の侵害である。そしてまた、国民主権の基礎が揺るがされることともなる。

あるいはまた、全国の検察官の取扱う事犯は多岐にわたる。社会的耳目を集めるような巨大犯罪から、多くの国民が知ることもないような軽微事犯にまで広範囲に及ぶ。後者についても、検察官の職務が公正に遂行され、刑事司法作用の公平が確保されなければならないことはもちろんである。しかし、定年後勤務延長の制度が恣意的に運用され、検察官の職務遂行に政治的影響が及べば、政治的影響の有無、強弱によって起訴不起訴の判断が左右されるといった公平を欠く取扱いが広範に行われないとも限らない。政治家を対象とする巨大贈収賄事件等と異なり、社会的に目立つことはないが、こうした取扱いが全国に及ぶ危険すらあることを考えると、検察官の強大な権限行使がその根幹部分において政治的独立性を害され、公平を失していくことともなりかねない。こうした点において、全検察官についての定年後勤務延長制は、重大な欠陥を内包する制度であると言わざるを得ない。

かつまた、検察官の権限行使の公平について国民が疑念を抱くこととなれば、実際には公平に権限が行使されている場合も含めて、検察官の職務遂行に対する国民の信頼を保つことも困難である。ことは検察のあり方そのものに関わる。

(2) 役職定年制の特例措置(④)による影響

また、法改正により、役職定年制の特例措置としての63歳以降の役職継続規定(④)が導入されれば、やはり、その実際の運用は恣意的になされるおそれが大きい。次長検事、検事長、検事正、上席検察官は、63歳で役職を解かれるか、役職を継続できるかの判断権を内閣又は法務大臣に握られ、これを継続するためには内閣等の意向を窺うこととならざるを得ない。そこには、時の政治権力者やそれに連なる者の影響が及ぶ危険が存在すると言わねばならない。

検事長、検事正、上席検察官は当該検察庁の他の検察官及び管轄区域内の検察庁の検察官を指揮監督する。また次長検事はすべての検察官を指揮監督する検事総長を補佐し、検事総長に事故のあるときや検事総長が欠けたときは検事総長の職務を行う者としてすべての検察官を指揮監督する。

従って、検事長、検事正、次長検事の職務遂行に政治的影響が及べば、それを通じ、当該検察官の指揮監督下にある検察官の職務遂行にも政治的影響が及ぶことがあり得る。この場合、政治的影響を受けた捜査、起訴不起訴の判断がより組織的になされることとなる危険がある。こうした点において、役職定年制の特例措置は、重大な欠陥を内包する制度であると言わざるを得ない。

6 結論

以上のとおり、国公法等改正案中、検察庁法を改正する内容のうち、全検察官について内閣等の判断による定年後勤務延長制を導入するとする部分(②)、及び、役職定年制の特例措置として内閣等の判断により一部の検察官についてのみ役職定年を解除し、役職を継続し得るとする部分(④)は、立法事実を欠くうえ、検察官の政治的独立性を害し、行政権による司法権の侵害、憲法の基本原理たる三権分立の侵害を来す危険を有するものであるので、当会は、これらの改正内容について、断固として反対する。

第3 黒川弘務元検察官の定年後の勤務を延長した閣議決定及び同元検察官の検事総長就任を可能とした閣議決定について
1 2つの閣議決定等をめぐる事実経過

1月31日、内閣は、2月7日限りで検察庁法22条が定める定年退官する予定だった黒川弘務東京高等検察庁検事長(当時。以下、「黒川氏」という。)について、一般職の国家公務員の定年後もその勤務を延長させ得ると定める国公法81条の3を適用し(以下、黒川氏についての定年後勤務延長を「本件勤務延長」という。)、6か月間の定年後勤務延長をする旨を閣議決定した(以下、「1.31閣議決定」という。)。

これに対し、81年答弁で示された、検察官の定年には検察庁法22条が適用され、国公法の定年制の規定は適用されない、との政府解釈に反し違法である、等の批判が向けられた。

この国会審議の過程では、森雅子法務大臣(以下、「森法相」という。)が81年答弁の存在を知らなかったことも明らかになった。

他方、81年答弁で示された政府解釈について、人事院給与局長は「現在まで同じ解釈を引き継いでいる。」と答弁した(2月12日の衆議院予算委員会)。

このような事態を受けて、安倍晋三内閣総理大臣(以下、「安倍首相」という。)は、上記人事院給与局長の答弁の翌日である2月13日の衆議院本会議において、上記のような従来の政府解釈の存在を認めたうえで、これを変更し、検察官にも同法同条が適用され、定年延長が可能であると解釈することとした旨の、それまでには行っていなかった説明を行った。

これに対応して、上記人事院給与局長は、同月20日の衆議院予算委員会において、「81年答弁で示された政府解釈を引き継いでいる。」旨の上記答弁を撤回したが、この撤回は、「つい、言い間違えた。」という、わが国の政府委員たる幹部職国家公務員としてはおよそ考え難い答弁によってなされた。

さらに、安倍首相の上記衆議院本会議答弁後には、1.31閣議決定以前になされたという、本件解釈変更をめぐる法務省と人事院の間の協議等についても説明がなされた。ところが、それは、協議結果を記載したとされる文書に日付が記載されていなかったり、必要な文書決裁を経ておらず、決済が口頭でなされたと説明されたりするなど、わが国の官公署における事務処理としてはおよそ信じ難い手法をも含む説明であった。

こうした不可解な経過によって本件勤務延長がなされたことに対して国民各層からの批判が噴出し、また、その目的が黒川氏を次期検事総長に任命することにあるのではないかという強い疑念が向けられた。

そのような中、内閣は、2月18日、黒川氏の検事総長就任も可能であるとする答弁事項を含む答弁書を閣議決定した(以下、この答弁書の一部である当該答弁事項を「2.18答弁」という。)。

本意見書第2で論じた検察庁法の改正案は、こうした経過の中、3月13日に国会提出されたものであり、当初の国公法改正案の検察庁法改正部分には定年後勤務延長制(②)と役職定年制の特例措置規定(④)が含まれていなかったのに後から付加されたこととも併せ考えると、本件定年後勤務延長と関連して先に確定していた国公法改正案に加えられたものと考えられる。そのことは、今般の検察庁法改正案が、本件定年後勤務延長の違法性を取り繕う目的で提案されたものであることを窺わせる。

2 検察官に定年後勤務延長規定は適用できないこと

しかし、3.27会長声明で論じたとおり、検察庁法、国公法の条文の文理解釈、及び、検察庁法の立法趣旨(本意見書第1の2でさらに詳述したもの。)に基づく解釈によれば、検察官に定年後勤務延長規定は適用できない。

1.31閣議決定は、解釈の限界を超えて違法であるばかりか、権力者による恣意的専断的な統治を許さないために、予め定めたルール(法律)による統治をなすべきとする、法律による行政(法治主義)にすら反するものであって、違法かつ無効である。

従って、現在、適法な任命手続きを経た東京高検検事長は存在しない。故に、内閣が適法な東京高検検事長を任命する必要がある。

3 2.18答弁の不適切性

2.18答弁は、黒川氏の検事総長就任を可能としている。この点は、本件勤務延長が黒川氏を検事総長に任命する目的でなされたのではないかという国民の疑念を強め、検察に対する国民の信頼をさらに低下させるものというほかなく、極めて不適切である。

また、国公法81条の3の規定を黒川氏に適用したとする内閣の論理によるとしても、同条が認める定年後勤務延長は、「その職員の職務の特殊性又はその職員の職務の遂行上の特別の事情」によるものであり(同条、下線は引用者による。)、特殊性なり特別の事情なりの判断対象はあくまで東京高検検事長の職務である。検事総長の職務ではない。黒川氏は、特例的に延長された東京高検検事長の勤務を終えれば、検察官としての定年を過ぎている以上、その定年規定に沿って速やかに退官すべき地位にある。検事総長は、すべての検察庁の職員を指揮監督する検察トップとしての性格上、現職の検察官から任命するという実務慣行による限り、その候補に黒川氏を含めるとするのは、違法な定年延長を利用するものであって、断じて許されない。

4 結論

よって、当会は、内閣に対し、違法かつ無効な1.31閣議決定、及び、極めて不適切な2.18答弁を撤回し、改めて適法な決定により、東京高等検察庁検事長を任命することを求める。

以上



*1 1947(昭和22)年3月28日の帝国議会貴族院検察庁法特別委員会における質疑では、検察庁法22条の定年規定が例外を設けない一律規定とされている点について、橋本實斐委員による、例外措置を設けないのかという質問に対して、木村篤太郎司法大臣が例外を設けず一律の定年として提案した旨を答弁している。

*2 「この条は、庁法制定当初は存在しなかったが、国家公務員法の施行に伴い、昭和二四年法律第一三八号による改正で追加されたものであり、検察官の級別、任命資格、欠格事由、定年、適格審査、剰員及び身分保障の規定は、検察官の職責の特殊性に基づき、国家公務員法の施行によって影響を受けず、同法の特例として効力を存続するものとすることを明らかにしたのである」(良書普及会、1986年(昭和61年)、出版当時、検事総長の任にあった伊藤栄樹著、初版は1963年(昭和38年)の同人著『逐条解説検察庁法』。)
*3 「検察官と大学教官につきましては、現在すでに定年が定められております。今回の法案では、別に法律で定められておる者を除き、こういうことになっておりますので、今回の定年制は適用されないことになっております。」(1981年(昭和56年)4月28日、衆議院内閣委員会における、検察官や大学教官に国公法の定年制の適用があるかという質問に対する、政府委員・斧誠之助人事院事務総局任用局長の答弁)。

2018年3月27日

罹災証明書の申請期限の延長についての意見書

平成30年3月27日

朝倉市
朝倉市市長 森田俊介 殿

福岡県弁護士会
会長 作間 功

1 意見の趣旨

罹災証明書(二次調査及び再調査を含む。)の申請について、申請期限を6か月程度延長することが相当である。

2 意見の理由

平成29年7月の九州北部豪雨災害では、豪雨に伴う河川の氾濫により大量の土砂や流木が住宅に流入する等の被害により、多くの住民が、未だに仮設住宅暮らしを余儀なくされています。被災地の復旧・復興は、着実に進んできているとはいえ、未だ途上の段階であります。

住家の被害認定は、災害により被災した住家の「被害の程度(全壊、半壊等)」を認定されるものであり、この認定結果に基づき、被災者の方々に「罹災証明書」が交付されます(災害対策基本法第90条の2)。この証明書の被害認定区分は、被災者生活再建支援金の支給、住宅の応急修理など様々な被災者支援策を受ける際の重要な基準となります。

しかしながら、従来の災害に係る住家の被害認定基準運用指針(以下「旧運用指針」といいます。)は、昨年の九州北部豪雨水害のような大量の土砂や流木が流入するといった水害を、必ずしも想定せずに策定されていたと思われ、住家被害認定の手法として不適当であると指摘されてきました。そのため、九州北部豪雨災害では、被災者の被害実態にそぐわない被害認定がなされていたと思われる事例が数多く散見されており、被災者の生活再建及び被災地の復旧復興が十分に行われていないように思われます。

そうした中、内閣府において、昨年11月から本年3月までの間、九州北部豪雨水害等における経験や知見等を踏まえて旧運用指針を見直すべく、四回にわたって検討会が開催され、この検討結果を受けて、今月23日、旧運用指針が改定されました(改定後の運用指針を「本運用指針」といいます。)。

本運用指針が、九州北部豪雨災害における経験や知見をも踏まえて改定されたという経緯からすれば、平成29年7月九州北部豪雨の被災者の中には、本運用指針を基準とした場合、被害認定の程度が重く認定される被災者がおられることが十分に予測されます。しかしながら、貴市は、罹災証明(二次調査及び再調査を含む。)の申請期限を平成30年3月30日(金)までと区切っておられます。運用指針が改定された以上、貴市は、本運用指針を改定された趣旨を踏まえて、住家被害の認定を行う必要が新たに生じておられます。

そこで、当会は、罹災証明書(二次調査及び再調査を含む)の申請について、申請期限を、本年3月30日ではなく、さらに少なくとも6カ月程度延長することが相当であると考えます。

以上

2017年11月27日

福岡県多重債務者生活再生事業の継続を求める意見書

2017年(平成29年)11月27日
福岡県弁護士会 会長 作間 功

第1 意見の趣旨

福岡県は,平成20年から実施している「福岡県多重債務者生活再生事業」(以下,「本事業」という。)を平成30年度以降も継続すべきである。

第2 意見の理由

1. 福岡県人づくり・県民生活部生活安全課は,本年9月29日に受託者であるグリーンコープ生活協同組合ふくおかに本事業を平成29年度までで終了すると口頭で通知し,同年10月10日付で各市町村長(多重債務相談窓口担当課)宛に事業終了すると通知文を送付したとのことである。

多重債務問題は,貸金業法の改正(総量規制等)により,一時期より沈静化したが,近時は,銀行等が貸金業法13条の2の適用がないことを利用して,貸金業者による保証を付した貸付を行うことにより,再び深刻化しつつある。このことを背景として,本年の本事業による相談窓口の受付件数は,前年(平成28年)の1,747件を大きく越える2,300件(9月までの実績×2)と予測される。

この2,300件という数字は,新しい取組として多くの報道がなされた本事業開始時である平成20年度の3,431件や,偽装質屋による多くの消費者被害が発生した平成24年の相談件数には及ばないものの,過去の平均数を上回るものであり,本事業による相談窓口が県民にとって身近な相談窓口として定着していることを示すものである。

加えて,弁護士・司法書士による債務整理等の相談件数は9月までで149件であり,年間の推計では300件となり,前年の273件を越える実績が予想される。この実態からしても,多重債務相談は減少しておらず,本事業の終了の根拠とはならない。

このように本事業による相談窓口は,多くの福岡県民が多重債務の問題解決に向けて相談を行う窓口になっているのであるから,それを閉ざすべきでない。

2. 本事業では,県内4つの相談室(福岡,北九州,直方,久留米)で相談を受けているが,多重債務者が相談に来易いように身近な自治体との連携で出張相談会が開催されている。具体的には,昨年31の県内自治体との連携により71回の出張相談会を実施し,111件の面談を受けている。

多重債務者にとって,自ら積極的に相談窓口を探すことは負担であるから,身近な相談機会の周知はアウトリーチの取り組み・相談者の発見としても有効である。同様に出張相談会を開催している自治体の開催要望は強く,相談会の広報や会場の手配等の協力や自治体の機関との連携も図れており,無くてはならないものに定着している。本事業が終了すれば,住民の身近な相談機会が無くなるとともに,自治体にとっても継続的な支援や代替措置は容易に取れない。

従って,県民にとって身近な相談機会を奪うべきではない。

3. 本事業は,貸付事業を中核とした事業である。貸付を行う前提として,多重債務者へのカウンセリング,アセスメントを行い,相談者の家計の状況の把握とそうなった背景を相談者と共有した上で,債務の整理を前提に家計の見直しや,滞納の解消,不足する生活資金の貸付を行っている。

このように,多重債務問題を入り口として生活全体を再生していくことを目的とする機関は少なく,支援のネットワークの中での重要な位置を占めている。かつて多重債務問題が深刻な社会問題になった時期に国の多重債務問題改善プログラムがまとめられ,その対策方針の中の顔の見えるセーフティネット貸付が重要視されたが,福岡県はこれに着目して,全国で最初に,相談・貸付・金銭教育・悪徳商法被害救済の総合的な事業として,本事業を開始したものである。

本事業による貸付を受けている相談者は,既に債務不履行状態にあり信用情報が悪化しているため,どこからも借り入れができない者が全体の貸付のうち実に82%(29年上半期)に及んでいる。このように,本事業は,多重債務者に対する貴重な貸付機関として機能している。実際,多重債務者は貸付によって問題解決を図ろうとする傾向が強く,貸付がある相談窓口で,相談者との対話により,生活上の問題点を明らかにした上での貸付を契機にする本事業による生活再建活動は,多重債務問題を解決するためには極めて有効である。

加えて,近年は,銀行のカードローンによる多額の債務が多くなってきている。平成28年度における501万円から1000万円の債務を抱えている相談者は,2年前と比べて2.5ポイント増加しているし,法律家による債務整理相談の内,自己破産の割合は43%と5.2ポイント増加していることがその傾向を表している。銀行のカードローンによる多額の債務を抱えた多重債務問題として社会的な問題になりつつあり,多重債務生活再生事業はこの問題にも対応できている。

多重債務者の生活再生は,単に多重債務者が抱えている返済不可能な債務の解消を行なえば済むものではない。同時に抱えている家賃や税金,公共料金の滞納の問題や当面の生活資金の不足,学費や車検の費用の不足等,様々な問題をも解決する必要があるのである。本事業は,生活資金の貸付を行なう点で「顔の見えるセーフティネット貸付機関」として特徴あるものであり,この貸付業務を梃子にして多重債務者が抱えている様々な課題に対してカウンセリングやアセスメントを行なって各支援機関と連携して生活の再生に向かえるように伴走する事業である。このように,多重債務者の支援のネットワークの重要な位置を占める本事業を終了すべきではない。

4. 平成27年から生活困窮者自立支援法が施行され,自立相談支援事業を中核にして支援事業が始まっている。その中の家計相談支援事業は,家計管理により生活の課題を解決していくものとして多重債務者生活再生事業と類似している。しかし,この家計相談支援事業は県内の全ての自治体では実施しておらず,全県民対象の多重債務生活再生事業の代替とはならない。

加えて,家計相談支援事業は貸付を伴っておらず,その意味でも代替とはならない。

多重債務者や生活困窮者の問題は生命に関わる深刻な問題である。特に,多重債務者は生活困窮状態にあり,DVや虐待,ネグレクト等の複合的な課題を抱えている場合が多い。

県民生活の安全を所管する部署は,本事業が県民に対するいわば生命にかかわる事業であることを十分考慮して,慎重な判断をすべきである。従って,本事業の重大な変更をするためには,上述の本事業の実施状況を正確に把握した上で,本事業を仮に廃止した場合に,県民生活にどのような影響が及ぶのかを慎重に検討し,代替措置が十分可能かも含めて判断するべきである。従って,本事業の存続の可否については,手続的には,一番現場を把握している受託者や福岡県消費生活審議会で,事業の方向性について検討した後に行うことが必要不可欠である。

そのような手続的配慮も欠いたまま,本事業を廃止すべきではない。

よって,福岡県は,平成30年度以降も本事業を継続すべきである。

以  上

2017年9月13日

消費者契約法の改正にかかる意見

平成29年(2017年)9月13日

内閣総理大臣 安倍 晋三 殿

衆議院議長 大島 理森 殿

参議院議長 伊達 忠一 殿

内閣府特命担当大臣(消費者及び食品安全) 江崎 鐵磨 殿

消費者庁長官 岡村 和美 殿

内閣府消費者委員会委員長 高 巖 殿

内閣府消費者委員会消費者契約法専門調査会座長 山本 敬三 殿

福岡県弁護士会
会長  作間 功

消費者契約法の改正にかかる意見

2000年(平成12年)4月に制定された消費者契約法(以下「法」という。)については,法施行後の消費者契約に係る苦清相談の処理例及び裁判例等の情報の蓄積を踏まえ,情報通信技術の発達や高齢化の進展を始めとした社会経済状況の変化への対応等の観点ら,2016年(平成28年)5月25日において法改正が行われた。

しかし,この改正にあたっては,内閣府消費者委員会(以下「消費者委員会」という。)および同委員会の下に設置された消費者契約法専門調査会(以下「専門調査会」という。)において多岐にわたる項目についての検討がなされたものの,法改正として実現したのは僅か6項目に止まり,「勧誘」要件の在り方,不利益事実の不告知,困惑類型の追加,「平均的な損害の額」の立証責任,条項使用者不利の原則,不当条項等の追加等については,引き続き検討を行うべきものとされた。そして,その後の検討を踏まえ,2017年(平成29年)8月4日に専門調査会が報告書(以下「本報告書」という。)をとりまとめ,同月8日,消費者委員会は,さらなる意見を付したうえで,内閣総理大臣に対する答申を行うに至った。

現在,成年年齢の引下げに関する民法改正の動きが加速するなか,知識や経験の不足した若年成人をめぐる消費者被害の増加が懸念され,また認知症等により判断力の不十分な高齢者をめぐる消費者被害の防止及び救済が,もはや一刻の猶予もない状況にあるとともに,消費者庁において新たな法改正作業が進められていることに鑑み,当会として,下記のとおり意見を述べる。

第1 意見の趣旨

本報告書に示された消費者契約法の見直しにかかる専門調査会の提言については,消費者被害の防止及び救済の促進という観点から一定の評価をすることができるものである。しかし,その提言をもって,消費者被害の防止及び救済に対する十分な措置が講じられたものと結論づけることはできない。特に,本報告書を受けた消費者委員会の答申において敢えて付言されているとおり,「特に早急に検討し明らかにすべき喫緊の課題」が残されており,また本報告書の提言内容についても,より適切かつ妥当な対応をなすべきものと考えられる点が少なくない。

そこで,以下においては,本報告書にもとづいて,その検討すべき各論点についての意見を述べることにする。

第2 意見とその理由
1. 事業者の努力義務について(法3条第1項関係)

【意 見】

(1) 契約条項の解釈について疑義が生ずることのないよう配慮すべき事業者の努力義務を規定する本報告書の提言については,これに賛成する。

しかし,より適切には,契約条項の内容が不明確であり,解釈に疑義が生じた場合につき,消費者にとって有利な解釈をとるべきものとする旨の解釈準則(「条項使用者不利の原則」又は「消費者有利解釈の原則」)を明確に規定すべきである。

(2) 当該消費者契約の目的となるものの性質に応じ,当該消費者契約の目的となるものについての知識及び経験についても考慮した上で,消費者の権利義務その他の消費者契約の内容についての必要な情報を提供するよう努めなければならない旨の事業者の努力義務を規定する本報告書の提言については,これに賛成する。

しかし,より適切には,事業者の法的義務として適合性原則を明文化し,当該契約の目的となる商品及び役務などにつき,当該消費者の知識,経験,年齢などに基づくその判断力に応じて必要かつ合理的な配慮を行わなければならない旨の適合性原則を事業者の法的義務として明確に規定すべきである。

【理 由】

(1) 契約条項の内容が不明確であり,その解釈に疑義が生じた場合につき,諸外国においては,消費者にとって有利に解釈すべきものとする解釈準則(「条項使用者不利の原則」又は「消費者有利解釈の原則」)が確立している。消費者契約における事業者と消費者の情報や交渉力の格差などに鑑みるならば,わが国においても同様の解釈準則を明文において規定することが,公平の理念からみて妥当である。

(2) 消費者と事業者の情報に格差が存在する現状においては,事業者に積極的な情報提供を義務付けるのみならず,当該契約の目的となる商品や役務に関する当該消費者の知識や経験に応じた適切な情報の提供を義務づけることによって,質及び量における情報の格差を実質的に是正することが必要である。

〔参 考〕

本報告書12頁,13頁

契約条項の明確化の努力義務を定めた法第3条第1項を改正し,事業者は,消費者契約の条項を定めるに当たっては,消費者の権利義務その他の消費者契約の内容が消費者にとって明確かつ平易なものになり,また,条項の解釈について疑義が生ずることのないよう配慮するよう努めなければならない旨を明らかとすることとする。

事業者の情報提供の努力義務を定めた法第3条第1項を改正し,当該消費者契約の目的となるものの性質に応じ,当該消費者契約の目的となるものについての知識及び経験についても考慮した上で,消費者の権利義務その他の消費者契約の内容についての必要な情報を提供するよう努めなければならない旨を明らかとすることとする。

2. 不利益事実の不告知における主観要件について(法第4条第2項関係)

【意 見】

不利益事実の不告知による取消しの要件につき,「故意」のみならず「重大な過失」を追加する本報告書の提言については,これに賛成する。

しかし,より適切には,不利益事実の不告知による取消しにつき,不告知者の故意過失を要件から削除すべきである。

【理 由】

(1) 不利益事実の不告知による取消しにつき,不告知者の故意過失を要件とすることは,その立証責任が消費者にあることから,消費者に困難を強いるものである。しかし,「故意」のみならず,「重大な過失」を要件に追加するならば,主観的要件にかかる消費者の立証責任を緩和するものであって,消費者被害の防止及び救済を促進するという観点において妥当であるが,その主張立証の困難性は,依然として解消されていない。

(2) 現行法上,不実告知による取消しについて,不実告知者の故意過失は要件とされておらず(法4条第1項第1号),「不作為による不実告知」とも言うべき不利益事実の不告知について,不告知者の故意過失を要件とすることに合理性は認められない。

(3) したがって,不利益事実の不告知による取消しにつき,不告知者の主観的要件を削除し,不利益事実の不告知という客観的事実のみをもって,その要件とすべきである。

〔参 考〕

本報告書3頁

不利益事実の不告知(法第4条第2項)の主観的要件に「重大な過失」を追加することとする。

3. 合理的な判断をすることができない事情の利用にかかる困惑類型の追加について(法第4条第3項関係)

【意 見】

(1) ①消費者の不安を煽る告知及び②勧誘目的で新たに構築した関係の濫用につき,これらを合理的な判断をすることができない事情の利用にかかる困惑類型(法第4条第3項)に追加する本報告書の提言については,これに賛成する。

(2) 本報告書において提言された上記(1)の①及び②に加え,合理的な判断をすることができない事情の利用にかかる困惑類型(法第4条第3項)につき,年齢又は障害などによる消費者の判断力の不足に乗じた勧誘行為を追加すべきである。

【理 由】

(1) 本報告書の提言する合理的な判断をすることができない事情の利用にかかる困惑類型の追加によって,いわゆる霊感商法,就職セミナーへの勧誘,恋人商法といった消費者被害につき,その防止及び救済の範囲を拡大することが期待される。

(2) 法第4条第3項は,事業者が消費者の合理的な判断ができない事情を作出又は増幅させ,その状況を不当に利用した勧誘行為(いわゆる「作出型勧誘行為」)について困惑類型として定めるものであり,本報告書の提言においても,事業者が消費者の合理的な判断ができない事情を利用したにすぎない勧誘行為(いわゆる「つけこみ型勧誘行為」)は対象とされていない。

特に,認知症など高齢者の判断力不足に乗じた不当な勧誘行為による消費者被害が著しく増加しているほか,政府は,2017年(平成29年)8月4日,民法における成年年齢を18歳に引き下げる民法改正法案を秋の臨時国会に提出する方針を明らかにしており,成年年齢の引下げによって,知識や経験不足などにより合理的な判断をすることができない若年成人をめぐる消費者被害の増加が懸念されており,これら高齢者及び若年者に対する消費者被害の防止と救済は,喫緊の課題であると言わなければならない。すなわち,合理的な判断をすることができない事情の利用にかかる困惑類型(法第4条第3項)として,年齢又は障害などによる消費者の判断力の不足に乗じた勧誘行為を規定することは,今回の法改正における最も重要な課題である。

〔参 考〕

本報告書

事業者の一定の行為によって消費者が困惑して意思表示をしたときの取消権を規定した法第4条第3項において,下記①及び②のような趣旨の規定を追加して列挙することとする。

① 当該消費者がその生命,身体,財産その他の重要な利益についての損害又は危険に関する不安を抱いていることを知りながら,物品,権利,役務その他の当該消費者契約の目的となるものが当該損害又は危険を回避するために必要である旨を正当な理由がないのに強調して告げること

② 当該消費者を勧誘に応じさせることを目的として,当該消費者と当該事業者又は当該勧誘を行わせる者との間に緊密な関係を新たに築き,それによってこれらの者が当該消費者の意思決定に重要な影響を与えることができる状態となったときにおいて,当該消費者契約を締結しなければ当該関係を維持することができない旨を告げること

判断力の不足等を不当に利用し,不必要な契約や過大な不利益をもたらす契約の勧誘が行われる場合等の救済については,重要な課題として,民法の成年年齢の引下げの存否等も踏まえつつ,今後も検討を進めていくことが適当である。

4. 心理的負担を抱かせる言動等にかかる困惑類型の追加について(法第4条第3項関係)

【意 見】

①消費者が意思表示をする前に,事業者が履行に相当する行為を実施し,契約を強引に求めること,②事業者が消費者に契約の締結を目的とする行為を実施し,当該消費者が契約締結の意思表示をしないことによって損失が生じることを正当な理由がないのに強調して告げることにつき,これらを心理的負担を抱かせる言動等にかかる困惑類型(法第4条第3項)に追加する本報告書の提言については,これに賛成する。

ただし,意思表示前における履行に相当する行為の実施にかかる取消しの対象となる事業者の行為につき,「契約における義務の全部又は一部の」履行に相当する行為」のみならず,当該契約と密接な関連を有する付随行為を含む旨を明確に規定すべきである。

【理 由】

意思表示前における履行に相当する行為の実施及び契約拒絶による損失の強調につき,心理的負担を抱かせる言動等にかかる困惑類型(法第4条第3項)として追加することは,消費者被害の防止及び救済を促進するという観点において妥当である。

しかし,意思表示前の履行に相当する行為については,当該契約の前提として密接な関連を有する付随行為がなされた場合においても,消費者の心理的負担に乗じて契約を迫る点に変わるところはなく,これらの場合についても契約取消しの対象とすべきである。

〔参 考〕

本報告書

事業者の一定の行為によって消費者が困惑して意思表示をしたときの取消権を規定した法第4条第3項において,下記①及び②のような趣旨の規定を追加して列挙することとする。

① 当該消費者が消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示をする前に当該消費者契約における義務の全部又は一部の履行に相当する行為を実施し,当該行為を実施したことを理由として当該消費者契約の締結を強引に求めること

② 当該事業者が当該消費者と契約を締結することを目的とした行為を実施した場合において,当該行為が当該消費者のためにされたものであるために,当該消費者が当該消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示をしないことによって当該事業者に損失が生じることを正当な理由がないのに強調して告げ,当該消費者契約の締結を強引に求めること

5. 後見開始等の審判を受けたことを理由とする解除権付与にかかる不当条項類型の追加について

【意 見】

消費者が後見開始,補佐開始または補助開始の審判を受けたことのみを理由として事業者に解除権を付与する条項につき,不当条項類型として無効であるものとする本報告書の提言については,これに賛成する。

ただし,「後見開始,補佐開始または補助開始の審判を受けたことのみ」ではなく,「後見開始,補佐開始または補助開始の審判を受けたこと」を契約の解除事由とする条項につき,不当条項類型として無効である旨を規定すべきである。

【理 由】

後見開始等の審判を受けたことをもって契約の解除事由とすることに,何ら合理性は認めらない。したがって,後見開始等の審判を受けたことのみを契約の解除事由とする条項をもって不当条項類型として無効である旨を定める本報告書の提言は,消費者被害の防止及び救済を促進するという観点において妥当である。

しかし,後見開始等の審判を受けたこと「のみ」をもって不当条項の要件とするならば,後見開始等の審判を受けたことを解除事由の一つとして考慮することは許されることになる。

そこで,「後見開始,補佐開始または補助開始の審判を受けたことのみ」ではなく,「後見開始,補佐開始または補助開始の審判を受けたこと」を契約の解除事由とする条項につき,不当条項類型として無効である旨を規定すべきである。

〔参 考〕

本報告書

消費者契約が,物品,権利,役務その他の消費者契約の目的となるものの対価を消費者が支払うことを内容とする場合において,当該消費者が後見開始,保佐開始又は補助開始の審判を受けたことのみを理由として事業者に解除権を付与する条項を無効とする旨の規定を設けることとする。

6. 事業者への決定権限付与にかかる不当条項類型の追加について

【意 見】

事業者の損害賠償の責任を免除する条項の無効(法第8条)及び消費者の解除権を放棄させる条項の無効(法第8条の2)の潜脱を可能とするような事業者の決定権限付与条項につき,不当条項類型として無効であるものとする本報告書の提言については,これに賛成する。

しかし,より適切には,事業者が契約の内容を事後的かつ一方的に決めることを許容する条項(「事業者への解釈権限付与条項・決定権限付与条項」)そのものにつき,不当条項類型として無効である旨を規定すべきである。

【理 由】

本報告書に列挙された条項は,実質的には,「事業者への解釈権限付与条項・決定条項」とされるものであり,これらの条項を不当条項類型として無効であるとする本報告書の提言は,消費者被害の防止及び救済の範囲を拡大するものとして妥当である。

しかし,より適切には,「事業者への解釈権限付与条項・決定条項」とされる条項を各別に列挙して規定するのではなく,「事業者への解釈権限付与条項・決定条項」そのものを不当条項類型として規定し,事業者が契約の内容を事後的かつ一方的に決めることを許容する条項そのものにつき,不当条項類型として無効とする旨を規定すべきである。

〔参 考〕

本報告書

次に掲げる消費者契約の条項は無効とする旨の規定を設けることとする。

ア 事業者の債務不履行により消費者に生じた損害を賠償する責任の要件に該当するか否かを決定する権限を事業者に付与する条項

イ 消費者契約における事業者の債務の履行に際してされる当該事業者の不法行為により消費者に生じた損害を賠償する責任の要件に該当するか否かを決定する権限を事業者に付与する条項

ウ 事業者に債務不履行がある場合に消費者の契約を解除する権利の要件に該当するか否かを決定する権限を事業者に付与する条項

7. 不当条項としての「サルベージ条項」について

【意 見】

ある条項が強行法規に反し無効となる場合に,その条項の効力を強行法規によって無効とされない範囲に限定する旨の条項(いわゆる「サルベージ条項」)につき,不当条項類型として無効である旨を規定すべきである。

【理 由】

サルベージ条項は,その存在によって消費者が不当条項の無効主張を諦めることとなり,結果として不当条項を甘受しかねないものとして,信義則に反して消費者の利益を一方的に害するものである。

〔参 考〕

本報告書

サルベージ条項を現時点で不当条項として規律するのではなく,サルベージ条項の使用状況や裁判例の状況等を踏まえた上で,今後の課題として,必要に応じ検討を行うべきである。

8. 不当条項としての賠償責任の一部を免除する条項について

【意 見】

事業者の軽過失による消費者の生命又は身体の侵害に対する損害賠償にかかる賠償責任の一部を免除する条項につき,不当条項類型として無効である旨を規定すべきである。

【理 由】

人の生命及び身体は要保護性の高い重要な法益であり,本来,合意による処分に適するものではない。

〔参 考〕

本報告書

軽過失による人身損害の一部免責条項に関する規律については,当面は法第10 条の解釈・適用に委ねつつ,その状況等を踏まえた上で,今後の課題として,必要に応じ検討を行うべきである。

9. 「平均的な損害の額」の立証に関する規律の在り方について(法第9条第1号関係)

【意 見】

「事業の内容が類似する同種の事業者に生ずべき平均的な損害の額」を消費者が立証したことにより,「当該事業者に生ずべき平均的な損害の額」が立証されたものとする推定規定を導入する本報告の提言については,これに賛成する。

しかし,より適切には,「平均的な損害」にかかる立証責任を事業者に転換する旨を法律上規定すべきである。

【理 由】

消費者において「平均的な損害の額」及びこれを「超えること」を主張立証すべきものとする判例の立場(最判平成18年11月27日民集60巻9号3437頁)においても,「平均的な損害」にかかる推定規定の導入は,消費者の立証困難性を緩和するものとして妥当である。

しかし,「事業の内容が類似する同種の事業者」にかかる類似性要件を厳格に要求するならば,この推定規定が働く余地は大きく制約されることとなり,当該事業者に生ずべき平均的な損害の額を算定するのに必要な帳簿などの資料が当該事業者の元にあることを考えるならば,「平均的な損害」にかかる立証責任については,立証責任の公平な分配という観点から,これを事業者に転換する旨を法律上規定すべきである。

〔参 考〕

本報告書

法第9条第1号の「平均的な損害の額」に関し,消費者が「事業の内容が類似する同種の事業者に生ずべき平均的な損害の額」を立証した場合には,その額が「当該事業者に生ずべき平均的な損害の額」と推定される旨の規定を設けることとする。

10. 「平均的な損害」における損害の範囲について(法第9条第1号関係)

【意 見】

契約解除後に履行期が到来する役務等の逸失利益につき,原則として「平均的な損害」に含まれない旨を規定すべきである。

【理 由】

契約解除後に履行期が到来する役務等が解除された場合において,事業者はその未履行分の履行義務を免れることから,損益相殺により,逸失利益は,原則として,生じないものというべきである。

〔参 考〕

本報告書

〔前略〕実態把握や分析を更に積み重ねた上で,「解除に伴う」要件の在り方や「平均的な損害の額」の意義など法第9条第1号に関する他の論点と併せて,今後の課題として,必要に応じ検討を行うべきである。

11. 約款の事前開示について(法第3条関係)

【意 見】

約款による消費者契約について,事業者は,契約締結前において,約款を消費者に開示すべきことを原則とする旨を規定すべきである。

【理 由】

約款による消費者契約にあっても,その法的拘束力の根拠は,契約当事者間における意思の合致であり,約款に法的拘束力が認められるためには,当該約款が契約締結時までに消費者に開示され,あるいは当該約款が消費者の知ることのできる状態に置かれなければならない。

〔参 考〕

本報告書

約款の事前開示については,消費者に対する契約条項の開示の実態を更に把握することなどを経た上で,今後の課題として,必要に応じ検討を行うべきである。

第3 おわりに

今回の法改正においては,2014年(平成26年)8月5日の消費者委員会に対する内閣総理大臣の諮問に示された「情報通信技術の発達や高齢化の進展を始めとした社会経済状況の変化への対応等の観点」とともに,2017年秋の臨時国会に民法改正法案の提出が予定されている成年年齢の引下げに伴う若年者保護の必要性という視点を踏まえなければならない。

その点において,「判断力の不足等を不当に利用し,不必要な契約や過大な不利益をもたらす契約の勧誘が行われる場合等の救済については,重要な課題として,民法の成年年齢の引下げの存否等も踏まえつつ,今後も検討を進めていくことが適当である。」として,最も重要な課題を先送りした本報告書は,きわめて不十分なものであると言わざるをえない。

そして,これに対し,消費者委員会が,その答申において,「合理的な判断をすることができない事情を利用して契約を締結させるいわゆる『つけ込み型』勧誘の類型につき,特に,高齢者・若年成人・障害者等の知識・経験・判断力の不足を不当に利用し過大な不利益をもたらす契約の勧誘が行われた揚合における消費者の取消権」について,「早急に検討し明らかにすべき喫緊の課題」であることを敢えて付言したことは,きわめて重く受け止めなければならない。

仮に,今回の法改正において,高齢者・若年成人・障害者等の知識・経験・判断力の不足へのつけ込み型勧誘類型についての立法化がなされなかったとしても,本報告書は,これらに対する立法措置が不要であると判断したものではなく,政府において直ちにさらなる法改正の検討を開始すべきである。

2015年12月17日

少年法の成人年齢引下げ問題に関する意見(法務省の意見募集に関して)

第1 意見の趣旨
 1 少年法第2条1項の定める「成人」の年齢を現行の20歳から引き下げるべきではない。
 2 若年者に対する刑事法制の在り方について検討を行うときも,少年法の成人年齢の引下げ問題とは切り離し,別途議論すべきである。

第2 意見の理由
1 公職選挙法の改正に伴い,少年法第2条1項が定める「成人」年齢について,これを引き下げるべきか否かの議論がある。
しかし,当会の本年6月25日付「少年法適用対象年齢引下げに反対する会長声明」で詳しく指摘したとおり,法律の適用対象年齢は,各法律の立法趣旨に照らして個別具体的に検討すべきであり,少年法の適用対象年齢についても,18歳・19歳の少年は未成熟であり,再犯防止策としては刑罰を科すよりも保護処分に付する方が適切であるとの立法趣旨に照らし,そして,子ども・若者の成長発達ないし最善の利益と犯罪予防などの社会全体の利益を実現する観点から,個別具体的に検討すべきである。そして,現行少年法の手続と教育的な処遇や環境調整等は再犯防止に効果を挙げるなど,有効に機能しているため,現行少年法が適用対象年齢を旧少年法(大正14年制定)の18歳未満から20歳未満へと引き上げた趣旨について,現時点においてこれを変更すべき合理的な理由は存在しない。適用対象年齢の引下げは,18歳・19歳の少年がこれまで受けることができた教育的な働きかけや環境の調整という機会を奪うこととなり,その結果,少年の立ち直り・更生の機会を奪い,再犯の可能性を高める結果を引き起こしかねず,少年にとっても社会にとっても不利益な結果となりかねない。
よって,少年法の「成人」年齢は引き下げるべきでない。

2 この点,自由民主党の政務調査会が本年9月17日に取りまとめた「成人年齢に関する提言」は,少年法の「成人」年齢について,「国法上の統一性や分かりやすさといった観点から,少年法の適用対象年齢についても,満18歳未満に引き下げるのが適当である」とする。
しかし,上記提言も,国民年金の支払義務や児童福祉法に定める児童自立生活援助事業における対象年齢などの諸法令については適用年齢引下げの対象外とし,飲酒・喫煙や公営ギャンブルについては適用年齢引下げの是非を引き続き検討するとしているように,やはり,法律の適用年齢は,各法律の立法趣旨に照らして個別具体的に検討すべきものである。上記提言の「国法上の統一性や分かりやすさ」との観点は,少年法の適用年齢を変更する根拠としては極めて薄弱であり,不十分であるといわざるを得ない。
そして,上記提言も認めるとおり,罪を犯した者の社会復帰や再犯防止という点で,現行少年法の保護処分が果たしている機能には大きなものがある以上,少年法の適用対象年齢を引き下げる必要はない。

3 法務省は,上記提言を受け,「若年者に対する刑事法制の在り方全般に関する意見募集」を行っているが,当会としては,以上の理由から,少年法の「成人」年齢の引下げについて,改めて強く反対する意見を表明するものである。
また,若年者に対する刑事法制の在り方については,本来,少年法の「成人」年齢引下げ問題とは別の,20歳以上の若年成人に関する検討課題である。従って,若年者に対する刑事法制の在り方について検討する場合であっても,それと少年法の「成人」年齢の引下げの是非とを関連付けて議論すべきではなく,両者は切り離して議論されるべきである。
                                   以 上


                    2015年(平成27年)12月17日
                    福岡県弁護士会  
                    会 長  斉  藤  芳  朗 

2015年12月15日

消費者庁・国民生活センターの地方移転に反対する意見書

2015年(平成27年)12月15日
福岡県弁護士会 会長  斉 藤 芳 朗

第1 意見の趣旨

1 消費者庁が,特命担当大臣の下で政府全体の消費者保護政策を推進する司令塔機能を果たすとともに,消費者被害事故などの緊急事態に対処し,所管する法制度について迅速な企画・立案・実施を行う機能を果たすためには,担当大臣,各省庁及び国会と同一地域に存在することが不可欠であり,これに反するような地方移転には反対である。

2 国民生活センターが,全国の消費生活相談情報の分析を踏まえて消費者保護関連法制度・政策の改善に向けた問題提起や情報提供を効果的に行うためには,消費者庁及び消費者委員会と密接に連携して分析及び情報交換を行うことが必須であり,また,消費生活センター・消費生活相談窓口支援の中核機関としての機能を果たすためにも地方移転には反対である。

第2 意見の理由

1 はじめに

政府は,政府関係機関の地方移転に係る道府県の提案を受け,目下「まち・ひと・しごと創生本部」に「政府関係機関移転に関する有識者会議」(以下「有識者会議」という。)を設置し,本年12月に考え方を取りまとめ,来年3月には基本方針を決定することとしている。その中で,徳島県から消費者庁と国民生活センターを同県に移転することが提案され,有識者会議で審議されている。

東京圏への一極集中は,地価の高騰,若年者の東京圏への大量流入,人口や各機関の集中による被害の大規模化と災害時の行政機能・産業の空洞化のリスクを増大させるだけでなく,地方の人口減少と人手不足,地域経済の縮小を増幅させるなど,我が国全体の活力の低下をもたらす事態となる。これを是正する方策として政府関係機関の地方移転を促進することは,その機関に関連する民間事業者の地方展開を促す効果も期待できる点で,地方の活性化に資する政策として評価できる。

ただし,地方移転に伴い当該政府関係機関が果たすべき本来の機能が大きく低下することとなっては本末転倒であるから,地方移転の対象機関を選定するに当たっては,この点の検証が不可欠である。そして,有識者会議の考え方として,道府県からの提案のうち「官邸と一体となり緊急対応を行う等の政府の危機管理業務を担う機関」や「中央省庁と日常的に一体として業務を行う機関」に係る提案,「現在地から移転した場合に機能の維持が極めて困難となる提案」などについては,移転をさせない方向性が示されている。

消費者庁・国民生活センターは,以下に述べるとおり,担当大臣の下で消費者委員会とも連携しながら,多数の省庁に分散している消費者行政を総合的に推進する司令塔として,「他の省庁と日常的に一体」となって業務を行っている。また,大規模な食品被害など国民の安心安全を脅かす事態が生じたときには,「官邸と一体となり緊急対応を行う」政府の危機管理業務を担っている。このため,現在地から移転した場合に本来の機能の維持が極めて困難となり,我が国の消費者行政全体の機能の後退につながるものとして重大な危惧を指摘せざるを得ない。これらの機能を果たすためには,担当大臣,各省庁及び国会と同一地域に存在することが不可欠である。有識者会議の考え方に照らしても,これに反するような地方移転には反対である。

当会は,消費者庁が創設されたことについて,当会管内で生活をする市民はもちろんのこと,国民全体の視点に立って見ても,その権利を守るうえで大変喜ばしいことであると捉えている。徳島県は,消費生活サポーターの養成と地域連携の推進など消費者行政の推進を先駆的に取り組んでいる地方公共団体として高く評価できるものの,消費者庁,国民生活センターの機能確保の観点から,これを他の省庁と切り離して地方移転することには反対せざるを得ない。また,消費者庁,国民生活センターと連携して消費者行政を担っている消費者委員会においても移転が検討される事態となれば,これについても反対せざるを得ない。

なお,移転の可否を審議している有識者会議には,利害関係を有する消費者代表も入っておらず,これを対象とする公聴会やヒアリングも予定されていない。消費者にとって重大な影響を及ぼすものであり,消費者代表などからの意見聴取をすべきである。

2 消費者庁の地方移転について
(1) 各省庁と連携し消費者政策推進の司令塔として機能する消費者庁

消費者問題は,食品や製品の生産・流通・販売・安全管理,金融,教育,行政規制・刑事規制など多くの領域に関わり,経済産業省・金融庁・農林水産省・厚生労働省・国土交通省・文部科学省・警察庁等をはじめとするほとんどの省庁と関連している。しかし,これらの各省庁による取組だけでは統一的な消費者行政の施策を適切に推進し実行していくことはできない。消費者庁は,様々な省庁と密接に連携し,政府全体の消費者行政の司令塔として,消費者保護施策を統括的に推進する役割を果たすために設置された(平成20年6月27日閣議決定「消費者行政推進基本計画~消費者・生活者の視点に立つ行政への転換~」。現行の消費者基本計画は,平成27年3月24日閣議決定「消費者基本計画」であり,同日付の消費者政策会議決定の「消費者基本計画工程表」も参照。)。

大多数の消費者関連法は依然として消費者庁でなく各省庁が所管しているが,その中で,消費者庁は,消費者保護のために立法や法改正を企画し実現しなければならない。設置されてわずか6年の,規模も小さい消費者庁が,大きな権限や機能を持つ関係省庁と協議し,様々な利害を調整して法改正を実現することは,決して容易なことではないが,消費者庁には関係省庁との日常的で密接な協議や調整を通じて,かかる統括的な役割を果たすことを期待されている。さらに,消費者庁は,各省庁の所管する法律を消費者保護の視点から統括的にチェックし,必要な修正も求めていかなければならない。このように,消費者庁には,消費者保護の政策を各省庁と一体となって,時に対立する利害を調整しつつ行っていくことが求められている。

また,消費者庁は,消費者被害事故の緊急時には情報収集をし,官邸と一体となって各省庁と連携しながら消費者安全のための施策を実施し,マスコミにも必要な発信をし,様々な緊急対応を行う等の政府の危機管理業務を担っている。

このような機能を担う消費者庁は,担当大臣や中央省庁と日常的に一体として業務を行う必要があり,現在地から地方移転した場合に機能の維持が極めて困難になると考えられる機関である。

(2) 緊急時における危機管理業務の担い手として

消費者庁は,消費者安全に関する重大事故発生時には,官邸と連絡を取りながら,関係大臣等を本部員とする緊急対策本部を速やかに開催し,関係省庁と連携して事態に対処しなければならない。即時に各方面から被害情報の収集をし,マスコミ等にも対応し,消費者の安全のための施策を適切に行う必要がある。

例えば,2013年(平成25年)12月29日,冷凍食品から農薬(マラチオン)が検出されたため,事業者から自主回収するとの発表がなされた事件では,消費者安全法を踏まえ,消費者庁は直ちに消費者向けに注意喚起した。事件発覚直後である年明け早々には内閣府特命担当大臣(消費者及び食品安全)が直接事業者と面談の上,情報提供等の要請を行い,さらに関係府省庁の局長級で構成する消費者安全情報総括官会議を開催するなどの施策が実施された。消費者庁は,食品衛生法を所管する厚生労働省をはじめ,食品安全委員会,農林水産省,警察庁等と連携し,情報の共有と被害の拡大防止等の対応にあたった(平成26年度版消費者白書19~24頁)。

なお,この消費者安全情報総括官制度は,消費者安全法を踏まえて消費者被害の発生・拡大を防止して安全を確保するため,緊急事態への即応体制を強化するために設けられた制度であり,消費者庁をはじめとして,食品安全委員会,警察庁,総務省,消防庁,文部科学省,厚生労働省,農林水産省,経済産業省,国土交通省,環境省の所定部署から構成されている(平成24年9月28日関係府省局長申合せ「消費者安全情報総括官制度について」)。消費者庁はこの会議の事務局を務めなければならず,消費者庁が直接に準備や出席をしなければ会議は成り立たない。

さらに,ホテル・レストランが提供する料理等のメニュー表示に関する偽装表示の問題では,消費者庁は内閣官房長官の下で「食品表示等問題関係府省庁等会議」を開催し,食品表示の適正化策を早期に策定した。

東日本大震災発生時には,消費者庁長官主宰で物価担当官会議を開催して,関係省庁と連携して震災後の生活物資確保を図っている。

また,防災や鳥インフルエンザ対策の政府の緊急会議がある場合には,消費者庁も直ちに参集する必要があるとされている。

このような多数省庁が関係する緊急事態は,消費者問題では頻繁に起こることであり,何ら珍しいものではない。こうした緊急事態においては,インターネットや電話などの遠方からの情報交換や情報発信では到底足りず,数時間以内に対面での会議を開き,官邸や省庁を回って情報収集と情報共有を行い,記者会見などを行う必要がある。場合によっては問題になった製品・食品そのものを関係省庁やマスコミに示すなどして迅速・確実な情報伝達をすることも必要になる。消費者庁が地方に移転した場合,これらの点について中央にいるのと同様の機能を果たすことは極めて困難である。特に上記のとおり,消費者庁が緊急時に事務局を担当する消費者安全情報統括官会議の現場に消費者庁の職員が不在ということは考えられず,会場設営,資料配付等の事務局作業を地方にいながら行うのは不可能である。

以上のように,消費者庁は,こうした緊急事態に司令塔としての機能を有し,短期間に官邸と連絡を取り調整し,会議を招集し,関係省庁との協議を行い,国民に周知させ,製品等の回収を実施していく責務を負っている。仮にかかる緊急対応を地方において行おうとすれば機能低下が避けられず,対応の遅れによっては消費者の安全に関わる深刻な事態を引き起こしかねない。

(3) 官邸・関係省庁・国会との直接協議による消費者行政の司令塔機能の発揮
消費者庁は,日常的に官邸と密接に連絡をとり,各府省庁と調整して政府全体の消費者行政の司令塔機能を果たしている。消費者庁が多数省庁との関係において消費者行政の司令塔機能を持つことは,消費者庁構想を決定した消費者行政推進基本計画の段階から明らかにされているところであり,政府全体の消費者行政の5カ年計画である消費者基本計画においても確認されている(平成22年3月30日閣議決定の消費者基本計画1頁,平成27年3月24日閣議決定の消費者基本計画1頁等)。

① 総合調整権限の発揮

消費者問題を担当する内閣府特命担当大臣は,消費者の権利尊重,自立の支援を実現し,消費者が安心して安全で豊かな消費生活を営むことができる社会の実現のため,基本的な政策を実施する。このため関係行政機関の長に対して資料提供,説明要求,勧告,勧告に基づく措置の報告要求,勧告した事項に関する内閣総理大臣への意見具申などの権限を持つ。この権限は,消費者庁創設に際して,消費者行政における総合調整権限の重要性から明確化されたものであり,この総合調整権限行使のための事務局は,当然ながら消費者庁が担っている。

そして,消費者庁は,政府全体の消費者行政の5カ年計画である消費者基本計画を策定し,そのフォローアップをすることで,関係省庁への司令塔機能を果たしている。

上記の事例でも明らかなとおり,緊急事態などにおいては,官邸及び特命担当大臣と密接な関係の下に,消費者庁が業務を担って関係省庁と総合調整の機能を果たしているのである。こうした機能を果たすためには消費者担当大臣の理解・協力が不可欠であるが,担当大臣が中央に残る場合,担当大臣との緊密な連携が阻害されることも懸念され,担当大臣が霞が関にいて,消費者庁が地方にあるという状態は,この点からしてもおよそ無理と言う他はない。

かかる調整機能の具体的な発動場面においては,対応に消極的な省庁を説得して協力を促すことが何よりも必要であるところ,電話やテレビ会議等では説得力に欠けることも想定され,「直談判」によるねばり強い対応が求められる。また,事案によっては問題になった製品そのものを示して説明することでより正確で深い理解が可能となることもあるのであり,面談による調整権限の行使は極めて重要である。

② 措置要求の権限の行使

消費者庁は,消費者被害の発生又は拡大の防止を図るため,他の省庁が所管する法律の権限を当該省庁が実施する必要があると認めるときは,当該措置の速やかな実施を求めることができる(消費者安全法第39条)。

すなわち,消費者庁は,他省庁が担っている消費者問題についても,常に適切に業務が遂行されているか注意を払い,必要があれば関係省庁に働きかけていく必要がある。

③ 隙間事案への対応の必要

所管法・所管大臣がない場合の,いわゆる隙間事案については,消費者安全法第40条(事業者に対する勧告・命令),第41条(譲渡等の禁止又は制限),第42条(回収等の命令)などの規定を活用し,消費者庁が直接対応することとしている。

しかし,隙間事案であるかどうかは,各省庁間で必ずしも認識が共通でない場合も多いと考えられるので,緊急事態への対応のためにはこの場合においても他省庁と迅速な協議を経ることが必要である。

例えば,こうした隙間事案の典型例として挙げられるミニカップ入りこんにゃくゼリーの安全性の問題では,まさにカップの形状やゼリーの固さ,テクスチャ(表面の手触り・触感)の在り方が議論の対象となる。仮にこの問題が緊急的に検討されることとなれば,当然関係省庁や関連事業者等と面談で説明・協議することが不可欠となる。

④ 関係省庁との日常的な会議等の実施

消費者庁が,上記のような消費者行政を司令塔として推進する上では,産業育成や教育研修を担う省庁(経済産業省,厚生労働省,農林水産省,国土交通省,文部科学省,総務省,金融庁など)との会議と議論が日常的に行われている。

特に今日の社会では,高齢者の消費者被害,インターネット取引被害,不当表示被害など,次々と深刻な消費者被害が発生している。そのため,関係する政策の実施や法改正作業を迅速かつ頻繁に行うことが今後も必要となってくる。

このため,消費者庁では,消費者関連法の改正作業が頻繁に行われている。最近では,消費者安全法,景品表示法の改正,消費者裁判手続特例法の創設などが行われ,現在でも,特定商取引法,割賦販売法,消費者契約法,公益通報者保護法の改正のための検討作業が行われている。これらの法改正においては,関係省庁との密接な直接参加の会議などの協議が不可欠である。

1つの消費者政策を実現するためには,産業育成担当省庁などから反対されることがしばしばあり,これらの関係省庁を粘り強く説得していく必要がある。そのためには,日常的に会議を開き,各省庁の職員同士が直接会って議論することによってようやく施策が前進している実情がある。

これらの省庁と消費者庁だけが離れることになれば,産業育成担当省庁への説得機能が減退し,消費者庁の司令塔機能が後退する懸念が大きい。

⑤ 国会対応について

消費者政策においては,上記のとおり関係する法改正作業を迅速かつ頻繁に行うことが重要である。

これらの法改正においては,関係省庁との調整はもとより,法案立案作業の過程で内閣法制局と頻繁に協議を行い,更に国会への対応が必要となる。

衆議院,参議院ともに「消費者問題に関する特別委員会」が設置されるのが通例であり,消費者庁はここに出席し,検討される消費者問題や法改正について長時間にわたる説明等の対応が求められる。また,各政党の消費者問題に関する調査会,勉強会が頻繁に開催されており,これへの出席や説明も求められている。

さらに,実際の法改正の審議においては,審議に当たる国会議員に個別に趣旨や内容を直接説明する必要も多い。個々の議員への個別説明をテレビ会議等で行うことは,インフラ整備や議員との信頼関係維持という点で限界があり,地方移転を行った場合に著しい支障を来すこととなる。

以上のとおり,毎年法改正の課題を抱えている消費者庁の国会対応が地方移転によって十分に行えなくなるとの危惧がある。

(4) 福岡県からのアクセスという視点から見たときの問題点

また,福岡県からのアクセスという視点から見ても,たとえば,消費者庁が徳島県に移転された場合,消費者庁へのアクセスの円滑性を損なうことになる。

すなわち,福岡県下には,「消費者支援機構福岡」という適格消費者団体としての認定を受けている消費者団体が存在しており,同団体の理事長や理事には当会の会員が名を連ね,その他にも同団体の活動には当会からも多数の会員が協力をしている。そして,適格消費者団体は,消費者契約法の定める差止関係業務などに関して,消費者庁と緊密に連携をとる関係にあり,ヒアリング等が行われる際には消費者庁に出頭するということも行われている。

そうした実態に則って考えると,福岡から徳島に移動することを考えた場合,航空機で移動するとすると,現在,福岡空港と徳島阿波おどり空港を結ぶ便は,1日に往復各1便しかない。しかも,その便は,福岡(11:30発)→徳島(12:30着),徳島(13:00発)→福岡(14:10着)であるため,消費者庁が東京にある現状と比較すると,移動の利便性は著しく損なわれることになり,出頭が現実的には不可能となることも考えられる。さらに,鉄道を用いる場合でも,JRを利用した場合,博多駅から徳島駅までは新幹線と特急を乗り継いで片道4時間を要することになり,やはり福岡・東京間の移動よりも利便性に劣ることになる(福岡・東京(羽田)間は,航空機で2時間強で移動可能である。)

このことは,延いては消費者行政に対する福岡県からの意見が,消費者庁に適切に届けられなくなるという重要な問題につながりうる。福岡市,北九州市の2つの政令指定都市を持つ福岡県は,2014年11月1日時点で推計509万3885人の市民が生活する大都市であり,これまでも,そしてこれからも,消費者行政を策定する際に,重要な位置を占める都市であると考えられる。

そうすると,福岡県から消費者庁へのアクセスが阻害されてしまうことは,全国的視点から見ても,消費者行政にとって決して望ましいことではない。

(5) 小 括

以上のように,消費者庁は,自ら所管する法の執行を担うほか,担当大臣の下で消費者行政の司令塔として,緊急の事態には関係省庁と対応の協議を行い,所管省庁がない場合には隙間事案として自ら対応し,所管省庁が所管法に基づく措置を取らない場合には措置要求を行うなどの責務を担っている。そして,関連省庁が行う法改正に対しても意見を述べ,消費者政策全般に関する消費者基本計画の作成・見直しを行い,その作業過程において各省庁の関連部局と情報交換や施策実施の要請を行う役割がある。こうした司令塔機能を果たすためには,霞が関の各省庁に近接して消費者庁が所在し,いつでも関係部局の担当者と面談協議や資料提出要請を行うことが不可欠である。取り上げる課題によっては,産業育成省庁の施策に対し消費者庁が必要に応じて修正を求める働きかけを行うことも必要である。

要は,消費者庁の業務は消費者庁だけで完結するものではなく,司令塔機能を発揮するためには関連各省庁との密な連携が必須なのである。

消費者庁は創設されて6年しか経過しておらず,他省庁と比較して圧倒的に弱小な消費者庁が仮に地方に移転すると,他省庁に対する働きかけの力が大幅に低下し,司令塔機能を果たすことができなくなる。つまり,消費者庁に期待されている機能の性格は,縦割りでかつ極めて大きな機能権限を持つ省庁が所管する行政行為に対して,サイレントマジョリティである消費者の視点からチェックを行い,修正を求め,時にはブレーキをかけるものであって,各省庁の所管業務にとっては,制約を課す性格を持っている。他省庁との厳しい軋轢を生じ得る機能であり,それ故他省庁とのより密接な連携が一層必要とされるのである。よって,消費者庁が各省庁の所在地から隔絶されることは,我が国の消費者政策の推進が停滞することとなる。

したがって,消費者庁を地方移転の対象とするのは不適当である。

3 国民生活センターの地方移転について
(1) 国民生活センターの政策形成への役割と消費者庁との連携

国民生活センターは,全国の消費生活相談情報を集約・分析し,一般消費者や地方自治体に情報を発信することにより消費者や地方消費者行政を支援する機能を担い,さらに,相談情報を分析した結果に基づいて,消費者庁や各省庁の消費者関係法制度の不備や見直しの問題提起を行う機能を担っている。この機能は消費者行政の推進や法の新設・改正に極めて重要な役割を果たしている。

2010年12月から2013年12月にかけて,国民生活センターを消費者庁と統合することにより機能強化することが検討された。この議論は,数年にわたり続けられ,最終的には当時の森まさこ大臣の下に設けられた「消費者行政の体制整備のための意見交換会」で検討され,2013年7月に中間整理が公表された。そこでは,消費者行政の在り方の基本認識として,「(1)消費者庁,消費者委員会,国民生活センターの三者の緊密な連携の必要,(2)これまでの国民生活センターの見直しにより,本来充実強化されるべき国民生活センターの機能が低下しており,早急な回復の必要,(3)国民生活センターの在り方については,各機能の一体性確保と機能の維持・充実を,消費者行政推進の視点で検討の必要」との結論が示された。また,当面の対応として,「(1)国民生活センターで,新しく消費者を対象とした『お昼の消費生活相談』を実施,(2)3つの機関の情報提供・政策的対応への連携の中で,とくに国民生活センターが提起した意見・要望の政策形成への活用・反映への取組」を取り上げた。そして,2013年12月には,森大臣から,国民生活センターの在り方について,「消費者行政の推進にとって,国民生活センターは,消費者行政における中核的な実施機関として,(1)消費者行政の司令塔機能の発揮,(2)地方消費者行政の推進,(3)消費者への注意喚起のいずれにとっても不可欠な存在である。」との位置づけが示された。

このように,国民生活センターは消費者庁・消費者委員会と緊密な連携を図ることにより,政府全体の消費者行政を推進する役割があることが確認され,国民生活センターが提起した意見・要望の政策形成への活用・反映への取組が重視されているのである。消費者庁,消費者委員会及び国民生活センターは,相互に連携しつつ一体的に消費者政策の司令塔機能を発揮することが求められる組織である。

国民生活センターはこれらの機能を果たすために,全国の消費生活相談センター・消費生活相談窓口から収集された相談情報であるPIO-NET情報を分析し,各省庁が行う消費者関連法の制定・改正における立法事実を明らかにする資料を作成し情報提供している。消費者庁のほか警察庁,経済産業省をはじめ各省庁が消費者関連法を執行したり,改正を審議するに当たり,国民生活センターに相談情報の分析を依頼したりしており,その場合には各省庁の担当者の問題意識を国民生活センターの担当職員と直接面談して密に意見交換することが重要である。

例えば,取引においては,具体的な事業者の勧誘資料を基に被害現場の声を直接反映させるため,国民生活センターと消費者庁など各省庁の担当部局や当該事業者との議論が必要であり,消費者庁との協議は毎週のように実施されている。製品の安全については,当該製品を目の前にした消費者庁など各省庁の担当部局や当該事業者との検討が不可欠である。しかし,国民生活センターの商品テスト部門は,徳島県への移転の対象から除かれているので,このような作業が困難になる。

国民生活センターが地方に移転することによって,これらの消費者庁やその他の省庁との緊密な連携が損なわれ,消費者庁の司令塔機能を具体化する情報分析や政策提言機能が低下していくことが強く懸念される。

(2) 国民生活センターの消費生活センター・消費生活相談窓口支援の中核機関としての役割

国民生活センターは,全国各地の消費生活センター・消費生活相談窓口の相談処理の支援機能として,相談支援,情報提供,商品テスト,ADRなどを実施して,消費生活センター・消費生活相談窓口支援の中核機関としての役割を果たしている。例えば,問題のある取引をしている事業者との協議を行ってその情報を各地に発信し,商品テストを実施して,その結果に基づき注意喚起・情報提供・事業者指導をするとともに,紛争解決委員会(ADR実施機関)において事業者と消費者の出席を求め和解の仲介手続を行っている。これらの機能を果たすためには,多数の専門家の確保,協議のための事業者の来訪・訪問などが必要となるが,地方でこのような専門家が確保できるか,事業者が来訪するか等が懸念されるし,各地から集まってもらうとしても多くの費用がかかることになる。

さらに,このたびの地方移転の提案は,国民生活センターのテスト・研修部門は現状のまま神奈川県に残し,東京事務所の部署だけを移転するものであり,同センターの各機能の有機的結合が遮断されかねない。国民生活センターの機能として既に確認されている,各機能の一体性確保と機能の維持・充実に反するものとなる。

このように,国民生活センターの地方移転は国民生活センターの消費生活センター・消費生活相談窓口支援の中核機関としての役割を阻害する懸念が強くある。

(3) 小 括

以上のように,国民生活センターは,消費者基本法第25条に定められた消費者行政の中核的実施機関として,消費者庁,消費者委員会と連携して,諸問題を検討して関連省庁に意見を述べ,地方消費者行政を支援し,消費者・事業者・地方自治体・各省庁に情報提供を行っている。国民生活センターの役割は国民生活センターのみで自己完結しているわけではない。その役割を果たすためには,各省庁に近接し日常的に連携でき,消費者庁,消費者委員会が所在している場所に近いところで,多くの専門家が確保できるところにある必要がある。したがって,国民生活センターを地方移転の対象とするのは不適当である。

4 消費者委員会の地方移転について

現時点で消費者委員会の地方移転について公表された資料は見当たらないが,前述のとおり国の消費者行政は消費者庁・消費者委員会・国民生活センターが相互に連携しつつそれぞれの役割を果たしていることから,念のためこの点についても触れておく。

消費者委員会は現在非常勤の委員10名から構成されており,月に1回程度の本委員会のほか,新開発食品調査部会,消費者契約法専門調査会,特定商取引法専門調査会,ワーキング・グループなどの部会・専門調査会等が随時開催されている。本委員会については,その準備のために委員間打合せを複数回行い,事務局と個別の委員との打合せも頻繁に行われている。そのために,必要な専門家の参画もなされている。

消費者委員会は消費者庁等からの諮問事項を審議するほか,任意のテーマを自ら調査して他省庁への建議等を行うという監視機能を有している。他省庁からの諮問の場合に諮問した省庁等との連絡を密にすることはもちろんであるが,建議等の監視機能の行使においても,他省庁や関連事業者,事業者団体からの事情聴取・協議も頻繁に行うことになる。この場合,消費者委員会の会議の場にこれら関係省庁,事業者等を招へいするほか,委員会側から直接赴いて事情を聴取し,あるいは改善の必要性について説得することも行われている。

とりわけ建議の対象となる省庁や関連事業者等を相手とする場合,こうした直接の面談,交渉抜きでは十分に実情を踏まえた建議等の取りまとめは困難であるし,最低限の説得を行わないまま提案を行っても,建議等発出後の実現可能性が大きく低下することとなりかねない。ちなみに,この間,消費者委員会は18本の建議,12本の提言,50本の意見を他省庁に提出しているが,こうしたねばり強い説得・説明作業の結果,ほとんどの建議について対象省庁となった省庁により何らかの対応が行われているという現状にあり,高い成果を上げている。地方移転でこのような説得・説明が困難となることが懸念される。

以上のような実情に鑑みても,消費者委員会の地方移転はその大幅な機能低下をもたらすおそれが大きいと言わざるを得ないのであり,やはり反対せざるを得ない。

5 結 論

以上のとおり,消費者庁及び国民生活センターの地方への移転は,消費者庁,国民生活センターの機能を低下させ,我が国の消費者行政の機能の推進を阻害しかねないので,反対する。

以 上

2015年9月18日

特定商取引法に事前拒否者への勧誘禁止制度の導入を求める意見書

2015年(平成27年)9月18日
福岡県弁護士会 会長  斉 藤 芳 朗

第1 意見の趣旨

1 特定商取引法に,電話勧誘販売に関して,いわゆる「Do-Not-Call制度」(電話による勧誘を受けたくない人に,事前に登録をしてもらい,登録された電話番号への電話勧誘を禁止する制度。以下「電話勧誘拒否制度」という。)を直ちに導入することを求める。

2 同法に,訪問販売に関して,いわゆる「Do-Not-Knock制度」(訪問販売を受けたくない人が,お断りステッカーなどを家先に貼った場合や,住所等を事前に登録した場合に,訪問販売を禁止する制度(以下「訪問販売拒否制度」という。)を直ちに導入することを求める。

3 上記1,2の各制度については,現行特定商取引法第26条第1項第8号の適用除外業種をそのまま容認すべきではなく,適用除外業種を狭めるあるいは撤廃する方向で,特定商取引法第26条の見直し又は各特別法の見直しを行うべきである。

第2 意見の理由

1 電話勧誘拒否制度導入について
(1) 導入の必要性

全国消費生活情報ネットワークシステム(PIO-NET)の登録情報によれば,電話勧誘販売についての相談件数は2010年(平成22年)から2014年(平成26年)までの5年間で合計40万7526件(1年あたりの平均で,約8万1505件)に達しており,相談件数としても増加傾向にある(独立行政法人国民生活センターウェブサイト「販売購入形態別の年度別推移及び相談全体に占める割合」参照。http://www.kokusen.go.jp/soudan_topics/data/mutenpo.html)。

電話勧誘販売においては,消費者からすれば,突然かかってきた電話によって勧誘を受けるため,当該販売方法は,強引な言動等に困惑して契約をしてしまったり,あるいは何度も執拗に電話がかかってくるために断り切れずに契約をしてしまったりすることが類型的に生じやすいものであると言える。

ここで,特定商取引法においては,消費者保護のため,電話勧誘については事業者の名称や勧誘の目的を明示する義務が定められ,8日間のクーリングオフ期間も設けられており,また,具体的な拒否の意思表示があった場合の再勧誘も禁止されている。しかし,上記のとおり,未だに多数の相談が寄せられており,さらには増加傾向にあることからすれば,望まない契約をさせられてしまった消費者の保護としては,十分とは言えない状況にある。

そこで,電話勧誘拒否制度を導入することによって,断る力が十分でない消費者に自衛の手段を認めるべきであると思料する。

この点,事業者においては,予め電話勧誘を拒絶した消費者への勧誘を禁止されることで,消費者の商品選択の幅が狭められてしまうことになるとか,販売方法が限定されることで経済が停滞することに繋がる等といった点から,電話勧誘拒否制度の導入に反対をされることが予想される。

しかしながら,前者の点についていえば,当該制度は,電話勧誘を受けたくないという消費者を保護するものに止まっており,電話勧誘を受けたいと考えている消費者に対して電話勧誘を行うことは何ら否定されておらず,情報を得たいと欲している消費者からその機会を奪うことにはならない。また,後者の点についても,上記のとおり電話勧誘販売についての相談件数の多さに鑑みれば,消費者被害の生じやすい類型の販売方法については適切な規制を加えることが国民経済の健全な発展に寄与すると考えるべきである。むしろ,事業者においても,当初より電話勧誘を拒否する消費者が明確になった方が,より購入意欲の強い消費者に対して集中的かつ効率的に勧誘を行うことができるようになるのであり,合理的であると解する。

なお,電話勧誘拒否制度は,諸外国においても広く導入されている制度であり,購入者等の利益保護と,商品等の流通及び役務の提供の適正化・円滑化の調和を図るうえで,一般的にその有効性が認知された,必要な制度であるというべきである。

(2) 制度設計について

制度設計,主に,どのようにして事前拒否の登録をし,その登録情報を誰がどのように管理し,また事業者がその情報をどのようにして確認できるようにするのかについては,情報の目的外利用等,不正な利用がされないように留意する必要があり,国を始めとして,しかるべき機関において,慎重に管理されなければならない。

2 訪問販売拒否制度導入の必要性
(1) 導入の必要性

電話勧誘拒否制度の項で確認したのと同じく,全国消費生活情報ネットワークシステム(PIO-NET)の登録情報によれば,訪問販売についての相談件数は2010年(平成22年)から2014年(平成26年)までの5年間で合計46万8622件(1年あたりの平均で,約9万3724件)に達しており,相談件数としてはやや減少傾向を見せつつも,依然として高い値を維持している(上記独立行政法人国民生活センターウェブサイト「販売購入形態別の年度別推移及び相談全体に占める割合」参照)。

訪問販売も電話勧誘と同じく,消費者からすると,望まない契約を締結させられてしまいやすい性質を有している。すなわち,訪問販売においては,消費者からすれば,自宅等を突然訪れた販売員から勧誘を受けるのであり,やはり強引な言動等に困惑して契約をしてしまったり,あるいは対面式であるために執拗な勧誘を断ることに疲弊してしまい,断り切れずに契約をしてしまうということが類型的に生じやすいものであると言える。

そのため,特定商取引法においては,消費者保護のため,訪問勧誘についても,過量販売規制や8日間のクーリングオフ期間も設けられているほか,具体的な拒否の意思表示があった場合の再勧誘も禁止されている。しかし,上記のとおり,未だに多数の相談が寄せられていることからすれば,望まない契約をさせられてしまった消費者の保護としては,十分とまでは言えない状況にある。

つまり,訪問販売においても,電話勧誘販売と同じく,断る力の十分でない消費者に自らの利益を守る術を認める必要があるのであり,訪問販売拒否制度を導入することによって,断る力が十分でない消費者に自衛の手段を認めるべきであると思料する。

この点,事業者においては,電話勧誘拒否制度の項において指摘したのと同じように,訪問販売を拒絶した消費者への勧誘を禁止されることで,消費者の商品選択の幅が狭められてしまうことになるとか,販売方法が限定されることで経済が停滞することに繋がる等といった点から,電話勧誘拒否制度の導入に反対をされることが予想される。

しかし,既に述べたとおり,当該制度の下においても,訪問勧誘を受けたいと考えている消費者の自宅を訪れる等して勧誘を行うことは何ら否定されておらず,情報を得たいと欲している消費者からその機会を奪うことにはならない。また,後者の点についても,上記のとおり訪問販売についての相談件数が依然として高止まりしていることに鑑みれば,消費者被害の生じやすい類型の販売方法については適切な規制を加えることが国民経済の健全な発展に寄与すると考えるべきである。むしろ,事業者においても,当初より訪問販売を拒否するものが明確になった方が,より購入意欲の強い消費者に対して集中的かつ効率的に勧誘を行うことができるようになる点も,電話勧誘販売の項において指摘したのと同様である。

なお,訪問販売拒否制度も,諸外国においても広く導入されている制度であり,購入者等の利益保護と,商品等の流通及び役務の提供の適正化・円滑化の調和を図るうえで,一般的にその有効性が認知された,必要な制度であるというべきである。

(2) 制度設計について

訪問販売拒否制度は,ステッカーを家先に貼ることや,住所等を予め登録することで拒否の意思を事業者に対して示すものであり,その制度設計,主に,どのようにして事前拒否の登録をし,その登録情報を誰がどのように管理し,また事業者がその情報をどのようにして確認できるようにするのかについては,電話勧誘拒否制度と同じく,情報の目的外利用等,不正な利用がされないように留意する必要があり,国を始めとして,しかるべき機関において,慎重に管理されなければならない。

3 適用除外業種の見直しについて

さらに,上記の事前拒否者への勧誘禁止制度は,事前に電話勧誘,訪問販売勧誘を受けることを望まない消費者の意思を守ることを目的とするものであり,事業内容(業種)に関わらず,電話勧誘,訪問販売勧誘を行う事業者について広く認められるべきである。

したがって,同制度を導入するにあたっては,現行特定商取引法第26条第1項第8号の適用除外業種をそのまま容認するのではなく,特定商取引法第26条の見直し又は各特別法の見直しによって,適用対象を広げる方向で対応すべきである。

4 結語

電話勧誘販売や訪問販売により消費者被害が生じており,かかる被害を防止し,ないしはかかる被害から消費者を救済すべきことは,全国的にも重要な課題となっているものと思料する。そしてこのことは,当会においても同様であり,その被害防止・救済の必要性は何ら変わるところはなく,当会においても,極めて重要な問題となっている。

他方で,電話勧誘や訪問販売について,これを事前に拒否する意思を示した者への勧誘を禁止する制度は,消費者から承諾を得た勧誘や,勧誘を拒絶していない者に対して勧誘することまでを否定するものではなく,事業者の経済活動を不当に抑制することにはならない。

予め勧誘をしないように求めている消費者に対する勧誘を禁止することは,一般に浸透している社会通念からしても,また商道徳上も極めて当然のことであり,国民経済の健全な発展のために,何ら躊躇される必要のないものである。

以上の理由から,意見の趣旨記載の対応を強く求める次第である。

以上

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