福岡県弁護士会 宣言・決議・声明・計画

意見

2020年5月15日

検察庁法改正等による検察官の独立性の侵害等に反対する意見書

2020年(令和2年)5月14日

福岡県弁護士会
会長 多川 一成

【意見の趣旨】

1 2020年(令和2年)年3月13日に内閣から国会に提出された国家公務員法等改正案中の検察庁法を改正する提案のうち、全ての検察官について、内閣又は法務大臣の判断により、定年後も最長3年間、勤務を延長し得るとする内容、及び、新たに延長する65歳の定年を待たず、63歳以降、次長検事、検事長、検事正、上席検察官という一定の高位の官職にとどまれないとする原則に対する特例措置として、内閣又は法務大臣の判断によりそれらの官職にとどまることを可能とする内容は、立法事実を欠くうえ、検察官の政治的独立性を侵害するものであり、さらには司法権の独立及び三権分立を侵害する危険をも有するものであるので、当会はこれらの改正に反対する。

2 2020年(令和2年)2月7日に定年を迎えた黒川弘務元検察官について、定年後に東京高等検察庁検事長としての勤務を6か月延長する旨の同年1月31日の閣議による決定は、検察庁法に反し違法かつ無効であり、同年2月18日の閣議において決定された答弁書における、同人を検事総長に任命することも可能であるとの答弁は極めて不適切であるので、当会は内閣に対し、これらをいずれも撤回するとともに、検察庁法に基づいて東京高等検察庁検事長を任命することを求める。

【意見の理由】

第1 はじめに

当会は、2020年(令和2年)3月27日(以下、2020年を指すときは単に月日のみ表示する。)、「検察官の定年後に勤務を延長する旨の閣議決定の撤回を求める会長声明」(以下、「3.27会長声明」という。)を、また4月24日、「検察庁法の改正の一部に反対する会長声明」(以下、「4.24会長声明」という。)を発したところである。

上記閣議決定と検察庁法の改正とは各個独立の事象ではなく、定年後に勤務を延長する閣議決定を一度なしたうえ、法改正によってそのような措置を恒常的に可能としようとするものである。その経緯及び内容からは、法改正の意図が先行の勤務延長決定の違法性を取り繕う点にあることが窺われる。その点において両者は密接に関連していると思われるので、本意見書で改めて両者について論ずることとする。

第2 検察庁法改正案について
1 改正案の概要

内閣は、3月13日、国家公務員法等の一部を改正する法律案を国会に提出した(以下、国家公務員法を「国公法」と略称する。)。

この法律案第4条は検察庁法の一部を改正する内容であり、同法案第4条は検察庁法の一部を次のとおり改正するものである。

①検察官の定年を現行の63歳から65歳へ段階的に引き上げる。

②内閣又は法務大臣が「職務の遂行上の特別の事情を勘案して」、「公務の運営に著しい支障が生ずると認められる事由として」内閣等が定める事由があると認める場合には65歳の定年後も最長3年間、勤務を延長させることができる(以下、「定年後勤務延長制」という。)。

③63歳以降は、原則として次長検事、高検検事長、地検検事正、区検上席検察官という、一定の高位の官職にとどまれなくなる(以下、「役職定年制」という。)。

④役職定年制の特例措置として、前記②と同様の要件がある場合には、63歳以降も定年まで(さらに②によって最長66歳まで)これらの官職を継続できる。

しかしながら、内閣又は法務大臣の判断による全検察官についての定年後勤務延長制(②)と役職定年制の特例措置規定(④)の導入は、以下に見るとおり、政治的思惑の下に恣意的に運用されるおそれが強い不当なものであると言わねばならない。

2 検察庁法の立法趣旨~独立性の確保が必要不可欠であること~

(1) 検察庁法の沿革

検察庁法は、1947年(昭和22年)5月3日、日本国憲法施行にあわせて、国会法、内閣法、裁判所法等とともに、新憲法の下で骨格をなす重要な国家機関を規律する法律の一つとして施行された。大日本帝国憲法下において旧裁判所構成法に規定されていた検事や検事局に関する事項を新法制定によって独立させるとともに、新憲法における司法権独立の強化に応じた内容としたのである(検察庁法を制定した1947年(昭和22年)帝国議会の貴族院検察庁法特別委員会における、同年3月28日の木村篤太郎司法大臣による同法の提案理由説明(国立国会図書館ホームページの帝国議会会議録検索システム。以下、帝国議会の議事の引用に関して同じ。))。

(2) 検察官の強大な権限と地位

検察官は、刑事訴訟において公訴提起の権限を独占し(刑事訴訟法247条)、捜査においても、警察官等に対し指示・指揮をなし得る(同法193条)等、強大な権限を有することによって、行政官でありつつ実質的に刑事司法の一翼を担う。

このような強大な権限を有すること、及びその刑事司法作用に占める司法官に準ずる地位において、検察官は一般職の国家公務員ではあるが、他の一般職国家公務員とは決定的に異なっている。

また、検察官がこのような強大な権限を行使する際には、他の公的権力や社会的勢力からの独立性が確保されていなければ、公平公正な職務遂行をなし得ない。特に、憲法上の政治部門(立法権、行政権)からの独立性が確保されず、特定の政治勢力の意向に影響された権限行使がなされる結果、適正な捜査がなされなかったり、起訴不起訴の判断が左右されたりすれば、司法権の独立と、憲法の基本原理たる三権分立の侵害を来す危険もある。

そこで、検察官が権限を行使するに際しては、独立性、とりわけ政治的独立性の確保が必要不可欠である。

3 検察庁法や国公法の立法及び改正の経緯

(1) 大日本帝国憲法下において、検事の定年は裁判所構成法80条の2が、検事総長65歳、その他の検事63歳という、現在と同じ定年年齢を定めていたが、併せて「但シ司法大臣ハ三年以内ノ期間ヲ定メ仍在職セシムルコトヲ得」との定めがおかれ、司法大臣の判断により検察官の定年後勤務延長が可能とされていた。

しかし、日本国憲法施行にあわせて施行された検察庁法では、22条が、検察官の定年を、検事総長65歳、その他の検察官63歳と定める一方で、検察官の定年後勤務延長を認める規定は置かれなかった。裁判所構成法に置かれていた定年後勤務延長規定が検察庁法に置かれなかったということは、立法者の意思として、検察庁法にあえてこれを引き継がせなかったということを意味する。*1

(2) 1947年(昭和22年)、検察庁法に6か月後れて国公法が制定された。その際、「一般職の国家公務員の職務と責任の特殊性に基づいて国公法の特例を要する場合には別に法律等によって規定できる」とする国公法附則13条が規定され、また、検察庁法22条を含む検察庁法の一部の条文は、「国公法附則13条の規定により、検察官の職務と責任の特殊性に基づいて、国公法の特例を定めたものである」とする検察庁法32条の2が検察庁法改正により追加された。これらにより、検察庁法22条は国公法の特例であることが、国公法と検察庁法の双方の条文上において、明確にされた。

検察庁法32条の2にいう検察官の職務と責任の特殊性について、同条を追加する改正がなされた際の参議院法務委員会における政府答弁(1949年(昭和24年)5月11日、参議院法務委員会における政府委員・高橋一郎法務庁検務局長の答弁。国立国会図書館ホームページの国会会議録検索システム。以下、国会議事の引用について同じ。下線部は引用者による。)では、「第32條の2は、檢察官は、刑事訴訟法により、唯一の公訴提起機関として規定せられております。従って、檢察官の職務執行の公正なりや否やは、直接刑事裁判の結果に重大な影響を及ぼすものであります。このような職責の特殊性に鑑み、従来檢察官については、一般行政官と異り、裁判官に準ずる身分の保障及び待遇を與えられていたのでありますが、國家公務員法施行後と雖も、この檢察官の特殊性は何ら変ることなく、従ってその任免については、尚一般の國家公務員とは、おのずからその取扱を異にすべきものであります。よって、本條は、國家公務員法附則第十三條の規定に基き、檢察廳法中、檢察官の任免に関する規定を國家公務員法の特例を定めたものとしたのであります。」と説明されている(この政府答弁を、以下、「49年検務局長答弁」という。)。

この点は、検察庁法の解釈に際し実務上最もよく参照されている『新版検察庁法逐条解説』180頁でも、同様に解説されている。*2

(3) 国公法には当初、定年制が定められておらず、当初から定年制を定めていた検察庁法と異なっていたが、1981年(昭和56年)の国公法改正により、定年制度が導入された。この改正案の国会審議における政府答弁(以下、「81年答弁」という。)では、改正国公法の定年後勤務延長規定を含む定年制は検察官に適用されないことが明言された。*3

(4) このような立法、及び法改正の経緯を通じ、検察庁法22条による検察官の定年規定は、検察官の職務と責任の特殊性による国公法の特例とされてきた。この職務と責任の特殊性とは、49年検務局長答弁に示されているとおり、検察官が公訴提起の権限を独占し、職務執行の公正か否かが直接刑事裁判の結果に重大な影響を及ぼすものであることを指す。そのため、上記第2の2で論じたとおり、検察庁法の重要な立法趣旨としての、検察官の職権行使の独立性の確保が不可欠なのである。それゆえ、やはり49年検務局長答弁に示されているとおり、検察官には一般行政官と異なり、特別職である裁判官に準ずる身分保障と待遇が与えられ、国家公務員法の施行に関わらず、他の一般職国家公務員とは異なる取扱いがなされてきたのである。

4 定年後勤務延長制と役職定年制の特例措置とを導入する立法事実を欠くこと

立法目的及びその達成手段の合理性を裏付ける社会的・経済的・文化的な事実を立法事実という。新規の立法にせよ、法改正にせよ、国会の立法にあっては当該立法をなすに足るだけの立法事実が必要である。

検察庁法改正案中の定年後勤務延長規定及び役職定年制の特例措置としての63歳以降の役職継続規定の要件は、内閣又は法務大臣の判断により、定年退官すべき検察官の「職務の遂行上の特別の事情を勘案して、」当該検察官の「退職により公務の運営に著しい支障が生ずると認められる事由として内閣が定める事由」(又は「法務大臣が定める準則」)がある、というものである。

しかし、これらの要件はいずれも、検察官の職務遂行原理としての検察官一体の原則に反するものである。

検察官一体の原則とは、検察官は、検事総長を頂点とした指揮命令系統に服する統一的な組織に属する全ての検察官が一体となって職務を遂行し、職責を果たすという原則である。

この原則によって、特定の検察官によってしか担い得ない職務は観念できないとされる。従って、検察官にあっては、改正国公法81条の7第1号(現行国公法81条の3)や検察庁法改正案9条3項、同5項ただし書き、22条2項、同3項、同5項等が規定するような「職員の職務の遂行上の特別の事情」により、「当該職員の退職により公務の運営に著しい支障が生ずる」ような事態はそもそも観念されない。現に、従前、検察官の職務はこの原則に沿って遂行されてきている。一見すれば定年退官や転勤によって支障が生じかねない場合にあっても、引継ぎを十分に行うとか、そもそも定年時期や転勤時期を控えた検察官にはそれらの時期をまたぐような職務を担当させないとかの組織的工夫によって、支障が生じるのを回避してきたものと思われる。

今般の国公法改正案について、当初、この改正案に関する内閣法制局の審査を終え、法案を確定させた時点では、検察庁法を改正する部分に、定年後勤務延長制の導入(②)と役職定年制の特例措置規定(④)は含まれていなかった(2020年(令和2年)4月16日衆議院本会議における森法相の答弁等)。これは、検察庁や法務省が、法改正の必要はないと考えていたことを意味する。

このように、内閣又は法務大臣の判断による全検察官についての定年後勤務延長制(②)と役職定年制の特例措置規定(④)の要件は、検察官一体の原則に反する事態を想定するものであって、そもそも、検察官の職務遂行原理にそぐわない。そのような制度を導入すべき立法事実はないということに帰する。

5 改正案による検察官の政治的独立の侵害の深刻な影響

(1) 全検察官についての定年後勤務延長制の導入(②)による影響

検察庁法改正により導入が図られている全検察官についての定年後勤務延長制の導入(②)は、勤務延長の要件がそもそも検察官の職務遂行原理に反し、かつ抽象的であるうえ、その定立及び充足性の判断を、内閣からの一定の独立性を有する人事院ですらなく内閣又は法務大臣に委ねていることから、制度に内在する欠陥として、その実際の運用が恣意的になされるおそれがある。例えば、内閣や法務大臣、その政治的存立母体としての政権与党やこれに連なる政治勢力の意向に沿う検察官のみについて定年後も勤務延長を認め、それ以外の検察官については認めないとする運用も可能だからである。そして、規定の適用が最長3年に及ぶという効果の大きさから、人事管理上の効果も大きなものがあると思われる。この点において、全検察官についての定年後勤務延長制には、制度上の重大な欠陥があると言わざるを得ない。

憲法の基本原理たる国民主権を実現する方途として、わが国は政党政治制によっており、内閣の成立や法務大臣の選任には政治的影響が及ぶことが予定されている。そうであるからこそ検察官の政治的独立性を確保する必要性があることは本意見書第2の2の(2)で論じたとおりであるが、定年後勤務延長の制度について想定され得る上記のような運用においては、そこに政治的影響が介在し、検察官の政治的独立性が侵害されるおそれがある。

検察官の強大な権限は、総理大臣をはじめとする政権与党の要職にある政治家をすら対象として行使され得るものであり、また、その必要があるのに行使されなければそれもまた司法権の公平な作用を担保し得ないという意味で重要なものである。

特に、なされるべき捜査・起訴がなされなければ、司法権を担う裁判所はこれを是正すべき方途を持たない。不当な不起訴を是正するための制度として検察審査会があるが、そもそも捜査段階において適正な捜査がなされていなければ、検察審査会においても必要な証拠収集ができず、検察審査会の審査に支障を来すこととなる。

定年後勤務延長制の制度的欠陥により、時の政治権力者やこれに連なる者の犯罪行為についてなすべき捜査・起訴がなされず、逆に、その政敵とされる者に対して捜査・起訴の権限が過大に行使される等、検察官の強大な権限が政治的に利用されるおそれがあるが、そうしたおそれが現実の事態となれば、刑事司法作用の公平が害されることとなる。それは行政権による重大な司法権の侵害である。そしてまた、国民主権の基礎が揺るがされることともなる。

あるいはまた、全国の検察官の取扱う事犯は多岐にわたる。社会的耳目を集めるような巨大犯罪から、多くの国民が知ることもないような軽微事犯にまで広範囲に及ぶ。後者についても、検察官の職務が公正に遂行され、刑事司法作用の公平が確保されなければならないことはもちろんである。しかし、定年後勤務延長の制度が恣意的に運用され、検察官の職務遂行に政治的影響が及べば、政治的影響の有無、強弱によって起訴不起訴の判断が左右されるといった公平を欠く取扱いが広範に行われないとも限らない。政治家を対象とする巨大贈収賄事件等と異なり、社会的に目立つことはないが、こうした取扱いが全国に及ぶ危険すらあることを考えると、検察官の強大な権限行使がその根幹部分において政治的独立性を害され、公平を失していくことともなりかねない。こうした点において、全検察官についての定年後勤務延長制は、重大な欠陥を内包する制度であると言わざるを得ない。

かつまた、検察官の権限行使の公平について国民が疑念を抱くこととなれば、実際には公平に権限が行使されている場合も含めて、検察官の職務遂行に対する国民の信頼を保つことも困難である。ことは検察のあり方そのものに関わる。

(2) 役職定年制の特例措置(④)による影響

また、法改正により、役職定年制の特例措置としての63歳以降の役職継続規定(④)が導入されれば、やはり、その実際の運用は恣意的になされるおそれが大きい。次長検事、検事長、検事正、上席検察官は、63歳で役職を解かれるか、役職を継続できるかの判断権を内閣又は法務大臣に握られ、これを継続するためには内閣等の意向を窺うこととならざるを得ない。そこには、時の政治権力者やそれに連なる者の影響が及ぶ危険が存在すると言わねばならない。

検事長、検事正、上席検察官は当該検察庁の他の検察官及び管轄区域内の検察庁の検察官を指揮監督する。また次長検事はすべての検察官を指揮監督する検事総長を補佐し、検事総長に事故のあるときや検事総長が欠けたときは検事総長の職務を行う者としてすべての検察官を指揮監督する。

従って、検事長、検事正、次長検事の職務遂行に政治的影響が及べば、それを通じ、当該検察官の指揮監督下にある検察官の職務遂行にも政治的影響が及ぶことがあり得る。この場合、政治的影響を受けた捜査、起訴不起訴の判断がより組織的になされることとなる危険がある。こうした点において、役職定年制の特例措置は、重大な欠陥を内包する制度であると言わざるを得ない。

6 結論

以上のとおり、国公法等改正案中、検察庁法を改正する内容のうち、全検察官について内閣等の判断による定年後勤務延長制を導入するとする部分(②)、及び、役職定年制の特例措置として内閣等の判断により一部の検察官についてのみ役職定年を解除し、役職を継続し得るとする部分(④)は、立法事実を欠くうえ、検察官の政治的独立性を害し、行政権による司法権の侵害、憲法の基本原理たる三権分立の侵害を来す危険を有するものであるので、当会は、これらの改正内容について、断固として反対する。

第3 黒川弘務元検察官の定年後の勤務を延長した閣議決定及び同元検察官の検事総長就任を可能とした閣議決定について
1 2つの閣議決定等をめぐる事実経過

1月31日、内閣は、2月7日限りで検察庁法22条が定める定年退官する予定だった黒川弘務東京高等検察庁検事長(当時。以下、「黒川氏」という。)について、一般職の国家公務員の定年後もその勤務を延長させ得ると定める国公法81条の3を適用し(以下、黒川氏についての定年後勤務延長を「本件勤務延長」という。)、6か月間の定年後勤務延長をする旨を閣議決定した(以下、「1.31閣議決定」という。)。

これに対し、81年答弁で示された、検察官の定年には検察庁法22条が適用され、国公法の定年制の規定は適用されない、との政府解釈に反し違法である、等の批判が向けられた。

この国会審議の過程では、森雅子法務大臣(以下、「森法相」という。)が81年答弁の存在を知らなかったことも明らかになった。

他方、81年答弁で示された政府解釈について、人事院給与局長は「現在まで同じ解釈を引き継いでいる。」と答弁した(2月12日の衆議院予算委員会)。

このような事態を受けて、安倍晋三内閣総理大臣(以下、「安倍首相」という。)は、上記人事院給与局長の答弁の翌日である2月13日の衆議院本会議において、上記のような従来の政府解釈の存在を認めたうえで、これを変更し、検察官にも同法同条が適用され、定年延長が可能であると解釈することとした旨の、それまでには行っていなかった説明を行った。

これに対応して、上記人事院給与局長は、同月20日の衆議院予算委員会において、「81年答弁で示された政府解釈を引き継いでいる。」旨の上記答弁を撤回したが、この撤回は、「つい、言い間違えた。」という、わが国の政府委員たる幹部職国家公務員としてはおよそ考え難い答弁によってなされた。

さらに、安倍首相の上記衆議院本会議答弁後には、1.31閣議決定以前になされたという、本件解釈変更をめぐる法務省と人事院の間の協議等についても説明がなされた。ところが、それは、協議結果を記載したとされる文書に日付が記載されていなかったり、必要な文書決裁を経ておらず、決済が口頭でなされたと説明されたりするなど、わが国の官公署における事務処理としてはおよそ信じ難い手法をも含む説明であった。

こうした不可解な経過によって本件勤務延長がなされたことに対して国民各層からの批判が噴出し、また、その目的が黒川氏を次期検事総長に任命することにあるのではないかという強い疑念が向けられた。

そのような中、内閣は、2月18日、黒川氏の検事総長就任も可能であるとする答弁事項を含む答弁書を閣議決定した(以下、この答弁書の一部である当該答弁事項を「2.18答弁」という。)。

本意見書第2で論じた検察庁法の改正案は、こうした経過の中、3月13日に国会提出されたものであり、当初の国公法改正案の検察庁法改正部分には定年後勤務延長制(②)と役職定年制の特例措置規定(④)が含まれていなかったのに後から付加されたこととも併せ考えると、本件定年後勤務延長と関連して先に確定していた国公法改正案に加えられたものと考えられる。そのことは、今般の検察庁法改正案が、本件定年後勤務延長の違法性を取り繕う目的で提案されたものであることを窺わせる。

2 検察官に定年後勤務延長規定は適用できないこと

しかし、3.27会長声明で論じたとおり、検察庁法、国公法の条文の文理解釈、及び、検察庁法の立法趣旨(本意見書第1の2でさらに詳述したもの。)に基づく解釈によれば、検察官に定年後勤務延長規定は適用できない。

1.31閣議決定は、解釈の限界を超えて違法であるばかりか、権力者による恣意的専断的な統治を許さないために、予め定めたルール(法律)による統治をなすべきとする、法律による行政(法治主義)にすら反するものであって、違法かつ無効である。

従って、現在、適法な任命手続きを経た東京高検検事長は存在しない。故に、内閣が適法な東京高検検事長を任命する必要がある。

3 2.18答弁の不適切性

2.18答弁は、黒川氏の検事総長就任を可能としている。この点は、本件勤務延長が黒川氏を検事総長に任命する目的でなされたのではないかという国民の疑念を強め、検察に対する国民の信頼をさらに低下させるものというほかなく、極めて不適切である。

また、国公法81条の3の規定を黒川氏に適用したとする内閣の論理によるとしても、同条が認める定年後勤務延長は、「その職員の職務の特殊性又はその職員の職務の遂行上の特別の事情」によるものであり(同条、下線は引用者による。)、特殊性なり特別の事情なりの判断対象はあくまで東京高検検事長の職務である。検事総長の職務ではない。黒川氏は、特例的に延長された東京高検検事長の勤務を終えれば、検察官としての定年を過ぎている以上、その定年規定に沿って速やかに退官すべき地位にある。検事総長は、すべての検察庁の職員を指揮監督する検察トップとしての性格上、現職の検察官から任命するという実務慣行による限り、その候補に黒川氏を含めるとするのは、違法な定年延長を利用するものであって、断じて許されない。

4 結論

よって、当会は、内閣に対し、違法かつ無効な1.31閣議決定、及び、極めて不適切な2.18答弁を撤回し、改めて適法な決定により、東京高等検察庁検事長を任命することを求める。

以上



*1 1947(昭和22)年3月28日の帝国議会貴族院検察庁法特別委員会における質疑では、検察庁法22条の定年規定が例外を設けない一律規定とされている点について、橋本實斐委員による、例外措置を設けないのかという質問に対して、木村篤太郎司法大臣が例外を設けず一律の定年として提案した旨を答弁している。

*2 「この条は、庁法制定当初は存在しなかったが、国家公務員法の施行に伴い、昭和二四年法律第一三八号による改正で追加されたものであり、検察官の級別、任命資格、欠格事由、定年、適格審査、剰員及び身分保障の規定は、検察官の職責の特殊性に基づき、国家公務員法の施行によって影響を受けず、同法の特例として効力を存続するものとすることを明らかにしたのである」(良書普及会、1986年(昭和61年)、出版当時、検事総長の任にあった伊藤栄樹著、初版は1963年(昭和38年)の同人著『逐条解説検察庁法』。)
*3 「検察官と大学教官につきましては、現在すでに定年が定められております。今回の法案では、別に法律で定められておる者を除き、こういうことになっておりますので、今回の定年制は適用されないことになっております。」(1981年(昭和56年)4月28日、衆議院内閣委員会における、検察官や大学教官に国公法の定年制の適用があるかという質問に対する、政府委員・斧誠之助人事院事務総局任用局長の答弁)。

2018年3月27日

罹災証明書の申請期限の延長についての意見書

平成30年3月27日

朝倉市
朝倉市市長 森田俊介 殿

福岡県弁護士会
会長 作間 功

1 意見の趣旨

罹災証明書(二次調査及び再調査を含む。)の申請について、申請期限を6か月程度延長することが相当である。

2 意見の理由

平成29年7月の九州北部豪雨災害では、豪雨に伴う河川の氾濫により大量の土砂や流木が住宅に流入する等の被害により、多くの住民が、未だに仮設住宅暮らしを余儀なくされています。被災地の復旧・復興は、着実に進んできているとはいえ、未だ途上の段階であります。

住家の被害認定は、災害により被災した住家の「被害の程度(全壊、半壊等)」を認定されるものであり、この認定結果に基づき、被災者の方々に「罹災証明書」が交付されます(災害対策基本法第90条の2)。この証明書の被害認定区分は、被災者生活再建支援金の支給、住宅の応急修理など様々な被災者支援策を受ける際の重要な基準となります。

しかしながら、従来の災害に係る住家の被害認定基準運用指針(以下「旧運用指針」といいます。)は、昨年の九州北部豪雨水害のような大量の土砂や流木が流入するといった水害を、必ずしも想定せずに策定されていたと思われ、住家被害認定の手法として不適当であると指摘されてきました。そのため、九州北部豪雨災害では、被災者の被害実態にそぐわない被害認定がなされていたと思われる事例が数多く散見されており、被災者の生活再建及び被災地の復旧復興が十分に行われていないように思われます。

そうした中、内閣府において、昨年11月から本年3月までの間、九州北部豪雨水害等における経験や知見等を踏まえて旧運用指針を見直すべく、四回にわたって検討会が開催され、この検討結果を受けて、今月23日、旧運用指針が改定されました(改定後の運用指針を「本運用指針」といいます。)。

本運用指針が、九州北部豪雨災害における経験や知見をも踏まえて改定されたという経緯からすれば、平成29年7月九州北部豪雨の被災者の中には、本運用指針を基準とした場合、被害認定の程度が重く認定される被災者がおられることが十分に予測されます。しかしながら、貴市は、罹災証明(二次調査及び再調査を含む。)の申請期限を平成30年3月30日(金)までと区切っておられます。運用指針が改定された以上、貴市は、本運用指針を改定された趣旨を踏まえて、住家被害の認定を行う必要が新たに生じておられます。

そこで、当会は、罹災証明書(二次調査及び再調査を含む)の申請について、申請期限を、本年3月30日ではなく、さらに少なくとも6カ月程度延長することが相当であると考えます。

以上

2017年11月27日

福岡県多重債務者生活再生事業の継続を求める意見書

2017年(平成29年)11月27日
福岡県弁護士会 会長 作間 功

第1 意見の趣旨

福岡県は,平成20年から実施している「福岡県多重債務者生活再生事業」(以下,「本事業」という。)を平成30年度以降も継続すべきである。

第2 意見の理由

1. 福岡県人づくり・県民生活部生活安全課は,本年9月29日に受託者であるグリーンコープ生活協同組合ふくおかに本事業を平成29年度までで終了すると口頭で通知し,同年10月10日付で各市町村長(多重債務相談窓口担当課)宛に事業終了すると通知文を送付したとのことである。

多重債務問題は,貸金業法の改正(総量規制等)により,一時期より沈静化したが,近時は,銀行等が貸金業法13条の2の適用がないことを利用して,貸金業者による保証を付した貸付を行うことにより,再び深刻化しつつある。このことを背景として,本年の本事業による相談窓口の受付件数は,前年(平成28年)の1,747件を大きく越える2,300件(9月までの実績×2)と予測される。

この2,300件という数字は,新しい取組として多くの報道がなされた本事業開始時である平成20年度の3,431件や,偽装質屋による多くの消費者被害が発生した平成24年の相談件数には及ばないものの,過去の平均数を上回るものであり,本事業による相談窓口が県民にとって身近な相談窓口として定着していることを示すものである。

加えて,弁護士・司法書士による債務整理等の相談件数は9月までで149件であり,年間の推計では300件となり,前年の273件を越える実績が予想される。この実態からしても,多重債務相談は減少しておらず,本事業の終了の根拠とはならない。

このように本事業による相談窓口は,多くの福岡県民が多重債務の問題解決に向けて相談を行う窓口になっているのであるから,それを閉ざすべきでない。

2. 本事業では,県内4つの相談室(福岡,北九州,直方,久留米)で相談を受けているが,多重債務者が相談に来易いように身近な自治体との連携で出張相談会が開催されている。具体的には,昨年31の県内自治体との連携により71回の出張相談会を実施し,111件の面談を受けている。

多重債務者にとって,自ら積極的に相談窓口を探すことは負担であるから,身近な相談機会の周知はアウトリーチの取り組み・相談者の発見としても有効である。同様に出張相談会を開催している自治体の開催要望は強く,相談会の広報や会場の手配等の協力や自治体の機関との連携も図れており,無くてはならないものに定着している。本事業が終了すれば,住民の身近な相談機会が無くなるとともに,自治体にとっても継続的な支援や代替措置は容易に取れない。

従って,県民にとって身近な相談機会を奪うべきではない。

3. 本事業は,貸付事業を中核とした事業である。貸付を行う前提として,多重債務者へのカウンセリング,アセスメントを行い,相談者の家計の状況の把握とそうなった背景を相談者と共有した上で,債務の整理を前提に家計の見直しや,滞納の解消,不足する生活資金の貸付を行っている。

このように,多重債務問題を入り口として生活全体を再生していくことを目的とする機関は少なく,支援のネットワークの中での重要な位置を占めている。かつて多重債務問題が深刻な社会問題になった時期に国の多重債務問題改善プログラムがまとめられ,その対策方針の中の顔の見えるセーフティネット貸付が重要視されたが,福岡県はこれに着目して,全国で最初に,相談・貸付・金銭教育・悪徳商法被害救済の総合的な事業として,本事業を開始したものである。

本事業による貸付を受けている相談者は,既に債務不履行状態にあり信用情報が悪化しているため,どこからも借り入れができない者が全体の貸付のうち実に82%(29年上半期)に及んでいる。このように,本事業は,多重債務者に対する貴重な貸付機関として機能している。実際,多重債務者は貸付によって問題解決を図ろうとする傾向が強く,貸付がある相談窓口で,相談者との対話により,生活上の問題点を明らかにした上での貸付を契機にする本事業による生活再建活動は,多重債務問題を解決するためには極めて有効である。

加えて,近年は,銀行のカードローンによる多額の債務が多くなってきている。平成28年度における501万円から1000万円の債務を抱えている相談者は,2年前と比べて2.5ポイント増加しているし,法律家による債務整理相談の内,自己破産の割合は43%と5.2ポイント増加していることがその傾向を表している。銀行のカードローンによる多額の債務を抱えた多重債務問題として社会的な問題になりつつあり,多重債務生活再生事業はこの問題にも対応できている。

多重債務者の生活再生は,単に多重債務者が抱えている返済不可能な債務の解消を行なえば済むものではない。同時に抱えている家賃や税金,公共料金の滞納の問題や当面の生活資金の不足,学費や車検の費用の不足等,様々な問題をも解決する必要があるのである。本事業は,生活資金の貸付を行なう点で「顔の見えるセーフティネット貸付機関」として特徴あるものであり,この貸付業務を梃子にして多重債務者が抱えている様々な課題に対してカウンセリングやアセスメントを行なって各支援機関と連携して生活の再生に向かえるように伴走する事業である。このように,多重債務者の支援のネットワークの重要な位置を占める本事業を終了すべきではない。

4. 平成27年から生活困窮者自立支援法が施行され,自立相談支援事業を中核にして支援事業が始まっている。その中の家計相談支援事業は,家計管理により生活の課題を解決していくものとして多重債務者生活再生事業と類似している。しかし,この家計相談支援事業は県内の全ての自治体では実施しておらず,全県民対象の多重債務生活再生事業の代替とはならない。

加えて,家計相談支援事業は貸付を伴っておらず,その意味でも代替とはならない。

多重債務者や生活困窮者の問題は生命に関わる深刻な問題である。特に,多重債務者は生活困窮状態にあり,DVや虐待,ネグレクト等の複合的な課題を抱えている場合が多い。

県民生活の安全を所管する部署は,本事業が県民に対するいわば生命にかかわる事業であることを十分考慮して,慎重な判断をすべきである。従って,本事業の重大な変更をするためには,上述の本事業の実施状況を正確に把握した上で,本事業を仮に廃止した場合に,県民生活にどのような影響が及ぶのかを慎重に検討し,代替措置が十分可能かも含めて判断するべきである。従って,本事業の存続の可否については,手続的には,一番現場を把握している受託者や福岡県消費生活審議会で,事業の方向性について検討した後に行うことが必要不可欠である。

そのような手続的配慮も欠いたまま,本事業を廃止すべきではない。

よって,福岡県は,平成30年度以降も本事業を継続すべきである。

以  上

2017年9月13日

消費者契約法の改正にかかる意見

平成29年(2017年)9月13日

内閣総理大臣 安倍 晋三 殿

衆議院議長 大島 理森 殿

参議院議長 伊達 忠一 殿

内閣府特命担当大臣(消費者及び食品安全) 江崎 鐵磨 殿

消費者庁長官 岡村 和美 殿

内閣府消費者委員会委員長 高 巖 殿

内閣府消費者委員会消費者契約法専門調査会座長 山本 敬三 殿

福岡県弁護士会
会長  作間 功

消費者契約法の改正にかかる意見

2000年(平成12年)4月に制定された消費者契約法(以下「法」という。)については,法施行後の消費者契約に係る苦清相談の処理例及び裁判例等の情報の蓄積を踏まえ,情報通信技術の発達や高齢化の進展を始めとした社会経済状況の変化への対応等の観点ら,2016年(平成28年)5月25日において法改正が行われた。

しかし,この改正にあたっては,内閣府消費者委員会(以下「消費者委員会」という。)および同委員会の下に設置された消費者契約法専門調査会(以下「専門調査会」という。)において多岐にわたる項目についての検討がなされたものの,法改正として実現したのは僅か6項目に止まり,「勧誘」要件の在り方,不利益事実の不告知,困惑類型の追加,「平均的な損害の額」の立証責任,条項使用者不利の原則,不当条項等の追加等については,引き続き検討を行うべきものとされた。そして,その後の検討を踏まえ,2017年(平成29年)8月4日に専門調査会が報告書(以下「本報告書」という。)をとりまとめ,同月8日,消費者委員会は,さらなる意見を付したうえで,内閣総理大臣に対する答申を行うに至った。

現在,成年年齢の引下げに関する民法改正の動きが加速するなか,知識や経験の不足した若年成人をめぐる消費者被害の増加が懸念され,また認知症等により判断力の不十分な高齢者をめぐる消費者被害の防止及び救済が,もはや一刻の猶予もない状況にあるとともに,消費者庁において新たな法改正作業が進められていることに鑑み,当会として,下記のとおり意見を述べる。

第1 意見の趣旨

本報告書に示された消費者契約法の見直しにかかる専門調査会の提言については,消費者被害の防止及び救済の促進という観点から一定の評価をすることができるものである。しかし,その提言をもって,消費者被害の防止及び救済に対する十分な措置が講じられたものと結論づけることはできない。特に,本報告書を受けた消費者委員会の答申において敢えて付言されているとおり,「特に早急に検討し明らかにすべき喫緊の課題」が残されており,また本報告書の提言内容についても,より適切かつ妥当な対応をなすべきものと考えられる点が少なくない。

そこで,以下においては,本報告書にもとづいて,その検討すべき各論点についての意見を述べることにする。

第2 意見とその理由
1. 事業者の努力義務について(法3条第1項関係)

【意 見】

(1) 契約条項の解釈について疑義が生ずることのないよう配慮すべき事業者の努力義務を規定する本報告書の提言については,これに賛成する。

しかし,より適切には,契約条項の内容が不明確であり,解釈に疑義が生じた場合につき,消費者にとって有利な解釈をとるべきものとする旨の解釈準則(「条項使用者不利の原則」又は「消費者有利解釈の原則」)を明確に規定すべきである。

(2) 当該消費者契約の目的となるものの性質に応じ,当該消費者契約の目的となるものについての知識及び経験についても考慮した上で,消費者の権利義務その他の消費者契約の内容についての必要な情報を提供するよう努めなければならない旨の事業者の努力義務を規定する本報告書の提言については,これに賛成する。

しかし,より適切には,事業者の法的義務として適合性原則を明文化し,当該契約の目的となる商品及び役務などにつき,当該消費者の知識,経験,年齢などに基づくその判断力に応じて必要かつ合理的な配慮を行わなければならない旨の適合性原則を事業者の法的義務として明確に規定すべきである。

【理 由】

(1) 契約条項の内容が不明確であり,その解釈に疑義が生じた場合につき,諸外国においては,消費者にとって有利に解釈すべきものとする解釈準則(「条項使用者不利の原則」又は「消費者有利解釈の原則」)が確立している。消費者契約における事業者と消費者の情報や交渉力の格差などに鑑みるならば,わが国においても同様の解釈準則を明文において規定することが,公平の理念からみて妥当である。

(2) 消費者と事業者の情報に格差が存在する現状においては,事業者に積極的な情報提供を義務付けるのみならず,当該契約の目的となる商品や役務に関する当該消費者の知識や経験に応じた適切な情報の提供を義務づけることによって,質及び量における情報の格差を実質的に是正することが必要である。

〔参 考〕

本報告書12頁,13頁

契約条項の明確化の努力義務を定めた法第3条第1項を改正し,事業者は,消費者契約の条項を定めるに当たっては,消費者の権利義務その他の消費者契約の内容が消費者にとって明確かつ平易なものになり,また,条項の解釈について疑義が生ずることのないよう配慮するよう努めなければならない旨を明らかとすることとする。

事業者の情報提供の努力義務を定めた法第3条第1項を改正し,当該消費者契約の目的となるものの性質に応じ,当該消費者契約の目的となるものについての知識及び経験についても考慮した上で,消費者の権利義務その他の消費者契約の内容についての必要な情報を提供するよう努めなければならない旨を明らかとすることとする。

2. 不利益事実の不告知における主観要件について(法第4条第2項関係)

【意 見】

不利益事実の不告知による取消しの要件につき,「故意」のみならず「重大な過失」を追加する本報告書の提言については,これに賛成する。

しかし,より適切には,不利益事実の不告知による取消しにつき,不告知者の故意過失を要件から削除すべきである。

【理 由】

(1) 不利益事実の不告知による取消しにつき,不告知者の故意過失を要件とすることは,その立証責任が消費者にあることから,消費者に困難を強いるものである。しかし,「故意」のみならず,「重大な過失」を要件に追加するならば,主観的要件にかかる消費者の立証責任を緩和するものであって,消費者被害の防止及び救済を促進するという観点において妥当であるが,その主張立証の困難性は,依然として解消されていない。

(2) 現行法上,不実告知による取消しについて,不実告知者の故意過失は要件とされておらず(法4条第1項第1号),「不作為による不実告知」とも言うべき不利益事実の不告知について,不告知者の故意過失を要件とすることに合理性は認められない。

(3) したがって,不利益事実の不告知による取消しにつき,不告知者の主観的要件を削除し,不利益事実の不告知という客観的事実のみをもって,その要件とすべきである。

〔参 考〕

本報告書3頁

不利益事実の不告知(法第4条第2項)の主観的要件に「重大な過失」を追加することとする。

3. 合理的な判断をすることができない事情の利用にかかる困惑類型の追加について(法第4条第3項関係)

【意 見】

(1) ①消費者の不安を煽る告知及び②勧誘目的で新たに構築した関係の濫用につき,これらを合理的な判断をすることができない事情の利用にかかる困惑類型(法第4条第3項)に追加する本報告書の提言については,これに賛成する。

(2) 本報告書において提言された上記(1)の①及び②に加え,合理的な判断をすることができない事情の利用にかかる困惑類型(法第4条第3項)につき,年齢又は障害などによる消費者の判断力の不足に乗じた勧誘行為を追加すべきである。

【理 由】

(1) 本報告書の提言する合理的な判断をすることができない事情の利用にかかる困惑類型の追加によって,いわゆる霊感商法,就職セミナーへの勧誘,恋人商法といった消費者被害につき,その防止及び救済の範囲を拡大することが期待される。

(2) 法第4条第3項は,事業者が消費者の合理的な判断ができない事情を作出又は増幅させ,その状況を不当に利用した勧誘行為(いわゆる「作出型勧誘行為」)について困惑類型として定めるものであり,本報告書の提言においても,事業者が消費者の合理的な判断ができない事情を利用したにすぎない勧誘行為(いわゆる「つけこみ型勧誘行為」)は対象とされていない。

特に,認知症など高齢者の判断力不足に乗じた不当な勧誘行為による消費者被害が著しく増加しているほか,政府は,2017年(平成29年)8月4日,民法における成年年齢を18歳に引き下げる民法改正法案を秋の臨時国会に提出する方針を明らかにしており,成年年齢の引下げによって,知識や経験不足などにより合理的な判断をすることができない若年成人をめぐる消費者被害の増加が懸念されており,これら高齢者及び若年者に対する消費者被害の防止と救済は,喫緊の課題であると言わなければならない。すなわち,合理的な判断をすることができない事情の利用にかかる困惑類型(法第4条第3項)として,年齢又は障害などによる消費者の判断力の不足に乗じた勧誘行為を規定することは,今回の法改正における最も重要な課題である。

〔参 考〕

本報告書

事業者の一定の行為によって消費者が困惑して意思表示をしたときの取消権を規定した法第4条第3項において,下記①及び②のような趣旨の規定を追加して列挙することとする。

① 当該消費者がその生命,身体,財産その他の重要な利益についての損害又は危険に関する不安を抱いていることを知りながら,物品,権利,役務その他の当該消費者契約の目的となるものが当該損害又は危険を回避するために必要である旨を正当な理由がないのに強調して告げること

② 当該消費者を勧誘に応じさせることを目的として,当該消費者と当該事業者又は当該勧誘を行わせる者との間に緊密な関係を新たに築き,それによってこれらの者が当該消費者の意思決定に重要な影響を与えることができる状態となったときにおいて,当該消費者契約を締結しなければ当該関係を維持することができない旨を告げること

判断力の不足等を不当に利用し,不必要な契約や過大な不利益をもたらす契約の勧誘が行われる場合等の救済については,重要な課題として,民法の成年年齢の引下げの存否等も踏まえつつ,今後も検討を進めていくことが適当である。

4. 心理的負担を抱かせる言動等にかかる困惑類型の追加について(法第4条第3項関係)

【意 見】

①消費者が意思表示をする前に,事業者が履行に相当する行為を実施し,契約を強引に求めること,②事業者が消費者に契約の締結を目的とする行為を実施し,当該消費者が契約締結の意思表示をしないことによって損失が生じることを正当な理由がないのに強調して告げることにつき,これらを心理的負担を抱かせる言動等にかかる困惑類型(法第4条第3項)に追加する本報告書の提言については,これに賛成する。

ただし,意思表示前における履行に相当する行為の実施にかかる取消しの対象となる事業者の行為につき,「契約における義務の全部又は一部の」履行に相当する行為」のみならず,当該契約と密接な関連を有する付随行為を含む旨を明確に規定すべきである。

【理 由】

意思表示前における履行に相当する行為の実施及び契約拒絶による損失の強調につき,心理的負担を抱かせる言動等にかかる困惑類型(法第4条第3項)として追加することは,消費者被害の防止及び救済を促進するという観点において妥当である。

しかし,意思表示前の履行に相当する行為については,当該契約の前提として密接な関連を有する付随行為がなされた場合においても,消費者の心理的負担に乗じて契約を迫る点に変わるところはなく,これらの場合についても契約取消しの対象とすべきである。

〔参 考〕

本報告書

事業者の一定の行為によって消費者が困惑して意思表示をしたときの取消権を規定した法第4条第3項において,下記①及び②のような趣旨の規定を追加して列挙することとする。

① 当該消費者が消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示をする前に当該消費者契約における義務の全部又は一部の履行に相当する行為を実施し,当該行為を実施したことを理由として当該消費者契約の締結を強引に求めること

② 当該事業者が当該消費者と契約を締結することを目的とした行為を実施した場合において,当該行為が当該消費者のためにされたものであるために,当該消費者が当該消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示をしないことによって当該事業者に損失が生じることを正当な理由がないのに強調して告げ,当該消費者契約の締結を強引に求めること

5. 後見開始等の審判を受けたことを理由とする解除権付与にかかる不当条項類型の追加について

【意 見】

消費者が後見開始,補佐開始または補助開始の審判を受けたことのみを理由として事業者に解除権を付与する条項につき,不当条項類型として無効であるものとする本報告書の提言については,これに賛成する。

ただし,「後見開始,補佐開始または補助開始の審判を受けたことのみ」ではなく,「後見開始,補佐開始または補助開始の審判を受けたこと」を契約の解除事由とする条項につき,不当条項類型として無効である旨を規定すべきである。

【理 由】

後見開始等の審判を受けたことをもって契約の解除事由とすることに,何ら合理性は認めらない。したがって,後見開始等の審判を受けたことのみを契約の解除事由とする条項をもって不当条項類型として無効である旨を定める本報告書の提言は,消費者被害の防止及び救済を促進するという観点において妥当である。

しかし,後見開始等の審判を受けたこと「のみ」をもって不当条項の要件とするならば,後見開始等の審判を受けたことを解除事由の一つとして考慮することは許されることになる。

そこで,「後見開始,補佐開始または補助開始の審判を受けたことのみ」ではなく,「後見開始,補佐開始または補助開始の審判を受けたこと」を契約の解除事由とする条項につき,不当条項類型として無効である旨を規定すべきである。

〔参 考〕

本報告書

消費者契約が,物品,権利,役務その他の消費者契約の目的となるものの対価を消費者が支払うことを内容とする場合において,当該消費者が後見開始,保佐開始又は補助開始の審判を受けたことのみを理由として事業者に解除権を付与する条項を無効とする旨の規定を設けることとする。

6. 事業者への決定権限付与にかかる不当条項類型の追加について

【意 見】

事業者の損害賠償の責任を免除する条項の無効(法第8条)及び消費者の解除権を放棄させる条項の無効(法第8条の2)の潜脱を可能とするような事業者の決定権限付与条項につき,不当条項類型として無効であるものとする本報告書の提言については,これに賛成する。

しかし,より適切には,事業者が契約の内容を事後的かつ一方的に決めることを許容する条項(「事業者への解釈権限付与条項・決定権限付与条項」)そのものにつき,不当条項類型として無効である旨を規定すべきである。

【理 由】

本報告書に列挙された条項は,実質的には,「事業者への解釈権限付与条項・決定条項」とされるものであり,これらの条項を不当条項類型として無効であるとする本報告書の提言は,消費者被害の防止及び救済の範囲を拡大するものとして妥当である。

しかし,より適切には,「事業者への解釈権限付与条項・決定条項」とされる条項を各別に列挙して規定するのではなく,「事業者への解釈権限付与条項・決定条項」そのものを不当条項類型として規定し,事業者が契約の内容を事後的かつ一方的に決めることを許容する条項そのものにつき,不当条項類型として無効とする旨を規定すべきである。

〔参 考〕

本報告書

次に掲げる消費者契約の条項は無効とする旨の規定を設けることとする。

ア 事業者の債務不履行により消費者に生じた損害を賠償する責任の要件に該当するか否かを決定する権限を事業者に付与する条項

イ 消費者契約における事業者の債務の履行に際してされる当該事業者の不法行為により消費者に生じた損害を賠償する責任の要件に該当するか否かを決定する権限を事業者に付与する条項

ウ 事業者に債務不履行がある場合に消費者の契約を解除する権利の要件に該当するか否かを決定する権限を事業者に付与する条項

7. 不当条項としての「サルベージ条項」について

【意 見】

ある条項が強行法規に反し無効となる場合に,その条項の効力を強行法規によって無効とされない範囲に限定する旨の条項(いわゆる「サルベージ条項」)につき,不当条項類型として無効である旨を規定すべきである。

【理 由】

サルベージ条項は,その存在によって消費者が不当条項の無効主張を諦めることとなり,結果として不当条項を甘受しかねないものとして,信義則に反して消費者の利益を一方的に害するものである。

〔参 考〕

本報告書

サルベージ条項を現時点で不当条項として規律するのではなく,サルベージ条項の使用状況や裁判例の状況等を踏まえた上で,今後の課題として,必要に応じ検討を行うべきである。

8. 不当条項としての賠償責任の一部を免除する条項について

【意 見】

事業者の軽過失による消費者の生命又は身体の侵害に対する損害賠償にかかる賠償責任の一部を免除する条項につき,不当条項類型として無効である旨を規定すべきである。

【理 由】

人の生命及び身体は要保護性の高い重要な法益であり,本来,合意による処分に適するものではない。

〔参 考〕

本報告書

軽過失による人身損害の一部免責条項に関する規律については,当面は法第10 条の解釈・適用に委ねつつ,その状況等を踏まえた上で,今後の課題として,必要に応じ検討を行うべきである。

9. 「平均的な損害の額」の立証に関する規律の在り方について(法第9条第1号関係)

【意 見】

「事業の内容が類似する同種の事業者に生ずべき平均的な損害の額」を消費者が立証したことにより,「当該事業者に生ずべき平均的な損害の額」が立証されたものとする推定規定を導入する本報告の提言については,これに賛成する。

しかし,より適切には,「平均的な損害」にかかる立証責任を事業者に転換する旨を法律上規定すべきである。

【理 由】

消費者において「平均的な損害の額」及びこれを「超えること」を主張立証すべきものとする判例の立場(最判平成18年11月27日民集60巻9号3437頁)においても,「平均的な損害」にかかる推定規定の導入は,消費者の立証困難性を緩和するものとして妥当である。

しかし,「事業の内容が類似する同種の事業者」にかかる類似性要件を厳格に要求するならば,この推定規定が働く余地は大きく制約されることとなり,当該事業者に生ずべき平均的な損害の額を算定するのに必要な帳簿などの資料が当該事業者の元にあることを考えるならば,「平均的な損害」にかかる立証責任については,立証責任の公平な分配という観点から,これを事業者に転換する旨を法律上規定すべきである。

〔参 考〕

本報告書

法第9条第1号の「平均的な損害の額」に関し,消費者が「事業の内容が類似する同種の事業者に生ずべき平均的な損害の額」を立証した場合には,その額が「当該事業者に生ずべき平均的な損害の額」と推定される旨の規定を設けることとする。

10. 「平均的な損害」における損害の範囲について(法第9条第1号関係)

【意 見】

契約解除後に履行期が到来する役務等の逸失利益につき,原則として「平均的な損害」に含まれない旨を規定すべきである。

【理 由】

契約解除後に履行期が到来する役務等が解除された場合において,事業者はその未履行分の履行義務を免れることから,損益相殺により,逸失利益は,原則として,生じないものというべきである。

〔参 考〕

本報告書

〔前略〕実態把握や分析を更に積み重ねた上で,「解除に伴う」要件の在り方や「平均的な損害の額」の意義など法第9条第1号に関する他の論点と併せて,今後の課題として,必要に応じ検討を行うべきである。

11. 約款の事前開示について(法第3条関係)

【意 見】

約款による消費者契約について,事業者は,契約締結前において,約款を消費者に開示すべきことを原則とする旨を規定すべきである。

【理 由】

約款による消費者契約にあっても,その法的拘束力の根拠は,契約当事者間における意思の合致であり,約款に法的拘束力が認められるためには,当該約款が契約締結時までに消費者に開示され,あるいは当該約款が消費者の知ることのできる状態に置かれなければならない。

〔参 考〕

本報告書

約款の事前開示については,消費者に対する契約条項の開示の実態を更に把握することなどを経た上で,今後の課題として,必要に応じ検討を行うべきである。

第3 おわりに

今回の法改正においては,2014年(平成26年)8月5日の消費者委員会に対する内閣総理大臣の諮問に示された「情報通信技術の発達や高齢化の進展を始めとした社会経済状況の変化への対応等の観点」とともに,2017年秋の臨時国会に民法改正法案の提出が予定されている成年年齢の引下げに伴う若年者保護の必要性という視点を踏まえなければならない。

その点において,「判断力の不足等を不当に利用し,不必要な契約や過大な不利益をもたらす契約の勧誘が行われる場合等の救済については,重要な課題として,民法の成年年齢の引下げの存否等も踏まえつつ,今後も検討を進めていくことが適当である。」として,最も重要な課題を先送りした本報告書は,きわめて不十分なものであると言わざるをえない。

そして,これに対し,消費者委員会が,その答申において,「合理的な判断をすることができない事情を利用して契約を締結させるいわゆる『つけ込み型』勧誘の類型につき,特に,高齢者・若年成人・障害者等の知識・経験・判断力の不足を不当に利用し過大な不利益をもたらす契約の勧誘が行われた揚合における消費者の取消権」について,「早急に検討し明らかにすべき喫緊の課題」であることを敢えて付言したことは,きわめて重く受け止めなければならない。

仮に,今回の法改正において,高齢者・若年成人・障害者等の知識・経験・判断力の不足へのつけ込み型勧誘類型についての立法化がなされなかったとしても,本報告書は,これらに対する立法措置が不要であると判断したものではなく,政府において直ちにさらなる法改正の検討を開始すべきである。

2015年12月17日

少年法の成人年齢引下げ問題に関する意見(法務省の意見募集に関して)

第1 意見の趣旨
 1 少年法第2条1項の定める「成人」の年齢を現行の20歳から引き下げるべきではない。
 2 若年者に対する刑事法制の在り方について検討を行うときも,少年法の成人年齢の引下げ問題とは切り離し,別途議論すべきである。

第2 意見の理由
1 公職選挙法の改正に伴い,少年法第2条1項が定める「成人」年齢について,これを引き下げるべきか否かの議論がある。
しかし,当会の本年6月25日付「少年法適用対象年齢引下げに反対する会長声明」で詳しく指摘したとおり,法律の適用対象年齢は,各法律の立法趣旨に照らして個別具体的に検討すべきであり,少年法の適用対象年齢についても,18歳・19歳の少年は未成熟であり,再犯防止策としては刑罰を科すよりも保護処分に付する方が適切であるとの立法趣旨に照らし,そして,子ども・若者の成長発達ないし最善の利益と犯罪予防などの社会全体の利益を実現する観点から,個別具体的に検討すべきである。そして,現行少年法の手続と教育的な処遇や環境調整等は再犯防止に効果を挙げるなど,有効に機能しているため,現行少年法が適用対象年齢を旧少年法(大正14年制定)の18歳未満から20歳未満へと引き上げた趣旨について,現時点においてこれを変更すべき合理的な理由は存在しない。適用対象年齢の引下げは,18歳・19歳の少年がこれまで受けることができた教育的な働きかけや環境の調整という機会を奪うこととなり,その結果,少年の立ち直り・更生の機会を奪い,再犯の可能性を高める結果を引き起こしかねず,少年にとっても社会にとっても不利益な結果となりかねない。
よって,少年法の「成人」年齢は引き下げるべきでない。

2 この点,自由民主党の政務調査会が本年9月17日に取りまとめた「成人年齢に関する提言」は,少年法の「成人」年齢について,「国法上の統一性や分かりやすさといった観点から,少年法の適用対象年齢についても,満18歳未満に引き下げるのが適当である」とする。
しかし,上記提言も,国民年金の支払義務や児童福祉法に定める児童自立生活援助事業における対象年齢などの諸法令については適用年齢引下げの対象外とし,飲酒・喫煙や公営ギャンブルについては適用年齢引下げの是非を引き続き検討するとしているように,やはり,法律の適用年齢は,各法律の立法趣旨に照らして個別具体的に検討すべきものである。上記提言の「国法上の統一性や分かりやすさ」との観点は,少年法の適用年齢を変更する根拠としては極めて薄弱であり,不十分であるといわざるを得ない。
そして,上記提言も認めるとおり,罪を犯した者の社会復帰や再犯防止という点で,現行少年法の保護処分が果たしている機能には大きなものがある以上,少年法の適用対象年齢を引き下げる必要はない。

3 法務省は,上記提言を受け,「若年者に対する刑事法制の在り方全般に関する意見募集」を行っているが,当会としては,以上の理由から,少年法の「成人」年齢の引下げについて,改めて強く反対する意見を表明するものである。
また,若年者に対する刑事法制の在り方については,本来,少年法の「成人」年齢引下げ問題とは別の,20歳以上の若年成人に関する検討課題である。従って,若年者に対する刑事法制の在り方について検討する場合であっても,それと少年法の「成人」年齢の引下げの是非とを関連付けて議論すべきではなく,両者は切り離して議論されるべきである。
                                   以 上


                    2015年(平成27年)12月17日
                    福岡県弁護士会  
                    会 長  斉  藤  芳  朗 

2015年12月15日

消費者庁・国民生活センターの地方移転に反対する意見書

2015年(平成27年)12月15日
福岡県弁護士会 会長  斉 藤 芳 朗

第1 意見の趣旨

1 消費者庁が,特命担当大臣の下で政府全体の消費者保護政策を推進する司令塔機能を果たすとともに,消費者被害事故などの緊急事態に対処し,所管する法制度について迅速な企画・立案・実施を行う機能を果たすためには,担当大臣,各省庁及び国会と同一地域に存在することが不可欠であり,これに反するような地方移転には反対である。

2 国民生活センターが,全国の消費生活相談情報の分析を踏まえて消費者保護関連法制度・政策の改善に向けた問題提起や情報提供を効果的に行うためには,消費者庁及び消費者委員会と密接に連携して分析及び情報交換を行うことが必須であり,また,消費生活センター・消費生活相談窓口支援の中核機関としての機能を果たすためにも地方移転には反対である。

第2 意見の理由

1 はじめに

政府は,政府関係機関の地方移転に係る道府県の提案を受け,目下「まち・ひと・しごと創生本部」に「政府関係機関移転に関する有識者会議」(以下「有識者会議」という。)を設置し,本年12月に考え方を取りまとめ,来年3月には基本方針を決定することとしている。その中で,徳島県から消費者庁と国民生活センターを同県に移転することが提案され,有識者会議で審議されている。

東京圏への一極集中は,地価の高騰,若年者の東京圏への大量流入,人口や各機関の集中による被害の大規模化と災害時の行政機能・産業の空洞化のリスクを増大させるだけでなく,地方の人口減少と人手不足,地域経済の縮小を増幅させるなど,我が国全体の活力の低下をもたらす事態となる。これを是正する方策として政府関係機関の地方移転を促進することは,その機関に関連する民間事業者の地方展開を促す効果も期待できる点で,地方の活性化に資する政策として評価できる。

ただし,地方移転に伴い当該政府関係機関が果たすべき本来の機能が大きく低下することとなっては本末転倒であるから,地方移転の対象機関を選定するに当たっては,この点の検証が不可欠である。そして,有識者会議の考え方として,道府県からの提案のうち「官邸と一体となり緊急対応を行う等の政府の危機管理業務を担う機関」や「中央省庁と日常的に一体として業務を行う機関」に係る提案,「現在地から移転した場合に機能の維持が極めて困難となる提案」などについては,移転をさせない方向性が示されている。

消費者庁・国民生活センターは,以下に述べるとおり,担当大臣の下で消費者委員会とも連携しながら,多数の省庁に分散している消費者行政を総合的に推進する司令塔として,「他の省庁と日常的に一体」となって業務を行っている。また,大規模な食品被害など国民の安心安全を脅かす事態が生じたときには,「官邸と一体となり緊急対応を行う」政府の危機管理業務を担っている。このため,現在地から移転した場合に本来の機能の維持が極めて困難となり,我が国の消費者行政全体の機能の後退につながるものとして重大な危惧を指摘せざるを得ない。これらの機能を果たすためには,担当大臣,各省庁及び国会と同一地域に存在することが不可欠である。有識者会議の考え方に照らしても,これに反するような地方移転には反対である。

当会は,消費者庁が創設されたことについて,当会管内で生活をする市民はもちろんのこと,国民全体の視点に立って見ても,その権利を守るうえで大変喜ばしいことであると捉えている。徳島県は,消費生活サポーターの養成と地域連携の推進など消費者行政の推進を先駆的に取り組んでいる地方公共団体として高く評価できるものの,消費者庁,国民生活センターの機能確保の観点から,これを他の省庁と切り離して地方移転することには反対せざるを得ない。また,消費者庁,国民生活センターと連携して消費者行政を担っている消費者委員会においても移転が検討される事態となれば,これについても反対せざるを得ない。

なお,移転の可否を審議している有識者会議には,利害関係を有する消費者代表も入っておらず,これを対象とする公聴会やヒアリングも予定されていない。消費者にとって重大な影響を及ぼすものであり,消費者代表などからの意見聴取をすべきである。

2 消費者庁の地方移転について
(1) 各省庁と連携し消費者政策推進の司令塔として機能する消費者庁

消費者問題は,食品や製品の生産・流通・販売・安全管理,金融,教育,行政規制・刑事規制など多くの領域に関わり,経済産業省・金融庁・農林水産省・厚生労働省・国土交通省・文部科学省・警察庁等をはじめとするほとんどの省庁と関連している。しかし,これらの各省庁による取組だけでは統一的な消費者行政の施策を適切に推進し実行していくことはできない。消費者庁は,様々な省庁と密接に連携し,政府全体の消費者行政の司令塔として,消費者保護施策を統括的に推進する役割を果たすために設置された(平成20年6月27日閣議決定「消費者行政推進基本計画~消費者・生活者の視点に立つ行政への転換~」。現行の消費者基本計画は,平成27年3月24日閣議決定「消費者基本計画」であり,同日付の消費者政策会議決定の「消費者基本計画工程表」も参照。)。

大多数の消費者関連法は依然として消費者庁でなく各省庁が所管しているが,その中で,消費者庁は,消費者保護のために立法や法改正を企画し実現しなければならない。設置されてわずか6年の,規模も小さい消費者庁が,大きな権限や機能を持つ関係省庁と協議し,様々な利害を調整して法改正を実現することは,決して容易なことではないが,消費者庁には関係省庁との日常的で密接な協議や調整を通じて,かかる統括的な役割を果たすことを期待されている。さらに,消費者庁は,各省庁の所管する法律を消費者保護の視点から統括的にチェックし,必要な修正も求めていかなければならない。このように,消費者庁には,消費者保護の政策を各省庁と一体となって,時に対立する利害を調整しつつ行っていくことが求められている。

また,消費者庁は,消費者被害事故の緊急時には情報収集をし,官邸と一体となって各省庁と連携しながら消費者安全のための施策を実施し,マスコミにも必要な発信をし,様々な緊急対応を行う等の政府の危機管理業務を担っている。

このような機能を担う消費者庁は,担当大臣や中央省庁と日常的に一体として業務を行う必要があり,現在地から地方移転した場合に機能の維持が極めて困難になると考えられる機関である。

(2) 緊急時における危機管理業務の担い手として

消費者庁は,消費者安全に関する重大事故発生時には,官邸と連絡を取りながら,関係大臣等を本部員とする緊急対策本部を速やかに開催し,関係省庁と連携して事態に対処しなければならない。即時に各方面から被害情報の収集をし,マスコミ等にも対応し,消費者の安全のための施策を適切に行う必要がある。

例えば,2013年(平成25年)12月29日,冷凍食品から農薬(マラチオン)が検出されたため,事業者から自主回収するとの発表がなされた事件では,消費者安全法を踏まえ,消費者庁は直ちに消費者向けに注意喚起した。事件発覚直後である年明け早々には内閣府特命担当大臣(消費者及び食品安全)が直接事業者と面談の上,情報提供等の要請を行い,さらに関係府省庁の局長級で構成する消費者安全情報総括官会議を開催するなどの施策が実施された。消費者庁は,食品衛生法を所管する厚生労働省をはじめ,食品安全委員会,農林水産省,警察庁等と連携し,情報の共有と被害の拡大防止等の対応にあたった(平成26年度版消費者白書19~24頁)。

なお,この消費者安全情報総括官制度は,消費者安全法を踏まえて消費者被害の発生・拡大を防止して安全を確保するため,緊急事態への即応体制を強化するために設けられた制度であり,消費者庁をはじめとして,食品安全委員会,警察庁,総務省,消防庁,文部科学省,厚生労働省,農林水産省,経済産業省,国土交通省,環境省の所定部署から構成されている(平成24年9月28日関係府省局長申合せ「消費者安全情報総括官制度について」)。消費者庁はこの会議の事務局を務めなければならず,消費者庁が直接に準備や出席をしなければ会議は成り立たない。

さらに,ホテル・レストランが提供する料理等のメニュー表示に関する偽装表示の問題では,消費者庁は内閣官房長官の下で「食品表示等問題関係府省庁等会議」を開催し,食品表示の適正化策を早期に策定した。

東日本大震災発生時には,消費者庁長官主宰で物価担当官会議を開催して,関係省庁と連携して震災後の生活物資確保を図っている。

また,防災や鳥インフルエンザ対策の政府の緊急会議がある場合には,消費者庁も直ちに参集する必要があるとされている。

このような多数省庁が関係する緊急事態は,消費者問題では頻繁に起こることであり,何ら珍しいものではない。こうした緊急事態においては,インターネットや電話などの遠方からの情報交換や情報発信では到底足りず,数時間以内に対面での会議を開き,官邸や省庁を回って情報収集と情報共有を行い,記者会見などを行う必要がある。場合によっては問題になった製品・食品そのものを関係省庁やマスコミに示すなどして迅速・確実な情報伝達をすることも必要になる。消費者庁が地方に移転した場合,これらの点について中央にいるのと同様の機能を果たすことは極めて困難である。特に上記のとおり,消費者庁が緊急時に事務局を担当する消費者安全情報統括官会議の現場に消費者庁の職員が不在ということは考えられず,会場設営,資料配付等の事務局作業を地方にいながら行うのは不可能である。

以上のように,消費者庁は,こうした緊急事態に司令塔としての機能を有し,短期間に官邸と連絡を取り調整し,会議を招集し,関係省庁との協議を行い,国民に周知させ,製品等の回収を実施していく責務を負っている。仮にかかる緊急対応を地方において行おうとすれば機能低下が避けられず,対応の遅れによっては消費者の安全に関わる深刻な事態を引き起こしかねない。

(3) 官邸・関係省庁・国会との直接協議による消費者行政の司令塔機能の発揮
消費者庁は,日常的に官邸と密接に連絡をとり,各府省庁と調整して政府全体の消費者行政の司令塔機能を果たしている。消費者庁が多数省庁との関係において消費者行政の司令塔機能を持つことは,消費者庁構想を決定した消費者行政推進基本計画の段階から明らかにされているところであり,政府全体の消費者行政の5カ年計画である消費者基本計画においても確認されている(平成22年3月30日閣議決定の消費者基本計画1頁,平成27年3月24日閣議決定の消費者基本計画1頁等)。

① 総合調整権限の発揮

消費者問題を担当する内閣府特命担当大臣は,消費者の権利尊重,自立の支援を実現し,消費者が安心して安全で豊かな消費生活を営むことができる社会の実現のため,基本的な政策を実施する。このため関係行政機関の長に対して資料提供,説明要求,勧告,勧告に基づく措置の報告要求,勧告した事項に関する内閣総理大臣への意見具申などの権限を持つ。この権限は,消費者庁創設に際して,消費者行政における総合調整権限の重要性から明確化されたものであり,この総合調整権限行使のための事務局は,当然ながら消費者庁が担っている。

そして,消費者庁は,政府全体の消費者行政の5カ年計画である消費者基本計画を策定し,そのフォローアップをすることで,関係省庁への司令塔機能を果たしている。

上記の事例でも明らかなとおり,緊急事態などにおいては,官邸及び特命担当大臣と密接な関係の下に,消費者庁が業務を担って関係省庁と総合調整の機能を果たしているのである。こうした機能を果たすためには消費者担当大臣の理解・協力が不可欠であるが,担当大臣が中央に残る場合,担当大臣との緊密な連携が阻害されることも懸念され,担当大臣が霞が関にいて,消費者庁が地方にあるという状態は,この点からしてもおよそ無理と言う他はない。

かかる調整機能の具体的な発動場面においては,対応に消極的な省庁を説得して協力を促すことが何よりも必要であるところ,電話やテレビ会議等では説得力に欠けることも想定され,「直談判」によるねばり強い対応が求められる。また,事案によっては問題になった製品そのものを示して説明することでより正確で深い理解が可能となることもあるのであり,面談による調整権限の行使は極めて重要である。

② 措置要求の権限の行使

消費者庁は,消費者被害の発生又は拡大の防止を図るため,他の省庁が所管する法律の権限を当該省庁が実施する必要があると認めるときは,当該措置の速やかな実施を求めることができる(消費者安全法第39条)。

すなわち,消費者庁は,他省庁が担っている消費者問題についても,常に適切に業務が遂行されているか注意を払い,必要があれば関係省庁に働きかけていく必要がある。

③ 隙間事案への対応の必要

所管法・所管大臣がない場合の,いわゆる隙間事案については,消費者安全法第40条(事業者に対する勧告・命令),第41条(譲渡等の禁止又は制限),第42条(回収等の命令)などの規定を活用し,消費者庁が直接対応することとしている。

しかし,隙間事案であるかどうかは,各省庁間で必ずしも認識が共通でない場合も多いと考えられるので,緊急事態への対応のためにはこの場合においても他省庁と迅速な協議を経ることが必要である。

例えば,こうした隙間事案の典型例として挙げられるミニカップ入りこんにゃくゼリーの安全性の問題では,まさにカップの形状やゼリーの固さ,テクスチャ(表面の手触り・触感)の在り方が議論の対象となる。仮にこの問題が緊急的に検討されることとなれば,当然関係省庁や関連事業者等と面談で説明・協議することが不可欠となる。

④ 関係省庁との日常的な会議等の実施

消費者庁が,上記のような消費者行政を司令塔として推進する上では,産業育成や教育研修を担う省庁(経済産業省,厚生労働省,農林水産省,国土交通省,文部科学省,総務省,金融庁など)との会議と議論が日常的に行われている。

特に今日の社会では,高齢者の消費者被害,インターネット取引被害,不当表示被害など,次々と深刻な消費者被害が発生している。そのため,関係する政策の実施や法改正作業を迅速かつ頻繁に行うことが今後も必要となってくる。

このため,消費者庁では,消費者関連法の改正作業が頻繁に行われている。最近では,消費者安全法,景品表示法の改正,消費者裁判手続特例法の創設などが行われ,現在でも,特定商取引法,割賦販売法,消費者契約法,公益通報者保護法の改正のための検討作業が行われている。これらの法改正においては,関係省庁との密接な直接参加の会議などの協議が不可欠である。

1つの消費者政策を実現するためには,産業育成担当省庁などから反対されることがしばしばあり,これらの関係省庁を粘り強く説得していく必要がある。そのためには,日常的に会議を開き,各省庁の職員同士が直接会って議論することによってようやく施策が前進している実情がある。

これらの省庁と消費者庁だけが離れることになれば,産業育成担当省庁への説得機能が減退し,消費者庁の司令塔機能が後退する懸念が大きい。

⑤ 国会対応について

消費者政策においては,上記のとおり関係する法改正作業を迅速かつ頻繁に行うことが重要である。

これらの法改正においては,関係省庁との調整はもとより,法案立案作業の過程で内閣法制局と頻繁に協議を行い,更に国会への対応が必要となる。

衆議院,参議院ともに「消費者問題に関する特別委員会」が設置されるのが通例であり,消費者庁はここに出席し,検討される消費者問題や法改正について長時間にわたる説明等の対応が求められる。また,各政党の消費者問題に関する調査会,勉強会が頻繁に開催されており,これへの出席や説明も求められている。

さらに,実際の法改正の審議においては,審議に当たる国会議員に個別に趣旨や内容を直接説明する必要も多い。個々の議員への個別説明をテレビ会議等で行うことは,インフラ整備や議員との信頼関係維持という点で限界があり,地方移転を行った場合に著しい支障を来すこととなる。

以上のとおり,毎年法改正の課題を抱えている消費者庁の国会対応が地方移転によって十分に行えなくなるとの危惧がある。

(4) 福岡県からのアクセスという視点から見たときの問題点

また,福岡県からのアクセスという視点から見ても,たとえば,消費者庁が徳島県に移転された場合,消費者庁へのアクセスの円滑性を損なうことになる。

すなわち,福岡県下には,「消費者支援機構福岡」という適格消費者団体としての認定を受けている消費者団体が存在しており,同団体の理事長や理事には当会の会員が名を連ね,その他にも同団体の活動には当会からも多数の会員が協力をしている。そして,適格消費者団体は,消費者契約法の定める差止関係業務などに関して,消費者庁と緊密に連携をとる関係にあり,ヒアリング等が行われる際には消費者庁に出頭するということも行われている。

そうした実態に則って考えると,福岡から徳島に移動することを考えた場合,航空機で移動するとすると,現在,福岡空港と徳島阿波おどり空港を結ぶ便は,1日に往復各1便しかない。しかも,その便は,福岡(11:30発)→徳島(12:30着),徳島(13:00発)→福岡(14:10着)であるため,消費者庁が東京にある現状と比較すると,移動の利便性は著しく損なわれることになり,出頭が現実的には不可能となることも考えられる。さらに,鉄道を用いる場合でも,JRを利用した場合,博多駅から徳島駅までは新幹線と特急を乗り継いで片道4時間を要することになり,やはり福岡・東京間の移動よりも利便性に劣ることになる(福岡・東京(羽田)間は,航空機で2時間強で移動可能である。)

このことは,延いては消費者行政に対する福岡県からの意見が,消費者庁に適切に届けられなくなるという重要な問題につながりうる。福岡市,北九州市の2つの政令指定都市を持つ福岡県は,2014年11月1日時点で推計509万3885人の市民が生活する大都市であり,これまでも,そしてこれからも,消費者行政を策定する際に,重要な位置を占める都市であると考えられる。

そうすると,福岡県から消費者庁へのアクセスが阻害されてしまうことは,全国的視点から見ても,消費者行政にとって決して望ましいことではない。

(5) 小 括

以上のように,消費者庁は,自ら所管する法の執行を担うほか,担当大臣の下で消費者行政の司令塔として,緊急の事態には関係省庁と対応の協議を行い,所管省庁がない場合には隙間事案として自ら対応し,所管省庁が所管法に基づく措置を取らない場合には措置要求を行うなどの責務を担っている。そして,関連省庁が行う法改正に対しても意見を述べ,消費者政策全般に関する消費者基本計画の作成・見直しを行い,その作業過程において各省庁の関連部局と情報交換や施策実施の要請を行う役割がある。こうした司令塔機能を果たすためには,霞が関の各省庁に近接して消費者庁が所在し,いつでも関係部局の担当者と面談協議や資料提出要請を行うことが不可欠である。取り上げる課題によっては,産業育成省庁の施策に対し消費者庁が必要に応じて修正を求める働きかけを行うことも必要である。

要は,消費者庁の業務は消費者庁だけで完結するものではなく,司令塔機能を発揮するためには関連各省庁との密な連携が必須なのである。

消費者庁は創設されて6年しか経過しておらず,他省庁と比較して圧倒的に弱小な消費者庁が仮に地方に移転すると,他省庁に対する働きかけの力が大幅に低下し,司令塔機能を果たすことができなくなる。つまり,消費者庁に期待されている機能の性格は,縦割りでかつ極めて大きな機能権限を持つ省庁が所管する行政行為に対して,サイレントマジョリティである消費者の視点からチェックを行い,修正を求め,時にはブレーキをかけるものであって,各省庁の所管業務にとっては,制約を課す性格を持っている。他省庁との厳しい軋轢を生じ得る機能であり,それ故他省庁とのより密接な連携が一層必要とされるのである。よって,消費者庁が各省庁の所在地から隔絶されることは,我が国の消費者政策の推進が停滞することとなる。

したがって,消費者庁を地方移転の対象とするのは不適当である。

3 国民生活センターの地方移転について
(1) 国民生活センターの政策形成への役割と消費者庁との連携

国民生活センターは,全国の消費生活相談情報を集約・分析し,一般消費者や地方自治体に情報を発信することにより消費者や地方消費者行政を支援する機能を担い,さらに,相談情報を分析した結果に基づいて,消費者庁や各省庁の消費者関係法制度の不備や見直しの問題提起を行う機能を担っている。この機能は消費者行政の推進や法の新設・改正に極めて重要な役割を果たしている。

2010年12月から2013年12月にかけて,国民生活センターを消費者庁と統合することにより機能強化することが検討された。この議論は,数年にわたり続けられ,最終的には当時の森まさこ大臣の下に設けられた「消費者行政の体制整備のための意見交換会」で検討され,2013年7月に中間整理が公表された。そこでは,消費者行政の在り方の基本認識として,「(1)消費者庁,消費者委員会,国民生活センターの三者の緊密な連携の必要,(2)これまでの国民生活センターの見直しにより,本来充実強化されるべき国民生活センターの機能が低下しており,早急な回復の必要,(3)国民生活センターの在り方については,各機能の一体性確保と機能の維持・充実を,消費者行政推進の視点で検討の必要」との結論が示された。また,当面の対応として,「(1)国民生活センターで,新しく消費者を対象とした『お昼の消費生活相談』を実施,(2)3つの機関の情報提供・政策的対応への連携の中で,とくに国民生活センターが提起した意見・要望の政策形成への活用・反映への取組」を取り上げた。そして,2013年12月には,森大臣から,国民生活センターの在り方について,「消費者行政の推進にとって,国民生活センターは,消費者行政における中核的な実施機関として,(1)消費者行政の司令塔機能の発揮,(2)地方消費者行政の推進,(3)消費者への注意喚起のいずれにとっても不可欠な存在である。」との位置づけが示された。

このように,国民生活センターは消費者庁・消費者委員会と緊密な連携を図ることにより,政府全体の消費者行政を推進する役割があることが確認され,国民生活センターが提起した意見・要望の政策形成への活用・反映への取組が重視されているのである。消費者庁,消費者委員会及び国民生活センターは,相互に連携しつつ一体的に消費者政策の司令塔機能を発揮することが求められる組織である。

国民生活センターはこれらの機能を果たすために,全国の消費生活相談センター・消費生活相談窓口から収集された相談情報であるPIO-NET情報を分析し,各省庁が行う消費者関連法の制定・改正における立法事実を明らかにする資料を作成し情報提供している。消費者庁のほか警察庁,経済産業省をはじめ各省庁が消費者関連法を執行したり,改正を審議するに当たり,国民生活センターに相談情報の分析を依頼したりしており,その場合には各省庁の担当者の問題意識を国民生活センターの担当職員と直接面談して密に意見交換することが重要である。

例えば,取引においては,具体的な事業者の勧誘資料を基に被害現場の声を直接反映させるため,国民生活センターと消費者庁など各省庁の担当部局や当該事業者との議論が必要であり,消費者庁との協議は毎週のように実施されている。製品の安全については,当該製品を目の前にした消費者庁など各省庁の担当部局や当該事業者との検討が不可欠である。しかし,国民生活センターの商品テスト部門は,徳島県への移転の対象から除かれているので,このような作業が困難になる。

国民生活センターが地方に移転することによって,これらの消費者庁やその他の省庁との緊密な連携が損なわれ,消費者庁の司令塔機能を具体化する情報分析や政策提言機能が低下していくことが強く懸念される。

(2) 国民生活センターの消費生活センター・消費生活相談窓口支援の中核機関としての役割

国民生活センターは,全国各地の消費生活センター・消費生活相談窓口の相談処理の支援機能として,相談支援,情報提供,商品テスト,ADRなどを実施して,消費生活センター・消費生活相談窓口支援の中核機関としての役割を果たしている。例えば,問題のある取引をしている事業者との協議を行ってその情報を各地に発信し,商品テストを実施して,その結果に基づき注意喚起・情報提供・事業者指導をするとともに,紛争解決委員会(ADR実施機関)において事業者と消費者の出席を求め和解の仲介手続を行っている。これらの機能を果たすためには,多数の専門家の確保,協議のための事業者の来訪・訪問などが必要となるが,地方でこのような専門家が確保できるか,事業者が来訪するか等が懸念されるし,各地から集まってもらうとしても多くの費用がかかることになる。

さらに,このたびの地方移転の提案は,国民生活センターのテスト・研修部門は現状のまま神奈川県に残し,東京事務所の部署だけを移転するものであり,同センターの各機能の有機的結合が遮断されかねない。国民生活センターの機能として既に確認されている,各機能の一体性確保と機能の維持・充実に反するものとなる。

このように,国民生活センターの地方移転は国民生活センターの消費生活センター・消費生活相談窓口支援の中核機関としての役割を阻害する懸念が強くある。

(3) 小 括

以上のように,国民生活センターは,消費者基本法第25条に定められた消費者行政の中核的実施機関として,消費者庁,消費者委員会と連携して,諸問題を検討して関連省庁に意見を述べ,地方消費者行政を支援し,消費者・事業者・地方自治体・各省庁に情報提供を行っている。国民生活センターの役割は国民生活センターのみで自己完結しているわけではない。その役割を果たすためには,各省庁に近接し日常的に連携でき,消費者庁,消費者委員会が所在している場所に近いところで,多くの専門家が確保できるところにある必要がある。したがって,国民生活センターを地方移転の対象とするのは不適当である。

4 消費者委員会の地方移転について

現時点で消費者委員会の地方移転について公表された資料は見当たらないが,前述のとおり国の消費者行政は消費者庁・消費者委員会・国民生活センターが相互に連携しつつそれぞれの役割を果たしていることから,念のためこの点についても触れておく。

消費者委員会は現在非常勤の委員10名から構成されており,月に1回程度の本委員会のほか,新開発食品調査部会,消費者契約法専門調査会,特定商取引法専門調査会,ワーキング・グループなどの部会・専門調査会等が随時開催されている。本委員会については,その準備のために委員間打合せを複数回行い,事務局と個別の委員との打合せも頻繁に行われている。そのために,必要な専門家の参画もなされている。

消費者委員会は消費者庁等からの諮問事項を審議するほか,任意のテーマを自ら調査して他省庁への建議等を行うという監視機能を有している。他省庁からの諮問の場合に諮問した省庁等との連絡を密にすることはもちろんであるが,建議等の監視機能の行使においても,他省庁や関連事業者,事業者団体からの事情聴取・協議も頻繁に行うことになる。この場合,消費者委員会の会議の場にこれら関係省庁,事業者等を招へいするほか,委員会側から直接赴いて事情を聴取し,あるいは改善の必要性について説得することも行われている。

とりわけ建議の対象となる省庁や関連事業者等を相手とする場合,こうした直接の面談,交渉抜きでは十分に実情を踏まえた建議等の取りまとめは困難であるし,最低限の説得を行わないまま提案を行っても,建議等発出後の実現可能性が大きく低下することとなりかねない。ちなみに,この間,消費者委員会は18本の建議,12本の提言,50本の意見を他省庁に提出しているが,こうしたねばり強い説得・説明作業の結果,ほとんどの建議について対象省庁となった省庁により何らかの対応が行われているという現状にあり,高い成果を上げている。地方移転でこのような説得・説明が困難となることが懸念される。

以上のような実情に鑑みても,消費者委員会の地方移転はその大幅な機能低下をもたらすおそれが大きいと言わざるを得ないのであり,やはり反対せざるを得ない。

5 結 論

以上のとおり,消費者庁及び国民生活センターの地方への移転は,消費者庁,国民生活センターの機能を低下させ,我が国の消費者行政の機能の推進を阻害しかねないので,反対する。

以 上

2015年9月18日

特定商取引法に事前拒否者への勧誘禁止制度の導入を求める意見書

2015年(平成27年)9月18日
福岡県弁護士会 会長  斉 藤 芳 朗

第1 意見の趣旨

1 特定商取引法に,電話勧誘販売に関して,いわゆる「Do-Not-Call制度」(電話による勧誘を受けたくない人に,事前に登録をしてもらい,登録された電話番号への電話勧誘を禁止する制度。以下「電話勧誘拒否制度」という。)を直ちに導入することを求める。

2 同法に,訪問販売に関して,いわゆる「Do-Not-Knock制度」(訪問販売を受けたくない人が,お断りステッカーなどを家先に貼った場合や,住所等を事前に登録した場合に,訪問販売を禁止する制度(以下「訪問販売拒否制度」という。)を直ちに導入することを求める。

3 上記1,2の各制度については,現行特定商取引法第26条第1項第8号の適用除外業種をそのまま容認すべきではなく,適用除外業種を狭めるあるいは撤廃する方向で,特定商取引法第26条の見直し又は各特別法の見直しを行うべきである。

第2 意見の理由

1 電話勧誘拒否制度導入について
(1) 導入の必要性

全国消費生活情報ネットワークシステム(PIO-NET)の登録情報によれば,電話勧誘販売についての相談件数は2010年(平成22年)から2014年(平成26年)までの5年間で合計40万7526件(1年あたりの平均で,約8万1505件)に達しており,相談件数としても増加傾向にある(独立行政法人国民生活センターウェブサイト「販売購入形態別の年度別推移及び相談全体に占める割合」参照。http://www.kokusen.go.jp/soudan_topics/data/mutenpo.html)。

電話勧誘販売においては,消費者からすれば,突然かかってきた電話によって勧誘を受けるため,当該販売方法は,強引な言動等に困惑して契約をしてしまったり,あるいは何度も執拗に電話がかかってくるために断り切れずに契約をしてしまったりすることが類型的に生じやすいものであると言える。

ここで,特定商取引法においては,消費者保護のため,電話勧誘については事業者の名称や勧誘の目的を明示する義務が定められ,8日間のクーリングオフ期間も設けられており,また,具体的な拒否の意思表示があった場合の再勧誘も禁止されている。しかし,上記のとおり,未だに多数の相談が寄せられており,さらには増加傾向にあることからすれば,望まない契約をさせられてしまった消費者の保護としては,十分とは言えない状況にある。

そこで,電話勧誘拒否制度を導入することによって,断る力が十分でない消費者に自衛の手段を認めるべきであると思料する。

この点,事業者においては,予め電話勧誘を拒絶した消費者への勧誘を禁止されることで,消費者の商品選択の幅が狭められてしまうことになるとか,販売方法が限定されることで経済が停滞することに繋がる等といった点から,電話勧誘拒否制度の導入に反対をされることが予想される。

しかしながら,前者の点についていえば,当該制度は,電話勧誘を受けたくないという消費者を保護するものに止まっており,電話勧誘を受けたいと考えている消費者に対して電話勧誘を行うことは何ら否定されておらず,情報を得たいと欲している消費者からその機会を奪うことにはならない。また,後者の点についても,上記のとおり電話勧誘販売についての相談件数の多さに鑑みれば,消費者被害の生じやすい類型の販売方法については適切な規制を加えることが国民経済の健全な発展に寄与すると考えるべきである。むしろ,事業者においても,当初より電話勧誘を拒否する消費者が明確になった方が,より購入意欲の強い消費者に対して集中的かつ効率的に勧誘を行うことができるようになるのであり,合理的であると解する。

なお,電話勧誘拒否制度は,諸外国においても広く導入されている制度であり,購入者等の利益保護と,商品等の流通及び役務の提供の適正化・円滑化の調和を図るうえで,一般的にその有効性が認知された,必要な制度であるというべきである。

(2) 制度設計について

制度設計,主に,どのようにして事前拒否の登録をし,その登録情報を誰がどのように管理し,また事業者がその情報をどのようにして確認できるようにするのかについては,情報の目的外利用等,不正な利用がされないように留意する必要があり,国を始めとして,しかるべき機関において,慎重に管理されなければならない。

2 訪問販売拒否制度導入の必要性
(1) 導入の必要性

電話勧誘拒否制度の項で確認したのと同じく,全国消費生活情報ネットワークシステム(PIO-NET)の登録情報によれば,訪問販売についての相談件数は2010年(平成22年)から2014年(平成26年)までの5年間で合計46万8622件(1年あたりの平均で,約9万3724件)に達しており,相談件数としてはやや減少傾向を見せつつも,依然として高い値を維持している(上記独立行政法人国民生活センターウェブサイト「販売購入形態別の年度別推移及び相談全体に占める割合」参照)。

訪問販売も電話勧誘と同じく,消費者からすると,望まない契約を締結させられてしまいやすい性質を有している。すなわち,訪問販売においては,消費者からすれば,自宅等を突然訪れた販売員から勧誘を受けるのであり,やはり強引な言動等に困惑して契約をしてしまったり,あるいは対面式であるために執拗な勧誘を断ることに疲弊してしまい,断り切れずに契約をしてしまうということが類型的に生じやすいものであると言える。

そのため,特定商取引法においては,消費者保護のため,訪問勧誘についても,過量販売規制や8日間のクーリングオフ期間も設けられているほか,具体的な拒否の意思表示があった場合の再勧誘も禁止されている。しかし,上記のとおり,未だに多数の相談が寄せられていることからすれば,望まない契約をさせられてしまった消費者の保護としては,十分とまでは言えない状況にある。

つまり,訪問販売においても,電話勧誘販売と同じく,断る力の十分でない消費者に自らの利益を守る術を認める必要があるのであり,訪問販売拒否制度を導入することによって,断る力が十分でない消費者に自衛の手段を認めるべきであると思料する。

この点,事業者においては,電話勧誘拒否制度の項において指摘したのと同じように,訪問販売を拒絶した消費者への勧誘を禁止されることで,消費者の商品選択の幅が狭められてしまうことになるとか,販売方法が限定されることで経済が停滞することに繋がる等といった点から,電話勧誘拒否制度の導入に反対をされることが予想される。

しかし,既に述べたとおり,当該制度の下においても,訪問勧誘を受けたいと考えている消費者の自宅を訪れる等して勧誘を行うことは何ら否定されておらず,情報を得たいと欲している消費者からその機会を奪うことにはならない。また,後者の点についても,上記のとおり訪問販売についての相談件数が依然として高止まりしていることに鑑みれば,消費者被害の生じやすい類型の販売方法については適切な規制を加えることが国民経済の健全な発展に寄与すると考えるべきである。むしろ,事業者においても,当初より訪問販売を拒否するものが明確になった方が,より購入意欲の強い消費者に対して集中的かつ効率的に勧誘を行うことができるようになる点も,電話勧誘販売の項において指摘したのと同様である。

なお,訪問販売拒否制度も,諸外国においても広く導入されている制度であり,購入者等の利益保護と,商品等の流通及び役務の提供の適正化・円滑化の調和を図るうえで,一般的にその有効性が認知された,必要な制度であるというべきである。

(2) 制度設計について

訪問販売拒否制度は,ステッカーを家先に貼ることや,住所等を予め登録することで拒否の意思を事業者に対して示すものであり,その制度設計,主に,どのようにして事前拒否の登録をし,その登録情報を誰がどのように管理し,また事業者がその情報をどのようにして確認できるようにするのかについては,電話勧誘拒否制度と同じく,情報の目的外利用等,不正な利用がされないように留意する必要があり,国を始めとして,しかるべき機関において,慎重に管理されなければならない。

3 適用除外業種の見直しについて

さらに,上記の事前拒否者への勧誘禁止制度は,事前に電話勧誘,訪問販売勧誘を受けることを望まない消費者の意思を守ることを目的とするものであり,事業内容(業種)に関わらず,電話勧誘,訪問販売勧誘を行う事業者について広く認められるべきである。

したがって,同制度を導入するにあたっては,現行特定商取引法第26条第1項第8号の適用除外業種をそのまま容認するのではなく,特定商取引法第26条の見直し又は各特別法の見直しによって,適用対象を広げる方向で対応すべきである。

4 結語

電話勧誘販売や訪問販売により消費者被害が生じており,かかる被害を防止し,ないしはかかる被害から消費者を救済すべきことは,全国的にも重要な課題となっているものと思料する。そしてこのことは,当会においても同様であり,その被害防止・救済の必要性は何ら変わるところはなく,当会においても,極めて重要な問題となっている。

他方で,電話勧誘や訪問販売について,これを事前に拒否する意思を示した者への勧誘を禁止する制度は,消費者から承諾を得た勧誘や,勧誘を拒絶していない者に対して勧誘することまでを否定するものではなく,事業者の経済活動を不当に抑制することにはならない。

予め勧誘をしないように求めている消費者に対する勧誘を禁止することは,一般に浸透している社会通念からしても,また商道徳上も極めて当然のことであり,国民経済の健全な発展のために,何ら躊躇される必要のないものである。

以上の理由から,意見の趣旨記載の対応を強く求める次第である。

以上

2015年7月10日

「消費者の財産的被害の集団的な回復のための民事の裁判手続の特例に関する法律の施行に伴う政令(案)、内閣府令(案)、ガイドライン(案)等に関する意見募集」に対する意見

消費者庁消費者制度課 御中

福岡県弁護士会 会長  斉 藤 芳 朗

福岡県弁護士会は、標記に関して、消費者委員会での協議を経て、以下のような意見をまとめました。

よって、福岡県弁護士会として、本意見書を提出いたします。

【はじめに】

1 現在、貴庁におかれては、平成25年12月の「消費者の財産的被害の集団的な回復のための民事の裁判手続の特例に関する法律」(平成25年法律第96号)の公布に伴い、同法の施行に向けた準備を進めておられるところ、集団的消費者被害回復に係る訴訟制度においては、消費者と事業者との間の情報の質及び量並びに交渉力に格差があることで消費者が自らその回復を図ることには困難を伴う場合があることを前提に、特定適格消費者団体が被害回復裁判手続を追行せしめ、消費者の利益の擁護を図り、もって国民生活の安定向上と国民経済の健全な発展に寄与することが目的とされている(消費者の財産的被害の集団的な回復のための民事の裁判手続の特例に関する法律(以下「消費者裁判特例法」という。)1条参照)。

すなわち、消費者と事業者との間の情報の質及び量並びに交渉力の格差を背景として、日々、消費者被害は生じているのであり、消費者被害を可及的速やかに回復されるために、本訴訟制度においては、消費者の財産的被害が円滑に回復されることが求められているというべきである。

2 そしてそのためには、本訴訟制度に関する手続きの担い手である特定適格消費者団体の継続的かつ機動的活動が担保される仕組みになっており、かつ、本訴訟制度自体も、違法収益の返還のために効率的なものとなっていなければならない。制度設計にあっては、本訴訟制度が上記の目的のために定められたものであることを常に念頭に置き、釈根灌枝になることのないよう、慎重に考える必要がある。

(1) 現在の適格消費者団体の多くは、わずかな財政基盤の中で、有志の無償の協力の下にその活動を維持していると聞いているところ、特定適格消費者団体においても、その状況に変わるところはないと思料する。

特定適格消費者団体の継続的かつ機動的活動を担保する仕組みを構築するという視点が疎かになれば、それは、特定適格消費者団体の活動を阻害し、眼前の消費者被害を放置して、悪徳業者の違法収益を助長するという結果をもたらすのであり、そのような制度は改められなければならない。

(2) また、本訴訟制度は、本来であれば個別の民事訴訟に馴染みにくい少額案件について、同様の被害を受けた消費者が多数参加することを促すことで、その回復を図る制度である。

そのためには、本訴訟制度が、消費者から見て参加しやすい制度であることはもちろん、特定適格消費者団体から見ても取り組みやすいものとなっていなければならない。

この点についての視点が疎かになれば、上記(1)と同じく、それは、特定適格消費者団体の活動を阻害し、眼前の消費者被害を放置して、悪徳業者の違法収益を助長するという結果をもたらすのであり、そのような制度は改められなければならない。

3 以上の視点から見るに、「特定適格消費者団体の認定、監督等に関するガイドライン」(以下「本ガイドライン」という。)には、以下の問題点があり、速やかに見直されるべきである。

【本ガイドライン 2(2)イ「情報提供義務の実施の方法」について】

[意見]

被害回復裁判手続に関する業務に付随する対象消費者に対する情報の提供に係る業務を適正に遂行するための体制の整備について、消費者裁判特例法82条の規定に基づく情報の提供に当たり、考慮すべき事柄から、「被害を受けたと考えられる消費者の範囲」、「被害金額の多寡」、「今後の被害拡大のおそれ」、「当該事業者の対応状況」、「公表されることにより事業者に与える影響」は、削除されるべきである。

[理由]

特定適格消費者団体は、被害回復裁判手続に関する業務に付随して対象消費者に対する情報の提供に係る業務を担うものとされており(消費者裁判特例法65条)、また、対象消費者の財産的被害の回復に資するため、対象消費者に対し、共通義務確認の訴えを提起したこと、共通義務確認訴訟の確定判決の内容その他必要な情報を提供するよう努めなければならないとされている(消費者裁判特例法82条)。

ここで、消費者裁判特例法の目的規定(同法1条)からも、情報の質及び量の格差をできる限り解消することが求められているというべきであり、情報提供に当たっては、できる限り広く、消費者において、消費者被害が生じている事実に触れる機会が得られることが肝要であるというべきである。

したがって、消費者被害が生じていることは、原則として消費者に知らしめられるべきである。しかるに、「被害を受けたと考えられる消費者の範囲」、「被害金額の多寡」、「今後の被害拡大のおそれ」、「当該事業者の対応状況」、「公表されることにより事業者に与える影響」等を考慮して、情報提供について抑制的であらしめることは、上記目的に悖るものであり、許容されない。少なくとも、特定適格消費者団体の組織作りにあたって敢えて考慮すべき事柄であるとは考えられないものである。

よって、上記のとおり、修正を求めるものである。

【本ガイドライン 2(2)エ「金銭その他の財産の管理の方法」について】

[意見]

1 被害回復裁判手続に関する業務を適正に遂行するための体制の整備について、対象消費者宛ての金銭を受領した場合の対象消費者への通知については、対象消費者と特定適格消費者団体との合意に任されるべきことであり、同(エ)の定めについては削除されるべきである。

2 被害回復裁判手続に関する業務を適正に遂行するための体制の整備について、同(カ)金銭管理責任者の設置については、第二文の定めは削除されるべきである。

[理由]

1 【はじめに】の項でも触れたとおり、本訴訟制度を適切に運営するためには、特定適格消費者団体の継続的かつ機動的活動が担保される仕組みになっていなければならない。

そして、対象消費者宛ての金銭については、少額の金銭が回収される場合や、複数回に分けて回収される場合がありうるのであり、これは、事件ごとに種々ありうる。

少額の金銭が回収される場合や、複数回に分けて回収されるような場合にまで、すべて対象消費者への遅滞ない通知を予め義務付けてしまえば、通知のために過分の費用を費消する結果となってしまいかねず、特定適格消費者団体の活動の継続性を損なうことにもなりかねないと危惧する。

したがって、対象消費者宛ての金銭を受領した場合の対象消費者への通知については、個別に、事件の規模等を考慮しながら、対象消費者と特定適格消費者団体との間における合意に任せるのが合理的であり、本ガイドライン等により、拘束すべき事柄ではないというべきである。

2 また、金銭管理責任者についても同様の問題がある。

すなわち、本ガイドラインにおいては、「公認会計士、税理士、破産管財人等の実務に精通した弁護士、企業会計に従事した経歴がある者など金銭管理を適切にすることができる者が任命される必要がある」と規定されているが、金銭管理を適切にすることができる者は、必ずしも、「公認会計士、税理士、破産管財人等の実務に精通した弁護士」に限られるものではない。

本ガイドラインが、「企業会計に従事した経歴がある者など」をその後に併記しているのもその趣旨であると考えられる。

しかし、上記の有資格者を例示として挙げることにより、「企業会計に従事した経歴がある者など」についても、上記の有資格者と同等の知識経験を有する者を任命する必要があると理解される可能性がある。

そうすると、特定適格団体において、これらの者を任命するために過分の費用を費消する結果となってしまいかねず、特定適格消費者団体の活動の継続性を損なうことにもなりかねないと危惧する。

3 よって、上記のとおり、修正を求めるものである。

【本ガイドライン 2(6)イ「簡易確定手続きに関する報酬及び費用の基準の考え方」について】

[意見]

同(イ)の少なくとも回収額の50%超を消費者の取戻分とする必要があるとの部分については、削除されるべきである。

[理由]

本ガイドラインにおいては、「特定適格消費者団体が少額事件に対して積極的に取り組む必要がある」(本ガイドライン 2(6)ア)とされている。本ガイドラインにおいては、これは特定適格団体が「業務を効率化させる」(同)ことで実現できると考えられているようであるが、本来的には、特定適格消費者団体が、少額事件に対しても積極的に、安心して取り組めるような制度設計がなされることが前提となっていなければならない。

しかしながら、本ガイドラインにおいては、本意見で述べてきた点を見ても明らかなとおり、むしろ特定適格消費者団体においては、その体制を維持し、本訴訟制度を担うために過分の費用を支出しなければならない制度となっており、その活動を継続的に行い、また、本訴訟制度の追行に要する費用を削減する余地は限りなく狭められてしまっている。

そのうえ、本ガイドラインの上記の定めは、回収額の50%超を消費者の取戻分とする必要があるとしている。しかも、債権届出より後の手続きに要する費用については、実費であっても、消費者に負担を求めることはできないと読める。そうすると、たとえば、本ガイドラインによれば、30人の被害者が見込まれる事件について一人当たり5000円の回収を目指すような場合において、首尾よく回収されれば各消費者に2500円以上を交付することになる。

この場合、各消費者に2500円以上を返金するためには、共通義務確認訴訟を追行する中での費用(弁護士費用を含む。)を7万5000円以下に抑えられなければ、特定適格消費者団体の資産を取り崩すことになる。少額事件に積極的に取り組む特定適格消費者団体ほど、業務を効率化できない中で、乏しい財政基盤をさらに危うくしていくことになりかねず、延いては本訴訟制度が機能不全に陥ってしまうことが強く危惧されるのである。

これまで、多数の消費者被害が救済されてきた背景には、多数の弁護士等が無償で尽力をしてきたという経過がある。しかしこれは、消費者被害の救済に努める弁護士においては、一方で多数の日常業務をこなしているからこそ、特定の事件に限って無償(あるいは限りなく無償に近い僅少な対価)で行うことができたに過ぎない。特定適格消費者団体は、専ら消費者被害の救済を目的とする団体であり、継続性が求められるのであって、そもそも弁護士が個別に消費者被害に関わるのとは大きく様相を異にするのであるから、特定適格消費者団体の無償活動をもって制度を運用しようとするのは、前提を誤っていると言わざるを得ない。

よって、上記のとおり、修正を求めるものである。

【本ガイドライン 4(5)「授権契約の拒絶及び解除」について】

[意見]

授権をする者あるいは授権をした者が、特定適格消費者団体からの問い合わせに適切に回答しない場合、及び、授権をする者あるいは授権をした者の判断能力が十分でない場合も、消費者裁判特例法33条1項、2項の「やむを得ない理由」に含めるべきである。

[理由]

1 消費者裁判特例法33条1項、2項においては、「やむを得ない理由」がある場合に限って、簡易確定手続授権契約の締結を拒絶でき、又は解除できるとしているところ、授権をする者が、特定適格消費者団体からの問い合わせに適切に回答しない場合においても、特定適格消費者団体としては、手続きの追行に支障を来すのであるから、上記の授権契約の締結を拒絶できる「やむを得ない理由」に含まれるとするべきである。

また、授権をした者が、特定適格消費者団体からの問い合わせに適切に回答しない場合においても、特定適格消費者団体において、手続きの追行に支障を来すのであるから、上記の授権契約を解除できる「やむを得ない理由」に含まれるとするべきである。

2 加えて、授権をする者、あるいは授権をした者の判断能力が危ぶまれる場合には、特定適格消費者団体において、手続きの追行に支障を来すことが考えられるのであるから、上記1と同様に考えるべきである。

3 よって、上記のとおり、修正を求めるものである。

【本ガイドライン 5(4)「報酬及び費用等についての監督」について】

[意見]

事件の選定状況については監督対象から除外されるべきである。仮に,事件の選定状況について監督をするのであれば,事後的な監督ではなく,事前に特定消費者団体からの問い合わせに対して,貴庁が,事件の選定が適切か否かを回答することとされるべきである。

[理由]

そもそも、本訴訟制度において、特定適格消費者団体は、まず、被害者からの相談等を契機に、消費者被害が生じていることを把握し、次に、その事件について必要な資料を収集し、当該事業者の用いる約款等にどのような法的問題があるのかを検討し、そして、その事業者が、違法収益の任意の返還等に応じなかった場合に、訴訟を提起して解決を図るというのが一般的な手続きの進行になると考えられる。しかも、特定適格消費者団体が消費者から報酬を得ることができるのは、共通義務確認訴訟で勝訴した(あるいは勝訴的な解決を得た)場合のみである。

このような一連の手続きを前提として、特定適格消費者団体が「過剰な報酬を目的として恣意的な事件の選定」をする余地は、限りなく少ないというべきである。

すなわち、仮に特定適格消費者団体が「過剰な報酬を目的として恣意的な事件の選定」をしようと試みたとしても、事件の把握から訴訟の提起に至るまで、そもそも勝訴に至るだけの資料を集められるかも不確定であり、また、事業者が任意に被害回復措置を講じる可能性もある。この場合には、特定適格消費者団体が報酬を得る機会はない。事件の把握から共通義務確認訴訟の終結までに、事業者が支払い能力を失う可能性もある。この場合にも特定適格消費者団体が報酬を得る術はない。

このように、仮に特定適格消費者団体が「過剰な報酬を目的として恣意的な事件の選定」をしようと試みたとしても、それが奏功する保証はないのである。

他方で、事件の選定状況について消費者庁から監督されるとした場合、特定適格消費者団体において、過度に萎縮的な効果をもたらし、結果として、被害回復をためらうことになってしまうおそれがある。

たとえば、偶さか、当該特定適格消費者団体において、良好な解決を得た事件が続いた場合に、新たに把握した事件についても回収の見込みがありそうだと判断したときに、当該事業者に対して被害の回復を求めることが、「過剰な報酬を目的として恣意的な事件の選定」を行っているとの誹りを受けることになると危惧して、その消費者被害を見過ごすことは、本訴訟制度の目的との関係で背理以外の何物でもない。

【はじめに】の項においても指摘したとおり、本訴訟制度は、特定適格消費者団体が、積極的に、かつ、安心して取り組めるような制度になっていなければならないところ、事件の選定状況について消費者庁が監督をすることは、特定適格消費者団体において、過度に萎縮的な効果をもたらすものであるから、見直されなければならない。

よって、上記のとおり、修正を求めるものである。

【最後に】

繰り返し述べてきたとおり、特定適格消費者団体が、積極的に、かつ、安心して取り組めるような制度が策定されることが求められるところ、特定適格消費者団体が被害回復業務に専念できるよう、その団体を維持し、その活動を充実したものにすることについては、財政支援をすることが必要不可欠である。

したがって、これまで述べてきたことに加えて、特定適格消費者団体の必要性を踏まえ、具体的な財政支援が行われることを求める。

2015年2月10日

「消費者安全法改正に伴う関係内閣府令(案)及びガイドライン(案)」に関する意見書

2015年(平成27年)2月10日
福岡県弁護士会 会長 三浦邦俊

第1 意見の趣旨

1 消費者安全法改正に伴う関係内閣府令案について

(1) 消費者安全法施行規則(以下「施行規則」という。)第7条第1項第1号後段及び同第2項第1号後段において,それぞれ「特定非営利活動促進法第2条第2項に規定する特定非営利活動法人若しくは一般財団法人その他都道府県知事が適当と認める者であること(但し営利団体は除く)」,「特定非営利活動促進法第2条第2項に規定する特定非営利活動法人若しくは一般財団法人その他市町村長が適当と認める者であること(但し営利団体は除く)」とする内閣府令にすべきである。

(2) 施行規則第7条第1項第1号前段及び第2項前段は,「委託を受ける事務を消費者の権利の尊重及びその自立の支援の観点からみて公正かつ中立に実施できるものであって」とする内閣府令にするべきである。

 地方公共団体が消費生活相談事務を委託する場合,内閣府令において,地方公共団体内に受託者に関する苦情窓口を設置することを義務付けるべきである。

 地方公共団体が消費生活相談事務を委託する場合,内閣府令において,都道府県及び市町村に対し,消費者が相談するに先立ち,受託者が相談を受けること及び受託者に関する苦情窓口を委託者である地方自治体が受け付けていることを周知する義務を負わせるべきである。

 地方公共団体による受託者への適切な監督・監視について,消費生活相談事務を委託する場合,内閣府令において,都道府県及び市町村は,消費生活審議会等を設置し,事務の委託について,審議を経ることを義務付けるべきである。

 改正消費者安全法の実施に係る地方消費者行政ガイドライン(案)(以下「ガイドライン案」という。)Ⅱ1.(1)エ「消費者生活相談等の事務の委託」について

(1) 以下の趣旨の記載を加えるべきである。

施行規則第7条第1項第1号及び第2項第1号の基準に適合するか否かの地方自治体の判断に際しては,以下の点に留意し,実施すべきである。

  • ・法人の目的ないし活動方針に鑑み,消費者トラブルに直接的な利害関係を有する者又は有する可能性がある者であるかどうか。
  • ・過去の活動実績が消費者の権利の尊重及びその自立支援に資する者であったかどうか。
  • ・積極的にあっせんの処理を行う意思があり,かつ態勢が整っているかどうか。
  • ・委託先の選定理由を明示すること

(2) 本文中「効果的かつ効率的に事務を実施できるといった効果が期待される一方で」を削除すべきである。

(3) 消費生活相談等の事務の委託により期待される効果と問題点(13ページ)につき「(1)事務の民間委託により期待される効果」を削除すべきである。

(4) 消費生活相談等の事務の民間への委託の際の留意点(14ページ以下)につき,「(1)事務の実施に関して」において,受託団体の責任者を通じた連絡調整しか許されないとの誤解が生じない記述とするべきである。また,受託者の監視につき,利益相反の有無及び自治体との連携等,具体的な監視項目を明示すべきである。

(5) 消費生活相談等の事務の民間への委託の際の留意点につき,「(4)消費生活相談等により得られた情報の活用に関して」において,受託者が,消費生活相談事務により得られた情報を自らの業務のために利用することは,地方公共団体の了解があったとしても認めるべきではない。

第2 意見の理由

1 意見の趣旨1(1)について

施行規則第7条第1項第1号後段及び同第2項第1号後段では,団体の属性に関し,「特定非営利活動促進法第2条第2項に規定する特定非営利活動法人若しくは一般財団法人」という例示をしておきながら,「その他」として,特段何らの制限もなく,地方公共団体の首長が適当と認める者を含めており,このままでは,団体の属性に着目した基準が骨抜きにされるおそれがある。そうならないためには,地方公共団体の首長が適当と認める者の範囲について,例示の趣旨に沿うように制限を設け,これを明記しておくべきである。

そして,その範囲に関してであるが,営利団体を除外すべきと考える。

当弁護士会は,福岡市に対し,2014年(平成26年)3月12日付「消費生活相談業務についての意見書」において,消費生活相談業務の委託先については,消費生活相談業務の趣旨を理解するとともに,十分な専門知識を有し,公正かつ信頼性のある立場において業務を執行することのできる団体に限定すべきであって,少なくとも営利団体への業務委託は不適切であり,改善すべきである旨の意見を述べているところであり,施行規則第7条第1項及び第2項の基準においても,上記意見書の趣旨と同様,営利団体を委託対象から除外すべきと考える。

上記意見書でも述べているが,除外すべき理由は,次のとおりである。

消費生活相談等の事務は,本来的に収益事業として成り立つ性質のものではない。にもかかわらず,営利団体がこれを受託しようとする場合には,営利を目的とする以上,何らかの利益が得られることを前提としているはずであるが,業務の性質上,消費者からの利益は想定できない。そうすると,その利益は事業者に由来するものといわざるをえない。消費者の立場からすれば,このように事業者に由来する利益が背景に存在すると受け止めるだけで,公平性・中立性に疑念を抱かざるをえない。これは,現に業務委託を受けた営利団体がその公平性・中立性の確保にいかに努めようとも避けることができないものである。したがって,その性質上必然的に公平性・中立性の確保が不可能な営利団体は,委託する際の基準において,あらかじめ除外しておくべきである。

また,このような制限を設けることにより,特定非営利活動法人や一般財団法人といった非営利団体を例示列挙した趣旨をより一層明確にし,徹底することにもつながり,その意味でも妥当である。

2 意見の趣旨1(2)について

営利団体を除外した上でなお,施行規則第7条第1項第1号前段及び第2項前段の「公正かつ中立」という要件は,非常に重要であり,これを要件とすること自体には賛成である。ただし,このままでは抽象的すぎるので,より具体的に示すため,「委託を受ける事務を消費者の権利の尊重及びその自立の支援の観点からみて」との文言を加えるべきである。

3 意見の趣旨2について

地方公共団体が安易に消費生活相談事務を外部委託することを防止する必要があり,また委託した場合には,受託者に対する適正な監視が求められるところ,適正な監視を行うには,監視・監督する側が,受託者に関する十分な情報を入手できる仕組みが必要である。そこで,受託者に関する苦情を委託者である地方公共団体が受け付けることとし,地方公共団体自身が必要な監督を行えるようにすべきである。また,地方公共団体が,受託者に関する情報を入手・保管すれば,議会や情報公開,審議会等を通じて,後日の検証が可能になる。

4 意見の趣旨3について

消費生活相談は,類型的にプライバシーに関わる内容が含まれる。そのような通常第三者へ知られたくない情報を消費者が申告する背景には,消費生活相談事務が,中立的・公益的な地方公共団体によって運用されていること,公務員が守秘義務を負うことに対する強い信頼感が前提として存在する。

ところが,消費生活相談事務が委託された場合,一次的に消費生活相談事務を取り扱う者は,地方公共団体及び公務員であるという前提を欠くことになる。そこでこの点を消費者へ予め知らせた上で,どのような個人情報を申告するのか,決定権を与えるべきである。

5 意見の趣旨4について

消費生活相談事務の受託者の監視は,適正な事務の執行に欠かせないものとして必要性が認められるところ,委託者による受託者の監視は,慣れ合いの危険が高い。そこで,客観性を担保するために第三者によるチェックを地方公共団体に義務付けるべきである。この点,新たに第三者機関を設置することは,地方公共団体の負担が大きいことから,既に多くの自治体で設置・運用実績がある消費生活審議会の審議事項にすることで,負担の軽減を図ると同時に,委託者と受託者の慣れ合いを一定程度防止することが可能である。

6 意見の趣旨5について

(1) 施行規則第7条第1項第1号及び同第2項における委託の基準をより具体的に示すため,ガイドライン案により詳細な判断基準を記載する必要がある。

例えば,その目的や活動方針に照らし,消費生活相談の当事者となる可能性があるような法人等については,受託開始時は利益相反のおそれがなかったとしても,受託期間中に利益相反が発生するおそれがある。そして,そのような事態が発生した場合,当該案件の処理が混乱するほか,消費生活相談の中立性・公正性に疑義が生じ,消費者行政全般に大きなマイナス要因となる。したがって,このような法人等が受託することがないよう,消費生活相談業務の受託者の基準を明確に記載する必要がある。

また,業務を受託した者が,真に消費者の権利の尊重及びその自立の支援の観点から業務を行うかどうかは,過去の活動実績も含めて判断することがより適切と考えられるため,当該要素をガイドライン案に加えることが望ましい。

さらに,効率性を重視し,相談業務を形式的に行い,あっせん処理を行わない委託先もありうる。しかし,消費者の権利実現の観点からはむしろあっせん処理を原則として考えるべきであり,あっせん処理を行わない委託先が相談業務に不適当であることは明らかであるため,「積極的にあっせん処理を行う意思があり,かつその態勢が整っているかどうか」という基準をガイドライン案に加えるべきである。

(2) ガイドライン案Ⅱ1.(1)エでは,「(1)事務の民間委託により期待される効果」として「地方公共団体の公務員以外の多様な人材が事務に従事することにより,人材及びサービス内容の多様性が確保される」,「委託期間は原則として1年単位であり,業務の実施状況により受託者が変わる可能性があることから,競争性が確保され,結果として効率的な事務の実施が可能となる」と指摘している(13ページ)。しかし,前者は,消費生活相談員という専門的な資格を有する者を配置すること自体が,一般職公務員以外の専門的かつ多様な人材を確保する目的で導入された人的体制であり,民間委託によって期待される効果ではない。また,後者は,消費生活相談業務は消費者問題に関する専門的な知識と実務経験の積み重ねによって得られる技能が必要であることから,再任回数の一律の制限(いわゆる「雇い止め」)を設けることがないよう,担当大臣及び長官による通知を繰り返し発してきたことと矛盾する。

このように,民間委託については,様々な問題が懸念されているほか,委託期間の限界から消費生活相談員の地位の安定が図られないという本質的な問題も存在する。このため,国は民間委託を推奨しているかの誤解を与えるような記載を控え,地方自治体は住民に説明できる委託先の選定理由を明示するべきである。

(3) ガイドライン案Ⅱ1.(1)エにおいて,「受託者において,地方公共団体の消費者行政担当部局との連絡調整を担当する(中略)責任者から偽装請負の疑いを排除すること」との記述は,消費者行政職員と受託団体の消費生活相談員・職員との連携が受託団体の責任者を通じてのみ行うことが許されるかのように受け止められるおそれがある,したがって,このような誤解が生じないよう表記を工夫する必要がある。

また,民間への事務の委託に関して,「地方自治体による受託者への監視を適切に実施するとともに,適切な監視(モニタリング)を定期的に行うこと。」とされているが,利害相反のおそれや自治体各部署との連携等具体的な監視項目を明示すべきである。

(4) 消費生活相談等により得られた情報の活用に関しては,受託者が,PIO-NETに接続することで,全国で発生するあらゆる消費者取引に関する情報を瞬時に何らの対価を必要とせずに入手できることを十分に考慮すべきである。営利団体の場合,自らの業務とは,営利追求を意味するが,地方公共団体が行う消費生活相談事務で得られた情報を特定の団体が営利目的で利用することについて,国民的なコンセンサスが得られているとは考えられない。税金で運用される消費生活相談事務が特定の受託者の営利に用いられる可能性については,慎重に検討されるべきである。

なお,本意見は,営利団体が自己の営利事業に消費生活相談事務の受託で得られた情報を利用することを制限する趣旨であるから,内閣府令7条に定める受託先の範囲から営利団体が除外された場合には,設ける必要はない。

以 上

2015年1月26日

産業構造審議会商務流通情報分科会割賦販売小委員会中間的な論点整理に対する意見書


                     2015年(平成27年)1月26日
                        福岡県弁護士会 会長 三浦邦俊

第1 意見の趣旨
 1 加盟店契約会社(アクワイアラー)及び決済代行業者の加盟店調査義務の内容として、苦情発生時の調査義務の内容を具体的に定めるべきである。
2 マンスリークリア取引のカード発行会社(イシュアー)にも、消費者の苦情発生時の適切処理義務を認めるべきである。
 3 マンスリークリア取引について、販売業者に主張できる事由をクレジット会社に対抗できる抗弁接続規定を適用すべきである。

第2 意見の理由
 1 現在のクレジットカードを使った取引では、翌月一回払い(以下「マンスリークリア取引」という。)が大半を占めている。また、カード発行会社(以下「イシュアー」という。)と加盟店契約会社(以下「アクワイアラー」という。)の間に決済代行業者が介在する決済方法が増えており、この場合にはイシュアーがカード利用加盟店を直接管理できない仕組みとなっている。
このような状況のなかで、いわゆるサクラサイトなどの悪質なサイト業者が、マンスリークリア取引を使い、決済代行会社を介在させて決済させる方法を使って、被害を発生させている事例が当県においても多数見受けられるところとなっている。
2 このような被害発生状況をうけて、経済産業省産業構造審議会商務流通情報分科会割賦販売小委員会による「中間的な論点整理」では、加盟店契約を締結するアクワイアラー及び決済代行業者(以下「アクワイアラー等」という。)に対し、マンスリークリア取引及び包括クレジット取引を含めて、国内の加盟店との取引を対象とする場合は登録制及び加盟店調査義務等の法規制を課す方針を示しており、この点は賛成すべきところである。
しかし、アクワイアラー等の加盟店調査義務の内容が曖昧なものとなっている。これでは、実際に苦情が発生した場合に、その調査が十分に行われず、悪質な加盟店を排除することができないおそれがある。苦情発生時の調査義務の要件及び内容は具体的に定めるべきである。
3 また、「中間的な論点整理」では、マンスリークリア取引のイシュアーに対しては、顧客の苦情が寄せられた場合にアクワイアラーに情報提供する仕組みを検討する方針を示すにとどまっている。
先に示したような悪質なサイト業者の被害事例でもそうであるが、イシュアーは、消費者から販売業者との取引について苦情申立を受けた場合に、決済代行業者は加盟店ではないから確認できないなどとして、イシュアー側でアクワイアラーを通じて販売実態の調査をしようとする姿勢が見られないのが現状である。
イシュアーは、決済代行業者が入ることによってクレジットシステムを利用できる取引を拡大し、利益を受ける立場にある。現在、包括クレジット取引については、不適正取引排除義務の一環として、イシュアーに対する顧客の苦情発生時に苦情の適切かつ迅速な処理のため必要な措置を講じる義務(適切措置義務・割賦販売法第30条の5の2)が規定されている。イシュアーのクレジットシステムにおける地位やクレジット取引の構造上の特徴は、包括クレジット取引とマンスリークリア取引で異なるものではない。
そのため、情報提供というだけではなく、イシュアーを不適正取引排除義務の主体として位置付けた上で、マンスリークリア取引においても、イシュアーに対し、苦情発生時の適切措置義務を課すべきである。
4 さらに、クレジットを利用した取引における悪質な加盟店の排除と消費者被害救済の実効性を確保していくためには、不適正な販売行為によるリスクを消費者が負担するのではなく、イシュアーが負担する民事的ルール、すなわち抗弁接続制度を規定する必要がある。
近年のクレジットカードは、マンスリークリア取引と包括クレジット取引の機能を併用するカードがほとんどであるが、代金決済時にマンスリークリア方式を選択した後に、リボルビング方式(包括クレジット取引)を選択できるカードが多数を占めている。このような現状においては、包括クレジット取引とマンスリークリア取引で、消費者保護の内容に格差を設ける合理性は認められない。
したがって、マンスリークリア取引においても、抗弁接続規定を適用すべきである。

                                    以 上 

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