福岡県弁護士会 宣言・決議・声明・計画

声明

2019年12月26日

死刑執行に抗議する会長声明

本日,福岡拘置所において1名の死刑確定者に対して死刑が執行された。
我が国での死刑執行は,今世紀に入ってからも,2011年を除いて毎年行われており,2001年以降これまで合計91人もの死刑確定者が,国家刑罰権の発動としての死刑執行により生命を奪われていることになる。


当会は,最近では,今年8月2日の死刑執行に対し,抗議する声明を発表し,すべての死刑の執行を停止することを強く要請した。それにもかかわらず,今回の死刑が執行されたことは,まことに遺憾であり,当会は,今回の死刑執行に対し,強く抗議するものである。


たしかに,突然に不条理な犯罪の被害にあい,大切な人を奪われた状況において,被害者の遺族が厳罰を望むことはごく自然な心情である。しかも,わが国においては,犯罪被害者及び被害者遺族に対する精神的・経済的・社会的支援がまだまだ不十分であり,十分な支援を行うことは社会全体の責務である。


しかし,そもそも,死刑は,生命を剥奪するという重大かつ深刻な人権侵害行為であること,誤判・えん罪により死刑を執行した場合には取り返しがつかないことなど様々な問題を内包している。


人権意識の国際的高まりとともに,世界で死刑を廃止または停止する国はこの数十年の間に飛躍的に増加し,法律上及び事実上の死刑廃止国は,2018年12月31日現在世界の7割を超えた。同年8月2日にはローマ・カトリック教会が,今後死刑制度に全面的に反対する方針を明らかにし,同年12月17日には,国連総会本会議において,史上最多の支持(121か国)を得て死刑廃止を視野に入れた死刑執行の停止を求める決議案が可決された。また,死刑制度を残し,現実に死刑を執行している国は,過去10年で18~25か国にすぎず(2018年度は20か国),死刑廃止は世界的な潮流という状況にある。


当会は,本件死刑執行について強く抗議の意思を表明するとともに,死刑制度についての全社会的議論を求め,この議論が尽くされるまでの間,すべての死刑の執行を停止することを強く要請するものである。


2019年(令和元年)12月26日
福岡県弁護士会会長  山 口 雅 司


2019年12月18日

中村哲医師を追悼する会長声明

長年にわたり,アフガニスタンやパキスタンで人道支援活動に従事された中村哲医師が今月4日,現地で護衛者らとともに銃撃を受け,逝去されました。
中村医師は,戦争で荒廃したアフガニスタンやパキスタンにおいて,多くの現地住民,難民の医療救援活動に従事されたばかりか,病気の根本的解決を図るには農業振興が不可欠であるとの考えのもと,農業用水確保のために,土木工学を独学され,日本の伝統工法を取り入れて,井戸の掘削事業や,大規模なかんがい・水利事業に,自ら現地で重機を操り従事されました。まさに,日本の技術を現地で活かすことで,多くの命を救われたのです。
中村医師は,2008年及び2015年に,当会主催の憲法市民集会で講演をして下さいました。その際,こうした活動の紹介とともに,日本が憲法9条を持ち,問題解決に武力を使わないという信頼があったからこそ,日本人である自分が,紛争地である現地で,命の危険にさらされることなく活動できたのだと語って下さいました。
70歳を超えてなお,現地活動の継続・発展,そして継承に意欲を燃やされていたというご本人の無念さを思うとき,当会にとっても痛恨の極みであり,謹んで哀悼の意を表します。
また,突然の銃撃・殺害という卑劣な暴挙に対して,断固として抗議するものです。
中村医師が体現し続けられたのは,人々が欠乏に苦しむことなく生活できる社会を実現するという理念の具体化でした。まさに,欠乏からの自由が平和的生存権を実現するという,日本国憲法前文と9条の価値・理念を自らの行動で体現されたのです。それはまた,日本がもつ技術・知識を提供することで他国からの信頼を得るという,真の意味での国際貢献の実践活動でもありました。さらに,そうした活動の地道な継続によって,武力に頼ることなく,自国の防衛とともに国際社会の平和を実現するという,恒久平和主義の理念を具体化する実践活動であったというべきです。
当会は,活動場所や方法は違っても,中村医師の功績・理念を心にとどめ,それを生かし,実現するための活動に,今後とも全力を挙げて取り組んでいく所存です。


2019年(令和元年)12月18日
福岡県弁護士会
会長 山 口 雅 司

2019年11月18日

クレジット過剰与信規制の緩和に反対する会長声明

現在,経済産業省産業構造審議会商務流通情報分科会割賦販売小委員会において,割賦販売法の過剰与信規制について,以下の規制緩和が検討されている(経済産業省産業構造審議会商務流通情報分科会割賦販売小委員会,令和元年5月29日付け「中間整理~テクノロジー社会における割賦販売法制のあり方~」)。
① クレジットカード会社独自の技術やデータを活用した与信審査を行っている場合には,これを従来の支払可能見込額調査(割賦販売法第30条の2第1項)に代えることができ,さらにその場合には,指定信用情報機関への照会(指定信用情報機関の信用情報の使用)(同法第30条の2第3項)を⼀律の義務としては課さないこととする。
② 少額・低リスクのサービス(極度額10万円以下のものが想定されている)で指定信用情報機関の信用情報を使用せずとも与信できる場合には,指定信用情報機関への基礎特定信用情報の登録義務(同法35条の3の56)を課さないこととする。

 しかしそもそも,2008年の割賦販売法改正において,クレジット会社に指定信用情報機関への信用情報の照会義務,基礎特定信用情報の登録義務及び支払可能見込額調査義務が課されたのは,従前,過剰与信の防止をクレジット会社の努力義務(同法38条)に留めていたため,クレジットの過剰与信を含む多重債務被害が広がったことから,クレジット業界全体に対して,過剰与信を法的に規制するということが背景にあった。

 しかるに,上記①は,与信判断を各クレジットカード会社の独自の審査基準に委ねようとするものであり,クレジット業界全体として統⼀的な基準により過剰与信を防止しようとした前記2008年改正の趣旨を没却することになりかねない。仮に,独自の基準による与信審査をすることを認めるのであれば,その与信審査基準が現行の支払可能見込額調査に代替し得るだけの客観的かつ合理的なものであることが担保されなければならないが,この点への手当は明確ではない。
 また,指定信用情報機関の信用情報の使用義務を免除することになると,既に他社からの与信等で多重債務状態に陥っている者にもクレジットカードの利用が認められうることになり,過剰与信防止の観点から問題が大きいと言わざるを得ない。

 次に,上記②について,少額・低リスクのサービス(極度額10万円以下のものが想定されている)に関して指定信用情報機関への基礎特定信用情報の登録義務を課さないということになると,クレジット業界全体のクレジット債務額を集約して相互に利用することによって過剰与信を防止するという指定信用情報機関の役割が大きく損なわれる。言うまでもなく,一つ一つは少額であっても,多数のクレジットカード会社を利用すれば,返済不能状態に陥ることはありうるのであって,少額だからといって基礎特定信用情報の登録義務を課さないとすることには,過剰与信防止の観点から問題がある。また,多種多様なキャッシュレス決済手段が普及していくことが予想される中,少額の決済手段は,これまでクレジットカードを利用してこなかった層にとっても,比較的抵抗感なく利用できるものと受け取られる可能性が高い。特に,民法の成年年齢の引下げに伴い,クレジットカードを初めて手にするような若年者層にとっては,少額のものは心理的に利用しやすいものとして捉えられる可能性が高く,適正な与信審査がなされなければ,再び多数の多重債務者を生み出すことになりかねない。

 よって,①クレジットカード会社独自の技術やデータを活用した与信審査を行う場合に,これを従来の支払可能見込額調査(割賦販売法第30条の2第1項)に代えることを認めて,指定信用情報機関への照会(指定信用情報機関の信用情報の使用)を義務としないことには反対であり,仮にクレジットカード会社独自の審査を認めるのであれば,少なくとも,事前の措置として,当該与信審査方法の合理性を審査する手続を設けることと,事後的措置として,貸倒率又は延滞率等の客観的検証手続を設けることの両方の措置を講ずるべきである。また,②少額・低リスクのサービス(極度額10万円以下のものが想定されている)で指定信用情報機関の信用情報を使用せずとも与信できる場合であっても,指定信用情報機関への基礎特定信用情報の登録義務は維持すべきである。


2019年(令和元年)11月14日
福岡県弁護士会
会長 山 口 雅 司


2019年8月 9日

再審制度の制度趣旨を没却する最高裁判所の大崎事件第三次再審請求棄却決定に対し抗議する会長声明

最高裁判所第一小法廷は,2019年(令和元年)6月25日,いわゆる大崎事件第三次再審請求事件(請求人原口アヤ子氏等)の特別抗告審において,検察官の特別抗告には理由がないとしたにもかかわらず,職権により,鹿児島地方裁判所の再審開始決定及び福岡高等裁判所宮崎支部の即時抗告棄却(再審開始維持)決定を取消し,再審請求を棄却した(以下「本決定」という。)。
大崎事件は,1979年(昭和54年)10月,原口アヤ子氏が,その元夫(10人兄弟の長男),義弟(二男)との計3名で共謀して被害者(四男)を殺害し,その遺体を義弟の息子も加えた計4名で遺棄したとされる事件である。原口アヤ子氏は,逮捕時から一貫して無罪を主張し続けたが,確定審では,「共犯者」とされた元夫,義弟,義弟の息子の3名の「自白」,「自白」で述べられた犯行態様と矛盾しないとする法医学鑑定及び義弟の妻の目撃供述等を主な証拠として,原口アヤ子氏に対し,懲役10年の有罪判決が下された。
原口アヤ子氏は,受刑後,第一次再審請求において,2002年(平成14年)3月26日,再審開始決定を得たが,検察官の即時抗告により同決定が取り消され,その後再審請求棄却決定が確定した。そして第二次再審請求においても,再審の扉は閉ざされていた。
今般の第三次再審請求審においては,弁護側は,被害者の死因について事件前に発生した「転落事故による出血性ショックの可能性が高い」という法医学鑑定書を新証拠として提出した。また,義弟の妻の目撃供述についても,供述心理学の専門家による鑑定によって信用性に疑問が呈された。 そして,鹿児島地方裁判所は,2017(平成29)年6月28日,「殺人の共謀も殺害行為も死体遺棄もなかった疑いを否定できない」と結論づけて,本件について2度目となる再審開始決定をした。これに対して検察官抗告がなされたが,2018年(平成30年)3月12日,福岡高等裁判所宮崎支部も再審開始の結論を維持し,検察官の即時抗告を棄却して,再審開始を認めた。
ところが,本決定は,検察官の特別抗告には刑訴法433条の理由がないとしたにもかかわらず,特別抗告を棄却せずに,原々決定及び原決定に同法435条6号の解釈適用を誤った違法があり,「取り消さなければ著しく正義に反する」と述べてこれらを取消し,同法434条,426条2項によって自判し,再審請求を棄却するという過去に前例のない,異例の決定を行った。
そもそも,再審制度は,えん罪の被害者を救済するための制度であり,この点を踏まえて,最高裁も,1975年(昭和50年)5月20日最高裁第1小法廷決定(いわゆる白鳥決定)及びそれに続く1976年(昭和51年)10月12日最高裁第1小法廷決定(いわゆる財田川決定)において,「疑わしきは被告人の利益に」という刑事司法の大原則が再審請求審においても適用されることを明らかにし,以後,この原則を踏襲してきた。とりわけ,大崎事件においては,第一次から第三次の再審請求を通じて3回の再審開始決定が出され,地裁及び高裁において,少なくともそれぞれの合議体の過半数の裁判官が確定判決に疑問を呈したのであるから,原口アヤ子氏を有罪とした確定判決に合理的な疑いが生じている可能性が高まっていた。
しかし,本決定は,事実調べを行なった原々決定及び確定審の事実認定を詳細に分析した原決定に対し,書面審理のみで結論を覆し,再審の扉を再び閉ざしてしまった。しかも,検察官が特別抗告の理由として制度上主張できない事由について,刑訴法411条1号を準用して職権で判断して再審決定を取り消したものであり,このような最高裁の判断は,再審制度の制度趣旨を没却するものであり,これこそが「著しく正義に反する」ものといわざるを得ない。
また,白鳥決定では,刑訴法435条6号の新証拠の明白性の判断手法について,新証拠と他の全証拠を「総合的に評価して...確定判決における事実認定につき合理的な疑いを生ぜしめれば足りる」とされ,財田川決定においても,「確定判決が認定した犯罪事実の不存在が確実であるとの心証を得ることを必要とするものではなく,確定判決における事実認定の正当性についての疑いが合理的な理由に基づくものであることを必要とし,かつ,これをもつて足りると解すべき」とされてきた。
しかし,本決定においては,新証拠として提出された法医学鑑定に対し,「科学的推論に基づく一つの仮説的見解を示すものとして尊重すべきである」と一定の評価を与えつつも,新たな法医学鑑定それ自体に確実な裏付け,確実な根拠,遺体から現れたすべての事象に対する合理的説明を要求し,それらを満たさないことを理由に証明力を低く評価し「決定的な証明力は有しない」と断じた。その一方で,共犯者とされた親族らの「自白」及び目撃供述については,その知的能力や供述の変遷等に関して問題があることを認めながらも,その信用性は「相応に強固だ」と評価し,新証拠によって「合理的な疑い」は生じないとした。このような判断は,明白性の判断基準のハードルを著しく引き上げるものであり,再審制度の制度趣旨に反するのみならず,「疑わしきは被告人の利益に」という刑事司法制度全体の基本理念をも揺るがしかねない危険な判断である。
当会は,このような再審制度の制度趣旨を没却し,刑事司法制度の基本理念をも揺るがしかねない本決定に強く抗議するとともに,当会としても,このような不当な判断が二度と繰り返されないためにも,再審開始決定に対する検察官の不服申立の禁止をはじめとする,えん罪被害救済に向けた再審法改正の早急な実現に尽力する決意を表明する。
                

2019年(令和元年)8月8日
福岡県弁護士会
会長 山 口 雅 司


2019年8月 6日

死刑執行に抗議する会長声明

去る8月2日,福岡拘置所において1名,東京拘置所において1名,合計2名の死刑確定者に対して死刑が執行された。
我が国での死刑執行は,今世紀に入ってからも,2011年を除いて毎年行われており,2001年以降これまで合計90人もの死刑確定者が,国家刑罰権の発動としての死刑執行により生命を奪われていることになる。

当会は,最近では,昨年12月27日の死刑執行に対し,抗議する声明を発表し,すべての死刑の執行を停止することを強く要請した。それにもかかわらず,今回の死刑が執行されたことは,まことに遺憾であり,当会は,今回の死刑執行に対し,強く抗議するものである。

たしかに,突然に不条理な犯罪の被害にあい,大切な人を奪われた状況において,被害者の遺族が厳罰を望むことはごく自然な心情である。しかも,わが国においては,犯罪被害者及び被害者遺族に対する精神的・経済的・社会的支援がまだまだ不十分であり,十分な支援を行うことは社会全体の責務である。

しかし,そもそも,死刑は,生命を剥奪するという重大かつ深刻な人権侵害行為であること,誤判・えん罪により死刑を執行した場合には取り返しがつかないことなど様々な問題を内包している。
我が国では,死刑事件について,すでに4件もの再審無罪判決が確定しており(免田・財田川・松山・島田各事件),えん罪によって死刑が執行される可能性が現実のものであることが明らかにされた。

世界的な視野で見ると,欧州連合(EU)加盟国を中心とする世界の約3分の2の国々が死刑を廃止又は停止している。経済協力開発機構(OECD)加盟国35か国のうち死刑を存置しているのは,日本・米国・韓国であるが,米国は50州のうち19州が死刑を廃止し,4州で知事が執行停止を宣言している。韓国では,20年以上,死刑の執行が停止されている。したがって,OECD加盟国のうち,国家として統一的に死刑を執行しているのは日本だけである。
国連総会は過去7度に亘り「死刑廃止を視野に入れた死刑執行の停止」を求める決議を採択し,国連人権理事会で実施された過去3回のUPR(普遍的定期的審査)では,日本に対し,死刑廃止に向けた行動の勧告を出している。

当会は,本件死刑執行について強く抗議の意思を表明するとともに,死刑制度についての全社会的議論を求め,この議論が尽くされるまでの間,すべての死刑の執行を停止することを強く要請するものである。

2019年(令和元年)8月6日
                福岡県弁護士会会長  山 口 雅 司

2019年3月12日

改めて少年法適用対象年齢引下げに反対する会長声明

1 はじめに

現在,法制審議会少年法・刑事法(少年年齢・犯罪者処遇関係)部会においては,少年法の適用対象年齢を18歳未満とすることの是非等についての議論がなされており,第14回まで進んでいる。

この会議における議論には様々な問題があるが,当会は,特に下記の理由により,改めて少年法の適用対象年齢の引き下げに断固として反対する。

2 少年法適用対象年齢引き下げ論の理由

上記法制審議会の会議においては,少年法の適用対象年齢を18歳未満に引き下げるべき理由として,下記の3点が指摘されている。

① 選挙権年齢や民法上の成人年齢が18歳となることから,少年法の適用対象年齢も18歳未満に統一することが国民にわかりやすいこと

② 民法上の成人に対して,国家が後見的に介入し少年法上の保護処分の対象とするのは過剰な介入であること

③ 年齢を引き下げたとしても,少年法の対象から外れる18歳・19歳の者が起訴猶予となった場合には,家庭裁判所に送致して少年法と同様の処分を実施するという「若年者に対する新たな処分」で対応すれば問題ないこと

しかしながら,上記の理由は,いずれも少年法の適用対象年齢を引き下げる理由にはなりえない。

3 少年法適用対象年齢引き下げに断固として反対する理由

(1) 現行少年法制度が有効に機能していること

現行少年法は,成長途中の未熟な少年に対して教育によって非行からの立ち直りを目指す健全育成を法の目的・理念として掲げている。非行のある少年に対して,刑罰を科すのではなく,少年の資質や家庭環境に対する家庭裁判所調査官の調査や少年鑑別所での心身鑑別を通じて少年の問題点を明らかにし,個別の少年の抱える問題点に対応するための保護処分によって立ち直りを図っている。

このような趣旨に基づく現行少年法は有効に機能しており,少年の検挙人員は,2003年(平成15年)以降,絶対数だけでなく,人口比でも減少を続けている。

したがって,現状,18歳・19歳の少年をあえて現行少年法の適用対象から外す必要性は全くない。

(2) 民法上の成人年齢と少年法の適用対象年齢を一致させる必要はないこと

法律の適用対象年齢は,個別の法律の趣旨ごとに決められるべきである。実際,飲酒・喫煙・公営競技(ギャンブル)等については,健康被害の防止や青少年保護の観点から適用対象年齢が定められており,民法上の成人年齢の変更に合わせることなく,20歳が維持されている。少年法についても,上記の健全育成の理念によって適用対象年齢が定められているのであるから,選挙権年齢や民法上の成人年齢と一致させなければならない理由はない。

(3) 民法上の成人に対して少年法を適用することに問題はないこと

民法は,私法上の行為を規律する法律であり,成人が親の監護に服さないことは,私法上の取引を自由に行うことができる点で重要な意味をもつ。これに対し,少年法は,民法と全く異なる健全育成という目的・理念を掲げているのであり,民法上親の監護権に服さなくなることが,少年法の適用対象から外すべきであるという理由にはならない。

(4) 現在検討されている新たな処分は現行少年法制度の代替制度とはなり得ないこと

加えて,法制審議会では,少年法適用対象年齢引下げによって少年法上の処遇が受けられなくなる18歳・19歳の若年者に対しては,代替手段として,起訴猶予となった者を家庭裁判所へ送致し,家庭裁判所調査官の調査や,少年鑑別所での鑑別を経て,保護観察処分等の新たな処分の要否を判断することが検討されている。

しかし,かかる新たな処分は,現行少年法と類似の処分といえども,少年法と同様に健全育成という理念に基づいて,少年の資質面・環境面の問題点を明らかにするものではない。すなわち,新たな処分を前提とする調査や鑑別は,上記のように重くとも保護観察処分にとどまる事案に対する調査・鑑別に過ぎないのであるから,現行少年法の健全育成理念に基づく調査・鑑別のように実効性のあるものになるはずもない。そうすると,犯罪に対する非難と再犯防止のための調査・鑑別に過ぎず,教育として個別の処遇をしている現行少年法制度の代替制度には到底なりえない。

そもそも,若年者に対する新たな処分という現行少年法の代替手段が検討されていることは,民法上の成人となった若年者に対して現行少年法で行われている国家の後見的な教育的処分を実施する必要性を認めているに等しく,少年法の対象年齢を引き下げる必要のないことの表れである。

上述の通り,健全育成理念に基づく現行少年法は有効に機能しており,その理念から離れたいかなる制度も代替制度とはなり得ない。

4 最後に

以上のとおり,少年法適用対象年齢を18歳未満に引き下げる理由は全くない。

当会は,2015年(平成27年)6月25日に少年法適用対象年齢を18歳未満に引き下げることに反対する会長声明を出し,2017年(平成29年)5月24日の定期総会においては,少年法の適用対象年齢引下げに反対する決議をしたが,改めて,少年法適用対象年齢引下げに断固として反対するものである。

以上

2019年(平成31年)3月11日
福岡県弁護士会会長 上田英友

2019年2月 7日

「性暴力を抑止し,性被害から県民を守るための条例(案)」 に関する会長声明

 議員有志からなる福岡県議会議員提案政策条例検討会議は,福岡県2月定例議会に標記条例案を上程し,成立させることを目指している。
本条例案は,性犯罪その他の性暴力を抑止し,性暴力による被害から県民を守ることを目的としており,その目的は理解できるものの,以下の点を含む多数の問題があるので,当会は,本条例案には反対である。
 特に問題があるのは第17条である。同条は,一定の性犯罪を犯して刑期を満了した者に対し,再犯防止及び社会復帰の支援を目的として,その者の氏名,住所,性別,生年月日,連絡先,罪名,刑期満了日の届出義務を課しており,第18条では,その者が申し出たときに,知事が再犯防止指導に準じた指導プログラムを受けることや治療を受けるように支援すると規定している。
 しかし,個人の特定をともなう前科情報は,高度にプライバシー性の高い情報であり,前科となる判決を受けた者が社会復帰に務め,新たな生活環境を形成していた場合に,前科情報を公表されない権利は,憲法第13条によって保障されることが最高裁判決によっても認められている。また,本条例案第18条で,指導プログラムまたは治療を県が提供すると規定しているが,前科を有する者が申し出たときに提供するのであれば,事前に住所や前科の届出を強制する必要はない。したがって,本条例案の目的のためにこのような届出義務を課す必要はない。
 本条例案が,真に加害者の更生への支援を考えるのであれば,前科の届出義務はかえって更生を妨げるものであるから規定するべきではなく,加害者が抵抗なく自らすすんで社会復帰への支援を求めることができるような制度を調査研究したうえで,その制度を具体的に本条例案に規定するべきである。本条例案には,その目的を阻害するような制度が規定されており,適当ではないと思料する。
 また,本条例案第8条には,県民の責務として,性被害の発生の危険がある状況に直面したときには,これを傍観することなく,その発生及び継続を防止するために可能な範囲で積極的に行動するものとすると規定している。
 しかし,被害の発生及び継続を防止するためには,加害者を制止しなければならず,大きな危険がともなう。加害者から被害者を逃がすための援助をする場合にも,加害者から攻撃を受ける可能性がある。このような危険をともなう行為を条例によって法的に義務づけることは相当ではない。しかも,本条例案は,これまで県民に知らされておらず,突然,県民にこのような義務を負わせることは,県民に戸惑いと混乱を招くことになる。
 さらに,本条例案第14条及び第15条は,当会と連携を行うことを定めているが,どのような連携を行うかについて,これまで当会に申し入れは行われておらず,今回の県議会で本条例案を制定するのは性急に過ぎる。
 以上の理由から,当会は,本条例案に反対するものである。

2019年(平成31年)2月7日

                福岡県弁護士会 会長  上 田 英 友

2019年1月 7日

死刑執行に関する会長声明

2018年(平成30年)12月27日,大阪拘置所で2人の死刑が執行された。うち1人は再審請求中であった。
 本年において死刑が執行された人は計15人となり,法務省が執行の事実や人数の公表を始めた1998年11月以降では,2008年と並んで最多となった。2012年12月の第2次安倍政権発足後,死刑執行は15回目で,計36人が執行されたことになる。

 当会は,本年7月6日及び同月26日の死刑執行に対し,それぞれに抗議する声明を発表し,すべての死刑の執行を停止することを強く要請した。それにもかかわらず,今回の死刑が執行されたことは,まことに遺憾であり,当会は,今回の死刑執行に対し,強く抗議するものである。

 たしかに,突然に不条理な犯罪の被害にあい,大切な人を奪われた状況において,被害者の遺族が厳罰を望むことはごく自然な心情である。しかも,わが国においては,犯罪被害者及び被害者遺族に対する精神的・経済的・社会的支援がまだまだ不十分であり,十分な支援を行うことは社会全体の責務である。

 しかし,そもそも,死刑は,生命を剥奪するという重大かつ深刻な人権侵害行為であること,誤判・えん罪により死刑を執行した場合には取り返しがつかないことなど様々な問題を内包している。
我が国では,死刑事件について,すでに4件もの再審無罪判決が確定しており(免田・財田川・松山・島田各事件),えん罪によって死刑が執行される可能性が現実のものであることが明らかにされた。また,死刑判決を受けた袴田巌氏の再審開始決定は,本年6月11日,東京高等裁判所によって取り消されたが,袴田巌氏は最高裁判所に特別抗告しており,現在でもなお死刑えん罪が存在する可能性は否定できない。死刑事件ではないものの,本年10月に再審開始が最高裁で確定した松橋事件において,本年12月20日の熊本地裁での再審手続に関する協議で,検察が新たな有罪主張をせず,求刑もしない方針を明らかにしたことからも,えん罪の生じ得る危険性は明らかである。

 世界的な視野で見ると,欧州連合(EU)加盟国を中心とする世界の約3分の2の国々が死刑を廃止又は停止している。経済協力開発機構(OECD)加盟国35か国のうち死刑を存置しているのは,日本・米国・韓国であるが,米国は50州のうち19州が死刑を廃止し,4州で知事が執行停止を宣言し,昨年執行した州は8州である。韓国では,20年以上,死刑の執行が停止されている。したがって,OECD加盟国のうち,国家として統一的に死刑を執行しているのは日本だけである。
 国連総会は過去6度に亘り「死刑廃止を視野に入れた死刑執行の停止」を求める決議を採択し,国連人権理事会で実施された過去3回のUPR(普遍的定期的審査)では,日本に対し,死刑廃止に向けた行動の勧告を出している。

 当会は,本件死刑執行について強く抗議の意思を表明するとともに,死刑制度についての全社会的議論を求め,この議論が尽くされるまでの間,すべての死刑の執行を停止することを強く要請するものである。


         2018年(平成30年)12月28日

                福岡県弁護士会 会長  上 田 英 友

2018年9月18日

東京医科大学医学部一般入学試験に関する女性差別についての会長声明

東京医科大学医学部一般入学試験に関する女性差別についての会長声明
 2018(平成30)年8月7日、学校法人東京医科大学内部調査委員会が公表した調査報告書により、同大学医学部医学科の一般入学試験の二次試験(小論文)の採点において、女性受験者に不利益な得点調整が行われていたことが明らかにされた。同調査報告書は、「女子よりも男子を優先すること及びその手法として全員の得点に係数をかけたうえで属性に応じた一定の点数を加算することは、少なくとも平成18年度入試から行われていたようである」等と指摘している。
 憲法第14条が保障する性差別の禁止、男女平等原則は、私人間においても尊重されるべき基本的な社会秩序(民法第90条)を構成しているところ、受験者が女性であることを理由として一律に不利益な点数操作を行うことは、女性に対する重大な差別であり断じて許されない。加えて、公の性質をもつ教育機関である大学が、公正であるべき入学試験においてこのような差別を行うことは、性別によって教育上差別されないとする教育基本法4条1項はもちろんのこと、女性受験者の学問の自由(憲法23条)、能力に応じて等しく教育を受ける権利(憲法26条1項)、ひいては医師という職業選択の自由(憲法22条)等を保障する憲法の趣旨にも反している。
 また、同調査報告書は、同大学がこのような差別を長年にわたり行ってきた理由について、「女性は年齢を重ねると医師としてのアクティビティが下がる、というのがかかる得点調整を行っていた理由のようである」と指摘している。これは女性医師の出産・育児等によるキャリアの中断を指すものと推測される。しかし、仮に女性医師の休職・離職等が多いとしても、その原因としては、いわゆる性別役割分業の考え方に基づく男性医師の過重な長時間労働及び女性医師の家事・育児労働の過重負担など、様々な背景事情があることが考えられる。これらの背景事情を分析・解決することなしに、安易に、労働力という観点で女性は非効率的であるから入学をさせなければよいとすることは、到底許されない。
 公の性質を持つ大学において、入学者選抜という極めて高い公正さを求められる場面で、受験者が女性であることを理由として一律の不利益な点数操作を行うことは、いかなる意味においても正当化できない。

 以上を踏まえ、当会は、国に対し、下記2点を強く求める。
1 学校法人東京医科大学をはじめとした全ての大学の医学部入学者選抜における性別に基づく差別的取扱いの有無及び実態について早急に調査を進め、その結果を公表するとともに、性別に基づく差別的取扱いが認められた場合には、かかる差別的取扱いが行われた原因について究明をし、今後、全ての大学の医学部入学者選抜において、二度と性別に基づく差別的取扱が行われることのないよう、再発防止策を講じること。
2 女性医師が年齢を重ねても働き続けられるよう、過重労働の改善や性別役割分担意識解消のための政策を推進するなど、男性・女性を問わず全ての医師の労働環境の改善を速やかに図ること。

2018年(平成30年)9月18日
     福岡県弁護士会      
      会長 上田 英友

2018年8月 1日

死刑執行に関する会長声明

2018年(平成30年)7月26日,東京拘置所で3名,名古屋拘置所で2名,仙台拘置所で1名,合計6名の死刑が執行された。この6名は,オウム真理教による一連の事件で死刑が確定していた13名のうち,7月6日に執行された7名を除く6名である。これにより,オウム真理教関連事件の死刑確定者13名全員がわずか21日間のうちに死刑執行されたことになる。

 当会は,本年7月6日の死刑執行に対し,これに抗議する声明を発表し,すべての死刑の執行を停止することを強く要請した。それにもかかわらず,今回の死刑が執行されたことは,まことに遺憾であり,当会は,今回の死刑執行に対し,強く抗議するものである。

 1995年(平成7年)3月20日に発生した地下鉄サリン事件では29人の死者と6500人以上の負傷者が出ており,今なお多数の人々が後遺症等に苦しんでいる。これらのご遺族や被害者の方々の苦しみを決して忘れることなく,被害者救済のための努力をあらゆる方面で続けていかなければならない。
 しかし,死刑制度そのものの是非については,別の問題として慎重に考えるべきである。また,今回行われた合計13名という多数の死刑執行が今後の死刑執行を容易にする契機となってはならない。
 
我が国では,死刑事件について,すでに4件もの再審無罪判決が確定しており(免田・財田川・松山・島田各事件),えん罪によって死刑が執行される可能性が現実のものであることが明らかにされた。また,2014年(平成26年)3月27日には,静岡地方裁判所によって,死刑判決を受けた袴田巖氏の再審開始が決定され,同時に死刑および拘置の執行停止も決定された。この再審決定は,2018年(平成30年)6月11日,東京高等裁判所によって取り消されたが,袴田巖氏は最高裁判所に特別抗告しており,現在でもなお死刑えん罪が存在する可能性は否定できない。

そもそも,死刑は,生命を剥奪するという重大かつ深刻な人権侵害行為であること,誤判・えん罪により死刑を執行した場合には取り返しがつかないことなど様々な問題を内包している。
そのため,欧州連合(EU)加盟国を中心とする世界の約3分の2の国々が死刑を廃止又は停止し,死刑存置国とされているアメリカ合衆国においても2017年(平成29年)6月の時点で19州が死刑廃止を宣言するなど,死刑廃止は国際的な潮流となっている。
国連総会は過去6度に亘り「死刑廃止を視野に入れた死刑執行の停止を求める。」決議案を採択し,国連人権理事会で実施された過去3回のUPR(普遍的定期的審査)においては,日本に対し,死刑廃止に向けた行動の勧告を出している。
今回のような短期間における多数の死刑執行は,国際社会において強い非難を受けることは避けられない。実際にも,駐日EU代表部及びEU加盟国の駐日大使らは,本年7月6日の死刑執行に対して,オウム真理教による事件が,日本そして日本国民にとってとりわけ辛く特殊な事件でありテロ行為を断じて非難するとしながらも,いかなる状況下でも極刑を使用することに強く明白に反対し,日本に対して死刑を廃止することを視野に入れた執行停止を呼びかける共同声明を出したが,今回の死刑執行に対しても,同様の共同声明が出されている。日本は,2018年(平成30年)7月17日にEUとの間で戦略的パートナーシップ協定(SPA)の合意に至ったが,協定では,民主主義,法の支配,人権及び基本的自由についての価値を共有していることが求められている。EUは,人権について生命権を絶対として死刑廃止をその加盟条件としており,今回の死刑執行は,SPAの当事者国が共有すべき人権や基本的自由という価値の共有に懸念を抱かせることになる。

当会は,本件死刑執行について強く抗議の意思を表明するとともに,死刑制度についての全社会的議論を求め,この議論が尽くされるまでの間,すべての死刑の執行を停止することを強く要請するものである。

2018年(平成30年)7月31日
福岡県弁護士会 会長  上 田 英 友


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