福岡県弁護士会 宣言・決議・声明・計画

2024年3月22日

離婚後共同親権の導入について、十分に国会審議を尽くすことを求める会長声明

声明

 離婚後共同親権の導入を含む「民法等の一部を改正する法律案」(以下「改正法案」という。)が、2024年3月8日に閣議決定され、国会へ提出された。
 改正法案は、「家族法制の見直しに関する要綱」の素案を審議してきた法制審議会家事法制部会での審議過程において、部会内の採決で複数の部会委員が反対・棄権したという異例の経過を経て答申され、閣議決定を経たものである。
 改正法案は、広く国民生活、特に、子の利益に関わる基本的な事項に関するものであり、かつ、その審議過程は、立法者意思を示す資料として繰り返し参照される重要なものであるから、離婚後共同親権の導入をめぐって指摘されている以下の懸念もふまえて、十分に審議を尽くすべきである。
 まず、第一の懸念は、改正法案で「親の責務」と題する節が新設されて、親は子に対する責務を果たすべきことが定められたにも関わらず、「親権」という言葉が残され、その関係が明確にされていないことである。
 本来、親の権限は親の責務を果たすために必要な限りにおいての権限であるにも関わらず、「親権」という言葉が残ったために包括的な親の権利というものがあるという誤解を生じかねない。親権の共同行使のあり方や、共同親権であっても単独で行使できる場合とは何かということについての紛争の解決において、子に対する親の責務の履行という観点がなおざりにされれば、専ら親の権利の行使の問題としての解決に傾きかねず、子の利益の実現に困難を伴う可能性が高い。
 第二の懸念は、DV・虐待等の支配・被支配関係にある場合の危険性である。
 改正法案では、DV・虐待があるような、共同親権が不適切なケースに万が一にも共同親権が定められることにならないよう、裁判所における判断基準を定めてはいる。しかし、協議離婚においては、届出時点では裁判所が関与せず、何らの限定もない。DV・虐待によって形成された支配・被支配関係のもとで被害者が共同親権への合意を事実上強制されてしまうと、その後も加害者との関わりが継続し、同居親と子の生活の平穏が脅かされ、結局は、改正法案が目指す「子の利益」に反するおそれがある。
 第三の懸念は、単独での親権行使ができる事由が不明確な点にある。
 改正法案では、共同親権となった場合(婚姻中も含む。)でも、「子の利益のため急迫の事情があるとき」や、「監護及び教育に関する日常の行為」は、父母の一方が単独で親権行使が可能とされている。しかし、「急迫の事情」や「日常の行為」の範囲が明確ではない。特に、婚姻中にDVや虐待があったことを理由に子を連れて別居するケースが「子の利益のため急迫の事情があるとき」に該当するかどうかについては、DV・虐待等被害者支援の観点から非常に重要であるが、この点も文言上不明確であると指摘せざるを得ない。
 また、実際の子育てにおいては、子の入院や手術、歯科矯正、保育園や幼稚園への入園、高校や大学の受験及び入学、塾や習い事、同居親の転勤等に伴う転居など、子のための意思決定を行わなければならない場面がさまざまにあるところ、どこまで単独で決定できるのかが明確でなければ、後に親権行使の適法性が争われる等の心配により適時適切な意思決定ができず、かえって子の利益を害するおそれがある。
 以上のような改正法案に対する懸念に加えて、家庭裁判所の人的・物的体制の問題がある。共同親権となった後に生じる親権行使をめぐる紛争に関し、改正法案では、当事者間で協議が調わなかった場合には、家庭裁判所が判断するとされているが、これらの紛争に家庭裁判所が迅速かつ適正な判断を行うにあたって、家庭裁判所の人的・物的体制の充実が不可欠であり、その手当てなくして成り立たない制度であるといえる。
 これまでの親権制度に大きな変更を加える重大な改正について、上記の種々の懸念事項に対して、充実した議論や十分な手当がなされないままに採決されるようなことになれば、結局は、改正法案が目指す「子の利益」を大きく損なうことになりかねず、改正の趣旨を没却するおそれがある。
 上記のような異例な経過を経て国会に上程された改正法案に対しては、国会において多くの国民の意見を踏まえた十分な議論を尽くすことを求める。


2024年(令和6年)3月21日
福岡県弁護士会
会長 大 神 昌 憲

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