福岡県弁護士会 宣言・決議・声明・計画

2015年6月25日

少年法適用対象年齢引下げに反対する会長声明

声明

 2015年(平成27年)6月17日,公職選挙法の改正案が可決・成立し,選挙権年齢が18歳以上に引き下げられることになった。同法は,附則11条に,「少年法その他の法令の規定について検討を加え,必要な法制上の措置を講ずるものとする。」と規定しており,現在は20歳未満とされている少年法の適用対象年齢について検討すべきことが示された。また,自由民主党は,公職選挙法の改正に先立って「成年年齢に関する特命委員会」を設置し,少年法の適用対象年齢の引下げについて検討を始めている。
 しかし,選挙権年齢が18歳以上に引き下げられた事実が,少年法の適用対象年齢の引下げに論理必然的に帰結するものでないことは言うまでもない。選挙権年齢は,戦後に現行の公職選挙法が制定・施行されるまでは25歳以上の男子とされていたが,当時の少年法の適用対象年齢は18歳未満であった。過去を見ても,選挙権年齢と少年法適用対象年齢は一致していなかったのであり,両者を一致させる必然性はない。法律の適用対象年齢は,各法律の立法趣旨に照らして個別具体的に検討すべきであり,少年法についてもまたしかりである。
 前述のとおり,旧少年法(大正14年制定)は適用対象年齢を18歳未満としていたが,現行少年法(昭和23年制定)はこれを20歳未満に引き上げた。18歳,19歳の少年は未成熟であり,再犯防止策としては刑罰を科すよりも保護処分に付する方が適切であるとの立法趣旨に基づく。これにより,少年審判手続では,成人における刑事裁判手続と異なり,非行があると考えられる少年は全て家庭裁判所に送致され,家庭裁判所調査官による社会調査,少年鑑別所における資質鑑別,付添人等による更生のための援助等を経て審判を受け,保護観察や少年院送致等の保護処分を受けることになった。手続を通じて少年の成育歴や家庭環境等の調査が行われ,更生に有益な社会資源を活用する等の環境調整も並行して行われる。審判では,少年の資質や環境に応じ,非行事実は軽微であっても,少年院に送致される場合もある。このように,少年法は,少年への教育的な働きかけや環境の調整を行い,少年の立ち直りを図るという目的と機能を果たしている。
 少年法の適用対象年齢を18歳未満に引き下げると,罪を犯したと疑われる18歳,19歳の少年は,成人と同じ刑事裁判手続で扱われることになる。そうすると,これまで全件が家庭裁判所に送致され,少年審判手続の中で調査,環境調整等がなされていた18歳,19歳の少年について,このような手厚い処遇がなされないことになる。2013年(平成25年)に検察庁が新しく通常受理した少年被疑者数は10万8312人であり,そのうち年長少年(18歳,19歳の少年)は44.9%を占める(検察統計年報)。18歳への引下げは,これほど多数の少年の更生の機会を奪い,再犯の可能性を高める結果を引き起こしかねない。
 少年非行の実情を見ても,殺人,殺人未遂,強盗,強盗致死傷,強姦,集団強姦,放火など,「凶悪事件」と呼ばれる事件の数はいずれも長期的に減少を続けている。少年事件全体を見ても,少年1000人当たりの事件数は減少傾向にあり,これらは現行少年法が非行防止に効果を上げていることの表れともいえる。過去の少年法改正の効果を検証することなく,少年法の適用対象年齢を引き下げることも許されるべきでない。
 当会は,2001年(平成13年),全国に先駆けて全件付添人制度を立ち上げ,数多くの少年たちとかかわってきた。18歳,19歳の少年に対しても少年法に基づく手厚い処遇が必要であることは,少年たちと向き合い続けてきた当会会員が肌で感じてきたことでもある。選挙権年齢の引下げと短絡的に連動させて,少年の更生の機会と成長発達の権利を奪うことは,断固として認められない。
 以上のとおりであるから,当会は,少年法の適用対象年齢の引下げに強く反対する。

                    2015年(平成27年)6月25日
                         福岡県弁護士会 
                         会 長  斉 藤 芳 朗
 

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死刑執行に関する会長声明

声明

1 本日、名古屋拘置所において、1名の死刑確定者に対して死刑が執行された。
 2014年(平成26年)8月以来の執行ではあるものの、今後も新たな執行がなされることへの懸念は大きい。
2 我が国では、死刑事件について、すでに4件もの再審無罪判決が確定しており(免田・財田川・松山・島田各事件)、えん罪によって死刑が執行される可能性が現実のものであることが明らかにされた。また、2014年(平成26年)3月27日には、死刑判決を受けた袴田巖氏の再審開始が決定され、同時に「拘置をこれ以上継続することは、耐え難いほど正義に反する」として、死刑および拘置の執行停止も決定されて、現在でもなお死刑えん罪が存在することが改めて明らかとされた。
 死刑は、かけがえのない生命を奪う非人道的な刑罰であることに加え、罪を犯した人が更生し社会復帰する可能性を完全に奪うという問題点を含んでいる。のみならず、死刑判決が誤判であった場合にこれが執行されてしまうと取り返しがつかない。かかる刑罰は、いかなる執行方法によったとしても、残虐性を否定することはできない。
 それゆえ、死刑の廃止は国際的にも大きな潮流となっている。
3 日本弁護士連合会は、2014年(平成26年)11月11日、上川陽子法務大臣に対しても、「死刑制度の廃止について全社会的議論を開始し、死刑の執行を停止するとともに、死刑えん罪事件を未然に防ぐ措置を緊急に講じることを求める要請書」を提出して、有識者会議の設置や死刑に関連する情報の公開などを具体的に求め、全国民的議論が尽くされるまでの間、全ての死刑の執行を停止することに加え、死刑えん罪事件を未然に防ぐため、全面的証拠開示制度の整備や再鑑定を受ける権利の確立などを要請したばかりである。
4 当会は、政府に対し強く抗議の意志を表明するとともに、今後、死刑制度の存廃を含む抜本的な検討がなされ、それに基づいた施策が実施されるまで、一切の死刑執行を停止することを強く要請するものである。


                    2015年(平成27年)6月25日
                   福岡県弁護士会会長  斉 藤 芳 朗

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