福岡県弁護士会 宣言・決議・声明・計画
2023年6月 7日
会長談話
会長談話
当会の会員であった小山格(おやま ただし)元弁護士が、当会所属期間中に、供託金を要するなどと偽り530万円を詐取したとして、2023年(令和5年)6月6日、逮捕されたとの報道に接しました。
当会としては、元会員が詐欺被疑事件で逮捕されたことについて、極めて重大なこととして厳粛に受けとめています。
被疑事実の真偽につきましては今後の捜査及び裁判の進展を待つことになりますが、仮に事実であるとすれば、弁護士の職務に対する社会的信頼を著しく傷つけるものであり、到底許されるものではありません。
当会は、基本的人権の擁護と社会正義の実現を使命とする弁護士の職務を全うするため、会員一人一人に対してあらためて弁護士としての自覚と倫理意識の徹底を求めるとともに、会員の非行事案に関し迅速かつ適正な処分を行い、弁護士及び弁護士会に対する社会の皆さまからの信頼の回復及び向上に努力する所存です。
2023年(令和5年)6月7日
福岡県弁護士会
会長 大 神 昌 憲
2023年6月15日
名古屋地裁・福岡地裁判決を受け、直ちに、すべての人にとって平等な婚姻制度の実現を求める会長声明
声明
1 同性間の婚姻ができない現在の婚姻に関する民法及び戸籍法の諸規定(以下「本件諸規定」という。)の違憲性を問う裁判において、2023(令和5)年5月30日に名古屋地方裁判所は、本件諸規定が憲法14条1項及び24条2項に違反する旨の判決(以下「名古屋地裁判決」という。)を、これに続く同年6月8日、福岡地方裁判所は、本件諸規定が憲法24条2項に違反する状態である旨の判決(以下「福岡地裁判決」という。)を、それぞれ言い渡した。
2 名古屋地裁判決は、 婚姻制度が、両当事者の関係性を保護するための法律上の効果を付与するだけでなく、その関係性を公証し、正当な関係として社会的承認を与えるための極めて有力な手段となっていることを指摘した。そして、両当事者の関係が国の制度により公証され、その関係を保護するのにふさわしい効果を付与されるための枠組みが与えられるということ自体が重要な人格的利益であると述べ、このような重要な人格的利益を享受できないことにより同性カップルが被る不利益は重大であり、その規模も期間も相当なものであって、その影響は深刻と指摘した。
その上で、同性カップルは法律婚制度に付与されている重大な人格的利益を享受することから一切排除されているのに対し、その状態を正当化するだけの具体的な反対利益は十分に観念しがたく、もはや個人の尊厳の要請に照らして合理性を欠くに至っており、国会の立法裁量の範囲を超えているとして、本件諸規定は、同性カップルに対して、その関係を国の制度によって公証し、その関係を保護するのにふさわしい効果を付与するための枠組みすら与えていないという点で、憲法24条2項に違反すると結論付けた。
さらに、本判決は、同性愛者にとって同性との婚姻が認められていないということは、性的指向により別異取扱いがなされていることに他ならないと指摘し、憲法14条1項にも違反するとした。
3 福岡地裁判決は、永続的な精神的及び肉体的結合の相手を選び、家族として公証する制度は、現行法上婚姻制度しか存在せず、我が国では、公的な権利関係に留まらず、私的な関係においても家族であることが公証されることで種々の便益を得られる仕組みが多数存在するところ、そのような事実上の利益も、公証の効果として一律に発生するものであり、これを発生させる基本的な単位であるはずの婚姻ができず、その効果を自らの意思で発生させられないことは看過しがたい不利益であると指摘する。このことと、国民の意識における婚姻の重要性を併せ鑑みれば、婚姻をするかしないか及び誰とするかを自己の意思で決定することは同性愛者にとっても尊重されるべき人格的利益であると認めた。
そして、本件諸規定の下で同性カップルは婚姻制度を利用することによって得られる利益を一切享受できず法的に家族と承認されないという重大な不利益を被っているとし、婚姻制度の実態や婚姻に対する社会通念が変遷し、同性婚に対する国民の理解が相当程度浸透していることもふまえると、同性カップルに婚姻制度によって得られる利益を一切認めず、自らの選んだ相手と法的に家族になる手段を与えていない本件諸規定は、もはや個人の尊厳に立脚すべきものとする憲法24条2項に違反する状態であると言わざるを得ない、と断じた。
4 同種の訴訟は、札幌、東京、大阪、名古屋、福岡の全国5地裁に係属していたところ、上記両判決をもって、5地裁の判決が出されたことになる。
本件諸規定を憲法14条1項違反とした2021(令和3)年3月の札幌地裁判決、同性間の人的結合関係についてパートナーと家族になるための法制度が存在しないことについて憲法24条2項に違反する状態にあるとした2022(令和4)年11月の東京地裁判決と合わせ、5件中4件の判決において現状が憲法に反する旨が判断されたことになる。結論として合憲と判断した同年6月の大阪地裁判決も将来的に違憲となる可能性を指摘しており、同性カップルについて、異性カップルと同様、家族として法的に保護するための制度が必要であるとの司法判断の流れは確定し、もはや動かしがたいものとなったというべきである。
5 当会は、2019(令和元)年5月29日の「すべての人にとって平等な婚姻制度の実現を求める決議」において、憲法13条、14条、24条や国際人権自由権規約により、同性カップルには婚姻の自由が保障され、また性的少数者であることを理由に差別されないこととされているのだから、国は公権力やその他の権力から性的少数者が社会的存在として排除を受けるおそれなく、人生において重要な婚姻制度を利用できる社会を作る義務があること、しかし現状は同性間における婚姻は制度として認められておらず、平等原則に抵触する不合理な差別が継続していることを明らかにし、政府及び国家に対し、同性者間の婚姻を認める法制度の整備を求めた。また、前記札幌地裁判決、大阪地裁判決、東京地裁判決に際しても、それぞれ2021(令和3)年4月28日、2022(令和4)年8月10日、2023(令和5)年1月18日に会長声明を発し、政府・国会に対し、同性間の婚姻制度を早急に整備することを改めて求めた。
しかしこの間、本問題に関し、上記法制度の整備に向けた具体的な動きは、政府・国会において無いに等しい状況である。政府は、従前から、同性間の婚姻制度の導入について、「極めて慎重な検討を要する」との答弁を繰り返すばかりであったところ、2023(令和5)年2月の衆議院予算委員会でも、政府から、社会が変わってしまう課題だという趣旨の発言があり、後ろ向きの姿勢が浮き彫りになっている。
一連の判決が厳しく指摘するとおり、現在の状況は、同性カップルの人格的生存に対する重大な脅威、障害であり、足踏みをしている暇はない。名古屋地裁判決・福岡地裁判決を受け、今度こそ、政府・国会は、直ちに、同性間の婚姻制度を整備し、すべての人にとって平等な婚姻制度の実現を図るべきである。
なお、名古屋地裁判決・福岡地裁判決のいずれも、同性カップルが家族となるための法制度として、諸外国における登録パートナーシップ制度のような婚姻類似の制度に言及しているが、当会が従前指摘してきたとおり、このような異性カップルにおける婚姻と異なる制度を別に設けることは、同性カップルに対する新たな差別を惹起しかねない。制度構築にあたっては、同性カップルに対して婚姻の門戸を開くものとすべきであることを改めて述べておく。
2023年(令和5年)6月15日
福岡県弁護士会
会長 大神昌憲
2023年6月21日
中小企業への支援策を拡充しながら労働者の生活を支えて経済を活性化するために、最低賃金額の大幅な引上げを求める会長声明
声明
福岡地方最低賃金審議会は、昨年度、福岡県最低賃金を前年度比30円増額の時間額900円とする答申を行い、当該答申どおりの改正が行われた。しかし、時給900円は、未だ、いわゆるワーキングプアと呼ばれる水準にとどまっている。
原材料価格の高騰や円安の進行、長期に及んだ新型コロナウイルス問題やロシアのウクライナ侵攻などの影響で、食料品や光熱費など生活関連品の価格が急上昇していること、そしてこの傾向はもはや一過性のものではないことをふまえると、労働者の生活を守り、経済を活性化させるためには、全ての労働者の実質賃金の上昇又は維持を実現する必要があり、そのためには最低賃金額を大きく引き上げることが必要である。
また、最低賃金の地域間格差が依然として是正されていないことは重大な問題である。2022年の最低賃金は、最も高い東京都で時給1072円であるのに対し、最も低い10県では時給853円であり、その間には219円もの開きがある。上述のとおり福岡県も時給900円にとどまっており、東京都とは172円もの開きがある。なお、2021年の最低賃金は、福岡県が870円、東京都が1041円(171円の差)であり、格差はむしろ拡大している。
地域の最低賃金の高低と人口の増減には強い相関関係があり、最低賃金の格差は、最低賃金が低い地域の人口減ひいては経済停滞の要因ともなっている。大都市部への労働力の集中を緩和し、他の地域に労働力を確保することは、地域経済の活性化のみならず、大都市部への一極集中から来る様々なリスクを分散する上でも極めて有効である。
地域別最低賃金を決定する際の考慮要素とされる労働者の生計費は、最近の調査によれば、都市部と地方の間でほとんど差がないという分析がなされている。これは、都市部以外の地域では、都市部に比べて住居費が低廉であるものの、公共交通機関の利用が制限され、通勤その他の社会生活を営むために自動車の保有を余儀なくされることが背景にある。そもそも、最低賃金は、労働者が「健康で文化的な最低限度の生活」を営むために必要な最低生計費を下回ることは許されない。労働者の最低生計費に地域間格差がほとんど存在しない以上、最低賃金の地域間格差を維持することは適切ではなく、地方の最低賃金を都市部の水準まで引き上げることが求められる。
厚生労働省の中央最低賃金審議会に設置された「目安制度の在り方に関する全員協議会」が本年4月6日にまとめた報告では、現行のAないしDの4段階の目安区分を3段階とすることが提案されている。しかし、これではCランクの引上額を、Aランクの引上額より大幅に上回るものとするなど抜本的な方策でも採られない限り、地域間格差の迅速な解消は望めない。中央最低賃金審議会は、現行の目安制度が地域間格差を解消できなくなっていることを直視し、全国一律最低賃金制度実現に向けた提言をするなど、地域間格差の解消に向け、目安制度に代わる抜本的改正策を検討すべきである。
最低賃金引上げに伴う中小企業への支援策について、現在、国は「業務改善助成金」制度による支援を実施している。しかし、その支援は未だ十分とは言い難く、日本の経済を支えている中小企業が、最低賃金を引き上げても円滑に企業運営を行うことができるよう十分な支援策を講じることが必要である。例えば、社会保険料の事業主負担部分を免除・軽減すること、原材料費等の価格上昇を取引に正しく反映させることを可能にするよう法規制することなどの支援策も有効であると考えられる。
当会は、引き続き国に対し中小企業への十分な支援策を求めるとともに、本年度、中央最低賃金審議会が、厚生労働大臣に対し、地域間格差を縮小しながら全国全ての地域において最低賃金の引上げを答申すべきこと、福岡地方最低賃金審議会が、福岡労働局長に対し最低賃金の大幅な引上げを答申すべきことを強く求める。
2023年(令和5年)6月21日
福岡県弁護士会
会長 大 神 昌 憲
2023年6月22日
トランスジェンダーである弁護士へのヘイトクライムを非難し、差別のない社会を目指す会長声明
声明
大阪弁護士会に所属する弁護士に対し、2023(令和5)年6月3日から5日にかけて、事務所のホームページの問い合わせフォームで、トランスジェンダーであることを揶揄するようなメッセージや、殺害予告が書かれたメッセージがあわせて15通届いたことが報道された。
上記メッセージの送信行為は、当該弁護士がトランスジェンダーであることやトランスジェンダーをはじめとする性的少数者の人権活動に取り組んでいることを理由として脅迫するもので、特定の属性を持つ個人や集団への偏見や憎悪に基づくヘイトクライム(憎悪犯罪)に他ならない。
人権活動に取り組む弁護士に対する業務妨害行為であるだけでなく、当該弁護士のみならず、これを見聞きした性的少数者をも深く傷つけ、その平穏に生活する権利を害するものであって、非常に悪質である。このような行為を断じて許すことはできない。
さらに、かかる行為は、憲法の基礎原理である個人の尊重、人格の尊厳を否定するものであり、決して看過することはできない。
当会は、殺害予告を受けた弁護士が表明した脅迫に屈しないとの決意への連帯を表明するとともに、全てのトランスジェンダー当事者の人格が尊重され、平穏に生きることができる差別のない社会の実現に向けて、今後とも力を尽くす所存であることをここに表明する。
2023年(令和5年)6月21日
福岡県弁護士会
会長 大神昌憲