福岡県弁護士会 宣言・決議・声明・計画

2025年6月30日

死刑執行に抗議する会長声明

声明

 本日、国内において1名の死刑確定者に対して死刑が執行された。前回の死刑執行は、令和4年7月26日であり、2年11か月が経過しての執行となった。国際社会から死刑廃止の要請もあり日本でも死刑が執行されない状態が続くと思われたが、突然の執行であった。
 たしかに、突然に不条理な犯罪の被害に遭い、大切な人を奪われた状況において、被害者の遺族が厳罰を望むことはごく自然な心情である。しかも、日本においては、犯罪被害者及び被害者遺族に対する精神的・経済的・社会的支援がまだまだ不十分であり、十分な支援を行うことは社会全体の責務である。
 しかし、そもそも、死刑は、生命を剥奪するという重大かつ深刻な人権侵害行為であること、誤判・えん罪により死刑を執行した場合には取り返しがつかないことなど様々な問題を内包している。
 人権意識の国際的高まりとともに、世界で死刑を廃止または停止する国はこの数十年の間に飛躍的に増加し、2024年の統計では、法律上及び事実上の死刑廃止国は145か国(死刑存置国は54か国)となっている。経済協力開発機構(OECD)加盟38か国のうち、死刑制度を存置しているのは3か国(韓国、米国、日本)のみであり、韓国では1997年以降、死刑が執行されておらず、米国では50州中23州で死刑が廃止、2021年7月には、連邦レベルでも死刑執行が停止されている。OECD加盟国のうち、日本のみが国家として死刑を執行している。
 このような世界の情勢もあり、日弁連が中心となり「日本の死刑制度について考える懇話会」が設置され、複数の国会議員や学識経験者、警察・検察出身者、弁護士、経済界、労働界、被害者団体、報道関係者、宗教家及び文化人など各層の有識者によって議論があり、同会は、2024年11月13日、報告書を公表し、「現行の日本の死刑制度とその現在の運用の在り方は、放置することの許されない数多くの問題を伴っており、現状のまま存続させてはならない」という基本的な認識を示した。
 当会においても、2025年1月29日に、死刑制度の廃止に向けて、本報告書の提言に沿って、早急に、国会及び内閣の下に死刑制度に関する根本的な検討を任務とする公的な会議体を設置すること、その結論が明らかにされるまでは死刑の執行を停止することを強く求める会長声明を発しており、これまでも1996年以降、死刑執行に対し、都度これに抗議する会長声明を発出してきたほか、2020年9月18日に「死刑制度の廃止を求める決議」を採択し、2021年8月25日には「米国における連邦レベルでの死刑の執行停止を受け、日本における死刑制度の廃止に向けて、死刑執行の停止を求める会長声明」を発出してきた。
 そこで、当会は、国に対し、今回の死刑執行について強く抗議の意思を表明するとともに、日本が、基本的人権の尊重、特に生命権の不可侵性の価値観を共有できる社会を目指そうとしている国際社会と協調し、国連加盟国の責務を果たせるよう、あらためて死刑制度の廃止に向けて死刑の執行を停止することを強く要請するものである。

2025年(令和7年) 6月27日

福岡県弁護士会会長 上田 英友      

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