福岡県弁護士会コラム(会内広報誌「月報」より)

月報記事

あさかぜ基金だより ~異業種より学ぶ業務改善~

社員弁護士 西村 幸太郎(66期)

オフィスツアーへの参加

業務改善のため、民間の企業はどのような工夫をしているのでしょうか。

当事務所は、弁護士過疎地赴任をにらんだ弁護士を養成する事務所です。事務所を切り盛りするうえで、経営も学ばなければなりません。その一環として、複合機を扱うある会社のオフィスツアーに参加。目から鱗のツアーでした。

そこで参考になったこと、学んだことをご報告させていただきます。

ワークスタイルの変革を目指して

業務改善のためには、そもそものワークスタイルの変革が必要です。

(1) コストのかけ方:スペースコスト・紙コストの無駄が悩ましい。この会社は、印刷機の配置の工夫などによりこのコストを削る反面、セキュリティコストを増やします。パソコンの持出しを認めることで、社外にも活動のフィールドを広げることができ、業務効率があがります。セキュリティを厳しくすることで、さらなる効果もあります。最近、情報管理に厳しい企業が増加しており、そのような業者との取引にも十分対応できるのです。時流に即した変革です。

(2) 時間の使い方:データ処理や必要書類の探索に莫大な時間を奪われてしまう。ここでは、データ処理の時間を削る反面、コミュニケーションの時間を十分にとれるよう、時間配分を変革します。適切なデータにもとづく十分な議論は、意思決定の迅速性をももたらします。

限られたコストと時間で何をすべきか。やみくもに削るのではなく、必要なものには投資するなど、目的意識をもって業務改善にあたっています。

デスクのきれいさ

なにより驚くのは、この会社の社員のデスクがあまりにきれいなこと。

過去1年間使っていない書類をみる確率は1%未満。不要な文書は廃棄を徹底します。紙文書は減量化し、電子化を進めます。

悩ましいのは、放置プリント。しかし、これも、「パソコンの操作+複合機における社員証の提示」→印刷開始というシステムの導入で大胆に削減。印刷後、結局書類を取りに行くため、社員証の提示は余計な手間となりません。ミスプリはキャンセルできます。印刷を試みるも、間に合わず出社した際に放置されるプリントが散見されましたが、この場合も印刷されなくなり、無駄が省けます。このシステムでは、パネルに利用した印刷枚数・費用等が表示されるため、社員のコスト意識も高まります。

データの電子化にあたっては、そのファイルのネーミング、フォルダの仕分けにつき、全社で共通ルールをもうけます。ルールを実践すべく、ルールに沿って自動でネーミングと仕分けをしてくれるソフトを導入します。データ管理は自動で適切になされ、データ処理にかかる時間が圧縮されます。

ここでは、社員の付近にごみ箱を置きません。ごみ箱が近くにあると、ついつい書類を捨ててしまいます。別の社員が、その中にプライバシー情報を見つけます。その社員は、これを選別しシュレッダーにかけるという作業を強いられます。そのような手間を避けるため、ごみ箱は定位置に数か所だけ。ごみ箱から1番遠いのは上司であり、上司がごみ箱まで動いて捨てているなら私も・・・と配置を工夫しています。あえて移動して捨てる場合、適切な分別のうえ、必要なものはシュレッダーにかけるなど、適切な処理が促進されます。

無駄の排除により、「電話以外に何もないデスク」を実現。きれいなオフィスは、情報漏洩リスクが低い。生産性が高い。一方、必要以上に手間がかからないよう、ルールが定着しやすいよう、十分に配慮がされています。社員は、いきいきと仕事に取り組むことができます。

自戒もこめて・・・

ここで紹介したものは、氷山の一角。このほか、自動車の削減と公共交通機関のすすめ、グループ会社と同室にするメリット、地震対策など、さまざまな取組みにつき紹介してもらいました。

この会社の変革はBefore/Afterで示され、その変わりようには驚くばかり。Beforeの部分では、散乱したデスクがもたらすリスクなど、耳が痛い話も。しかし、工夫1つでここまで変われるのか!と感心しました。

これまでの自分を振り返ると、いたらない点ばかり。今回のツアーを参考に、ぜひとも、業務改善に取り組んでまいります。

みなさんも、機会があれば、民間の企業の取組みにつき、見学してみてはいかがでしょうか。きっと学ぶところが多いと思います。

「転ばぬ先の杖」(第24回) 犯罪被害に遭ったときには・・・

犯罪被害者支援委員会委員長 藤井 大祐(57期)

1 ある相談電話

ある日、日本司法支援センター(法テラス)から一本の電話。「犯罪被害者の精通弁護士紹介ということで、傷害事件の被害について相談に乗って頂きたい」とのこと。

《法テラスは、犯罪被害者支援ダイヤル(0570−079714。http://www.houterasu.or.jp/higaishashien/)として、犯罪被害にあわれた方(ご家族も)に対して、被害後の状況やニーズに応じて、さまざまな支援情報を提供しています。そして、事案の内容等によっては、犯罪被害者の支援に精通した弁護士の紹介も行い、弁護士費用等の援助制度((1)加害者への民事での損害賠償請求等について法テラスが費用立替する民事法律扶助、(2)刑事手続における加害者との対応等について法テラスが費用援助する犯罪被害者法律援助)等も準備しています。(http://www.houterasu.or.jp/higaishashien/nagare/index.html)》

2 事案の内容

法テラスからの情報を元に早速、被害者の方と連絡を取ってお話を聞く。

事案は強盗致傷事件。相談に来られたのは被害者のお母様(被害者本人は未成年)で、加害者は20代の無職者。ナイフで斬りつけられるという凶悪な犯行態様であったが、不幸中の幸いにも後遺症等は残らなかったという事案。

起訴後、加害者の国選弁護人から被害者のお母様に対しては、加害者の親の捻出によるという、損害賠償金が提示されていた。

ところが、被害者のお母様としては、「加害者の刑が決まるまでは、受け取れない」として、損害賠償金の受け取りをいったん拒否し、そのまま裁判は進行。

加害者には、10年近くの懲役刑の判決が下され、一審判決で確定後、提示のあった損害賠償金を受け取りたいと、法テラスに相談されてきた次第・・・

3 手の平返し?

加害者本人は若く資力はない。では、加害者の親を訴えたところで、法的責任があるかというと、加害者本人は成人している以上、親の責任を認めさせるのはなかなか困難。

こんな説明をしつつ、一応、相談の延長ということで、加害者の国選弁護人に電話をしてみる。「いったん提示したんだし、払いませんか」と。

しばらくして回答。案の定「刑も確定したので、親御さんとしてはもう払えません」と。

4 「知らなかった」

被害者のお母様に上記報告の上、改めてお話し。

当時は、犯罪被害者の刑事裁判への参加制度も施行されたばかりであったが、参加手続は取られていなかった。被害者のお母様いわく、(今回の事件の刑事公判は全て傍聴されていたものの)そんな制度があるのは「知らなかった」、知っていれば「参加していた」とのこと。

《平成20年に施行された刑事裁判への被害者参加制度では、一定の犯罪類型について、法廷の中で検察官の横で審理を傍聴し、被告人への質問、情状証人への質問や事件についての被害者参加人としての意見を述べられるようになりました。また、この参加に弁護士の支援を受ける場合の費用援助も法テラスで受けられます(被害者参加人のための国選弁護制度 http://www.houterasu.or.jp/higaishashien/trouble_ichiran/20081127_3.html)》

もっと早く弁護士なりに相談してくれれば、参加するか否かや、(賠償金受領による減刑の可能性は視野に入れつつも)相手方から提示のあった賠償金を受け取るか、判断するという選択の余地はあったのに・・・

5 所感

犯罪被害の多くは、日常生活の中に突然訪れる。警察・検察の捜査等、普段全く経験しないことへの対応をしながら、日々の生活の維持に精一杯になる。

ただ、「転ばぬ先の杖」ということで、民間の支援団体への相談や、弁護士への相談も、被害に遭った早い段階で、行って頂ければと改めて思う。

《福岡県弁護士会でも、犯罪被害者を対象にした無料電話相談を行っています。匿名での相談も承っていますので、お気軽にご相談ください。福岡県弁護士会・犯罪被害者支援センターの無料電話相談=092(738)8363(毎週火曜と金曜の午後4時~7時)。

また、福岡でも民間の支援団体(http://fukuoka-vs.net/)が存在します。こちらにもご相談下さい。》

紛争解決センターだより

会員 樋口 明男(46期)

本年2月15日、弁護士会事務局から「2月に申立が為された事件について仲裁人を引き受けることが可能か否か」打診があった。詳細に書かれた紹介状をみると、ドロドロした男女関係事件であり気が重かった。私は2013年に初めて担当したADRで和解を成立させている。専門性の高い建築紛争で一級建築士の助力を得ることが出来た上に当事者も冷静だったことにもとづく(月報13年9月号参照)。本紛争を容易に和解に導くことが出来るとは思えなかった。それでも仲裁人を引き受けたのは「誰かが担当しなければならない」という責任感による。

事案は夫と不貞行為をした女性に対する妻の慰謝料請求事件である。相手方女性の直筆書面(不貞行為の存在を認めた上で高額の金員を払う旨明記されている)が証拠として提出されていた。相手方には代理人弁護士が就いており、当該書面は事実に反して作成を強要されたもので、この書面により金員を請求することは恐喝に該当するとの主張がなされていた。私は「和解成立の見込みがなく1回で終了となるだろう」と予想した。

3月7日弁護士会館ADR室で双方の言い分を聞いた。双方当事者に母親が同伴していた。事案の性質上、双方ともに感情的だったが、とにかく最初はじっくり話を聞いた。その上で私が双方に言ったのは「仮にあなたの主張が事実だったとしても結論はあなたの思うようにはならないだろう」ということである。不貞行為慰謝料の成否や額については多くの議論がある。申立人に対しては「あなたの主張が事実であったとしても裁判所が認める慰謝料はあなたが思うほど高くないかも」と示唆した。相手方に対しては「あなたの主張が事実であったとしても先方は書証を有しているので訴訟に踏み切るだろう・その際に着手金が必要となる・あなたの主張が認められれば成功報酬が必要になる」と示唆した。弁護士費用の具体的議論は代理人の先生に委ねることにした。双方に話をした後「和解の見込みがなければ期日はこれで終わりますが、続行期日指定を希望されますか?」と聞いた。意外なことに双方とも期日続行を希望された。私は少し手応えを感じた。

3月17日第2回期日を開いた。先に相手方から話を伺うと代理人の先生はある程度の金銭を支払う和解案を用意されていた。私が考えていた水準と大差なかった。次に申立人から話を伺うと「和解案を出してきたことは評価するが、相手が自分の行為を恐喝と主張していたことが許せない」と怒りを表明された。私は数年前に被告側で受任した不貞行為慰謝料請求訴訟の経験を話した。当該事案で私は「美人局類似の抗弁」を主張していた。裁判所から示された和解案は高額ではなかった。この経験をふまえ「書面に記された金額に貴女がこだわることは良くないのでは」と示唆した。その前提の下、相手方提示案を示し「合理的な案だと私は思う」と付け加えた。申立人が持ち帰り検討することになった。

3月22日第3回期日を開いた。申立人は冷静になられており、母親も感情的な素振りを全く見せなくなった。申立人は最終的に和解案を受諾された。相手方に伝えるとホッとした感情が見受けられた。和解案を双方に示し双方から署名押印を得た。この作業は仲裁人弁護士ではなく職員さんが機械的に行うほうが手続がスムーズにいくようである。

弁護士会ADRにおける和解成立の場面では双方から成立手数料を払って貰う必要がある。支払の義務を負う相手方まで払ってもらえるのか不安があったが、事前に代理人から説明がなされていたようで相手方からも気持ちよく支払っていただいた。

こうして私は第2回目のADRも和解を成立させることが出来た。後から振り返れば事案に恵まれたと言うほかはない。紹介状を書いた弁護士の書面は的確なものだったし相手方に就いた代理人弁護士のスタンスの切り替えは「お見事」であった。

弁護士は紛争解決の専門家である。立場は違えど各自が役割を果たせば結果を残せるのである。

福岡市医師会とのパートナーシップ講演会

会員 楠田 瑛介(66期)

平成28年3月30日に、福岡市医師会・福岡県弁護士会パートナーシップ協議会の主催による講演会「虐待と非行」が開催されました。

講演会の報告の前に、主催団体である医師会・弁護士会パートナーシップ協議会についてご説明します。

この協議会は、医師会、弁護士会が互いの専門的知識の共有を図り市民へのサービス向上に繋げることを目的として平成19年2月に立ち上げたものです。

協議会の具体的な活動を担う組織として「高齢者障害者権利擁護委員会」と「児童虐待防止対策委員会」が置かれ、勉強会や講演会を実施してきました。

児童虐待防止対策委員会は、発足以来、活発な活動を行ってきました。

具体的には、定例委員会を2か月に1回程度開催し、福岡市児童相談所(こども総合相談センター)、NPO法人ふくおかこどもの虐待防止センター(F・CAP―C)とともに、児童虐待に関する様々な知見や制度について学んできました。

また、平成20年以降、震災のため中止となった平成23年を除く毎年3月に、児童虐待に関する講演会を開催して、医療関係者や弁護士のみならず、行政職員、NPOの方々など一般市民に対して、児童虐待に関する啓発をしています。

さて、今年の講演会は、「虐待と非行、そして発達障害−被害と加害の臨床を考える−」として、花園大学社会福祉学部臨床心理学科の橋本和明先生にご講演いただきました。

まず、虐待と非行について、加害者の中にも過去に虐待などの被害を受けた者もおり、「被害と加害の逆転現象」あるいは「被害と加害の反復現象」に対応する必要性について強調されました。

虐待が子どもに与える影響について、様々な影響がある中で、橋本先生は、「解離」について詳しく話されました。

解離とは簡単にいうと、意識の連続性がなくなることです。トラウマ体験があると、その体験を「冷凍」しなければ自分を保てない、そのような体験を人格・意識から切り離す、そうした心理的メカニズムが解離です。解離にも一次解離から三次解離(健康な解離から解離性同一性障害)まで広がりがあります。

三次解離の具体例として【性的虐待を受けているのは別の女性で自分ではない】というのが挙げられます。

次に、虐待と非行のつながりについてのお話です。虐待から逃れようと、非行の一歩手前、回避的行動をとる、暴力粗暴型非行・薬物依存型非行・性的逸脱型非行という非行の種類によって様々な行動があり、それは解離状態ともいえる、この回避的行動にいち早く気が付き、別の手段を与えることが大切である、と、橋本先生は、具体例を交えながら説明されました。

次に発達障害についてです。すでに残り時間がわずか、DSM-5による分類など細かな話は省略です。

発達障害と非行について、「自我と枠」の関係を橋本先生が書かれた絵を参考にしながら、成長とともに自我と枠のバランスが悪くなり、逸脱が生じると説明がありました。なかでも、性に関するつまずきや逸脱が多くなる理由として、親密な仲間関係から知識が得にくいハンディキャップなどを挙げられました。ものの見方が違うようです。例えば、「(少しふくよかな女性)担任の先生に対して、『先生が浴槽に入っているのを見たい』と言った」という例を挙げられました。フツーは、「先生の裸を見たい」ととらえるのではないでしょうか?しかし、自閉症スペクトラム障害(広汎性発達障害−アスペルガー障害や自閉症)の子は、「先生が浴槽に入ったときの『水位』」に興味を持っているのです。

ここで時間切れとなってしまいました。最後に橋本先生は、虐待・非行・発達障害は本来関係が遠いはずが、それぞれへの対応によって距離が近くなる、と強調されました。

このように、分かりやすい具体例を交えてのお話だったので、抽象的になりがちなお話について大変わかりやすい講演でした。

橋本先生は、近年は、少年の裁判員裁判などでの情状鑑定に力を注いでおり、人材育成もされているようです。

みなさま、来年はどのようなテーマになるか分かりませんが、大変勉強になるので、ぜひ講演会にご参加ください。

連載/高齢者障がい者の権利擁護と弁護士~権利擁護法務の実務解説 第4回/地域包括支援センターの役割

高齢者・障害者委員会 委員 大町 佳子(62期)

1 地域包括支援センターの概要

(1) 地域包括支援センターは、下記2で説明する事業を実施し、地域住民の心身の健康の保持及び生活の安定のために必要な援助を行うことにより、その保健医療の向上及び福祉の増進を包括的に支援することを目的とする施設です(介護保険法第115条の46第1項)。

(2) 地域包括支援センターの設置主体は、市町村、または市町村から委託を受けた者です(介護保険法第115条の46第2項、第3項)。

(3) 地域包括支援センターの職員としては、原則として保健師、社会福祉士、主任介護支援専門員が配置されています(介護保険法施行規則第140条の66第1号)。

2 地域包括支援センターの役割(介護保険法第115条の46第1項)

地域包括支援センターの主な業務は以下のとおりです。

(1) 総合相談・支援業務(介護保険法第115条の45第2項第1号)

総合相談・支援事業は、地域の高齢者が、住み慣れた地域で安心してその人らしい生活を継続していくことができるようにするため、どのような支援が必要かを把握し、地域における適切なサービス、関係機関および制度の利用につなげる等の支援を行うものです。高齢者だけではなく、その家族、近隣に暮らす人などからの高齢者に関する相談も受け付けています。

(2) 介護予防ケアマネジメント業務(介護保険法第115条の45第1項第1号ニ)

介護予防ケアマネジメントでは、チェックリストにより「介護予防・生活支援サービス事業対象者」に該当すると判断される者に対して、その心身の状況、置かれている環境、その他の状況に応じて、その選択に基づき、訪問型サービス、通所型サービス、その他の厚労省が定める生活支援サービスから、対象者の状況にあった適切なサービスが包括的かつ効率的に提供されるように必要な援助を行います 1。なお、これらの予防サービスには、ボランティアなど住民が主体となった支援なども含まれます。

また、要支援者については、必要に応じて、介護予防訪問看護や介護予防福祉用具貸与等のサービスを利用することもできます。

(3) 権利擁護業務(介護保険法第115条の45第2項第3号)

権利侵害を受けている、または受ける可能性が高いと考えられる高齢者が、地域で安心して尊厳のある生活を行うことができるよう、権利侵害の予防や対応を専門的に行うものです。事業内容としては、高齢者虐待の防止および対応、消費者被害の防止および対応、判断能力を欠く常況にある人への支援などがあります。

例えば、高齢者に成年後見制度の利用が必要なケースについては、親族に制度の説明をして申立ての支援をし、申立てを行える親族がないと思われる場合や親族があっても申立てを行う意思がない場合は、市町村長申立てにつなげるなどしています。また、高齢者への虐待事例を把握した場合は情報の収集等を行って状況把握をしたうえで、緊急性が高い場合には養護者との分離を行ったり、養護者や家族の状況に応じた支援を行ったりします。

(4) 包括的・継続的ケアマネジメント業務(介護保険法第115条の45第2項第3号)

包括的・継続的ケアマネジメント支援業務は、地域の高齢者が住み慣れた地域で暮らすことができるよう、ケアマネージャーが個々の高齢者の状況や変化に応じた包括的・継続的なケアマネジメントを実現することができるように指導や支援を行うものです。

具体的には、地域のケアマネージャーに対する個別の相談窓口を設置する、ケアマネージャーの日常的業務の実施に関しケアプランの作成技術の指導等を行う、ケアマネージャーが抱える支援困難事例について、関係機関との連携のもとで具体的な支援方針を検討し、指導助言等を行うといった業務を行っています。

また、施設・在宅を通じた地域における包括的・継続的なケアを実施するため、医療機関を含めた関係機関との連携体制を構築し、地域のケアマネージャーと関係機関の間の連携を支援するといった業務も行っています。

(5) その他

上記(1)~(4)のほか、地域包括支援センターの業務として、在宅医療・介護連携の推進(介護保険法第115条の45第2項第4号) 2 、生活支援・介護予防サービスの体制整備(介護保険法第115条の45第2項第5号) 3 、認知症施策の推進(介護保険法第115条の45第2項第6号) 4 、などもあります。

3 福岡県内における地域包括支援センター

(1) 地域包括支援センターは、市町村の人口規模、業務量、運営財源や専門職の人材確保の状況、地域における保健福祉圏域(生活圏域)との整合性に配慮して、最も効果的・効率的に業務が行えるように、市町村の判断により担当圏域が設定されることとなっています。

(2) 福岡県には、平成27年11月1日現在、173カ所の地域包括支援センターが設置されています。

1 平成26年6月18日に「地域における医療及び介護の総合的な確保を推進するための関係法律の整備等に関する法律」(以下、「医療介護総合確保推進法」という。)が成立し、同月25日に公布された。これにより介護保険法が一部改正された。

この改正により、従来の介護予防給付によるサービスうち介護予防訪問介護と介護予防通所介護については介護予防・日常生活支援総合事業(以下、「総合事業」という。)へ移行されることとなり、平成29年度までに全ての市町村で実施されることとなった。

従来の介護予防給付によるサービスのうち、訪問介護・通所介護以外のサービスについては、引き続き介護予防給付によるサービスの提供が継続される。

また、総合事業のみを利用する場合については、要介護認定等を省略し、チェックリストにより「介護予防・生活支援サービス事業対象者」に該当すれば、サービスを利用することが可能となった。

2 医療介護総合確保推進法による介護保険法の改正により、平成30年度までに全ての市町村で実施されることとなった。

3 同上

4 同上

2016年4月 1日

ITコラム 3分で解るかもしれないツイッター

会員 渡邉 陽(64期)

1 はじめに

2年ほど前に、「弁護士とソーシャルメディアについて」というタイトルで拙いコラムを書かせていただいたのですが、ITに関する知識は当時から特に増えておらず、ローテクノロジーな毎日を過ごしています。そんな中で、利用歴がついに6年を超え、今も何かと話題なツイッターについて、利用されたことのない方でもふんわりしたイメージを持っていただけるような、使い方の基本をお伝えしてみようと思います。本などで調べたわけではなく使い方も自己流ですので、誤っている点などありましたらご指摘いただければ幸いです。

2 呟く

登録をすると、アカウントをもらえます。そのアカウント名で「呟く(ツイートする)」ことが基本になります。原則的には140字以内で、何でも好きなことを呟くことができます。呟きには写真を添付することもできます。この呟きは、非公開の設定にしない限り、全世界に公開されます。

3 他の人の呟きを読む

他の人のアカウントを「フォロー」することによって、その人の「呟き」を読むことができます。「フォロー」をすると、フォローしたアカウントのリアルタイムの「呟き」が、自分のホーム画面に縦に並んでいきます。これを「タイムライン」といいます。また、自分のアカウントが「フォロー」されることにより、自分の「呟き」が他の人のタイムラインに流れることになります。

この「フォロー」をするときは、非公開アカウント(「鍵アカウント」などとも言われます)や特殊なアカウント以外、特に挨拶なども必要ありません。面白いことを呟いている人や、興味がある仕事をしていそうな人、芸能人やニュースアカウント、企業や団体の公式アカウントなど、いろいろとフォローしてみると、タイムラインが賑やかになります。私は300人くらいしかフォローしていませんが、もっと増やしてもいいかなと思っています。

4 交流する

「返信(リプライ)」で、特定のアカウントの呟きに対して反応を返すことができます。このやりとりは、やりとりをしている双方のアカウントをフォローしている人のタイムラインにそのまま流れますが、片方しかフォローしていない場合にはタイムラインに流れません。しかしその場合でも、その人のアカウントを見ればその人の呟きを全て読むことができるので、特定の誰かに対する返信であっても、全て公開されていることに変わりはありません。

また、「RT(リツイート)」という機能もあります。ある人の面白い呟き、興味深い呟きを他の人にも知らせたいときにRTをすると、自分をフォローしている人のタイムラインにその呟きが流れます。

5 終わりに

ツイッターの面白さは、簡単に情報発信ができる点と、世の中の人(といっても、「ツイッターを使っている人」に限られますが)の様々な考えをリアルタイムで知ることができる点にあると思います。

一方で、「全世界に発信されていること」を忘れて大変なことになっている人を見たり、デマが広がっていくのを目の当たりにしたりすることもあり、自分が発信する情報の中身や、流れてくる情報の信頼性についてはしっかり吟味して利用しなければならないとも思います。

私自身は弁護士であることを伏せてツイッターを利用しており、趣味が共通する人や子育て中の人などを好んでフォローしていますが、なるべくタイムラインの話題が偏らないように、ニュースなどの情報系アカウントや面白アカウント、公式アカウントなどもフォローして、楽しく利用しています。

この記事を読んで、少しでも興味を持っていただければ嬉しいです。

あさかぜ基金だより ~あさかぜQ&A~

弁護士法人あさかぜ基金法律事務所 弁護士 河野 哲志(67期)

Q.あさかぜって?

A.あさかぜ基金法律事務所は、九州弁護士会連合会が、九州内の弁護士過疎地域に赴任する弁護士を養成するために基金を作り、平成20年9月、その基金から資金を拠出し設立した都市型公設事務所です。同様の都市型公設事務所としては、北海道のすずらん基金法律事務所、東北のやまびこ基金法律事務所などがあります。

あさかぜという名称は、鉄道に造詣の深い斉藤芳朗・福岡県弁護士会前会長のアイデアで、九州を走っていた寝台特急あさかぜから名付けられたそうです。

Q.どこに行くか決まっているの?

A.九州内の弁護士過疎地域という条件以外は決まっていません。選択肢としては、(1)ひまわり基金法律事務所、(2)法テラス4号事務所、(3)日弁連偏在対応弁護士等経済的支援を受けての独立開業などがあります。

今までに15名の弁護士が、九州内の弁護士過疎地に赴任しています。

Q.ひまわりや法テラスとは違うの?

A.ひまわり基金法律事務所は、日弁連・各弁護士会が協力して設置を支援する過疎地型公設事務所です。法テラス4号事務所は、総合支援法30条1項4号にもとづき、国が設置しています。

いずれも、あさかぜからの赴任先の候補になりますが、それぞれ別組織です。

Q.どのくらい福岡にいるの?

A.大体2年くらいです。

それぞれの弁護士があさかぜで養成を受ける期間は、赴任するタイミングなどによって、変わってきます。ただし、最長でも3年以内と定められています。

Q.いま事務所に何人いるの?

A.現在、所員5名(66期1名、67期2名、68期2名)と事務局2名が所属しています。

Q.誰から指導を受けるの?

A.あさかぜは、委員会方式という運営方式を採っており、所長はいません。

各所員には、福岡県弁護士会所属の指導担当弁護士3名がそれぞれ選任されていて、共同受任などを通じて指導を受けます。そのほかにも、福岡県弁護士会の執行部経験者を中心にしたあさかぜ応援団や九弁連管内の弁護士との共同受任や事件紹介を通じて経験を積んでいます。

事務所経営に関しては、基金管理委員会と事務所運営委員会から指導・助言を受けています。月1回の割合で、事務所のメンバーのほか、運営委員会委員長や担当副会長も参加し、会議を開いています。ここでは、キャッシュフローデータに基づき、収入・支出の流れの把握に努め、経営ノウハウ等についてもアドバイスを受け、赴任地で事務所経営を行えるよう経験を積んでいます。

また、委員会活動や各種研修にも積極的に参加するようにしています。

Q.どんな事件が多いの?

A.共同受任している事件はバラエティに富んでいます。弁護士過疎地での赴任を見据え、たくさんの種類の事件を経験できるのはありがたいことです。たとえば、破産管財人や後見人には、弁護士過疎地への赴任直後から選任される可能性があるからです。

単独で受任する事件では、刑事、債務整理、離婚などが多い印象です。

Q.赴任したらずっと司法過疎地にいるの?

A.弁護士過疎地に赴任した後の選択肢は弁護士それぞれの自由です。

ひまわり基金法律事務所の任期は2~3年(延長可能)となっていて、選択肢としては、その地で自分の事務所として定着したり、別の弁護士に引き継いで独立したりすることが考えられます。

定着できるかどうかについては、単純に経営上の問題だけではなく、生活圏が限られ人間関係が密接になるとともに、事件処理数が増える毎に事件関係者・利益相反関係が増えてしまうといった難しい問題があったりします。

任期終了後、九州各地で独立開業することも多く、指導担当弁護士に誘われてその弁護士の事務所に入所したケースもあります。

あさかぜは、九州、福岡の皆さまに、支えられています。他にご質問があれば、是非お問い合わせください。今後とも、あさかぜへの温かいご支援、ご協力をよろしくお願いいたします。

2016年3月 1日

あさかぜ基金だより ~新入所員のご挨拶~

弁護士法人あさかぜ基金法律事務所 弁護士 若 林 毅(68期)

京都生まれ京都育ち

この2月にあさかぜ基金法律事務所に入所しました、所員弁護士の若林毅と申します。

私は、京都生まれの京都育ちであり、大津での修習まで関西で過ごしました。京都という土地柄、歴史や名所めぐりは好きですが、決して「いけず」な性格ではありません。

このたび、縁あって、福岡の地で弁護士としての第一歩を踏み出すことになりました。

信用金庫時代

私は、関西の大学を卒業したあと地元京都の信用金庫に勤めていました。

信用金庫では、融資係や渉外係(いわゆる外回り)の職務を経験しました。地域密着型の金融機関である信用金庫の仕事は、顧客との距離感も近く意義深いものがありました。とりわけ、外回りの仕事は、雨の日も風の日も雪の日も、スーパーカブに乗ってお客様のもとへ馳せ参じる過酷なものでしたが、たびたび訪問する中で、次第に信頼関係が生まれ、人と人とのつきあいが感じられる仕事でした。

しかしながら、そうした仕事をする中で、やりがいを感じつつも、一方で、お金を扱ううえでジレンマの多い仕事でもあり、このままこの仕事を続けていいものか思い悩みはじめていました。

そこで、若気の至りもあって一念発起し、信用金庫を辞め、一路、四国八十八カ所の霊場を歩いてめぐるお遍路の旅に出ました。なお、退職金は金融機関らしく、小切手で手渡されました。

歩き遍路

歩き遍路は、信用金庫で外回りをしていたときと同様に、雨の日も台風の日も歩き続ける過酷なものでした。日も暮れて真っ暗な山間の集落で野良犬に追いかけられたり、バス停の待合室で野宿したりもしました。

しかしながら、いま振り返ってみると、道中、さまざまな悩みや問題を抱えた多くの老若男女の人々と出会うこととなった、人生の分岐点となる旅でした。帰るところがなく、何年も霊場をまわっている人、親族と仲たがいして法事に出ずにお遍路をしている人など、人の数だけ遍路をする理由がそこにはありました。また、そんな歩き遍路を食事などでもてなし、「お接待」してくださる地元の方々の温かいご支援に何度も助けられました。

そういったいろいろな出会いを通じて、私は、次第に悩みごとやトラブルを抱えた人たちの問題を解決し、人生の再スタートをする手助けをしたいと思うようになりました。そして、40日間1200キロの旅を終えるころには、弁護士を目ざす決意が固まっていました。

あさかぜとの出会い

司法試験の勉強を進めるなかで、日本の中にも司法サービスが行き届いていない地域があることを知り、実際にも法的問題をかかえた親族が住んでいた地域に弁護士がおらず問題の解決に苦労した経験から、弁護士過疎・偏在問題に興味を持つようになりました。そして、弁護士過疎地域に赴任する弁護士を養成する事務所である、あさかぜ基金法律事務所の存在を知り、経験豊富な先輩弁護士と一緒に事件をたくさん担当でき、弁護士として大きく飛躍ができる環境にあると思い、入所させていただくことになりました。

おわりに

九州には旅行で訪れたことがあるくらいで、縁があまりないと思っていたのですが、大津での弁護修習先の弁護士と旧知の人にお会いしたり、所員の河野弁護士(67期)と共通の知人がいたり、大学時代の友人が単身赴任で福岡に来ていたり、縁は異なもの、不思議なものということを実感しています。

あさかぜ基金法律事務所へ入所することになったのも一つの縁です。

ここから、福岡そして九州の弁護士過疎地域へと一つ一つの縁を紡いで、研鑽を深めていきたいと考えています。今後とも、なにとぞよろしくご指導お願いします。

金沢での犯罪被害者支援 全国経験交流集会に参加して

会 員 小 谷 百 合 香(64期)

去る1月29日、金沢市で日弁連が主催する第17回犯罪被害者支援経験者交流集会が開催されました。幸運なことに私は福岡県弁護士会(当会)から参加でき、大変有益な機会に恵まれましたので、ご報告します。

まず、金沢弁護士会の出口勲弁護士から、犯罪被害者支援に関連する法律の概略が説明されました。もう何度も研修に参加し、すべて知っておくべきところですが、恥ずかしながら出口弁護士から「刑事和解」(犯罪被害者保護法19条)と言われて初めて制度を知り、説明に聞き入りました。

次に、基調講演として、外国人の被害者を支援した弁護士から、支援経験(3例)をもとにした講演がありました。ここでは、そのうちの一例を紹介します。

鹿島啓一弁護士(金沢弁護士会)と金紀彦弁護士(第二東京弁護士会)から、韓国人の被害者遺族への支援をした経験の報告がありました。弁護士5人で担当し(!)、一生懸命やったので、一部認定落ち(殺人で起訴、傷害致死を認定)したが、遺族からは感謝された(今でも感謝されている)、弁護士費用を日弁連委託援助事業でまかなった(2名分)、韓国の弁護士協会からも通訳費用を出してもらったなど、実務に役立つ経験が紹介されました。また、証人申請に関して、検察官へは依命通達を引用して説得したとのことで、手厚い支援に感嘆しました。

基調講演のあとは、パネルディスカッションがありました。そのなかで、京都府警の小島俊彦氏から、ビザの関係で日本での滞在期間は短いことが多いので、要領よく支援をしてほしい、公的機関からの給付金を弁護士が受け取れるように手配してほしいなど、警察側から見た実務的な要望が出されました。また、京都府警に所属し、韓国語の通訳人であった李守陳氏から、外国の法制度も知って活動してほしい要望も出されました。外国語の一つもままならない私には、耳の痛い話でした。

これら外国事件特有の困難さはあるにせよ、吉田正穂弁護士(横浜弁護士会)からは、外国人だから本質的に何か異なるということはないとの言葉が私にとっては大変印象的でした。たしかに、言語や滞在期間、連絡手段の問題など、外国の事件特有の困難さがあり、それを乗りこえる必要はあります。しかし、金弁護士も繰り返し述べていましたが、被害者(遺族)の親身になって支援をすることが何より求められているのです。被害者(遺族)が今、何を求めているか、それを探求し、充足することが被害者の国籍を問わず、支援弁護士に求められていることだと痛感しました。

被害者支援は、法廷準備だけではありません。被害届・告訴状の提出、犯給金の申請、マスコミ対応、なにより被害者(遺族)との日々の連絡など、法廷準備以外の活動もたくさんあります。それらを被害者の意に沿いつつ、弁護士としてできる仕事を一つずつクリアしていくことが求められているし、弁護士の仕事のやりがいでもあると感じました。

懇親会には2歳の息子と一緒に参加しました。子連れは私だけでしたが、金沢弁護士会の寺田玲子弁護士(元当会会員。61期)が席の配置など手際よく準備して、皆さまから温かく迎えていただきました。息子ともども、とても楽しく温かい時間を過ごすことができました。

また、金沢の美味しいお酒もたくさん準備されていて、思い思いに手持ちの被害者支援事件の話をしたり、大盛況でした。私の隣に座った平瀬義嗣弁護士(大阪弁護士会所属)は、お酒のおかわりに行ったところ、1滴も残っていない・・・と嘆いていたほど、飛ぶようにお酒は売れてしまいました。

金沢は、北陸新幹線が開通して大変盛り上がっています。街全体が美しいことに感激し、息子は名残り雪にはしゃいでいました。そのような場所で、弁護士として、また人として成長できる貴重な機会に恵まれたことに感謝し、今後の仕事や当会のために役立てていきたいと思います。

中小企業法律支援センターだより わたしが起業?!夢をカタチにする秘訣、教えます! 『女性新ビジネス応援セミナー』

中小企業法律支援センター委員 芳 賀 由 紀 子(63期)

平成28年1月19日(火)午後5時から、福岡市中央区天神のアクロス福岡円形ホールにおいて、福岡県弁護士会、日本弁護士連合会及び日本政策投資銀行主催、九州弁護士連合会共催の「女性新ビジネス応援セミナー」が開催されましたので、ご報告いたします。

1 はじめに

昨年度、日弁連が日本政策投資銀行(以下「DBJ」といいます。)との共催で「女性起業家のためのリーガル実践講座」を開催したところ、好評を得たことから、DBJより、東京だけでなく地方でも女性企業家のためのイベントを開催できないかとの提案がありました。

女性の新たな視点によるビジネスが日本の新たな市場の創出と社会変革の原動力として求められている中、弁護士会が女性起業家を法的側面から応援する意義は大きく、また、福岡の地において女性起業家のためのイベントを開催することは、中小企業法律支援センターを設置して地域の経済発展を支える中小企業を法的にサポートする当会の活動にも合致することから、今回のセミナー実現に至ったものです。

はじめに、当会の徳永響副会長より開会の挨拶を行い、その後基調講演へと進みました。

2 女性起業家による基調講演
(1) 株式会社BBStoneデザイン心理学研究所
  代表取締役 日比野好恵さん

最初にお話しいただいたのは、日比野社長です。日比野社長は、福岡県直方市のご出身とのことで、福岡にゆかりのある方の講演に参加者も興味深く耳を傾けていました。

日比野社長は、外資系企業勤務を経て起業し、「技術の進歩が弱者を置き去りにしてはいないか」との思いから、株式会社BBStoneデザイン心理学研究所を設立したとのことでした。デザイン心理学という言葉は、私も今回初めて耳にしたのですが、今まで主観的でしかなかったデザインの見やすさ、安全性、使いやすさ、印象などを、心理学・工学の視点から客観的に評価・測定する日本初の技術だそうです。

日比野社長は、「薬剤の取り違え」に心を痛め、医療事故をなくすという社会問題への取り組みからスタートし、デザイン心理学という観点から、今までにない様々なチャレンジを大企業とともに実践されており、大変興味深かったです。誰もが使いやすく、見やすく、間違いを起こしにくく、しかも心地よいデザインという観点から、銀行で隣の人の相談の声を聞こえにくくするという「音と光のパーティション(特許出願中)」を取り入れた話や、ダイキンと共同開発した一目でわかるリモコンの話は、デザイン心理学という通常とは異なる観点から鋭く切り込んだからこそ生まれた製品等が具体的にイメージでき、よく分かりました。そして、「人は見ているようで実は見ていない」「第一印象がすべてを決める」「言葉で語れない部分を数値化する」という話など、はっとさせられるエピソードがいろいろとありました。

日比野社長のビジネスは、千葉大学工学部初のベンチャーとして認定され、千葉大学工学部デザイン心理学研究室が発信する日本初の技術として、大学の研究を世の中に還元し、ビジネスとして息を吹き込むという新たなローモデルとなっているそうです。

(2) 株式会社アトラステクノサービス
  代表取締役 鯛かおるさん

次にお話しいただいたのは、鯛社長です。鯛社長は、短大を卒業後、入社した会社がバブル崩壊、阪神淡路大震災で経営危機に陥り、借金取りの電話対応に四苦八苦するなど大変な経験をされながら、会社の濾過(ろか)装置技術を残したいという強い想いから、一社員でありながらEBOで経営権を取得し、1997年に起業・創業するというパワフルな経歴の持ち主です。

技術開発を得意とする濾過(ろか)装置メーカーとして、その開発・製造で培った経験やノウハウをはじめ、先進のテクノロジーを生かした製品を提供し続けることで、地球環境の未来に明るいビジョンを描くという理念のもと、国内外の食品業界や機械工業会での品質向上に貢献する事業を行うと同時に、真空フライ技術と、栄養士、フードコーディネーター、認定農家等の食のスキルを融合させ、特産加工品の商品開発、加工技術の教育事業も行うなど幅広く活動されている話に参加者も非常に刺激を受けていました。

現在、九州地方限定で発売されている東洋水産の「マルちゃん バリうまごぼう天うどん」のごぼう天は株式会社アトラステクノサービスの真空フライヤー技術を使ったものだとのことです。また、現在、福岡県糸島市の食材を使った新しい試みを地元の会社と一緒にチャレンジしているそうです。

講演では、成功談だけではなく、様々な課題に直面したとき、どのような心持ちで、どのような視点や工夫で乗り越えたのか赤裸々にお話しいただき、数々の危機を乗り越えて、現在の鯛様のご活躍があるという現実は、参加者にとって心強いエールとなったようでした。

また、法律的な問題が発生するということは真の企業に育っている証拠であり、契約が重要であるという点を失敗談とともにお話しいただき、私ども弁護士の思いを代弁していただけたことは、ありがたいことでした。

3 「DBJ女性新ビジネスプランコンペティション」のご案内(日本政策投資銀行)

DBJから、「第5回女性新ビジネスプランコンペティション」の概要説明がありました。

DBJでは、革新性や事業性に優れ、発展可能性の高い新ビジネス(開始5年以内である事業(第二創業を含む))を対象に、女性新ビジネスプランコンペティションを実施し、受賞者には、最大1000万円の事業奨励金を支給するとともに、外部の起業経験者や各種知見を有する方々と連携したサポート体制により、起業ノウハウのアドバイス等、計画実施のための事後支援が受けられるということでした。非常に魅力的なコンペティションに参加者も興味津々でした。

4 弁護士によるお役立ちセミナー(平田えり先生)

最後に、中小企業法律支援センター事務局次長の平田えり会員に「これだけは押さえておきたい!~スタートアップの法務と実務~」というテーマでお話しいただきました。

まず、資本政策という観点から、「仲間と共同で法人設立した場合の株式はどうする?」という具体的な問いかけから、会社法のルールを簡単に説明してもらい、創業者のうち誰かが敵に回ってしまっても、リーダーが会社の重要事項を決定できるように、リーダーが最低でも51%、できれば67%以上の株式を保有しておくことが望ましい旨の説明がありました。

次に、ビジネスモデルの適法性の観点から、法規制に抵触しないか(適法性)、違法行為に利用されないか(適法利用性)、紛争が生じやすいモデルではないか(非紛争性)など、具体例を交えて分かりやすい説明がありました。

また、サービス・商品の名称という観点から、実際のトラブル事例を用いて、商標法や不正競争防止法の説明がありました。

次に、契約書作成のコツという観点から、契約書のイロハについて学びました。取引中及び取引停止時に発生するおそれのあるトラブルについて想像力を働かせて、契約の内容を見ることが大事であり、全員にとっていい契約書はなく、立場によって注意すべき点は異なるという説明に参加者も深くうなずいていました。

最後に、広告規制の観点から、とくに景品表示法を中心に、優良誤認表示、有利誤認表示、その他誤認されるおそれのある表示について、具体的な事例をもとに、広告していいこと、悪いことについて分かりやすい説明があり、参加者からも「広告についてよく分かった。」「こんなに注意するべきだったなんて知らなかった。」といった反響がありました。

平田会員の説明はとても分かりやすく、参加者も身近なところに法律問題があることがよく分かったようでした。弁護士は「敷居が高い」「怖そうだ」「お金がたくさんかかる」「私には必要ない」といったイメージを持たれがちですが、平田会員の親しみやすい人柄もあってか、交流会では「弁護士って話しやすくて安心しました。」との声をたくさんいただき、弁護士が、身近で頼りになる存在であることに気づいてもらえたようでした。

5 さいごに

セミナー当日は、福岡とは思えない空前の雪と強風という大きな壁が立ちはだかり、成功を祈って必死に準備を進めてきた私たちは奈落の底に突き落とされるほどの衝撃を受けました。ところが、ふたを開けてみると50名近くの参加者が、足もとの悪い中、意欲的に参加してくださり、セミナーは大盛況のうちに幕を閉じました。

これもセミナーの趣旨にご賛同いただき、周知活動にご協力いただいた関係機関・団体の皆様のおかげと心より感謝しています。

セミナーの参加者からは「新しい発見があった。」「独立起業に際して、こんなに沢山のバックアップ体制があるなんて知らなかった。」「もっと、知識を得たい。」「また、セミナーをやってほしい。」などのうれしい声をいただきました。

社会では、弁護士による法的支援が十分に行き渡らず、リスク管理が不十分であるがゆえにトラブルに巻き込まれる中小企業があとを絶ちません。中小企業法律支援センターでは、中小企業経営者に、弁護士をもっと身近に感じ、気軽に相談してもらえるきっかけになるようなセミナーを今後も継続して企画・開催していきたいと考えています。

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