福岡県弁護士会コラム(会内広報誌「月報」より)

月報記事

知的財産権に関する連続講義【第二弾】 「実用品に関する著作権侵害訴訟の組立て」 ~第2回 証拠の作成・整理・提出方法~

弁護士 鬼束 雅裕(67期)

1 はじめに

中小企業法律支援センターは、会員の皆様に中小企業の相談を受ける際に役立つ知識・情報を提供するため研修会を企画・実行しています。

今回は、昨年12月22日に行われた知的財産権に関する連続講義「実用品に関する著作権侵害訴訟の組立て」の第二弾として、前回に引き続き、九州大学大学院法学研究院教授・寺本振透先生をお迎えし、著作権法について特に中規模・小規模の株式会社でも理解しておかねばらない著作権侵害訴訟の組立て方につきお話しいただきましたので、ご報告いたします。

講師の寺本先生は、東京の大手事務所のパートナー弁護士として多くの知的財産権案件に関与され、その後は東京大学法学政治学研究科教授として、そして現在は九州大学大学院法学研究院教授として知的財産権に関する研究をされております。

本連続講義においては、おそらく福岡県弁護士会初の試みだと思いますが、寺本先生の発案で、クリエイティブサーベイシステム(webを利用したアンケートコミュニケーションツール)を利用して、リアルタイムで受講者の回答を集約・データ化し、その結果を踏まえての講義を行うという取り組みがなされました。

2 本講義の概要

本講義では、「Tripp Trapp」という幼児用椅子について著作権侵害の有無が争われた知財高裁裁判例(「Tripp Trapp事件」。平成27年4月14日判決)を題材に、著作権侵害訴訟において、原告側として、どのような点に注意しながら証拠の作成・整理・提出を行い、攻撃・防御を組み立てていくかについてご説明いただきました。

本講義において、寺本先生は、著作権訴訟における原告側がおこなうべき作業手順を一つの「型」として示されたわけですが、その前提として、ふだん、ほとんど無意識にしている作業を、あえて「型」として示すことにより、同じ水準の作業を繰り返すことができるようになるという説明がなされました。

3 著作権訴訟における原告側がおこなうべき作業手順
(1) 戦場の設定

まずは、請求原因事実に対し、被告がどのような認否を行ってくるのかを予想することにより戦場となるのはどこであるかを確認する作業から始めます。

前回の講義でもご説明いただいたのですが、著作権の分野では請求原因事実そのものの存否が争点になるのではなく、請求原因事実の存在自体は認められるが、それが要件事実を充たすものといえるかという点が争点になることが多いということから、否認の中でも請求原因事実が存在しないという単純な否認と、請求原因事実の存在自体は認めるが要件事実を充たすものではないという面倒な否認とに分けて整理する必要があるとのことでした。

(2) 各戦場での作業手順

上記で確認された戦場において、原告としては、以下の手順で作業をしていく必要があるとの説明がなされました。

① 請求原因事実を書いてみる

著作物性に関する請求原因事実であれば、Tripp Trappの原デザインを特定するように、「昭和47年頃、ピーター・オプスヴィックが、別紙記載の製品をデザインした。」といったものになります。

② 請求原因事実が要件事実に対応することを説明する

著作物性の要件事実は抽象的なものが多く、そのため請求原因事実が要件事実を充たすことを説明しなければなりません。たとえば、Tripp Trappが「美術の著作物」(著作権法2条2項、10条1項4号)に該当することを説明するために、「Tripp Trappの原デザインの全体的な形状は、一見して驚くべきシンプルさで見る者の芸術的感性に訴えかけてくるものであり、日本を含む各国で数々のデザイン賞を受賞するなど、一定の美的感覚を備えた一般人を基準として純粋美術と同視し得る程度の美的創作性を備えている。」といった説明を行うことになります。

③ 抽象的な説明しかできないこと、だから、説明に説得力がないこと、を認識する。

上記「美術の著作物」該当性の説明からも、著作物性に関する請求原因事実が要件事実に該当するとの説明を行うのは難しいことが確認できます。

④ しかたがないので、「否定を否定する」戦術を採用する。

そこで、発想を転換し、Tripp Trappの原デザインが「美術の範囲」に該当することを説明するのではなく、被告が主張すると予想されるTripp Trappの原デザインは「美術の範囲外」との主張は認められないということを説明することにより、Tripp Trappの原デザインが「美術の範囲」に該当することを説得力のあるかたちで説明する戦術を採用します。

⑤ 被告の「否認の理由」を具体的に想像する。

そうすると、原告の仕事は、原告の請求原因事実が要件事実を充たさないことに関する被告の「否認の理由」の説得力のなさを説明することになり、そのため、被告の「否認の理由」を具体的に想像することとなります。たとえば、「美術」該当性に関する被告の否認の理由としては、原告によるTripp Trappの原デザインの定義付けは間違いであるとの理由と、原告による「美術の範囲」の定義付けは間違いであるとの理由の2つが考えられますが、前者については争いようがありませんので、後者を理由に否認してくるものと考えられます。

⑥ 「否認の理由」のうち、論理構造が脆弱な箇所を特定する。

上記の例でいうと、被告は「美術の範囲」について狭い定義を与える作業を行ってくることが予想され、その場合の手順としては、

  • 著作権法で美術の定義を探して、これを利用する(可能ならⅱおよびⅲで補強)。
  • (ⅰに失敗したら、ⅰの結果を否定しつつ)美術の範囲を説明した裁判例を探して、これを利用する。
  • (ⅰおよびⅱに失敗したら、ⅰおよびⅱの結果を否定しつつ)著作権法で、「美術の範囲」の説明(例示など)を探して、これを利用する。
  • (ⅰ、ⅱおよびⅲに失敗したら、ⅰ、ⅱおよびⅲの結果を否定しつつ)立法時の考え方に頼ることを考える。
  • (ⅰ、ⅱ、ⅲおよびⅳに失敗したら、ⅰ、ⅱ、ⅲおよびⅳの結果を否定しつつ)独自の定義を打ち出す。

という手順を踏むものと考えられる。もっとも、ⅰ、ⅱ、ⅲにより通常決着はつくので、ⅰ~ⅲについて検討する。

「美術の範囲」に関しては、著作権法に定義はなく(ⅰ)、裁判例は狭く説明したものと柔軟に考えたものがある(ⅱ)。「美術の範囲」に関しては、著作権法2条2項において、「美術工芸品を含む」とされている(ⅲ)。

以上の手順を踏まえると、被告は、「(ア)著作権法に『美術の範囲』に関する定義はない。(イ)そのため、『美術の範囲は』社会通念どおりとなるのが原則である。(ウ)一般的な、ふつうに教養ある常識人は、Tripp Trappのようなインダストリアル・デザインを『美術』とは扱わない。(エ)よって、Tripp Trappは「美術の範囲」には入らない」との主張をしてくることが予想される。

上記論理のうち、(ウ)は、「・・・はない」という構造の命題。そうすると、「有る」例を示せば、「・・・はない」という命題は突き崩せる。なので、(ウ)が脆弱。

⑦ 脆弱な箇所を撃破する戦術を準備する。戦術に従って、証拠を用意する。

上記でいうと、原告としては、(ウ)を衝く証拠を準備し、提出することとなる。例えば、有名な美術館でTripp Trappが展示されていることを証拠として提出する。

(3) 著作権侵害訴訟の難しさ

上記作業手順を戦場ごとに行っていくことをTripp Trapp事件を基に詳しく説明いただいたのですが、Tripp Trapp事件においては、「著作物性」が認められるか否かの戦場では原告に有利に働いていたTripp Trappの特徴を際立たせるための証拠が、著作権の「侵害」が認められるか否かの戦場では原告に不利に働いてしまった(被告製品はTripp Trappのような特徴を持たない)とのことであり、著作権侵害訴訟の難しさを認識させていただきました。もっとも、依頼者にとって、著作物性が認められたうえでの敗訴と著作物性自体が否定されたうえでの敗訴では全く異なることから、「侵害」が否定されることを恐れて「著作物性」の戦場で証拠の出し惜しみをしないように注意しなければならないとの説明をされておられました。

4 おわりに

本講義はTripp Trapp事件という著作権侵害訴訟を題材に行われたものですが、行われた説明内容は、著作権侵害訴訟はもちろんのこと、一般の民事訴訟においても、十分活用できるものとなっており、大変勉強になりました。

「養育費・婚姻費用の新しい簡易な算定方式・算定表の活用」研修会のご報告

両性の平等に関する委員会 糸瀬 真理(65期)

1 はじめに

平成29年2月4日、大手門パインビル2階会議室に於いて、日弁連両性の平等に関する委員会副委員長である竹下博將先生(以下、「竹下先生」といいます。)をお招きし、「養育費・婚姻費用の新しい簡易な算定方式・算定表の活用」についての研修会が開催されましたので、ご報告させていただきます。

2 日弁連による提言の経緯

実務においては、平成15年3月に東京・大阪養育費等研究会により提案された算定方式(以下、「現算定方式」といいます。)及び算定表(以下、「現算定表」といいます。)が定着している状況です。しかし、現算定方式・現算定表は、その利便性ゆえに、定着過程において、詳細な検証もなく、無批判に受け入れられてきたという問題があります。また、統計資料の更新もされていません。竹下先生によれば、現算定方式・現算定表は、算定のモデルが示されていないため、そもそも検証不可能とのことです。日弁連は、平成24年3月15日付の「『養育費・婚姻費用の簡易算定方式・簡易算定表』に対する意見書」において、現算定方式・現算定表の問題点を指摘しています。そして、この意見書を具体化したものが、平成28年11月15日付で日弁連が取りまとめた「養育費・婚姻費用の新しい簡易な算定方式・算定表に関する提言」です。

3 新しい簡易な算定方式による現算定方式の修正

新しい簡易な算定方式(以下、「新算定方式」といいます。)による現算定方式の修正点の概要は以下のとおりです。

(1) 基礎収入算定のために総収入から控除される経費等

ア 公租公課

現算定方式は理論値を用いていますが、新算定方式においては、実額又は最新の理論値を用いることとしています。

イ 職業費

現算定方式では、家計調査年報の数値(更新されていない数値)が用いられていますが、家計調査年報に記載されているのは世帯の支出額であるため、職業費に含まれる項目は、有業人員のための支出額ではなく世帯の支出額で算出されているものがほとんどです。新算定方式では、最新の家計調査年報の数値を用いるとともに、全項目について有業人員のための支出額のみを職業費としています。

ウ 特別経費

現算定方式では、住居関係費、保健医療及び保険掛金について、特別経費として総収入から控除されていますが、新算定方式では、住居関係費、保健医療及び保険掛金について特別経費として控除することはしていません。

(2) 生活費指数

現算定方式では、生活費指数について生活保護基準を用いていますが、生活扶助居宅第2類(光熱費や家具什器購入費など)の世帯全体で算出される項目について、親1人世帯の場合と親子1人ずつの世帯の場合との差額をもって子の生活費の金額を算定しています。また、子どもの生活指数区分は、0~14歳と15~19歳の2区分しかありません。新算定方式では、居宅第2類については、世帯員数で頭割りして各世帯員の金額を算出し、子どもの生活指数区分も、0~5歳、6~11歳、12~14歳、15~19歳の4区分としました。

4 新たな算定表

新算定方式に基づき、新たな算定表(以下、「新算定表」といいます。)も作成されました。子どもの人数については、現算定表と同様に0~3人です。また、子どもの生活指数区分は、頁数の関係で新算定方式とは異なり、0~5歳、6~14歳、15~19歳の3区分です。

竹下先生からは、新算定表の見方等についてもご説明いただきました。新算定表の枠外には、【統計資料を更新した現算定表】に基づく算定金額が記載されています。今後は、調停や審判の場において、新算定方式・新算定表を用いることを裁判所に対して明示していく必要がありますが、それが採用されるまでには難航も予想されるところです。これに対して、【統計資料を更新した現算定表】に基づく算定金額については、現算定表のデータを新しくしただけの数値なので、裁判所の理解も比較的得やすいと思われることから、こちらについても積極的に活用したほうが良いとのことです。

また、新算定方式・新算定表を実務において定着させるには、まずは世間一般に広く普及させることが有効であるとのことで、関係各所に新算定表を備え置くほか、ブログやSNSなどを利用して広報していって欲しいとのことでした。

5 所感

私は今回の研修を受けるまで、現算定方式・現算定表について深く考えてみたことがありませんでした。しかし、今回の研修で、現算定方式・現算定表には、総収入から控除される職業費の中に、有業人員のための支出ではなく世帯のための支出額が多く含まれていることや、職業費の中に含まれている「こづかい」という項目は、家計調査年報における定義が不明であることなどを知って大変驚きました。その結果、収入に占める職業費の割合が、不必要に大きくなっていました。その他にも現算定方式・現算定表には様々な問題点が含まれていることを知り、これまで特に疑問を持つこともなく利用していたことを反省しました。

6 最後に

新算定方式・新算定表は、単に権利者が得られる養育費や婚姻費用を増額させるためのものではなく、生活保持義務に基づいた適正妥当な金額を算定するためのものです。実際、権利者の生活費指数については、現算定方式・現算定表では常に100であったのに対し、新算定方式・新算定表では、養育する子の数に応じ、69、57、47、41と変動することになり、必ずしも権利者に有利になるように算定されているわけではありません。

提言には別紙がついており、別紙に新算定方式の概要や現算定方式との比較が分かり易くまとめてあります。また、新算定方式・新算定表を用いた場合の算出具体例も記載されています。今回の研修に参加されていない会員の皆さまも、提言をご一読いただき、今後は新算定方式・新算定表を積極的に活用していただくことをお勧めいたします。

2017年2月 1日

「転ばぬ先の杖」(第29回) ADRという手続をご存知ですか?

会員 壇 一也(57期)

1 みなさんは、トラブルが発生したときにどうされるでしょうか。

まずは、相手と話し合ってみるのが一般的だと思います。しかし、それでも解決しないときは、弁護士に相談されるのが一番かもしれません。

ところが、弁護士に相談しても勝ち目がないとのアドバイスを受けることも、もちろんあると思います。

私たち弁護士としても、決して安いとは言えない費用をいただいて事件の処理をする以上、安請け合いをするわけにはいきません。弁護士が介入しても相談者の方の希望を叶えることが難しい場合は、私たち弁護士は、はっきりとそのように説明しなければなりません。

しかし、それでも納得できない・・・ということもあると思います。

今回は、そのような相談者の方について、私が弁護士としてどのように対応し、その方がどうすることを選択し、そしてその結果どうなったのかについて概括的にお話ししたいと思います。

2 事案の内容

あることが原因で、ご主人が精神的に不安定になられました。主に経済面での不安を訴えられるようになりました。ご主人は、実のお母さんに相談した結果、お金を貸してもらえることになりました。ただ、条件として生命保険の受取人を奥様から、ご自身(ご主人のお母さん)に変更して、担保とすることを求められました。奥様は、その必要はないとご主人に伝えましたが、ご主人の不安は続いたため、やむを得ずご主人に任せることにしました。それからしばらくして、奥様宛に保険金の受取人がお母さんに変更になったとの通知が保険会社から届きました。それから間もなくしてご主人は自死されました。なお、ご主人は、結局、お母さんから借入れをしていませんでした。

そして、保険金は、そのままお母さんに支払われました。

3 相談の内容とアドバイス

これらの経緯から、奥さんは、お母さんに対して、受領された保険金の支払いを求めました。ところが、お母さんは、これに応じられることはありませんでした。

そのため、奥さんは、私のところに相談にいらっしゃいました。奥さんは、相談に来られた時点で、理屈ではお母さんに保険金を支払ってもらうことは難しいということは理解されていました。そのため、奥さんには半ば諦めざるを得ないとの気持ちであった一方で、やはり納得できないとの思いも強くお持ちでした。

このような奥さんの気持ちを踏まえて、私は、理屈では奥さんの希望を叶えることは難しいことを説明したうえで、「これ以上悪くなることはないことからダメ元で再度話し合いを求めてみてはどうですか。」と提案しました。これに対し、奥さんも「できることはやってみてダメだったら諦めます。」ということで再度話し合いを求めることにしました。

4 具体的な解決手段の選択

私は、理屈では難しい案件であることもあり、極力、かける費用も抑えられる方法を考えました。その結果、選択した方法が福岡県弁護士会の裁判外紛争解決手続(以下「ADR」といいます)です。

このADRとは、福岡県弁護士会所属の弁護士が間に立って双方の意見を聞いたうえで適切な紛争の解決を目指す制度です。

このADRを利用するためには、1万円(別途消費税)の申立手数料がかかるだけです(なお、仮に何らかの解決が得られた場合は、別途成立手数料がかかります)。そのため、万が一、お母さんが保険金を支払ってくれない場合であっても、奥さんが負担すべき費用は1万円だけで済ませることができます。

そして、実際にこのADRを利用して、お母さんと話し合った結果、こちらが求める金額の一部を支払ってもらえることで和解が成立しました。

5 最後に

このような解決を図ることができたのも、お母さんに奥さんの気持ちを理解していただけたことが大きかったと思います。そして、そこに至るまでには、ADRで弁護士の関与の元、十分な話し合いをできたことが大きかったと思います。

もちろん、全ての案件でこのような解決を図れる保証はありません。しかし、まずは弁護士に相談していただくことで、何らかの解決の糸口を見つけることができるかもしれません。

お気軽に弁護士にご相談ください。

被害者支援は弁護士の責務 −明石市・泉房穂市長のご講演−

会員 小谷 百合香(64期)

条例制定に向けた全国の機運

犯罪被害者が刑事裁判に参加できる「被害者参加制度」が開始してはや7年が経過しました。被害者参加事件に関与する会員も増えていると思われます。

犯罪被害者給付金制度、損害賠償命令制度、ワンストップセンターの創設など、犯罪被害者に対する法的な支援は確実に広がりつつあります。

さらに、全国的には各自治体が犯罪被害者の支援のための条例を制定する機運が高まっているところです(日弁連でも、昨年12月26日にシンポジウムが開催され、モデル条例案が公表されています。)。ところが、ここ福岡県では、被害者条例を制定している自治体がわずか2市ときわめて少なく、今後の取り組みが求められるところです。

そこで、昨年11月15日、福岡県弁護士会館3階ホールにおいて、全国に先駆けて被害者条例を制定・改正し、被害者の支援に積極的に取り組んでおられる兵庫県明石市の泉房穂市長にお越しいただき、被害者支援・被害者条例の制定についてのご講演をいただきました。

明石市・泉市長の熱い思いを聞き、私も一弁護士として血が沸き立つような興奮を覚えました。若干の裏話も含め、ご講演の様子をご報告します。

市長の熱い思い
(1) 経歴等

泉市長はNHK、テレビ朝日のディレクター等を経て弁護士となり(49期)、衆議院議員の後に、明石市長に当選されました(現在2期目)。市長のベースには、障害者や犯罪被害者などに優しい社会づくりをしたいという強い信念があり、その信念のもと活発に行動されています。

(2) 市長とご対面

講演の30分ほど前に到着されたのですが、到着のときから市長の熱気が伝わってきました。

被害者を支援する弁護士が、時効中断のため再度の訴訟提起をする際に、一銭も実入りのない被害者(遺族)から着手金として数十万円をいただくことに強い違和感を持ち、明石市では、そのような場合の弁護士費用を支援していく条例改正を検討していることを話されました。当会や当委員会でも、関係機関に呼びかける等して、そのような場合に支援策を検討する余地がありそうです。

(3) 講演が始まって

午後4時、犯罪被害者委員会の林誠委員の司会のもと、藤井大祐委員長による市長のご紹介があった後、市長による熱意ある講演が始まりました。ネイティブの関西弁を駆使し、熱血的に話す泉市長の姿に、最初は皆が圧倒されました。

しかし、徐々に熱意だけでなく、理論的にも学ぶべきことや課題が多いことが分かってきました。

被害者支援は誰のためかとの問いには、明日被害に遭うかもしれない「全ての市民のため」と明言されました。

残念ながら、(他の自治体でもほぼ同様ですが)明石市の条例では過去の被害者やその遺族は救済されません、ですが過去の被害者や遺族たちは、将来の被害者となるであろう人々の権利向上のために立ち上がり、声を上げ続けています。具体的には、医療的ケア、家族(遺族)のケア(家事援助、一時保育費用補助)、経済的なケア(支援金、家賃補助)など、将来の被害者のための総合的な支援が可能となる条例を制定しているのです。

被害に遭っただけでも苦痛なのに、その人が自ら声を上げなければ何の助けも受けられないのでは、社会は生きやすいと言えるでしょうか。私たちは、過去の被害者や遺族により切り拓かれ、少しは被害者に優しくなった社会に今、生きています。

将来の被害者にとってさらに優しい社会となるよう、今、私たちにできること、その一つが、条例を制定し、継続的で質の高い支援体制を整備することだと感じています。

日弁連条例シンポジウム

先述しましたが、平成28年12月26日、日弁連でも条例制定に関するシンポジウム(犯罪被害者支援モデル条例案セミナー)が開かれました。

地方自治体による条例制定は今、社会から求められている"熱い"テーマといえます。

法務研究財団の研究班によるモデル条例案も発表されましたので、条例制定の機運はますます高まるものと期待されます。

今後の展望

福岡県内では、こと性犯罪の被害が多い(ここ数年、認知件数では全国ワースト5位以内、人口当たりの発生率では全国ワースト2位や3位)にもかかわらず、まだまだ条例を制定している自治体が少なく、被害者への支援は不十分といえます。

被害者支援条例が福岡県内の各自治体で制定され、被害者がもれなく継続的で質の高い支援を受けられるようになることを願うとともに、そのためには弁護士においても各自治体(地域)の実情・特質に応じた条例制定に関与するための研鑽を積むことが求められていることを感じられた、刺激の多い講演でした。

2017年1月 1日

「実務に役立つLGBT連続講座」第4回/弁護士としての職務上の注意点

両性の平等委員会・LGBT小委員会委員 緒方枝里(62期)

■はじめに

LGBT小委員会メンバーによる「実務に役立つLGBT連続講座」も今回で4回目となりました。これまで、第1回と第2回では、LGBTの基礎知識やLGBTを取り巻く現在の情勢を、第3回では「周りの人との接し方、注意点」と題して、12~13人にひとりがLGBTの特性を持っていると言われるほどありふれた「個性」の1つであり、私たちの身近に必ず当事者がいるということ、無自覚な差別的言動をしてしまわないよう日頃のふるまいが大切であること等をお話してきました。

そこで、連載4回目となる今回は「弁護士としての職務上の注意点」ということで、実際の法律相談や事件処理で気を付けるポイントについてお話します。

■法律相談の場面

LGBTの法律相談というと、トランスジェンダーの性別変更の話や同性パートナーに財産を遺すための公正証書遺言の作成というように、相談者がLGBTであることをカミングアウトしていることを前提とした特殊な相談というイメージがありますが、大半は通常の法律相談と変わりません。

例えば、交際相手や一緒に暮らしているパートナーとのトラブル、学校や職場での人間関係や雇用に関するトラブル、個人間の金銭トラブル(貸金・保証)など、弁護士であれば誰でも受けたことがあるような相談の場合、相談者がLGBTであることをカミングアウトしない場合も多くあります。なので、どんな相談であっても、相談者がLGBT当事者である可能性を念頭に、相談に臨む必要があります。

相談を受けて弁護士としてアドバイスする内容は、当事者がLGBTであるかどうかでそんなに変わらないことも多いかもしれません。しかし、LGBT当事者は、弁護士の差別・偏見をおそれて、トラブルに巻き込まれていても法律相談に行くことを躊躇することが多いそうです。勇気を出して法律相談に来てくれた当事者に、担当弁護士の不用意な言動で二次被害を与えないようにするために、最低限の基本的な知識を持っておくことが必要です。

  • 性自認と性的指向の違い
  • 性自認や性的指向は治せるものでも当事者の趣味でもなく、変えようと思って変えられるものではないことを理解する
  • トランスジェンダーであれば、みんなが性別適合手術を望んでいるものだと決めつけない
  • 「ホモ」「レズ」「おかま」などの蔑称を安易に用いない 等

同性カップル間のトラブルの場合、交際相手の性別をごまかさなければと思うだけで、相談に行くハードルがあがるという話を聞いたこともあります。本人が「彼氏」・「彼女」といった表現を用いていない場合は、性別を特定せず「交際相手」・「パートナー」といった表現を用いるような工夫も心がけましょう。

また、実は問題の根本にLGBT当事者であることが関係していることもありえます。同性パートナーとの別れ話で、周囲にばらすと脅されて暴力を受けているのに別れられないとか、LGBTであることを理由に学校や職場でいじめや嫌がらせを受けているとか、相談者が相談担当弁護士のことを信頼してLGBT当事者であることを話してくれれば、より適切なアドバイスができる場合もあります。そのためには、信頼されるような共感的な姿勢を心がける必要があります。間違っても、LGBTであることを理由に嫌がらせを受けている相談者に「あなたが男(女)らしくないからダメなんだ」「同性愛をやめればいい」といった偏見に満ちた発言をしないように気をつけましょう。

私自身、小委員会に入るまでLGBTに関する法律相談は受けたことがないと思いこんでいましたが、気づかなかっただけで、これまでの相談者の中には当然のようにLGBT当事者がいたはずです。みなさんはどうでしょうか?これまで無自覚に相談者を傷つけてしまったかもしれないことを反省しつつ、今後は気をつけて法律相談に臨みたいと思います。

■事件処理

受任後の事件処理にあたっても、心がけるポイントは基本的に相談のときと同じです。加えて気をつけなければならないのは、事件処理の過程で、依頼者本人が望まないのに性自認・性的指向を第三者にカミングアウトすることにならないように細心の注意を払う、ということです。例えば、刑事事件で被告人がLGBTの当事者であることが証拠に記載されているけれども、本人が第三者(傍聴人や情状証人等)にそのことを知られたくないと思っている場合、LGBTであることが本当に公訴事実の立証と関係があるのか等検察官と予め十分な協議をしておくと共に、証拠の該当箇所を不同意にしたり、証拠調べで読上げないよう検察官に申し入れたり、書面の提出をもって証言に代えたりする等の工夫が必要です。

また、紛争の相手方がLGBTの当事者である場合に、不用意に第三者にそのことを知られないように配慮することも忘れてはなりません。

■おわりに

私たち弁護士は、いろんな方から相談を受け、事件を受任します。相談者・依頼者それぞれに個性があり、事案ごとの特性もあります。相手の理解力に応じて話し方や説明の方法を変えたり、耳の聞こえにくい方には筆談で対応したり、日中は仕事で電話に出られない人には夜間の電話や手紙やメールなど連絡方法を工夫したり、精神的に不安定な方にはこまめに連絡をしたり、日々個別具体的な事案に応じて必要な配慮をしながら、対応されていることと思います。当事者がLGBTであるということも、変に身構えすぎるのではなく、依頼者の個性や事案の特性の一つとして、普段依頼者や事案に応じてやっている当たり前の配慮をやっていただければと思います。

    ■参考文献

    もっと深く知りたい!という方のために、今回私が参考にした文献等を挙げておきます。是非業務の合間にお読みください。

  • 『セクシュアル・マイノリティQ&A』弘文堂 2016年7月
    LGBT支援法律家ネットワーク出版プロジェクト
  • 『LGBTsの法律問題Q&A』LABO 2016年6月
    大阪弁護士会人権擁護委員会性的指向と性自認に関するプロジェクトチーム
  • 『セクシュアル・マイノリティの法律相談 LGBTを含む多様な性的指向・性自認の法的問題』ぎょうせい 2916年12月 東京弁護士会 性の平等に関する委員会セクシュアル・マイノリティプロジェクトチーム
  • LIBRA vol.16 No.3(2016年3月号)特集「LGBT−セクシュアル・マイノリティ(性的少数者)−」
  • 自由と正義 vol.67 No.8(2016年8月号)特集1「LGBTと弁護士業務」

あさかぜ基金だより ~豊前ひまわり基金法律事務所開所式に出席して~

弁護士法人あさかぜ基金法律事務所 弁護士 服部 晴彦(68期)

豊前ひまわり基金法律事務所開所式が開催されました

福岡県の東部に位置する豊前市では、40年近くにわたって常設の法律事務所がない状態が続いてきました。

地域社会の高齢化がすすみ、法律の専門家による助力が必要とされる問題がますます増えるなかで、地元では、常駐の弁護士が待望されてきました。

そうした地元の期待を受けて、10月3日、福岡県内ではじめてのひまわり基金法律事務所である、豊前ひまわり基金法律事務所が開設されました。

豊前ひまわり基金法律事務所の初代所長は、「あさかぜ」において養成を受けてきた西村幸太郎弁護士です。

今月号では、11月22日、豊前市のホテル「築上館」で開催された豊前ひまわり基金法律事務所の開所式について報告します。

地域に根ざした親しみ深い事務所をめざして

開所式当日、鉄道の不通というアクシデントにもかかわらず、周辺地域自治体の首長をはじめとする多くの人が出席しました。会場の熱気から、地域のリーガルアクセスが改善することへの喜びと期待が感じられます。

西村弁護士は、大学時代に弁護士過疎・偏在問題に関心をもって以降、「この道しかない」という強い意気込みをもって、弁護士過疎地に赴任する道を志したとのこと。志を実現するための第一歩を踏み出し、開所式にのぞむ西村弁護士の表情は晴れ晴れとしたものでした。

西村弁護士は、豊前ひまわり基金法律事務所を地域に根ざした親しみ深い事務所としていきたい、地域社会の発展に寄与し、法の支配の国民的浸透に貢献したいと力強く宣言しました。

西村弁護士は、開所式にあたり、豊前市の特徴を解説した書面を作成し、出席者に配布しましたが、豊前市を愛し、少しでも多くの人に豊前市の良さを知ってもらいたいという西村弁護士の気持ちがひしひしと伝わってくるものでした。

そんな西村弁護士に対して、出席者は、口々に、「そのひまわりのように大きな笑顔で地域を明るく照らしてほしい」と激励していきます。西村弁護士の人柄が、早くも豊前地域において、愛されていることが見てとれました。

周辺地域からの出席者からは、地域の高齢化に伴う法的トラブルについて、西村弁護士の活躍を期待する声が次々にあがりました。西村弁護士の、福岡県弁護士会の高齢者障害者等委員会や消費者委員会の一員として精力的に活動してきたこれまでの経験が、存分に活かされることが期待されるところです。

豊前ひまわり基金法律事務所が、地域に根ざした親しみ深い事務所となるべく、着実に一歩を踏み出したことを心から実感できた開所式でした。

大きな刺激を受けて

豊前ひまわり基金法律事務所開所式では、弁護士過疎地に、新たに法律事務所が開設されることへの地域社会の期待の強さを体感しました。これから弁護士過疎地へと赴任していこうとあさかぜで研鑽を重ねている私にとって、大きな刺激となるものでした。

私も、弁護士過疎地において、地域に根ざした親しみ深い弁護士になれるよう、より一層の精進を重ねていきたいと思います。

2016年12月 1日

あさかぜ基金だより

会員 今井 洋(64期)

はじめに

あさかぜ基金法律事務所から、司法過疎地である長崎県壱岐市の法テラス壱岐法律事務所に赴任し、平成28年10月をもって、3年間の勤務を終えました。

あさかぜでは、九弁連の皆様に様々なご支援やご指導を頂き、司法過疎地での勤務を終えることができたのはその賜物と思っております。御礼を兼ねて、壱岐の実情等をご報告させて頂きます。

壱岐市のご紹介

長崎県壱岐市は、壱岐島全域がそのまま市であり、人口は2万8千人ほどです。長崎県ですが、福岡市との関係が非常に深く、福岡には、壱岐の人口を超える数の壱岐出身者やその家族がいるそうです。

島外との交通は、博多港へ高速船及びフェリーが1日10往復、唐津港へフェリーが1日5往復している他、長崎大村空港へ飛行機が1日2往復しています。

島内の公共交通機関は、バスのみですが、本数が少なく、普段の足として使うのは困難なため、ほとんどの人が自家用車で移動します。

高度経済成長期には、漁業や海運業、土木事業などを中心に活気があったようですが、現在は、どこもあまり景気が良くなく、地元紙などでは、民間の平均収入は、公務員の半分以下と言われています。

司法過疎地での業務

壱岐市は、司法過疎地とされており、当然ながら、弁護士は少なく、私以外にはひまわり基金法律事務所の弁護士が1名いるだけでした。

業務について誰かに聞きたいことがあっても、すぐに相談できる環境ではありませんが、法テラスの電話相談のほか、あさかぜ時代にお世話になった福岡の経験豊富な先生方に電話やメールで相談することができ、弁護士として勉強できるとともに、精神的にも助けられました。

弁護士業務は、幅広いうえ、最近でこそ、マニュアル本も多く出るようになりましたが、まだまだ経験が物を言うことが多いと感じます。マニュアルにない実務的な知識や、知識に留まらない意識などを教えていただけ、大変助かりました。

また、なかなか他の弁護士と話をする機会もないなか、業務で福岡や長崎市に行くと、大変温かく接して下さり、孤独感が癒やされました。

事件傾向等

あさかぜでは、指導担当の先生方と共同受任させていただく他は、自分で法律相談等で受任した債務整理や離婚などの家事事件といった扶助事件が多くを占めていました。

壱岐でも、多くは同様の扶助事件で、あさかぜでの経験が生きたと思います。

また、数は少ないですが、賃貸借や遺産分割、保全といった事件や、成年後見や破産管財、相続財産管理人といった裁判所案件もありましたが、あさかぜで指導担当の先生方と共同受任させていただいた経験が活かせました。

振り返ってみると、あさかぜで経験したことは、そのまま司法過疎地の業務に役立つものだったと思います。

ただ、数年前までは、弁護士事務所の存在を広めつつ、過払い等の債務整理が業務の中心でしたが、ここ数年は、債務整理事件の占める割合が、非常に低下しました。その代わり、家事事件の占める割合が多くなり、全国的な傾向と同じです。

おわりに

壱岐での相談者には、九弁連の先生方が行っていた法律相談センターで相談したという方や先代の先生方らに相談したという方もいました。

先達の先生方が続けてこられた過疎地対策で、弁護士への信頼を培ってこられたからこそ、私も壱岐の方から多くの相談を受けることができたのだと思います。

また、壱岐は、土地柄が素晴らしく、魚介は言うに及ばず、壱岐牛あり、温泉あり、弥生時代の王都であった原の辻遺跡もあり、皆様も一度来ていただければ日々の疲れが癒されることは間違いありません。

行政問題委員会だより

行政問題委員会委員 前田 恭輔(68期)

平成28年9月10日午前10時から午後3時まで、福岡県弁護士会館において、「行政ホットライン 秋の大相談会」が行われましたのでご報告します。

1 「弁護士による行政ホットライン」について

行政問題委員会は、年10回、「弁護士による行政ホットライン」を実施しています。行政ホットラインでは、行政に対する不満や疑問について、市民の皆様から、電話または面談で相談を無料で受け付けています。相談では、税金に関する問題や生活保護に関する問題、区画整理や用地買収に関する相談など、毎回多岐にわたる相談が寄せられています。

また、年10回の行政ホットラインのうち春と秋の2回は、休日の午前11時から午後3時までの4時間で大相談会を行っています。大相談会には、普段は仕事で相談に来られない方も参加され、毎回10件前後の相談が寄せられています。

2 行政ホットライン秋の大相談会について

平成28年9月10日に、行政ホットライン秋の大相談会が開催され、弁護士10名で対応しました。当日は、遺族年金に関する相談2件、公営住宅の立退きに関する相談1件、国民健康保険料の減免に関する相談1件、ハローワークに関する相談1件、国家賠償請求に関する相談1件、火災保険に関する相談1件の計7件の相談がありました。

直ちに受任につながるものはありませんでしたが、遺族年金に関する相談及びハローワークに関する相談については、当日の面談だけでは結論が出ないものであったことから、後日、担当した弁護士が関係する法令等を調査検討の上面談を行いました。

相談者の中には、これまで長期間にわたって行政側と交渉を重ねてきた方や、行政側の対応の不適切さから強い不満を抱えている方もいらっしゃいました。そういった中でも、委員の先生方は、相談者の話を丁寧に聴き取り、具体的なアドバイスをされていました。相談者の方々は、期待した回答が得られなかった場合であっても納得した表情で相談を終えられていました。

3 今後について

行政問題委員会では、平成29年2月7日に行政事件の研修会を行う予定です。同研修会の第1部では、今年の4月に施行された改正行政不服審査法について木佐茂男九州大学名誉教授にご講演いただく予定です。また、第2部では、当委員会の委員が、「行政事件のイロハ」と題して、情報公開請求や補助金の問題など日常業務で遭遇しやすい行政事件について講演を行う予定です。日々の弁護士業務に役立つ内容になると思いますので、是非ご参加ください。

給費制維持緊急対策本部だより 修習手当の創設を求める院内意見交換会について (10月11日衆議院第一議員会館)

会員 南正覚 文枝(67期)

1 平成28年10月11日、衆議院第一議員会館において「修習手当の創設を求める院内意見交換会~実現させるこの秋に~」が開催されましたので、そのご報告をさせていただきます。

2 今回の院内集会は、参議院の本会議とちょうど時間帯が重なってしまい参議院議員の出席が望めなくなったにもかかわらず、国会議員本人出席31名、秘書代理出席70名、一般出席185名、合計286名出席と、多くの方々にご出席いただきました。

集会までに寄せられた国会議員の賛同メッセージは、当日寄せられたものを加えると432通に達し、議員総数の6割を超えました。

3 集会の開会前には、これまで全国8カ所で行われたリレー市民集会の動画が上映されました。

集会はまず、中本和洋日弁連会長による開会挨拶から始まりました。

4 その後、各党を代表して国会議員の方々からの発言がありました。

自由民主党・宮崎政久議員、公明党・吉田宣弘議員、社会民主党・福島瑞穂議員、日本維新の会・河野正美議員、民進党・逢坂誠二議員、日本共産党・畑野君枝議員、それぞれの方々からご意見を頂きました。

皆さん共通して、ビギナーズの地道なあいさつ運動等の活動を称え、司法修習生への給費の実現を一刻も早く図らなければならないという強い認識を持っておられました。

そしてまた、何人もの国会議員の方が、ここにいる国会議員たちは本来全く政治的立場は異なるが、司法修習生への給費の実現という待ったなしの課題については、その立場の違いを超えて共に戦っていく必要があるという発言をしておられました。

その後、集会に出席してくださった他の国会議員の方々からも次々と、早急に給費を実現するために最後まで共にがんばりましょうといった熱いエールを頂き、会場が一体となって盛り上がっていきました。

5 国会議員の方々からのエールの合間には、70期修習予定者と大学生2名、計3名の当事者からの発言がありました。

70期修習予定者からは、これまで奨学金を借りてきたため現時点で700万円近くの借金があり、修習が貸与のままであった場合、修習終了時点で約1000万円の借金を背負うことになること、貸与を受けるため保証人を立てなければならないが世話になった両親に頼むのは心苦しく機関保証にしようと考えていること、このようなことから今年の司法修習を辞退しようかと悩んでいることなどが、語られました。

また、大学生からは、実家がそれほど裕福ではないため経済的不安が大きく、このままでは安心して法曹への道を目指せないといった悩みが語られました。

このような当事者の生の声は、集会に参加した方々の心を深く打つものがありました。

6 最後に、新里宏二司法修習費用給費制存続緊急対策本部本部長代行が、これまでの活動を振り返りつつ、「修習手当の創設を実現させ新しい法曹を育てていきましょう、もう猶予はありません!」と力強く述べ、会場は熱気に包まれた中、盛況のうちに閉会となりました。

7 このようにこの秋からの司法修習生への経済的支援の実現に向けての活動は、多くの国会議員の理解と賛同も得て、いよいよ大詰めを迎えております。

会員の皆様の変わらぬご支援をよろしくお願いいたします。

2016年11月 1日

ITコラム 「クラウドの必要性?」

IT委員会 関口 信也(53期)

1 クラウドとは

IT関連広告で「クラウド」を耳にすることがあります。このクラウドは英語の意味では「雲」ですが、IT分野で使う場合はインターネットを利用したネットワークの意味です。なぜ「雲」なのかは定説はありませんが、ネットワークを図説するときに、雲状のものをつなげたことによるとの有力説があります。

このクラウドをより簡単に説明するならば、大切なデータを個人のパソコンや携帯端末に保管するのではなく、インターネットを利用して、外部に蓄積することです。個人のパソコンが壊れた、持ってきていない、必要とする情報量が多すぎるなどの不便な状態のときに、身近な端末を利用してインターネット接続で、データの閲覧・編集などができるようになります。Gmailなどもクラウドを利用したメールサービスと言えます。

2 サーバーはどこにある?

ところで、最近は法律事務所の多くがホームページを持つようになりました。

ある業界雑誌のアンケートでは、法律事務所のホームページ所持率は40%とのこと。そのURLに使う文字の配列をドメインと言いますが、事務所や個人の名前を設定することが多いですね。つまり独自ドメインを使っていることになります。独自ドメインを設定するときに、その元になるのがサーバーです。外部のサーバーを利用することはクラウドに似たものとなります。

3 クラウドのメリットとデメリット

クラウドを利用すると前記のとおり遠隔操作が可能ですが、そのほかにもサーバーやソフトの購入、その維持管理が不要となり、コストが低減できます。

逆に不安なのはサービスの安定稼働とセキュリティです。ネットの不具合、提供会社側の障害発生や人的アクシデントは、利用者側ではどうしようもありません。十分な対策が講じられた提供会社を選ぶべきでしょう。

クラウドを利用する事務所はまだ少ないと思いますが、外出の多い弁護士やチーム弁護の場合には大いに活用の場面が増えます。瞬時にクライアントの要望する資料が出せることは、事務所の営業にも役立ちます。これからはさらにIT技術が進みますから、デメリットを克服したネットワークが完成すると私は期待しています。もちろん現状においても、法律相談用の知識としてクラウドを知っておくべきでしょう。

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