福岡県弁護士会コラム(会内広報誌「月報」より)

2025年7月号 月報

研修委員会だより「インクルーシブ教育」をご存知でしょうか。

月報記事

子どもの権利委員会 委員 武 寛兼(69期)

1 はじめに

刑事弁護等委員会から引続き、子どもの権利委員会の研修会・勉強会を紹介させていただきます。

子どもの権利委員会では、少年付添人に関する分野、子どもの福祉に関する分野、子どもの学校・教育問題に関する分野等を扱っており、多岐にわたる研修会・勉強会を開催しております。委員会では常に何かしらの研修会や勉強会に関する議題が上がっているので、正直、研修企画数1位は子どもの権利委員会だと思っていましたが、1位は刑事弁護等委員会ということで流石です(子どもの権利委員会の研修企画数を調べると順位が確定してしまいそうなので、あえて数えることは控えておきます。研修企画数は、1位でなくても2位でなくても何位でもいいのです。)。

さて、子どもの権利委員会で実施している研修会や勉強会は、福岡部会で国選付添人名簿の登録更新研修となっている少年付添研究会をはじめ、子どもの権利110番相談名簿登録のための学校問題対応研修、いじめ重大事態調査委員会候補者名簿登録のための研修等の登録研修のみならず、近時見聞きすることが多くなった「ヤングケアラー」や「インクルーシブ教育」に関するものがあります。これらの研修会や勉強会は既に過去の月報でもご報告いただいておりますが、この中から、「インクルーシブ教育」に関する勉強会についてダイジェスト的に紹介させていただきたいと思います。

2 インクルーシブ教育勉強会(令和6年6月6日実施)

令和6年6月6日に、新潟県弁護士会の黒岩海映弁護士をお招きして、インクルーシブ教育の勉強会を実施しました。

そもそも皆さんは、インクルーシブ教育をご存知でしょうか。インクルーシブ教育とは、障害の有無などさまざまな違いや課題を超えてすべての子どもが一緒に学ぶ教育のことです。

講義の内容は、日本が批准している障害者権利条約や法律でインクルーシブ教育が求められているということから始まり、スウェーデンやノルウェーの学校の様子や大阪府豊中市の小学校の様子などの視察報告をいただきました。

この勉強会で印象的だったのは、障害の「人権モデル」という考え方です。障害についての考え方として「医学モデル」と「社会モデル」という概念があることは何となく知っていたのですが、機能障害を含めた「ありのまま」を人権として、尊厳として、多様性として、価値あるものとして認める(機能障害は人権の能力を否定しない)「人権モデル」という考え方は、非常に重要なものだと思いました。

なお、この勉強会については、2024年8月号の月報(31頁~)で鶴崎陽三会員からの詳細なご報告がありますのでそちらもご覧ください。

3 子どもの権利条約批准30周年記念イベント(令和6年7月27日実施)

令和6年7月27日には「子どもの権利条約批准30周年記念イベント」を実施し、インクルーシブ教育をテーマに取り扱いました。

このイベントの目玉は、「みんなの学校」という映画の上映でした。この映画は、「すべての子どもの学習権を保障する」という理念のもと、インクルーシブ教育を実践している大阪市住吉区にある大空小学校の日常を描いたドキュメンタリー映画です。参加者の中には、この映画のためになんと鹿児島から来られた方もいらっしゃいました。

インクルーシブ教育の重要性は理解しつつも、いざ実践するとなると様々な問題が生じるのではないかということは気になるところです。この映画でも様々な特性を持つ子どもたちがいるがゆえに様々なトラブルが起きてしまいます。そのトラブルを通じて子どもたちが学ぶ姿や変わっていく姿には考えさせられるものがあります(実は涙をこらえるのに必死でした)。

このイベントについては、2024年9月号の月報(32頁~)で長本祐佳会員からの詳細なご報告がありますのでそちらもご覧ください。

4 インクルーシブ教育勉強会(令和7年2月13日実施)

令和7年2月13日には、福岡県立大学助教の二見妙子先生と医療的ケアが必要なお子様を育てられた橋村りかさんを講師にお招きして、再び、インクルーシブ教育勉強会を開催しました。

二見先生からは、「インクルーシブ教育について考える―1970年代の大阪府豊中市における原学級保障運動」という表題で、大阪府豊中市が、「共に生きる教育」の運動と実践に対する国家の分離教育制度の強制を一定程度回避することに成功した過程についてご講演いただきました。

続いて、橋村さんから、橋本さんのお子さん(ももかさん)のお話をいただきました。ももかさんは、妊娠時には何の問題もなく育っていたそうですが、出産時のトラブルで重度の仮死状態で生まれ、一命は取り留めたものの、重度の障害が残ってしまいました。橋村さんは、ももかさんの命が助かったという喜びよりも、この子を一生背負って生きていかなければならないという思いだったそうです。橋村さんは、当初、ももかさんは養護学校しか行くところがないと思い込んでいたそうです。しかし、周りの子どもたちやその子どもたちに対するももかさんの反応をみてその考えは変わっていきました。橋村さんのお話の中で特に印象的だったのは、橋村さん自身もそうであったように、障害を持つ子どもが出会う最初の差別者、最初の差別の大きな壁は親だという言葉でした。私も自分の子どもが同じような状況になれば、橋村さんのような考えになっていたと思います。

この勉強会や橋村さんのお話については、2025年4月号の月報(28頁~)で鶴崎陽三会員からの詳細なご報告がありますのでそちらをご覧ください(特に、橋村さんのお話のところは必読です!)。

5 さいごに

ご存知の方も多いと思いますが、来る令和7年12月11日から長崎県で開催される第67回人権擁護大会では、第1分科会で「分ける社会を問う!~地域でともに学び・育つインクルーシブ教育、ともに生きる社会へ~」というシンポジウムが開催される予定です。それに先立ち、福岡県弁護士会でも、令和7年8月10日にプレシンポを行う予定です。

冒頭でもお伝えしましたように、子どもの権利委員会では、これまで多岐にわたる分野の研修会や勉強会を実施しており、これからも多くの会員にとってためになる研修会や勉強会を実施する予定です。その中でも、特に今年は「インクルーシブ教育」に関する企画についてご注目下さい。

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