福岡県弁護士会コラム(会内広報誌「月報」より)

2025年4月号 月報

第35回全国付添人経験交流集会

月報記事

子どもの権利委員会 委員 荒巻 秀城(72期)

第1 はじめに

令和7年2月21、22日、さいたま市の大宮ソニックシティにおいて、日弁連の第35回全国付添人経験交流集会が開催されました。子どもの権利委員会委員として参加させていただきましたので、ご報告します。

1日目は全体会、第1~第3分科会、2日目は第4~第6分科会が行われました。福岡県弁護士会子どもの権利委員会は、「触法・ぐ犯少年の支援における児童相談所と付添人弁護士の連携の可能性を考える」とのテーマで第4分科会を担当しました。

第2 全体会

1 全体会では、まず、立正大学社会福祉学部の村尾泰弘教授から、「高葛藤父母と子どもへの接し方」と題して講演がありました。

子の略奪や暴力の危険性のある高葛藤事例の場合、基本は当事者・子どもへのリスペクトが重要であり、良いところを引き出す努力が必要であるとのことでした。

現在、問題になっている人物、例えば暴力的な父親こそが有効な解決法を知っているという考え方の下、父親自身も虐待的・体罰的家族で育ったことが多いことから、トラウマの再演としてのDVが家族の中に起こり、母親も夫のDVによるトラウマを抱え、子どももトラウマを抱える。DVはトラウマ化された家族という構造として生み出されるとの指摘がありました。

父親と子どもの面会交流が子どもにとって良いものになると、父親にとっても良い体験となり、これを積み重ねることによって、父親のトラウマも癒される。さらに、子どものトラウマも癒され、支援者が子どもの成長を上手く母親に伝えることによって母親も成長する。良い面会交流体験によって親子は成長することから、適切な面会交流支援はトラウマケアの側面を有しているという内容でした。

暴力的な父親の責任を考えがちですが、適切な面会交流の重要性を感じました。

2 その後、「全面的な国選付添人制度に向けた取組」、「改正少年法下での実務の状況」について報告がありました。

第3 当会子どもの権利委員会担当の分科会

1 2日目の第4分科会は、武寛兼先生の司会で開催されました。

まず、吉松翔先生から、分科会の趣旨が説明され、開会挨拶がありました。

2 講演(1)
次に、九州大学法学研究院の武内謙治教授から、「触法・ぐ犯少年の支援における弁護士付添人活動の可能性」というテーマで講演がありました。

(1)非行の性質、(2)非行からの離脱、(3)有効性が期待できる支援、(4)現在の制度とのギャップ、(5)弁護士による支援の可能性という内容でした。

(1)非行が、複雑な社会現象、多層的な問題の一つとして現れるものであり、虐待、資質、環境、家庭、学修、貧困などと重複し、複合的で層をなす問題のうち幾つかは世代間で連鎖している可能性を指摘されました。

(2)非行からの離脱が、「状態」ではなく「過程」であること、直線状ではなく、螺旋状、往復運動状であること、単一の出来事ではなく長期にわたって実現されるプロセスであることという動的性格を有する旨の説明がありました。

また、長期的なプロセスに伴走できる支援の必要性があることのほか、リスク要因を除去しなくても離脱が可能であり、リスク要因と離脱要因は異なることの説明がありました。

(3)有効性が期待できそうな支援の形態として、多層的な問題を解きほぐす支援、長期的に伴走できる支援、リスク要因を抑えるかかわり、離脱要因を促進するかかわりを指摘されました。

(4)国家介入による支援は、バトン・リレー型の関与であり、「情報の正確な伝達」「意識や目的の統一」という観点から弱点があること、時間的限界があることを指摘されました。

(5)支援をマネジメントできる機関・人の不存在、時間的制約を超える「在野」が求められること、資源への「ハブ」としての機能という観点から、弁護士による支援活動の必要性・可能性がある。

しかし、法的地位・権限が不明確であるという課題がある点も指摘されました。

3 講演(2)
さらに、駒沢女子大学の田中教仁准教授から、「家庭裁判所調査官の社会調査との連携を考える。」というテーマで講演がありました。田中准教授は元家庭裁判所調査官です。講演は、26年間にも及ぶ調査官としての豊富なご経験を踏まえたものでした。

(1)社会調査の対象、方針、方法、(2)少年調査票、(3)少年の特徴を踏まえた上で、低年齢の少年の調査、(4)児童相談所との連携、(5)付添人との連携、(6)審判後に調査官が少年にかかわれることについて話がありました。

児童相談所や付添人との連携という点については、カンファレンスが重要であると改めて思いました。また、付添人として積極的に調査官に働きかけていくことが重要であると感じました。

加えて、田中准教授は、少年調査票の旧様式と現行様式(令和3年10月~)との違いとして、家庭や生活史という点をたどって非行の原因を探求していく調査から、出生前の家庭の状況、出生後の少年及び家庭の状況という「事実」を中心に分析していく調査へ変更されたことを指摘されました。この点は、大変参考になりました。

4 事例報告
児童自立支援施設に入所していた少年の母が死亡したため、楠田瑛介先生が未成年後見人となったが、その後、少年が看護師に暴行を加え傷害を与えたため、楠田瑛介先生が付添人として、一宮里枝子先生が児童相談所の立場で担当された少年に関する事例報告でした。少年は審判で第三種医療少年院送致となりました。

児童相談所が少年に長く関わった事例であり、児童相談所や付添人(未成年後見人)の対応等、大変参考になりました。

帰住先調整など難題の多い事例において、児童相談所、付添人(未成年後見人)のほか、児童自立支援施設、少年院、保護観察所等関係機関が定期的にケース会議を開くなど連携し、信頼関係を構築して少年に長期にわたり関わる過程で、少年が更生していく様子が報告されました。

少年院退院後、関係者、関係機関が集って児童自立支援施設で中学校の卒業式を行い、少年が大変喜んだこと、児童相談所、付添人(未成年後見人)をはじめ多くの人が少年に継続して関わることにより少年が大人として生活できるようになったことを聞いて、少年と向き合い、長期にわたり継続的に少年を支援していくことが重要であると思いました。

5 パネルディスカッション
惠﨑優成先生の進行の下、武内教授、田中准教授、楠田先生、一宮先生をパネリストとして行われました。

事例報告の事案を踏まえた感想・ご意見、触法事件の児童相談所における手続の流れ、児童相談所の対応、低年齢の少年の非行に関して、少年に伴走できる人がいることの重要性、子どもの最善の利益とは何か、児童相談所と家庭裁判所の役割の相違、カンファレンスの重要性、調査官が児童相談所に何を求めるか等について、多角的視点から議論がなされました。

6 質疑応答
小坂昌司先生から、よりそい弁護士の体験談の報告、当会のよりそい弁護士制度の説明がありました。また、愛知県弁護士会からは、保護観察所へ同行した場合にも、よりそい弁護士制度が適用される旨の報告がありました。

さらに、少年の帰住先を見つけるポイント、少年を納得させるポイント、福祉と司法との連携、処遇がみえている中での付添人の活動等について質疑応答がありました。

7 最後に、池田耕一郎先生から、児童相談所、付添人が様々な視点を共有し、関係機関と関係性を構築していくことが重要である旨の閉会挨拶がありました。

第4 最後に

初めて全国付添人経験交流集会に参加させていただきました。今回の全国付添人経験交流集会は、当会子どもの権利委員会が分科会を担当することもあり、講演を聞いたうえ、児童相談所が長く関わった事例について児童相談所と付添人の連携という視点からご報告を伺うことができ、各地の状況も知ることができた点で、非常に充実した内容となりました。少年のパートナーとして今後のことを一緒に考えていく点が重要であると改めて感じました。

私も、今回の講演、事例報告、少年に対する向き合い方等を今後の付添人活動に活かしていきたいと思います。

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