福岡県弁護士会コラム(会内広報誌「月報」より)

月報記事

憲法市民集会(8月2日)

会 員 朝 隈 朱 絵(67期)

8月2日、ペシャワール会現地代表の中村哲氏を講師にお招きし、憲法市民集会がウェル戸畑で行われました。
当日は、800人を超える人が集まり、開場は満席となったうえ、中村氏の書籍等も完売する、大盛況となりました。

アフガニスタンは、かつては実りの多い農業国でしたが、長引く戦乱に加え2000年に歴史的な大干ばつが発生し、100万人以上が飢餓に直面して難民となりました。これに追い打ちをかけたのが、2001年に始まった米軍等による空爆でした。中村氏が働いていたPMS(平和医療団)の診療所には、栄養失調や不衛生な水のために、赤痢等に感染した子供や高齢者等が殺到し、次々と命を落としたそうです。
このような状態を目の当たりにした中村氏は、一人一人の治療をしていても埒が明かない、病気の大本を断つ必要があると、清潔な水と農業用水をもたらすため、用水路の建設を決意しました。そして、現地の人々とともに、福岡市の約4割に当たる1万5千ヘクタールを潤す用水路の建設を成し遂げました。

アフガニスタンは、日本から距離的にも非常に遠く、文化もまったく違い、日本人である私たちからは非常に疎遠な国で、報道等で現地の映像を見ても、別の世界のことのように思えます。しかし、現実に、現地では飢餓や空爆で多くの人々が命を落としているのです。このような瀕死の状態にある国で、日本人が活動をし、その結果、多くの人々の命を救い、生活に再び命を吹き込んだという多大な貢献をしたことは、私たち日本人にとって、非常に大きな誇りであると思います。
日本は、世界の中でも有数の先進国であり、あらゆる分野で優れた功績を挙げています。そのような日本が、世界に貢献できる分野は非常に多く、これから日本が世界の中で果たすべき役割は、山ほどあります。資源開発・農業復興のための技術協力や、道路・橋・水道・発電施設等のインフラ整備、大学等の研究機関における技術・研究支援や、立法・司法機関における法整備支援。先進国である日本が、国の垣根を越えて支援を行うことは、世界から期待されていることですし、日本がこのような役割を果たすことは、世界からの信頼を得ることにもつながります。
このような形で、日本は、世界の中での地位を高めていくべきだと思います。

しかし、今、日本が行おうとしていることは、軍事的な力を提供することです。紛争の生じている地域で、どちらか一方に軍事的な援助をして、紛争を助長することが、今、日本のすべき貢献なのでしょうか。アフガニスタンのような、必死に立ち上がろうとしている国で起きている紛争に軍事的援助をする結果、現地では、子供や老人、女性等、弱い立場の市民が、命を落としていくこととなります。このような結果を招くことが、世界において、日本が果たすべき役割とは真逆のことであるのは、誰の目にも明らかではないかと思います。
「銃は何も生み出しません」
「今アフガニスタンに必要なのは、爆弾の雨ではなく水と食料の雨なのです」
中村氏の言葉を受け、会場は拍手で溢れました。
講演終了後の質疑応答の時間には、会場のいたるところで次から次に手が上がり、時間内に質問ができなかった方も多く出るほどでした。
質問の内容は、現地の人々とのコミュニケーションは何語で行っているのかということや、現地での生活実態等についての素朴な疑問から、現地でリーダーシップをとって多くの人々を束ねるための工夫等まで、多岐にわたりました。どの質問からも、現地で実際に活動されている中村氏の生の声を聞ける貴重な機会を逃すまいという気持ちが伝わってきました。

今回の講演は、日本人の世界での貢献の実体を知る、非常に良い機会となりました。今後私たちがどう行動すべきか、改めて考えさせられる内容でした。
今後もこのような機会があれば、さらに多くの人々に参加して頂き、日本という国の国民の一人として、考えを深める機会にしていただければと思います。

倒産実務研究会のご報告

会 員 平 山 聡 子(65期)

1 はじめに

平成27年7月21日、福岡地裁第4民事部から菱川孝之裁判官を講師に、当会の吉原洋先生をアドバイザーにお迎えし、主に破産申立てや管財事件の経験が少ない若手会員を対象として、「自然人破産申立てにおける留意点」と題する研究会が行われましたので、ご報告いたします。

2 概要

研究会の内容は、(1)申立直前の換価行為がある場合、(2)受任後の財産管理、(3)同時廃止基準について、菱川裁判官及び吉原先生からそれぞれのご見解や注意点についてお話を伺い、最後に(4)菱川裁判官より裁判所からのお願いや申立時の注意等がなされるという流れで進行しました。

3 (1)申立直前の換価行為がある場合

当該論点については、過払金回収を例にあげ、過払金の回収の必要性と、予納金の準備の可否を場合分けした上で、申立代理人がいかなる対応をすべきかについて検討しました。

はじめに、申立段階で換価が許される場合について、破産レター(4)にも記載されている「相当な申立費用・管財費用を捻出するなどの必要性がある場合で、かつ、換価行為が相当である場合」に許容されるとの見解が確認されました。

そして、裁判所が問題のある事案として考えているケースについて、以下の3点が指摘されました。

  1. 過払金回収の必要性・・・申立段階で過払金の回収を行うことは、申立遅延の原因ともなり、財産散逸の恐れもあります。そのため、申立費用の捻出の可否(法テラスの利用も含めて)等、申立段階で換価を行う必要性があるかについては慎重な判断をしてほしいとのことです。
  2. 過払金回収の相当性・・・当該換価行為が適切なものであることを管財人に対してきちんと説明できるのかと言う点がポイントになります。特に減額和解を行うことが適切か、過払報酬を受領することが適切か等については、管財人により、申立代理人の行為の相当性がチェックされること(否認されることも含め)を念頭に、慎重な判断をしてほしいとのことです。
  3. 回収金の管理・・・回収金は、申立代理人が預かり、管財人に引き継ぐのが原則です。生活費等のために破産者に渡す必要がある場合でも、渡すのは相当な範囲に限定し、後で回収金を渡した必要性・相当性を管財人に説明できるようにしておくべきとのことです。
    その他、会場からの質問が多く寄せられ、活発な議論がなされました。
4 (2)受任後の財産管理について

当該論点については、まず、申立代理人弁護士は、「債務者の財産が破産管財人に引き継がれるまでの間、その財産が散逸することのないよう、必要な措置を採るべき法的義務(財産散逸防止義務)を負う」とし、同義務に反し、必要な義務を講じなかった結果、破産財団を構成すべき財産が散逸した場合には、不法行為に基づく損害賠償義務を負うとした裁判例(東京地判平成25年2月6日判時2177号72頁等)を確認した上で、財産散逸防止義務違反が疑われるもの(破産者による偏頗弁済、財産費消)について、具体例に即して検討しました。

裁判所からは、財産散逸防止義務違反に関する裁判例は、自然人ではなく、法人を対象としたものが多いこと、自然人は開始決定後も生活をしているため、法人と異なり、申立代理人が破産者の財産を完全に管理するのは困難なことが指摘されました。そのため、破産者の偏頗弁済、財産費消があったことから、直ちに申立代理人の財産散逸防止義務違反が問われるものではないが、他方で、申立代理人としては、破産者が偏頗弁済等をしたときに、破産者に対する必要な説明を怠ったために、財産が散逸したのではないかと疑われることがないよう、受任時に破産者に対して行った説明内容について書面で残しておく等の工夫を行うとよいのではないかとの提案がなされました。これに対し、吉原先生からは、偏頗弁済等を防止するためにご自身がされている工夫等の話がなされました。

また、もう1点、裁判例(平成24年10月19日民集241号199頁 債務整理の方針を明示していない受任通知が発送されたことをもって、破産法162条1項1号イ及び3号にいう「支払の停止」にあたるとされたもの)を題材に、債務整理の方針未決定段階でも財産散逸防止義務が生じると考えられる一方、任意整理による柔軟な解決を図る上でどのような点に留意すべきかについて検討しました。

この点に関して、裁判所は、先行する任意整理が奏功せず破産申立てに至った場合に、任意整理をまとめるために債権者ごとに異なる弁済方法・弁済割合等を採用したからといって、それが直ちに問題視されることにはならないだろうと指摘される一方、将来破産申立てに至る可能性があれば、任意整理の段階から申立人による財産散逸がされないよう気をつけてほしいとのことでした。

5 (3)同時廃止基準について

最後に、同時廃止基準については、同廃基準がどのような観点から両事件の振り分けを行っているか、また、同廃基準と換価基準の混同に気をつけてほしいとの話がなされました。

また、注意点として、同廃の前提として、申立人の資産調査の履践が前提とされることから、申立代理人には資産調査をきちんと行ってほしいとの話がありました(通帳に使途不明金がある、車を所持していないのに家計表にガソリンの支出がある、年金受給があるにも関わらず、年金が収入欄にあげられていないなどの場合には事情説明を行うなど)。

6 最後に、(4)菱川裁判官より裁判所からのお願いや申立時の注意等がなされました。この点については、注意すべき点がいくつもありましたのでご報告いたします。
まず、破産手続開始・免責許可申立てに関する陳述書の、「破産に至った経緯及び事情」を記載するにあたっては、破産に至る事情、いつから誰にいくら借りたか、という点について具体的な記載をお願いしたいとのことでした。
また、債権の中に債務名義があるときは、時効完成の有無を判断するためにも、債権者一覧表のその他欄に事件表示をしてほしいとのことでした。
そして、家計表については、同居者の記載がないが別会計とは考えられないものについての記載を行うこと、家賃などの費用が添付資料と違う額になっていないかについて注意してほしいとのことでした。
最後に、DV被害者等の住所を秘匿したい方の申立てを行うときには、後から秘匿する扱いとすることが難しいため、申立前に裁判所に相談するか、申立書に住所を記載せず、債務者審尋をお願いします、と申し出る形で申立てをしてくださいとのことでした。

7 終わりに

今回の研究会は、破産部の裁判官と弁護士の吉原先生のそれぞれの見解を伺うことのできる、とても有意義な研究会でした。

倒産実務研究会は、まだまだ破産や管財事件の経験が少ない若手の会員にとって、書籍には書かれていない実際の福岡の裁判所の運用や、ベテランの先生方の破産事件の処理のやり方を直接伺うことのできる、とても勉強になる研究会です。
3か月に1度程度行われており、それぞれの部会にはサテライト中継されておりますので、若手のみならずベテランの会員の皆様におかれましては、次回以降も奮ってご参加ください。

「情報セキュリティ向上のための研修会」のご報告

ホームページ委員会委員 松 下 ゆかり(66期)

1 はじめに

ホームページ委員会では、去る平成27年7月7日、情報セキュリティコンサルタント事務所プロジェクト・イン代表の宮本和樹先生をお招きして、「情報セキュリティ向上のための研修会」を開催しました。宮本先生は情報セキュリティコンサルタントとしてプライバシーマークの認証やIMSM認証などのコンサルティングを延べ約150社ほどされている他、情報セキュリティの審査員としてもご活動されており、この分野に精通されている先生です。

2 研修会の内容について
  1. 弁護士が保有する情報は、依頼者の個人情報はもとより、ほとんど全てが機密情報に該当します。これらの情報が漏洩した場合、その影響は計り知れません。そのため、弁護士法第23条は、弁護士の秘密保持の権利と義務を規定し、弁護士職務基本規程第18条は事件記録中の秘密及びプライバシーの漏えい防止の注意義務を規定しています。そして、日本弁護士連合会からはこれらの規定に関する解釈指針として「弁護士情報セキュリティガイドライン」が出されています。
    本研修では、上記弁護士情報セキュリティガイドラインに基づき、その具体的実施策についてご講義いただきました。
  2. ガイドラインには、強く推奨する取組として「~すること」とされているものと、環境に応じて推奨する取組として「~が望ましい」とされているものがあります。今回は前者について事例を含めながらその解説を行っていただきました。
    例えば、事件記録の保管については、「事件記録の紛失を防止するため、その重要度に応じて保管場所、データ化、その他適切な保管方法を定めること」とされていますが、その具体的な方法として、事件記録等重要書類はカギ付きキャビネットに保管し、それを見ることができる人を限定すること、そしてその情報を見ることができる人がいないときには必ずキャビネットに鍵をかける運用をするようにとの解説がなされました。これは事件記録の紛失防止はもとより、仮に漏洩事故が起こった場合でも、その情報にアクセスできない人があらぬ疑いをかけられずに済むという側面もあるとのことです。
    また、可搬電子媒体の保管に関しては、「利用目的を達成したときは、直ちに可搬電子媒体から当該データを消去すること」と定められていますが、例えば、USBによってデータの受渡しをする場合には、「コピー」ではなく「移動」をしてもらい、受渡し後のUSB内のデータは空にするといった扱いを推奨されていました。
    上述のようなガイドラインの解説だけではなく、「パスワードの作り方覚え方のヒント」として、Watashiha(私は),nihonno(日本の)Fukuokaken(福岡県)fukuokashi(福岡市)Chuoku(中央区にいる)bengoshi(弁護士です)=「WnFfCb」という風に物語風にして作成する方法の紹介もありました。パスワードは辞書を使って解析されるということで、辞書にないワードを作成するのが解析されないポイントになるそうです。
3 おわりに

ほとんどの情報漏洩事故はメールやFAXの誤送信、携帯電話やノートPCの置き忘れなどの単純なミスが原因となっていると言われています。本研修はガイドラインの内容を知識として再確認するとともに、少しの手間や工夫により漏洩事故を防止できることがわかり、大変勉強になりました。
最後に、宮本先生、わかりやすいご講義をありがとうございました。

2015年8月 1日

中小企業法律支援センターだより 「非公開会社の株式の株価算定方法」研修会

中小企業法律支援センター委員 松 尾  潤(67期)

1 はじめに

去る平成27年6月29日午後6時より、福岡県弁護士会館3階ホールにて、公認会計士・税理士の内田健二先生を講師としてお招きし、中小企業法律支援センター企画「非公開会社の株式の株価算定方法」研修会が開催されましたので、ご報告いたします。本研修会は、通常設置されている数の椅子だけでは足りない程の多くの会員にご参加いただきました。

2 研修会の内容

今回の研修会では、株式評価について、評価事例を参照しながら、基礎的な用語や知識、考え方を解説していただきました。あわせて、M&Aや相続の場面で注意すべき事項について、内田先生の豊富な経験に基づいた実務的な示唆をいただきました。

まず、株式の評価のうち、企業価値評価は、M&A価格の算定等の取引目的のほか、会社法上の買取価格の決定等の裁判目的でなされるのに対し、税務上の評価は、相続税等の税額計算のためになされるとのことでした。

次に、企業価値評価の手法について、代表的な手法として、インカムアプローチ等の3種のアプローチがあることや、将来性・評価対象会社の固有の性質の反映の可否や客観性の有無といった、各手法の特徴を解説していただきました。また、採用頻度が高い手法については、評価事例を示しながら解説していただきました。具体的には、DCF法(もっとも採用頻度が多い)において評価を上下させる要素の一つである個別リスクプレミアムにつき、これらは種類が多くかつ見積が難しいため、価格交渉の材料となる、といった実務に直結する知識を解説していただく等しました。さらに、評価手法の選択につき解説していただき、特に裁判目的で評価をする場合には、裁判官の信頼を得る観点から、評価手法の選択が重要であるとのことでした。

最後に、税務上の評価について、解説していただきました。まず、税務上の評価の目的は、課税の公平にあること、誰が行っても同一の評価金額になる必要のあることを強調され、原則的には、類似業種比準方式及び純資産価額方式によりそれぞれ評価し、各評価を会社の規模によって定められている割合に従って折衷する、とのことでした。また、例外的な手法や特殊な手法についても解説していただいたほか、相続税や贈与税との関連で、企業再編や株価の評価にあたって注意すべき点を指摘していただきました。

3 おわりに

内田先生の講義は、基礎的な事項・用語についての丁寧な説明と、具体例を取り入れたイメージしやすい解説で構成されており、また、随所に、会員が実務上注意すべき事項が散りばめられていました。そのため、今回の研修会は、前提知識の多寡によらず、得るところの多いものであったと感じました。非公開会社の株式の株価の評価は、中小企業の企業再編や、同族会社の株主が関与する相続案件等を取り扱うにあたって、避けては通れないものですので、相談を受ける上で参考になる研修会であったと思います。

中小企業法律支援センターでは、今後も中小企業から相談を受ける際に役立つ内容の研修を多く企画しております。ぜひ、ご参加ください。

紛争解決センターだより 「あっせん・仲裁人に聞く!(大神朋子先生)」

紛争解決センター運営委員会委員 管 納 啓 文(62期)

本連載では、福岡県弁護士会紛争解決センター(以下、「弁護士会ADR」といいます。)の利用促進のため、弁護士会ADRの和解成立事案に関与されたあっせん・仲裁人(以下、「あっせん人」といいます。)の先生に、当該事案の概要や解決に至ったポイントなどをご報告いただいておりますが、今回は、医療ADRのあっせん人として紛争解決にご尽力いただいている大神朋子先生に、医療ADRの現状や課題等についてお話をうかがいました。

なお、医療ADRとは、福岡県弁護士会が平成21年10月に開設した医療紛争に特化したADRであり、主任のあっせん人(主に裁判官経験のある弁護士が担当)、患者側代理人経験が豊富なあっせん人及び医療機関側代理人経験が豊富なあっせん人の3名体制で、専門性の高い医療紛争について話し合いによる解決にあたっています。

Q1 大神朋子先生は弁護士会ADRのあっせん人として、どのような経歴をお持ちですか。

A 医療ADRが発足した平成21年10月から、医療ADRの医療機関側のあっせん人として活動しています。医療ADRでは、医療機関にあっせん手続きに応諾していただけない事案が相当数ありましたが、応諾していただいた事案でいうと、4件にあっせん人として関与し、うち2件で和解が成立しています。

Q2 最近の和解成立事案について、差し支えない範囲でご紹介いただけますか。

A 申立人が患者、相手方が医療機関の事案です。

第1回あっせん期日には、申立人側は申立人の夫が代理人として出席され、相手方は院長と副院長(医療安全担当者)が出席されました。

申立人の言い分は、相手方において、ある疾病(以下、「疾病1」といいます。)の治療を受けた際に、担当の医師がその過程で行われた血液検査の結果から別の疾病(以下、「疾病2」といいます。)の発症を見落としたために、容体が悪化し、治療期間も長期化したとして、疾病1及び疾病2の治療費の免除と慰謝料及び治療の延長により断念した旅行のキャンセル料の支払いを求めるというものでした。

これに対し、相手方の言い分は、血液検査に見落としがあったことは認めるが、その後すぐに、疾病1の治療と合わせて速やかに適切な治療を行っているので、疾病2を悪化させた事実はないし、治療期間が長期化したわけでもない。そのため、疾病1及び疾病2の治療費を免除することはできないし、旅行のキャンセル料も支払えない。ただし、一定程度の慰謝料を支払う用意はあるとのことでした。

以上の双方の言い分を踏まえ、あっせん人から当事者双方に対して、金額を特定したうえ、相手方が申立人に対して慰謝料を支払うことで解決したらどうかという和解案を提示したところ、双方ほぼその場でご同意いただけましたが、申立人側は代理人出席であったこともあり、持ち帰って申立人本人と検討してもらうことになりました。

そして、第2回期日において先に述べた内容で和解が成立しました。

Q3 手続を進めるにあたって配慮した点を教えてください。

A 当事者に対しては、双方の言い分や法的な枠組みについて丁寧に説明し、理解を得られるよう努めました。

和解案の提示にあたっては、相手方に一定額の支払いを求めるとしても、その金額は適正妥当なものでなければならないということを念頭に置きつつ、他方で、申立人の治療費の支払義務との兼ね合いも考慮しました。最終的には、あっせん人3名で協議した上で、治療費の免除はせず、治療費を超える慰謝料額を示して和解案を提示したところです。

Q4 早期の解決に至った要因はどこにあったと考えておられますか。

A 事案についていえば、相手方が血液検査に見落としがあったことは認めていたので、過失に争いがなく、争点が金銭面の調整に絞られていたことが挙げられます。

また、当事者双方に「話し合いによってこの紛争を解決するんだ」という熱意があったことも早期解決に至った大きな要因として挙げられます。

申立人の代理人(夫)は、相手方の言い分に冷静に耳を傾けてくださり、法的な枠組みについても理解を示して下さいました。

相手方も、事前に和解に向けた検討をした上で第1回期日に臨まれ、同期日においては持参されたカルテ等を示しながら申立人の疑問点等について詳細に説明されました。和解について決定権を持つ相手方院長が出席され、第1回期日の席上であっせん人の提示した和解案に同意して下さったことも、迅速な解決に寄与したといえます。

Q5 医療ADRでは、医療機関に手続に応諾していただけない事案が多いのですが、この事案の相手方医療機関の反応等はいかがでしたか。

A 手続に出席された院長からは、「この手続で紛争を解決することができて満足している。このような低額の手数料で、弁護士3名が関与するこのようなシステムを運営できるというのは素晴らしいことだと思う。医療機関としても積極的に利用していきたい。」といった評価をいただきました。

医療ADRについては、確かに医療機関が不応諾の事案が多いのですが、この事案の相手方も含め、徐々に医療機関の理解も進んできているのではないかと実感しています。

Q6 これまでのご経験を踏まえて、医療ADRに向いている事案とは、どのような事案だと考えていらっしゃいますか。

A 過失に争いのない事案や請求金額が少額の事案、争点はそうないけれども感情的なもつれ等から当事者間での話し合いがまとまらない事案が向いていると思います。

そのような医療紛争を調停で解決することも多いと聞きますので、あてはまる事案を抱えている会員の皆様には、調停だけでなく、医療ADRも選択肢の一つとして検討されてみたらいいのではないかと思っています。

Q7 医療ADRの良い点をお聞かせください。先ほど調停の話が出ましたが、調停との比較という観点からも、ご意見をいただけるとありがたいのですが。

A 期日を柔軟に設定できることなど手続の柔軟性が挙げられますが、やはり弁護士があっせん人をしていることが一番の強みといえるのではないでしょうか。あっせん人の皆様は、法的な知識を十分に備えていることはもちろんのこと、訴訟、訴訟外交渉及び法律相談等についての豊富な実務経験をお持ちですから、当事者からの話の聞き出し方、落とし所の探り方、説得の仕方も心得ておられますので。また、先ほど医療機関から医療ADRを評価していただいたエピソードをご紹介しましたが、弁護士会が運営しているからこその信頼感もあると思います。

医療ADR特有の事情としては、主任のあっせん人、患者側代理人経験が豊富なあっせん人、医療機関側代理人経験が豊富なあっせん人の3名体制で運営しているのは良い点だと思っています。あっせん人自身の実務経験から、どうしてもスタンスが片方に寄ってしまいがちなところがあると思いますので、専門性を維持しつつ中立公正な解決を図るには、3名体制が適していると思います。

Q8 逆に改善を要する点についてもお聞かせください。

A 医療ADRについては、まだまだ医療機関側にあっせん手続に応じていただけない事案が多いですので、その点は改善を要すると思っています。

解決実績を積み上げて、医療ADRが円満解決に向けた制度であることの理解が進んでいけば、自ずと応諾していただける事案も増えていくと思います。

現在は患者から医療機関に対する申立てがほとんどですが、医療機関から申立てをしたいというニーズもそれなりにあると思いますので、医療ADRに対する医療機関の理解と信頼が高まっていけば、医療機関からの申立て件数が増えていくことも期待できます。

医療ADRが発足して、まもなく6年を迎えます。医療ADRが患者側、医療機関側双方に信頼され、利用しやすい制度となり、より多くの医療紛争を適切、迅速かつ公平に解決できるよう工夫を重ねてまいりましたが、愛知県など弁護士会の医療ADRが活発に利用されている地域と比べると、当会の医療ADRの解決件数はまだまだ少なく、伸び代が大きいと考えています。

医療ADRを含む弁護士会ADRが確固たる制度として社会に定着するには、着実に成功実績を積み上げていくことが何より重要であろうと思いますので、会員の皆様には、本連載等を通じて弁護士会ADRで解決された事例や、弁護士会ADRの特色などを知っていただき、事件処理の選択肢に加えていただければ幸いに思います。また、実際にご利用いただいた際には、積極的にご意見、ご要望等を頂戴できればと思います。

最後に、大神朋子先生には、ご多忙のところ、お話をお聞きする機会を設けてくださり、誠にありがとうございました。

給費制本部だより 『司法修習生への経済的支援の検討』が決定しました!

会 員 髙 木 士 郎(64期)

閣議決定によって平成25年9月17日に設置され、法曹養成制度の在り方について検討を行ってきた法曹養成制度改革推進会議が、設置期限(平成27年7月15日)を前にした平成27年6月30日、「法曹養成制度改革の更なる推進について」とする決定を行いました。本決定は、司法修習の項目において、『法務省は、最高裁判所との連携・協力の下、司法修習の実態、司法修習終了後相当期間を経た法曹の収入等の経済状況、司法制度全体に対する合理的な財政負担の在り方等を踏まえ、司法修習生に対する経済的支援の在り方を検討するものとする。』としました。

これまで、法曹養成制度改革推進会議や、同会議に代わり具体的な議論の場となっていた法曹養成制度改革顧問会議においては、貸与制を前提とし、移転料の支給や限定的な修習専念義務緩和によるアルバイトの許可制などの諸施策で十分であるとして、司法修習生に対する経済的支援についてはほとんど検討の俎上に載せないという扱いをとってきました。しかしながら、本年6月に示された本決定の案において、「必要に応じて」「必要な範囲で」との留保的表現を伴いながらも、司法修習生に対する経済的支援を検討することが盛り込まれました。その後、本決定においては、「必要に応じて」「必要な範囲で」との表現は削除されました。

設置当初、法曹養成制度改革推進会議としては、貸与制前提、司法修習生に対する経済的支援の必要はないとの姿勢でした。しかしながら、貸与制の下での修習が4期目に入り、修習に行くことさえ諦める事例が出てきたこと、経済的負担の重さを一因として法学部・法科大学院の志願者が激減し、なおも減少傾向に歯止めがかからないことなど、貸与制による数々の弊害が明らかとなってきたことから、法曹養成制度改革推進会議としても従来の姿勢の転換を図らなければならなくなったものと考えられます。

決定案において盛り込まれていた留保的表現が本決定においては削除されたという経緯からうかがえるように、法曹養成制度改革推進会議のこの様な姿勢の転換は、同会議の自発的な方針転換というよりも、方針転換を求める外部からの声、すなわち当事者である司法修習生の声や、法曹志願者の声を無視できなくなってきたことが大きな要因であると考えられます。当会においても、日弁連やビギナーズ・ネットと連携しながら、継続的な議員要請、市民集会の開催などを実施する中で、当事者たちの声を法曹養成制度改革推進会議のみならず、与野党の議員や市民の方々に届ける活動を行ってきました。この様な活動が、本決定において一定の成果を得ることにつながったのであれば誠に喜ばしいことであると考えます。

しかしながら、本決定に盛り込まれたのはあくまでも経済的支援の『検討』です。そして、その検討における考慮要素として、司法修習の実態、司法修習終了後相当期間を経た法曹の収入等の経済状況、合理的な財政負担の在り方などが挙げられています。そのため、実際に経済的支援の実施が実現するのか、実現するとしてどのような内容のものとなるのかについては、まだまだ予断を許さない状況が続いているといえます。ですので、当会としては、当事者の声を多くの方に届けるとともに、法曹を社会が責任を持って育てることの意味について一緒に考えてもらうというこれまで同様のコンセプトの下、より一層熱意を持って活動を行っていく必要があります。

平成27年6月3日に衆議院第一議員会館にて開催された院内集会には、過去最多の国会議員本人の出席がありました。その中で、「これだけの盛り上がりは、給費制の1年延長ができた当時の熱気を思い起こさせる。」と述べる国会議員もいました。この様に司法修習生の給費制を取り巻く状況が熱を帯びてきたこれからが、給費制復活を含めた司法修習生に対する経済的支援の獲得に向けての活動の正念場であると考えます。当会給費制本部各委員も、秋の臨時国会での法案提出を目指し、これまで以上に熱を入れて活動を行っていく所存です。当会会員の皆さまにおかれましても、より一層のご協力を賜りますようお願い申し上げます。

「転ばぬ先の杖」(第17回) 困ったときの生活保護

生存権の擁護と支援のための緊急対策本部 事務局長 城 戸 美保子(60期)

ある日、事務所に一人の男性が借金のご相談にみえました。見るからに思い詰めた様子です。

聴き取りにより、自営業のため多額の借金があり妻が連帯保証していること、スーパーの乱立で売上は減少の一途をたどっていること、毎月の返済額が売上を大きく上回っていること、買掛金の滞納のため現金でしか仕入れできなくなったこと、現金で仕入れたものを売って生活費を工面していること、家賃滞納のため明け渡しを迫られていることなどがわかりました。男性の語り口から商売への思い入れと返済への強い気持ちを感じました。しかし、これ以上経費を切り詰めようがないとのこと。そこで、売上回復の見込みがないのであれば廃業した方がいいこと、就職しても返済は無理なので破産したほうがいいこと、就職し収入が得られるまでは生活保護を利用できること、自宅の明け渡しを迫られていることを保護課に伝えれば引越費用などを出してもらえること、保護課に対応してもらえなかった場合は弁護士が同行申請すること、弁護士費用は国の立替払制度を利用できるので心配しなくていいことなどを説明しました。

男性は、野宿しなくてよいこと、返済や生活費に頭を悩ませる必要がないことなどが分かり、安心されたご様子でした。

後で分かったことですが、男性はこの日活路が見いだせない場合は自殺しかないと思い詰めていたそうです。自分のアドバイスで自殺を食い止められたことを知り、生活保護の知識を持っていたことに感謝せずにはいられませんでした。

後日、ご夫婦で事務所に来られた際、すでに生活保護を申請したことを確認し、改めて破産手続等について説明しました。

その後、離婚したいとの妻からの電話を受けたため、事務所にお越しいただきました。話しを聞くと、連帯保証に対する誤解などから、夫のせいで破産させられるというお気持ちを持っていることがわかりました。そこで、離婚は当事者の自由なので破産申立代理人がとやかくいえる筋合いではないと断った上で、連帯保証契約を理由に返済義務が生じるため離婚によって破産を免れるわけではないこと、離婚すると保護費が減ること、返済を希望するのであれば保護は受けられないこと、返済を希望するのであれば直ちに就職活動を始めた方がいいことなどをアドバイスしました。その上で、よく考えた上で最終的に離婚するかどうか連絡して欲しいと伝えました。なお、離婚の決意が変わらない場合、先に夫の破産の相談を受けているため、利益相反の観点から、今後の破産や離婚の相談は別の弁護士にしてもらう必要があると付け加えました。

後日、妻から電話がかかってきて、就職活動を始めてみたが面接すら受けさせてもらえないこと、離婚を希望したのは連帯保証債務を誤解していたことが大きいので、離婚を思い直したと伝えられました。

その後、破産手続開始申立準備中に多少のすったもんだはありましたが、そのつど辛抱強く説得を続け、申立を行い、無事、破産手続開始決定及び免責許可決定を受けました。

今回、男性を自殺から救え、離婚危機も回避できたのは、日頃から、代理人弁護士として、債務整理や生活保護や離婚事件を受任し、活動していたおかげだと思います。

自殺や虐待や一家心中のニュースを聞く度に、「弁護士に相談してくれさえいれば、救えたかもしれないのに。。。」と思わずにはいられません。福岡県弁護士会も数多くの無料法律相談のメニューを持っています。ぜひ、お気軽にご相談ください。

2015年7月 1日

「転ばぬ先の杖」(第16回)

会 員 中 野 俊 徳(56期)

1 はじめに

一般市民の皆様に弁護士の必要性を考えていただくためのリレーコラム「転ばぬ先の杖」ですが、今回の執筆は筑豊部会から私が担当させていただくこととなりました。

日頃、主に個人の方を相手に法律相談・依頼を受けている中で、「もっと早く弁護士にご相談いただいていれば」「弁護士に依頼されていればもっとうまく話が進むのに」と感じることは多く、今回は相続の場面をテーマに、そのような話をさせていただきます。

2 遺言書の作成

法律的なトラブルはいったん発生してしまうと、放置していても自然に収まることは少なく、問題が複雑化・拡大してしまうものです。

例えば、子ども達の間で親の面倒を誰が見るのかという問題があった場合、親と一緒に(あるいは親のすぐ近くに)住み、親の財産の管理を手伝いながら親の面倒を日常的に見た子と、親から遠く離れた場所に住み、金銭的な援助はしつつも、親の財産の詳細を知らないままの子との間では、親が亡くなった後の相続のトラブルに複雑化・拡大しやすいものです。

親から離れて暮らしている子は親と一緒に住んでいる子が親の財産を使い込んでいるのではないかと不信感を持つことが多く、親と一緒に住んでいる子は親の世話というお金に換えられない苦労を負わされた自分が遺産を多く相続するのは当然だと思うことが多いからです。

最近、そうしたトラブルが自分の死後に発生することを心配して、遺言書の作成を考えられている方が増えているように思います。

しかし、遺言書はその作り方次第ではトラブルを防止できず、かえってトラブルを拡大してしまうこともあります。

例えば、いつも自分の世話をしてくれる子に遺産の全部を渡すという内容の遺言書を残した場合、それでも残りの子には遺留分という遺産の一部を受け取る権利がありますから、その遺言書がトラブルを防止する役割を果たすとは限りませんし、遺言で遺産をもらえなかった子から恨まれることにもなりかねず、感情的にもトラブルが拡大してしまいます。

その他にも、遺言書はその作成方法が厳格に規定されていたり、記載の仕方によっては無効になったり、記載内容をどのように解釈するべきかでかえって相続人の間でトラブルの元になったりしますので、遺言書の作成をお考えになった際には、ぜひ弁護士にご相談いただきたいと思います。

3 遺産分割の話し合い

相続人の間で遺産分割を話し合う場面においても、弁護士にご相談ご依頼いただいたほうが、自分の権利を守れたり、話がスムーズに進むということが多いように思います。

遺産分割と言っても、今残っている遺産を法定の相続分(相続割合)に従って分ければ済むという単純な話ばかりではありません。

例えば、亡くなった方が生前に多額の贈与をしている場合、それがいつ誰に対してどのような目的でなされたものか、によって、遺産分割に影響を与える話になりうるのです。

遺産分割は、そのような意味で、単に遺された財産を分けるという話ではなく、亡くなった方と相続人らとの間の長い期間における家族関係の財産的な清算という意味合いもあり、そうした長い期間の膨大な事実の整理と、それぞれの事実の法的な意味の確認をするうえで、弁護士にご相談ご依頼される意味はとても大きいと思います。

4 インターネットの情報

インターネットが発達し続けている現在、インターネットで調べるだけで様々な情報を極めて低廉な費用で入手することが可能であり、最近では法律相談に来る前に、弁護士の多くも知らないような細かな情報を確認してきている相談者の方も珍しくありません。

しかし、インターネットの情報は正確性・信頼性が必ずしもあるとは言えず、また、特定の事案にしか該当しない断片的な情報であることも多いので、インターネットで得た情報を信じるのはかえって危険な場合もあることに注意しましょう。

ITコラム

HP委員会 委員 瀬 戸 伸 一(59期)

1 PDF書き込みソフト

最近は、仕事で使う書式や資料をPDFファイルで顧客等からもらうことも多くなってきたのではないでしょうか。

もらったPDFファイルについては、印刷をして、必要があれば書き込み、その書き込み済みの書類について、また電子データで残したい場合、再度、スキャナーで読み込んで、PDF化していたのではないでしょうか。(再度PDF化は面倒なので紙のまま保存されている方も多いかと思います。)

そこで今回ご紹介するのが、書き込み機能つきPDFビューアーソフトです。

有料、無料のものがありますが、私が使っているのが、PDF-XChange Viewerです。これは、無料で、書き込み機能、書き込み済みのPDF保存機能まで使えますが、有料版を購入すると、その他の拡張機能も使えます。PDF書き込みと保存の点だけでいえば、無料版で十分かと思います。

このようなソフトを使うと、PDFでもらった書式に直接PC上で書き込みができ、そのまま印刷、保存ができ、非常に便利です。

是非、お試しください。

2 PDF化について

紙媒体の資料をスキャナーで読み取って、PDF化し、メールで送付する場合、読み取りの設定をよく考えておかないと、データが大きくなりすぎて、メール添付で送付できないことがあります。また、メーリングリストに送付するメールに、添付データをつける場合もできる限り、データを小さくすることがマナーとされています。

カラーで読み取りをすると、白黒に比べて数倍もデータが大きくなりますので、必要がなければ、白黒でPDF化したり、解像度を200dpiに落としたりすると(一般的なFAXの解像度が200dpiだそうです)、データサイズが小さくなります。

添付送付資料の数が多いときは、上記のようにしてデータを小さくしたり、分割したりしましょう。

3 メールボックスの容量について

本年7月より、allfbenを含む福岡県弁護士会の全メーリングリストの添付可能ファイルのサイズが512KBから2MBに増加します。(正確にはallfbenの告知を参照ください。)

Outlook等のメール受信ソフトで、メールをメールサーバーに一定日数保存する設定(「サーバーにメッセージのコピーを置く」にチェックが入っている設定)をしている方で、さらに契約プロバイダのメールボックスの容量が小さい方(古い契約だと100MBというものもあるようです。)は、メールボックスが一杯になって、新しいメールを一定日数受信できなくなる可能性がありますので、メール受信ソフトの設定見直しやメールボックスの容量の確認をされてください。

紛争解決センターだより

紛争解決センターあっせん仲裁人候補者 富 永 孝太朗(54期)

私があっせん人として関与し、和解が成立した抜歯治療に関する事案について報告をします。

■申立の内容

申立人が奥歯2本のブリッヂをしていたところ、ブリッヂ部分に食べかすなどが詰まったために、それを除去してもらう目的で相手方の歯科医院を初めて訪れ、ブリッヂを外すだけと思ったところ、事前の説明がないまま奥歯2本を抜歯されたというものでした。

■第1回期日前

申立人の申立書は、手書きの細かい字で10頁以上にわたって事実経過や心情が綴られており、抜歯されたことによる相手方に対する不信感や憤りが強く感じられるものでした。私としては、相手方が応諾してこないのでは無いかと思いましたが、幸いなことに相手方も応諾するとのことでした。相手方からは、「事前に説明をしており、問題があるとは思わないが希望があれば、ほとんど元の状態に戻す」という回答書が提出されました。

■第1回期日

申立人は、期日前に様々な文献を調べたり、他の歯科医師から意見を聞いたということもあり、私の予想よりも冷静な対応でした。申立人としては奥歯2本のうち1本は抜歯も仕方が無かったかも知れないが、もう1本は歯根が残せたかも知れず、抜歯以外の治療を模索したかったとのことでした。相手方院長も医学的には抜歯することには全く問題が無かったけれども、申立人が初めて訪れた患者であり、抜歯をしたことに納得をしていない結果からすれば、説明が必ずしも十分ではなかったという思いは抱いているとのことであり、金銭的解決の余地があるということでした。そこで私から申立人に対し金銭的解決の余地はあるが、相手方は医学的に抜歯することは問題が無いと考えており、必ずしも申立人が期待するような高額な解決金では和解をすることは難しいことを伝え、それを前提に話し合いを進めていくことに了解が出来るか尋ねたところ、申立人も了解するとのことでした。最後に申立人及び相手方に双方同席してもらい、解決するために譲歩できる最大限の金額を互いに次回までに検討して貰うようにお願いしました。

■第2回期日

申立人は、抜歯後、別の歯科医院にて25万円程度の治療費を支払ったことや慰謝料を加えて50万円を希望するとのことでした。相手方は、元に戻すための最大限の治療を行えば16万円程度であり、それに多少の慰謝料を加えることは検討できるとのことでした。私から双方に対し結果的に代替可能な治療を十分に説明せず自己決定権を侵害したと考えられる余地を考慮し、25万円の解決金を支払うという内容にて和解できるか次回期日までに検討して貰うようにお願いしました。

■第3回期日

双方とも私の提示した和解案を承諾してもらい無事和解が成立しました。

申立人からは「この制度を教えてもらって本当に良かった。解決することで前向きに生活することが出来ます」と感謝していただきました。

■事件を終えた印象

あっせん人としては、申立人の心情には共感しながらも、相手方の医学的見解を努めて冷静に説明を行ったことが申立人のADRでの解決意欲を高めたものと思っています。

申立書と回答書だけを見ると和解できる見通しは正直低いと思っていましたが、当事者双方の解決意欲に助けられた印象です。

結果的には、専門性が高いけれども費用対効果として訴訟には馴染まないというADRでの解決が相応しい典型的な事案だったと思います。

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