会長日記

2022年11月1日

会長 野田部 哲也(43期)

◆「サーバントリーダー」という考え方

皆さま、こんにちは。

今期執行部がスタートしてはや6か月が過ぎました。種々の問題が発生する中にあっても、福岡県弁護士会は、その活動を緩めることなく、推進しています。本年度は、新型コロナウィルスに対する(社会的な)恐怖心が減ったこともあり、シンポジウムやセミナー等をリアルに開催し、これをネット上でも発信する活動も続けています。多数の市民の方や多数の会員の方に参加して頂いており、福岡県弁護士会が活発に活動し続けられるのも、会員の熱心な(委員会)活動の賜物であると心より感謝しております。

この委員会の活動やこれを支える個々の弁護士の活動について、会員が力を発揮し、より力を出せるように支えることが弁護士会執行部の重要な役割であると考えています。近時、「サーバントリーダー」という考え方が脚光を浴びています。メンバーを信頼し、任せ、支えるというのが「サーバントリーダー」の基本スタイルです。

私たち弁護士は、人権を擁護し、社会正義を実現することが使命であり、「法の支配」を社会の隅々までいきわたらせます。そのためには、弁護士が社会に浸透していくことが重要であり、執行部がリードし、会員に種々のお願いをすることもありますが、それは、弁護士会全体としての最適を考え、委員会の活動を支え、推進するものと考えています。

今後も「サーバントリーダー」という考え方を大切にし、実践していきたいと思います。

稼ぐよりも大切なこと

弁護士会も法律相談事業等の事業を行うものであり、亡稲盛和夫さん(京セラの設立・運営を行い、JALを再建した経営者)ではないですが、「売上を最大限に伸ばし、経費を最小限に抑える」ことを目指し、稼ぐことも必要です。ただ、稲盛さんも、経営判断する場合、利害得失ではなく、「善悪」という基準で判断するべきであり、「他によかれかし」と考える「利他の心」で判断するべきであるとされています(利他の哲学)。私たち弁護士は、人権を擁護し、社会正義を実現することを使命とする以上、稼ぐよりももっと大切なことがあるのは明らかです。

本年度は、地方公共団体にチケットを購入して頂き、弁護士会の法律相談を活用する制度である「チケット制」の導入・活用、組織内弁護士(フルタイムのみならずパートタイムも含む)の活用、社外役員への弁護士の登用等について、これを積極的に推進する等し、弁護士の活動や職域の拡大に努めています。

これらが、弁護士の収益に結びつくことを否定するものではありませんが、それが中心の目的ではなく、それよりももっと大切なことがあるのです。各地域の地方公共団体にチケット制が導入され、活用してもらえば、それだけ各地域の人々の人権の擁護に繋がります。行政や企業において、その組織内部の弁護士から日常的に聞く意見であれば、これがより受け入れられやすく、そこで法の遵守が図られれば、組織全体として、人権は擁護され、社会正義が実現されることになると思われます。そして、これが社外役員ともなれば、その影響はなおさらではないでしょうか。

もっとも、弁護士が新たな分野に進出する場合、弁護士が、独立して自由闊達に活動できるよう配慮することも必要です。これまで訪問した行政や企業において、組織内弁護士やその上司の方々にお話を聞いたところ、弁護士の独立性に相当程度に配慮されていると感じました。

ところで、社外役員については、プライム市場等の上場企業においては、その独立性が求められ、さらに、多様性も求められています。この多様性には、ジェンダーや職歴等のみならず、年齢にまで及んでおり(コーポレートガバナンスコード4-11)、若手の弁護士にも、その機会は広がっていくように思われます。

日弁連の人権擁護大会

日弁連の人権擁護大会が、本年9月30日、北海道旭川市の市民文化会館で開催されました。これに、九弁連・福岡県弁護士会の執行部から、前田憲徳理事長、河合勇治副会長、桑原義浩副会長と一緒に参加してきました。

この人権擁護大会では、4つの決議案が採択され、日弁連は、ホームページ等で広報しておりますが、現場で印象に残ったことについて、若干紹介させて頂きます。

決議案のひとつである「デジタル社会において人間の自律性と民主主義を守るため、自己情報コントロール権を確保したデジタル社会の制度設計を求める」については、武藤糾明・日弁連情報問題対策委員会副委員長が議案を説明し、当会の黒木和彰弁護士が質問し、私も賛成の立場から、意見を述べさせて頂きました。本決議案については、全員一致で可決されました。

「アイヌ民族の権利の保障を求める決議案」については、この議案作成にも関与したアイヌ出身の弁護士の方が議案の説明をしました。これに対し、日弁連の国際交流委員会から反対意見が述べられました。アイヌを含めた少数民族の権利保護は、非常に重要なことであると理解を示しつつも、ロシアの領土主張や領土的侵略が、当地の少数民族保護を口実として、実行されてきた過去の歴史的事実は看過できず、これまで、ウクライナ等に領土的侵攻を行ってきた情勢に鑑みれば、日本の安全保障上、弁護士会の決議が悪用されることが強く懸念され、反対するとのことでした。これに対しては、賛成者側から、人権の擁護の観点から、意見が出されました。賛成多数で可決されました。

そして、最後に、アイヌ出身の説明責任者が、反対意見や反対票も含め、この日の討議や採決への感謝の気持ちを、日本語のみならず、アイヌ語で、述べられました。

人権大会という場で、多数の会員がアイヌ民族の権利を尊重する考えの中で、しっかりと反対意見が述べられ、その勇気に敬意を払うとともに、これを静粛かつ真摯に聞き入る弁護士(会)の姿勢は素晴らしいと思いました。そして、反対意見を受け入れたうえで、討議と採決に参加したすべての人に感謝を述べる、説明責任者のすがすがしい態度には、大いに感動しました。

福岡県弁護士会 会長日記 2022年11月1日