会長日記

2019年12月1日

会長 山口 雅司(43期)

皆さん、こんにちは。

先月、「司法という観点から、人権や自由をもっと強く主張する必要があるように感じられます。」とお話ししましたが、今回は、それに関連して、わが国の司法の「大きさ」について考えてみます。なお、検察庁については検討を省略しています。

◆わが国の司法予算

司法の規模を理解するために、2000年以降の国の司法関連の予算(主として裁判所の維持運営費であり、裁判官・裁判所職員などの給料の人件費や物品購入代その他の費用)と裁判官数(簡裁判事を除く)の推移を見ると、次の状況です。

年度 裁判所所管歳出予算 国家予算歳出総計 割合 裁判官数
2000年度 3186億円 84兆9870億円 0.375% 2213人
2010年度 3231億円 92兆2991億円 0.350% 2805人
2017年度 3177億円 97兆4547億円 0.326% 2775人

日弁連「弁護士白書」から引用、ただし1億円未満の金額は切り捨て

これを見ると、裁判所所管歳出予算額が2000年から2017年までの18年間でほぼ変わっておらず、国家予算の中での割合が次第に低下していることが分かります。また、裁判官数も近時は減少傾向すら見られます。

◆司法制度改革が予定したもの

他方で、2000年以降の司法に関する動きとして、2001年に司法制度改革審議会意見書が出されて司法改革が開始し、2004年に法科大学院が開設され、2006年に日本司法支援センター(法テラス)が発足し、2009年には裁判員裁判制度が始まりました。

この一連の「司法制度改革」の背景は、社会が、自由な市場経済を目指して事前規制の緩和や排除を求めており、これに代わって事後の法的救済の充実が必要となるので、リーガル・アクセスの充実や地方への司法資源の配分の強化をしなければならないというものであったように思います。つまり、司法制度改革が予定したものは、司法の積極化、司法資源の強化、そして司法の地方化の促進でした。

そうすると、上記のような司法予算の縮小傾向は、司法制度改革の理念と乖離していると言わざるを得ません。

ちなみに、日本弁護士連合会の会員数と支出額は、下記のとおり大幅に増加しており、司法制度改革は、国家予算を伴わない裁判所外でのみ、実施されたかのように見えます。

年度 日弁連正会員数 一般会計支出
2000年度 17,126人 30億5780万円
2010年度 28,789人 62億5945万円
2017年度 38,980人 97億6632万円

日弁連「弁護士白書」から引用

◆安全装置としての司法の拡大を

当会は、2015年(平成27年)3月11日、「司法予算の拡大を求める会長声明」を出し、「裁判所は国の三権の一翼を担い、様々な紛争を公平かつ適正に解決する機能とともに、正義を実現し、少数者・弱者の権利擁護の最後の砦としての役割を果たす大切な組織である。紛争を解決する、権利の侵害から救済する、違法な行為から身体や財産を守るという司法の役割を十分に発揮するためには司法予算の拡大が不可欠である。」と述べましたが、この状態は現在でも何ら変わっていません。

弁護士と裁判所、検察庁は、「裁判の迅速化」について長年にわたり検討しています。その主眼は、裁判のやり方という方法論の問題ですが、そこには、裁判官や書記官など、裁判を動かしていく裁判所人員の不足という現実問題があります。

また、今後、裁判手続のIT化が進行していくと思われますが、IT化の促進が、司法の集権化や司法資源の節約だけの手段とならないよう、心を配る必要があります。

司法は、国家や社会の安全装置だと思うのですが、これが国政レベルにおいて重要視されていないことに、危機感を感じています。

福岡県弁護士会 会長日記 2019年12月1日