会長日記

2017年10月16日

会長 作間 功(40期)

※福岡県弁護士会月報11月号に掲載予定です。

はじめに

日弁連の主催する第60回人権擁護大会(以下,「人権大会」といいます。)が,本年10月5日と6日,滋賀県大津市で開催されました。

人権大会は毎年1回開催され,毎年5月に開催される日弁連定期総会とともに日弁連の最重要の行事です。定期総会は東京とそれ以外の地域で交互に開催されます(西暦で奇数年が東京,偶数年が東京以外)が,人権大会は,ほぼ(1)東京以外の関東→(2)中部→(3)近畿→(4)東北→(5)四国→(6)九州→(7)中国→(8)北海道の順番で開催されています(若干の異動はありますが)。昨年は(2)中部(福井市)でしたので,今年は(3)近畿(大津市)で開催されたわけです。ちなみに,来年は(4)東北(青森市)ということとなります。

大会で採択される宣言・決議は,定期総会において採択される宣言・決議とともに,極めて重要です。今年は,4つの決議が採択されました(第1の決議をめぐってはこれまでの日弁のスタンスに異論が出ました)。4つ目のハンセン病関係を除く3つの決議は,いずれも人権大会で分科会としてシンポジウムが開催され,それに対応するものでした。以下,ご紹介します。

1 決議その1

第1は,犯罪被害者関係で,「犯罪被害者の誰もが等しく充実した支援を受けられる社会の実現を目指す決議」です。2004年犯罪被害者等基本法が制定され,翌年には基本計画が,2006年には犯罪被害者給付制度の拡充が図られましたが,まだまだ不十分です。例えば,十分な損害回復制度はなく,被害発生の直後から弁護士による支援体制はありません。また,支援条例の制定も十分ではありません。そこで,これらの施策を国及び地方公共団体に求める決議が採択されました。

2 決議その2

第2は,現在の監視社会・情報問題に関係するもので,「個人が尊重される民主主義社会の実現のため,プライバシー権及び知る権利の保障の充実と情報公開の促進を求める決議」です。元NSA局員エドワード・スノーデン氏は,アメリカ政府がインターネット関連企業の協力により全世界において飛び交うインターネット上の情報を秘密裏に取得し個人の行動を監視しうる状況としていることを暴露し,世界を震撼させました。日本国内でも,GPS捜査に関し警察庁が2006年6月に通達を出し,任意捜査として実施してきたことが明らかとなり,本年3月15日,最高裁は令状を必要とする強制処分と判断し,従前の警察の捜査実務を否定し,新たな立法が必要である旨判示したところです。こうした事実を踏まえ,(1)超監視社会におけるプライバシー権の保障のため,公権力がインターネット上のデータを網羅的に収集・検索する情報監視を禁止すること,監視カメラ映像やGPS位置情報等を取得し,それを捜査等に利用するに際し,新たな立法による法規制を行うこと,(2)国民の知る権利の保障の充実のための情報公開の促進と権力監視の仕組みの強化のため,公的情報の公開,保存及び取得に関し基本理念・基本条項を定める情報に関する基本法の制定を求めること,等の決議が採択されました。

3 決議その3

第3は,琵琶湖を擁する滋賀県にふさわしい環境権関係の決議で,「生物多様性の保全と持続可能な自律した地域社会の実現を求める決議」です。1993年我が国は,生物多様性条約を締結,また同年環境基本法を制定し,2008年生物多様性基本法を制定しましたが,例えば琵琶湖は,工場排水,農薬・生活排水の流入や開発事業によって,多くの固有種やヨシ原などの豊かな多様性が著しく損なわれていきました。また,環境に関する情報入手や意思決定への公衆参加,司法利用に関する条約であるオーフス条約に我が国は加入していません。そこで,(1)国及び地方公共団体は,生物多様性に影響を及ぼすおそれのある事項にかかわる法令を制定するときは,生物多様性の保全につき配慮する条項を設けること,(2)生物多様性に関する保全管理計画を策定すること,(3)オーフス条約に早期に加入すること,等を求める決議が採択されました。

4 決議その4

第4は,「ハンセン病隔離法廷における司法の責任に関する決議」です。我が国では,1907年に強制隔離が始まり,1931年から全ての患者が強制隔離の対象となり,96年にらい予防法が廃止されるまで,患者を終生隔離し,断種等により将来的に絶滅させることを目的とする世界的に見ても異常な「絶対隔離絶滅政策」が遂行されました。しかし,らい菌の毒力は極めて弱く感染し発症することは極めて稀で,また48年には特効薬プロミンが導入され有効な治療薬が開発され使用されていました。偏見により,誤った施策が90年間にわたり継続され,この間,患者は家族・地域から排除され,貧困な医療しか受けられず,強制的な園内作業,厳しい外出制限,懲罰,断種・堕胎が強いられてきたのです。

裁判においても隔離法廷が実施され,患者は十分な弁護を受けることができませんでした。大変な人権侵害,平等原則違反,公開の裁判を受ける権利の侵害でした。2005年3月厚生労働省は検証会議報告書をまとめました。しかしながら,隔離法廷について,最高裁も検察庁もそして弁護士会もそれぞれの責任を明らかにしませんでした。その後,2016年4月最高裁は調査報告書をまとめ,隔離法廷につき,遅くとも1960年以後は差別的取り扱いであったことが疑われ,裁判所法に違反し,患者の人格と尊厳を傷つけたとして責任を認めました。

こうした事実関係のもと,(1)日弁連は,長きにわたり隔離法廷の違憲性を指摘しなかったことを謝罪した上,(2)患者・元患者及び家族が安心して社会で暮らせるよう,全力を尽くすこと,(3)最高裁に対し,1960年前も含め隔離法廷の違憲性を正面から認めることを求めること,(4)最高検察庁に対し,隔離法廷における刑事裁判・執行について検証することを求めること,(5)法務省・政府に対し,患者の刑事収容施設・刑の執行の検証,旧菊池医療刑務支所を保存・復元し,歴史資料館を設置すること,等を求める決議が採択されました。

5 最後に,分科会に参加した感想を。私は,監視社会と情報公開を考える第2分科会に参加しました。目玉は,スノーデン氏のインターネットによるライブ参加で,同氏は現在ロシアに在住しているとのことですが,画面上背景は真っ白で,どういう場所でカメラに向かっているかはわからないようにされていました。スノーデン氏の発言で印象的だったのは,三つ。一つは,大量監視をしてもテロを予防できない,効果がない,と断言したこと。ターゲットを絞れば有効である,とも。二つは,大量監視を行う理由は経済である,と述べたこと。交渉を有利に運びたいからだ,とも。

そして,三つは,プライバシーに関する認識です。「プライバシーとは,知られたくないという権利ではない。プライバシーとは,自分であるための権利だ。特にマイノリティにとってはそうである。自分を守るための権利だ。したがって,隠したいものは特にないから,自分は関係がない,というのは間違いである・・・」。スノーデン氏は,もちろん法律家ではないのですが,その理解の深さは法律家と同等,いやそれ以上のものがあることに驚きを禁じ得ませんでした。

特に若手の皆さんには,興味のあるテーマを見つけたら,無理をしてでも人権大会に参加されることをお勧めします。